弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
被告人を懲役5年6月に処する。
未決勾留日数中120日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1平成19年11月10日午後3時ころ,神戸市内の女子大学の教室において,
甲が机の上に置いていたショルダーバッグの中から同人所有又は管理にかかる
現金約7万円及びクレジットカード等17点在中の財布1個(時価合計3万円
相当)を抜き取って窃取した
第2前記犯行により窃取したクレジットサービス株式会社発行の甲名義のクレジ
ットカードを使用して商品を詐取しようと企て,同日午後3時43分ころ,同
市内の薬屋において,同店従業員乙に対し,前記甲になりすまし,同カードの
正当な使用権限を有するかのように装い,同カードを呈示してひげ剃り等の購
入を申し込み,上記乙をしてその旨誤信させ,よって,そのころ,同所におい
て,同人からひげ剃り等2点(販売価格合計1888円・消費税込み)の交付
を受けた
第3同日午後4時20分ころ,同市内の路上において,個人タクシー運転手丙に
対し,代金を支払う意思がないのにこれあるかのように装い,「元町まで。」
などと申し向けて同人の運転するタクシーに乗り込み,同人をして,目的地到
着後直ちに料金の支払いを受けられるものと誤信させ,よって,同所から同市
内の別の路上まで同タクシーを運転走行させ,その料金650円相当の財産上
の利益を得た
第4Aと共謀の上,
1Aがインターネットの出会い系サイトを利用して誘い出した丁に因縁を付け
て金品を強取しようと企て,平成20年1月30日午後5時30分ころ,大阪
市内の駐車場において,同人に対し,被告人が,「お前誰やねん。俺の女に手
を出しやがって。」などと怒号しながら,丁の顔面,腹部等を手拳で殴打し,
その着衣をつかんで腹部等を膝蹴りし,逃げようとした同人の着衣をつかんで
引っ張り,その場に転倒させた上,「金出せや。」などと怒号しながら,その
顔面,腹部等を足蹴にし,同人が着ていたズボンのポケットをまさぐるなどの
暴行を加え,その反抗を抑圧して金品を強取しようとしたが,同人が金品を身
に着けておらず,通行人から声をかけられるなどしたため,その目的を遂げな
かった
2同年2月1日午後8時48分ころ,同市内の地下鉄駅長室において,痴漢発
生の通報を受けて駆けつけた司法警察員らに対し,同線で乗り合わせた乗客で
ある戊がAの身体に触った事実はないのに,戊が刑事処分を受けることを認識
しながら,Aが「近くにいた男が,服の上から私の下腹部やお尻を触ってきま
した。」旨申し向け,被告人が「女性の後ろに立っていた男が,女性のお尻を
触っていました。撫で回すように触っていました。僕は男の腕をつかみ,痴漢
された女性と一緒に駅長室に連れて来ました。」「あの男が痴漢の犯人で
す。」旨申し向け,戊が大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の
防止に関する条例違反をした旨の虚偽の被害申告をし,もって,人に刑事処分
を受けさせる目的で虚偽の申告をした
3同月2日午後9時30分ころ,同市内のゲームセンター店内において,己が
遊技台上に置いていた同人所有又は管理にかかる現金約1万円及び自動車運転
免許証等14点在中の財布1個(時価100円相当)を窃取した
ものである。
(補足説明)
弁護人は,強盗未遂の公訴事実について,被告人の暴行などの事実については争
わないとしつつも,被告人の暴行は,丁の反抗を抑圧する程度には達していなかっ
たから,被告人には強盗未遂罪は成立せず,せいぜい恐喝未遂と傷害各罪が成立す
るに止まると主張する。
しかし,関係証拠によれば,被告人は,全く無防備の丁(当時26歳)に対して,
俺の女に手を出したなどいきなり怒鳴りつけた上,その顔面や頭部を手拳で多数回
殴打したり,その腹部を膝蹴りし,その場から逃げ出そうとした同人の着衣をつか
んでその場に引き倒し,さらにその顔面,腹部などを何度も蹴り付けるなどし,こ
の間「金を出せ,」などと怒鳴りつけるなどしたものであり,その暴行態様は,非
常に激しいものであったこと,その間,丁は抵抗できない状況にあり,一時はひど
い怪我を負わされるのではないかと思うほどの恐怖を覚えたこと,被告人は,長身
で6年ほどの空手経験を持つ有段者であること,丁の傷害の点については,本件で
は起訴の対象とはされていないものの,丁は,被告人の一連の暴行により,額が腫
れたり口の中が切れたりし,鼻血も出るなどしたばかりか,膝蹴りをされた際の痛
みが続いたことから,事件の10日後に通院したところ,左第5ないし第8肋軟骨
損傷と診断され,コルセットを装着するとともに投薬治療を受け,結局,事件後約
2週間にわたり痛みが続き,仕事や日常生活にも大きな支障を来す状況にあったこ
となどに照らすと,被告人の丁に対する一連の暴行等が,丁の反抗を抑圧するに足
る程度に達していた事実は優に認めることができる。なお,弁護人は,その主張根
拠として,本件で,被告人が丁に凶器を使用せず,一対一で暴行を加えていること
や犯行が夕方繁華街近くの公道付近でわれ,通行人らに助けを求められる状況にあ
ったこと,丁が暴行を受けている最中に財布等を隠していることなどを指摘するが,
これらの事情は,前記認定を何ら左右するようなものではない。したがって,被告
人に強盗未遂罪が成立することは明らかで,弁護人の前記主張は到底採用できない。
(量刑の理由)
本件は,被告人が,(1)単独で,①大学の教室で金品入りの財布を窃取し,②窃取
したクレジットカードを使用して薬局で商品をだまし取り,③タクシーの運転手を
欺き,タクシーに乗車して財産上の利益を得た,(2)女友達Aと共謀の上,①Aが出
会い系サイトで知り合った男性に暴行等を加えて,金品を強取しようとしたが未遂
に終わり,②電車内で男性客からAが痴漢をされたと警察官に虚偽の申告し,③ゲ
ームセンターで遊客から金品入りの財布を窃取したという,窃盗及び詐欺各2件,
強盗未遂及び虚偽告訴各1件の事案である。
被告人は,本件各犯行当時,大学生として基本的に実家で両親らと同居し,両親
らに小遣いをもらうなどして暮らしていたが,飲食,パチンコ代,女性との交際費
などに多額の金銭を費消する派手な生活を送るうち,各種犯罪行為によって,楽を
して遊興費等を入手しようなどと考え,本件各犯行に及んだものであって,金銭欲
に基づく安易かつ身勝手な犯行動機に酌むべきものは全く認められない。
その各犯行態様をみても,(1)①の窃盗及び(1)②③の詐欺の各犯行は,他大学の
学園祭の最中に,無人となっていた教室に一人で入り込み,机上に置かれていた学
生のショルダーバッグ内から現金やクレジットカード入りの財布を抜き取った上,
その直後に盗んだクレジットカードを利用して,薬局でひげ剃りなどを購入したり,
乗客を装って利用したタクシーの運賃の支払いに同カードを不正使用したりしたも
ので,いずれも計画性のみられる悪質な犯行である。これら3件の被害合計額は1
0万円余りと決して少ないとはいえない。また,(2)①の強盗未遂の犯行は,被告人
が,当時交際していたAとの共謀に基づき,Aにインターネットの出会い系サイト
を通じて,Aとの交際を求める男性を言葉巧みに呼び出させた上,Aをして前記男
性と一緒にホテルに行く振りをさせつつ,同人の車を停めていた駐車場に連れ込ま
せ,同所において,被告人がいきなり,おれの女に手を出したなどと怒鳴りつけ,
被害者の弁明も一顧だにせず,繰り返しその顔面を手拳で殴打したり,その腹部等
を膝蹴りしたりし,さらに路上に引き倒した被害者の腹部等を足蹴にするなどの激
しい暴行を加えつつ,金銭を要求したもので,計画的かつ巧妙であるのみならず,
粗暴かつ執拗な犯行であって,相当に悪質というべきである。被害者は,被告人か
ら,突然,因縁をつけられ,一方的に激しい暴行を受けて大きな苦痛と恐怖を味わ
わされたばかりでなく,その後も,食事を含む日常生活や接客業の仕事等にも大き
な支障を生じるような痛みがしばらく続いたというのであって,その結果を軽視す
ることはできない。被害者の被告人に対する処罰感情には今なお厳しいものがある。
また,(2)②の虚偽告訴の犯行は,被告人において,Aを利用して,電車内の男性客
を痴漢犯人に仕立て上げて,同人を窮地に陥れ,そこにつけ込んで,示談金の名目
で多額の現金を獲得しようと計画し,警察官まで欺き,本来,国民の社会生活や人
権を守るための砦となることが期待されている司法手続を,その金銭欲のためによ
こしまな方法で利用しようとしたのであって,そのような動機と手段に酌量の余地
は寸毫も認められない。被告人は,漫画本からヒントを得て,自ら立てた計画をA
に打ち明け,その承諾を得るや,被告人が主導して,Aが痴漢にねらわれ易いよう
スカートを履き,気の弱そうな中年男性を狙うよう指示した上,Aとの間で予め男
性客を痴漢犯人に陥れるための手順や役割分担等を取り決めた上,一緒に地下鉄に
乗り,帰宅途中の被害者にねらいをつけて,Aにおいて,男性客と互いの身体が接
触するほどの位置に意図的に佇立した上,同人に対し「今,触りましたね。」など
と嘘を言い立て,驚いて反論を試みようとしていた同人にすかさず近づいた被告人
が,第三者を装い「触ってましたよね。」などと嘘を言って,Aに加勢して,困惑
している被害者を一層窮地に追い込み,その後同人を同行した駅長室において,臨
場した警察官らに対し,Aがあたかも痴漢の被害に遭ってショックを受けている被
害女性を演じつつ,架空の痴漢被害を申告し,被告人においても,実際に痴漢の場
面を目撃した正義感の強い若者であるかのように演じることによって,警察官を欺
いて虚偽告訴の犯行に及び,その結果,被害者に濡れ衣を着せて府条例違反の罪で
逮捕させるに至ったものであって,計画的かつ巧妙で卑劣きわまりない悪質な犯行
である。しかも,被告人とAは,同犯行に先立ち,相互間における携帯電話の通話
記録等を消去したり,駅構内で連れ立って歩くことを避けるなどによって,赤の他
人同士を装い,本件犯行が警察に発覚しないよう画策するなどしており,周到かつ
狡猾な行動をとっている。被害者は,単に乗客として電車を利用していたに過ぎな
いのに,多数が乗車した電車内において,痴漢という極めて不名誉な容疑を予期せ
ずかけられ,被告人とAの巧妙な立ち回りから,警察官らに必死に無実を訴えたに
もかかわらず,これを聞き入れられずに,そのまま逮捕され,丸1日近く警察署留
置施設に収容されており,釈放後も,Aが警察に自首したことを聞かされるまでは,
無辜の罪で処罰される不安にさらされていたもので,本件が平穏な社会生活を送っ
ていた被害者に大きな打撃と屈辱を与えたのみならず,その家族らにも多大の衝撃
と心労をもたらしたことは明らかである。このような事情から,被害者が本件犯行
に激しく憤り,被告人の厳しい処罰を求めているのは当然である。さらに,本件が,
特異な痴漢えん罪事件としてマスコミなどにより広く報道されることによって,公
共交通機関を日々利用している多くの男性通勤客に対して,いつ本件と同様の無実
の嫌疑を掛けられ事件に巻き込まれるかも知れないという深刻な不安を与えたこと
が容易に推察される。また,電車内で実際に痴漢被害に遭遇し,勇気を奮って被害
申告をした女性についても,虚偽申告ではないかとの疑いの目で見られるという可
能性を生じさせたことも窺われ,弱い立場にある女性被害者をして性犯罪の被害申
告を一層ためらわせ,性犯罪の検挙や抑止を困難にさせるという深刻な事態を招来
させかねないことが危惧される。以上にかんがみると,虚偽告訴の犯行が,市民生
活に与えた悪影響にも見過ごせないものがある。加えて,同犯行につきAが自首し,
被告人にも自首を勧めたのに,被告人は即座にこれに拒絶したのみならず,あまつ
さえ,Aに家族を皆殺しにするなどと申し向けて自白の撤回を迫っているのであっ
て,犯行後の態度も極めて自己中心的で反省心に著しく欠けている。
(2)③の窃盗の犯行は,被告人が,Aとの事前打合せに基づき,Aをして,ゲーム
センターでゲーム機上に財布を置いたまま,ゲームに熱中している遊客に話しかけ
させ,その近くに座ったりバッグを置かせたりするなどして,財布が見えにくい状
況を作出させて,その隙を突いて素早くこれを盗み出しているのであって,やはり
計画的で悪質な犯行というべきである。以上(2)の3件の各犯行は,わずか4日間に
罪障感なく,次々と敢行されており,この点だけでも,被告人の規範意識は相当に
希薄とみざるを得ない。しかも,被告人は,高速道路を高速走行中,仮睡状態に陥
って大事故を引き起こして後続車両の運転手を死亡させたという業務上過失致死罪
により,平成19年3月,禁錮3年,執行猶予4年の判決を受けており,自重自戒
しなければならない立場にあったのに,生活態度を何ら改めようとしないまま,同
判決からわずか8か月で(1)①ないし③の各窃盗詐欺の犯行に及び,それから3か月
以内にさらに悪質な(2)①ないし③の各犯行にも及んでいるのであって,前刑におけ
る執行猶予の機会付与が被告人の改善更生や再犯抑止に何の効果ももたらさなかっ
たことは明らかで,被告人の法軽視の態度はこの点からも強い非難を免れない。
以上に照らすと,犯情はまことに芳しくなく,被告人の刑責は相当に重いというべ
きである。
他方において,強盗における金品の奪取が失敗に終わっていること,虚偽告訴に
ついては,Aが犯行の6日後に警察に自首したことを契機に被害者にかけられてい
た嫌疑が完全に晴らされるに至っていること,(1)①及び(2)③の被害品の多くが各
被害者に還付されていること,被告人が,家族の協力を得て,窃盗及び詐欺各2件
の被害者ないし実質的被害者に対しては,相当額の損害賠償金を支払うことで示談
が成立し,これらが既に支払われていること,(1)①の被害者からは寛大な処分を求
める旨の嘆願書が提出されていること,また,強盗未遂の被害者に対しても,損害
賠償金として30万円が支払われていること,被告人が,(2)の各犯行に至る経緯や
犯行態様,Aとの役割分担などの細部についてはさておき,各犯行の事実関係につ
いてはほぼこれを認めており,(1)②③と(2)③の各被害者には謝罪の手紙を書き送
っていること,証人となった被告人の実母が,今後,被告人を一層監督しその更生
に協力していくと述べていること,本件で実刑判決が確定すると,被告人の前刑に
付された執行猶予が取り消されて二つの刑を併せて服役しなければならない立場に
あることなどの被告人のために酌むべき事情も認められる。
そこで,これらの事情を総合考慮すると,今回は,被告人に対して,主文の刑を
もって臨むのが相当である。
平成20年10月24日
大阪地方裁判所第3刑事部
裁判官樋口裕晃

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛