弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の本件控訴を棄却する。
     訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人土井一夫の上告理由第一点について。
 茨木市a地区農地委員会は、昭和二四年四月二四日、上告人ら所有に係る第一審
判決添付物件表記載2、3の各宅地について、同表「買収申請人」欄記載D、Eの
各申請に基づき、自作農創設特別措置法一五条による宅地買収計画を樹立し、その
後上告人らの異議を容れてこれを取り消し、該取消決定は確定するにいたったが、
大阪府農地委員会の指示により、同年九月五日、再度買収計画を樹立した。原審は、
以上の事実を確定したうえで、右取消決定は、単に当初の買収計画を取り消したに
とどまり、買収の申請そのものを却下したものではなく、他にこれを却下する旨の
意思表示のなされたことを認めるに足る証拠はないという理由によって、再度の買
収計画は買収の申請なくして樹立された違法のものであるとする上告人らの主張を
排斥したこと、判文上明らかである。
 しかし、異議の決定、訴願の裁決等は、一定の争訟手続に従い、なかんずく当事
者を手続に関与せしめて、紛争の終局的解決を図ることを目的とするものであるか
ら、それが確定すると、当事者がこれを争うことができなくなるのはもとより、行
政庁も、特別の規定がない限り、それを取り消し又は変更し得ない拘束を受けるに
いたること、当裁判所の判例とするところである(昭和二五年(オ)第三五四号同
二九年一月二一日第一小法廷判決、民集八巻一号一〇二頁、昭和二六年(オ)第九
〇五号同二九年五月一四日第二小法廷判決、民集八巻五号九三七頁参照)。したが
つて、右特別の規定のない本件においては、前叙のごとく、当初の宅地買収計画が
上告人らの異議申立に基づいて取り消され、その決定が確定したことにより、爾後、
当該農地委員会がそれに拘束される結果、上告人らの宅地買収の申請は、却下等別
段の意思表示をまつまでもなく、当然その効力を失うものと解するのが相当である。
また、大阪府農地委員会の茨木市a地区農地委員会に対する前記指示は、法律上の
根拠を有するものでないこと明らかである。それ故、本件各宅地について再度樹立
された買収計画は、その前提要件としての申請を欠く違法のものといわなければな
らない。
 されば、論旨は理由があり、原審の所論判断は自作農創設特別措置法一五条の解
釈適用を誤ったものであって、その違法が判決に影響を及ぼすこと明らかであるか
ら、その余の論旨について判断を加わえるまでもなく、原判決は、破棄を免かれな
い。そして、前示事実関係の下では、被上告人の本件控訴は、その理由がなく、こ
れを棄却すべきものとする。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官
田中二郎の意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
 裁判官田中二郎の意見は、次のとおりである。
 原判決を破棄すべきものとする結論は、多数意見と同じであるが、その理由につ
いて、私の考えるところを述べておきたい。
 一般に行政争訟手続において、当事者その他利害関係人の関与のもとに、裁決・
決定等がなされ、これに対して何人からの不服申立てもなく、これが確定した場合
には、その裁決・決定等には、判決の既判力とほぼ同視すべき確定力が生じ、当事
者又は利害関係人が、後になつてその効力を争うことができないことはもちろん、
行政庁も、特別の法の根拠に基づく場合は別として、これを取り消し又は変更する
ことができない拘束を受けるに至ることは、つとに当裁判所の判例とするところで
ある(昭和二九年一月二一日第一小法廷判決、民集八巻一号一〇二頁、同年五月一
四日第二小法廷判決、民集八巻五号九三七頁参照)。これは、裁決・決定等が、当
事者その他利害関係人の関与のもとに行なわれる一定の争訟手続に基づいてなされ
た判断の表示であつて、当事者その他利害関係人の信頼を保護し、法的安定を図る
必要があることに基づき、その判断の表示に確定力を認め、法律の定めるところに
より一定の期間内に一定の手続による不服申立て又は訴訟を提起するほか、もはや、
これを争い得ないものとして確定し、これに拘束力を与えようとする趣旨にほかな
らない。この趣旨に照らして考えると、行政庁としても、裁決・決定のなされたと
きの客観的事情と全く同一の事情のもとに、裁決又は決定によつて取り消された処
分と全く同じ処分を繰り返してすることは許されないものと解すべきである。若し、
これが許されるとすれば、同じ争訟の繰り返しをきたすこととなり、争訟手続によ
つて紛争の終局的解決を図り、法的安定を期した法の目的は達成されないこととな
る。もつとも、新たな処分を必要とする新たな事情が生じた場合に、そのことを理
由として、行政庁が新たに処分をすることを妨げるものではないが、それは、裁決・
決定等の基礎となつた客観的事情と異なる新たな事情が生じた場合のみに限られる
と解すべきである。
 ところで、本件についてみるに、当初の宅地買収計画が、上告人らの異議申立に
基づき、決定によつて取り消され、その決定は確定したというのである。然るに、
その後の、新たな事実の発生その他の何らかの事情の変更がないのにかかわらず、
「買収計画を取り消したままに放置することによる公益上の不利益が、更に買収計
画をたてることにより関係人に及ぼす不利益に比べてはるかに重大であると認めら
れる場合には、更に買収計画をたてるべき公益上の必要があるものと解するのを相
当」とするとして、再度の買収計画を定めたことを違法でないとした原判決は、そ
の実質においては、右取消決定の取消を認めたのと同じで、決定の取消を許さない
とした前記最高裁判所の判決の趣旨に反し、決定の確定力を否定するもので、到底
承認しがたく、再度の買収計画は、違法無効と認めるべきであると考える。そして、
買収計画が異議申立によつて取り消され、その決定が確定したときは、当初の買収
の申請そのものも、当然その効力を失うものと解すべきことは、多数意見に述べる
ことおりであるが、私は、その点について論ずるまでもなく、再度の買収計画は違
法無効であり、これを有効として原判決の判断は、法律の解釈を誤つたものとして
破棄を免れないものと考える。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    柏   原   語   六
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎

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