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裁判例


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主  文
1 被告は下関市に対し,479万8074円及びこれに対する平成12年
5月11日から支払済みまで年5分の割合による金銭を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを3分し,その1を原告の,その余を被告の負担とす
る。
事実及び理由
第1 申立て
被告は下関市に対し,750万4496円及びこれに対する平成12年5月
11日から支払済みまで年5分の割合による金銭を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が被告を相手方として,被告が下関市長として株式会社博報堂
九州支社(以下「博報堂」という。)との間で下関競艇のテレビ広告を放映する契
約を締結したことが違法であり,同契約に基づき,博報堂に対して代金額を支払っ
たことが違法又は不当な公金の支出に該当するとして,地方自治法242条の2第
1項4号に基づき,被告が下関市に対して,適正代金との差額である750万44
96円の損害賠償金及びこれに対する博報堂に対する最後の支払日の後である平成
12年5月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支
払うことを求めた住民訴訟である。
1 基礎事実(末尾に証拠を掲げたもののほかは,当事者間に争いがない。)
(1) 原告は,下関市内に住所を有するものであり,被告は,平成7年から現在
まで下関市長の職にある。
(2) 下関市は,平成11年度下半期の下関競艇のテレビ広告(以下「11年度
下半期テレビ広告」という。)に関して,その放映を委託する発注先を選定するに
当たり,任意の複数の業者を選択し,これらの業者に対して契約内容について提案
を要求し,最も優れた提案をした者との間で契約を締結する,いわゆるプロポーザ
ル方式を採用することとした。そして,下関市は,協和広告株式会社下関支社(以
下「協和広告」という。),博報堂及び株式会社電通北九州支社(以下「電通」と
いう。)に対し,11年度下半期テレビ広告の放映に関する契約の基本的な指針が
記された仕様書を示して提案を要求したところ,協和広告と博報堂が下関市に対
し,当該仕様書に基づく提案書を提出した(電通は辞退)。なお,下関市は,平成
11年度下半期より前の下関競艇のテレビ広告について,37年間,随意契約の方
法により協和広告に対してテレビ広告の放映を委託する契約を締結していた。
(3) 被告は,協和広告と博報堂が提出した提案書に基づき発注先として博報堂
を選定すべきことを決定した。
(4) 下関市は博報堂との間で,平成11年10月1日付けをもって,テレビ広
告の総放映本数を744本,放映期間を同日から平成12年3月31日まで,総代
金額を3499万9996円(消費税相当額を含む。)として,11年度下半期テ
レビ広告の放映を委託する契約を締結した(以下「本件契約」という。)。
(5) その後,下関市は博報堂との間で,平成11年11月1日以降,本件契約
に基づき放映する広告の本数を34本増加する旨の変更契約を締結した(以下「変
更契約1」という。)。
(6) 原告は下関市監査委員に対し,平成11年12月1日付けで,被告が本件
契約を破棄するか,適正な料金に是正するための変更契約を締結するか,或いは被
告を含む下関市の職員らが損害を填補するなどの適切な措置を講じることを求め
て,監査請求をした。
下関市監査委員は被告に対し,平成12年1月28日付けで,本件契約に
関する業者の選定は妥当とは認め難いから,同年2月末日までに是正措置を講じる
よう勧告した。
(7) 被告は,この勧告に応じ,平成12年2月1日付けをもって,博報堂との
間で,本件契約及び変更契約1のうち,広告の放映本数を更に増加する旨の変更契
約を下関市に締結させた(以下「変更契約2」という。)。
(8) 下関市は博報堂に対し,本件契約に基づく代金として,次のとおり合計3
499万9996円を支払った。なお,年月日は,支払命令がされた日である。
① 平成11年12月17日 
同年10月分として,583万3332円
② 平成11年12月21日 
同年11月分として,583万3332円
③ 平成12年1月25日 
平成11年12月分として,583万3332円
④ 平成12年3月8日 
同年1月分として,583万3332円
⑤ 平成12年3月24日 
同年2月分として,583万3332円
⑥ 平成12年5月1日 
同年3月分として,583万3336円
(9) しかし,原告は,監査請求の結果及び被告が採った是正措置に不服がある
として,平成12年2月23日,本件訴えを提起した(弁論の全趣旨)。
2 争点
(1) 被告が,11年度下半期テレビ広告に関して,その放映を委託する発注先
を選定するに当たり,プロポーザル方式を選択したことは適法であると認められる
か。
(2) 被告が(1)の発注先として博報堂を選定したことは,裁量権を逸脱した違
法なものであると認められるか。
(3) (2)が肯定される場合,事後に本件契約が変更されたことにより,違法性
が解消されるか。
(4) 被告の違法行為により下関市が被った損害額
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)について
(被告)
プロポーザル方式は,地方自治法上の随意契約の一種であり,高度な技術
を要する業務に適合するものとして採用されているが,11年度下半期テレビ広告
の発注先を選定するに当たり,マンネリ化を避けることなどを考慮して,プロポー
ザル方式を採用しても,何ら不合理ではない。
(原告)
ア 通常,プロポーザル方式は,専門的知識を必要とされる設計や構想に用
いるのであり,11年度下半期テレビ広告のような,単なるテレビ放映の時間帯取
りに適合する方法であるとはいえない。
イ 被告が博報堂に発注したいのであれば,プロポーザル方式を選択せず,
初めから随意契約の方法によればよいことであり,マンネリ化を防止するためとい
うのであれば,協和広告を対象業者から外せばよいことである。また,下関競艇に
関するテレビ広告については,外にも西部毎日広告社との間で随意契約により契約
しているが,これがマンネリ化などの観点から問題になったことはない。
(2) 争点(2)について
(原告)
ア 被告は,その事務を処理するに当たり,最少の経費で最大の効果を挙げ
るようにしなければならないにもかかわらず,11年度下半期テレビ広告の発注先
として,放映時間帯の点で条件が悪く,下関市が示した仕様書に明記された採択基
準を満たしていない提案をした博報堂を発注先として選定し,下関市をして,博報
堂との間で,適正価格を著しく超える価格で本件契約を締結させた。
イ 被告は,競争原理には政策的判断はなじまないにもかかわらず,事前に
政策的判断については触れることなく,また,事後にも政策的判断の具体的な説明
や理由をなさずに,博報堂と本件契約を締結した。本件契約中には,平成12年度
上半期の下関競艇のテレビ広告の放映について随意契約の方法により発注するとの
条項が含まれていたが,下関市は,その後これを破棄して協和広告との間で契約を
締結したのであり,このことからしても,被告の政策的判断は誤りであったという
べきである。
ウ 被告は,下関競艇事業局内での検討の結果,博報堂の提案書より協和広
告の提案書が優れており,これを採用すべきであると判断されていたにもかかわら
ず,これを無視して博報堂を発注先として選定した。
エ 下関市は,博報堂が提出した見積書の金額に合わせて本件契約を締結
し,博報堂は,本件契約が締結される前の平成11年10月1日午前6時には,既
に,本件契約の対象となる下関競艇に関するテレビ広告を放映し始めた。これらの
事情は,被告と博報堂との間で,11年度下半期テレビ広告に係る発注先に関し
て,事前に博報堂を選定する旨の談合があったことの証左である。
オ プロポーザル方式を採るのであれば,選定委員会を設置するのが通常で
あるにもかかわらず,被告は,これを設置せずに博報堂を発注先として選定した。
(被告)
ア 最小の経費で最大の効果を得るためには,単に放映本数と単価の多寡の
みで決定すべきものではなく,特に,プロポーザル方式や随意契約においては,放
映本数と単価以外の要因を踏まえ,被告に委ねられた裁量権を合理的に駆使して契
約の相手方及び内容を決定すれば足りる。また,被告が11年度下半期テレビ広告
の発注先の選定をすることに関して競艇事業局の意見に拘束される理由はない。
イ プロポーザル方式を採用した場合に発注者が示す仕様書は,一応の基準
や希望を示すものにすぎず,拘束力はない。したがって,博報堂の提出した提案書
がその内容を充たしていないからといって資格を失うわけではなく,仕様書に示さ
れた基準やこれに対する提案書の内容が変更されることも十分あり得ることであ
る。
ウ 業者選定に当たっては,①放映本数,②広告金額,③視聴率,④放映時
間帯,⑤放映エリアの5要因が重要である。本件では,①については協和広告が勝
っているものの,②については大差なく,④,⑤については博報堂が勝っていた。
特に,下関競艇場の入場者は,山口県内からよりも九州からの客が多いこと,競艇
ファンの中心層が35歳以上の男性であることを前提とすれば,博報堂の提案は,
この層の視聴率が高いテレビ局,時間帯に多くの広告本数を確保するものであっ
た。
エ 協和広告は,37年間にわたって1年単位の随意契約を更新し続けてい
たが,下関市としては,マンネリ化を防止する必要があった。また,博報堂は,我
が国でも屈指の大手業者であり,下関市が11年度下半期テレビ広告を同社に発注
することになれば,双方にとって知名度が上昇するし,今後の展開次第では,博報
堂に対する無理がいえるようになるなどの利益があった。更に,下関競艇場の顧客
数は年々減少していたため,そのリニューアルに合わせてイメージを変える必要が
あった。
(3) 争点(3)について
(被告)
被告は,TNCテレビ西日本の放映時間帯を確保するように博報堂と交渉
した結果,変更契約1を締結し,平成11年11月から34本の放映本数を増加さ
せた。また,被告は,是正措置を求められた監査結果を受けて,博報堂との間で放
映本数の一層の拡大を図った結果,変更契約2を締結し,平成12年2月16日の
時点で,協和広告の当初の提案を超える1022本の放映本数を獲得した。
したがって,仮に本件契約の相手方として博報堂を選択したことが違法で
あるとしても,その後の事情を踏まえて全体としてみれば,本件契約の違法性は解
消されているというべきである。
(原告)
ア 本件契約の締結が違法であり,これに基づく支出が平成11年12月1
7日になされている以上,違法性が解消されることはない。
イ 変更契約2の内容と協和広告の提案とを比較しても,前者は,料金の高
い時間帯における放映本数が少ないため,通常料金を算出すると,依然として後者
に劣る内容に止まる。
(4) 争点(4)について
(原告)
15秒のテレビスポット広告の放送に係る通常料金は,広告が放映される
時間帯によって1本当たりの料金が異なる。そして,各テレビ局の時間帯ごとの基
準価格と,各時間帯における放映本数とを積算すると,協和広告の提案に基づく合
計通常金額は1億3312万円,発注金額は3333万円(消費税相当額を除
く。)となり,発注金額は,合計通常金額の25.03756パーセントとなる。
他方,博報堂の提案に基づく合計通常金額は1億0459万円であり,これに協和
広告と同様の割合を乗じて適正な契約金額を算出すると,2618万6200円
(消費税相当額を除く。)となる。そうすると,本件契約の代金額である3499
万9996円から2618万6200円に消費税相当額を合算した額を差し引いた
750万4496円が,被告の違法行為により下関市が被った損害額である。
(被告)
ア 被告は,前記のとおり,諸要素を考慮して11年度下半期テレビ広告の
発注先として博報堂を選定したのであるから,被告の違法行為による下関市の損害
は発生していない。
イ 仮に,本件契約を締結したことにより原告が主張するような損害が発生
したとしても,被告は,総放映本数につき,前記のとおり是正措置を講じたから,
下関市に損害は発生していない。
第3 当裁判所の判断
1 事実関係
証拠(甲1,3の1・2,4ないし8,10ないし15,乙3,4,5,乙
6の1ないし6,7,10,証人A)及び弁論の全趣旨によれば,本件契約,変更
契約1及び同2に関する事実関係として,次の事実が認められる。
(1) 下関市は,11年度下半期テレビ広告について,プロポーザル方式により
発注先を選定することを決定し,その前提として,平成11年8月13日付けで,
博報堂,協和広告,電通に対し,仕様書を添付して同年9月9日に実施するプレゼ
ンテーションへの参加を呼びかけた。
同仕様書中では,見積額,本数,放送時間帯(タイムランク)をもとに1
1年度下半期テレビ広告の放映を発注する業者を決定することとされており,平成
11年度上半期の下関競艇のテレビ広告の放映に関する業務委託契約を基準とし
て,同等以上のものを求めていた。この仕様書のより詳細な内容は,次のとおりで
ある。
① 放送期間平成11年10月1日から平成12年3月31日までの
期間のうちの104日(競艇開催20節分)
② 契約金額3500万円を上限とする。
③ 放映対象下関競艇場が別途提供する同競艇場の広告フィルム
④ 放送機関RKB毎日放送,KBC九州朝日放送,TNCテレビ西
日本,KRY山口放送,YAB山口朝日放送
⑤ 放送枠RKB毎日放送毎日2回
KBC九州朝日放送毎節2回(前検日,優勝戦前
日)
TNCテレビ西日本前検日から優勝戦前日まで毎

KRY山口放送毎節3回(前検日,優勝戦前
日,当日),毎週金曜日を除く毎日,毎週金曜日はタイム広告
YAB山口朝日放送毎節4回(前検日,開催日,
優勝戦前日,当日),毎週木曜日にタイム広告
(2) 博報堂と協和広告は下関市に対し,平成11年9月9日ころ,提案書を提
出し,プレゼンテーションには同2社が応じたが,電通は参加を辞退した。博報堂
及び協和広告の提案書の内容は次のとおりであり,博報堂の提案書には,資料とし
て,35歳以上の男性について,テレビ局ごとに,曜日・時間帯別の視聴率表(乙
3)が添付されていたが,これらの点についての具体的かつ詳細な分析の説明の記
載はなかった。
(博報堂)
① 合計本数   744本
② 代金総額   3333万3333円(消費税相当額を除く。)
③ 基本方針   競艇のイメージアップではなく,集客力アップを目的と
して,時間取り,テレビ局のエリア配分・局配分を検討すべきである,具体的な方
策として,福岡からの集客を重視し,集客が見込まれる35歳以上の男性の視聴率
が高いテレビ局,時間帯にテレビ広告を放映する,といった考え方に基づく。
(協和広告)
① 合計本数   1015本(うち,107本は,当初の提案後に追加さ
れたものである。)
② 代金総額   3333万0000円(消費税相当額を除く。)
(3) 博報堂及び協和広告の提案の内容,その放映本数,通常料金による放映金
額は次のとおりである。なお,博報堂の提案のうち,放映時間帯のクラス分けにつ
いては提案書中に明示されていないが,テレビ局及び放映時間帯から推測されるク
ラス分けである。
ア 各テレビ局及び放映時間帯における15秒スポット広告の通常料金
(ア) RKB毎日放送,KBC九州朝日放送,TNCテレビ西日本
① Aクラス48万円
② SBクラス26万円
③ Bクラス14万円
④ Cクラス 8万円
(イ) KRY山口放送,YAB山口朝日放送
① Aクラス20万円
② SBクラス12万円
③ Bクラス 8万円
④ Cクラス 5万円
イ 博報堂の提案に基づく各テレビ局,放映時間帯及び放映本数
(ア) RKB毎日放送,KBC九州朝日放送(TNCテレビ西日本につい
ては,提案に含まれていない。)
① Aクラス  0本
② SBクラス124本
③ Bクラス208本
④ Cクラス 40本
(イ) KRY山口放送,YAB山口朝日放送
① Aクラス  0本
② SBクラス188本
③ Bクラス184本
③ Cクラス  0本
ウ 協和広告の提案に基づく各テレビ局,放映時間帯及び放映本数
(ア) RKB毎日放送,KBC九州朝日放送,TNCテレビ西日本
① Aクラス  0本
② SBクラス166本
③ Bクラス187本(うち,26本は10秒スポット広告)
④ Cクラス157本(全て10秒スポット広告)
(イ) KRY山口放送,YAB山口朝日放送
① Aクラス 72本
② SBクラス245本
③ Bクラス114本
④ Cクラス 74本
エ 前記の博報堂の提案に基づいて,各テレビ局及び放映時間帯ごとの通常
料金を積算すると,合計金額は,1億0216万円となる。また,協和広告の提案
についても同様の積算をすると,合計金額は,1億3312万円となる(なお,1
0秒スポット広告の料金については,証拠上明らかではないが,15秒スポット広
告の3分の2の料金であると推認できるから,この金額に基づき計算する。)。
(4) 下関市競艇事業局は,博報堂及び協和広告の各提案を検討した結果,見積
金額,放映本数,時間帯ごとの積算金額,緊急時の対応への配慮,下関市が示した
仕様書の遵守などの点で博報堂より協和広告が優れていると判断して,11年度下
半期テレビ広告の放映に関する契約の発注先としては協和広告を選択すべきである
とする決裁文書を平成11年9月17日付けで起案した。しかし,この決裁文書に
ついては,下関市の2名の助役のうちの1名であるA助役と被告が反対意見を表明
し,博報堂を発注先として選択する方向で再度検討するよう指示した。
(5) 被告は,平成11年9月28日,11年度下半期テレビ広告の放映を委託
する契約の発注先について,下関競艇場のリニューアルオープンに合わせて新たな
方向性を採るとの政策的判断を理由として,博報堂を選定する旨の決裁をした。
(6) 下関市は,平成11年10月1日午前10時から,博報堂との間で見積り
合わせを実施し,博報堂を業者として選定した。もっとも,本件契約に基づくテレ
ビ広告の放映は,同日午前6時から開始されている。
(7) 下関市は,平成11年10月1日付けをもって,博報堂との間で11年度
下半期テレビ広告の放映を委託する契約を締結した(本件契約)。本件契約に基づ
く各テレビ局,放映時間帯及び放映本数は下記のとおりである,博報堂の提案では
総放映本数が744本であったのに対し,本件契約では778本となっているの
は,その後,下関市と博報堂との間で,平成11年11月から,総放映本数を増加
させる内容の契約(変更契約1)を締結したことによるものである。
これを,(3)アで認定した通常料金に基づいて積算すると,その合計金額
は,7932万円となる。

(ア) RKB毎日放送,KBC九州朝日放送,TNCテレビ西日本
① Aクラス 20本
② SBクラス 20本
③ Bクラス134本
④ Cクラス232本
(イ) KRY山口放送,YAB山口朝日放送
① Aクラス 20本
② SBクラス 50本
③ Bクラス 70本
④ Cクラス232本
(8) 被告は,博報堂との間で変更契約2を締結することにより,総放映本数を
1022本に増加させたが,変更契約2に基づく各テレビ局,放映時間帯及び放映
本数は下記のとおりであり,これらを(3)アで認定した通常料金に基づいて積算する
と,その合計金額は,1億0459万円となる。

(ア) RKB毎日放送,KBC九州朝日放送,TNCテレビ西日本
① Aクラス 19本
② SBクラス 23本
③ Bクラス129本
④ Cクラス212本
(イ) KRY山口放送,YAB山口朝日放送
① Aクラス 46本
② SBクラス 75本
③ Bクラス 61本
④ Cクラス457本
2 争点に対する判断
(1) 争点(1)(11年度下半期テレビ広告に関して,被告がその放映を委託す
る発注先を選定するに当たり,プロポーザル方式を選択したことは適法であると認
められるか。)について
本件契約を締結するに当たり,被告がその相手方を選定するための方式と
して採用したプロポーザル契約は,任意の業者を数社選択し,その中から1名を選
択し,その相手方と契約を締結する方式であるから,随意契約の一種であるという
ことができる。そして,地方公共団体が契約を締結するに当たっては,一般競争入
札の方法によることが原則とされ,政令で定められた場合にのみ随意契約の方法に
より契約を締結することが認められることとされている(地方自治法234条1
項,2項)。
ところで,被告の主張するところは,11年度下半期テレビ広告の放映に
関する契約について,その性質又は目的が競争入札に適しない(地方自治法施行令
167条の2第1項2号)との主張を前提とするものであると解されないでもない
が,前記基礎事実及び認定事実によれば,本件では,11年度下半期テレビ広告の
放映に関し,原則である一般競争入札の方式によることが不可能又は著しく困難で
あったと認めるべき事情は存在しない。しかし,他方で被告の要求する業者選定の
水準や内容は甚だ概括的なものであって,一義的に明確であるとはいうことができ
ず,テレビ局の選択や放映時間帯に関するより詳細で具体的な内容については,発
注先の業者の方針,技量,信用,経験などに委ねられる部分が少なくないことは否
定できない。また,下関市は,本件契約以前にも37年間にわたり下関競艇に関す
るテレビ広告の放映を外部の業者に発注しており,本件契約締結当時,翌年度以降
も外部の業者に発注することを考えていたというべきであるから,そうだとすれ
ば,翌年度以降の契約に関し,外部業者との関係をより良好なものにするため,こ
れに適した業者選定の方式を採る必要があったということができる。そ
して,これらの事情に加え,本件で下関市が採った方式が,従前テレビ広告を発注
していた協和広告,我が国でも屈指の広告代理店である博報堂及び電通の3者を対
象として,提案内容の善し悪しによって発注先を決定することとし,この意味にお
いて,全く任意の業者を選定して契約を締結する純粋な随意契約とは異なることと
なるのであるから,被告が本件契約につきプロポーザル方式により発注先の業者を
決定し,その業者との間で随意契約を締結する方式を採ったこと自体は,適法にな
されたものであると認めることができる。
(2) 争点(2)(被告が争点(1)の発注先として博報堂を選定したことは,裁量権
を逸脱した違法なものであると認められるか。)について
前記認定事実によれば,本件契約締結の時点において,テレビ広告の総放
映本数や広告代金額について,協和広告の提案が博報堂の提案よりも優れているこ
とは明らかである。
被告は,放映時間帯や放映エリアについて,博報堂の提案が協和広告の提
案よりも優れていると主張する。そして,博報堂の提案(乙3)の中には,山口県
及び福岡県における35歳以上の男性について,各テレビ局における時間帯ごとの
視聴率を示した表が添付されており,博報堂が,テレビ広告の対象として,下関競
艇の入場者が多い九州に居住する当該年齢層の男性に重点を置いた旨の記載がある
上,これらの重点項目に副って放映時間帯,放映本数を配分しているように見えな
くもない。しかし,提案時を基準としてみると,博報堂の提案でも協和広告の提案
によっても,九州に拠点を置くテレビ局における放映本数と山口に拠点を置くテレ
ビ局における放映本数との比率はほぼ同等である上,全体の総放映本数が多いこと
との兼ね合いから,九州に拠点を置くテレビ局における総放映本数については,協
和広告の提案の方が博報堂の提案を上回るのである。また,放送時間帯について
も,協和広告の提案は,博報堂の提案ほど当該年齢層の男性を意識した提案ではな
いにせよ,博報堂の提案書に添付されている視聴率表と対比すると,当該年齢層の
男性の視聴率が高い時間帯における放送枠は確保されており,協和広告
の提案における総放映本数が博報堂のそれをはるかに上回ることも合わせて考える
と,この点でも博報堂の提案の方が優れていると断定することもできない。更に,
下関競艇場における当該年齢層の男性の顧客の割合がどの程度あるのかは証拠上明
らかではないし,他の年齢層や性別の顧客に対する放映効果,博報堂の提案書に添
付されている視聴率表に関し,博報堂が提案する放送枠と協和広告が提案する放送
枠との間で生じる視聴率の差を具体的に検討した形跡もない。
また,被告は,下関競艇場のリニューアルに合わせてイメージを変える必
要があった旨主張するが,下関競艇場のリニューアルに合わせてイメージを変える
ために,特に博報堂の提案の方が優れているとすべき事情は認められない。
そうすると,本件では,博報堂の提案には,博報堂が日本でも屈指の大手
業者であることなど諸般の事情を考慮しても,テレビ広告の総放映本数や広告代金
額の点における協和広告の優位は明らかで,これを覆すような事情はなく,被告が
11年度テレビ広告に係る契約の発注先として明らかに有利な内容を提示している
協和広告を十分な根拠もないのに排斥し,これより明らかに不利な条件を提示して
いる博報堂を十分な根拠なしに選択して本件契約を締結したことは,市長としての
裁量権を著しく逸脱したものと認められる。
(3) 争点(3)((2)が肯定される場合,事後に本件契約が変更されたことによ
り,違法性が解消されるか。)について
被告は,本件契約の後,変更契約1及び変更契約2を締結し,これらの契
約の履行としてテレビ広告が放映されたことにより,本件契約の契約期間内に放映
された広告の総本数は,協和広告の提案を上回り,これによって,本件契約を締結
した際の違法性は解消されたと主張する。
しかし,本件契約は,契約の個数としては1個であるが,本件契約に基づ
く代金支払債務に関する条項を見ると,1か月分の放映ごとにこれに対応する代金
を支払うこととなっており,その意味で,各月ごとのテレビ広告の放映本数と下関
市が博報堂に対して支払った金額が対応しているものである。確かに,下関市は博
報堂との間で当初締結された本件契約の内容のうち,放映本数に関する部分を当初
に遡って増加させるかの如き外形を有する変更契約1及び変更契約2を締結してい
るが,変更契約1はしばらく措くとしても,総放映本数が大幅に増加した変更契約
2が締結された時期は平成12年2月1日であって,その時点で平成11年10月
から12月までの3か月間の放映分については,本件契約及び変更契約1に基づく
代金の支払が既になされている。また,平成12年1月の支払分についても,博報
堂によって,変更契約1に基づく放映がなされてはいるものの,それが協和広告の
提案を上回る内容であったとは認めることができず,同月分について,特に代金額
が減額されるといった事情もないまま,変更契約1に基づく支払いがされているの
である。そうすると,下関市が変更契約2を締結したことにより,全
体としてみれば総放映本数は協和広告の提案を上回るものになったとしても,平成
11年10月から平成12年1月までの間を各月ごとにみれば,その当時存在した
本件契約又は変更契約1に基づく放映がされ,これらの契約に基づく代金が支払わ
れたのであるから,これらの月分については,依然として違法な状態が継続してい
たというべきである。
もっとも,平成12年2月及び3月には,博報堂によって変更契約2に基
づく契約の履行がされ,その結果,本件契約や変更契約1,更には協和広告の提案
よりもはるかに多い本数の広告が放映されたことになるが,前記のとおり1個の契
約である本件契約及び変更契約1に基づく違法な代金の支払がされているのである
から,これらの契約が全体として違法性を帯びることに変わりはなく,この点をも
って,本件契約及び変更契約1の違法性が解消されたと解すべきではない。
(4) 争点(4)(被告の違法行為により下関市が被った損害額)について
そこで,被告の違法行為によって下関市が被った損害額について判断す
る。
ア まず,本件契約及び変更契約1の内容について,協和広告の提案内容と
比較する。平成11年10月分は,本件契約に基づいて下関市及び博報堂の債務の
履行がなされたことが認められるから,本件契約のうち,同月分の放映部分に関す
る合計金額(1億0216万円を6で除した金額である1702万6666円)を
協和広告の提案による同月分の合計金額(1億3312万円を6で除した金額であ
る2218万6666円)と比較対照すると,本件契約による合計金額は,協和広
告の提案による合計金額の76.75パーセント(小数点第3位以下切り上げ)と
なる。
また,平成11年11月分から平成12年1月分は,変更契約1に基づ
いて下関市及び博報堂の債務の履行がなされたことが認められるから,本件契約の
うち,これらの月分の放映部分に関する1か月当たりの代金額(7932万円を6
で除した金額である1322万円)を協和広告の提案による代金額(2218万6
666円)と比較対照すると,変更契約1による合計金額は,協和広告の提案によ
る合計金額の59.59パーセント(小数点第3位以下切り上げ)となる。
イ そして,単に代金額のみを比較対照し,協和広告の提案による金額を適
正な金額であるとすれば,本件契約に基づき博報堂に対し支払われるべき毎月分の
支払適正額は,426万3463円となり,同じく,変更契約1に基づき支払われ
るべき毎月分の支払適正額は,331万0225円となる。
(計算式)
3333万円×0.7675÷6=426万3463円(小数点以下切
り上げ)
3333万円×0.5959÷6=331万0225円(小数点以下切
り上げ)
仮に,これらの金額に基づいて計算するとすれば,下関市は,平成11
年10月放映分については156万9869円の損害を,平成11年11月分から
平成12年1月放映分については,756万9321円の損害を被ったことにな
り,その合計金額は,913万9190円となる。
(計算式)
583万3332円-426万3463円=156万9869円
(583万3332円-331万0225円)×3=756万9321円
ウ しかし,他方で,被告が博報堂と本件契約を締結したことは,裁量権を
逸脱するものではあるが,反面,被告がその根拠として示すように,博報堂の提案
には35歳以上の男性をターゲットとしている旨記載されており,これらのターゲ
ットに対する効果を完全に否定し切ることはできないこと,博報堂が我が国でも屈
指の大手業者であり,平成12年度上半期以降のテレビ広告に係る契約を締結する
に当たっても,他の業者と比較して有利な条件で契約を締結し,又は下関市の意向
をより柔軟に反映させ得る可能性がないとはいえないことなど,その程度を正確に
把握することは困難であるが,11年度下半期テレビ広告の放映を委託する発注先
として博報堂を選定したことにより,下関市にとって有利に作用する点が複数存在
することも否定できない。また,本件契約や変更契約1に関する適正価格を算出す
るに当たり,協和広告の提案を唯一の基準とすることにも全く疑問がないわけでは
ない。そうすると,イで算出した金額の合計額をそのまま損害額とすべきではな
く,これらの各点及び本件で現われた一切の事情を最大限に考慮し,下関市が被っ
た損害額を控えめに算定すると,少なくともイで算出した金額の5割を
下回ることはないと認めるのが相当である。
エ なお,被告は,変更契約2を締結し,同契約による総放映本数(102
2本)は協和広告の提案による総放映本数(1015本)を上回っており,平成1
2年2月以降,変更契約2により本件契約や変更契約1に基づく本数を上回る本数
が放映されていることが認められる。そして,この点に関し,本件契約や変更契約
1に基づく本数を上回る部分については,同年1月までに発生した損害が填補され
るとの主張を被告がしていると考えられる余地がないではない。しかし,そうだと
しても,平成12年1月放映分までについては,当該月中に協和広告の提案を下回
る本数しか放送されなかったのであり,当該月が終了し,当該月中の放映本数に対
応する対価が支払われたことにより,損害が確定的に生じていると考えるべきであ
るから,その後になされた変更契約2の内容いかんによって,いったん発生した損
害が填補されたものということはできず,また,これらの事情により,既に発生し
た損害額に影響するものでもない。
オ したがって,前記の913万9190円の5割である456万9595
円に消費税相当額を加算した479万8074円が被告の違法行為によって下関市
が被った損害額と認められる。
(計算式)
913万9190円×0.5×(1+0.05)=479万8074円
(小数点以下切り捨て)
第4 結論
以上によれば,原告の本訴請求は,被告が下関市に対し479万8074円
の損害賠償金及び博報堂に対する最後の支払日の後である平成12年5月11日か
ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理
由があるから認容し,その余の部分は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につ
き,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法64条本文,61条を適用して,主文のとお
り判決する。なお,仮執行宣言については,相当ではないのでこれを付さないもの
とする。
(口頭弁論終結の日 平成13年10月2日)
 山口地方裁判所第一部
裁判長裁判官     山   下       満
   裁判官     杉   山   順   一
   裁判官     安   部       勝

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