弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決のうち平成12年8月分の源泉所得税及びそ
の不納付加算税に関する部分を破棄し,同部分につ
き第1審判決を取り消す。
2本件訴えのうち平成12年8月分の源泉所得税の不
納付加算税に関する部分を却下する。
3上告人の被上告人に対する平成12年8月分の源泉
所得税2013万7500円の納税義務が存在しな
いことを確認する。
4上告人のその余の上告を棄却する。
5訴訟の総費用は,これを2分し,その1を上告人の
負担とし,その余を被上告人の負担とする。
理由
第1事案の概要
1本件は,破産管財人である上告人(弁護士)が,破産法(平成16年法律第
75号による廃止前のもの。以下「旧破産法」という。)の下において,破産管財
人の報酬の支払をし,破産債権である元従業員らの退職金の債権に対する配当をし
たところ,所轄税務署長から,上記支払には所得税法204条1項2号の規定が,
上記配当には同法199条の規定がそれぞれ適用されることを前提として,源泉所
得税の納税の告知及び不納付加算税の賦課決定を受けたことから,上告人におい
て,主位的に,上告人の被上告人に対する上記源泉所得税及び不納付加算税の納税
義務が存在しないことの確認を求めるとともに,予備的に,被上告人の上告人に対
する上記源泉所得税及び不納付加算税の債権が財団債権でないことの確認を求めて
いる事案である。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)A株式会社(以下「破産会社」という。)は,平成11年9月16日,大
阪地方裁判所において破産宣告を受け,弁護士である上告人が破産管財人に選任さ
れた。
(2)ア大阪地方裁判所は,平成12年6月29日,上告人の報酬を3000万
円とする旨決定し,上告人は,同年7月3日,上記報酬の支払をした。
イ上告人は,平成12年8月30日,破産会社の元従業員ら270名を債権者
とする退職金の債権(以下「本件各退職金債権」という。)に対し,合計5億94
15万2808円の配当をした。なお,上記元従業員らは,いずれも平成11年9
月16日をもって破産会社を退職していた。
ウ大阪地方裁判所は,平成13年3月21日,上告人の報酬を5000万円と
する旨決定し,上告人は,同月28日,上記報酬の支払をした(以下,この報酬と
上記アの報酬とを併せて「本件各報酬」という。)。
(3)住吉税務署長は,平成15年10月23日付けで,上告人に対し,次のと
おりの源泉所得税の納税の告知(以下「本件各納税告知」という。)及び不納付加
算税の賦課決定(以下「本件各賦課決定」という。)をした。
ア上記(2)アの支払に係る平成12年7月分の源泉所得税590万円の納税の
告知及び不納付加算税59万円の賦課決定
イ上記(2)イの配当に係る平成12年8月分の源泉所得税2013万7500
円の納税の告知及び不納付加算税201万3000円の賦課決定
ウ上記(2)ウの支払に係る平成13年3月分の源泉所得税990万円の納税の
告知及び不納付加算税99万円の賦課決定
(4)住吉税務署長は,平成15年10月28日付けで,上告人に対し,本件各
納税告知に係る源泉所得税及び本件各賦課決定に係る不納付加算税並びに延滞税に
ついて交付要求をした。
3原審は,要旨次のとおり判断し,上告人の主位的請求及び予備的請求をいず
れも棄却すべきものとした。
(1)弁護士である破産管財人が受ける報酬は,所得税法204条1項2号にい
う弁護士の業務に関する報酬に該当する。同項にいう「支払をする者」とは,当該
支払に係る経済的出えんの効果の帰属主体をいい,破産管財人の報酬の場合は,破
産者がこれに当たると解されるが,破産管財人が自己に専属する管理処分権に基づ
いて破産財団から上記報酬の支払をすることは,法的には破産者が自らこれを行う
のと同視できるし,その場合,破産管財人は当該支払を本来の管財業務として行う
のであるから,破産管財人は,当該支払に付随する職務上の義務として,上記報酬
につき所得税の源泉徴収義務を負うと解するのが相当である。そして,上記報酬に
係る源泉所得税の債権は,破産財団管理上の当然の経費として破産債権者にとって
共益的な支出に係るものであって,旧破産法47条2号ただし書所定の財団債権に
当たるというべきであり,その附帯税である不納付加算税の債権も,財団債権に当
たるというべきである。
(2)破産債権である元従業員らの退職金の債権に対して破産管財人が行う配当
は,所得税法199条にいう退職手当等の支払に当たり,当該配当においても,上
記(1)と同様の理由により,破産者が同条にいう「支払をする者」に当たると解さ
れ,破産管財人は,当該配当に付随する職務上の義務として,当該配当につき所得
税の源泉徴収義務を負い,その源泉所得税及び不納付加算税の債権は,いずれも財
団債権に当たるというべきである。
第2上告代理人山下良策ほかの上告理由について
論旨は,違憲及び理由の不備・食違いをいうが,その実質は単なる法令違反を主
張するものであって,民訴法312条1項又は2項に規定する事由のいずれにも該
当しない。
第3職権による検討
上告人が,本件訴えとは別に,被上告人を相手に本件各賦課決定の取消しを求め
る訴えを大阪地方裁判所に提起し,同裁判所が本件各賦課決定のうち本件各退職金
債権に対する配当に係る平成12年8月分の源泉所得税の不納付加算税の賦課決定
(以下「平成12年8月分賦課決定」という。)を取り消して上告人のその余の請
求を棄却する旨の判決を言い渡したのに対し,被上告人は不服申立てをせず,上告
人のみが控訴し,その控訴を棄却した大阪高等裁判所の判決に対して上告人が上告
(平成21年(行ツ)第11号)及び上告受理の申立て(同年(行ヒ)第14号)
をし,平成22年12月17日,上記の各事件について,上告を棄却し,事件を上
告審として受理しない旨の決定がされたことは,当裁判所に顕著である。これらの
事実によれば,上記大阪地方裁判所の判決のうち平成12年8月分賦課決定を取り
消すべきものとした部分が確定したことにより,平成12年8月分賦課決定に係る
不納付加算税の納税義務は当初から発生しなかったことになるから,上告人が,本
件訴えにおいて,主位的にその納税義務が存在しないことの確認を求め,予備的に
その不納付加算税の債権が財団債権でないことの確認を求める利益は失われたもの
というべきである。したがって,本件訴えのうち平成12年8月分賦課決定に係る
不納付加算税に関する部分は,不適法として却下すべきである。
第4上告代理人山下良策ほかの上告受理申立て理由について
1原審の前記第1の3(1)の判断は,結論において是認することができるが,
同(2)の判断は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)弁護士である破産管財人が支払を受ける報酬は,所得税法204条1項2
号にいう弁護士の業務に関する報酬に該当するものというべきところ,同項の規定
が同号所定の報酬の支払をする者に所得税の源泉徴収義務を課しているのは,当該
報酬の支払をする者がこれを受ける者と特に密接な関係にあって,徴税上特別の便
宜を有し,能率を挙げ得る点を考慮したことによるものである(最高裁昭和31年
(あ)第1071号同37年2月28日大法廷判決・刑集16巻2号212頁参
照)。
破産管財人の報酬は,旧破産法47条3号にいう「破産財団ノ管理,換価及配当
ニ関スル費用」に含まれ(最高裁昭和40年(オ)第1467号同45年10月3
0日第二小法廷判決・民集24巻11号1667頁参照),破産財団を責任財産と
して,破産管財人が,自ら行った管財業務の対価として,自らその支払をしてこれ
を受けるのであるから,弁護士である破産管財人は,その報酬につき,所得税法2
04条1項にいう「支払をする者」に当たり,同項2号の規定に基づき,自らの報
酬の支払の際にその報酬について所得税を徴収し,これを国に納付する義務を負う
と解するのが相当である。
そして,破産管財人の報酬は,破産手続の遂行のために必要な費用であり,それ
自体が破産財団の管理の上で当然支出を要する経費に属するものであるから,その
支払の際に破産管財人が控除した源泉所得税の納付義務は,破産債権者において共
益的な支出として共同負担するのが相当である。したがって,弁護士である破産管
財人の報酬に係る源泉所得税の債権は,旧破産法47条2号ただし書にいう「破産
財団ニ関シテ生シタルモノ」として,財団債権に当たるというべきである(最高裁
昭和39年(行ツ)第6号同43年10月8日第三小法廷判決・民集22巻10号
2093頁,最高裁昭和59年(行ツ)第333号同62年4月21日第三小法廷
判決・民集41巻3号329頁参照)。また,不納付加算税の債権も,本税である
源泉所得税の債権に附帯して生ずるものであるから,旧破産法の下において,財団
債権に当たると解される(前掲最高裁昭和62年4月21日第三小法廷判決参
照)。
(2)所得税法199条の規定が,退職手当等(退職手当,一時恩給その他の退
職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与をいう。以下同じ。)の
支払をする者に所得税の源泉徴収義務を課しているのも,退職手当等の支払をする
者がこれを受ける者と特に密接な関係にあって,徴税上特別の便宜を有し,能率を
挙げ得る点を考慮したことによるものである(前掲最高裁昭和37年2月28日大
法廷判決参照)。
破産管財人は,破産手続を適正かつ公平に遂行するために,破産者から独立した
地位を与えられて,法令上定められた職務の遂行に当たる者であり,破産者が雇用
していた労働者との間において,破産宣告前の雇用関係に関し直接の債権債務関係
に立つものではなく,破産債権である上記雇用関係に基づく退職手当等の債権に対
して配当をする場合も,これを破産手続上の職務の遂行として行うのであるから,
このような破産管財人と上記労働者との間に,使用者と労働者との関係に準ずるよ
うな特に密接な関係があるということはできない。また,破産管財人は,破産財団
の管理処分権を破産者から承継するが(旧破産法7条),破産宣告前の雇用関係に
基づく退職手当等の支払に関し,その支払の際に所得税の源泉徴収をすべき者とし
ての地位を破産者から当然に承継すると解すべき法令上の根拠は存しない。そうす
ると,破産管財人は,上記退職手当等につき,所得税法199条にいう「支払をす
る者」に含まれず,破産債権である上記退職手当等の債権に対する配当の際にその
退職手当等について所得税を徴収し,これを国に納付する義務を負うものではない
と解するのが相当である。
2以上によれば,本件各報酬の支払に係る平成12年7月分及び同13年3月
分の源泉所得税及びその不納付加算税に関する上告人の主位的請求及び予備的請求
をいずれも棄却すべきものとした原審の判断は,結論において是認することがで
き,この点に関する論旨は採用することができない。他方,本件各退職金債権に対
する配当に係る平成12年8月分の源泉所得税に関する上告人の主位的請求を棄却
すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反
があり,この点に関する論旨は理由がある。
第5結論
以上説示したところによれば,原判決のうち平成12年8月分の源泉所得税及び
その不納付加算税に関する部分は破棄を免れず,同部分につき第1審判決を取り消
して,本件訴えのうち上記不納付加算税に関する部分を却下し,上記源泉所得税に
関する上告人の主位的請求を認容すべきであり,上告人のその余の上告は棄却すべ
きである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官古田佑紀裁判官竹内行夫裁判官須藤正彦裁判官
千葉勝美)

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