弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役三年六月に処する。
     原審における未決勾留日数中三〇日を、右本刑に算入する。
     押収にかかる中古黒ビニール製ハンドバック一個(証第一号)およびハ
ンドバックさげひも付属の環一個(証第二号)は、これを原判示の被害者Aに還付
する。
         理    由
 本件控訴の趣意は、被告人および弁護人榊原守作成名義の各控訴趣意書に記載さ
れているとおりであるから、ここにこれらを引用する。
 被告人の控訴趣意中、事実誤認の論旨および弁護人の控訴趣意二、三(法令適用
の誤および審理不尽の各論旨)について。
 被告人の所論は要するに、「被告人は本件犯行につき、始めから強盗などする意
志がなく、つい出来心からいつの間にか原判示被害者のハンドバックを握つてい
た。その際右被害者に原判示のごとき暴行を加えた事実はなく、その身体には指一
本触れていない。同被害者は、足場が悪かつたため自ら転倒して受傷したに過ぎな
いから、原判決の事実認定は誤認である」、といい、弁護人の所論は要するに、
「本件犯行につき、被告人が原判示被害者に対し、その反抗を抑圧するに足る程度
の暴行をした事実がないから、原判決が被告人を強盗傷人罪に問擬したのは、法令
の適用を誤つたものであり、また原判決には審理不尽の違法がある」、というので
ある。
 しかしながら、原判決挙示の各証拠を総合すれば、原判示の罪となるべき事実
は、所論の強盗の犯意はもちろん、被告人が原判示被害者に対し、原判示のごとき
暴行を加え、その反抗を抑圧したうえ、同女から原判示のごとき金品を強取し、そ
の際右暴行により、同女に対し原判示のごとき傷害を負わせた点に至るまで、すべ
てこれを認めるに十分である。所論は被告人に強盗の犯意がなかつたとか、被告人
において原判示被害者に対し、その反抗を抑圧する程度の暴行を加えた事実がない
旨かれこれ主張するので案ずるに、前記証拠によれ<要旨>ば、被告人は原判示認定
のとおり、夜間人通りの少ない路上において、折から勤め先から帰宅途中の原判示
害者が、右腕のひじに黒ビニール製ハンドバックをかけて歩いて行くのを
認め、咄嗟に同女から右ハンドバックを奪取しようと決意し、同女のあとを追尾
し、右ハンドバックを奪取する機会を窺ううち、同女が道路わきの同女方玄関前に
至るや、矢庭に同女の背後から右ハンドバックに手をかけ、これを引き取ろうとし
たところ、同女が「泥棒、泥棒」と叫んで右腕をかたく折り曲げ、ハンドバックを
離さなかつたため、無理矢理奪い取ろうとして、これを強く後へ引つ張つて同女を
その場に転倒させ、なおも「泥棒、助けて」と叫ぶ同女を右ハンドバック諸共数米
にわたり路上を引きずり廻す等の暴行を加えたうえ、同女から右ハンドバックを奪
い取つたことが認められるので、被告人の右暴行は、社会通念上一般に被害者の反
抗を抑圧するに足る程度の暴行に当るものというべきである。従つて被告人が右被
害者のハンドバックに手をかけて引つ張り、これを奪い取ろうとしたときすでに強
盗の犯意があつたものと認めるのが相当であり、同女が被告人にハンドバックを引
つ張られたため路上に転倒したに拘らず、被告人はなおも前記のごとき暴行を同女
に加え、執揃にハントバックを強取しようとし、その結果同女が原判示のごとき傷
害を負つたことが明らかであるから、原判決が本件を強盗致傷罪に問擬したのは洵
に相当であり、原判決に所論のごとき法令適用の誤りはもちろん、審理不尽の違法
はいささかも存しない。所論は畢竟独自の見解に立つて原審が適法になした証拠の
取捨判断を非難し、ひいて事実誤認ないしは法令の解釈適用の誤りもしくは審理不
尽の違法を主張するものであつて、到底採用できない。論旨はいずれも理由がな
い。
 被告人の控訴趣意中、量刑不当の論旨および弁護人の控訴趣意四について。
 右各論旨は要するに、原審の量刑が重過ぎて不当である、というのである。
 所論にかんがみ、記録を精査し、これに現われた被告人の性行、経歴、非行歴を
初め、本件犯行の動機、態様、その罪質、特に被告人が少年時の昭和三七年七月二
三日宮崎家庭裁判所都城支部において、強姦致傷、窃盗により保護観察処分に付さ
れ、更に昭和四〇年七月五日名古屋家庭裁判所において、本件と同種の強盗致傷の
非行により中等少年院に送致されたこと、本件犯行は、被告人が中等少年院を仮退
院した日から僅か二箇月余りで敢行した強盗致傷罪の案件であり、その手段、方法
が極めて悪辣であると認められることなどを考慮すれば、原審が特に酌量減軽をし
たうえ、被告人を懲役五年に処し、被告人に強い反省を求めようとした意図も十分
首肯し得るが、一方観点を異にして被告人の年齢、家庭環境、その他犯行後の事
情、特に被告人が未だ若年僅か二一才余の青年であること、本件犯行直後、被告人
が本件被害者方の近隣の者に逮捕され、被害金品のうち原判示のハンドバックを除
きその余の物件がすべて右被害者の手許に返されたこと、また右被害者が被告人の
原判示暴行により蒙つた傷害も全治まで約一〇日間を要する程度の比較的軽微なも
のであつたことなどを併せ考えれば、原審の前記量刑はいささか苛酷の感を免れ
ず、これが重きに失し不当であると認められるから、論旨は理由があり、原判決は
破棄を免れない。
 よつて刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八一条に則り、原判決を破棄したう
え、同法第四〇〇条但書に従い、当裁判所において、更に判決する。
 原審が適法に認定した罪となるべき事実を法律に照らすと、被告人の原判示所為
は、刑法第二四〇条後段に該当するので、所定刑中有期懲役刑を選択し、なお被告
人には犯情憫諒すべきものがあるので、同法第六六条、第七一条、第六八条第三号
により酌量減軽をした刑期範囲内で被告人を懲役三年六月に処し、同法第二一条に
従い、原審における未決勾留日数中三〇日を右の刑に算入し、押収にかかる中古黒
ビニール製ハンドバック一個(証第一号)およびハンドバックさげひも付属の環一
個(証第二号)は、いずれも被告人が原判示の犯行により得た賍物で被害者に還付
すべき理由が明らかであるから、刑事訴訟法第三四七条第一項により、これを原判
示の被害者Aに還付すべく、原審および当審における訴訟費用は、同法第一八一条
第一項但書を適用して、これを被告人に負担させないこととする。
 以上の理由により、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 坂本収二 裁判官 藤本忠雄 裁判官 三浦伊佐雄)

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