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平成22年3月17日判決言渡
平成21年(行ケ)第10191号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年2月22日
判決
原告株式会社宝機材
訴訟代理人弁護士後藤昌弘
同手塚稔
同鈴木智子
訴訟代理人弁理士廣江武典
同西尾務
同服部素明
同長谷久生
被告有限会社リタッグ
被告株式会社カムイネット
被告両名訴訟代理人弁理士神戸真
同弁護士平山隆幸
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2008−800164号事件について平成21年6月11日
にした審決中「特許第3348192号の請求項1に係る発明についての特,
許を無効とする」との部分を取り消す。
第2事案の概要
1原告は,発明の名称を「グレーチング」とし平成14年9月13日に登録さ
れた特許第3348192号(請求項の数2)の特許権者であり,被告両名が
上記特許の請求項1及び2について無効審判請求をしたところ,特許庁が請求
項1に係る発明についての特許を無効とし,請求項2については請求不成立と
する審決をしたことから,請求項1に係る発明についての特許を無効とされた
審決部分に不服の原告が,その取消しを求めた事案である。
2争点は,請求項1に係る発明が,下記①∼③の各発明との関係で進歩性(特
許法29条2項)を有するか,である。
・①平成7年9月21日にNHK東海ニュースウェーブで放送された番組に
おいて開示された発明(乙1〔甲13は同番組の録画ビデオの画面の一部
を印刷したもの,以下,同番組を「甲13番組」といい,そこで開示さ〕
れた発明を「甲13開示発明」という)。
・②平成7年10月20日にNHK総合で放送された番組において開示され
(〔〕,た発明乙1甲14は同番組の録画ビデオの画面の一部を印刷したもの
以下,同番組を「甲14番組」といい,そこで開示された発明を「甲14
開示発明」という)。
・③平成7年11月22日に開催されたリボーン側溝説明会において公開さ
れた上記①及び②の各番組のビデオ映像において開示された発明以下検(「
甲1開示発明」という)。
第3当事者の主張
1請求の原因
(1)特許庁における手続の経緯
ア原告は,平成8年5月9日に名称を「グレーチング」とする発明につい
て特許出願(特願平8−114767号)をし,平成14年9月13日に
特許第3348192号として設定登録を受けた請求項の数2以下本(。「
件特許」という。。)
イこれに対し,被告両名は,平成20年8月25日付けで本件特許の請求
項1及び2について無効審判請求をしたので,特許庁は,同請求を無効2
008−800164号事件として審理した上,平成21年6月11日,
「特許第3348192号の請求項1に係る発明についての特許を無効と
する。特許第3348192号の請求項2に係る発明についての審判請求
は,成り立たない。審判費用は,その2分の1を請求人の負担とし,2分
の1を被請求人の負担とする」との審決をし,その謄本は平成21年6月
23日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件特許は,上記のとおり請求項1及び2から成るが,このうち無効とさ
れた請求項1の内容は,次のとおりである(以下「本件発明1」という。。)
・【請求項1】接面部が側溝等の受け部に対応した曲面をなすグレーチ
ングにおいて,前記接面部は断面が前記受け部に対応した外形形状を有す
るパイプ材を固着してなることを特徴としたグレーチング。
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,甲1
3開示発明,甲14開示発明及び検甲1開示発明は同一であるとした上,
本件発明1はこれらの各開示発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に
発明することができたから特許法29条2項により特許を受けることがで
きない,というものである。
,(,イなお審決が認定した上記開示発明の内容本件発明1と開示発明以下
甲13開示発明として説明する)との一致点及び相違点は,上記審決写し
のとおりである。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には以下のとおりの誤りがあるから,違法として取り
消されるべきである。
ア取消事由1(甲13開示発明についての認定の誤り)
審決は,甲13開示発明における鋳鉄蓋の接面部が受け部の曲面に対応
した外形形状に形成されていると認定するが,誤りである。
本件発明1にいう「対応した」とは「接面部が受け部に互いに向き合,
,,」って面接触する関係で双方の曲面が相似ではなくほぼ合同である関係
にあることを意味するものである。このことは,本件特許公報(甲1)の
段落【0003】及び【0013】に,本件発明1の特徴として,側溝蓋
の接面部と側溝の接面部が曲面で密着すること等が挙げられていること
や,図1において,上方に記載されているグレーチングの接面部3と下方
に記載されている側溝の受け部21の各曲面が一致し,接面部3が受け部
21に向き合って面接触しているところから明らかである。また,本件発
明1は,本件特許明細書(甲1)の段落【0003】で指摘した従来技術
である特開平6−248688号公報(発明の名称「騒音の発生しない側
溝,出願人A,公開日平成6年9月6日,甲20−1,以下「甲20刊」
行物」という)に開示された騒音の発しない側溝が存在することを前提。
として,これをグレーチングで達成することを目的としたものであるが,
甲20刊行物の図1上段中央部の図を見ると,側溝の受け部と側溝蓋の接
面部とが密着し,相互に向き合って面接触しており,このことからも,本
件発明1にいう「対応した」の意義が相似ではなく,ほぼ合同である関係
にあることは明らかである。
これに対し,甲13開示発明の接面部と受け部とは,接触していること
は事実であるが,その受け部の曲面と接面部の曲面とは相似でもなく,合
同でもない。同発明は,側溝の受け部と側溝蓋の接面部との曲率が異なる
関係にあるコンクリート製の側溝及び側溝蓋について,両者を線で接触さ
せる技術であり,両者は相互に相似するものでさえなく,本件発明1の技
術内容とは全く異なるものである。
,,()この点審決の認定は甲13甲13番組の録画内容を印刷したもの
の画面9ないし11において,側溝蓋の受け部が曲面に形成されたコンク
リート製側溝に,該受け部との接面部が,受け部の曲面に対応した曲面に
形成されたコンクリート製の側溝蓋が載置されていることが開示されてい
ること(開示事項13c,審決13頁下8行∼下6行,及び同画面20)
において「新しい側溝とふた」との表示とともに,側溝の受け部が曲面,
,.に形成され側溝蓋の受け部との接面部が受け部の曲面に対応した半径5
5センチの円弧状に形成されていることを示す模式図が開示されているこ
と(開示事項13d,審決13頁下5行∼下3行)に基づくものと解され
る。
しかし,甲13番組の画面9ないし11からは上記開示事項13cを認
定できるほど明瞭には接面部を見ることができない。また,画面20から
は,側溝蓋の接面部が半径5.5センチの円弧状に形成されていることが
読み取れるものの,側溝の受け部の曲面はこの半径5.5センチよりは明
らかに大きな円弧状である。このような側溝蓋の接面部は側溝蓋の受け部
の曲面に対応したものということはできない。
ちなみに,特許公開公報の要約又は特許請求の範囲に「対応した曲面」
という用語が記載されたものを,独立行政法人工業所有権情報・研修館ウ
ェブサイトにおける特許電子図書館で検索したところ,103件が該当し
た。これらをみると「対応した曲面」との用語については,明確にわか,
るものの中で80%以上のものが曲率半径が同一か,接触する曲面間に隙
間のないもの,換言すれば,面接触するものについて使用されていた。ま
た,103件の中で「対応した曲面」について定義が記載されたものは1
件しか存在しなかった。以上によれば「対応した」との用語は「接面部,,
が互いに向き合って面接触する関係で,双方の曲面が相似ではなく,ほぼ
合同である関係」と一般的に理解されているというべきである。
イ取消事由2(相違点認定の誤り)
前記アのとおり,甲13開示発明の接面部は受け部の曲面とは異なる曲
率の湾曲を有するのであって,本件発明1の接面部が「断面が側溝の受け
部に対応した外形形状を有するパイプ材を固着してなる」ものである点と
は異なる。
そうすると,甲13開示発明と本件発明1とを対比した場合,相違点は
以下のように認定すべきであり,審決の相違点に係る認定は誤りである。
・相違点A:本件発明1は,接面部は断面が側溝の受け部に対応した外
形形状を有するものであるのに対し,甲13開示発明の接面部は受け部
の曲面とは異なる曲率の相似した外径形状の湾曲をもつものである点
・相違点B:本件発明1は,透水性蓋が「グレーチング」であり,曲面
を有する接面部が「パイプ材を固着してなる」ものであるのに対し,甲
13開示発明は透水性蓋が鋳鉄蓋であり曲面を有する脚部が湾,「」,「
曲板状の脚部」であって,パイプ材ではなく,透水性蓋と脚部とが一体
鋳造される点
ウ取消事由3(周知性認定の誤り)
(ア)審決は,グレーチングにおいて,格子状部材の下部にパイプ材から
なる嵩上げ用脚部を設けることは,本件特許出願前に周知であったとす
る(17頁12行∼16行。)
しかし,審決が周知であることの根拠として挙げる実開平6−874
95号公報(考案の名称「グレーチング,出願人奥野機材株式会社,」
公開日平成6年12月22日,甲35。以下「甲35公報」という)。
からは,嵩上げのために角パイプを本体の下方に固着することが示唆,
教示されているだけであり,接面部が側溝等の受け部に対応した曲面を
なすグレーチングにおいて,前記接面部は断面が前記受け部に対応した
外形形状を有するパイプ材を固着することは,一切,示唆も教示もされ
ない。このことは,甲35公報におけるグレーチングの格子状部材の下
部に設けられたパイプ材からなる嵩上げ用脚部につき,この脚部として
の角パイプとこれを受ける側溝の各段部の側壁との間に一定の隙間が認
められること(甲35公報の図2参照)からも是認することができる。
また,審決が周知であることの根拠として挙げる実開昭60−853
83号公報(考案の名称「グレーチング,出願人日鐵鋼機株式会社,」
公開日昭和60年6月12日,甲36。以下「甲36公報」という)。
においても,格子状部材の下部に設けられたパイプ材からなる嵩上げ用
脚部の脚とこれを受ける側溝の段部の側壁との間には一定の隙間が認め
られるから,この甲36公報についても,嵩上げのために角パイプであ
る脚を本体枠の下方に固着することは示唆,教示されるとしても,接面
部が側溝等の受け部に対応した曲面をなすグレーチングにおいて,前記
接面部は断面が前記受け部に対応した外形形状を有するパイプ材を固着
することは,一切,示唆,教示もされていない。
したがって,前記イの相違点Aは,甲35公報,甲36公報記載の各
周知発明から,一切,示唆,教示されるものではない。
(イ)審決は,グレーチングにおいて,パイプ材は押出成形の際の型枠の
形状により任意の断面形状とすることができるものであって,容易に任
意の曲面を形成可能であることは周知であるとする(17頁16行∼1
8行。)
しかし,審決で採用されたいずれの証拠にも,パイプ材が押出成形の
際の型枠の形状により任意の断面形状とすることができ,容易に任意の
曲面を形成可能であることについての記載はない。パイプ材の押出成形
を専門とする当業者ならともかく,グレーチングを製造するメーカーに
とって上記事実が周知であることを証明できるものはなく,上記周知事
実の認定は証拠によって適切になされたものとはいえない。
また,本件発明1は,その実施例1にあるように,接面部の断面が受
け部に対応した外形形状を有するパイプ材であるところに特徴があり,
このようなパイプ材は,接面部以外の残りの部分の形状につき平面を逆
L字形に直角に屈曲させたもの,すなわち,略扇形状の断面のパイプ材
であると把握するのが妥当である。本件発明1はこのようなパイプ材を
試行錯誤の結果着想したものであるが,このような着想は決して周知の
ものではないし,このようなパイプ材を使用することが本件発明1の出
願時において容易で周知であったことについては,審決は一切明らかに
するところがない。
しかも,一般にパイプといえば断面が円形又は四角形状を想定するの
が通常であるが,断面が円形の丸パイプ材の場合,接面部は受け部に対
応した外形形状とすることができても,他の円形部分はほとんど点接触
(),。,正確には線接触となるため溶接は非常に困難であるしたがって
仮に受け部に対応させるために任意の直径のパイプを選択して使用する
ことは容易に想到し得るとしても,グレーチングに溶接するためには溶
接部が平面でなければならないという大前提があるため,当業者にはこ
の点が障害事由となり,容易には想到し得ないのである。この点,本件
発明1のパイプ材は,直交する2つの平面と各平面の端部分を結ぶよう
に接面部を形成し,この接面部の断面が受け部に対応した外形形状を有
するパイプ材に想到したものであり,ここで使用されるパイプ材は極め
て特殊な形状をしたパイプ材である。このような形状のパイプが甲13
開示発明の鋳鉄製の下部が内方に向かって湾曲した板状脚部と,嵩上げ
用角パイプとから,容易に着想されるものではない。
さらに,嵩上げパイプは,側溝の受け部とグレーチングとの間に介在
し,グレーチングのみならずその上に乗るであろう車両等の荷重をも支
える必要があり,当業者としてはまず強度の保持に関心を持たざるを得
ないものである。そして,角形のパイプ材と断面略扇形状のパイプ材の
梁としての強度を比較すると後者が劣ることは構造力学上周知のところ
であり,このようなパイプ材を使用することは阻害要因となるから,そ
れを面接触させることで解決に至ることは着想が困難である。
エ取消事由4(進歩性判断の誤り)
(ア)前記ウのとおり,断面略扇形状のパイプ材については阻害要因があ
り,本件発明1は,接面部を受け部に面接触するよう断面略扇状のパイ
プ材をグレーチングの本体下部に固着することで,これを解決するもの
である。こうした面接触の構成や作用効果は,甲13開示発明や甲35
公報,甲36公報には示唆・教示がなく,これが周知であることの立証
もされていない。したがって,本件発明1は甲13開示発明及び周知技
術に比べて,進歩性を有するものである。
(イ)この点,審決は,甲13開示発明において,鋳鉄蓋に代えてパイプ
材からなる嵩上げ用脚部を設けた周知のグレーチングを採用し,このパ
イプ材からなる脚部の一部を側溝の受け部の曲面に対応した円弧面に形
成して接面部とすることは,当業者が容易に想到し得るとする。
確かに,甲13開示発明は,側溝蓋の下端部のみを半径5.5cmの
円弧面とするものであるが,この側溝蓋の下端部の円弧面は側溝の受け
部の円弧面に対応したものではなく,該側溝の受け部の円弧面の半径よ
り小さい半径の円弧面である。つまり,甲13開示発明は,該側溝の受
け部の円弧面の半径より小さい半径の円弧面の接面部を持つ脚部によ
り,騒音を防止するという作用効果が得られることを開示するものであ
るとしても,グレーチングの脚部において,側溝の受け部の曲面に対応
した円弧面に形成して接面部としようとすることは示唆も教示もされて
いないから,本件発明1は,甲13開示発明から当業者が容易に想到し
得るものではない。
(ウ)また仮に,甲13開示発明がグレーチングの脚部において側溝の受
け部の曲面に対応した円弧面に形成して接面部としようとすることを示
唆,教示するとしても,甲13開示発明は,相違点Bとして指摘したと
,。おり透水性蓋と脚部とが一つの型枠で同時一体鋳造されるものである
つまり,甲13開示発明では,パイプ材とグレーチングの下面との接合
については何ら記載されておらず,受け部に対応した接面部の調節のヒ
ント,示唆となるものは全くない。
一方,コンクリート製側溝は,たとえ曲面の規格が同一であるとして
も,受け部の形状,特に左右一対の受け部の形状はメーカー毎に異なる
から,原告のようなグレーチングメーカーが,これに対応する左右一対
の接面部を備えたグレーチングを作るに当たり,鋳鉄蓋と湾曲板状の脚
部とを型枠で一体成形するためには,それぞれのメーカーに対応させた
型枠を用意しなければならないことになる。しかし,それでは到底,本
件発明1における「…接面部が曲面をなすグレーチングを容易且つ正確
に作ることができ,現場で容易かつ確実に設置でき,確かな密着により
ガタツクこともなく,また曲面での接面にも拘わらずズレることのない
グレーチングを提供すること(本件特許明細書の段落【0005)は」】
できない。
この問題を解決するため,本件発明1は,パイプ材とグレーチングと
を別個に用意し,メーカー毎に左右一対の受け部に対応させてパイプ材
をグレーチングに固着することで,上記課題の解決を可能としたもので
ある。これに対し,甲35公報,甲36公報はいずれも,単に,嵩上げ
のための角パイプをグレーチング本体に固着することを示すのみで,パ
イプ材をグレーチングの下側側方に左右一対で固着することで左右一対
の受け部に対応した接面部を可能とすることについて示唆・教示するも
のではない。
したがって,この点においても,本件発明1は進歩性を有するもので
ある。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3被告両名の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1)取消事由1に対し
取消事由1に係る原告の主張は,本件発明1における「対応」の意義につ
いて,受け部と蓋の接面部が曲率半径の同じ合同の関係にあることと解釈す
ることを前提とするものである。
しかし,本件発明1は,先行技術である接面部が曲面の蓋をグレーチング
に適用する技術であり(本件特許明細書〔甲1〕段落【0003】∼【00
05,側溝の「受け部」と蓋の「接面部」の曲率の関係について先行文献】)
に開示された以上の技術事項を開示するものではないから,本件発明1にお
ける「対応」とは,先行文献に記載されている「受け部」と「接面部」の関
係又は「対応」の語が有する一般的意味と解するのが相当である。
この点,本件特許明細書が開示する先行文献(特開平6−248688号
公報〔甲20刊行物)には「受け部」と「接面部」の曲面が相似である旨〕,
が記載されているから本件発明1における対応とは受け部と接,「」,「」「
面部」の曲面が相似の場合を含むと解釈することができる。
また,広辞苑(株式会社岩波書店・平成7年11月10日第4版第5刷発
行,乙3)には「①互いに向き合うこと。相対する関係にあること。…②,
両者の関係がつりあうこと。…③相手や状況に応じて事をすること。…」と
,「」「」,「」記載されておりこれを受け部と接面部に当てはめれば受け部
と「接面部」は互いに向き合っているものであり,また互いに接触して「受
け部」が「接面部」を受け止めるものであるから,本件発明1の「対応」は
「互いに向き合って接触する関係」と解することができる。
そうすると,本件発明1の「対応」の意義は「受け部」と「接面部」が,
互いに向き合って接触する関係であり「受け部」と「接面部」の曲面が相,
似である場合を含むと解釈すべきである。
そして,甲13開示発明においては,コンクリート製の蓋の「受け部」と
「接面部」が共に曲面であることが明らかであり,これらは互いに向き合っ
て接触する関係であるから,仮に,原告主張のように「受け部」と「接面,
部」の曲面の曲率が異なっているとしても,これを「受け部との接面部が,
受け部の曲面に対応した曲面に形成されたコンクリート製の側溝蓋」とした
審決の認定に誤りはない。
(2)取消事由2に対し
前記(1)のとおり,本件発明1の「対応」は「受け部」と「接面部」の曲
面の曲率が異なっている場合も含むと解すべきであるから,審決における相
違点1の認定に誤りはない。
(3)取消事由3に対し
ア原告は,グレーチングにおいて格子状部材の下部にパイプ材からなる嵩
上げ用脚部を設けることが本件特許出願前に周知であった旨の審決の認定
に関連し,原告が主張する相違点Aは,甲35公報,甲36公報記載の各
周知発明から示唆,教示されるものではないと主張する。
しかし,審決は,グレーチングにおいて格子状部材の下部にパイプ材か
らなる嵩上げ用脚部を設けることが周知であることを認定するのみで,受
け部や接面部が曲面の場合についての周知性を認定したものではない。
原告の主張は,周知事実の認定と発明の進歩性の認定とを混同したもの
であり,失当である。
イ原告は,グレーチングにおいて,パイプ材は押出成形の際の型枠の形状
により任意の断面形状とすることができ,容易に任意の曲面を形成可能で
あることが周知である旨の審決の認定は証拠に基づくものではないと主張
する。
しかし,押出成形に関する周知事実は,殊更証拠を挙げるまでもなく,
グレーチングの当業者のみならず技術系の人間にとっては常識的な事項で
ある(なお,これを裏付ける押出成形に関する資料として,特許庁ウェブ
サイト「引抜・押出による金属成形〔乙4「改訂機械製作法(1)」千々」〕,
岩健児著・コロナ社・昭和34年8月25日初版発行〔乙5。このよう〕)
に,本件の審決においては結論を導く過程が論理的かつ客観的に説示され
ているといえるから,審決が押出成形の周知性に関する証拠を提示しなか
ったことに違法はない。
また原告は,断面略扇形状のパイプ材を採用した着想は周知でないと主
張するが,審決は略扇形状のパイプ材を採用した着想の周知性を認定した
ものではない。
なお,原告は,本件発明1のパイプ材に関し,グレーチングに溶接する
ためには溶接部が平面でなければならないという大前提があるなどとし
て,あたかも本件発明1のパイプ材が断面略扇形に特定されるかのように
主張する。しかし,本件発明1に係る特許請求の範囲の請求項1には「略
扇形状のパイプ材」という技術事項は記載されていないし「グレーチン,
グに溶接するためには溶接部が平面でなければならない」ことは本件特許
明細書に記載されていない。したがって,本件発明1のパイプ材は,その
断面形状が「受け部に対応した外形形状の曲面を有する」ものであればよ
く,例えば,円形パイプ材であっても補強リブを数か所設けることでパイ
プをグレーチング本体に容易に固着できるから,ここでのパイプ材は通常
の円形パイプでもよい。
(4)取消事由4に対し
ア本件発明1は,甲13開示発明の鋳鉄蓋,甲35公報及び甲36公報に
開示された従来のグレーチング,種々の断面形状のパイプ材を製造できる
従来技術(押出成形は周知)に基づいて当業者が容易に発明をすることが
できたものであり,これが進歩性を有しないとした審決に誤りはない。
イこれに対し原告は,甲13開示発明において接面部が受け部の曲面に対
応していないことを指摘するが,対応とは,受け部と接面部が互いに向き
合って接触する関係であり,甲13開示発明の受け部と接面部の曲率半径
「」,。が異なっていても対応に該当するから原告の上記主張は失当である
また仮に「対応」が受け部と接面部の曲率半径が同じ場合に限定され,
るとしても,甲20刊行物(特開平6−248688号)に開示されてい
る受け部と接面部の曲面の「相似」は「合同」を含む概念であり,受け部
と接面部の曲率半径が同じ場合も公知であるから,このことに新規な技術
的意味はなく,審決の進歩性判断に影響を及ぼすものではない。
ウ原告は,甲13開示発明は型枠(鋳型)で一体成形されるから,メーカ
ーごとに異なる種類(形状・寸法)の側溝に装着する鋳鉄蓋を製造するに
は多種類の型枠を用意しなければならず,容易でないのに対し,本件発明
1は,種々のパイプ材とグレーチング本体を別個に用意しておき,種々の
側溝の左右一対の受け部に対応させて,パイプ材をグレーチング本体に固
着して製造できるので,種々の側溝に対応するグレーチングの製造が容易
であると主張する。
しかし,甲35公報及び甲36公報に開示された従来技術のグレーチン
グ本体は,フラットバー等の材料を溶接して網状に成形し,そのグレーチ
ング本体の下側側方に角パイプを左右一対で固着してグレーチングを製造
するものである。これは,材料のフラットバーの幅や角パイプの大きさを
変更することで,種々の異なったグレーチングを容易に製造できるという
ものであって,このような従来のグレーチングの特徴は本件発明1のグレ
ーチングと全く同じである。
そうすると,原告が主張する本件発明1の作用効果は,当業者が当然予
測できる程度のものであり,本件発明1の進歩性を主張する根拠とはなり
得ないものである。
エなお原告は,甲35公報及び甲36公報はいずれも嵩上げのための角パ
イプをグレーチング本体に固着することを示すのみで,パイプ材をグレー
チングの下側側方に左右一対で固着することについて示唆・教示するもの
ではないと主張する。しかし,甲35公報及び甲36公報に開示された従
来技術のグレーチングは,パイプ材をグレーチング本体の下側側方に左右
,()()一対で固着することで左右一対の平面状受け部に対応した平面状
接面部を設けており,これと本件発明1との違いは,接面部が曲面か平面
かの違いのみである。そして,この違いは,本件発明1を適用する側溝の
受け部が曲面であり,甲35公報及び甲36公報に開示された従来技術の
グレーチングを適用する側溝の受け部が平面であるからであって,至極当
然のことにすぎない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯,(2)(発明の内容,(3)(審決))
の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2本件発明1の意義
(1)本件特許の請求項1は,前記第3,1(2)のとおりである。
(2)また,本件特許の明細書(甲1)には次の記載がある。
ア発明の属する技術分野
・「この発明は,道路等の側溝の蓋,マンホール口の蓋,厨房などの排水可能な床
面の一部等として用いられるグレーチングに関する(段落【0001)。」】
イ従来の技術
・「一般にグレーチングを設置する際には,相手方となる側溝等の受け部が平坦な
形状をなし,ここに安定すべく設置されるが,側溝側の受け部や,グレーチング側
の接面部は多少の狂いを含むので,よってガタツキが残る。そしてこの様なガタツ
キは,騒音の問題,或いは接面部分の破損を招くなど問題などがあった。これに対
しゴムパッキングを用いる方法が知られているが,ガタツキや騒音の軽減に寄与す
るもの,解消という程には到らないことが多い(段落【0002)。」】
・「これに対して,特開平6ー248688号公報に開示された騒音の発しない側
溝があり,側溝蓋の接面部と側溝の接面部が曲面で密着することに特徴がある」。
(段落【0003)】
ウ発明が解決しようとする課題
・「ただ曲面であるため,側溝に設置するときには側溝の幅方向にズレ易くなり,
よって位置決めのための微調整を行って設置している。また設置した後も,グレー
チングの端を車両が通過するなど偏った荷重が架かればやはりズレ易く,しかもズ
レて寄った側はグレーチング上面が多少だが持ち上がるため路面と面一にならず,
つまずきになったりする。また上記の様な「接面部が曲面」といった特徴をグレー
チングにおいて実現しようとするなら,グレーチングに適するようなアレンジが求
められ,例えば,流し込み成形によるコンクリート蓋であれば,型枠成形により同
一形状の曲面形成が可能であるが,個々の鉄材を溶接して作られるグレーチングに
おいてはこの様なことができず,よって容易に曲面が形成できその曲面は密着性の
実現される正確さが得られる方法が求められている。また仕上がり具合や品質のバ
ラツキによっては曲面が密着し難くなることもある。或いはグレーチング側の接面
,。部が正確に形成されても相手方の受け部に狂いがあればやはり密着が困難となる
。」(【】)従って先に開示された曲面による接面部の良さが活かされない段落0004
・「よってこの発明は,接面部が曲面をなすグレーチングを容易且つ正確に作るこ
,,,とができ現場で容易かつ確実に設置でき確かな密着によりガタツクこともなく
また曲面での接面にも拘わらずズレることのないグレーチングを提供することにあ
る(段落【0005)。」】
エ課題を解決するための手段
「,,・本発明においては断面が受け部に対応した外形形状を有するパイプ材を用い
これを後述する図1∼2の様にグレーチングの側辺に固着して形成した。この様に
すれば,パイプ材は一般に押し出し成形によるので正確な同一形状の曲面を得るこ
とができる(段落【0007)。」】
オ発明の実施の形態
・「以下,実施例の説明により本発明の実施の形態を述べる。図1,2は,請求項
1に記載されたグレーチング1の実施例である。このグレーチング1は四角形状を
していて,その下面1aの2側辺には,側溝20の受け部21に対応するように2
本のパイプ材2が平行に溶接してある。このパイプ材2は断面が略扇形状の鉄材に
よるパイプ材であり,接面部3を図示したように下方外向きにして受け部21に対
応させてある。また2本のパイプ材2の内側Xには,鉄板4によるズレ止が垂下す
るように溶接してあり,側溝20の内側面22に係合する位置に設けてある(段。」
落【0009)】
カ発明の効果
・「以上,請求項1記載の発明によれば,接面部が側溝等の受け部に対応した曲面
をなすグレーチングにおいて,前記接面部は断面が前記受け部に対応したの外形形
状を有するパイプ材を固着してなることを特徴としている。そのため,パイプ材の
押し出し成形による正確な曲面を接面部の曲面とすることができ,接面の密着性が
高まる。また,単にパイプ材を取り付けるだけでよく,接面部が曲面をなすグレー
チングの製造が容易になる(段落【0013)。」】
(3)上記記載によれば,本件発明1は,道路等の側溝の蓋,マンホール口の
蓋,厨房などの排水可能な床面の一部等として用いられるグレーチング(鋼
材を格子〔grating〕状に組んだ溝蓋)に関するものである。グレーチング
は相対する側溝等の平坦な受け部に設置されるが,このような受け部やグレ
ーチング側の接面部は多少の狂いを含むので,これに起因する騒音・破損等
の問題があり,これを克服するため,コンクリートの流し込み成形により側
溝蓋を成形しこれと側溝の各接面部が曲面で密着するという従来技術も存し
たが,このような従来技術における曲面の密着性を,個々の鉄材を溶接して
作るグレーチングにおいて容易に実現することは困難であった。そこで,本
件発明1は,接面部が曲面をなすグレーチングを容易かつ正確に作ることが
でき,これを現場で容易かつ確実に設置でき,確かな密着により不安定にな
ることもなく,また曲面での接面にもかかわらず,ずれることのないグレー
チングを提供することを目的として,請求項1記載の構成を採用したもので
ある。その具体的構成は,曲面をなす側溝受け部に対応してグレーチングの
接面部を曲面になし,当該接面部の断面をパイプ材を固着して形成すること
を特徴とするものであり,これにより,上記目的を達成する作用効果を奏す
るというものである。
3取消事由1(甲13開示発明についての認定の誤り)について
(1)原告は,審決が甲13開示発明における鋳鉄蓋の接面部が受け部の曲面
に対応した外形形状に形成されていると認定したことが誤りであると主張す
,,「」,るところ同主張は本件発明1における曲面が対応することの意義を
「接面部が受け部に互いに向き合って面接触する関係で,双方の曲面が相似
ではなく,ほぼ合同である関係」にあるものと解することを前提に,甲13
開示発明がそのような関係にないことをいうものである。
(2)この点「対応」の一般的な語義についてみると,広辞苑(新村出編,岩,
波書店・平成7年11月10日第4版第5刷発行乙3には対応とは①,),「
互いに向き合うこと。相対する関係にあること。…②両者の関係がつりあう
こと。…」とされており,これによれば「対応」が少なくとも互いに向き,
合う関係を意味するものであることは明らかであるが,それを超えて,相対
する両者がほぼ合同の関係にある場合に限定する趣旨とまで解することはで
きない。
また,本件特許明細書(甲1)の記載をみても,本件発明1における「対
応した曲面」について積極的に定義するところはない。ここで,本件発明1
において曲面が対応することの技術的意義をみると,側溝の受け部と側溝蓋
の接面部の各曲面を相対して接触させる際,観念的には,両曲面の曲率を一
致させることで面接触(曲面同士が完全に密着)した状態となることを想定
することはできるが,現実には,両曲面の曲率を完全に一致させることは物
理的に不可能であるから,曲面を断面で見た場合の接面部において点接触・
支持する状態となることは避けられないところである。もっとも,点による
接触であっても,これが曲面において作用することにより側溝蓋の重量を外
側に分散することができ,外側の圧力が側溝蓋を支持することになるから,
所期の安定性を確保することができる。その上で,両曲面が相似する場合に
は,側溝蓋に物理的な外力が加わる等により移動したとしても,曲面が相似
する範囲内では別の点に接触・支持する状態に容易に達することができ,そ
の結果,側溝蓋が更にずれにくくなる(すなわち「密着」した状態となる)
という効果を奏することができる。このように,本件発明1において両曲面
が「相似」であるか「ほぼ合同」であるかといった曲率の大小は「接面の,
密着性(段落【0013)という本件発明1の作用効果の大小を決定する」】
という技術的意義を有するとしても,曲面が「対応」関係にあるか否かを直
。,()【】接決するものではない原告は本件特許明細書甲1の段落0003
及び【0013】に,本件発明1の特徴として接面部が曲面で密着すること
が挙げられていることをもって,両曲面が「ほぼ合同」であることの根拠と
するが,上記に照らし採用することができない。
なお,前記2のとおり,本件特許の明細書(甲1)には,側溝蓋と側溝の
各接面部が曲面で密着するという従来技術が存在することを前提に,本件発
明1はこれを個々の鉄材を溶接して作るグレーチングにおいて実現するもの
であるとの記載があるところ,上記従来技術として挙げられた特開平6−2
48688号公報(甲20刊行物)において「曲面で密着する」ことの意義
についてみると,その請求項1には「側溝蓋の接面部a5を曲面に成形加,
工し,幾何学的に相似な曲面に成形加工された接面部b6を持つ側溝2の側
溝蓋1となし,側溝蓋1と側溝2の密着性を高めた側溝」と記載されてい。
る。すなわち,甲20刊行物における側溝蓋と側溝が「曲面で密着する」関
係とは,側溝蓋及び側溝の各接面部の曲面が「相似」であり,これにより側
溝蓋と側溝が「密着」する関係をいうものであり,両曲面が「ほぼ合同」で
ある場合に限定されるものではない。
以上によれば,本件発明1における「対応した」とは,第一義的には側溝
受け部の曲面と側溝蓋接面部の曲面とが互いに向き合っている関係をいうも
のであって,その技術的意義に照らして,接面の密着性という作用効果を奏
する程度に各接面部の曲面の形状が相似していることを要するものであると
いう余地はあっても,それを超えて,各接面部の曲面の形状において「相対
する両者がほぼ合同である関係」にある場合に限定して解釈すべき必然性を
認めることはできない。
これに対し原告は,本件特許明細書(甲1)の図1や甲20刊行物の図1
において上方に記載されている接面部と下方に記載されている側溝の受け部
の各曲面が一致することをもって,本件発明1の「対応」の意義を「ほぼ合
同」の関係にあると解することの根拠とするが,これらの図面は本件発明1
ないし甲20刊行物に記載された発明の1実施例を示したものにすぎず,本
件発明1における対応関係が「ほぼ合同」の関係にある場合のみに限定して
解釈すべき根拠となるものではない。したがって,原告の上記主張は採用す
ることができない。
また原告は,特許公開公報の要約又は特許請求の範囲に「対応した曲面」
という用語が記載されたものの検索結果に基づき「対応した」との用語は,
「ほぼ合同」の関係を指すものと一般的に理解できる旨主張する。しかし,
既に説示したところから明らかなとおり「ほぼ合同」の関係にあるものが,
すなわち一般的に「対応した」関係にあるということはできても「対応し,
た」関係にあるものが「ほぼ合同」の関係にあるといえるか否かは,結局の
,。ところ当該発明の技術的意義に基づき個々的に決せられるべき問題である
その意味で,技術的意義が相互に異なる上記特許公開公報の検索結果をもっ
てしては前記説示に係る本件発明1の技術的意義に対する理解が左右される
ものではないから,原告の上記主張は採用することができない。
(3)以上を前提に,甲13開示発明における鋳鉄蓋の接面部が受け部の曲面
に対応した外形形状に形成されているか否かについて検討する。
甲13番組の録画内容を印刷した甲13の画面7∼11(画面8は下記の
とおり)には,側溝蓋の受け部が曲面に形成されたコンクリート製側溝に密
着して鋳鉄製の側溝蓋とコンクリート製の側溝蓋が載置され,このうち鋳鉄
製の側溝蓋は下部が内方に向かって湾曲した板状脚部を有し,他方,コンク
リート製の側溝蓋は上記側溝の受け部との接面部が曲面に形成されているこ
と,また同画面9∼11には,少なくともコンクリート製の側溝蓋における
上記両曲面は互いに向き合って接する状態にあること,また,同画面18∼
20(画面20は下記のとおり)には,上記コンクリート製側溝受け部の曲
面にそれより曲率の大きい側溝蓋接面部の曲面が接しており,当該接面部の
曲面の半径が5.5センチメートルであることがそれぞれ開示されている。

〔画面8〕
〔画面20〕
,,,そして甲13番組のビデオ録画である乙1によればこれらの側溝蓋は
その上を車両等が通行する際に上げる騒音を防止するために発明されたもの
であり,具体的には,上記コンクリート製の側溝蓋については,接面部を半
径5.5センチメートルの曲面とすることにより,同接面部のいずれかの地
点がそれより曲率の小さい側溝の受け部と接することになり,その結果側溝
蓋がずれないよう安定させることが可能となり,騒音の発生を防止できるこ
とが認められる。
もっとも,甲13番組の画面上,鋳鉄製の側溝蓋の曲面がいかなる曲率を
有するものであるかは必ずしも明確でないものの,上記のような側溝受け部
及び側溝蓋接面部を曲面とする目的及びその機能に鑑みれば,上記鋳鉄製側
溝蓋の接面部における曲面の曲率は上記コンクリート製側溝蓋の接面部にお
ける曲面の曲率と概ね同様(すなわち,半径5.5センチメートル程度の曲
面)であると認められる。この点原告は,甲13番組の画面9ないし11か
らは明瞭に接面部を見ることができないからその曲率は不明である旨主張す
るが,上記に照らし採用することができない。
以上によれば,甲13番組には,審決が認定したとおり,接面部が曲面を
なす側溝の受け部に載置され,下部が内方に向かって湾曲した板状脚部を有
する鋳鉄蓋(甲13開示発明)が開示されており,この甲13開示発明にお
ける接面部は側溝受け部の曲面と互いに向き合って接し,しかも,両曲面は
側溝蓋がずれないよう安定させることが可能となる程度に相似の関係にある
と認められる。
そうすると,甲13開示発明は,湾曲した板状脚部が,その接面部におい
て,曲面をなす側溝の受け部に「対応」した形状に形成されているというこ
とができるから,これと同旨の審決の認定に誤りはない。
(4)これに対し原告は,甲13開示発明は,側溝の受け部と側溝蓋の接面部
の各曲面の曲率が異なる関係にあるコンクリート製の側溝及び側溝蓋の両者
を線で接触させる技術であり,本件発明1の技術内容とは全く異なると主張
する。
しかし,両曲面が「相似」の関係にある場合はもとより「ほぼ合同」の関
係にある場合であっても,厳密にはおよそ両曲面の曲率が異なることが避け
られない以上,これを断面で見れば面ではなく点で接することになり,これ
を連続して見れば線状に接することになるのであるから,甲13開示発明と
本件発明1の技術内容が異なるということはできない。したがって,原告の
上記主張は採用することができない。
また原告は,甲13の画面20からは,側溝蓋の接面部が半径5.5セン
チの円弧状に形成されていることが読みとれるものの,側溝の受け部の曲面
はこの半径5.5センチよりは明らかに大きな円弧状であるから,甲13開
示発明と本件発明1は異なると主張するが,同画面20は甲13開示発明の
技術的意義を説明するための模式図であることは明らかであるから,同画面
から直ちに甲13開示発明における側溝受け部と側溝蓋接面部における各曲
面の曲率が同画面20程度の曲率である場合に限定されると解することは相
当ではない。そして,上記(3)のとおり,甲13番組全体を総合すれば,甲
13開示発明における両曲面の関係は,側溝蓋がずれずに安定する程度に相
似の関係を意味するものと解すべきであるから,原告の上記主張は採用する
ことができない。
4取消事由2(相違点認定の誤り)について
原告は,本件発明1における「対応した」との文言を「接面部が受け部に,
互いに向き合って面接触する関係で,双方の曲面が相似ではなく,ほぼ合同で
ある関係」にあることを意味するものと解することを前提に,審決の相違点に
係る認定は誤りであると主張するが,本件発明1における「対応した」との文
言を原告主張のように解することができないことは,前記3のとおりである。
そして,前記3に認定した甲13開示発明の内容に照らせば,審決のなした
本件発明1と甲13開示発明の一致点及び相違点に係る認定に誤りがあるとい
うことはできない。
したがって,原告の取消事由2に係る主張は採用することができない。
5取消事由3(周知性の認定の誤り)について
(1)原告は,甲35公報及び甲36公報に係る審決の周知性認定に誤りがあ
ると主張するが,審決は「…グレーチングにおいて,格子状部材の下部に,
パイプ材からなる嵩上げ用脚部を設けること…(17頁12行∼13行)」
が甲35公報,甲36公報等から周知であるとしたものであり,かかる認定
自体,原告も争わないところであるから,この点の審決の認定に誤りがある
ということはできない。
なお原告の主張は,甲35公報及び甲36公報からは嵩上げのために角パ
イプを本体の下方に固着することが示唆・教示されているだけであり,接面
部が側溝等の受け部に対応した曲面をなすグレーチングにおいて,前記接面
部は断面が前記受け部に対応した外形形状を有するパイプ材を固着すること
は示唆も教示もされていないというものであるが,審決は甲35公報等に,
接面部が側溝等の受け部に対応した曲面をなすグレーチングにおいて,前記
接面部は断面が前記受け部に対応した外形形状を有するパイプ材を固着する
ことが示唆・教示されていると認定したものではない。したがって,原告の
上記主張は採用することができない。
(2)原告は,嵩上げ用脚部のパイプ材に関し,審決が「…パイプ材は押出成
形の際の型枠の形状により任意の断面形状とすることができるものであっ
て,容易に任意の曲面を形成することができることも周知である(17頁。」
16行∼18行)と認定したことが誤りであると主張する。
この点,押出成形技術とは「…素材をコンテナ内に入れ周囲から圧縮力,
を作用させて所望形状のダイス孔を通して棒,線,管状の製品へ加工する技
術…」であり「押出成型方法自体が非常に単純であるため,その歴史は古,
。,,,い1797年にイギリスのBramahに対して特許権が与えられその後
1867年にフランスのHamontより実用化された」技術である(特許庁ホ
ームページ「引抜・押出による金属成形,乙4。」)
このように,押出成形技術とは素材を型枠(ダイス孔)を通すことで型枠
(ダイス孔)の形状に変形させる技術であるから,型枠の形状により任意の
断面形状とすることができることは明らかであり,このことは本件特許の出
願当時(平成8年5月9日当時,パイプ材の押出成形を専門とする業者に)
限らず,パイプ材を扱うグレーチングの当業者(その発明の属する技術の分
野における通常の知識を有する者)にとっても周知であったということがで
きる。したがって,これと同旨の審決の認定に誤りはない。
これに対し原告は,審決が上記認定の際に証拠を引用しなかったことをも
って,周知技術の認定が証拠に基づかないものであるとも主張するが,上記
周知技術は証拠を引用するまでもなく当業者において容易に理解し得る程度
に自明の技術常識に属する事項であるから,そのような事項について証拠を
引用しなかったとしても審決が違法となるものではない。したがって,原告
の上記主張は採用することができない。
また原告は,本件発明1に使用されるパイプ材は略扇形状の断面であり,
このようなパイプ材を使用することが周知であったとはいえないとか,溶接
されるパイプ材の形状や強度が阻害事由となるから,本件発明1は容易想到
ではない旨主張する。しかし,本件発明1において使用されるパイプ材の断
面形状は,接面部が側溝等の受け部に対応した外形形状(曲面)をなすとさ
れているのみであって,略扇形状の断面として特定されているものではない
から,原告の上記主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものである。し
かも,審決は略扇形状の断面のパイプ材を使用することが周知であると認定
,。したものではないからその意味においても原告の主張は前提に誤りがある
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
6取消事由4(進歩性判断の誤り)について
(1)前記5のとおり,グレーチングにおいて,格子状部材の下部にパイプ材
からなる嵩上げ用脚部を設けることは,本件特許出願前に周知であるし,パ
イプ材は押出成形の際の型枠の形状により任意の断面形状とすることがで
き,容易に任意の曲面を形成することができることも周知である。
そして,前記3のとおり,甲13開示発明には,湾曲した板状脚部が,そ
の接面部において,曲面をなす側溝の受け部に「対応」した形状に形成され
ていれば,騒音を防止するという作用効果が得られることが示されている。
そうすると,甲13開示発明において,鋳鉄蓋に代えてパイプ材からなる
嵩上げ用脚部を設けた周知のグレーチングを採用し,このパイプ材からなる
脚部の一部を,側溝の受け部の曲面に対応した曲面に形成して接面部としよ
うとすることは,当業者が容易に想到し得るものというべきである。
(2)これに対し原告は,断面略扇形状のパイプ材については阻害要因がある
と主張するが,これを採用することができないことは,前記5のとおりであ
る。
また原告は,甲13開示発明には,グレーチングの脚部において側溝の受
け部の曲面に「対応」した円弧面に形成して接面部としようとすることは示
唆も教示もされていないと主張するが,上記主張が前提とする「対応」の意
義自体を採用することができないことは前記3において説示したとおりであ
るから,原告の上記主張は採用することができない。
また原告は,甲13開示発明は透水性蓋と脚部とが一つの型枠で同時一体
鋳造されるものであり,パイプ材とグレーチングの下面との接合や,受け部
に対応した接面部の調節については示唆となるものがないと主張するが,そ
うであるからといって,一体鋳造される鋳鉄蓋とパイプ材からなる嵩上げ用
脚部を設けたグレーチングとの置換が困難となるものでないことは前記(1)
に説示したところから明らかであるから,かかる事情は前記(1)に説示した
容易想到性の判断を左右するものではない。
また原告は,甲35公報,甲36公報はいずれも嵩上げのための角パイプ
をグレーチング本体に固着することを示すのみで,本件発明1のように左右
一対の受け部に対応した接面部を可能とすることを示唆・教示するものでは
ないと主張するが,前記(1)に説示したところに照らせば,甲35公報及び
甲36公報にそのような示唆・教示のないことが前記容易想到性の判断を左
右するものではないから,原告の主張は採用することができない。なお,審
決が甲35公報及び甲36公報を原告の上記主張の趣旨に基づき容易想到性
判断に用いたものでないことは,前記5(1)に説示したとおりである。
さらに原告は,取消事由3において,本件発明1に使用されるパイプ材は
略扇形状の断面であり,このようなパイプ材を使用することは周知でないと
主張するところ,同主張は略扇形状の断面のパイプ材を使用することが容易
想到でないとの趣旨を含むものと理解することができる。しかし,前記5の
とおり,本件発明1はパイプ材の断面が略扇形状であると特定するものでは
ない。そして,請求項で特定された側溝受け部と側溝蓋接面部における両曲
面の対応関係以外のパイプの形状については,使用されるグレーチングに要
求される強度等に照らして当業者が適宜設計すべき事項であるから,略扇形
状の断面のパイプ材を使用することを示唆する文献等がなかったとしても,
本件発明1が容易想到でないということはできない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
その他原告は,面接触の構成や作用効果は甲13開示発明等に示唆・教示
がなく,これが周知であることの立証もされていないと主張するが,上記に
照らして採用することができない。
7結論
以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官森義之
裁判官澁谷勝海

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