弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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              主     文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は両事件とも原告らの負担とする。
              事実及び理由
第1 法令等の略称について
   本判決では,以下のとおり,各法令等について,略称を用いる。
 1 「憲法」 日本国憲法
 2 「日米安保条約」 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約
 3 「日米地位協定」 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並
びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定
 4 「沖縄返還協定」 琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定
 5 「特措法」 日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日
本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法
 6 「位置境界明確化法」 沖縄県の区域内における位置境界不明地域内の各筆の土地の位置境界の明確化等に関す
る特別措置法
 7 「暫定使用法」 沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律
第2 請求
 1 平成12年(行ウ)第5号事件
 被告内閣総理大臣が,平成12年6月27日,別紙物件目録記載の各土地についてなした使用認定は,これを取
り消す。
2 平成13年(行ウ)第6号事件
 被告沖縄県収用委員会が,平成13年6月28日,別紙物件目録記載の各土地についてなした使用裁決は,これ
を取り消す。
第3 争いのない事実等
1 各被告による処分
 (1) 原告P1は,別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地1」という。)を,平成6年6月1日贈与により取
得し,以後所有している。
  原告P2は,同目録記載2の土地(以下「本件土地2」という。また,本件土地1と同2を併せて「本件各土
地」という。)を,昭和63年2月8日,売買により取得し,以後所有している。
 (2) 被告内閣総理大臣は,起業者である那覇防衛施設局長からの申請に基づき,平成12年6月27日,特措法5
条の規定によるものとして,本件各土地について,それぞれ使用の認定をし(以下「本件各使用認定」という。),本
件土地1につき総理府告示第35号,本件土地2につき総理府告示第36号をもって,それぞれ告示した。
 (3) 被告沖縄県収用委員会は,起業者である那覇防衛施設局長からの申請に基づき,平成13年6月28日,本件
各土地につき,それぞれ,権利取得及び明渡しの時期を平成13年8月13日とし,使用の期間を本件土地1について
は権利を取得する時期から平成17年5月31日まで,本件土地2については権利を取得する時期から5年間とする権
利取得裁決及び明渡裁決(以下「使用裁決」という。)をした(以下,本件各土地についての各使用裁決を併せて「本
件各使用裁決」という。)。
2 α1通信所の概要
 (1) 本件土地1を含む中頭郡α2(α3,α4,α5,α6,α7,α8,α9,α10及びα11),α12(
α13,α14,α15,α16,α11及びα17)及びα18(α19)の約53万5000平方メートルの区域
(昭和47年4月27日付け官報に掲載された防衛施設庁告示第7号の別図で示された区域。以下「本件第1区域」と
いう。)は,日米安保条約6条及び日米地位協定2条1項に基づき,昭和47年5月13日閣議決定(乙11),同月
15日日米地位協定第2条に基づく施設及び区域の提供等に関する協定(乙10),同年6月15日防衛施設庁告示第
12号(乙12)によりα1通信所施設の用地として駐留軍に提供され,以来現在に至っている。
   なお,本件第1区域の面積は,日米地位協定等に基づいて駐留軍に使用を許した当時は,約51万4000平
方メートルとされていたところ,位置境界明確化法に基づく地籍調査の結果により,前記のように面積が変更された
が,当初から境界そのものに変更はない。
 (2) α1通信所の主たる任務は,無線の迅速な中継並びにアメリカ合衆国及び同盟国の防衛のための通信の確保で
あり,付加的任務は,送信の保全,電磁波現象の研究並びに航行及び空対海救難任務支援のための方向探索の支援であ
る。そのため,α1通信所には,360度の全方位からの微弱な電波をも受信できるように,受信能力を上げる装置が
設けられている。すなわち,α1通信所の施設の中央部に,アンテナ,中継所,支援施設,倉庫,警衛所,補給事務所
等が設けられ,その外側をいずれも円形に取り囲むように,「象のオリ」と通称されるゲージ状のリフレクタースクリ
ーン(電波を反射させたり透過させたりする機能を有するもの),低周波用アンテナ,外側のリフレクタースクリー
ン,高周波用アンテナが順次設置され,さらに,その外側を円形に取り囲むように,電磁障害除去地と通称される区域
が設けられていて,「象のオリ」から電磁障害除去地までの地下約6インチないし12インチには,通路部分を除く全
面に,メッシュ状の金属線が敷き詰められている。
 (3) 本件土地1は,この電磁障害除去地と「象のオリ」の間に位置し,その上には,低周波用アンテナの支線の基
礎及び外側のリフレクタースクリーンの一部が設けられ,地下には,メッシュ状の金属線が敷き詰められている。
3 α20補給地区の概要
 (1) 本件土地2を含む沖縄県浦添市の約275万平方メートルの区域(昭和47年4月27日付け官報に掲載され
た防衛施設庁告示第7号の別図で示された区域。以下「本件第2区域」という。)は,同市の西部に所在し,国道58
号の西側に沿って,東西約1キロメートル,南北約3キロメートルのやや細長いほぼ楕円形の形状をした平たんな地域
であり,日米安保条約6条及び日米地位協定2条1項に基づき,昭和47年5月13日閣議決定(乙11),同月15
日日米地位協定第2条に基づく施設及び区域の提供等に関する協定(乙10),同年6月15日防衛施設庁告示第12
号(乙12)により,α20補給地区の用地として駐留軍に提供され,以来現在に至っている。
   なお,本件第2区域の面積は,日米地位協定等に基づいて駐留軍に使用を許した当時は,約314万5000
平方メートルとされていたところ,その後,数次にわたる一部返還を経て,現在の面積は約275万平方メートルとな
っている。
 (2) α20補給地区は,昭和20年に米軍が使用を開始し,以来沖縄における補給基地として使用されてきたが,
沖縄復帰に当たり,日米地位協定2条1項に基づく施設及び区域として,宿舎,事務所及び後方支援施設に使用する目
的で駐留軍の用に供されたものである(ただし,同地区は次のとおり海兵隊により使用されているところ,海兵隊が「
駐留軍」に含まれるかについては,原告らはこれを否定しており,争いがある。)。
   α20補給地区は,現在,海兵隊α21基地司令部管理の下,第3海兵役務支援軍,第3海兵営繕大隊,第3
補給大隊等が使用し,倉庫,機械修理工場,洗濯場,宿舎,事務所等が設置されている。
   α20補給地区のうち,国道58号沿いは事務所・倉庫・工場地区として,その余の部分は住宅・隊舎及び資
材置場地区として使用されている。本件土地2は,駐留軍が使用しているα20補給地区の用地の一部であり,道路敷
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及び倉庫用地として使用されている。
 4 本件土地1の使用認定,同裁決の経緯
  (1) 那覇防衛施設局長は,平成8年3月29日,被告沖縄県収用委員会に対し,特措法14条の規定により適用さ
れる土地収用法39条1項の規定に基づき,本件土地1について使用裁決の申請をした。
    これに対し,被告沖縄県収用委員会は,平成10年5月19日,本件土地1について,権利取得の時期を平成
10年9月3日,使用期間を同日から平成13年3月31日までとする等の内容の使用裁決をした。これにより,被告
内閣総理大臣は,使用裁決に定められた同日までの本件土地1の使用権原を取得した。
    平成8年12月2日に取りまとめられた沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告において,α1通
信所については,「アンテナ施設及び関連支援施設がα22に移設された後に,平成12年度末までを目途に,α1通
信所(約53ヘクタール)を返還する。」とされた。
    しかし,結果的に,α1通信所について,平成12年度末である平成13年3月31日までの返還の実現が困
難となった。
    国は,平成13年4月1日以降の使用についての賃貸借契約の締結について依頼したが,原告P1はこれを拒
否し,合意の得られる見込みがない状況となった。
  (2) そこで,本件土地1について,引き続き駐留軍の用に供する必要があるとして,那覇防衛施設局長は,平成1
2年4月14日,土地所有者である原告P1及び関係人に対し,その提出期限を同年5月8日とする特措法4条に規定
する意見書の提出を依頼した。同月19日,那覇防衛施設局長は,同条に基づき,土地所有者である原告P1及び関係
人から提出された意見書を添付し,本件土地1の使用認定申請書を被告内閣総理大臣に提出した(乙1)。
  (3) 平成12年6月27日,被告内閣総理大臣は,上記申請に係る本件土地1の使用が特措法3条の要件に該当す
ると認め,同法5条に基づき本件使用認定をし(乙3),同法7条1項に基づき,那覇防衛施設局長にその旨を文書で
通知するとともに,使用する防衛施設局長の名称(那覇防衛施設局長),使用する土地の所在並びに使用する土地の調
書及び図面の縦覧場所を同日付け官報で告示した。
  (4) 平成12年9月6日,那覇防衛施設局長は,特措法14条の規定により適用される土地収用法39条1項及び
47条の2第3項の規定に基づき,被告沖縄県収用委員会に対し,本件土地1について使用裁決の申請等をした(乙
5,14)。
    これに対し,被告沖縄県収用委員会は,平成13年6月28日,本件土地1について,権利取得の時期を同年
8月13日,使用期間を同日から平成17年5月31日までとする等の内容の使用裁決をした。これにより,国は,使
用裁決に定められた同日までの本件土地1の使用権原を取得した(乙7)。
 5 本件土地2の使用認定,同裁決の経緯
  (1) 本件土地2については,昭和63年8月9日,原告P2
との間で賃貸借契約(前所有者P3との賃貸借契約を改定したもの)を締結し,使用してきた。この契約は,昭和56
年4月1日を始期としており,民法604条の規定により契約の始期から20年後にあたる平成13年3月31日をも
ってその期間が満了するものであった。そこで,国は,同日以降の使用について賃貸借契約の締結を依頼したが,原告
P2はこれを拒否し,合意が得られる見込みがない状況となった。
(2) そこで,本件土地2について,引き続き駐留軍の用に供する必要があるとして,那覇防衛施設局長は,平成1
2年4月14日,土地所有者である原告P2に対し,その提出期限を同年5月8日とする特措法4条に規定する意見書
の提出を依頼した。同月19日,那覇防衛施設局長は,同条に基づき,土地所有者である原告P2から提出された意見
書を添付し,本件土地2の使用認定申請書を被告内閣総理大臣に提出した(乙2)。
(3) 平成12年6月27日,被告内閣総理大臣は,上記申請に係る本件土地2の使用が特措法3条の要件に該当す
ると認め,同法5条に基づき本件使用認定をし(乙4),同法7条1項に基づき,那覇防衛施設局長にその旨を文書で
通知するとともに,使用する防衛施設局長の名称(那覇防衛施設局長),使用する土地の所在並びに使用する土地の調
書及び図面の縦覧場所を同日付け官報で告示した。
(4) 平成12年9月6日,那覇防衛施設局長は,特措法14条の規定により適用される土地収用法39条1項及び
47条の2第3項の規定に基づき,被告沖縄県収用委員会に対し,本件土地2について使用裁決の申請等をした(乙
6,15)。
  これに対し,被告沖縄県収用委員会は,平成13年6月28日,本件土地2について,権利取得の時期を同年
8月13日,使用期間を同日から平成18年8月12日までとする等の内容の使用裁決をした。これにより,国は,使
用裁決に定められた同日までの本件土地2の使用権原を取得した。(乙8)
第4 争点
   本件の主たる争点は,①本件各使用認定が特措法3条の要件を満たしているか,②本件各使用裁決について,土
地所有権者の立会いや実測平面図の作成時期に関する手続違反があるか,である。
第5 当事者の主張
 1 原告らの主張
(1) 本件各使用認定は,以下のとおり特措法3条に違反する。
  すなわち,特措法3条は,「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合において,その土地等を駐留軍
の用に供することが,適正且つ合理的であるときは,この法律の定めるところにより,これを使用し,又は収用するこ
とができる」と定めており,同法により使用認定をするためには,「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする」こ
と及び「土地等を駐留軍の用に供することが,適正且つ合理的である」ことの各要件が充足される必要がある。
(2) 「必要性」の要件について
  上記必要性の要件は,以下のとおり厳格に解釈されなければならない。
 ア 特措法に基づく強制使用は,「駐留軍」の用に供する場合でなければならない。
   「駐留軍」とは,同法1条所定の日米安保条約に基づき「日本国に駐留するアメリカ合衆国の軍隊」をい
い,同条約6条所定の「アメリカ合衆国の陸軍,空軍及び海軍」を意味すると解されるから,この3軍に属さない海兵
隊や特殊機関等は,基地内で活動する機関ではあっても,「駐留軍」には該当しないというべきであり,その用に供す
ることは必要性の要件を満たすものではない。
   また,日米地位協定1条では,「合衆国軍隊の構成員」と「軍属」及び「家族」との相違を明記しており,
同協定15条では,日本国が米国に提供した施設及び区域内で,合衆国軍隊だけでなく,歳出外資金によって運営する
諸機関や軍属,家族等様々な種類の活動が行われることが予定され,現実に活動が営まれているが,特措法に基づいて
強制使用をなしうるのは,上記3軍が主体となって直接の使用に供する場合に限られ,これに当たらない「歳出外資金
によって運営する諸機関や軍属,家族等」が使用する場合には,「必要性」の要件を満たさないというべきである。
 イ 駐留軍が提供物件を使用する場合であっても,その使用は「駐留目的」の範囲内に限られる。
   特措法1条,日米地位協定2条及び日米安保条約6条の各規定からすると,駐留目的は,「日本国の安全に
寄与し」,「極東における国際の平和及び安全に寄与する」ことに限定されており,日本国及び極東以外の国際の平和
及び安全に寄与するために使用される施設は,上記駐留目的を逸脱し,その用に供するための強制使用は許されないの
である。
   しかるに,「極東」とは,昭和35年2月26日の政府統一解釈によれば,「極東地域は,・・・大体にお
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いてフィリピン以北並びに日本及びその周辺地域で韓国及び中華民国の支配下にある地域もこれに含まれている」とさ
れるにもかかわらず,駐留軍基地は,上記「極東」の範囲を越え,太平洋,インド洋は無論のこと,中東への戦略拠点
としても使用されるなど,上記駐留目的を超えて使用されており,違法である。
   さらに,安保「再定義」(平成8年4月17日の日米首脳会談における「日米安保条約を基盤とする両国間
の安全保障面の関係が・・・21世紀にむけてアジア太平洋地域において安定的で繁栄した情勢を維持するための基礎
であり続けることを再確認した」,「米国が引続き軍事的プレゼンスを維持することはアジア太平洋地域の平和と安定
の維持のためにも不可欠である」とする日米安保条約の「再定義」)によって,日米安保条約が極東のみならずアジア
太平洋地域に拡大して適用され,駐留目的をさらに逸脱することになった。
 ウ 土地等の使用目的が駐留目的の範囲内にあると認められる場合であっても,土地等の使用に日米安保条約6
条に掲げる「目的」を遂行するための「手段」として土地等を提供する客観的必要性があること,すなわち,「目的」
と「手段」との関連性が直接的に認められなければならない。
   特措法の立法目的は,日米安保条約6条に基づく施設提供の義務を履行することにあり,土地等の強制使用
が認められることの裏返しとして個人の財産権を侵害することになるから,財産権の保障との権衡上,目的を遂行する
ための手段として,土地等を使用することに目的との直接的な関連性がなければならないというべきであり,例えば,
ゴルフ場や教会などの設置を目的とする土地等の使用は,駐留目的との直接的な関連性がなく,「必要性」の要件を満
たさないのである。
(3) 「適正且つ合理的」の要件について 
  上記適正且つ合理的の要件は,憲法上の財産権の侵害との権衡上,以下のとおり厳格に解されねばならない。
 ア 当該基地・施設のために一定の土地を米軍に提供する必要性が一般的に認められるとしても,当該土地を強
制使用してまで提供しなければならない程度の客観的必要性が高いことが必要である。
  (ア) 客観的必要性は,個別の土地毎に具体的に検討されなければならない。必要性の要件が満たされても,
日本の中で米軍基地提供の必要性があるかにとどまらず,更に当該土地を提供することが適正かつ合理的かが検討され
ねばならない。単に基地施設の客観的必要性があるだけでなく,当該土地の具体的用途との関係で,個別の必要性があ
ることについて説明が尽くされていなければならない。
  (イ) 客観的必要性があるだけでなく,その程度が高いことが要求される。憲法の認める財産権の不可侵性と
の関係で,公共の利益を理由に制限するとしても,必要且つ最小限の原則から導かれる。
  (ウ) そして,客観的必要性が高いことの基準としては,提供方法の非代替性(任意契約により提供可能か,
そのような努力をしたか),提供土地の非代替性(他に提供する土地が存在しない)及び必要最小限性(強制使用する
範囲は必要最小限でなければならない)などがある。
 イ 提供により得られる公共の利益がこれにより失われる利益に優っている必要がある。
    まず,前述した「駐留軍」の使用であること,駐留目的の範囲内であること及び駐留目的と手段との関連性
について,その存否だけでなく,それがいかなる程度の公共の利益であるかが検討されなければならず,土地等を強制
使用することによって得られる利益の程度が低いときは,失われる利益との関係で,適正且つ合理的の要件を欠く。
    他方,失われる利益としては,財産権のみならず,以下の利益が失われるかが検討されねばならない。①思
想・良心・信条の自由の侵害(太平洋戦争,沖縄戦などの悲惨な体験にかんがみ,自らの土地を決して戦争のために使
わせたくないという土地所有者の思想,信条の侵害は,失われる利益の重要なものである。),②街作り,都市計画上
の被害(失われる利益には公共的利益も含まれるが,本件各土地の強制使用により,狭い沖縄の地に広大な米軍基地が
存続し,沖縄の各自治体の街作りや都市計画上,多大な支障が生じており,公共の利益を欠いている。),③騒音,軍
事基地がある故の基地被害(騒音,事故の危険性,米軍兵による犯罪も考慮すべきである。),④土地所有権への侵害
の程度(米軍基地のための強制使用は,使用期間中の土地所有者の使用を排除するにとどまらず,基地環境汚染や原状
回復の担保のないことなどにより,侵害の程度が著しく,強制使用の要件を欠く。),⑤本件強制使用以前の違法状態
 ウ クリーンハンドの原則
   「適正」の中には「正義」の観念が含まれる。違法な土地占有をしたものが,その回復をしないまま,法に
基づく権原の取得を求めることは,法の一般的普遍的原理である「クリーンハンドの原則」に反し,適正且つ合理的の
要件を欠く。
(4) 上記のほか,「適正且つ合理的」の要件を充足しているか否かを正確に判断するためには,以下のような歴史
的経過やその他の諸事情を踏まえる必要がある。
 ア 米軍による土地の長期使用の歴史的経過
   米軍は,沖縄占領と同時に,沖縄本島在住の住民を島内十数か所の捕虜収容所に抑留し,その間,土地
所有権等権利の行使を停止し,軍事上必要とされる地域を土地所有者の意思と無関係に囲い込んで軍用地とした。本件
各土地もこのようにして米軍基地とされたものである。
   米軍の土地強制使用は,「陸戦ノ法規慣例ニ関スル規則」(いわゆるヘーグ陸戦法規)の定める「私有財産
尊重」,「没収,掠奪の禁止」の原則に違反するのみならず,それによる基地の形成は,日本の民主化と平和の確立と
いう駐留目的を定めたポツダム宣言に明白に違反していた。
   日本政府は,沖縄の復帰に当たって,暫定使用法を制定し,米軍の不法不当な土地取上げを追認し,本件各
土地を含む県民の広大な土地を強制使用し,米軍及び自衛隊に使用を許した。
   しかし,復帰前の米軍による土地接収・使用は,全く権原を欠く違法なものであり,暫定使用法の制定によ
ってこの違法状態は何ら治癒されていない。しかも,暫定使用法自体が合理的な理由なく沖縄県民を不当に差別し財産
権を侵害するものであり,財産権の尊重を掲げる憲法29条,法の下の平等を定める14条,適正手続を定める31条
に違反し,また憲法前文及び9条の恒久平和主義にも違反する無効なものである。さらに,暫定使用法による土地強制
使用権は,昭和52年5月15日に消滅し,同法の延長法(位置境界明確化法)が成立発効した同月18日までの4日
間は,政府による土地の使用は,何ら権原に基づかない不法使用であった。原告ら土地所有者の意思を無視して取り上
げた本件各土地が,米軍により,あるいは政府の手により,今日まで53年という長期にわたって強制使用されている
事実からすれば,もはや本件各土地は原告らに返還されるべきものであり,使用認定の「適正且つ合理的」の要件は全
く存在しない。
   イ 米軍基地の果たした役割
   昭和24年の中国革命政権樹立,それに続く朝鮮戦争勃発という極東情勢の変化の中で,沖縄の米軍基
地は一層拡大強化され,対共産圏封じ込め戦略の拠点とされ利用された。朝鮮戦争の際には,沖縄の米軍基地を足場に
して無数の朝鮮人民が殺戮され,ベトナム戦争では,沖縄の米軍基地が最大の戦略拠点として利用され,多くのベトナ
ム人民が殺戮された。
   今なお,沖縄の米軍基地は,安保条約にいう「極東」の範囲を越えて,米軍の中東,世界戦略の拠点として
ますますその機能強化が図られており,核兵器や化学兵器の存在も疑念がもたれている。
 ウ 県土利用の障害たる米軍基地
   沖縄は,全国との比較で,人口1パーセント弱,面積0.6パーセント弱であるが,全国の約23.5パー
セントの米軍基地が置かれており,専用施設でいえば,約74.8パーセントの基地が沖縄にある。米軍基地は,沖縄
県の10.5パーセントを占め,沖縄本島での比率は18.9パーセントである。
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   基地は,県民全体の福祉増進につながる健全な地域開発と産業の発展を大きく阻害している。せめて基地の
提供に反対している原告らの本件各土地だけでも返還し,その健全な利用に委ねることが,土地利用上適正且つ合理的
というべきである。
 エ 県民の生活と人権を破壊する米軍基地
   沖縄県民は,広大な米軍基地がある故に,日常生活の上で,言いしれぬ多大の損害を被っている。α23飛
行場,α24飛行場,α25射爆場は住宅地域や教育施設に接近しており,地域住民や児童・生徒は騒音に悩まされ,
その健康や発育・向上が著しく阻害されている。演習による被害も枚挙にいとまがなく,事故等による住民の不安も度
し難い状況にあり,米軍人・軍属による県民への犯罪の多発等は,県民の生命,健康に対する直接的な脅威となってい
る。土地を強制使用し,基地を保持し続けることは,憲法の理念に反する。
   オ 使用認定は,その性質上,裁量の余地を含んでいるものではあるが,一旦使用認定がされると,土地所有者
は,事実上,当該土地を処分したり使用することができなくなり,その財産権を剥奪するに至る「根幹的処分」の性質
を有しているのであり,使用認定処分の要件を積極的に肯定するには相当の合理的根拠に基づくことを要し,その意味
で,同要件に該当するか否かの判断は,羈束された判断というべきである。これに対し,政策ないし専門技術性を根拠
に一般の裁量処分と同列に捉えることは,行政処分による人権侵害が頻発する現代において,根拠を欠き採用すること
ができない。
  (5) 本件土地1についてなされた使用認定は,以下のとおり,使用認定の要件を欠いてなされたものである。
   ア 「必要性」要件の欠如
   本件土地1は,米海軍安全保障グループの管理するα1通信所の施設用地の一部として,航空機,船舶及び
その他の軍事通信の傍受施設として使用され,通信の傍受,コンピューター分析を任務としていたが,沖縄に関する特
別行動委員会(SACO)で,平成12年を目処に返還する合意がなされた。これに伴い,平成9年4月23日付け,
米国海軍省,海軍作戦本部長名で,α1通信所における通信保全郡活動を廃止する旨の決定がなされ,同年9月10
日,同通信所において米海軍安全保障グループの解任式が行われた。平成10年6月1日以降,活動が廃止され,現
在,同通信所は米民間会社に運営が委託されており,施設本来の任務はほとんど果たしていないのである。
   また,仮に,同通信所の活動を再開する必要が生じたとしても,本件土地1を使用する必要性はない。本件
土地1は,53万5000平方メートルの敷地を有するα1通信所の東側に所在し,面積は236平方メートルで,全
体の0.04パーセントとごく一部である。本件土地1は,一番外側の棒状アンテナ鉄塔の一部の敷地となっており,
これが撤去されても,同通信所の電子工学的機能に支障を生じない。平成3年のソ連邦解体以後,α1通信所の対象地
域は,朝鮮半島,台湾海峡,南沙諸島の方向など沖縄の南側,北東側,南西側になったと考えられることにかんがみれ
ば,東側に存する本件土地1上のアンテナ鉄塔を撤去しても,軍事作戦上の運用に支障は生じない。また,α1通信所
については全部返還が合意されており,本件使用認定処分以前に軍事的役割を終えており,本件土地1を返還しても,
駐留軍の軍事的作戦的機能に基本的支障を生起せず,強制使用の客観的必要性はない。
 イ 「適正且つ合理的」要件の欠如
   本件土地1を含むα1通信所は,平穏な大地上にあり,周辺一帯は主に農業用地として使用され,施設の区
域の大半が実際には黙認耕作地として農業利用されている。こうした同通信所の存在は,α26の農業を中心とした産
業振興に多大な障害となっている。施設の区域のうち実際に利用されている部分はごく一部であり,本件土地1上のア
ンテナ鉄塔を他に移設することも可能であり,移設により本件土地1を農業に利用することを意図している原告P1の
利益との調整が図られる。本件土地1について,提供土地の非代替性がなく,適正且つ合理的の要件を欠く。
 ウ 本件土地1については,平成8年3月29日付けで那覇防衛施設局長から使用裁決の申立てがなされ,平成
10年5月19日,被告沖縄県収用委員会はこれを認める裁決をしているが,同裁決では,権利取得の時期は同年9月
3日,土地の使用期間は平成13年3月31日までとされている。同裁決の申請では,使用の期間を権利取得の日から
10年間としていたのに,沖縄に関する特別行動委員会(SACO)の平成12年返還の合意を受けて,申請の内容を
わざわざ変更したものであり,このような経緯も考慮すべきである。
 エ 以上より,本件土地1に対する本件使用認定は,米軍基地として使用する必要性も,適正且つ合理性もな
く,特措法3条の要件を欠く違法な処分である。
  (6) 本件土地2についてなされた使用認定は,以下のとおり,使用認定の要件を欠いてなされたものである。
 ア 本件土地2の存するα20補給地区は,α27とも呼ばれ,浦添市の西部,国道58号と東シナ海に挟まれ
た細長い平地で,施設の面積は約275万平方メートルといわれている。同地区には,第3海兵遠征軍の3本柱のひと
つで第3軍役務支援軍のほとんどの部隊である約2000人が駐留し,海兵隊の補給整備,医療などの任務を果たして
いる。
   第3軍役務支援軍は,海兵隊の戦闘員に分類されており,前線における戦闘支援を本来の任務としている。
前記のとおり,海兵隊は,日米安保条約6条に挙げられている3軍に該当せず,その海兵隊の使用のための強制使用
は,特措法3条の「必要性」の要件を充足しない。
 イ α20補給地区の施設区域を含め,在沖縄米軍基地は,太平洋,インド洋のほか,中東に関する戦時の拠点
ともなっており,日米安保条約6条の極東条項を越えて使用されていることは明らかであるから,本件土地2について
の本件使用認定は,「必要性」の要件を欠くものである。
 ウ α20補給地区はその所在する浦添市の面積の14.4パーセントを占め,地域の産業発展の障害となって
おり,国道58号の慢性的な交通渋滞の原因ともなっている。浦添市は,同地区の返還を強く求めており,跡地利用計
画も定めている。α20補給地区は,都市の健全な発展,産業振興の重大な阻害要因となっており,同地区の用地に供
するために本件土地2を強制使用することは,適正且つ合理的の要件を欠く。
 エ α20補給地区では,基地内から廃油等有毒物質が海に排出され,また施設内に危険物質があり,住民の健
康被害,環境悪化の原因となっているばかりか,現実に同地区内で化学物質が燃える火災事故等が発生しており,常に
事故等の危険にさらされていて,周辺住民の精神的不安は計り知れず,このような施設のための強制使用は,適正且つ
合理的の要件を欠く。
 オ 本件土地2は,α20補給地区内の道路敷に使用されており,同土地上に建物及び工作物はない。本件土地
2を返還しても,道路位置を少しずらせばよく,施設全体の機能に何ら支障はない。同地区内の倉庫及び工場はほとん
ど遊休化した状態である。かかる同地区の使用のため道路敷として本件土地2を使用する具体的必要性,適正且つ合理
性の要件を欠く。被告ら主張の有機的一体性もない。
 カ 原告P2は,戦争につながる一切のものを固く拒否することを思想・信条としている。本件土地2について
の使用認定は,同原告の思想・信条を著しく侵害し,適正且つ合理的の要件を欠く。
  (7) 本件各使用裁決の違法性
 ア 収用委員会は,使用裁決手続において,そのもととなる使用認定にこれを無効とすべき重大な瑕疵が存する
場合又は使用認定が違法であると判断される場合には,使用裁決をすることができず,裁決申請を却下せねばならな
い。前記のとおり,本件各使用認定は特措法3条の要件を欠くもので違法であり,先行する行政処分の違法性の承継の
法理から,それにもかかわらずなされた本件各使用裁決は違法である。
 イ 土地調書及び物件調書は,裁決申請書に添付すべき不可欠な書類であり(土地収用法40条1項3号,
47条の3第1項2号),土地調書及び物件調書の作成手続に違法があれば,起業者の申請は,土地収用法47条によ
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り却下されなければならない。
   本件各使用認定については,①使用認定後に作成することが義務付けられている土地調書の実測平面図が,
使用認定の前に作成されていること,②土地調書,物件調書が,原告ら地権者の立会いのないまま作成されていること
の各違法がある。
 ウ 被告沖縄県収用委員会は,その裁決書において,本件各土地にかかる実測平面図が平成7年5月9日の使用
認定の告示前である平成6年7月から9月にかけて作成されているが,実測平面図が使用認定の告示前に用意されてい
ても,起業者の署名押印及び土地所有者の署名押印が使用認定の告示後であれば,調書の作成は有効であるとしてい
る。しかし,実測平面図の作成時期について直接の規定はないものの,土地収用法36条1項が「事業認定の告示があ
った後」の土地調書の作成を起業者に義務付け,同法37条がその土地調書に実測平面図の添付を義務付け,同法が実
測平面図の添付を要求しているのは,使用又は収用裁決申請対象土地を特定し,土地所有者に異議を述べる機会(同法
38条)を与えると共に,収用委員会の審理充実を図るためであることからすれば,同平面図は,土地所有者が異議を
述べる機会にできるだけ近い時期に作成されるべきであり,上記裁決書の説示には理由がない。
 エ 土地収用法36条2項は,「前項の規定により土地調書及び物件調書を作成する場合において,起業者は,
・・・・土地所有者及び関係人・・・・を立会わせた上,土地調書及び物件調書に署名押印させなければならない。」
と規定しているところ,この「立会わせ」の解釈として,土地所有者の現場での立会権を保障していると解するのが相
当である。なぜなら,土地調書,物件調書の作成目的は,対象土地を限定し,事前に争点を整理することにあると考え
られるからである。これは,同法38条で,適法に作成された調書に真実に合致していることの推定力が与えられてい
ることからも明らかである。
   本件各土地の土地調書,物件調書の作成に先立って,原告らは,起業者に対し,現地立入調査のための措置
をとるよう申し出たが,起業者は,現地での立会いを拒否したまま土地調書,物件調書を作成した。地権者らの立会い
を拒否して作成した土地調書,物件調書は違法であり,かかる違法な調書をもってなされた本件の各使用裁決の申請は
却下を免れないものである。
 2 被告らの主張
(1) 本件各使用認定の適法性
  ア 特措法3条の要件の解釈
  (ア) 同法5条による土地等の使用又は収用の認定は,①対象土地等を駐留軍の用に供する必要がある場合
で,かつ,②対象土地等を駐留軍の用に供することによって得られる公共の利益と駐留軍の用に供することによって失
われる利益とを比較衡量し,前者が後者に優っているときにされるものと解される。
    この要件の認定は,我が国の安全と極東における国際の平和と安全の維持にかかわる国際情勢,駐留軍に
よる当該土地等の必要性の有無,程度,当該土地等を駐留軍の用に供することによってその所有者や周辺地域の住民な
どにもたらされる負担や被害の程度,代替すべき土地等の提供の可能性等諸般の事情を総合考慮してされるべきもので
あり,政治的,外交的判断を要するだけでなく,駐留軍基地にかかわる専門技術的な判断を要することも明らかであ
る。そして,このような事柄の性質上,使用認定に関する内閣総理大臣の裁量は極めて広範なものであるから,その判
断は,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した場合に限って違法となる。従って,被告内閣総理大臣のした本件各
使用認定の判断に裁量権の逸脱,濫用があることを原告らにおいて具体的事実に基づき主張・立証すべきである。
  (イ) 特措法は,日米地位協定を実施するため駐留軍の用に供する土地等の使用又は収用に関し規定するもの
である(1条)から,同法3条にいう「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合」とは,使用又は収用しよう
とする土地等が日米安保条約6条,日米地位協定2条に基づき合意された施設及び区域に含まれていることを意味し,
かつ,それで足りるとの趣旨に理解されるべきである。
  (ウ) 沖縄県における駐留軍基地は,日米安保条約6条,日米地位協定2条による国際的合意に基づくもので
あり,我が国は合意された施設及び区域を米国に提供する義務を負っている。そして,これらの各施設及び区域の用地
の大部分は,国が,国有地以外の土地については土地所有者との間に賃貸借契約を締結して使用権原を得て,これに国
有地部分を併せて駐留軍用地として提供している。
    本件各使用認定の対象となった本件各土地は,各施設及び区域のうち土地所有者との間に使用権原の合意
の得られない土地であり,ごく一部分を占めるにすぎない。これら施設及び区域は,いずれも本件各使用認定の対象土
地とそれ以外の土地(契約に基づき提供された土地,国有地)とから成り,当該施設及び区域全体が一体となって駐留
軍施設及び区域として有機的に機能している。
    したがって,このような使用認定における「適正且つ合理的」の要件充足性の判断に当たっては,使用認
定の対象土地のみを単独で切り離してその公益性を判断することはできず,同土地を含む当該施設及び区域が一体とし
て有機的に機能しているという実態に着目して検討することが必要となる。
 イ 本件各土地の共通事情
    (ア) 本件各土地の使用認定に至る経緯
  本件各土地は,沖縄復帰時において,沖縄返還協定3条1項の規定に関し両国政府間で行われた協議の結果
を示すものとして昭和46年6月17日に交わされた了解覚書(乙9)により,駐留軍が使用する施設及び区域として
日米合同委員会において合意する用意のある施設及び用地に区分された土地の範囲の中にある。
   沖縄返還協定は,昭和47年3月21日に公布され,同年5月15日,日米合同委員会において日米安保
条約6条及び日米地位協定2条に基づき駐留軍が沖縄県内で使用を許される施設及び区域の提供等について合意した(
乙10)。この合意によれば,本件各土地は提供に係る施設及び区域に含まれている。
   沖縄の復帰に際しての日米首脳会談において,佐藤内閣総理大臣は,沖縄の駐留軍施設及び区域が復帰後
できる限り整理縮小されることが必要と考える理由を説明し,ニクソン大統領も,双方が施設及び区域の調整を行うに
当たって,これらの要素は十分に考慮に入れられる旨を答えた。
   その後,我が国は,駐留軍の使用に供された施設及び区域の整理統合縮小のために,日米合同委員会,日
米安全保障協議会等において交渉を重ねてきた。
   昭和54年には,沖縄県,那覇防衛施設局及び在沖米軍の三者連絡協議会が設けられ,基地から派生する
問題の軽減のための対策を協議し,軍用機の夜間飛行の規制,エンジンテストの時間規制等の措置や基地周辺住宅等の
防音対策を講ずるなどしてきた。
   その後,前記争いのない事実等のとおり,本件土地1を含むα1通信所については,沖縄に関する特別行
動委員会(SACO)最終報告で返還することとされた。
(イ) 沖縄における駐留軍用地の状況
  沖縄は,複数の島々から成り,アジア大陸に近く,日本列島の南西端にあるため,「日本国の安全に寄与
し,並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与する」という日米安保条約6条の目的達成のために駐留軍施
設及び区域を設けることにつき,優れた地理的条件を満たしている。沖縄において一定範囲の駐留軍用地を確保するこ
とは,日米両国にとって沖縄復帰の際の基本的政策であり,両国とも,本件各使用認定の時点においても,この政策を
変えることなく維持している。
   沖縄において従前提供されてきた駐留軍用地の大部分(使用権原を必要とする土地の総面積中の約99.
8パーセント)は,国が土地所有者との間の賃貸借契約に基づき使用権原を取得してきたものであり,今後も賃貸借契
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約により使用することができる見込みがあった。したがって,所有者との合意により使用権原を取得できる見込みのな
い土地(使用権原を必要とする土地の総面積中の約0.2パーセント)の所有者に対して特措法が適用されれば,賃貸
借契約を締結する所有者の土地と併せて従前の駐留軍用地をそのまま提供することができる関係にあった。
   従前駐留軍用地として提供されていた土地をそのまま提供することは,新たに同種同規模の土地を確保し
て提供する方法(新しい土地の確保に係る経費,施設及び区域の建設・設置費が別途必要になる。)に比べ,財政的な
負担も少ない。
   以上のように,従前提供されていた駐留軍用地をそのまま提供することは,新たに同種同規模の土地を確
保して提供することに比べ,はるかに実現可能性・容易性があるだけでなく,駐留軍用地提供により失われる利益も小
さい。
   ウ 本件土地1を含むα1通信所固有の事情
    (ア) α1通信所の概要は,争いのない事実等に記載のとおりである。
    (イ)本件土地1の使用認定・使用裁決に至る経緯
      平成8年12月2日に取りまとめられた沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告において,α
1通信所については,「アンテナ施設及び関連支援施設がα22に移設された後に,平成12年度末までを目途に,α
1通信所(約53ヘクタール)を返還する。」とされた。
      国は,それ以降,移設実現のための努力を続けてきたが,α1通信所の施設の移設・返還に対する地元自
治体の理解を得ること,具体的な移設場所の決定及び工事の内容の検討等に予想以上の日時を要し,その結果,同施設
の移設完了までには,なお,数年を要する見込みであり,平成13年3月31日までの返還は困難となった。
      そして,平成13年3月31日をもって使用期間が満了するため,同日以降の使用について賃貸借契約の
締結を依頼したが,原告P1はこれを拒否し,合意の得られる見込みがない状況にあった。
    (ウ)α1通信所の必要性
 本件土地1を含む本件第1区域は駐留軍のα1通信所用地として使用されており,その利用状況は争いの
ない事実等記載のとおりである。今日,あらゆる情報の収集とその整理・分析が国家の安全保障のために極めて重要で
あるとされているところ,そのような情報収集の中核の一つとなるのが通信施設であり,α1通信所は,そのような通
信施設の一つとして,世界的な規模で展開しているアメリカ合衆国の通信ネットワークの不可欠な部分を構成してお
り,我が国の安全に寄与し,極東における平和及び安全の維持に寄与するための不可欠な施設及び区域の一つとして,
我が国が駐留軍に使用を許しているものである。前記のとおり,α1通信所の通信施設については,沖縄に関する特別
行動委員会(SACO)最終報告において,α22への移設を検討することとされているが,これは通信施設そのもの
の重要性を否定するものではなく,移設が実現しない限り,α1通信所の必要性を否定することはできない。
 しかも,α1通信所の上記のような使用状況は既に30年以上継続してきており,本件土地1の面積は,
本件第1区域の土地の面積のわずか0.04パーセントを占めるにすぎず,他の土地については,国有地であるか賃貸
借契約により使用権原を取得しており,本件土地1について使用認定をしなければ,このような用地確保の努力が水泡
に帰してしまう。
 そうすると,本件土地1の必要性が高いことは明らかである。
   エ 本件土地2を含むα20補給地区固有の事情
 (ア) α20補給地区の概要は,争いのない事実等に記載のとおりである。本件土地2は,同地区全体と一体
となって有機的に機能している。
 (イ) 本件土地2の使用認定・使用裁決に至る経緯
  本件土地2については,昭和63年8月9日,原告P2との間で賃貸借契約(前所有者P3との賃貸借契
約を改定したもの)を締結し,使用してきた。この契約は,昭和56年4月1日を始期としており,民法604条の規
定により契約の始期から20年後にあたる平成13年3月31日をもってその期間を満了するものであった。そこで,
国は,同日以降の使用について賃貸借契約の締結を依頼したが,再三の交渉にもかかわらず,原告P2はこれを拒否
し,合意の得られる見込みがない状況にあった。
 (ウ)α20補給地区の必要性
 本件土地2を含むα20補給地区は,本件使用認定の前から現在に至るまで,主として駐留軍の後方支援
施設として使用されてきた。後方支援施設の個々の時点における具体的な使用の程度は,国際情勢等によって大きく変
動するものであり,これに対応できる広さを常時確保しておく必要があることは明らかである。
 しかも,α20補給地区の上記のような使用状況は既に30年以上継続してきており,本件土地2の面積
は,本件第2区域の土地の面積のわずか0.005パーセントを占めるにすぎず,他の使用認定の対象となっている4
筆の土地を除いた部分については,国有地であるか賃貸借契約により使用権原を取得している。本件土地2について使
用認定をしなければ,このような用地確保の努力が水泡に帰してしまう。
 そうすると,本件土地2の必要性が高いことは明らかである。
   オ 被告内閣総理大臣による3条要件充足性の判断
 以上の事実に基づき,被告内閣総理大臣は,本件各土地を駐留軍の用に供することが特措法3条の要件を充
足すると判断した。その要点は,次のとおりである。
 (ア)本件各土地を含む各施設及び区域は,いずれも日米安保条約6条,日米地位協定2条により我が国が日
米地位協定25条に定める日米合同委員会を通じて締結される日米両国間の協定によって合意された施設及び区域であ
るから,本条約上の義務を履行するために各施設及び区域全体を駐留軍用地として提供することが必要不可欠である。
 (イ) 本件各土地を含む各施設及び区域を駐留軍用地として提供することは,上記条約上の義務の履行という
高度の公益性があるばかりでなく,日本国の安全と極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するという条約の目
的のためのものであって極めて高度の公共の利益を有する。
 (ウ) 他方,駐留軍用地を提供することによって失われる利益は,本件各土地の所有者がその使用を受忍しな
ければならなくなるという私益である。しかし,使用認定の対象となった本件各土地には正当な補償金が支払われるか
ら,当該所有者が使用認定により経済的損失を受けることはない。
 このほか,駐留軍用地を提供することによって周辺地域の住民などに基地から派生する騒音等の問題が生
じることがあるが,争いのない事実等記載の本件第1区域及び本件第2区域の利用状況と本件各土地の位置,面積など
からすると,騒音等の問題が本件各土地の使用認定によって直接もたらされるという関係になく,これが本件各使用認
定によって失われる利益に含まれるものでないことは明らかである。しかも,基地から派生する上記問題に対しては,
昭和54年に沖縄県,那覇防衛施設局及び在沖米軍の三者連絡協議会が設けられ,その軽減のための対策を協議し,軍
用機の夜間飛行の規制,エンジンテストの時間規制等の措置や基地周辺住宅等の防音対策を講ずるなどしてきた。
 (エ)また,本件各土地を含む各施設及び区域は,従前から駐留軍用地として提供されていたものであり,こ
れを引き続き駐留軍用地として提供することは,新たに同種同規模の土地を確保して提供することに比べ,はるかに実
現可能性・容易性があるだけでなく,駐留軍用地提供により失われる利益も小さい。
 (オ) そうすると,本件各土地を含む各施設及び区域は,全体として駐留軍用地の用に供する高度の客観的必
要性があり,かつ,提供によって得られる公共の利益が極めて高く,提供によって失われる利益よりも優っていること
が明らかである。
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 したがって,各施設及び区域に含まれこれと一体となって有機的に機能している本件各土地を駐留軍の用
に供することは,「適正且つ合理的」の要件を充足する。
 (カ)以上のとおりであるから,本件各使用認定の申請は,特措法3条の要件を充足する。
   カ 原告らへの反論
  (ア) 必要性の要件に関する主張(第5,1(2)ア)について
  a 前述したとおり,特措法3条にいう「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合」とは,使用又
は収用しようとする土地等が日米安保条約6条,日米地位協定2条に基づき合意された施設及び区域に含まれているこ
とを意味し,かつ,それで足りるとの趣旨に理解されるべきものである。したがって,内閣総理大臣は,必要性の要件
を判断するに当たり,当該土地が提供に係る施設及び区域に含まれているか否かを調査し,これに含まれていれば「駐
留軍の用に供するため土地等を必要とする場合」に当たると判断し得るのであって,それ以上に施設及び区域の使用主
体の実態についてまで審査する必要はない。
  したがって,原告らが主張する上記事由は,使用認定の取消訴訟における審理の対象外であって,主張
自体失当である。
b なお,原告らの指摘するものが駐留軍用地を使用することは,以下のとおり何の問題もない。
 (a) 海兵隊について        
 原告らは,海兵隊が「駐留軍」に含まれないとする根拠として,日米安保条約6条にアメリカ合衆国
の海兵隊の記載がないことを挙げる。
 しかし,アメリカ合衆国国家安全保障法第5013号「米海兵隊・・・構成と機能」(a)の規定から
明らかなように,海兵隊は,米軍の組織の上でアメリカ海軍省に属している。したがって,海兵隊は,海軍省に属する
アメリカ合衆国の軍隊として日本国において施設及び区域を使用することが許され(日米安保条約6条),海兵隊現役
の人員は,我が国の領域にある間において,「合衆国軍隊の構成員」として日米地位協定の適用を受ける(同協定1条(
a))ことが明らかである。したがって,原告らの上記主張は,その前提を欠くものであって,失当である。
 (b) 特殊機関等について
 原告らが挙げる特殊機関等については,そもそもその内容が不明確であって,原告らの主張は,この
点において失当である。
 (c)歳出外資金によって運営する諸機関や軍属,家族等について
 まず,軍属,家族であるが,日米地位協定1条で,「合衆国軍隊の構成員」の他に「軍属」,「家
族」の定義を置いた上で,9条ないし20条等で,合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにその家族の権利等について規定
するとともに,2条で,「1(a)合衆国は,相互協力及び安全保障条約第6条の規定に基づき,日本国内の施設及び区
域の使用を許される。」と規定していること,特措法は,この日米地位協定を実施するため,駐留軍の用に供する土地
等の使用又は収用に関し規定することを目的とするものであること(1条)などから,日米地位協定によって認められ
る駐留軍が使用する施設及び区域は,合衆国軍隊の構成員のみならず,軍属,家族も使用することができることが明ら
かである。
 また,歳出外資金によって運営する諸機関については,日米地位協定15条で,合衆国の軍当局が公
認し規制する諸機関の管理等として,合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の利用に供するため,合衆国軍
隊が使用している施設及び区域内に設置することができる等と規定しており,これらの機関が,合衆国軍隊の構成員ら
の利用に供するため,合衆国軍隊が使用している施設及び区域に設置することができることは明らかである。
     c 「駐留目的」に関する主張(第5,1(2)イ),目的と手段の関連性に関する主張(第5,1(2)ウ)に
ついて
  特措法3条にいう「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合」の意味は上記のとおりであり,
内閣総理大臣は,必要性の判断をするに当たって,上記の点以上に,個々の施設及び区域が日米安保条約6条の目的の
範囲内で使用されているか否かという具体的な使用の実態,使用又は収用しようとする個々の土地等の具体的用途が日
米安保条約6条の目的を遂行するための手段として直接的な関連性を有するか否かまで審査する必要はない。
  したがって,原告らが主張する上記事由は,使用認定の取消訴訟における審理の対象外であって,主張
自体失当である。
    (イ) 「適正且つ合理的」の要件に関する主張(第5,1(3))について
  a 「客観的必要性」に関する主張(第5,1(3)ア)について
  原告らは,「適正且つ合理的」の要件について,①提供方法の非代替性,②提供土地の非代替性,③使
用する範囲が必要最小限の範囲内であることの3つの具体的適用基準を満たすことを要すると主張するが,そのような
要件を必要とするものではなく,前提において失当である。
  b 利益衡量に関する主張(第5,1(3)イ)について
  原告らが「適正且つ合理的」の要件の判断において,駐留軍用地として提供することによって失われる
利益として検討すべきと主張する①思想・良心・信条の自由の侵害,②街作り,都市計画上の被害,③騒音,軍事基地
がある故の基地被害,④土地所有権への侵害の程度,⑤当該土地の従前の違法な使用状況は,原告ら独自の見解を述べ
るものにすぎず,失当である(なお,①,②,⑤は,最高裁大法廷平成8年8月28日判決・民集50巻7号1952
頁(以下「平成8年最高裁大法廷判決」という。)においても考慮すべき要素に上げられておらず,これらの要素の1
つを欠いても「適正且つ合理的」の要件を欠くとはされていない。⑤については,使用認定は,内閣総理大臣が特措法
に基づき行うものであるから,その取消訴訟における審理対象は,専ら本件申請にかかる使用認定が要件を充足しない
ものか否かに限られ,従前の使用状況は審理の対象外というべきである。)。
  c クリーンハンドの原則に関する主張(第5,1(3)ウ)について
  「適正且つ合理的」の要件は,前述したとおり,「適正」と「合理的」に分断して解釈するのではな
く,これを一体として解釈すべきものであるから,原告らの上記主張は,その前提において失当である。
  (2) 本件各使用裁決の適法性
  ア 本件各使用裁決の取消訴訟の訴訟物は,本件各使用裁決の適法性,すなわち本件各使用裁決が法に定める処
分要件に適合しているか否かである。特措法は,収用委員会に対し,起業者から使用裁決の申請があった場合,申請を
却下する場合(土地収用法47条)を除くほか,使用裁決をしなければならない(特措法14条1項,土地収用法39
条,47条の2)としているから,土地収用法47条の却下事由のないことが本件各使用裁決の処分要件となる。
   したがって,上記各処分の違法事由となり得るのは,これらの法に定める処分要件に関するものに限られ,
それ以外のものは違法事由とはなり得ないところ,本件各使用裁決について,土地収用法47条の却下事由は認められ
ないから,本件各使用裁決は処分要件に適合しており,適法であることは明らかである。
   原告らは,本件各使用認定は,特措法3条の要件を欠き,違法であるから,本件各使用裁決も違法であると
主張するが,特措法は駐留軍の用に供する土地等の使用又は収用の手続を使用又は収用の認定と裁決の手続に二分し,
使用又は収用の認定手続は内閣総理大臣に,裁決手続は収用委員会に担当させているのであって,本件各土地の使用認
定に取り消し得べき瑕疵があるとしても,これが取り消されない限り,被告沖縄県収用委員会は有効な使用認定が存在
することを前提に使用裁決をするのであり,本件各使用認定の瑕疵の有無は,その取消訴訟で審理判断されるべき事柄
であって,本件各使用裁決取消訴訟における審理の対象ではない。さらに,本件各使用認定が要件を備えたものである
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ことは既に述べたとおりである。
   イ 土地調書,物件調書等の作成手続の違法に対する反論
     原告らは,土地調書,物件調書や図面の作成手続に違法があるから,本件各使用裁決は違法であると主張す
るが,以下に述べるとおり,理由がない。
    (ア) 裁決申請書添付の土地調書添付図面の作成時期について
      原告らは,土地調書の実測平面図は使用認定後に作成が義務付けられているとの前提に立って,図面が使
用認定の前に作成されているのは違法であり,したがって,本件各使用裁決も違法であると主張するが,特措法はもと
より同法が適用する土地収用法も,土地調書の実測平面図の作成時期については何ら規定を置いていないのであって,
同図面を使用認定前に作成していたとしても,何ら違法となるものではないから,原告らの主張は,失当である。
    (イ) 裁決申請書添付の土地調書,物件調書作成の適法性について
      原告らは,土地収用法36条2項は,裁決申請書添付の土地調書及び物件調書を作成するに当たり原告ら
地権者の現地立会権を保障しているとの前提に立って,同調書が地権者らの立会いの機会を保障しないまま作成された
のは違法であり,違法な調書に基づいてされた本件各使用裁決は違法であると主張するが,同項は,土地調書及び物件
調書が有効に成立する署名押印の段階で,調書を土地所有者及び関係人に現実に提示し,記載事項の内容を周知させる
ことを求めているにとどまり,土地調書及び物件調書作成の全過程で,土地所有者及び関係人に立会いの機会を与える
ことを要求しているものではない(平成8年最高裁大法廷判決参照)。したがって,原告らの主張は,その前提を誤る
ものであり,失当である。
第6 当裁判所の判断
 1 認定事実
   前記争いのない事実等に加え,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) α1通信所の概要及び本件土地1の状況等
  α1通信所の概要及び本件土地1の状況等は,以下のとおりである(甲1,乙5,14,18,20の1,
2,原告P1)。
 ア 本件第1区域(面積は約53万5000平方メートル)は昭和20年の軍事占領と共に米軍が使用を開始
し,昭和47年5月15日にα1海軍通信補助施設とα1方向探知東サイトが統合され,提供施設となった。
 イ α1通信所の主たる任務は,無線の迅速な中継並びにアメリカ合衆国及び同盟国の防衛のための通信の確保
であり,付加的任務は,送信の保全,電磁波現象の研究並びに航行及び空対海救難任務支援のための方向探索の支援で
ある。そのため,α1通信所には,360度の全方位からの微弱な電波をも受信できるように,受信能力を上げる装置
が設けられている。すなわち,α1通信所の施設の中央部に,アンテナ,中継所,支援施設,倉庫,警衛所,補給事務
所等が設けられ,その外側をいずれも円形に取り囲むように,「象のオリ」と通称されるゲージ状のリフレクタースク
リーン,低周波用アンテナ,外側のリフレクタースクリーン,高周波用アンテナが順次設置され,さらに,その外側を
円形に取り囲むように,電磁障害除去地と通称される区域が設けられていて,「象のオリ」から電磁障害除去地までの
地下約6インチないし12インチには,通路部分を除く全面に,メッシュ状の金属線が敷き詰められている。α1通信
所の管理責任を有する米海軍安全保障グループ(ハンザーグループ)は世界的規模で軍事,政治及び外交分野にわたる
広範囲な通信電子諜報活動を行うアメリカ国家安全保障局から作戦統制を受け活動しており,α1通信所もそのような
目的を実現するために機能してきたとの専門家の指摘もある。
 ウ 本件土地1は,この電磁障害除去地と「象のオリ」の間に位置し,その上には,低周波用アンテナの支線の
基礎及び外側のリフレクタースクリーンの一部が設けられ,地下には,メッシュ状の金属線が敷き詰められている。
エ本件土地1は,他のα1通信所の土地から独立して利用されているものではなく,他の土地と共にアンテナ
敷地等として一体的に利用されている。本件土地1の地積は236.37平方メートルであり,α1通信所の全体の約
0.04パーセントにすぎない。なお,本件土地1以外のα1通信所の用地は,国有地であるか,または土地所有者と
賃貸借契約を締結し,国が使用権原を取得している。
 オ 平成8年12月2日に取りまとめられた沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告において,「ア
ンテナ施設及び関連支援施設がα22に移設された後に,平成12年度末までを目途に,α1通信所(約53ヘクター
ル)を返還する。」とされた。
 カ 平成9年9月10日,α1通信所を管理する米海軍安全保障グループの解任式が同通信所前のレクリエーシ
ョン施設で行われた。それまでα1通信所には約110人が配置されていたが,同年10月1日から約40人が削減さ
れたのを皮切りに,段階的に要員を縮小し,その運営は米民間会社に委託することにより行うこととされた。しかし,
上記のような解任式が行われた以降も,α1通信所において,上記のような任務が依然遂行されており,平成10年こ
ろからは施設の自動化などに基づき遠隔操作によりその任務が行われており,現在も米国の情報通信体系の中で重要な
役割を果たしているとの専門家の指摘もある。
  キ しかし,結果的に,α1通信所について,移設場所の決定及び工事の内容の検討等に予想以上の日時を要す
るなどしたため,本件使用認定や使用裁決当時までに,施設の移設は行われず,平成12年度末である平成13年3月
31日までの返還の実現が困難となり,現在に至っている。
ク 原告P1は,本件土地1を,平成6年6月1日父親P4から贈与により取得した。従前,P4は,国と同土地
についての賃貸借契約を締結していた。
(2)α20補給地区の概要及び本件土地2の状況等
α20補給地区の概要及び本件土地2の状況等は,以下のとおりである(乙2,6,15,18,原告P2)

 ア 本件土地2を含む本件第2区域(現在の面積は約275万平方メートル)は,昭和20年に米軍が使用を開
始し,以来沖縄における補給基地として使用されてきたもので,沖縄県浦添市の西部に所在し,国道58号の西側に沿
って,東西約1キロメートル,南北約3キロメートルのやや細長いほぼ楕円形の形状をした平たんな地域であり,α2
0補給地区として利用されている。
 イ α20補給地区は,現在,海兵隊α21基地司令部管理の下,第3海兵役務支援軍,第3海兵営繕大隊,第
3補給大隊等が使用し,倉庫,機械修理工場,洗濯場,宿舎,事務所等が設置されている。
   α20補給地区のうち,国道58号沿いは事務所・倉庫・工場地区として,その余の部分は住宅・隊舎及び
資材置場地区として使用されている。本件土地2は,駐留軍が使用しているα20補給地区の用地の一部であり,道路
敷及び倉庫用地として使用されている。
ウ本件土地2は,他の土地と共に一体的に地区内の道路敷等として利用されており,その地積は約148平方
メートルであり(乙2の実測平面図では,148.05平方メートル),α20補給地区全体の約0.005パーセン
トに当たる。なお,同地区のうち,本件土地2及び使用認定の対象となっている他の4筆の土地以外は,国有地である
か,または土地所有者と賃貸借契約を締結し,国が使用権原を取得している。
エ 本件第2区域の面積は,日米地位協定等に基づいて駐留軍に使用を許した当時は,約314万5000平方
メートルとされていたところ,その後,数次にわたる一部返還を経て,現在の面積は約275万平方メートルとなって
いる。本件第2区域については,一部の土地について国道58号拡張のため調整が行われているものの,全体について
は返還の合意に至っておらず,現在のところその見込みも立っていない。
ページ(8)
 オ 原告P2は,本件土地2を,昭和63年2月8日,売買によりP3から取得し,以後所有し,同年8月9
日,国との間で,P3が国と締結した賃貸借契約(期間は昭和56年4月1日を始期として20年間)を改定した賃貸
借契約を締結した。
(3) 沖縄における駐留軍用地の利用状況,日米間の交渉等(乙9ないし12,18,19)
ア 戦後,米軍は単独で沖縄を占領し,その後,朝鮮戦争の勃発などの東アジア情勢にかんがみ,1950年代を
中心に土地を接収し,基地の整備を行った。そのころ,米国政府は,極東における沖縄の軍事的な価値に着眼し,沖縄
における軍事基地を長期にわたり継続的に使用する意向を持っていた。
イ 昭和40年ころから,日米両国は,沖縄返還の実現に向けての折衝を開始した。この中で,米国政府は,沖縄
の米軍基地の継続使用が日本を含む極東における平和と安全のため不可欠な前提であるとの認識を表明し,他方,日本
政府も,沖縄の米軍基地の継続使用が日本を含む極東における平和と安全のために重要であると考え,沖縄における米
軍基地の重要性に関する両国の基本的な認識は一致した。
ウ そして,以上の認識を前提として,沖縄の復帰に際し,日米両国は,従前から存在した米軍の施設及び区域に
ついて覚書(昭和46年6月17日の「了解覚書」,乙9)を作成し,この施設及び区域を,駐留軍用地として提供する
もの(A表),自衛隊や運輸省に引き継ぐもの(B表)及び沖縄の復帰の際又はその前に全部又は一部の使用が解除される
もの(C表)の3種に区分し,そして,A表記載の施設及び区域については,別段の合意がない限り,沖縄の復帰の日から
駐留軍が使用する施設及び区域とすることとされた。
本件各土地を含む本件第1区域及び本件第2区域は,A表に記載され,復帰の日から駐留軍に提供の合意をす
る用意のある施設用地に区分された。
エ 沖縄返還協定は,昭和47年3月21日に公布されているところ,同年5月15日,日米合同委員会において
日米安保条約6条及び日米地位協定2条に基づき駐留軍が沖縄県内で使用を許される施設及び区域の提供等について合
意され(乙10),この合意によれば,本件各土地を含む本件第1区域及び本件第2区域は,いずれも当該提供等の対
象となる施設及び区域に含まれている。すなわち,沖縄復帰に当たり,本件第1区域(α1通信所)は通信所として使
用する目的で,本件第2区域(α20補給地区)は,宿舎,事務所及び後方支援に使用する目的で,駐留軍の用に供さ
れたものである。
オ 沖縄復帰に際しての日米首脳会談(昭和47年1月)において,佐藤内閣総理大臣は,在沖米軍施設・区域,
とくに人口密集地域及び産業開発と密接な関係にある地域に所在するものが,復帰後できる限り整理縮小されることが
必要であることを説明し,ニクソン大統領も,双方が施設及び区域の調整を行うに当たって,これらの要素は十分に考
慮に入れる旨を答えたことが確認された。
カ その後,我が国は,上記オ記載の確認事項を踏まえ,駐留軍の使用に供された施設及び区域の整理統合縮小に
ついて,日米合同委員会や日米安全保障協議委員会等において米国政府との交渉を重ねてきており,それらの結果,復
帰直前の時点における沖縄在日米軍施設,区域(専用施設)は144件,約353平方キロメートルあったのが,復帰
時には83件,約278平方キロメートルに,平成12年1月の時点には37件,約235平方キロメートルに減少し
ている(ただ,それでも,沖縄は,全国との比較で,人口1パーセント弱,面積0.6パーセント弱であるが,全国の
約23.5パーセントの米軍基地が置かれており,専用施設でいえば,約74.8パーセントの基地が沖縄にあり,米
軍基地は,沖縄県の10.5パーセントを占め,沖縄本島での比率は18.9パーセントに達している。)。
キ α1通信所については,平成8年12月2日にとりまとめられた沖縄に関する特別行動委員会(SAC
O)最終報告において,平成12年度末までを目途に返還される見込みとなったが,結局,平成12年度末である平成
13年3月31日までの返還の実現が困難となり,現在に至っていること,本件土地2を含む本件第2区域について
は,返還の合意に至っておらず,現在のところその見込みも立たないことは上記のとおりである。
クまた,昭和54年には,沖縄県,那覇防衛施設局及び在沖米軍の三者連絡協議会が設けられ,基地から派生す
る問題の軽減のための対策を協議し,軍用機の夜間飛行の規制,エンジンテストの時間規制等の措置や基地周辺住宅等
への防音対策等が行われてきた。
 2 特措法3条の解釈について
  (1) 特措法3条は,「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合において,その土地等を駐留軍の用に供す
ることが適正且つ合理的であるときは,この法律の定めるところにより,これを使用し,又は収用することができる」
と規定しているところ,「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合」とは,同法の目的が,日米地位協定を実
施するため,駐留軍の用に供する土地等の使用又は収用に関し規定することにある(同法1条)ことなどを考えると,
日米安保条約,日米地位協定により日本国が負う義務等を果たす上で,その土地を提供することが客観的に必要である
場合をいうものと解するのが相当である。
  他方,特措法3条の「その土地等を駐留軍の用に供することが適正且つ合理的であるとき」とは,土地等の提
供の客観的必要性が高く,かつ,その提供により得られる公共の利益がこれにより失われる利益に優っていることを意
味するものと解するのが相当である。
(2) そして,使用認定(特措法5条)における特措法3条の要件該当性の判断は,我が国の安全と極東における国
際の平和と安全の維持にかかわる国際情勢,駐留軍による当該土地等の必要性の有無,程度,当該土地等を駐留軍の用
に供することによってその所有者や周辺地域の住民などにもたらされる負担や被害の程度,代替すべき土地等の提供の
可能性等諸般の事情を総合考慮してなされるべき政治的,外交的判断を要するだけでなく,駐留軍基地にかかわる専門
技術的な判断を要することも明らかであるから,その判断は,被告内閣総理大臣の政策的,技術的な裁量にゆだねられ
ているものと解すべきであり,沖縄県に駐留軍の基地が集中していることによって生じているとされる種々の問題も,
以上の判断過程において考慮,検討されるべき問題であるというべきである(平成8年最高裁大法廷判決)。そして,
被告内閣総理大臣のなした使用認定の判断について,上記裁量権の逸脱又は濫用があった場合には,当該処分は違法と
して取り消すべきものになる。
3 本件各土地の使用認定について
(1) 本件土地1について
  前記認定したとおり,本件土地1は,了解覚書や日米合同委員会で合意された駐留軍に提供される施設,区域
に含まれているものであり,α1通信所は,日米地位協定2条1項に基づく施設及び区域として駐留軍の用に供されて
おり,その提供は,「日本国の安全に寄与し,並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」という
日米安保条約上における高度の公益性を有する責務の履行として行われるものであり,それ自体極めて公益性が高いも
のと認められる。そして,同通信所は,要員が削減されたり,その管理を民間会社に委託されたりしているが,その返
還が決定されてはいるものの,未だ施設の移設がされておらず,現在もその任務を果たしており,本件土地1もアンテ
ナ敷地等として他の土地とともにα1通信所として一体的に利用されているなどの現状からすれば,なお,本件土地1
を駐留軍へ提供すべき必要性が客観的に高いものと認められる。平成8年12月2日に取りまとめられた沖縄に関する
特別行動委員会(SACO)最終報告において,平成12年度末までを目途に,α1通信所を返還するとされたこと,
α1通信所の要員が削減され,その運営は米民間会社に委託して行われていることなどをもって,本件土地1を駐留軍
へ提供すべき必要性に直ちに影響するとみることはできない。さらに,それに加えて,日本政府,関連諸機関によりな
された前記1(3)オ,カ(ただし,かっこ内を除く,),クなどのような経緯,事情も存在する。
  また,上記のとおり,駐留軍への提供には高度の公益性が認められ,α1通信所についても,その提供の高い
ページ(9)
客観的必要性が肯定されるところ,確かに,本件土地1の所有権をできる限り保護すべきことはいうまでもなく,特措
法に基づく土地等の使用は財産権に対する大きな制約となり得る強制処分であるから,所有者等の任意の協力が得られ
る土地等を駐留軍に提供することが望ましいところではあるが,本件土地1が,既に国において使用権原を取得してい
る同土地以外の土地とともにα1通信所として一体的に使用されており,その地積もα1通信所全体のわずか0.04
パーセントであって,同土地の返還を行うことが現実的なものとは考え難い現状にあることからすると,これを駐留軍
の用に供すべき高度の客観的必要性があり,かつ,その提供により得られる公共の利益は,原告P1の被る不利益(同
人の被る不利益のうち,土地使用に伴う経済的な不利益は補償金により填補される。)と比較しても,それを相当に上
回るものということができるのであり,被告内閣総理大臣の使用認定の判断に裁量権の逸脱や濫用があるとは認められ
ない。このことは,現在においても,沖縄県に駐留軍の基地が集中しているという状況,原告P1の本件土地1に対す
る思い(原告P1本人)などを考慮しても,同様である。
(2) 本件土地2について
  上記(1)に述べるのと同様に,前記認定事実のとおり,本件土地2は了解覚書や日米合同委員会で合意された駐
留軍に提供される施設,区域に含まれているものであり,α20補給地区は,日米地位協定2条1項に基づく施設及び
区域として駐留軍の用に供されており,その提供は日米安保条約上の責務の履行として極めて高い公益性を有し,本件
土地2が,α20補給地区において,道路敷等として他の土地とともに一体的に利用されているなどの現状からすれ
ば,その駐留軍への提供の必要性は,客観的にも高いものということができる。さらに,それに加えて,日本政府,関
連諸機関によりなされた前記1(3)オ,カ(ただし,かっこ内を除く。),クなどのような経緯,事情も存在する。
  また,上記のとおり,駐留軍への提供には高度の公益性が認められ,α20補給地区についても,その提供の
高い客観的必要性が肯定されるところ,確かに,本件土地2の所有権をできる限り保護すべきことはいうまでもなく,
特措法に基づく土地等の使用は財産権の大きな制限となり得る強制処分であるから,所有者等の任意の協力が得られる
土地等を駐留軍に提供することが望ましいところではあるが,本件土地2が,既に国が使用権原(他の4筆の土地につ
いては,使用認定による。)を取得している同土地以外の土地とともにα20補給地区として一体的に使用されてお
り,本件土地2の地積もα20補給地区全体の0.005パーセントに止まるものであって,同土地のみの返還が現実
的なものとは考え難いことからすると,これを駐留軍の用に供すべき高度の客観的必要性があり,かつ,その提供によ
り得られる公共の利益は,原告P2の被る不利益(同人の被る不利益のうち,土地使用に伴う経済的な不利益は補償金
により填補される。)と比較しても,それを相当に上回るものということができるのであり,被告内閣総理大臣の使用
認定の判断に裁量権の逸脱や濫用があるとは認められない。このことは,現在においても,沖縄県に駐留軍の基地が集
中しているという状況,原告P2の本件土地2に対する思い,戦争につながる一切のものを拒否するという考え(原告
P2本人)を考慮しても,同様である。
(3) 原告らの主張について
 ア ところで,原告らは,特措法に基づく強制使用は,同法3条所定の「日本に駐留するアメリカ合衆国の軍
隊」である3軍に限られるところ,海兵隊はこれに含まれないし,上記3軍が主体となって直接の使用に供する場合に
当たらない歳出外資金によって運営する諸機関や軍属,家族等の使用の場合は上記必要性の要件を満たさないなどと主
張する。
   しかし,前判示のとおり,上記必要性は,日米安保条約,日米地位協定により日本国が負う義務等を果たす
上で,その土地を提供することが客観的に必要である場合をいうと解せられるのであるから,その提供が厳密に3軍に
対するものに限定されるとまでいうことはできないし,アメリカ合衆国国家安全保障法第5013号「米海兵隊・・・
構成と機能」(a)が,「海兵隊は,海軍省に属し,少なくとも3個師海兵師団,3個海兵航空団,並びにその他の地上
戦闘部隊,航空部隊及びこれらの有機的構成要素をなす他の部隊を含むものとして組織される。」と規定している(弁
論の全趣旨)とおり,海兵隊は,米軍の組織の上でアメリカ海軍省に属している。さらに,その組織も戦闘部隊を含
み,軍事行動に当たる組織であることが明らかであって,海兵隊が「日本に駐留するアメリカ合衆国の軍隊」に含まれ
ると解するのが相当である。
   また,基地内において諸々の用務を果たすためには,人員を雇用するなどしてこれに当たらせたり,駐留軍
の構成員等がその家族を伴って基地内で生活するのは必然的なことであり,「駐留軍の用に供する」とは,そのような
者達のための土地使用も含むものと解すべきであり,このような解釈が日米安保条約6条,日米地位協定,特措法の各
法規の趣旨にも沿うものというべきである。
   したがって,原告らの上記主張を採用することができない。
 イ 原告らは,駐留軍が提供物件を使用する場合であっても,その使用は駐留目的の範囲内に限られるところ,
同物件が,いわゆる極東を超えた地域に対する戦略の拠点として使用され,安保「再定義」によってさらにその範囲を
逸脱しており,必要性の要件を満たさないと主張する。
   しかし,前判示のとおり,本件各土地を駐留軍へ提供することには高度の公益性が認められ,その提供の高
い客観的必要性が肯定されるのであり,その必要性の要件も充足していると認められるところ,駐留軍が当該基地をど
のような戦略拠点にするかとか,日米安保条約の条項をいかに定義付け,解釈するかなどの極めて政策的ないし政治的
問題は,上記要件の判断と直接関係するものとは認め難いのであって,上記要件の判断に当たり,この点を斟酌するこ
とは相当ではない。したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。
   ウ 原告らは,土地等の使用に日米安保条約6条に掲げる「目的」を遂行するための「手段」として土地等を提
供する客観的必要性(「目的」と「手段」との直接的な関連性)が認められる必要があり,例えば,ゴルフ場や教会等
の設置を目的とする土地等の使用は,駐留目的との関連性がなく,必要性の要件を満たさないと主張する。
     しかし,本件において,原告らは抽象的に前記のとおり主張するにとどまり,駐留目的と関連性がないどの
ような利用が実際になされているかを明確にしないもので,その点において,既に失当であるが,さらに,特措法3条
にいう「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合」の意味は上記のとおりであり,内閣総理大臣は,必要性の
判断をするに当たって,上記の点を判断すれば足りるものである。
  したがって,原告らの上記主張は採用できない。
   エ 原告らは,「適正且つ合理的」の要件が認められるためには,当該土地を強制使用してまで提供しなければ
ならない程度の客観的必要性が高いことを要し,提供によって得られる公共の利益がこれによって失われる利益に優っ
ていることが必要である旨主張するが,客観的必要性が高く,提供によって得られる利益がこれによって失われる利益
に優っていることは前判示のとおりである。
   この点,原告らは,客観的必要性について,当該土地の具体的用途との関係で,個別の必要性があることに
ついて説明が尽くされていなければならないこと,客観的必要性の程度が高いこと,客観的必要性が高いことの基準
は,提供方法の非代替性(任意契約により提供可能か,そのような努力をしたか),提供土地の非代替性(他に提供す
る土地が存在しない)及び必要最小限性(強制使用する範囲は必要最小限でなければならない)によるべきであるなど
と主張する。
   しかし,上記のような厳格な基準は,日米安保条約,日米地位協定及び特措法の目的等からして採用できる
ものではなく,原告らの独自の見解といわざるを得ない。
 オ 原告らは,違法な土地占有をしたものが,その回復をしないまま,法に基づく権原の取得を求めることがク
リーンハンドの原則に反すると主張するが,同原則と「適正かつ合理的」の要件との関係が必ずしも明らかではなく,
ページ(10)
採用の限りではない。
 カ さらに,原告らは,「適正且つ合理的」の要件を充足しているか否かを正確に判断するためには,歴史的経
過やその他の諸事情を踏まえる必要があるとし,米軍による土地の長期使用の歴史的経過,米軍基地の果たした役割,
県土利用の障害たる米軍基地,県民の生活と人権を破壊する米軍基地などについて主張するところである。
   しかし,原告らのこれらの主張は,いわば一般的な議論や背景事情にとどまるものであり,具体的に,本件
各土地についての「適正且つ合理的」の要件に係る事実を述べるものではないから,これらの主張を本件各土地に係る
本件使用認定の適法性に際し考慮することは相当とは認め難い。
 キ その他,原告らが縷々主張する点は,前記本件各土地に係る使用認定の適法性について判示したところに照
らし,採用することはできない。
 4 本件各使用裁決について
  (1) 特措法は,収用委員会に対し,起業者から使用裁決の申請があった場合,申請を却下する場合(土地収用法4
7条)を除くほか,使用裁決をしなければならない(特措法14条1項,土地収用法39条,47条の2)としてお
り,土地収用法47条の却下事由のないことが本件各使用裁決の処分要件となるから,上記各処分の違法事由となり得
るのは,これらの法に定める処分要件に関するものに限られ,それ以外のものは違法事由とはなり得ないと解される。
    これを本件についてみるに,本件各使用裁決について,土地収用法47条の却下事由は認められないから,同
裁決は処分要件に適合しているというべきであり,適法である。
(2) 原告らは,本件各使用認定が違法であるから本件各使用裁決をすることは許されないと主張する。
  しかし,前判示のとおり,本件各使用認定を違法と認めることはできないから,原告らの主張は前提を欠き,
採用の限りでない。
  (3) 土地調書等の作成手続について
 ア 原告らは,使用認定後に作成が義務づけられている土地調書及びこれに添付されている実測平面図が,使用
認定前に作成されていること,本件各使用裁決に係る申請書に添付する土地調書,物件調書の作成が,原告ら地権者の
立会いのないまま作成されていることなどの違法があると主張する。
 イ 特措法14条に基づき同法3条の規定による土地等の使用又は収用に関して適用される土地収用法36条に
よれば,防衛施設局長は,土地等の使用又は収用の認定の告示があった後,土地調書及び物件調書を作成しなければな
らないとされているところ,これは,収用委員会の審理における事実の調査,確認における煩瑣を避け,その効率化を
図るために使用又は収用する土地及びその土地上にある物件に関する事実及び権利の状態並びに当事者の主張を記載
し,予め整理しておくことを目的とするものであり,裁決申請の準備手続としての意味を持つものと理解できる。
   そして,土地収用法37条1項は,土地調書に実測平面図を添付すべきことを定めているところ,土地調
書,物件調書の作成時期については同法36条1項に規定があるが,それらに添付することが要求される実測平面図の
作成時期については何ら規定が存在しない。このように,土地収用法には実測平面図の作成を義務付ける規定はある
が,その作成時期についての規定は存せず,告示後に作成すべき義務があるとまでは解し難く,使用認定の告示前に予
め実測平面図が作成されていたとしても,使用認定の告示がなされるまでの間に実測平面図に記載した内容に特段の変
動が認められないような場合には,告示前に作成された実測平面図を添付して行った申請も適法であるというべきであ
る。
     本件では,各使用裁決申請書添付の実測平面図は,いずれも平成12年2月23日に作成されており,使用
の認定の告示がなされた同年6月27日より約4か月ほど前である(乙5,6)が,α1通信所及びα20補給地区が
以前から継続して米軍により使用されており,上記のような実測平面図の作成時期から上記各申請までの間に,本件各
土地の状況について特段の変化はなかったものと認められる(弁論の全趣旨)ことからすれば,本件各使用裁決の申請
は適法であるというべきである。
 ウ 上記のとおり,防衛施設局長は,土地等の使用又は収用の認定の告示があった後,土地調書及び物件調書を
作成しなければならず,これを作成する場合において,土地所有者及び関係人(防衛施設局長が過失なくして知ること
ができない者を除く。)を立ち会わせた上,土地調書及び物件調書に署名押印をさせなければならないものとされてい
る(土地収用法36条2項)。この趣旨は前記イ記載のとおりと解される。
   このような趣旨や土地収用法36条2項の文言からすると,同項は,土地調書及び物件調書作成の全過程に
おいて,土地所有者及び関係人に立会いの機会を与えることまでを要求しているものではなく,調書が有効に成立する
署名押印の段階で,調書を土地所有者及び関係人に現実に提示し,記載事項の内容を周知させることを求めているもの
と解するのが相当である。
   確かに,本件各土地の所有者及び関係人にとっては,現地を確認することなく,土地調書及び物件調書の記
載内容の真偽を判断することが困難である場合もあることは,原告らが指摘するとおりであるとしても,土地所有者及
び関係人は,同条3項に基づき,異議を付記して署名押印をすることができ,そうすることによって,調書の記載が真
実に合致するとの推定を排除することができるのである。その場合には,那覇防衛施設局長が収用委員会の審理手続の
中で土地調書及び物件調書の記載内容が真実に合致することを立証しなければならないことになるのであるから,本件
各土地の所有者及び関係人に現地における立会いの機会を与えなくても,その権利を不当に侵害するものとはいえない
(平成8年最高裁大法廷判決)。
よって,この点に関する原告らの主張には理由がない。
第7 結論
    よって,原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7
条,民事訴訟法65条1項本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。
   那覇地方裁判所民事第2部
         裁判長裁判官      窪  木     稔
            裁判官      鈴  木     博
            裁判官      野  澤  晃  一
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採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
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仕事がない弁護士は無力です。
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答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
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応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
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学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

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◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
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◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

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