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平成29年7月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成28年(ワ)第35763号特許権侵害差止請求事件
口頭弁論の終結の日平成29年5月12日
判決
原告フリー株式会社
同訴訟代理人弁護士服部謙太朗
同飯田圭
同山本飛翔
同補佐人弁理士大谷寛
被告株式会社マネーフォワード
同訴訟代理人弁護士久保利英明
同上山浩
同塩月秀平
同根本浩
同中川紘平
同髙梨義幸
同濱田慧
同補佐人弁理士佐藤睦
同大石幸雄
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,別紙被告製品目録記載の製品を生産し,又は使用してはならない。
2被告は,別紙被告製品目録記載の製品を廃棄せよ。
3被告は,別紙被告方法目録記載の方法を使用してはならない。
第2事案の概要
本件は,発明の名称を「会計処理装置,会計処理方法及び会計処理プログラ
ム」とする発明についての特許権を有する原告が,被告による別紙被告製品目
録記載の各製品(以下,順に「被告製品1」などといい,総称して「被告製品」
という。)の生産等,並びに別紙被告方法目録記載の方法(以下「被告方法」
という。)の使用が上記特許権を侵害していると主張して,被告に対し,特許
法100条1項及び2項に基づき,被告による上記各行為の差止め及び被告製
品の廃棄を求める事案である。
1前提事実等(証拠を掲記したほかは,当事者間に争いがない。)
当事者
ア原告
原告は,中小企業及び個人事業主向けに経理の自動化を可能とするソフ
トウェアの開発,提供等を業とする株式会社である。
イ被告
被告は,家計簿アプリのソフトウェア開発,提供等を行うとともに,
他サービスとして会計ソフト等の開発,提供等を業とする株式会社であ
る。
原告の特許権
原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,これに係る特許を「本
件特許」という。また,本件特許出願の願書に添付された明細書を「本件明
細書」という。)を有している。
ア特許番号第5503795号
イ発明の名称会計処理装置,会計処理方法及び会計処理プログラム
ウ出願日平成25年10月17日
(特願2013-55252の分割,原出願日平成25年3月18日)
エ登録日平成26年3月20日
本件特許の特許請求の範囲
本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1,10,13及び14の記載は,
本判決添付の本件特許に係る特許公報の該当項記載のとおりである(以下,
各発明を順に「本件発明1」,「本件発明10」,「本件発明13」,「本件発明
14」といい,これらを総称して「本件発明」という。なお,本件発明10
は,本件発明1に従属する発明をいう。)。
本件発明の構成要件
本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構
成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件1A」のようにいう。)。
ア本件発明1
1Aクラウドコンピューティングによる会計処理を行うための会計処理
装置であって,ユーザーにクラウドコンピューティングを提供するウェ
ブサーバを備え,
1B前記ウェブサーバは,ウェブ明細データを取引ごとに識別し,
1C各取引を,前記各取引の取引内容の記載に基づいて,前記取引内容
の記載に含まれうるキーワードと勘定科目との対応づけを保持する対応
テーブルを参照して,特定の勘定科目に自動的に仕訳し,
1D日付,取引内容,金額及び勘定科目を少なくとも含む仕訳データを
作成し,作成された前記仕訳データは,ユーザーが前記ウェブサーバに
アクセスするコンピュータに送信され,前記コンピュータのウェブブラ
ウザに,仕訳処理画面として表示され,前記仕訳処理画面は,勘定科目
を変更するためのメニューを有し,
1E前記対応テーブルを参照した自動仕訳は,前記各取引の取引内容の
記載に対して,複数のキーワードが含まれる場合にキーワードの優先ル
ールを適用し,優先順位の最も高いキーワードにより,前記対応テーブ
ルの参照を行う
1Fことを特徴とする会計処理装置。
イ本件発明10
10A前記ウェブ明細データをインターネット上から自動的に取得する
ウェブ明細データ取得部をさらに備える
10Bことを特徴とする請求項1に記載の会計処理装置。
ウ本件発明13
13Aウェブサーバが提供するクラウドコンピューティングによる会計
処理を行うための会計処理方法であって,
13B前記ウェブサーバが,ウェブ明細データを取引ごとに識別するス
テップと,
13C前記ウェブサーバが,各取引を,前記各取引の取引内容の記載に
基づいて,前記取引内容の記載に含まれうるキーワードと勘定科目との
対応づけを保持する対応テーブルを参照して,特定の勘定科目に自動的
に仕訳するステップと,
13D前記ウェブサーバが,日付,取引内容,金額及び勘定科目を少な
くとも含む仕訳データを作成するステップとを含み,作成された前記仕
訳データは,ユーザーが前記ウェブサーバにアクセスするコンピュータ
に送信され,前記コンピュータのウェブブラウザに,仕訳処理画面とし
て表示され,前記仕訳処理画面は,勘定科目を変更するためのメニュー
を有し,
13E前記対応テーブルを参照した自動仕訳は,前記各取引の取引内容
の記載に対して,複数のキーワードが含まれる場合にキーワードの優先
ルールを適用し,優先順位の最も高いキーワードにより,前記対応テー
ブルの参照を行う
13Fことを特徴とする会計処理方法。
エ本件発明14
14Aウェブサーバが提供するクラウドコンピューティングによる会計
処理を行うための会計処理プログラムであって,
14B前記ウェブサーバに,ウェブ明細データを取引ごとに識別するス
テップと,
14C各取引を,前記各取引の取引内容の記載に基づいて,前記取引内
容の記載に含まれうるキーワードと勘定科目との対応づけを保持する
対応テーブルを参照して,特定の勘定科目に自動的に仕訳するステッ
プと,
14D日付,取引内容,金額及び勘定科目を少なくとも含む仕訳データ
を作成するステップとを含み,作成された前記仕訳データは,ユーザ
ーが前記ウェブサーバにアクセスするコンピュータに送信され,前記
コンピュータのウェブブラウザに,仕訳処理画面として表示され,前
記仕訳処理画面は,勘定科目を変更するためのメニューを有し,
14E前記対応テーブルを参照した自動仕訳は,前記各取引の取引内容
の記載に対して,複数のキーワードが含まれる場合にキーワードの優
先ルールを適用し,優先順位の最も高いキーワードにより,前記対応
テーブルの参照を行う
14Fことを特徴とする方法を実行させるための会計処理プログラム。
被告の行為
被告は,いわゆるクラウド型会計ソフトとして「MFクラウド会計」のサ
ービスを提供しており,これにより,被告製品を生産,使用し,また,被告
方法を使用している。
原告は,被告方法のうちの勘定科目提案機能(以下「本件機能」という。)
に係る部分の構成は別紙「原告主張に係る被告方法の構成」のとおりであり,
被告製品についても同構成により特徴付けられると主張するのに対し,被告
は,別紙「原告主張に係る被告方法の構成」のうち下線が付された部分の構
成を争う。
被告製品及び被告方法の構成要件充足性
原告は,被告製品1が本件発明1及び10の技術的範囲に属し,被告製品
2が本件発明14の技術的範囲に属し,被告方法が本件発明13の技術的範
囲に属すると主張し,被告はこれを争う。
被告製品1は,構成要件1A,1B,1D及び10Aを充足し,被告製品
2は,構成要件14A,14B及び14Dを充足し,被告方法は,構成要件
13A,13B及び13Dを充足する。
均等侵害の成立要件
特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する
場合であっても,同部分が特許発明の本質的部分ではなく(以下「第1要
件」という。),同部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許
発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって
(以下「第2要件」という。),上記のように置き換えることに,当業者が
対象製品等の製造等の時点において容易に想到できたものであり(以下
「第3要件」という。),対象製品等が,特許発明の出願時における公知技
術と同一又は当業者がこれから同出願時に容易に推考できたものではなく
(以下「第4要件」という。),対象製品等が特許発明の特許出願手続にお
いて特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事
情もないときは(以下「第5要件」という。),上記対象製品等は,特許
請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲
に属するものと解される(最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・
民集52巻1号113頁)。
2争点
文言侵害の成否(争点1)
構成要件1C,1E,1F,10B,13C,13E,13F,14C,
14E及び14Fの充足性
均等侵害の成否(争点2)
被告製品及び被告方法の特定の適否(争点3)
3争点に関する当事者の主張
争点1(文言侵害の成否)について
《原告の主張》
ア被告方法と本件発明13との対比
構成要件13C
a同構成要件を充足すること
本件発明に係る「対応テーブル」とは,「取引内容の記載に含まれ
うるキーワードと勘定科目との対応づけを保持するデータ」を意味す
る。「テーブル」という用語が,たとえば「ルックアップテーブル」
の用例にみられるように,「入力に対応する出力を対応づけるデータ」
を意味することは当業者にとって明らかである。
一方,被告方法は,摘要の記載に基づいて,記載に含まれうるキー
ワードと勘定科目とを対応づけておき,これを参照するが(構成c),
当該対応づけは,教師あり学習の成果として生成された対応づけを表
すデータとして記憶されている(構成g)から,被告方法においては,
摘要の記載に含まれうるキーワードと勘定科目との対応づけを表すデ
ータを参照して,勘定科目の自動付与がされている。このことは,被
告が提供するサービスについて原告が行った動作確認の結果(甲6,
8,9)から明らかである。
したがって,被告方法は,構成要件13C「前記ウェブサーバが,
各取引を,前記各取引の取引内容の記載に基づいて,前記取引内容の
記載に含まれうるキーワードと勘定科目との対応づけを保持する対応
テーブルを参照して,特定の勘定科目に自動的に仕訳するステップ
と,」を充足する。
b被告の主張に対する反論
クレームの文言上,対応関係の個数について何ら限定的な記載が
ないから,「対応テーブル」について,取引内容の記載に含まれうる
キーワードに複数の勘定科目が対応づけられているものが除かれる
ことはない。
また,本件発明のクレームには,「対応テーブル」について,数式
を用いて入力に対応する出力を対応づけるものは除かれるとの解釈
をすべき限定もない。加えて,「ルックアップテーブル」の概念には
入力に対応する処理を行う関数を呼び出すことで入力に対して出力
を対応づけることが包含されており(甲13),「テーブル」の概念
においても当然関数が呼び出されることが包含されている。したが
って,被告方法のアルゴリズムにおいて数式が用いられていること
のみをもって本件発明の「対応テーブル」の非充足という結論は得
られないことが明らかである。
さらに,被告が指摘する自動仕訳の結果(乙1)について,そこ
に記載された本取引①ないし⑭は,例えば,本取引⑥の摘要「店舗
チケット」に記載された「店舗」「チケット」「店舗チケット」の
三つの単語全てを用いるというのが被告の主張であるところ,被告
は,本取引⑥の仕訳結果は,「店舗」に対応する「福利厚生費」又
は「チケット」に対応する「短期借入金」のいずれかになるはずで
あるとして,「店舗チケット」に対応づけられた勘定科目を看過し
ている。また,本取引⑮ないし⑱について,被告は,本件機能は,
単にキーワードのみに着目して,特定の単語に対応する特定の勘定
科目を出力していないと主張するが,構成要件13Cは「前記各取
引の取引内容の記載に基づいて」仕訳処理を行うとされ,「取引内
容の記載『のみ』に基づ」くと規定されてはいないから,被告の主
張は前提を欠く。さらに,本取引⑲ないし㉒では,未知のキーワー
ドの一部に勘定科目と対応づけられているものがあれば,当該勘定
科目が付与されるし,未知のキーワードについては一律に金額に応
じた勘定科目を付与する例外処理の存在も窺われ,本訴提起後に被
告が改変を施した結果とも解することができる。
構成要件13E
a同構成要件を充足すること
本件発明における「優先ルール」とは,文言どおり「優先する規則
を意味する。
一方,被告方法においては,摘要の記載に複数のキーワードが含ま
れる場合に,いずれか1つのキーワードによりキーワードと勘定科目
との対応づけを参照した結果に基づいて,当該キーワードに対応づけ
られた勘定科目が付与されており(構成e),当該対応づけは,教師
あり学習の成果として生成された対応づけを表すデータとして記憶さ
れている(構成g)。このことは,被告が提供するサービスについて
原告が行った動作確認の結果(甲6,8,9)から明らかである。
複数のキーワードのうち,いずれか1つのキーワードによりキーワ
ードと勘定科目との対応づけを参照した結果に基づいて勘定科目を付
与することは,当該キーワードをその他のキーワードよりも優先的に
扱うことに他ならないから,被告方法においては,複数のキーワード
が含まれる場合にいずれか1つを最も優先するルールが適用されてい
るというべきである。
したがって,被告方法においては,学習成果であるキーワードと勘
定科目との対応づけを表すデータを参照した自動仕訳において,複数
のキーワードが摘要の記載に含まれる場合にいずれかのキーワードを
優先する処理がされており,構成要件13E「前記対応テーブルを参
照した自動仕訳は,前記各取引の取引内容の記載に対して,複数のキ
ーワードが含まれる場合にキーワードの優先ルールを適用し,優先順
位の最も高いキーワードにより,前記対応テーブルの参照を行う」を
充足する。
b被告の主張に対する反論
構成要件13Eには,優先順位の最も高いキーワードにより対応テ
ーブルを参照して自動仕訳を行うことが規定されているのであって,
当該キーワード以外のキーワードの取り扱いについて限定的な記載は
ない。本件明細書においても,いずれか1つのキーワードに限られ
ず,各キーワードが対応テーブルの参照において用いられる例が開示
されている(段落【0059】)。したがって,本件発明における「優
先ルール」について,いずれか1つのキーワード以外を一切仕訳にお
いて用いないものであると限定解釈することはできない。
構成要件13F
被告方法は,クラウドシステム上で行われる会計処理であるから(構成
a),構成要件13F「ことを特徴とする会計処理方法。」を充足する。
イ被告製品1と本件発明1及び10との対比
構成要件1C及び1Eは,構成要件13C及び13Eと実質的に同一であ
るから,被告製品1は構成要件1C及び1Eを充足する。また,被告製品1
は,会計処理を行うクラウドシステムであるから(構成a),構成要件1F
「ことを特徴とする会計処理装置。」及び構成要件10B「ことを特徴とす
る請求項1に記載の会計処理装置。」を充足する。
ウ被告製品2と本件発明14との対比
構成要件14C及び14Eは,構成要件13C及び13Eと実質的に同一
であるから,被告製品2は構成要件14C及び14Eを充足する。また,被
告製品2は,クラウドシステムにおいて会計処理を提供するためのプログラ
ムであるから,構成要件14F「ことを特徴とする方法を実行させるための
会計処理プログラム。」を充足する。
《被告の主張》
ア被告方法と本件発明13との対比
構成要件13C
本件発明における「対応テーブル」とは,「取引内容の記載に含まれう
るキーワードと勘定科目との対応づけを保持する対応テーブル」であり,
そのクレームの文言上,特定のキーワードの1つ1つに対して特定の勘定
科目が対応づけられているテーブルを意味することは明らかである。な
お,「テーブル」とは何らかのデータ全般を意味するのではなく,「配列」
すなわち対比表のデータのことを意味する。
一方,被告製品の本件機能は,いわゆる機械学習を利用して,入力され
た取引内容に対応する勘定科目をコンピュータが「推測」するものである。
機械学習とは,「コンピュータにヒトのような学習能力を獲得させるため
の技術の総称」といわれており,コンピュータが,データ識別等の判断に
必要なアルゴリズムを,事前に取り込まれる学習データから自律的に生成
し,新たなデータについてこれを適用して予測を行う技術のことをいう。
被告は,これまでのサービスの提供を通じて自らが保有する莫大な数の実
際の仕訳情報の中から抽出した膨大なデータを,学習データとして利用す
ることで(すなわち,既に正解が判明している大量の取引データをコンピ
ュータに入力して学習させることで),新たな取引についても,より高い
確率で適切な勘定科目に仕訳することができるようなアルゴリズムをコン
ピュータに自律的に生成させ,これを本件機能に用いているのである。こ
のアルゴリズムは,極めて複雑な多数の数式の組み合わせから構成される
ものであって,キーワードと勘定科目の「対応テーブル」を参照するなど
というものではないし,そもそもキーワードと勘定科目が対応づけられた
テーブルなど保持していない。
このことは,実際にMFクラウド会計の本件機能を使って,様々な入力
例に対して提案される自動仕訳の結果(乙1)によっても明らかである。
例えば,本取引⑥における「店舗チケット」の入力に対する出力は,「店
舗チケット」を構成する「店舗」に対応する「福利厚生費」又は「チケッ
ト」に対応する「短期借入金」のいずれでもない「旅費交通費」となって
いるし,本取引⑦も同様であるが,このような結果は,原告が主張するよ
うな「対応テーブル」が存在するとすれば説明がつかない。また,本取引
⑮と⑯,⑰と⑱,⑮と⑰,⑯と⑱をそれぞれ比べると分かるように,取引
金額やサービスカテゴリーが変わることによって,表示される勘定科目が
異なったものになっているから,本件機能は,単にキーワードのみに着目
して,特定の単語に対応する特定の勘定科目を出力している訳でもなく,
このことからも本件機能が「対応テーブル」を有していないことは明らか
である。さらに,本取引⑲ないし㉒では,通常の日本語にはない単語,す
なわち「対応テーブル」に登録されているはずのない単語が摘要に記載さ
れている場合であっても,特定の勘定科目が表示されており,本件機能が,
ある特定のキーワードに着目して,かかるキーワードと勘定科目との「対
応テーブル」を参照するという方法を採用していないことを端的に示して
いる。
このように,被告方法は,摘要の記載に含まれ得るキーワードと勘定科
目との対応づけなど保持しておらず,勘定科目を自動的に付与するために,
そのような対応づけを参照することもないから,構成要件13Cを充足し
ない。
構成要件13E
本件発明における「優先ルール」とは,漠たる「優先する規則」全般を
意味するものでなく,クレームの文言自体から明らかなとおり,取引内容
に含まれる複数のキーワードに対し適用されるルールであって,複数のキ
ーワードの中から「優先順位の最も高いキーワード」を1つ選出するため
のルールである。
一方,本件機能は,摘要に複数の単語が記載されている場合,それら全
ての単語を機械学習により自律的に生成されたアルゴリズムに入力して勘
定科目を推定しており,勘定科目の仕訳に用いるキーワードを一つに絞る
ことはしていないから,そもそも「優先順位の最も高いキーワード」が選
出されることはないし,「優先ルール」に相当するものも存在していない。
このことも,本件機能を使った実際の自動仕訳の結果(乙1)から明ら
かである。例えば,本取引⑦は,「商品店舗チケット」の入力に対し勘定
科目の推定結果として「仕入高」が出力されているが,各キーワードであ
る「商品」,「店舗」及び「チケット」を入力とした場合(本取引①ないし
③)の出力である「備品・消耗品費」,「福利厚生費」及び「短期借入金」
のいずれとも一致していないから,本件機能に「優先ルール」が存在しな
いことが明らかである。
したがって,被告方法は構成要件13Eを充足しない(そもそも,上記
のとおり,本件機能は「対応テーブル」を保持していないから,この点
からも構成要件13Eを充足しない。)
構成要件13F
被告方法は,少なくとも構成要件13C及び13Eを充足しないから,
構成要件13Fも充足しない。
イ被告製品1と本件発明1及び10との対比
構成要件13C及び13Eについてと同様の理由により,被告製品1は,
構成要件1C及び1Eを充足しない。また,このことにより,被告製品1
は,構成要件1F及び10Bも充足しない。
ウ被告製品2と本件発明14との対比
構成要件13C及び13Eについてと同様の理由により,被告製品2は,
構成要件14C及び14Eを充足しない。また,このことにより,被告製品
2は,構成要件14Fも充足しない。
争点2(均等侵害の成否)について
《原告の主張》
仮に,被告方法において参照される対応づけを表すデータ(構成g)に本
件発明の「対応テーブル」と異なる部分があるとしても,均等侵害が成立す
る。
ア第1要件について
本件発明は,原告サービスの開発過程で生まれた,従来技術には見られな
い特有のコンセプトであり,①ウェブ明細データをクラウドコンピューティ
ングにおける会計処理に用い,②当該ウェブ明細データに含まれる各取引に
与えるべき勘定科目を自動的に付与するための対応づけを保持させておく。
そして,③上記対応づけを各取引内容の記載に基づいて参照する際に,当該
記載に複数のキーワードが含まれる場合に,取引の正確な分析の上で支配的
なキーワードを優先する処理を行うことによって,上記対応づけに保持され
ていない,いわば未知の記載が入力されても,仕訳結果の精度を高める。上
記①ないし③が有機的に結びつくことによって,本件発明は,クラウド会計
ソフトにおける仕訳の自動化を初めて実用的に可能とし,原告サービスの劇
的な普及を支えたから,上記①ないし③が,本件発明の本質的部分である。
被告製品及び被告方法は,①ウェブ明細データをクラウドコンピューティ
ングにおける会計処理に用い(構成a及びb),②当該ウェブ明細データに
含まれる各取引に与えるべき勘定科目を自動的に付与するための対応づけを
保持させておき(構成cないしg),③上記対応づけを各取引内容の記載に
基づいて参照する際に,当該記載に複数のキーワードが含まれる場合,取引
の正確な分析の上で支配的なキーワードを優先する処理を行う(構成e及び
g)。
したがって,被告製品及び被告方法は,本件発明の本質的部分である上記
①ないし③をすべて用いるものであり,本質的部分において異なる部分はな
く,均等侵害の第1要件を充足する。
イ第2要件について
本件機能も本件発明も,入力された取引を特定の勘定科目に自動的に仕訳
する機能を有している点においては共通しており,また,ウェブ上から明細
データを取り込むことによって取引を入力しているから,被告製品及び被告
方法においても,事後的なウェブ明細データの分析を通じた自動仕訳という
本件発明と共通した課題解決原理によって,簡便な会計処理装置,会計処理
方法及び会計処理プログラムを提供するという本件発明と同一の目的を達す
ることができる。
被告製品及び被告方法において,対応づけを表すために,本件発明の「対
応テーブル(狭義解釈)」を機械学習の学習成果によって置換すれば,ヒト
により生成された「対応テーブル(狭義解釈)」と同等の結果をもたらすこ
とが明らかであり,それが機械学習の目的であるといっても過言ではない。
したがって,被告製品及び被告方法は,均等侵害の第2要件を充足する。
ウ第3要件について
被告製品の生産及び使用並びに被告方法の使用は,平成28年8月30日
に開始されているところ,当該開始時点において,本件発明の「対応テーブ
ル(狭義)」を機械学習の学習成果により置き換えることは,当業者におい
て容易に想到できたことが明らかである。
被告が用いる機械学習のソフトウェアは「MicrosoftAzure」であると合
理的に解されるところ,「MicrosoftAzure」は,機械学習サービスである
「AzureMachineLearning」を平成26年11月から無償のトライアルとし
て広く提供しており,この当時から,機械学習に「必要な環境は全て提供
されていて,Webブラウザーとインターネットに接続できる回線があれ
ば,すぐに始めることができ」るようになりつつあった(甲15)。してみ
れば,被告製品の生産及び使用並びに被告方法の使用の開始時点である平
成28年8月30日には,キーワードと勘定科目との対応づけをヒトによ
って生成するのではなく,学習データさえあれば「AzureMachine
Learning」を用いて機械学習の成果物とすることが極めて容易であった。
なお,仮に被告が用いる「機械学習のソフトウェア」が「AzureMachine
Learning」でないとしても,上記開始時点における技術水準として,機械
学習の利用が容易になっていたことは変わらず,置換容易性に影響を与え
ない。
また,「優先ルール(狭義)」についても同様であり,これをヒトによ
って生成するのではなく,機械学習の成果物とすることは極めて容易であ
った。
したがって,被告製品及び被告方法は,均等侵害の第3要件を充足する。
エ第4要件及び第5要件について
第4要件及び第5要件の充足を否定する事情は見当たらない。
《被告の主張》
原告は,本件発明の構成中,被告製品及び被告方法と異なる部分として,
「対応テーブル」のみを前提としているようであるが,前記のように,被告製
品及び被告方法は,さらに少なくとも「優先ルール」をも充足しないから,仮
に原告の主張を前提としても,均等侵害が成立することはない。この点を措い
ても,被告製品・方法は,少なくとも均等侵害の第1要件,第2要件,第3要
件及び第5要件を欠くから,均等侵害は成立しない。
ア第1要件について
本件発明は,出願審査の過程において,進歩性欠如等を理由とする平成2
5年11月1日付拒絶理由通知(乙3)を受けた。本件発明の構成要件13
E以外の構成は,拒絶理由通知の引用文献(乙4,乙5)に全て開示されて
いた。そのため,原告は,平成25年12月17日付手続補正書(乙6)に
おいて,構成要件13Eの構成を追加する減縮を行い,その結果特許査定を
受けた。以上の経緯によれば,本件発明の従来技術に見られない特有の技術
的思想を構成する特徴的部分は,構成要件13Eであることが明らかである。
したがって,本件発明の本質的部分は,取引内容の記載に複数のキーワー
ドが含まれる場合にキーワードの「優先ルール」を適用し,優先順位の最も
高いキーワードにより,「対応テーブル」の参照を行う構成であるから,当
該構成を備えていない被告製品・方法は,本件発明と本質的部分が相違して
おり,均等侵害の第1要件を欠いている。
イ第2要件について
本件発明は,各取引の取引内容の記載に複数のキーワードが含まれている
場合において,「優先ルール」を適用することによりキーワードを1つに絞
り,そのキーワードを用いて「対応テーブル」を参照することにより,各取
引の勘定科目を自動的に仕訳するものである。
これに対して,被告製品・方法は,取引内容の記載に複数のキーワードが
含まれている場合はそれら全てのキーワードと,さらにサービスカテゴリや
金額も,機械学習により自律的に生成されたアルゴリズムに入力して,勘定
科目を選択している。
このように勘定科目を選択するアルゴリズムが全く異質である以上,どれ
だけ精度の高い勘定科目を選定できるかという作用効果は,本件発明と被告
製品・方法とで異なっていると考えられる。
したがって,両者の作用効果(適切な勘定科目を選択する精度)は異なっ
ており,均等侵害の第2要件も欠いている。
ウ第3要件について
各取引の取引内容の記載に複数のキーワードが含まれている場合において,
「優先ルール」を適用することによりキーワードを1つに絞り,そのキーワ
ードを用いて「対応テーブル」を参照することにより,各取引の勘定科目を
自動的に仕訳するという本件発明の構成と,取引内容の記載に複数のキーワ
ードが含まれている場合はそれら全てのキーワードと,さらにサービスカテ
ゴリや金額も,機械学習により自律的に生成されたアルゴリズムに入力して,
勘定科目を選択するという被告製品・方法の構成は,技術的に全く異質のも
のであり,現時点においてさえ置換が容易といえないことが明らかである。
したがって,均等侵害の第3要件も欠いている。
なお,被告製品・方法においては,「MicrosoftAzure」を利用していない。
エ第5要件について
上記のとおり,原告は,本件特許の出願審査の過程において,拒絶理由を
解消するために構成要件13Eを追加する補正を行い,これにより特許査定
を受けることができた。これによれば,原告は,構成要件13Eを備えない
構成を特許請求の範囲から意識的に除外したものであるから,均等侵害の第
5要件も欠いている。
争点3(被告製品及び被告方法の特定の適否)について
《原告の主張》
被告が提供する会計サービス「MFクラウド会計」は,それが一つの会計ソ
フトとして有償又は無償で提供されているものであり,本件機能を含む各機能
が個別に提供されるものではないから,原告は本件機能追加以降の上記サービ
スを対象として,被告製品及び被告方法を十分特定している。
《被告の主張》
原告が請求原因において対象としているのは,被告が平成28年8月20日
にリリースした勘定科目提案機能(本件機能)であるところ,被告製品及び被
告方法には,本件機能と無関係な多くの機能を提供するシステム,プログラム
及び方法が含まれているから,広範に過ぎて特定が不十分であるし,本件訴訟
の提起が濫用的な権利行使であることを強く窺わせるから,原告の請求は直ち
に棄却されるべきである。
第3当裁判所の判断
1争点1(文言侵害の成否)について
構成要件13C及び13Eについて
ア構成要件13C及び13Eの解釈
前記のとおり,本件発明13の構成要件13Cは,「前記ウェブサーバ
が,各取引を,前記各取引の取引内容の記載に基づいて,前記取引内容の
記載に含まれうるキーワードと勘定科目との対応づけを保持する対応テー
ブルを参照して,特定の勘定科目に自動的に仕訳するステップと,」とい
うものであり,構成要件13Eは,「前記対応テーブルを参照した自動仕
訳は,前記各取引の取引内容の記載に対して,複数のキーワードが含まれ
る場合にキーワードの優先ルールを適用し,優先順位の最も高いキーワー
ドにより,前記対応テーブルの参照を行う」というものである。
そして,①テーブルとは,「表。一覧表。」(広辞苑第6版)の意味を有
することからすると,本件発明13における「対応テーブル」とは,結
局,「取引内容の記載に含まれうるキーワードについて対応する勘定科目
を対応づけた対応表のデータ」を意味すると解されること,②仮に取引内
容に含まれた1つのキーワード以外のキーワードも仕訳に使用するのであ
れば,「優先順位の最も高いキーワードを選択し,それにより対応テーブ
ルを参照する」ことをあえて規定する意味がなくなるし,「対応テーブ
ル」(取引内容の記載に含まれうるキーワードについて対応する勘定科目
を対応づけた対応表のデータ)をどのように参照するかも不明になるこ
と,③本件明細書においても,取引内容に含まれた1つのキーワードのみ
を仕訳に使用する構成以外の構成は一切開示されていないこと,以上の諸
点を考慮して,上記構成要件の文言を解釈すると,結局,本件発明13
は,「取引内容の記載に複数のキーワードが含まれる場合には,キーワー
ドの優先ルールを適用して,優先順位の最も高いキーワード1つを選び出
し,それにより取引内容の記載に含まれうるキーワードについて対応する
勘定科目を対応づけた対応テーブル(対応表のデータ)を参照することに
より,特定の勘定科目を選択する」という構成のものであると解すべきで
ある。
イ原告の主張について
これに対し,原告は,構成要件13Eには,優先順位の最も高いキーワ
ードにより対応テーブルを参照して自動仕訳を行うことが規定されている
のであって,当該キーワード以外のキーワードの取り扱いについて限定的
な記載はなく,いずれか1つのキーワード以外を一切仕訳において用いな
いものであると限定解釈することはできず,本件明細書においても,いず
れか1つのキーワードに限られず,各キーワードが対応テーブルの参照に
おいて用いられる例が開示されている(段落【0059】)とか,構成要
件13Cは「前記各取引の取引内容の記載に基づいて」仕訳処理を行うと
され,「取引内容の記載『のみ』に基づ」くと規定されていないと主張す
る。
しかしながら,上記アで説示したとおり,原告主張のように,取引内容
に含まれた1つのキーワード以外のキーワードも仕訳に使用するのであれ
ば,「優先順位の最も高いキーワードを選択し,それにより対応テーブル
を参照する」ことをあえて規定する意味がなくなるし,「対応テーブル」
(取引内容の記載に含まれうるキーワードについて対応する勘定科目を対
応づけた対応表のデータ)をどのように参照するかも不明になるから,原
告の上記解釈は不合理なものといわざるを得ない。
現に,本件明細書には,取引内容に含まれた1つのキーワード以外も仕
訳に使用することは一切開示されていない。なお,原告の指摘する段落
【0059】の記載は,「上記例に戻ると,本発明の一実施形態では,対
応テーブルに,「モロゾフ」,「JR」,「三越伊勢丹」がそれぞれ登録
されており,「モロゾフ」はおおよそ取引が推測できるpartnerキ
ーワードとして,「JR」は多角的な企業グループとして,「三越伊勢丹」
は商業施設名として登録されている。上記例は,当該対応テーブルを参照
するとこの3つのキーワードに部分一致することとなるが,この中で,最
も説明力が高いと考えられる「モロゾフ」が勘定科目を規定し,「接待費」
が候補として自動的に表示される。」というものであるから,取引内容に
含まれる「モロゾフ」という1つのキーワードのみによって対応テーブル
を参照していることが明らかである。
したがって,原告の上記主張はいずれも採用できない。
被告方法について
ア被告方法の認定
原告による被告方法の実施結果は,別紙「原告による被告方法の実施結
果」記載のとおりであり,被告による被告方法の実施結果は,別紙「被告
による被告方法の実施結果」記載のとおりである。
上記2つの実施結果は,両立しうるものというべきであり,また,それ
ぞれの信用性を疑わせるような事情は特に認められないところ,後者の実
施結果によれば,次の事実が認められる。
すなわち,入力例①及び②によれば,摘要に含まれる複数の語をそれぞ
れ入力して出力される勘定科目の各推定結果と,これらの複数の語を適宜
組み合わせた複合語を入力した場合に出力される勘定科目の推定結果をそ
れぞれ得たところ,複合語を入力した場合に出力される勘定科目の推定結
果が,上記組み合わせ前の語を入力した場合に出力される勘定科目の各推
定結果のいずれとも合致しない例(本取引⑥⑦⑭)が存在することが認め
られる。例えば,本取引⑦において,「商品店舗チケット」の入力に対し勘
定科目の推定結果として「仕入高」が出力されているが,「商品店舗チケッ
ト」を構成する「商品」,「店舗」及び「チケット」の各単語を入力した場
合の出力である「備品・消耗品費」,「福利厚生費」及び「短期借入金」(本
取引①ないし③)のいずれとも合致しない。
また,入力例③及び④によれば,摘要の入力が同一であっても,出金額
やサービスカテゴリーを変更すると,異なる勘定科目の推定結果が出力さ
れる例(本取引⑮ないし⑱)が存在することが認められる。
さらに,入力例⑤及び⑥によれば,「鴻働葡賃」というような通常の日本
語には存在しない語を入力した場合であっても,何らかの勘定科目の推定
結果が出力されていること(本取引⑲ないし㉒)が認められる。
以上のような被告による被告方法の実施結果によれば,原告による被告
方法の実施結果を十分考慮しても,被告方法が上記アのとおりの本件発明
13における「取引内容の記載に複数のキーワードが含まれる場合には,
キーワードの優先ルールを適用して,優先順位の最も高いキーワード1つ
を選び出し,それにより取引内容の記載に含まれうるキーワードについて
対応する勘定科目を対応づけた対応テーブル(対応表のデータ)を参照す
ることにより,特定の勘定科目を選択する」という構成を採用していると
は認めるに足りず,かえって,被告が主張するように,いわゆる機械学習
を利用して生成されたアルゴリズムを適用して,入力された取引内容に対
応する勘定科目を推測していることが窺われる。
なぜならば,被告方法において,仮に,取引内容の記載に含まれうるキ
ーワードについて対応する勘定科目を対応づけた対応テーブル(対応表の
データ)を参照しているのであれば,複合語を入力した場合に出力される
勘定科目の推定結果が組み合わせ前の語による推定結果のいずれとも合致
しないことや,摘要の入力が同一なのに出金額やサービスカテゴリーを変
更すると異なる勘定科目の推定結果が出力されることが生じるとは考えに
くいし,通常の日本語には存在しない語をキーワードとする対応テーブル
(対応表のデータ)が予め作成されているとは考えにくいからそのような語
に対して何らかの勘定科目の推定結果が出力されることも不合理だからで
ある。
イ原告の主張について
これに対し,原告は,被告による被告方法の実施結果(乙1)のうち,本
取引①ないし⑭については,例えば,本取引⑥の摘要「店舗チケット」に記
載された「店舗」「チケット」「店舗チケット」の三つの単語全てを用いる
というのが被告の主張であるところ,被告は,「店舗チケット」に対応づけ
られた勘定科目を看過していると主張する。しかしながら,被告は,例えば
本取引⑥の摘要「店舗チケット」について「店舗チケット」をキーワードと
しているといった主張はしていないし,そのような事実を認めるに足りる証
拠もない。
また,原告は,本取引⑲ないし㉒では,未知のキーワードの一部に勘定科
目と対応づけられているものがあれば,当該勘定科目が付与されるし,未知
のキーワードについては一律に金額に応じた勘定科目を付与する例外処理の
存在も窺われ,本訴提起後に被告が改変を施した結果とも解することができ
る,と主張する。しかしながら,被告方法について,本取引⑲ないし㉒にお
ける未知のキーワードの一部に勘定科目と対応づけられているものがあると
か,未知のキーワードについて一律に金額に応じた勘定科目を付与する例外
処理が存在するとか,本訴提起後に被告が被告方法に改変を施したといった
原告主張のような事実を認めるに足りる証拠は一切ない。
したがって,原告の上記主張はいずれも採用できない。
小括
したがって,被告方法は構成要件13C及び13Eを充足しない。
さらに,原告は,被告製品1が本件発明1及び10の技術的範囲に属し,被
告製品2が本件発明14の技術的範囲に属するとも主張するが,上記と同様の
理由により,被告製品1は構成要件1C,1E及び10Bを充足せず,また,
被告製品2は構成要件14C及び14Eを充足しない。
2争点2(均等侵害の成否)について
均等侵害の第1要件について
ア本件発明の目的
本件発明は,中小企業及び個人事業主に対し,発生主義の原則に従うべ
き時期的制約が緩やかであるという実情に沿った,簡便かつ安価な会計処理
装置,会計処理方法及び会計処理プログラムを提供することを目的とする
(本件明細書段落【0009】)。
イ本件特許の出願経過
後掲各証拠によれば,原告は,本件特許の出願過程において,出願前に公
知であった特開2011-170490号公報(乙4)及び特開2004-
326300号公報(乙5)記載の発明に基づく進歩性欠如等を理由として,
拒絶理由通知(起案日平成25年11月1日。乙3)を受けたこと,そのた
め,原告は,平成25年12月17日提出の手続補正書(乙6)において,
本件発明1,13及び14について構成要件1E,13E,14Eの構成を
追加する旨の手続補正を行い,それを受けて,平成26年1月7日,特許査
定を受けたこと(甲1),以上の事実が認められる。
ウ公知文献の記載内容
特開2011-170490号公報(乙4)には,SaaS型汎用会計
処理システムにおいて,①事業者システム30から取得した仕訳対象デー
タを解析し、仕訳に必要な取引明細情報を抽出すること(段落【0056】),
②仕訳対象データに含まれる各取引をマッチング対象として、各取引の取
引明細情報内の摘要文字列と明細マッチング情報MD2内の摘要条件の文
字列(キー情報)とを照合し,一致した場合には、その文字列に対応する
明細マッチング情報MD2内の「勘定科目」を読み出すことで、当該取引
の勘定科目を自動判定するマッチング処理を行うこと(段落【0078】-
【0086】),③マッチング処理が完了した時点で、各明細情報の一覧を示す
取得明細一覧画面をユーザ端末20に送信して表示させ,当該取得明細一
覧画面上で一つの取引を選択すると,当該取引の仕訳情報入力画面をユー
ザ端末20に送信して表示させ,仕訳情報である「相手勘定科目」,「相手
補助科目」,「摘要」等の入力・変更ができること(段落【0087】-【0093】),
が開示されていると認められる。
エ本件発明の本質的部分について
本件明細書の従来技術として上記ウの公知文献は記載されておらず,同記
載は不十分であるため,上記公知文献に記載された発明も踏まえて本件発明
の本質的部分を検討すべきである。
そして,上記公知文献の内容を検討すると,上記ウ①,②から,取引明細
情報は,取引ごとにマッチング処理が行われることからすれば,乙4に記載
されたSaaS型汎用会計処理システムにおいても,当該取引明細情報を取
引ごとに識別することは当然のことである。
また,上記ウ③の「取得明細一覧画面上」の「各明細情報」は,マッチン
グ処理済みのデータであるから,「取得明細一覧画面」は「仕訳処理画面」
といえる。
さらに,上記ウ③の「仕訳情報入力画面」は,従来から知られているデー
タ入力のための支援機能の一つに過ぎず(段落【0002】,【0057】),表示され
た取引一覧画面上で各取引に係る情報を当該画面から直接入力を行うこと及
び該入力の際プルダウンメニューを使用することも普通に行われていること
(特開2004-326300号公報(乙5)段落【0066】-【0081】)から
すれば,「取引明細一覧画面」に仕訳情報である「相手勘定科目」等を表示
し変更用のプルダウンメニューを配置することは当業者が適宜設計し得る程
度のことである。
以上によれば,本件発明1,13及び14のうち構成要件1E,13E及
び14Eを除く部分の構成は,上記公知文献に記載された発明に基づき当業
者が容易に発明をすることができたものと認められるから,本件発明1,1
3及び14のうち少なくとも構成要件1E,13E及び14Eの構成は,い
ずれも本件発明の進歩性を基礎づける本質的部分であるというべきである。
このことは,上記イの本件特許に係る出願経過からも裏付けられる。
原告は,構成要件1E,13E及び14Eの構成について均等侵害を主張
していないようにも見えるが,仮に上記各構成要件について均等侵害を主張
していると善解しても,これらの構成は本件発明1,13及び14の本質的
部分に該当するから,上記各構成要件を充足しない被告製品1,2並びに被
告方法については,均等侵害の第1要件を欠くものというべきである。
均等侵害の第5要件について
上記イ認定の本件特許に係る出願経過によれば,原告は,構成要件1E,1
3E及び14Eの各構成を有さない対象製品等を本件発明1,13,及び14
に係る特許請求の範囲から意識的に除外したものと認められるから,被告製品
1,2並びに被告方法については,均等侵害の第5要件をも欠くというべきで
ある。
小括
したがって,被告製品1,2並びに被告方法については,均等侵害も成立し
ない。
3結論
よって,その余の点について検討するまでもなく,原告の請求はいずれも理由
がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(なお,本件においては,原告から「被告が本件機能につき行った特許出願にか
かる提出書類一式」を対象文書とする平成29年4月14日付け文書提出命令の
申立てがあったため,当裁判所は,被告に対し上記対象文書の提示を命じた上で,
特許法105条1項但書所定の「正当な理由」の有無についてインカメラ手続を
行ったところ,上記対象文書には,被告製品及び被告方法が構成要件1C,1E,
13C,13E,14C又は14Eに相当又は関連する構成を備えていることを
窺わせる記載はなかったため,秘密としての保護の程度が証拠としての有用性を
上回るから上記「正当な理由」が認められるとして,上記文書提出命令の申立て
を却下したものである。原告は,上記対象文書には重大な疑義があるなどとして,
口頭弁論再開申立書を提出したが,そのような疑義を窺わせる事情は見当たらな
いから,当裁判所は,口頭弁論を再開しないこととした。)
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官沖中康人
裁判官矢口俊哉
裁判官島田美喜子は,差支えのため署名押印できない。
裁判長裁判官沖中康人
(別紙)
被告製品目録
1会計サービス「MFクラウド会計」を提供するクラウドシステム
2会計サービス「MFクラウド会計」を提供するためのプログラム
(別紙)
被告方法目録
会計サービス「MFクラウド会計」を提供する方法
(別紙)
原告主張に係る被告方法の構成
(1)構成a
被告方法は,クラウド型会計ソフトにより提供されるものであるから(甲
5),クラウドシステム上で行われる会計処理である。
(2)構成b
被告方法は,ウェブから取り込まれた明細データに含まれる各取引について,
取引ごとに勘定科目を自動的に付与しているから(甲6別紙13),クラウド
システムに取り込まれたウェブ明細データを取引ごとに識別する。
(3)構成c
被告方法は,摘要に「タクシー」と記載された取引に「旅費交通費」の勘定
科目を付与し,「五反田」と記載された取引に「会議費」の勘定科目を付与し,
「書店」と記載された取引に「新聞図書費」の勘定科目を付与し,「ドコモ」と
記載された取引に「通信費」の勘定科目を付与している(甲6別紙13)。
したがって,被告方法は,上記クラウドシステムにおいて,摘要の記載に基
づいて,記載に含まれうるキーワードと勘定科目とを対応づけておき,これを
参照することで,摘要の記載に含まれるキーワードに対応する勘定科目を自動
的に付与し,仕訳する。
(4)構成d
被告方法は,上記クラウドシステムにアクセスするユーザーのノートPCの
ウェブブラウザに,日付,金額,摘要及び勘定科目を表示させており(甲6別
紙13),これらを含む仕訳済みデータを作成し,上記ノートPCに送信して
いる。
当該ノートPCに表示される画面には,自動的に提案した勘定科目に「雲の
マーク」がつけられ(甲5),たとえば,「タクシー」と記載された取引に付与
された「旅費交通費」の勘定科目の左側に「雲のマーク」が表示されている。
そして,「雲のマーク」の反対側には下向きの▼によって勘定科目を修正する
ためのプルダウンメニューが示されている(甲6別紙13)。
(5)構成e
被告方法は,摘要に「五反田タクシー」と記載された取引に「五反田」に対
応づけられた「会議費」ではなく「タクシー」に対応づけられた「旅費交通費」
を付与し,「五反田書店」と記載された取引に「五反田」に対応づけられた
「会議費」ではなく「書店」に対応づけられた「新聞図書費」を付与し,「五反
田ドコモ」と記載された取引に「五反田」に対応づけられた「会議費」ではな
く「ドコモ」に対応づけられた「通信費」を付与している(甲6別紙13)。
また,被告方法は,摘要に「五反田タクシー書店」と記載された取引に「五
反田」に対応づけられた「会議費」ではなく,また「書店」に対応づけられた
「新聞図書費」ではなく,「タクシー」に対応づけられた「旅費交通費」を付与
している(甲6別紙13)。
したがって,被告方法は,摘要の記載に複数のキーワードが含まれる場合に,
いずれか1つのキーワードによりキーワードと勘定科目との対応づけを参照し
た結果に基づいて,当該キーワードに対応づけられた勘定科目を付与する。
(6)構成f
被告方法は,上記クラウドシステムをクレジットカードなどの金融機関等の
口座と連携させて,自動的にウェブから明細データを取得可能である(甲6別
紙3)。
(7)構成g
被告方法は,ユーザーによる仕訳結果を教師データとする教師あり学習によ
り生成された,当該教師データに示される摘要の記載と勘定科目との対応づけ
を表すデータを参照する。
(別紙)原告による被告方法の実施結果
1構成cについて
被告方法は,摘要に「タクシー」と記載された取引に「旅費交通費」の勘定
科目を付与し,「五反田」と記載された取引に「会議費」の勘定科目を付与し,
「書店」と記載された取引に「新聞図書費」の勘定科目を付与し,「ドコモ」と
記載された取引に「通信費」の勘定科目を付与している(甲6別紙13)。
被告方法は,摘要に「ホテル」と記載された取引に「旅費交通費」の勘定科
目を付与し,「レストラン」と記載された取引に「接待交際費」の勘定科目を
付与し,「AU」と記載された取引に「通信費」の勘定科目を付与している
(甲8別紙7-1)。
被告方法は,摘要に「カフェ」と記載された取引に「接待交際費」の勘定科
目を付与し,「交通」と記載された取引に「旅費交通費」の勘定科目を付与し,
「FACEBOOK」と記載された取引に「広告宣伝費」の勘定科目を付与して
いる(甲8別紙8-1)。
2構成eについて
被告方法は,摘要に「五反田タクシー」と記載された取引に「旅費交通費」
を付与し,「五反田書店」と記載された取引に「新聞図書費」の勘定科目を付
与し,「五反田ドコモ」と記載された取引に「通信費」の勘定科目を付与して
いる(甲6別紙13)。
また,被告方法は,摘要に「五反田タクシー書店」と記載された取引に「旅
費交通費」の勘定科目を付与している(甲6別紙13)。
被告方法は,摘要に「レストランホテル」と記載された取引に「旅費交通費」
の勘定科目を付与し,「AUホテル」と記載された取引に「旅費交通費」の勘
定科目を付与し,「AUレストラン」と記載された取引に「通信費」の勘定科
目を付与している(甲8別紙7-2)。
そして,被告方法は,摘要に「AUレストランホテル」と記載された取引に
「旅費交通費」の勘定科目を付与している(甲8別紙7-2)。
被告方法は,摘要に「カフェ交通」と記載された取引に「旅費交通費」の勘
定科目を付与し,「FACEBOOKカフェ」と記載された取引に「広告宣伝
費」の勘定科目を付与し,「FACEBOOK交通」と記載された取引に「旅
費交通費」の勘定科目を付与している(甲8別紙8-2)。
そして,被告方法は,摘要に「カフェFACEBOOK交通」と記載された
取引に「旅費交通費」の勘定科目を付与している(甲8別紙8-2)。
(別紙)被告による被告方法の実施結果
入力例①に対する勘定科目の推定結果(乙1の第3,3
摘要(入力)勘定科目の推定結果(出力)
本取引①商品備品・消耗品費
本取引②店舗福利厚生費
本取引③チケット短期借入金
本取引④商品店舗備品・消耗品費
本取引⑤商品チケット備品・消耗品費
本取引⑥店舗チケット旅費交通費
本取引⑦商品店舗チケット仕入高
入力例②に対する勘定科目の推定結果(乙1の第3,3
摘要(入力)勘定科目の推定結果(出力)
本取引⑧東京旅費交通費
本取引⑨還付福利厚生費
本取引⑩電気福利厚生費
本取引⑪東京還付旅費交通費
本取引⑫東京電気旅費交通費
本取引⑬還付電気福利厚生費
本取引⑭東京還付電気接待交際費
入力例③及び④に対する勘定科目の推定結果(乙1の第3,3
摘要(入力)出金額サービス
カテゴリ
勘定科目の推定
結果(出力)
本取引⑮
(本取引
⑧と同
じ)
東京5040円カード旅費交通費
本取引⑯東京500万円カード福利厚生費
本取引⑰東京5040円銀行預り金
本取引⑱東京500万円銀行現金
入力例⑤及び⑥に対する勘定科目の推定結果(乙1の第3,3)
摘要(入力)出金額サービス
カテゴリ
勘定科目の推定
結果(出力)
本取引⑲鴻働葡賃5000円カード仕入高
本取引⑳鴻働葡賃500万円カード備品・消耗品費
本取引㉑鴻働葡賃5000円銀行支払手数料
本取引㉒鴻働葡賃500万円銀行現金

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