弁護士法人ITJ法律事務所

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主    文
1 被告は,原告に対し,418万7451円及びこれに対する平成14年4
月27日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用はこれを10分し,その7を被告の負担とし,その余を原告の負
担とする。
4この判決は第1項に限り仮に執行することができる。
事実
第1当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
 (1)被告は原告に対し608万8617円及びこれに対する平成14年4月2
7日(訴状送達の日の翌日)から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支
払え。
 (2)訴訟費用は被告の負担とする。
 (3)仮執行宣言
 2請求の趣旨に対する答弁
 (1)原告の請求を棄却する。
 (2)訴訟費用は原告の負担とする。
第2当事者の主張
 1請求原因
 (1)賃貸借契約の締結
 被告は,原告との間で,平成14年1月19日,神戸市a区甲町X丁目
Y番Z号Pビル79.57平方メートル(以下「本件物件」という。)につ
き,同建物を次の約定で賃貸する旨の合意をした(以下「本件賃貸借契約」とい
う。)。
 ①賃料(共益費を含む。以下同じ。)  1か月23万円
 ②保証金         300万円
 ③賃借期間       平成14年1月19日から平成16年1月1
8日まで(2年間)
 (2)債務不履行(不完全履行)
 平成14年2月,被告代表者代表取締役A(以下「被告代表者」とい
う。)は,原告に対し,焼肉,焼鳥等の臭気の強いものの営業は不可である旨を告
げ,どうしても焼肉,焼鳥等の営業を行うのであれば臭気を完全に除去するために
6階屋上までダクトを伸ばす必要があり,もしクレームが出たら原告において一切
の責任を負うこと等を要求した。このようにして,被告は,原告に対し,焼肉,焼
鳥等の臭気の出るものの営業を実質的に禁じ,本件賃貸借契約に基づき被告が原告
に対し負担する目的物を使用収益させる義務を怠った。
 (3)解除
 原告は,被告に対し,上記(2)の被告の債務不履行(不完全履行)を理
由として,平成14年2月19日到達の内容証明郵便により,本件賃貸借契約を解
除する旨通知した。
 (4)損害
 原告は,上記(2)の被告の債務不履行(不完全履行)により,次の損害
を被った。
   ア 被告に支払った保証金及び賃料     合計332万6451円
   (ア)被告に対し支払った保証金300万円
   (イ)被告に対し支払った1月分日割賃料9万6451円
   (ウ)被告に対し支払った2月分賃料23万円
   (エ)以上合計332万6451円
   イ開業準備費用              合計86万1000円
   (ア)店舗設計料金45万1500円
   (イ)プランニング管理費用15万7500円
   (ウ)厨房機器運搬預かり費用25万2000円
   (エ)以上合計86万1000円
   ウ 逸失利益190万1166円
 店舗が平成14年3月初旬にオープンしていた場合に得られたであろう
6ヶ月分の得べかりし利益は190万1166円を下らない。すなわち,原告は従
前から居酒屋を営んでおり,平成12年分の所得(=収入-経費)は253万48
89円であった。原告は,被告の上記債務不履行(不完全履行)がなければ,平成
14年3月初旬に新店舗をオープンし,上記所得の1.5倍に相当する実収入=所
得を得ることができた。したがって,253万4889円÷12ヶ月×1.5×6
ヶ月=190万1166円となる。
 (5)よって,原告は,被告に対し,本件賃貸借契約上の債務不履行に基づく損
害賠償請求として,608万8617円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であ
る平成14年4月27日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金の支払を求める。
 2 請求原因に対する認否
 請求原因(1)及び(3)は認め,同(2)は否認する。請求原因(4)の
うち,原告が被告に対しアを支払った点は認めるが,その余は争う。
 3抗弁
 (1)抗弁1(特約の存在)
 本件賃貸借契約には,焼肉,焼鳥等の臭気の強いものの営業は不可である
旨の特約(以下「本件特約」という。)が存在する。したがって,被告に債務不履
行(不完全履行)はない。
 (2)抗弁1に対する予備的抗弁(錯誤無効)
 仮に本件特約が本件賃貸借契約の内容に含まれていなかったとしても,被
告は,本件特約が本件賃貸借契約の内容に含まれていると信じて本件賃貸借契約を
締結したものであるから,本件賃貸借契約は錯誤により無効である。
 (3)抗弁2(帰責事由の不存在)
   ア 被告は,被告側の媒介業者である訴外Lサービス(代表者M(以下「訴外
M」という。))に対し,本件物件を事務所又は焼肉,焼鳥等の臭気の強いものの営
業はしない店舗として賃貸するように依頼していた。
   イ 訴外Lサービスは,原告側の媒介業者である訴外D株式会社乙店(以下
「訴外D」という。)に対し,本件物件を事務所又は焼肉,焼鳥等の臭気の強いも
のの営業はしない店舗として賃貸する旨を伝えた。
   ウ 原告は,訴外Dに対し,おしゃれな居酒屋で,調理をしない軽いつまみ
程度のものを提供する居酒屋を営むと話していたので,訴外Dは,その旨を訴外L
に伝えた。そのため,双方の媒介業者は,「焼肉,焼鳥等の臭気の強いものの営業
は不可」との記載を契約書に入れなかった。
   エ しかしながら,原告は,上記の言動に反して,焼鳥営業を行うと言い出
した。
   オ 以上のとおりであり,被告に帰責事由はない。
 (4)抗弁3(相殺)
   ア 原告は,本件賃貸借契約締結日である平成14年1月19日から,被告
に対して本件物件を明け渡した平成14年12月17日までの間,本件物件を不法
占有した。
   イ 上記期間の賃料相当損害金は252万2334円である。
   ウ 被告は,原告に対し,平成15年2月10日の本件口頭弁論期日におい
て,上記イの損害賠償債権をもって,原告の本訴請求債権をその対当額において相
殺する旨の意思表示をした。
 4 抗弁に対する認否
 いずれも否認する。
 5錯誤無効の抗弁(上記3の(2))に対する再抗弁(被告の重過失)
 本件賃貸借契約の契約書(甲1,乙2)(以下「本件契約書」という。)に
は,本件特約についての記載はなかったが,被告代表者は,被告が本件物件で居酒
屋を営む予定であることを認識しながら,本件特約についての記載がない本件契約
書に記名押印したものであり,被告には,錯誤につき重過失がある。
理由
 1 請求原因(1)(賃貸借契約の締結)及び同(3)(解除)の各事実は当事
者間に争いがない。
 2 特約の存否(抗弁1)及び錯誤無効の主張の可否(抗弁1に対する予備的抗
弁(錯誤無効)及び再抗弁(被告の重過失))について
 (1)証拠(甲1,2,甲3の1,7,8,10~12,16,17,乙1,
2,19,20,証人C1及び同Zの各証言,原告及び被告代表者の本人尋問の結
果)並びに弁論の全趣旨によると,次の事実が認められ,この認定を覆すに足りる
証拠はない。
   ア 本件物件は,平成13年5月末まではJ建設神戸支店の事務所として賃
貸の用に供されていた。同年秋,被告代表者は,訴外Lの当時の従業員だった訴外
K(以下「訴外K」という。)に対し,本件物件の賃貸借の仲介を依頼した。その
際,被告代表者は訴外Kに対し,本件物件を飲食用店舗として賃貸する場合には,
カラオケ禁止,焼鳥,焼肉等強い臭気が出るものは絶対禁止である旨を告げた。
   イ 原告は,神戸市の道路拡張に伴い,従前から営んでいた「焼鳥・居酒屋
O」を移転させる必要が生じた。平成13年12月初旬,原告は,訴外Dの担当者
である訴外E(以下「訴外E」という。)に対し,丙町周辺で20坪~30坪位の
飲食店経営が可能な物件を探すよう依頼した。原告は,「焼鳥・居酒屋O」におい
て,当初は焼鳥中心の営業を営んでいたが,徐々にメニューの多様化を行い,焼鳥
メニューが従となっていた経緯もあり,新しい店舗はおしゃれな居酒屋とし,その
中で焼鳥をメニューの一部として提供することを考えていた。そこで,原告は,訴
外Eに対し,上記依頼の際,新しい店舗はおしゃれな居酒屋としたい旨を告げた。
   ウ 原告からの依頼を受けた訴外Eは,本件物件を探索し,原告に紹介し,
訴外Lに問い合わせて,本件物件に関する資料を送るように要請した。訴外Lは,
同月9日,訴外Dに対し,本件物件のチラシ(甲12)をファックスで送付し,訴
外Dはこれを受け取った。同チラシには「何商可です」との記載がされていた。原
告は,Zから示された本件物件のチラシ(甲7)に「何商可です」との記載がある
のを見て,居酒屋営業に問題はないと判断し,本件物件を賃借しようと決意した。
原告は,同月14日,本件物件の入居申込書(乙1)を作成し,訴外Eに手渡し
た。訴外Eは,同入居申込書を訴外Lに送付した。
   エ 訴外Kは,平成13年12月18日,前記入居申込書を持って,被告代
表者のもとを訪れ,被告代表者に同入居申込書を渡した。被告代表者は従前と同様
に事務所として貸すことを希望していたが,同入居申込書を見ると,業種欄に「居
酒屋」との記載があったので,訴外Kに対し,念のため,カラオケ禁止,焼鳥,焼
肉等の臭気の強いものの営業不可との特約条項を賃貸借契約の内容として設けるよ
う指示した。
   オ 原告は,訴外E作成の平成13年12月22日付け連絡書(甲8)に基
づき,同月28日,訴外Dの事務所に赴き,訴外Eから重要事項の説明を受けた。
原告が,同日,訴外Eから受け取った重要事項説明書(甲2)は,訴外Lが作成
し,訴外Dに交付したものであるが,同重要事項説明書の特約事項欄には,カラオ
ケ不可とのみ記載されており,本件特約についての記載はない。
   カ 原告は,平成14年1月18日ころまでに保証金300万円,1月分日
割賃料9万6451円及び2月分賃料23万円を支払い,そのころ訴外Lが作成
し,訴外Dに交付した本件契約書に署名押印をした。本件契約書には本件特約につ
いての記載はなされていない。
   キ 被告代表者は,平成14年1月19日,訴外Kから原告による署名押印
済みの本件契約書を受け取った。その際,被告代表者は,本件契約書に本件特約に
ついての記載がないことに気付いたが,訴外Lを信頼していたこともあり,訴外K
に対して本件特約を本件契約書に記載するよう指示したのみで,これに被告名義の
記名押印をした。
   ク 原告は,原告側の媒介業者である訴外Dから本件賃貸借契約締結前に本
件特約については何ら聞かされておらず,本件賃貸借契約に本件特約が付されてい
るとは考えていなかった。また,本件賃貸借契約締結後も本件特約についての被告
側の申し出を承諾したことはない。
 (2)本件特約の存否
 上記認定のとおり,被告代表者は,本件物件を賃貸するに当たり,焼鳥,
焼肉等強い臭気が出るものの営業は禁止するとの意向を有しており,その旨を訴外
Kに伝えていたものではあるが,かかる被告側の意向は原告には伝わっていなかっ
た。そこで,原告は,本件賃貸借契約に本件特約が付されているとは思わずに本件
契約書に署名押印をした。実際に本件契約書には本件特約についての記載はされて
いなかった。そして,平成14年1月19日,訴外Kから原告の署名押印済みの本
件契約書を受け取った被告代表者は,本件特約が記載されていないことを認識しな
がら本件契約書に記名押印をしている。このような事実に照らすと,原告と被告と
の間では,本件特約についての合意はなされておらず,焼鳥,焼肉等の臭気の強い
ものの営業は不可であるとの制限の付されていない賃貸借契約が成立したものと認
めるのが相当である。したがって,本件特約は本件賃貸借契約の内容となっておら
ず,原告は,被告に対し,本件賃貸借契約に基づく義務として,焼鳥,焼肉等の臭
気の強いものの営業を行わないとの義務を負うものではないというべきである。
 (3)錯誤無効の主張の可否
 上記認定のとおり,被告代表者は,被告側の媒介業者である訴外Lの担当
者である訴外Kに対し,本件物件の賃貸借の仲介を依頼する際,飲食店舗として貸
す場合には,焼鳥,焼肉等強い臭気が出るものは絶対禁止であると告げており,ま
た,本件契約書に記名押印する際にも,本件特約を本件契約書に記載するよう指示
している。したがって,被告代表者は,本件特約付きの賃貸借契約を締結するつも
りで,本件特約についての記載のない本件契約書に記名押印をしたものと認められ
る。
 しかしながら,賃貸借契約書に記名押印することにより当該賃貸借契約書
の内容がそのまま賃貸借契約の内容になる蓋然性が高いことは,不動産業者はもと
より一般人でも容易に予測できることであり,貸ビルを所有し,不特定多数人との
間で賃貸借契約を締結している被告(乙12~16)であれば,当然に予測して然
るべきことであるといえる。また,被告代表者は,本件特約の存在を重要視してい
たものであるところ,本件契約書には本件特約についての記載がなかったのである
から,本件契約書に記名押印する前に本件特約の追加記載を求めるなどの慎重な処
理をすべきであったといえる。にもかかわらず,被告代表者は,このような措置を
とることなく,本件契約書に被告名義の記名押印をしており,その結果,上記
(2)のとおり,本件特約による制限のない賃貸借契約が成立している。かかる事
情に照らすと,仮に,上記第2の3の(2)の被告主張の錯誤が存するとしても,
被告にはかかる錯誤につき重過失が存するものと認められる。
 したがって,本件賃貸借契約は,錯誤により無効となるものではない。
 3 債務不履行(不完全履行)の存否(請求原因(2))及び帰責事由の存否
(抗弁2)について
(1)証拠(甲1,11,15,乙8~15,17の1~4,19,20,2
4,証人C1及び同C2の各証言,原告及び被告代表者の本人尋問の結果)並びに
弁論の全趣旨によると,次の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はな
い。
   ア 被告は,本件物件を含む5階建てビル「Pビル」につき,その1階から
3階までを賃貸の用に供するとともに,4階を被告代表者の自宅として,5階を被
告の事務所としてそれぞれ使用している。1階東側が本件物件であり,1階西側は
接骨院に賃貸されている。また,2階部分は事務所として,3階は住居(9戸)と
して,それぞれ賃貸されている。
   イ 被告代表者はPビルとは別の場所で焼肉店「天赦園」を経営している。
   ウ 上記2の(1)のキのとおり,被告代表者は,本件契約書への記名押印
の際,訴外Kに対して本件特約を本件契約書に記載するよう指示している。しかし
ながら,平成14年1月下旬ころ,かかる指示にも関わらず,被告の意思に反して
本件契約書に焼鳥,焼肉等強い臭気の出る営業を行わないことを内容とする特約が
抜けたままになっていることが判明した。
   エ 平成14年2月2日,天赦園に,原告,被告代表者,訴外E,訴外M,
訴外Lの宅地建物取引主任者である訴外Nらが集まって,話し合いをした。その
際,原告は,被告代表者に対し,本件物件に排煙装置を設置し,近隣住民に対する
臭気の影響を軽減する配慮を行うので焼鳥メニューを含んだ居酒屋営業を認めて欲
しい旨告げた。しかしながら,被告代表者はこれに応じず,本件特約の存在を主張
した上,もし焼鳥をやりたいのであれば,臭気が出ないように屋上の高さより高い
ダクトを完備すること,近隣やJRからの苦情があった場合には原告の責任で対処
することを要求した。
   オ 平成14年2月9日,被告代表者,訴外E及び訴外Mは,再び集まって
話し合ったが,結局,被告代表者の意思は変わらず,被告代表者は,訴外Eと訴外
Mに対し,Pビルの屋上以上の高さのダクトを完備して営業するように告げた。
   カ 原告は,本件賃貸借契約には本件特約が付されているわけでもないの
に,本件物件の上階に居住する被告代表者が上記エのとおりの要求をしていること
から,もはや本件物件において居酒屋を経営することは困難であると考え,請求原
因(3)のとおり,平成14年2月19日到達の内容証明郵便により本件賃貸借契
約を解除する旨の通知をした。
 (2)そこで,判断するに,被告は,原告以外の者に対して,接骨院,事務所又
は住居として使用する目的でPビル内の他の部屋を賃貸しているところ,賃貸人は
賃借人に対してその使用収益に支障が生じないよう貸室を使用収益するのに適した
状態に置く義務を負っているのであるから,被告は,原告に本件物件を賃貸するに
際しても,他の賃借人の使用収益に支障が生じないよう配慮する義務を負っている
といえる。したがって,被告が原告に対して,他の賃借人の使用収益に支障が生じ
ないような対処処置を講じるよう求めることも,賃貸人の立場上やむを得ないもの
といわなければならない。
 しかしながら,上記認定のとおり,本件賃貸借契約は,原告が本件物件を
居酒屋として使用することを目的として締結されたものであるところ,本件賃貸借
契約には本件特約による制限はなされていないと認められるのであるから,被告
は,原則として原告が焼鳥,焼肉等の営業を行うことを妨げる権利を有しないとい
うべきである。また,原告は,自らの費用で本件物件に排煙装置を設置することを
提案するなど,近隣住民に対する臭気の影響を軽減するための処置を講じる意向を
有していたのであり,他の賃借人に迷惑を掛けないよう配慮していたと認められ
る。さらに,原告がかかる排煙措置を設置しようとしていたことを考えると,本件
全証拠によるも,原告が本件物件において焼鳥メニューを含んだ居酒屋営業を開始
することにより,直ちに他の賃借人の使用収益に支障が生じるような状況にあった
とは認めるに足りない。一方,被告代表者は,平成14年2月2日の話し合いの
際,根拠のない本件特約の存在を主張して原告の排煙装置の設置提案を拒否してい
る上,もし焼鳥メニューを含んだ居酒屋営業を行いたいのであれば,臭気が出ない
ように屋上の高さより高いダクトを完備し,近隣やJRからの苦情があった
場合には原告の責任で対処しなければならない旨の過大な要求をし,事実上,原告
の居酒屋営業を困難ならしめる言動に出ている。これらの事情を総合勘案すると,
被告は,本件賃貸借契約に基づき原告に対して負担する目的物を使用収益させる義
務を怠ったものと認められる。
 (3)この点,被告は,抗弁2において,被告に帰責事由はない旨主張する。 
 確かに,被告は,自らの媒介業者である訴外Lに対して,焼肉,焼鳥等強い臭気
が出るものは絶対禁止である旨告げており,本件契約書には本件特約の記載はなか
ったものの,訴外Lを信頼していたことから訴外Kに本件特約の追加記載を指示し
て被告名義の記名押印を行ったものである。かかる事実経過に加え,本件契約書を
作成したのが訴外Lであったことを併せ考えれば,原告・被告間の本件紛争は,媒
介業者である訴外Lが被告の意向に沿った事務処理を行わなかったことが原因であ
るといえる。しかしながら,このような事情は,被告側の内部問題であり,原告に
対してそのまま主張できる事情であるとはいい難い。また,上記(2)で認定した
とおり,被告代表者は,原告が臭気によって他の賃借人に迷惑を掛けないように排
煙装置設置の提案をしていたにもかかわらず,同排煙装置の効果等について十分な
検討をすることなく一方的にこれを拒否し,屋上以上の高さのダクトの完備と近隣
住民等からの苦情処理という過大な要求をしている。かかる事実に照らすと,上記
(2)の義務違反につき,被告には帰責性があるというべきであり,
帰責性の不存在に関する被告の主張には,理由がない。
 (4)よって,被告の債務不履行(不完全履行)を理由とする請求原因(3)の
解除は有効であり,原告は,被告に対し,同債務不履行(不完全履行)と相当因果
関係のある損害を賠償すべき責任を負う。
 4不完全履行による損害の範囲(請求原因(4))
(1)被告に支払った保証金及び賃料     合計332万6451円
 原告が被告に対し,本件賃貸借契約に基づき,保証金300万円,1月分
日割賃料9万6451円及び2月分賃料23万円を支払ったことは,当事者間に争
いがない。原告は,居酒屋営業を行う目的で本件賃貸借契約を締結し,上記各金員
を被告に対して支払ったところ,被告の前記不完全履行によって本件物件の使用収
益が妨げられ,本件賃貸借契約を解除せざるを得なくなったのであるから,これら
の既払いの保証金及び賃料は,被告の不完全履行と相当因果関係のある損害である
と認められる。
 (2)開業準備費用              合計86万1000円
 証拠(甲3の1,4の1及び2,5,6,11,14~17,原告本人尋
問の結果)によれば,原告は,平成14年3月初旬の新店舗開店を目指し,そのた
めの開業準備費用として,a店舗設計料金45万1500円,bプランニング管理費
用15万7500円及びc厨房機器運搬預かり費用25万2000円(以上合計86
万1000円)を負担し,有限会社山一住建等の業者にこれらの費用を支払ったこ
とが認められる。同各証拠によれば,a及びbは,原告が本件賃貸借契約の目的であ
る居酒屋営業の開店に向けて本件物件の内装等を計画するために支払った費用であ
り,cは,原告が新店舗開店に向けて従前使用していた厨房機器を本件物件に運び込
む前に,これを一時的に倉庫に預けた際に必要となった費用であり,いずれも,被
告の不完全履行と相当因果関係のある損害であると認められる。
 (3)原告は,上記第2の1の(4)のウのとおり,被告の不完全履行に基づく
損害として6ヶ月分の営業利益(収入から経費を差し引いたもの)を請求している
ところ,証拠(甲3の1,11,13)によれば,原告の平成12年分の所得(=
収入-経費)は253万4889円であったこと,原告は,平成14年3月初旬に
本件物件において新店舗の営業を開始する予定であったが,被告の不完全履行のた
めに本件物件における営業ができず,その後,同年8月25日に別の場所に店舗を
借りてラーメン店を開店したものであることが認められる。
 しかしながら,原告に現実に生じた上記(1)及び(2)の積極損害が被
告の負担に帰すべき原告の損害に当たることは当然であるとしても,本件紛争は,
被告の媒介業者である訴外Lが被告の意向に沿った事務処理を行わなかったことが
原因となっているのであるから,原告の営業上の逸失利益(消極損害)までをも被
告に負担させることは,被告にとって酷であると考えられる。確かに,上記3の
(3)で述べたとおり,被告に上記不完全履行についての帰責性があることは明ら
かであり,訴外Lが被告の意向に沿った事務処理を行わなかったことは,被告側の
内部問題であるのではあるが,そうであるからといって,上記消極損害までをも被
告に賠償させることは,本件事実関係の下においては,損害の公平な分担の見地に
照らして,なお疑問である。一方,原告としても,従前から「焼鳥・居酒屋O」を
営んでいたのであるから,焼鳥メニューによる営業が近隣住民等に迷惑を掛けるか
もしれないことは容易に想像できることである上,Pビルの他の貸室の利用状況
(上記3の(1)のア)に照らせば,チラシに「何商可です」との記載があったと
しても,今後臭気が問題となることは十分に予想できたことであるといえ
る。そして,原告が,おしゃれな居酒屋をやりたいと告げるのみではなく,焼鳥メ
ニューによる営業も行うつもりであることを契約締結前に明確に告げていれば,本
件紛争は生じなかったものとも考えられる。かかる事情に照らすと,原告主張の逸
失利益は,被告が負担すべき原告の損害には含まれないと認めるのが相当である。
(4)損害合計=上記(1)+上記(2)=418万7451円
 5 相殺(抗弁3)について
証拠(甲18,乙18,21,22)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,
平成14年3月11日,訴外Dに原告が預かった本件物件の鍵7本を引き渡した
が,訴外Dがこれを被告に返却したのは本件訴訟における被告代表者本人尋問の翌
日である同年12月17日であること,本件物件には,請求原因(3)の解除通知
後も原告が搬入した焼鳥器が残っており,本件訴訟における被告代表者本人尋問後
である同年12月24日に訴外Dによって撤去されるまでの間,本件物件に残され
ていたことが認められる。
 しかしながら,鍵については,原告代表者自身,その本人尋問において,原
告にも,訴外Dにもその返還を要求したことはないと述べている上,原告として
は,請求原因(3)の解除通知後,すみやかに訴外Dに返却しているといえる。ま
た,焼鳥器は,本件物件の広さに比してさほど大きいものでなく(乙18),原告
本人尋問の結果によれば,原告は,平成14年2月には,当該焼鳥器を建物外に出
しておいて,後日友人に渡すつもりであったと認められる。さらに,請求原因
(3)による解除は有効であり,被告としてはその原状回復義務の一環として上記
4の(1)の保証金等を返還すべき義務を負うにもかかわらず,かかる義務を履行
していない。かかる事実に照らすと,原告が本件賃貸借契約締結日である平成14
年1月19日から同年12月17日までの間本件物件を不法占有していたとの事実
(抗弁3のア)はこれを認めるに足りないというほかない。
 よって,被告の相殺の抗弁には理由がない。
 6 以上によると,原告の請求は,本件賃貸借契約上の債務不履行に基づく損害
賠償請求として,418万7451円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である
平成14年4月27日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延
損害金の支払を求めるの限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がない
から棄却し,訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条本文を,仮執行の宣言に
つき同法259条1項を,それぞれ適用して,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第1民事部
裁判官西村欣也

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応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛