弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 本件訴えのうち、被告が原告に対し平成二年一月三一日付けでした原告の昭和
六一年分及び昭和六二年分の所得税の過少申告加算税の各賦課決定処分の取消しを
求める部分を却下する。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 当事者の求めた裁判
一 原告の請求
1 被告が原告に対し平成二年一月三一日付けでした原告の昭和六一年分及び昭和
六二年分の所得税の過少申告加算税の各賦課決定処分を取り消す。
2 被告が原告に対し平成三年二月二七日付けでした原告の昭和六三年分の所得税
の更正処分のうち納付すべき税額一三四四万七七〇〇円を超える部分並びに加算税
の賦課決定処分(ただし、裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。
3 被告が原告に対し平成三年二月二七日付けでした原告の平成元年分の所得税の
更正処分のうち納付すべき税額一八二万八八〇〇円を超える部分及び加算税の賦課
決定処分(ただし、裁決により一部取り消された後のもの)を取り消す。
二 被告の答弁
1 (本案前の答弁)
主文第一項と同旨
2 (本案の答弁)
原告の請求2及び3をいずれも棄却する。
第二 事案の概要
 本件は、原告の昭和六一年分及び昭和六二年分の所得税の修正申告に対して被告
がした過少申告加算税賦課決定処分、並びに原告の昭和六三年分及び平成元年分の
所得税について被告のした更正処分、過少申告加算税賦課決定処分及び重加算税賦
課決定処分につき、原告が、右各処分を不服として、右各処分(裁決により一部取
り消されたものについては、右一部取消し後のもの)の取消しを求めた事案であ
る。
一 前提となる事実(当事者間に争いがない。)
1 原告は、肩書地において、不動産売買・仲介業、農業及び不動産賃貸業を営む
個人事業者である。
2 昭和六一年分及び昭和六二年分の所得税の修正申告等に関する経緯
(1) 原告は、被告に対し、平成元年一二月一六日、昭和六一年分及び昭和六二
年分の所得税に係る修正申告書を提出した。
(2) 被告は、平成二年一月三一日付けで、右所得税の各修正申告に係る過少申
告加算税賦課決定処分(以下「本件第一各賦課決定処分」という。)をし、右賦課
決定処分に係る通知書は、平成二年二月一日に原告に送達された。
(3) 原告は、被告に対し、平成二年二月二一日付けで「嘆願書」と題する書面
(以下「本件嘆願書
」という。)を提出した。
(4) さらに、原告は、平成三年四月七日、本件第一各賦課決定処分に対し異議
申立てをしたが、被告は、平成四年四月八日、右異議申立てを不適法として却下す
る旨の決定をした。
 原告は、右決定を経た後の右処分になお不服があるとして、平成四年五月一三
日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、同所長は、平成七年一〇月三一
日、右審査請求を却下する旨の裁決をした。
3 昭和六三年分及び平成元年分(以下「本件係争各年分」という。)の所得税の
更正処分等に関する経緯
(1) 原告は、被告に対し、平成元年一二月一六日、昭和六三年分の所得税に係
る修正申告書を提出した。
(2) 原告は、被告に対し、平成二年二月二三日、右所得税の修正申告に係る課
税標準等について、更正の請求(以下「本件更正請求」という。)をした。
(3) 被告は、本件更正請求の内容及び平成元年分の所得税の確定申告の内容に
ついて調査(以下「本件調査」という。)をすることとし、平成二年五月以降、被
告所属のP1調査官が原告と数回にわたって面接した。
(4) その後、被告は、平成三年二月二七日、本件更正請求につき更正すべき理
由がない旨の通知処分をするとともに、推計により算定した所得金額を基に、右同
日、昭和六三年分の所得税の更正処分、過少申告加算税及び重加算税の賦課決定処
分並びに平成元年分の所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした(以
下、右の各更正処分を「本件各更正処分」という。)。
(五) 原告は、本件各更正処分及び右各賦課決定処分等を不服として、平成三年
四月九日、被告に対して異議申立てをしたが、被告は、平成四年四月八日、右異議
申立てを棄却する旨の決定をした。
 原告は、右決定を経た後の右各処分等になお不服があるとして、平成四年五月一
三日、国税不服審判所長に対し審査請求をした。同所長は、平成七年一〇月三一
日、次のとおりの裁決をした(以下、右の審査裁決により取り消された後の各過少
申告加算税及び重加算税の賦課決定処分を「本件第二各賦課決定処分」といい、本
件各更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)。
ア 昭和六三年分の所得税の更正をすべき理由がない旨の通知処分に対する審査請
求を棄却する。
イ 昭和六三年分の所得税の加算税の賦課決定処分(過少申告加算税と重加算税の
合計額二九三万四五〇〇円)のうち三七万六〇〇〇円(重加算税の基
礎とされた税額のうち審判所長がその基礎とすべきものと認定した金額を超える部
分を基礎として計算される重加算税の額から右部分を基礎として計算される過少申
告加算税の額を控除した金額)を取り消し、右加算税のうちのその余の部分及び昭
和六三年分の所得税の更正処分に対する審査請求を棄却する。
ウ 平成元年分の所得税の加算税の賦課決定処分(重加算税の額一〇一四万三〇〇
〇円)のうち二八万円(重加算税の基礎とされた税額のうち審判所長がその基礎と
すべきものと認定した金額を超える部分を基礎として計算される重加算税の額から
右部分を基礎として計算される過少申告加算税の額を控除した金額)を取り消し、
右加算税のうちのその余の部分及び平成元年分の所得税の更正処分に対する審査請
求を棄却する。
4 昭和六一年分ないし平成元年分の所得税について、①原告がした確定申告及び
修正申告、②被告が原告に対してした右各所得税についての更正ないし加算税賦課
決定、③原告がした更正の請求とそれに対する被告の通知処分、④原告がした異議
申立てとそれに対する被告の決定、及び⑤原告がした国税不服審判所長に対する審
査請求とそれに対する国税不服審判所長の裁決の経緯及びそれらの内容は、別表1
ないし4記載の各欄記載のとおりである。
二 本件各更正処分等の適法性に関する被告の主張
1 昭和六三年分の所得税の総所得金額、分離土地事業所得の金額(租税特別措置
法二八条の五に規定する所得金額をいう。以下同じ。)、分離長期譲渡所得(租税
特別措置法三一条に規定する所得金額をいう。以下同じ。)の金額(以下これらを
「総所得金額等」という。)及び納付すべき税額の算出根拠は、それぞれ次のとお
りである。(かっこ内に「争いがない。」と表記したものは、その金額等について
当事者間に争いがないものである。以下同じ。)
(一) 営業所得(不動産業に係る事業所得のうち、総合課税の事業所得に係る部
分をいい、農業所得に係る事業所得を除く。以下同じ。)の金額及び分離土地事業
所得の金額
(1) 収入金額   四七一〇万円
 右金額は、原告の営む不動産業に係る昭和六三年分の収入金額の合計額であり、
その内訳は、次表のとおりである(争いがない。)。
 また、次表のうち、②のP2からの収入金額一七三六万円は、分離土地事業所得
の収入金額であり、営業所得に係る収入金額は、次表の収入金額の合計額から右金
額を控除
した二九七四万円である(争いがない。)。
  取引先             金額(円)     摘要
① P3             一七〇〇万     売買
② P2             一七三六万     売買
③ P4               五〇万     仲介
④ 茨城イセキ販売株式会社      七四万     仲介
⑤ P5              一八六万     仲介
⑥ P6              一八六万     仲介
⑦ P7              二〇〇万     仲介
⑧ 京葉緑地株式会社        一八〇万     仲介
⑨ P8           三七万五〇〇〇     仲介
⑩ 川商不動産株式会社       三〇〇万     仲介
⑪ P9                二万     仲介
⑫ P10               四万     仲介
⑬ P11           三万六〇〇〇     仲介
⑭ P12               四万     仲介
⑮ P13           二万五〇〇〇     仲介
⑯ 東向西産業株式会社     四四万四〇〇〇     仲介
    合計           四七一〇万
(2) 売上原価    一五三二万七五六〇円
 右金額は、原告の営む不動産業に係る昭和六三年分の売上原価の合計額であり、
その内訳は、次表のとおりである(①及び②については争いがない。)。
 なお、次表のうち、③に係る売上原価一〇一五万円は、分離土地事業所得の売上
原価となり、営業所得に係る売上原価は、次表の合計額から右金額を控除した五一
七万七五六〇円である。
  取引先        金額(円)    摘要
① P14     四五七万九一七三 (1)①の売上原価
② ①に係る造成費等 五九万八三八七 (1)①の売上原価
③ P15        一〇一五万 (1)②の売上原価
 合計          一五三二万七五六〇
(3) 差益金額    三一七七万二四四〇円
 右金額は、(1)の収入金額から、(2)の売上原価を差し引いた金額である
(次のアにつき争いがない。)。また、差益金額の営業所得に係る分と分離土地事
業所得に係る分の内訳、差益金額三一七七万二四四〇円のうちに占める、営業所得
及び分離土地事業所得の各差益金額の割合(以下「構
成割合」という。)は、それぞれ次のとおりである。
ア 営業所得の差益金額      二四五六万二四四〇円
  営業所得の構成割合      〇・七七三一
イ 分離土地事業所得の差益金額  七二一万円
  分離土地事業所得の構成割合  〇・二二六九
(4) 売上原価を除く必要経費  九二五万五一五〇円
 右金額は、(1)の収入金額に、原告と同種の不動産業を営み、かつ、事業規模
が類似する青色申告者(以下「比準同業者」という。)の収入金額に占める売上原
価を除く必要経費の割合の平均値(以下「平均経費率」という。)である〇・一九
六五(別表5参照)を乗じて算出した金額であり、その内訳は次のとおりである。
ア 営業所得に係る必要経費     七一五万五一五六円
イ 分離土地事業所得に係る必要経費 二〇九万九九九四円
 右ア及びイの金額は、必要経費九二五万五一五〇円に、それぞれの差益金額の構
成割合を乗じて算出した金額である。
(5) 事業専従者控除額控除前の所得金額二二五一万七二九〇円
 右金額は、(3)の差益金額から、(4)の売上原価を除く必要経費を差し引い
た金額であり、その内訳は次のとおりである。
ア 営業所得の事業専従者控除額控除前の所得金額
  一七四〇万七二八四円
イ 分離土地事業所得の事業専従者控除額控除前の所得金額
  五一一万〇〇〇六円
(6) 営業所得の金額   一七四〇万七二八四円
 原告が提出した確定申告書には、所得税法五七条(事業に専従する親族がある場
合の必要経費の特例等)五項の事業専従者に関する記載がなく、また、同条六項の
事由も認められないことから、(5)のアの金額が営業所得の金額となる。
(7) 分離土地事業所得の金額   五一一万〇〇〇六円
 (6)と同様に、原告の確定申告書に事業専従者に関する記載等がないことか
ら、(5)のイの金額が分離土地事業所得の金額となる。
(二) 不動産所得の金額
(1) 収入金額   六一六万九二〇〇円
 右金額は、原告の営む不動産貸付に係る昭和六三年分の収入金額の合計額である
(争いがない。)。
 なお、このうち、建物貸付に係る不動産所得の収入金額と土地貸付に係る不動産
所得の収入金額の内訳は、次のとおりである(争いがない。)。
ア 建物貸付に係る不動産所得の収入金額  四二〇万一二〇〇円
イ 土地貸付に係る不動産所得の収入金額  一九六万八〇〇〇円
(2) 事業専従者控除額控
除前の所得金額 四三六万三六七二円
右金額は、(1)のア及びイの収入金額に、建物のみを貸し付け又は土地のみを貸
し付けており、かつ、貸付けの規模が類似する青色申告者(以下「比準不動産所得
者」という。)の青色申告特典控除前の所得金額(収入金額から必要経費の額を控
除して算定した所得金額をいう。以下同じ。)がそれぞれの収入金額に占める割合
の平均値(以下「平均所得率」という。)である〇・六二七九及び〇・八七六九
(別表6及び7参照)を乗じて算出した金額の合計額であり、その内訳は次のとお
りである。
ア 建物貸付に係る不動産所得の事業専従者控除額控除前の所得金額   二六三
万七九三三円
イ 土地貸付に係る不動産所得の事業専従者控除額控除前の所得金額   一七二
万五七三九円
(3) 不動産所得の金額   四三六万三六七二円
 (一)の(6)と同様に、原告の確定申告書に事業専従者に関する記載等がない
ことから、(2)の金額が不動産所得の金額となる。
(三) 農業所得の金額   六三万二〇五〇円
 右金額は、原告の申告額である(争いがない)。
(四) 分離長期譲渡所得の金額   一億四四六五万円
 右金額は、次の(1)の金額から、(2)ないし(4)の合計額を控除した金額
である。
(1) 収入金額   一億九五七五万円
 右金額は、原告が農業の用に供していた土浦市α二一五番一及び同所二一六番一
所在の田(以下「本件譲渡資産」という。)を株式会社セントラルハウジング(以
下「セントラルハウジング」という。)に譲渡した譲渡金額である。
(2) 取得費   四五〇〇万円
 右金額は、原告が本件譲渡資産を外村新太郎から取得した取得費である。
(3) 譲渡費用  五一〇万円
 右金額は、本件譲渡資産を譲渡するに当たり原告が有限会社浦水産業に支払った
仲介手数料五〇〇万円とセントラルハウジングとの間に取り交わした不動産売買契
約書に貼付した収入印紙代一〇万円の合計額である。
(4) 譲渡所得の特別控除額   一〇〇万円
 右金額は、租税特別措置法三一条四項に規定する特別控除額である。
(五) 所得控除額   一六二万〇八〇〇円
 右金額は、原告の申告額である(争いがない。)。
(六) 課税所得金額
 総所得、分離土地事業所得及び分離長期譲渡所得に係る課税所得金額は、それぞ
れ、次の(1)ないし(3)のとおりである。
(1) 総所得金額分   二〇七八万二〇
〇〇円
 右金額は、総所得金額((一)の(6)の金額、(二)の(3)の金額及び
(三)の金額の合計額)から(五)の所得控除額を控除した額(ただし、国税通則
法(以下「通則法」という。)一一八条一項により千円未満の端数を切り捨てたも
の)である。
(2) 分離土地事業所得金額分   五一一万円
 右金額は、(一)の(7)の金額(ただし、通則法一一八条一項により千円未満
の端数を切り捨てたもの)である。
(3) 分離長期譲渡所得金額分   一億四四六五万円
 右金額は、(四)の金額(ただし、通則法一一八条一項により千円未満の端数を
切り捨てたもの)である。
(七) 納付すべき税額   四八〇三万〇二〇〇円
 右金額は、次の(1)ないし(3)の合計額である。
(1) 課税総所得金額に対する税額   六四九万一〇〇〇円
 右金額は、(六)の(1)の金額に昭和六三年分の所得税の臨時特例に関する法
律(昭和六三年法律第八五号)に規定する税率を適用して算出した金額である。
(2) 分離土地事業所得金額に対する税額 三〇六万六〇〇〇円
 右金額は、(六)の(2)の金額に租税特別措置法二八条の五(昭和六二年法律
第九六号により追加されたもの)を適用して算出した金額である。
(3) 分離長期譲渡所得金額に対する税額 三八四七万三二〇〇円
 右金額は、(六)の(3)の金額に租税特別措置法三一条(昭和六二年法律第九
六号による改正後のもの)を適用して算出した金額である(別表13参照)。
2 平成元年分の所得税の総所得金額等及び納付すべき税額の算出根拠は、それぞ
れ次のとおりである。
(一) 営業所得の金額及び分離土地事業所得の金額
 原告の平成元年分の営業所得の金額及び分離土地事業所得の金額とその計算根拠
は、後記(1)ないし(7)のとおりである。
①収入金額   二億四一〇九万四一七六円
 右金額は、原告の営む不動産業に係る平成元年分の収入金額の合計額であり、そ
の内訳は、次表のとおりである(争いがない。)。
 なお、次表のうち、分離土地事業所得の収入金額となるものは、次のとおりであ
る。
ア ②の株式会社村山商事からの収入金額合計五五〇〇万円(総売上面積五六三平
方メートルに係るもの)のうち、収入金額四七八万六八五六円(総売上面積に占め
る当該売上面積四九平方メートルの割合を収入金額合計に乗じて求めた金額)
イ ④のP16からの建物及び土地に係る収入金額
合計二四四〇万円のうち、土地に係る収入金額一五三一万八〇四七円(平成元年一
月一日現在の、土地と建物の固定資産税評価額の合計額二四八万二八一一円に占め
る土地の固定資産税評価額一五五万八六八一円の割合を収入金額合計に乗じて求め
た金額)
ウ ③の曙興産株式会社、⑤のP17及び⑥の東向西産業株式会社からの収入金額
 したがって、分離土地事業所得の収入金額は、アないしウの合計一億三六三六万
四九〇三円となり、営業所得に係る収入金額は、次表の収入金額の合計額から右金
額を控除した一億〇四七二万九二七三円となる(争いがない。)。
取引先                金額(円)    摘要
① P18               二三二〇万   売買
② 株式会社村山商事          五五〇〇万   売買
③ 曙興産株式会社           六六〇〇万   売買
④ P16               二四四〇万   売買
⑤ P17               二七六〇万   売買
⑥ 東向西産業株式会社         二二六六万   売買
⑦ 曙興産株式会社            五五六万   仲介
⑧ 株式会社ニュートピアプランニング  一二三六万   仲介
⑨ 豊国興産株式会社       三〇八万八一七六   仲介
⑩ 京葉緑地株式会社           一〇〇万   仲介
⑪ P19              三万五〇〇〇   仲介
⑫ P20              三万七五〇〇   仲介
⑬ P21              四万三〇〇〇   仲介
⑭ P9               二万四〇〇〇   仲介
⑮ P22              二万四〇〇〇   仲介
⑯ 株式会社茨城ウルノ        一万七五〇〇   仲介
⑰ 東向西産業株式会社        四万五〇〇〇   仲介
  合計          二億四一〇九万四一七六
(2) 売上原価   一億三六九四万九〇二五円
 右金額は、原告の営む不動産業に係る平成元年分の売上原価の合計額であり、そ
の内訳は、次表のとおりである(⑩を除いて争いがない。)。
 なお、次表のうち、⑦ないし⑪の売上原価の合計額一億一五五五万一五三八円
は、分離土地事業所得の売上原価となり、営業所得に係る売上原価は、次表の売上
原価の合計額から右金額を控除した二一
三九万七四八七円となる。
 取引先       金額(円)     摘要
① P14      五八四万七二三〇  (1)①の売上原価
② ①に係る造成費等  七六万四〇九一
③ P14      三一五万九一〇一  (1)②の売上原価
④ ③に係る造成費等   五四万二六九〇   右同
⑤ P23       八八一万七一一三   右同
⑥ ⑤に係る造成費等  二二六万七二六二   右同
⑦ P24       七五〇万       右同
⑧ ⑦に係る造成費等  四〇万一五三八    右同
⑨ P25      四三六五万     (1)③の売上原価
⑩ P26      一八〇〇万     (1)④の売上原価
⑪ P27     四六〇〇万     (1)⑤⑥の売上原価
   合計   一億三六九四万九〇二五
③ 差益金額  一億〇四一四万五一五一円
 右金額は、(1)の収入金額から、(2)の売上原価を差し引いた金額である
(次のアにつき争いがない。)。また、差益金額の営業所得に係る分と分離土地事
業所得に係る分の内訳、営業所得及び分離土地事業所得の各差益金額の構成割合
は、それぞれ次のとおりである。
ア 営業所得の差益金額       八三三三万一七八六円
  営業所得の構成割合       〇・八〇〇二
イ 分離土地事業所得の差益金額   二〇八一万三三六五円
  分離土地事業所得の構成割合   〇・一九九八
(4) 売上原価を除く必要経費   三一八七万二六五〇円
 右金額は、(1)の収入金額に、比準同業者の平均経費率〇・一三二二(別表8
参照)を乗じて算出した金額であり、その内訳は次のとおりである。
ア 営業所得に係る必要経費     二五五〇万四四九五円
イ 分離土地事業所得に係る必要経費 六三六万八一五五円
 右ア及びイの金額は、必要経費三一八七万二六五〇円に、それぞれの差益金額の
構成割合を乗じて算出した金額である。
(5) 事業専従者控除額控除前の所得金額 七二二七万二五〇一円
 右金額は、(3)の差益金額から、(4)の売上原価を除く必要経費を差し引い
た金額であり、その内訳は次のとおりである。
ア 営業所得の事業専従者控除額控除前の所得金額
   五七八二万七二九一円
イ 分離土地事業所得の事業専従者控除額控除前の所得金額
           一四四四万五二一〇円
(6) ①営業所得の金額   五七八二万七二九一円
 前記1の(一)の(6)と同様に、原告の確定申告書には、事業専従者に関する
記載等がないことから、(5)のアの金額が営業所得の金額となる。
(7) 分離土地事業所得の金額   一四四四万五二一〇円
 (6)と同様に、原告の確定申告書には、事業専従者に関する記載等がないこと
から、(5)のイの金額が分離土地事業所得の金額となる。
(二) 不動産所得の金額
 原告の平成元年分の不動産所得の金額とその計算根拠は、(1)ないし(3)の
とおりである。
(1) 収入金額    八〇九万九四〇〇円
 右金額は、原告の営む不動産貸付に係る平成元年分の収入金額の合計額であり、
その内訳は、次表のとおりである(争いがない。)。
 取引先             金額(円)      摘要
① P28             八六万五〇〇〇   貸家
② P29            一三二万       貸家
③ 朝日生命相互会社土浦営業所   八四万       貸家
④ 菱化工業株式会社        七八万       貸家
⑤ 大創瓦工業           三七万       貸家
⑥ 株式会社パロマ         四〇万六四〇〇   貸家
⑦ 武田薬品工業株式会社      二一万六〇〇〇   貸地
⑧ 有限会社大野建築設計       七万二〇〇〇   貸地
⑨ 四国建設株式会社        一五万       貸地
⑩ P30            一六八万       貸地
⑪ 東向西産業株式会社      一四〇万       貸地
     合計          八〇九万九四〇〇
 なお、右表のうち、建物貸付に係る不動産所得の収入金額と土地貸付に係る不動
産所得の収入金額の内訳は、次のとおりである(争いがない)。
ア 建物貸付に係る不動産所得の収入金額  四五八万一四〇〇円
イ 土地貸付に係る不動産所得の収入金額  三五一万八〇〇〇円
(2) 事業専従者控除額控除前の所得金額 五九五万三六二六円
 右金額は、(1)のア及びイの収入金額に、それぞれの比準不動産所得者の平均
所得率である〇・六三〇〇及び〇・八七一九(別表9及び10参照)を乗じて算出
した金額の合計額であり、その内訳は次のとおりである。
ア 建物貸付に係る不動産所得の事業専従者控除額控除前の所得金額   二八八
万六二八二円
イ 土地貸付に係る不動産所得の事業専
従者控除額控除前の所得金額   三〇六万七三四四円
(3) 不動産所得の金額   五九五万三六二六円
 (一)の(6)と同様に、原告の確定申告書に事業専従者に関する記載等がない
ことから、(2)の金額が不動産所得の金額となる。
(三) 農業所得の金額   五二万八九四〇円
 右金額は、原告の申告額である(争いがない。)。
(四) 所得控除額     一七四万九九〇〇円
 右金額は、原告の申告額である(争いがない。)。
(五) 課税所得金額
 総所得及び分離土地事業所得に係る課税所得金額は、それぞれ、次の(1)及び
(2)のとおりである。
(1) 総所得金額分         六二五五万九〇〇〇円
 右金額は、総所得金額((一)の(6)の金額、(二)の(3)の金額及び
(三)の金額の合計額)から(四)の所得控除額を控除した額(ただし、通則法一
一八条一項により千円未満の端数を切り捨てたもの)である。
(2) 分離土地事業所得金額分   一四四四万五〇〇〇円
 右金額は、(一)の(7)の金額(ただし、通則法一一八条一項により千円未満
の端数を切り捨てたもの)である。
(六) 納付すべき税額         三六〇四万六五〇〇円
 右金額は、次の(1)及び(2)の合計額である。
(1) 課税総所得金額に対する税額   二七三七万九五〇〇円
 右金額は、(五)の(1)の金額に所得税法八九条(昭和六三年法律第一〇九号
による改正後のもの)に規定する税率を適用して算出した金額である。
(2) 分離土地事業所得金額に対する税額 八六六万七〇〇〇円
 右金額は、(五)の(2)の金額に租税特別措置法二八条の五(平成元年法律第
一二号によ各改正後のもの)を適用して算出した金額である。
3 本件各更正処分の適法性
 本件各更正処分における総所得金額等及び納付すべき税額は、別表3及び4記載
のとおりであり、納付すべき税額は、昭和六三年分は四四八五万一〇〇〇円、平成
元年分は三〇八一万四九〇〇円であるところ、これらはいずれも前記1及び2記載
の総所得金額等及び納付すべき税額の範囲内であるから、本件各更正処分は適法で
ある。
4 本件第二各賦課決定処分の根拠及び適法性
(一) 重加算税賦課決定の根拠
(1) 原告は、本件係争各年分の所得税の営業所得及び分離土地事業所得に関し
て、次のとおり、虚偽の契約書を作成するなどして、所得金額を計算していた。
ア 昭和六三年分
について
a 原告は、土浦市β一一九二番四及び同一一九三番四の畑二六〇平方メートル
を、P3に一七〇〇万円で譲渡したにもかかわらず、一二〇〇万円で譲渡した旨の
虚偽の契約書を作成することにより、その収入金額を圧縮し、収入金額の一部であ
る五〇〇万円を過少に計上していた。
b 原告は、土浦市γ一〇七七番三一の畑二〇七平方メートルを、P2に一七三六
万円で譲渡したにもかかわらず、当該土地の前所有者であるP15が直接P2に一
二〇〇万円で譲渡したとする虚偽の契約書を作成することにより、収入金額の全部
を計上していなかった。
イ 平成元年分について
a 原告は、土浦市β一一九二番一、同一一九二番二、同一一九三番一及び同一一
九三番三の畑及び雑種地約三三二平方メートルを、二三二〇万円でP18に譲渡し
たにもかかわらず、一七二〇万円で譲渡したとする虚偽の契約書を作成することに
より、収入金額を圧縮し、収入金額の一部である六〇〇万円を過少に計上してい
た。
b 原告は、株式会社村山商事に五五〇〇万円で譲渡した土浦市β一一九二番三、
同一一九二番六、同一一八七番一及び同一一八八番三の畑五六三平方メートルにつ
いて、同社と平成元年一二月二三日付けで売買契約をなし同日付けで土地売買契約
書を作成したにもかかわらず、平成二年一月八日付けで譲渡したとする虚偽の契約
書を作成することにより、収入金額の全部を計上していなかった。
c 原告は、土浦市δ三八五番一の宅地二〇一・三八平方メートル及び同建物七
六・一五平方メートルを、P26から購入したうえ、P16に二四四〇万円で譲渡
したにもかかわらず、当該土地建物の前所有者であるP26が直接P16に二四四
〇万円で譲渡したとする虚偽の契約書を作成し、収入金額の全部を計上していなか
った。
(2) 原告は、右のとおり、所得金額の算定の基礎となる事実を隠ぺい又は仮装
し、右隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したものであるとこ
ろ、被告は、右行為が通則法六八条一項の要件に該当するものとして、本件係争各
年分の所得税に係る重加算税を賦課したものである。
 重加算税の対象となる所得金額は、以下のとおりである。
ア 昭和六三年分について
 原告の営業所得に係る重加算税の対象となる収入除外金額は前記(1)アaの五
〇〇万円であり、重加算税の対象となる所得金額は五〇〇万円である。
 また、分離土地事業所得に係る重加
算税の対象となる収入除外金額は、前記(1)アbの一七三六万円であり、重加算
税の対象となる所得金額は被告主張の分離土地事業所得と同額の五一一万〇〇〇六
円である。
 これに基づいて、過少申告加算税の計算の基礎となる税額、そのうち隠ぺい仮装
事由以外の事実のみに基づいた場合の額及び更正前の額を計算すると別表11のと
おりである。
イ 平成元年分について
 原告の営業所得に係る重加算税の対象となる収入除外金額は、前記(1)イaの
六〇〇万円、同bの五五〇〇万円のうちの五〇二一万三一四四円(分離土地事業所
得に係る収入金額四七八万六八五六円を控除した額)及び同cの二四四〇万円のう
ちの九〇八万一九五三円(分離土地事業所得に係る収入金額一五三一万八〇四七円
を控除した額)の合計の六五二九万五〇九七円であり、重加算税の対象となる所得
金額は、被告の主張する営業所得金額五七八二万七二九一円から、原告の当初申告
の営業所得金額七四〇万円を差し引いた金額である五〇四二万七二九一円である。
 また、分離土地事業所得に係る重加算税の対象となる収入除外金額は、前記
(1)イbの五五〇〇万円のうちの四七八万六八五六円及び同cの二四四〇万円の
うちの一五三一万八〇四七円の合計二〇一〇万四九〇三円であり、重加算税の対象
となる所得金額は被告の主張する分離土地事業所得と同額の一四四五万五二一〇円
である。
 これに基づいて、過少申告加算税の計算の基礎となる税額、そのうち隠ぺい仮装
事由以外の事実のみに基づいた場合の額及び更正前の額を計算すると別表12のと
おりとなる。
(3) 重加算税の額
 原告の本件係争各年分の重加算税の対象となる税額は、別表11及び12の各A
(被告主張額)の⑰欄の金額から、同B(被告主張額のうち隠ぺい仮装事由以外の
事実のみに基づいた場合の金額)の⑰欄の金額を控除した金額(通則法一一八条三
項により一万円未満の端数を切り捨てた金額)に、通則法六八条に規定する税率
(三五パーセント)を適用して算出した次の金額である。
 昭和六三年分  一九七万四〇〇〇円
 平成元年分  一一五八万一五〇〇円
(二) 過少申告加算税賦課決定の根拠
(1) 本件係争各年分の所得税の更正処分が適法であり、原告の申告が過少申告
であることは前述したとおりであるところ、被告は、通則法六五条に基づき、原告
が右各年分の過少申告加算税の税額のうち、重加算税の対象となる
税額以外の税額を基礎として、右各年分の過少申告加算税の賦課決定を行ったもの
である。
(2) 過少申告加算税の額
 原告の本件係争各年分の過少申告加算税の金額は、別表11及び12の各B(被
告主張額のうち隠ぺい仮装事由以外の事実のみに基づいた場合の額)の⑰欄の金額
(通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた後の金額)に、通則法
六五条に規定する税率を適用して算出した、次の金額である。
 昭和六三年分  一一四万一五〇〇円
 平成元年分   一一万二〇〇〇円
(三) 本件第二各賦課決定処分の適法性
 被告が、右(一)及び(二)において主張した、本件係争各年分の重加算税及び
過少申告加算税の金額は、本件第二各賦課決定処分による重加算税及び過少申告加
算税の金額と同額か又はこれを上回るから、右各賦課決定処分は適法である。
三 争点
 本件の争点は、(一) 本件訴えのうち、本件第一賦課決定処分の取消しを求め
る部分の適否、すなわち、本件第一各賦課決定処分に対する不服申立てが法定の期
間内にされたか否か、また、期間徒過後にされたとした場合に通則法七七条三項の
「やむを得ない理由」があったといえるか否か(争点1)、(二) 推計による本
件係争各年分の営業所得等の金額の算定の適否とそれらの金額がいくらか(争点
2)、(三) 昭和六三年分の分離長期譲渡所得の金額がいくらか、すなわち、昭
和六三年分の分離長期譲渡所得の金額の算定において、租税特別措置法(平成二年
法律第一三号改正前のもの)三七条(特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得
の課税の特例)一項に規定される特例(以下「本件買換特例」という。)が適用さ
れるべきかどうか等(争点3)、(四) 本件係争各年分の重加算税の賦課決定処
分の根拠となる仮装隠ぺい行為があったかどうか(争点4)であり、右(二)の争
点2に関しては、具体的には、(1) 推計の必要性が認められるか否か(争点2
―(一))、(2) 昭和六三年分の分離土地事業所得の売上原価の算定におい
て、P15から購入した土地の価格はいくらか(争点2―(二))、(3) 平成
元年分の分離土地事業所得の売上原価の算定において、P26から購入した土地の
価格はいくらか(争点2―(三))、(4) 被告が採用した比準同業者比率によ
る必要経費の推計が合理性を有するか否か(争点2―(四))、(5) 昭和六三
年分の所得の金額の算定にお
いて、過年分の支払利息を必要経費として算入すべきかどうか(争点2―
(五))、(6) 平成元年分の所得の金額の算定において、原告がP33との間
の裁判上の和解により引き受けた債務額(以下「本件債務引受額」という。)を必
要経費として算入すべきかどうか(争点2―(六))が問題になる。これらの点に
関する当事者の主張は次のとおりである。
1 本件訴えのうち、本件第一各賦課決定処分の取消しを求める部分の適否、すな
わち、本件第一各賦課決定処分に対する不服申立てが法定の期間内にされたか否
か、また、期間徒過後にされたとした場合に通則法七七条三項の「やむを得ない理
由」があったといえるか否か(争点1)
(被告の主張)
 前記のとおり、原告が本件第一各賦課決定処分に対してした異議申立ては、右各
賦課決定処分があったことを知った日の翌日から起算して二ヶ月を経過した後にな
されたものであって、不適法なものである。したがって、本件訴えのうち、右各賦
課決定処分の取消しを求める部分は、審査請求前置を欠くものとして不適法であ
る。
 原告は、平成二年二月二三日に提出した本件嘆願書をもって、実質的な異議申立
てである旨主張するが、右書面はその内容から異議申立てと解することはできな
い。
 また、通則法七七条三項の「やむを得ない理由」とは、不服申立てをすることを
困難にする事由で、人為的な災害や交通途絶など通常期待される程度の注意をもっ
てしてもなお避けることのできない客観的な事由を意味するものと解されるとこ
ろ、本件においてかかる事由は何ら認められない。
(原告の主張)
 原告は、本件第一各賦課決定処分につき、法定の不服申立期間内である平成二年
二月二三日、被告に対し、本件嘆願書をもって、昭和六一年分及び昭和六二年分の
所得税についてした更正の請求(嘆願)に係る本税の付帯の課税であるから本税と
同時に処置して欲しい旨を申し立て、実質的な異議申立てをしているものである。
なお、原告は、被告担当者から、本件嘆願書を取り下げれば次年度の損失金を差引
くと言われたので、後に本件嘆願書を取り下げたものである。
 仮に本件嘆願書の提出が異議申立てと解されないとしても、右のような事情から
すれば、原告には、不服申立期間を徒過したことにつき、通則法七七条三項の「や
むを得ない理由」があったというべきである。
2 推計による本件係争各年分の営業所得の金額等の算定の適否と
それらの金額がいくらか(争点2)
(一) 推計の必要性が認められるか否か(争点2―(一))
(被告の主張)
 本件調査において、原告が提示した書類等は、本件係争各年分の営業所得又は分
離土地事業所得に係る不動産売買契約書、不動産仲介に関する契約書、不動産取引
台帳、収入金額に関する領収書控及び仕入れに関する領収書等のみであり、P1係
官は、原告に対して、再三にわたって必要経費についてその支払の事実を証する書
類の提示を要請したが、原告はこれに応じず、また、収入及び支出について、日々
の取引実績を継続的に記録した帳簿はなかった。さらに、P1調査官は、原告に対
し、平成三年一月二八日、必要経費の関係書類の提示がなければ推計で所得金額を
算出しなければならない旨説明したが、原告はそれでもこれらを提示しようとしな
かった。
 このような事情から、被告は、本件係争各年分の営業所得の金額等を推計により
求めて課税したものであり、本件において推計の必要性があることは明らかであ
る。
(原告の主張)
 原告が、被告主張の帳簿書類以外のものを被告に提示しなかったのは、P1係官
から提示の要請がなかったからにすぎない。
 被告が本件係争各年分の営業所得の金額等を推計をしたことについてはその必要
性を欠くというべきである。
(二) 昭和六三年分の分離土地事業所得の売上原価の算定において、P15から
購入した土地の価格はいくらか(争点2―(二))
(被告の主張)
 昭和六三年分の分離土地事業所得の売上原価のうち、P15から購入した土浦市
γ一〇七七番三一の土地の売上原価は一〇五〇万円であり、これを一二一五万円と
記載した不動産売買契約書は虚偽のものである。
(原告の主張)
 昭和六三年分の分離土地事業所得の売上原価のうち、P15から購入した土浦市
γ一〇七七番三一の土地の売上原価は一二一五万円である。
(三) 平成元年分の分離土地事業所得の売上原価の算定において、P26から購
入した土地及び建物の価格はいくらか(争点2‐三))
(被告の主張)
 原告は、土浦市δ三八五番一の土地及び建物をP26から一八〇〇万円で購入し
たものであり、その余の金額は右土地及び建物の売上原価を構成するものとは認め
られない。
(原告の主張)
 平成元年分の分離土地事業所得の売上原価のうち、P26から購入した右土地及
び建物の売上原価は二〇二〇万円である。
(四) 被告が採用した比準同業
者比率による必要経費の推計が合理性を有するか否か(争点2―(四))
(被告の主張)
 被告が原告の営業所得、分離土地事業所得に係る必要経費及び不動産所得の金額
を算出するに当たり採用した推計の方法は、前記のとおり、比準同業者の平均経費
率及び比準不動産所有者の平均所得率によるものであるが、右比準同業者及び右比
準不動産所得者は、次のようにして抽出されたものである。
(1) 営業所得及び分離土地事業所得に係る比準同業者について
 関東信越国税局長が、被告の管轄区域に隣接する水戸税務署、竜ケ崎税務署及び
下館税務署の各税務署長に対し、各税務署管内において、次のアないしエの要件の
すべてに該当する比準同業者の報告を求め、回答のあった業者(別表5及び8)を
比準同業者とした。
ア それぞれの年分の暦年を通じて、不動産売買業を継続して営んでいた者(不動
産仲介業を兼業している者に限る。)であること。
イ 所得税青色申告決算書を提出していた者であること。
ウ 年間の売上(収入)金額が、次の範囲内にある者であること。
  昭和六三年分  二三五五万円以上九四二〇万円以下
  平成元年分   一億二〇五四万七〇八八円以上四億八二一八
            万八三五一円以下
エ 次のa及びbのいずれにも該当しない者であること。
a 災害等により経営状態が異常であると認められる者。
b 税務署長から更正又は決定処分がされている者のうち、当該処分について通則
法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間の経過していないも
の、若しくは当該処分に対して不服申立てがされ、又は訴えが提起されて現在審理
中であるもの。
(2) 不動産所得(建物貸付分)に係る比準不動産所得者について
 関東信越国税局長が、被告に対し、土浦税務署管内において、次のアないしエの
要件のすべてに該当する建物貸付に係る比準不動産所得者の報告を求め、回答のあ
った者(別表6及び9)を比準不動産所得者とした。
ア それぞれの年分の暦年を通じて、建物を継続して貸し付けている者であるこ
と。
イ 所得税青色申告決算書を提出していた者であること。
ウ 年間の売上(収入)金額が、次の範囲内にある者であること。
  昭和六三年分
   二一〇万〇六〇〇円以上八四〇万二四〇〇円以下
  平成元年分
   二二九万〇七〇〇円以上九一六万二八〇〇円以下
エ 次のa及びbのいずれにも該当しない者であ
ること。
a 災害等により経営状態が異常であると認められる者。
b 税務署長から更正又は決定処分がされている者のうち、当該処分について通則
法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間の経過していないも
の、若しくは当該処分に対して不服申立てがされ、又は訴えが提起されて現在審理
中であるもの。
(3) 不動産所得(土地貸付分)に係る比準不動産所得者について
 関東信越国税局長が被告に対し、同税務署管内において、次のアないしエの要件
のすべてに該当する土地貸付に係る比準不動産所得者の報告を求め、回答のあった
者(別表7及び10)を比準不動産所得者とした。
ア それぞれの年分の暦年を通じて、土地を継続して貸し付けている者であるこ
と。
イ 所得税青色申告決算書を提出していた者であること。
ウ 年間の売上(収入)金額が、次の範囲内にある者であること。
  昭和六三年分
   九八万四〇〇〇円以上三九三万六〇〇〇円以下
  平成元年分
   一七五万九〇〇〇円以上七〇三万六〇〇〇円以下
エ 次のa及びbのいずれにも該当しない者であること。
a 災害等により経営状態が異常であると認められる者。
b 税務署長から更正又は決定処分がされている者のうち、当該処分について通則
法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間又は出訴期間の経過していないも
の、若しくは当該処分に対して不服申立てがされ、又は訴えが提起されて現在審理
中であるもの。
(4) 右のとおり、本件各更正処分に用いた各比準同業者及び比準不動産所得者
の抽出過程には、被告のし意が介在する余地はなく、また、抽出された比準同業者
及び比準不動産所得者はいずれも原告と業種、業態等が同一であり、その規模も類
似している青色申告者であるから、右比準同業者の平均経費率又は比準不動産所得
者の平均所得率を適用して営業所得、分離土地事業所得及び不動産所得の金額を算
出した本件推計は合理的なものである。
(原告の主張)
 被告の抽出した比準同業者等は、原告の事業内容と業種、業態、事業場所及び事
業規模等において類似性を有するとはいえず、その抽出条件に合理性があるとは言
えない。
(五) 昭和六三年分の所得の金額の算定において、過年分の支払利息を必要経費
として算入すべきかどうか(争点2―(五))
(原告の主張)
 原告は、昭和六〇年分、昭和六一年分及び昭和六二年分の所得の営業所得の金額
の算定の際に
支払利息合計金額二〇〇〇万円を必要経費に算入していなかったところ、右過年分
の支払利息は、被告が算定した昭和六三年分の所得税の営業所得の金額、不動産所
得の金額及び分離土地事業所得の金額から別途控除されるべきである。
(被告の主張)
 原告が主張する過年分の支払利息額二〇〇〇万円については、原告の事業との関
連が全く不明であり、これが過年分の営業所得の金額等の算定の際に算入されるべ
き必要経費であることを認めるに足りる証拠はない。
 仮に、右金額がすべて原告の事業に関連する支払利息額であったとしても、事業
所得の金額及び不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定
めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入
金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その
他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用(償却費以外の費用でその年に
おいて債務の確定しないものを除く。)の額とする旨(所得税法三七条一項)規定
されていることから、過年分において必要経費に算入しなかった支払利息額につい
ては、昭和六三年中に生じた費用とはいえないため、昭和六三年分の営業所得、不
動産所得及び分離土地事業所得から控除することはできない。
(六) 平成元年分の所得の金額の算定において、本件引受債務額を必要経費とし
て算入すべきか否か(争点2―(六))
(原告の主張)
 原告は、P33に対し、昭和六〇年ごろ、土浦市γ一〇七九番五ほか三筆の土地
を賃貸したが、同土地上に建築された建物は、P33名義で所有権保存登記が経由
されているものの、元来原告が所有するものであった。P33は、金融機関から金
員を借り入れ、原告がP33の借入金債務を保証するため右建物に抵当権を設定し
たが、昭和六二年ころ、右借入金の返済が滞った。その後、原告は、P33に対し
て水戸地方裁判所土浦支部に右建物の明渡しを求めて訴訟を提起し、右訴訟におい
て平成二年九月一一日に成立した和解(以下「本件和解」という。)で、原告とP
33は、右建物の所有権が原告にあることを確認するとともに、原告はP33の右
借入金債務を引き受けることに合意した。
 被告は、原告に対する従前の調査において、右の経緯を把握しておりながら、こ
れを必要経費として計上せず黙殺していたものである。
 そして、原告による右の債務引受は、一般に判決の効力
が遡及すると解されている処分禁止の仮処分の登記がなされた日(本件では平成元
年六月九日)に生じたものというべきであるから、本件引受債務の引受額は、被告
が算定した平成元年分の営業所得の金額、不動産所得の金額及び分離土地事業所得
の金額から別途控除すべきである。
(被告の主張)
 必要経費に算入すべき費用については、その年において債務が確定している必要
があるところ(所得税法三七条一項)、その年において債務の確定しているものと
は、次に掲げる要件のすべてに該当するものとすると解釈されている(所得税基本
通達三七―二)。
(1) その年一二月三一日までに当該費用に係る債務が成立していること。
(2) その年一二月三一日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因
となる事実が発生していること。
(3) その年一二月三一日までにその金額を合理的に算定することができるもの
であること。
 しかるに、本件和解の効果が、和解成立前に遡及する旨の実定法上の根拠は全く
なく、本件引受債務は、本件和解の日である平成二年九月一一日に確定したのであ
って(なお、本件引受債務額は四五〇〇万円である。)、平成元年中に債務が確定
したとはいえないから、所得税法三七条一項の規定に基づき平成元年分の営業所得
の金額、不動産所得の金額及び分離土地事業所得の金額の計算上必要経費とはなり
得ないことは明らかである。
3 昭和六三年分の分離長期譲渡所得の金額がいくらか、すなわち、昭和六三年分
の分離長期譲渡所得の金額の算定において、本件買換特例が適用されるべきかどう
か等(争点3)
(原告の主張)
 原告は、株式会社セントラルハウジングに対し、昭和六二年一二月一〇日、土浦
市α一二五番一及び同一二六番一の田を譲渡したところ、昭和六三年分の分離長期
譲渡所得の金額の算定については、被告の担当者において調査済みであったのであ
るから、申告書に本件買換特例の適用に関する記載等がなくても、本件買換特例が
適用されるべきであり、その長期譲渡所得は五八〇〇万円とされるべきである。
 また、仮に本件買換特例が適用されないとしても、平成元年一二月一六日に修正
申告書を提出した際に原処分庁が認めた貸倒金八七〇八万三四二九円を一事不再理
により別途控除すべきである。
(被告の主張)
 租税特別措置法三七条七項は、「第一項の規定は、同項の規定の適用を受けよう
とする者の同項の譲渡をした日の
属する年分の確定申告書に、同項の規定の適用を受けようとする旨の記載があり、
かつ、当該譲渡をした資産の譲渡価額、買換資産の取得価額又はその見積額に関す
る明細書その他大蔵省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。」と規
定しているところ、原告の昭和六三年分の所得税の確定申告書には、本件譲渡資産
に係る分離長期譲渡所得の金額も、本件買換特例の規定の適用を受けようとする旨
の記載もなく、また、本件譲渡資産の譲渡価額、買換資産の取得価額又はその見積
額に関する明細書その他大蔵省令で定める書類の添付がないのであるから、原告に
本件買換特例の適用がないことは明らかである。
 また、譲渡所得の金額は、総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費
及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し、その残額の合計額から譲
渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨(所得税法三三条三項)規定されてい
るところ、原告は、貸倒金八七〇八万三四二九円の存在及び右貸倒金が本件譲渡資
産の取得費あるいは譲渡に要した費用であることを認めるに足りる資料を何ら提出
していないのであるから、右貸倒金を分離長期譲渡所得の金額の算定上、収入金額
から控除することはできない。
 なお、原告は、原告のした修正申告について一事不再理の適用があり、貸倒金八
七〇八万三四二九円を必要経費として控除されるべきことが確定している旨主張す
るが、これは原告独自の見解に基づくものであり、主張自体失当である。
4 被告が本件係争各年分重加算税の賦課決定処分の根拠として主張する仮装隠ぺ
い行為があったかどうか(争点4)
(被告の主張)
 原告が、本件係争各年分の所得税に係る営業所得及び分離土地事業所得に関し
て、虚偽の契約書を作成するなどして所得金額の算定の基となる事実を隠ぺい又は
仮装し、右隠ぺい又は仮装したところに基づき所得金額を計算していたことは、前
記二4(一)記載のとおりである。
(原告の主張)
 原告が被告主張の各契約書を作成したことは認めるが、各契約書の内容に虚偽は
なく、原告はこれらにより実額で所得を計算して申告をしたものであり、所得を隠
ぺいした事実はない。
第三 当裁判所の判断
一 争点1(本件訴えのうち、本件第一各賦課決定処分の取消しを求める部分の適
否、すなわち、本件第一各賦課決定処分に対する不服申立てが法定の期間内にされ
たか否か、また、期間徒過後にさ
れたとした場合に通則法七七条三項の「やむを得ない理由」があったといえるか否
か)について
1 証拠(原告本人のほか、文中指摘のもの。)に争いのない事実及び弁論の全趣
旨を総合すれば、本件第一各賦課決定処分及びそれに対する原告の不服申立てに関
する経緯について、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
(一) 原告は、昭和六一年分ないし昭和六三年分の所得税について、法定申告期
限までに、白色申告書を被告に提出した。
(二) 原告は、右各年分の所得税について、被告から調査を受けていたところ、
平成元年一二月一六日、右各年分の所得税に係る修正申告書を被告に提出した(甲
五、六、八)。
 もっとも、原告は、昭和六二年分の所得税については一三〇〇万円程度、昭和六
三年分の所得税については一二〇〇万円程度、それぞれ所得金額をさらに減額する
ことを被告の係官が約束していたと理解しており、その点が修正申告書に反映され
ていなかったことから、被告に対し、同年一二月二七日ころ、その旨の不服を申し
入れた。
(三) 被告は、平成二年一月三一日付けで、本件第一各賦課決定処分をし、平成
二年二月一日、右各賦課決定処分に係る通知書が原告に送達された。
(四) 原告は被告に対し、平成二年二月一日付けで、「00081、0008
4、00085督促に対する異議申立」と題する書面を提出した。右書面は、納期
限を平成元年一二月一八日とする督促状による標記の督促つき、既に不服の申し入
れをしており、更正の請求又はその嘆願をすれば、同年四月にその調査がされると
被告から聞いているところ、それまでの期間中、納税ができないので、標記督促を
取り消されたく異議を申し立てる旨の内容のものであった(甲四の3)。
(五) そして、原告は被告に対し、平成二年二月二一日付けの本件嘆願書を、
「昭和61年分所得税の更正の請求書(嘆願書)」及び「昭和62年分所得税の更
正の請求書(嘆願書)」(以下「更正請求嘆願書」という。)並びに「昭和63年
分所得税の更正の請求書」と題する書面とともに、郵便で提出した。本件嘆願書に
は、「平成二年一月三一日付昭和六一年、六二年、六三年分所得税の加算税の賦課
決定の通知書を戴きましたが下記理由により納付を下記期日迄御猶予くだされ渡く
嘆願いたします。」としたうえ、「猶予期間 平成二年四月末日 理由 1 本書
と同時同封でなされた更正の嘆願二
通、更正の請求一通は上記期日迄に定まる見込みがあるので、それ以前に支払うと
巨額のため、事業資金の欠乏を来たし業務が維持できない。 2 必要とされるな
ら問う加算税と併せ担保を差し入れます。」旨の記載がされている(甲四の1)。
 なお、その後、原告は、P1調査官の指導に基づき、平成二年七月一六日、右更
正請求嘆願書を取り下げた(甲一九の1)。
(六) 原告は、平成三年四月七日、本件第一各賦課決定処分に対し異議申立書を
提出して異議申立てをしたが、被告は、平成四年四月八日、右異議申立てを不適法
として却下する旨の決定をした。
2 右の認定事実によれば、原告が本件各賦課決定処分に対し異議申立書を提出し
て異議申立てをしたのは平成三年四月七日であり、原告に対し右各賦課決定処分の
通知がされた時から通則法七七条一項所定の不服申立期間である二か月を経過して
されたものであることは明らかであるから、右異議申立ては不適法である。
 原告は、本件嘆願書により、本件第一各賦課決定処分に対し実質的な異議申立て
をしている旨主張するところ、右1(五)で認定したところによれば、本件嘆願書
は、その内容において、右各賦課決定処分それ自体について異議を申立てることを
明示的に示す文言はなく、更正請求嘆願書をもって修正申告が職権により更正され
ることを期待し、その間の納税の猶予を求めるにとどまるものといわざるを得な
い。そうすると、本件嘆願書をもって本件第一各賦課決定処分に対する異議申立て
と解することはできない。
3 さらに、本件において、通則法七七条三項の「やむを得ない理由」があったと
いえるか否かについて検討するに、右条項にいう「やむを得ない理由」とは、不服
申立てをすることを困難にする事情で、天災地変等による交通途絶など、一般人に
不服申立てをすることにつき通常期待される程度の注意をもってしてもなお避ける
ことのできない客観的な事由を意味するものと解される。
 しかるところ、前記認定の経緯に照らして、不服申立期間中である平成二年一月
ないし三月ころ、原告において、不服申立てを困難とする客観的な事由が存在して
いたということはできないし、他に右事由が存在していたことを認めるに足り証拠
はない。
4 以上によれば、本件第一各賦課決定処分の取消しを求める訴えは、適法な不服
申立てを経由していないというべきである。そして、通則法一一五条によれば、国
税に
関する法律に基づく処分で不服申立てをすることができるものの取消しを求める訴
えは、不服申立てを前置すべきこととされているから、結局、右訴えは不適法であ
る。
二 争点2(推計による本件係争各年分の営業所得の金額等の算定の適否及びそれ
らの金額がいくらか)について
1 争点2―(一)(推計の必要性が認められるか否か)について
(一) 証拠(乙三八、証人P1、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件係
争各年分の所得税に関する被告の調査等に関する経緯について、以下の事実が認め
られ、これに反する証拠はない。
(1) 原告が、前記一1(五)記載のとおり、昭和六三年分の所得税の修正申告
に係る更正の請求書を提出したところから、被告所属の統括国税調査官からの指示
により、P1調査官がその調査を担当することとなった。
(二) P1調査官は、平成二年五月一一日ころ、原告方事務所に赴き、原告と面
接し、原告の事業の概況と更正の請求の趣旨について尋ねたところ、明確な回答が
得られず、具体的な調査ができなかった。また、その際の原告の言動から、平成元
年分の所得税についても調査の必要があると判断し、統括国税調査官からその了解
を得た。
(3) 平成二年六月五日、P1調査官は、原告方事務所に赴き、原告に対し、平
成元年分の所得税の調査も併せて実施する旨伝え、本件係争各年分の確定申告の基
礎となった取引の帳簿類及び不動産売買契約書の提示を求めた。これに対して、原
告は、必要経費につき継続的に記帳している帳簿書類は存在しないと回答し、必要
経費の領収書については提出せず、契約書は一部提示したものの複写機による写し
の作成を拒絶した。
 また、平成二年七月二七日、八月一七日及び九月一三日、P1調査官は、原告方
事務所に赴き、帳簿書類等の提示を依頼したところ、原告は、不動産売買、仲介に
係る書類の一部を提示した。
 右調査により、P1調査官は、原告から、本件係争各年分の営業所得及び分離土
地事業所得に係る不動産売買等契約書、不動産仲介に関する契約書、不動産取引台
帳、収入金額に関する領収証控え及び仕入れに関する領収書等の提示を受けたが、
収入及び支出について日々の取引を継続的に記録した帳簿や、必要経費についてそ
の支払の事実を証明する書類の提示は受けることができなかった。
(4) 平成二年一〇月四日、P1調査官は、原告方事務所に赴き、原告に対し
て、反面調査の
内容と原告が提示した不動産売買契約書及び不動産取引台帳等の記載との齟齬につ
いて説明を求めたところ、原告から明確な説明は得られなかった。
(5) その後、P1調査官は、原告方事務所に赴き、原告に対して、その時点ま
での調査結果を説明し、必要経費に関する書類等の提示がないので推計により所得
金額等の算出をしなければならない旨説明したが、原告は、必要経費について実額
による主張を特に行わなかった。
(二) 以上の事実を前提に、推計課税の必要性について検討する。
(1) 所得金額は、収入金額から必要経費を控除して計算されるものであり、そ
の計算は、本来、直接資料に基づき実額により行われるべきものであって、所得税
法においても、実額課税を当然の原則としているものと解される。しかしながら、
①納税義務者が収支を明らかにする帳簿書類を備え付けていないこと、②帳簿書類
の備え付けがあっても、その記載内容が不正確であること、③納税義務者が税務署
長の行う税務調査に非協力的であることなどにより、所得金額を実額で算定するこ
とが不可能又は著しく困難な場合には、各種の間接資料を用いて所得金額を推計し
て課税することも許容されるべきであり、所得税法一五六条は、このことを明らか
にしたものである。他方、右のような推計の必要性がないにもかかわらず、推計に
より所得金額を計算して更正処分を行った場合には、当該更正処分は、手続上の適
法要件を欠くものとして違法になるものというべきである。
(2) これを本件各更正処分についてみれば、本件においては、前記(一)
(3)で認定したとおり、P1調査官は、原告から、各年分の営業所得及び分離土
地事業所得に係る不動産契約書、不動産仲介に関する契約書、不動産取引台帳、収
入金額に関する領収証控え及び仕入れに関する領収書等の提示を受けたが、原告か
ら、収入及び支出について日々の取引を継続的に記録した帳簿は存在しないと言明
され、必要経費についてその支払の事実を証明する書類の提示も受けることができ
なかったというのであり、その結果、被告において、原告の営業所得及び分離土地
事業所得に係る必要経費及び不動産所得に係る所得金額を実額で算定することがで
きなかったものと認められるから、本件各更正処分については、推計の必要性があ
ったものというべきである。
2 推計課税は、前記1(二)(1)で説示したとおり、所得金額を実額で算
定することができないときに、やむを得ず間接資料により所得金額を推計するもの
であるから、推計の方法は、真実の所得金額に近似した数値を算出し得る合理的な
ものでなければならない。もとより、この場合において、推計によって算出した所
得金額ができるだけ真実の所得金額に近似することが望ましいことはいうまでもな
いが、推計というその方法の性質上、推計課税において求められる「推計の合理
性」とは、推計方法が一般的にみて合理的であり、真実の所得金額と近似する蓋然
性があると認められれば足りるものと解するのが相当である。
 右の観点から検討するに、被告が本件訴訟において主張する推計方法は、営業所
得及び分離土地事業所得の金額を算出する際、被告が反面調査等により把握した収
入全額を基礎とし、右各所得に係る必要経費を比準同業者の平均経費率に基づき推
計し、また、不動産所得を算出する際、右所得に係る所得を比準不動産所得者の平
均所得率に基づき推計して、それぞれ算出したというものであるが、原告の営む事
業が不動産売買・仲介業及び不動産賃貸業であることに照らすと、右推計の方法自
体は、原告の事業所得の金額を推計する方法として合理性を有するものと認められ
る。
3 そこで、以下、右の推計の方法を前提として、収入金額等その基礎的数値の認
定及び同業者比率の算定が適正か否かについて個別に検討を加える。
(一)(1) 原告の昭和六三年分の営業所得の金額及び分離土地事業所得の金額
の基礎となる収入金額が四七一〇万円であること、前記第二の二1(一)(1)の
①のP2からの収入金額一七三六万円が分離土地事業所得の金額であり、同②ない
し⑯の各取引に係る収入金額の合計二七九四万円が営業所得に係る収入金額である
こと、また、同①の取引に係る売上原価が五一七万七五六〇円であることは当事者
間に争いがない。
② 原告の平成元年分の営業所得の金額及び分離土地事業所得の金額の基礎となる
収入金額が二億四一〇九万四一七六円であること、前記第二の二2(一)(1)の
②の取引に係る収入金額のうち四九平方メートルの土地の分四七八万六八五六円
(総売上面積五六三平方メートルに占める当該売上面積四九平方メートルの割合を
収入金額に乗じて求めた金額)及び同③、④ないし⑤の各取引に係る収入金額の合
計一億三六三六万四九〇三円が分離土地事業所得の金額であり、同①、⑦ないし⑰
の各取引先からの
収入金額の合計一億〇四七二万九二七三円が営業所得に係る収入金額であること、
また、同①の取引に係る売上原価が六六一万一三二一円、同②の取引に係る売上原
価が二二六八万七七〇四円、同③の取引に係る売上原価が四三六五万円であるこ
と、同⑤ないし⑥の取引に係る売上原価が四六〇〇万円であることは、当事者間に
争いがない。
(二) 争点2―(二)(昭和六三年分の分離土地事業所得の売上原価の算定にお
いて、P15から購入した土地の価格はいくらか)について
(1) 証拠(乙四ないし一〇、証人P1)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、
P15から、昭和六三年一月二七日、土浦市γ一〇七七番三一の畑を一〇五〇万円
で購入し、手数料として三五万円を得たが、原告への登記名義を経由することな
く、同年一〇月一三日、これをP2に対して一七三六万円で売却したこと、しかる
に、原告は、P15(代理人原告)を売主、P2を買主として、右土地を一二〇〇
万円で譲渡した旨の契約書を作成し、これを被告に提示したことが認められる。
 なお、原告は、右土地の売上原価を一二一五万円であると主張し、原告本人の供
述中には右に沿う部分があり、これと概ね一致する内容のP31名義の書面(甲二
七)があるが、右書面の本文は原告により作成されたものであることに照らせば、
必ずしも原告の供述を裏付けに足りる証拠とはいい難い。また、代金額を一二〇〇
万円と記載したP15との間の契約書(甲一三)は、収入印紙の貼付がなく正式の
契約書としては不備が存し、これに、原告が複数の取引において代金額を異にする
二種類の契約書を作成しているという本件における事情も勘案すれば、これをもっ
て当事者間の真実の合意内容であると断ずることは困難である。よって、右各証拠
は採用できない。
(2) 右のとおり、原告はP15から右土地を代金一〇五〇万円で取得し、三五
万円の手数料を得たものと認められところ、買主である原告が売主から手数料を得
ることは通常考えられないから、右手数料は実質は売買代金の値引額とみるのが相
当であり、したがって、前記第二の二1(一)(1)②の取引に係る売上原価は一
〇五〇万円から右手数料額三五万円を差し引いた一〇一五万円とすべきである。
(3) 争点2―(三)(平成元年分の分離土地事業所得の売上原価の算定におい
て、P26から購入した土地及び建物の価格はいくらか)について
(1) 証拠(乙
一七、一八、証人P1)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、P26から、平成元
年三月九日、土浦市δ三八五番一の宅地二〇一・三八平方メートル及び同建物七
六・一五平方メートルを一八〇〇万円で購入し、これをP16に二四四〇万円で譲
渡したこと、しかるに、原告は、P26が原告を代理人として直接P16に対して
右土地及び建物を二四四〇万円で譲渡したとする内容の契約書を作成し、これを被
告に提示したことが認められる。
 なお、原告は、右土地及び建物の売上原価は、土地の取得費である一八〇〇万円
に、原告がP32のために立て替えた二一五万円と雑費五万円の合計二二〇万円を
加算した額であると主張し、原告本人の供述とP32名義の書面(甲一七の7、二
八)にはこれに沿う部分がある。
 そこで検討するに、証拠(甲一七の7、二八及び乙四〇)によれば、右土地等に
は、P32が経営する有限会社クラッシックアートタカノが金融機関から資金を借
り入れるために根抵当権が設定されていたところ、これを抹消するため、原告は、
P32から依頼されて二一〇万円を貸し付けたこと、原告はその後同人から右貸金
の返済を受けることができなかったことが認められる。そうすると、右金員は原告
の高野に対する貸金の趣旨で交付されたものであるから、これを売上原価と評価す
ることはできないし、また、右雑費五万円についても、その金額が売上原価となる
べき経費として支出されたことを認めるべき確たる証拠はない。
 よって、原告の主張を採用することはできない。
(2) 右のとおり、原告はP32から右土地及び建物を代金一八〇〇万円で取得
したものと認められ、したがって、前記第二の二1(一)(1)⑩の取引に係る売
上原価は同額とすべきである。
(四) 争点2―(四)(被告が採用した比準同業者比率による必要経費の推計が
合理性を有するか否か)について
 証拠(乙一九ないし二八、三九、証人P34)によれば、被告が行った比準同業
者及び比準不動産所得者の抽出方法は、前記第二の三(争点)2(四)の(被告の
主張)記載のとおりであること、設定した抽出条件に該当するすべての同業者を比
準の対象としていることがそれぞれ認められ、また、その抽出条件は、原告の事業
内容と比較して事業場所、業種、事業規模の点において類似性を有するものである
ということができる。
 右認定の比準同業者及び比準不動産所得者は、原告と同一地域
において不動産業を営む者ないし不動産の賃貸を行って不動産所得を得ている者
で、その事業規模、不動産の賃貸の規模が原告に類似している青色申告者であり、
その抽出について被告の恣意が介在した余地はなく、その抽出数も同業者の個別性
を平均化するに足りるものということができるから、これらの比準同業者の平均経
費率ないし比準不動産所得者の平均所得率は、その客観性、正確性及び普遍性が担
保されているというべきである。したがって、被告が右平均経費率ないし平均所得
率を適用して営業所得及び分離土地事業所得の必要経費の額ないし事業専従者控除
額控除前の不動産所得の金額を算定したことには合理性がある。
4 争点2―(五)(昭和六三年分の所得の金額の算定において、過年分の支払利
息を必要経費として算入すべきかどうか)について
(一) 証拠(甲一の2、二二の一)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、常陽銀
行土浦支店から、手形貸付の方法により継続的に金銭の借り入れをしており、昭和
六〇年ないし六二年においてその借入残高が存在しており、右借入金に係る支払利
息は、昭和六〇年において約五三六万円、昭和六一年において約六三七万円、昭和
六二年において約七九四万円であったこと、原告は、右支払利息を右各年分の必要
経費として計上しないでそれぞれの所得税の確定申告書を被告に提出していたこと
が認められる。
(二) 原告は、右過年分の支払利息は、被告が算定した昭和六三年分の所得の金
額から別途控除されるべきであると主張する。
 そこで検討するに、本件記録を検討するも、右過年分の支払利息額と、原告に昭
和六三年分の収入をもたらす各取引ないしその営業との関連を客観的に明らかにす
る証拠はなく、原告の陳述書(甲二九の2)及び原告本人の供述においてもその具
体的な内容は不明であって、結局、これが過年分の営業所得の金額等の算定の際に
算入されるべき必要経費であることを認めるに足りる証拠はない。
 のみならず、所得税法三七条一項は、事業所得の金額及び不動産所得の金額の計
算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めのあるものを除き、これらの所得の
総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額
及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務につい
て生じた費用(償却費以外の費用でその年において債務の確定しないものを除
く。)の額
とする旨規定しており、したがって、右1認定の過年分の支払利息については、仮
にそれが原告の不動産業又は不動産貸付に関連するものであったとしても、当該利
息債務が確定した各年分の営業所得の金額等の計算上必要経費に算入すべきもので
あり、これを昭和六三年分の営業所得の金額等の計算上必要経費に算入することは
できないものである。
 したがって、原告の主張は採用できない。
5 争点2―(六)(平成元年分の所得の金額の算定において、本件引受債務額を
必要経費として算入すべきか否か)について
(一) 証拠(甲九の2、二〇の5、二五の1、2、三一1、5ないし7、乙一)
及び弁論の全趣旨によれば、原告が本件引受債務を引き受けるに至った経緯は、次
のとおりであると認められる。
(1) 原告は、P33に対し、昭和六〇年三月一四日、土浦市γ一〇七九番地
五、同一〇八〇番地一、同一〇七九番地一一、同一〇八〇番地四所在の土地を、期
間二〇年、地代一か月一一万五〇〇〇円の約定で賃貸し(以下、この契約を「本件
賃貸借契約」という。)、P33は、同年八月一〇日ごろ、右土地上に建物(以下
「本件建物」という。)を建築して所有権保存登記を経た。原告は、P33の金融
機関からの借入金債務合計四五〇〇万円につき保証し、また、右債務を担保するた
め右一〇七九番一一及び一〇八〇番四の土地に抵当権を設定していた。
(2) 原告は、その後、昭和六〇年一一月一日付けで、P33と覚書(以下「本
件覚書」という。)を交し、昭和六〇年一一月二一日、P33の金融機関に対する
借入金債務を担保するため同一〇七九番五の土地に抵当権を設定した。そして、原
告は、本件建物につき、同年一二月七日受付で、売買予約を原因とする所有権移転
請求権仮登記を経由した。
(3) P33は、昭和六二年五月ないし六月ころから、租税債務を滞納し、借入
先金融機関への返済を怠るようになり、本件建物については、昭和六三年一二月一
六日受付で、茨城県土浦県税事務所により差押登記がされた。
(4) 原告は、平成元年六月九日、本件建物につき処分禁止の仮処分の登記を得
たうえ、同年七月五日、同人に対して本件建物の明渡しを求める訴えを水戸地方裁
判所土浦支部に提起した。そして、原告とP33は、右訴一訟において平成二年九
月一一日に裁判上の和解をなし、本件建物の所有権が本件賃貸借契約及び本件覚書
により原告に移転したことを確
認したうえ、原告は、P33の金融機関に対する借入金債務につき債務引受(本件
引受債務の引受け)をし、P33には負担させないこと等を合意した。
(二) 原告は、本件引受債務は、平成元年分の所得税において営業所得の金額等
から控除すべきであると主張する。
 しかし、事業所得又は不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき費用につ
いては、その年において債務が確定していることが必要である(所得税法三七条一
項)ところ、前記(一)で認定した事実によれば、本件引受債務は右和解の成立の
日である平成二年九月一一日に確定したものというべきであり、右裁判上の和解の
効果が当該訴訟を本案とする仮処分がされた日など右和解の成立前に遡及するもの
と解することはできないから、本件引受債務が平成元年中に確定したということは
到底できない。したがって、原告の主張は採用することができない。
4 以上によれば、被告がした推計による本件係争各年分の営業所得の金額等の算
定は、方法自体に合理性があり、また、推計の基礎数値は適正に認定されているの
であって、適法というべきである。したがって、原告の本件係争各年分の営業所
得、分離土地事業所得及び不動産所得の金額は前記第二の二1(一)及び(二)、
同2(一)及び(二)記載のとおりであると認めるのが相当である。
三 争点3(昭和六三年分の分離長期譲渡所得の金額がいくらか、すなわち、昭和
六三年分の分離長期譲渡所得の金額の算定において、本件買換特例が適用されるべ
きかどうか等)について
1 証拠(乙四一の1ないし4)によれば、原告は、株式会社セントラルハウジン
グに対し、昭和六二年一二月一〇日、土浦市α一二五番一及び同一二六番一所在の
田を一億九五七五万円で譲渡したこと、原告は、右譲渡資産を昭和四八年九月二四
日に四五〇〇万円で購入しており、また、右譲渡の際、仲介人に手数料として五〇
〇万円を支払ったことが認められるところ、原告は、右譲渡に係る分離長期譲渡所
得の金額の算定においては、本件買換特例が適用されるべきである旨主張する。
2 本件買換特例は、土地政策ないし国土政策上、積極的な働きを持つと考えられ
る土地等の譲渡、取得についての課税上の配慮として、個人が有する特定の事業用
資産の譲渡をし、当該譲渡の日の属する年の一二月三一日までに特定の事業用資産
を取得し、事業の用に供した場合に、譲渡所得の課税の繰延べを認
める特例であるところ、その適用を受けるためには、確定申告書に右特例の適用を
受ける旨の記載をし、かつ、譲渡をした資産の譲渡価額、買換資産の取得価額又は
その見積額に関する明細書その他大蔵省令で定める書類の添付があることが手続的
な要件とされている(租税特別措置法三七条七項)。
 しかるに、証拠(乙二九)及び弁論の全趣旨によれば、原告の昭和六三年分の所
得税の確定申告書には、右譲渡資産に係る分離長期譲渡所得の金額及び本件買換特
例の規定の適用を受けようとする旨の記載はなく、また、右譲渡資産の譲渡価額、
買換資産の取得価額又はその見積額に関する明細書その他大蔵省令で定める書類の
添付がされていなかったことが認められ、これを覆し、右手続要件が具備されてい
たと認めるに足りる証拠はない。
 したがって、前記1認定の不動産の譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の算定に
おいて、本件買換特例を適用することはできないというほかない。
 なお、税務署長は、右所要事項の記載もしくは添付書類の添付がなかった場合に
おいても、その記載又は添付がなかったことについてやむを得ない事情があると認
めるときは、当該記載をした書類並びに右明細書及び大蔵省令で定める書類の提出
があった場合に限り、本件買換特例を適用することができるものとされている(同
法三七条八項)。しかしながら、証拠(甲二一の3)及び弁論の全趣旨によれば、
原告は、昭和六三年分の所得税に係る本件更正請求において、分離長期譲渡所得の
金額を五八〇〇万円とする旨を記載したが、その際にも本件買換特例の規定の適用
を受けようとする旨の記載はしておらず、右明細書等の書類も提出していないこと
が認められるし、また、本件において右規定にいうやむを得ない事情が存在したと
認めるに足りる証拠はない。
3 原告は、平成元年一二月一六日に修正申告書を提出した際に原処分庁が認めた
貸倒金八七〇八万三四二九円を一事不再理により分離長期譲渡所得の金額から別途
控除すべきである旨主張する。
 しかしながら、右貸倒金八七〇八万三四二九円が存在すること、右貸倒金が本件
譲渡資産の取得費あるいは譲渡に要した費用であることについては、いずれもこれ
を認めるに足りる確たる証拠はない。
 また、被告において原告が昭和六三年分の所得税の修正申告書を提出した際に分
離長期譲渡所得金額の計算上右貸倒金を控除すべきものと認めたことを認めるに
足りる証拠はないし、原告と被告の交渉の経過がどうであれ、存在するかどうか不
明であり、また当該譲渡に係る収入と何らの関連性もない貸倒金の額について、一
事不再理等の法理により譲渡所得の計算上これを控除すべき法的根拠はないという
べきである。
4 したがって、平成六三年分の分離長期譲渡所得の金額は、前記第二の二1
(四)記載のとおりとなる。
四 争点4(本件係争各年分の重加算税の賦課決定処分の根拠となる仮装隠ぺい行
為があったかどうか)について
1 証拠(乙三八、証人P1、原告本人のほか、文中に掲記した証拠)によれば、
次の事実が認められる。
(一) P3との間の取引
 原告は、P3に対し、昭和六三年七月二日、土浦市β一一九二番四及び同一一九
三番四の畑二六〇平方メートルを一七〇〇万円で譲渡し、その旨の契約書(乙三)
を作成したが、右譲渡代金を一二〇〇万円と記載した契約書(乙二)も作成し、こ
れを被告に提示した。
(二) P18との間の取引
 原告は、P18に対し、平成元年四月四日、土浦市β一一九二番一、同一一九二
番二、同一一九三番一及び同一一九三番三の畑及び雑種地合計約三三二平方メート
ルを二三二〇万円で譲渡した(乙一二ないし一四)。
 しかるに、原告は、右土地の登記名義はP14のままであったことから(甲一四
の1、2)、P14(代理人原告)を売主、P18を買主として、右土地を一七二
〇万円で譲渡したとする契約書(乙一一)を作成し、これを被告に提示した。
(三) 株式会社村山商事との間の取引
 原告は、株式会社村山商事に対し、平成元年一二月二三日、土浦市β一一九二番
三、同一一九二番六、同一一八七番一及び同一一八八番三(四九・五八平方メート
ル)の畑合計五六三平方メートルを五五〇〇万円で譲渡した(乙一六)。
 しかるに、原告は、右土地を平成二年一月八日に譲渡したとする内容の契約書を
作成し(乙一五)、これを被告に提示した。
(四) 平成二年一〇月四日、P1調査官は、原告方事務所に赴き、原告に対し
て、調査により把握した右(一)ないし(三)の事実関係並びに前記二3(二)
(1)のP2に係る取引及び同(三)(1)のP16に係る取引に関する事実関係
と原告が提示した不動産売買契約書及び不動産取引台帳等の記載との齟齬について
説明を求めたところ、原告から明確な説明は得られなかった。
2 右1及び前記二3(二)(1)及び同(三)(1)で認
定したとおり、原告は、昭和六三年分の営業所得に係る収入に関して、大竹との間
の取引による収入五〇〇万円を除外して申告し、また、同年分の分離土地事業所得
に係る収入に関して、P2との間の取引による収入一七三六万円を申告しなかっ
た。さらに、原告は、平成元年分の営業所得に係る収入に関して、P18との間の
取引による収入から六〇〇万円を除外して申告し、同年分の営業所得及び分離土地
事業所得に関して、株式会社村山商事との取引による収入五五〇〇万円、P16と
の間の取引による収入二四四〇万円を申告しなかった。
 なお、原告は、右に関して、いずれも申告において収入を除外したことはないと
主張するも、右認定を覆し、右各年分の申告において右各取引が正しく申告された
ことを認めるに足りる証拠は存在しない。
3 前記二1で認定したとおり、原告は、白色申告者には帳簿作成義務がないと考
えて、正確な所得金額を把握し得る会計帳簿類を作成しておらず、しかも、その後
の税務調査に際しても内容虚偽の契約書を提出するなどの対応をし、真実の所得金
額を隠ぺいする態度、行動をできる限り貫こうとしているのであって、申告当初か
ら、真実の所得金額の一部を隠ぺいする意図を有していたといわざるを得ない。し
たがって、原告がした本件係争各年分の所得税の申告及び修正申告は、単なる過少
申告行為にとどまるものではなく、通則法六八条一項にいう税額等の計算の基礎と
なるべき所得の存在を一部隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を
提出した場合に当たるというべきである。
 しかして、前記1及び前記二3(二)、(三)の各認定事実によれば、原告の昭
和六三年分の営業所得に係る重加算税の対象となる収入除外額は、P3との間の取
引による収入五〇〇万円、同年分の分離土地事業所得に係る重加算税の対象となる
収入除外額は、P2との間の取引による収入一七三六万円となり、したがって、同
年分の各所得金額のうち重加算税の対象となる所得金額は、営業所得の金額が五〇
〇万円(重加算税の対象となる収入除外額と同額)、分離土地事業所得の金額が五
一一万〇〇〇六円(前記第二の二1(一)(7)記載の分離土地事業所得の金額と
同額)となる。また、原告の平成元年分の営業所得に係る収入除外額は、P18と
の間の取引による収入六〇〇万円、村山商事との間の取引による収入五五〇〇万円
のうちの五〇二一万三一四四
円及びP16との間の取引による収入二四四〇万円のうち九〇八万一九五三円の合
計六五二九万五〇九七円、同年分の分離土地事業に係る重加算税の対象となる収入
除外額は村山商事との間の取引による収入五五〇〇万円のうち四七八万六八五六円
及びP16との間の取引による収入二四四〇万円のうちの一五三一万八〇四七円の
合計二〇一〇万四九〇三万円となり、したがって、同年分の各所得金額のうち重加
算税の対象となる所得金額は、営業所得の金額が五〇四二万七二九一円(前記第二
の二2(一)(6)記載の営業所得金額五七八二万七二九一円から、甲三五の2に
より認められる原告の当初申告の営業所得金額七四〇万円を差し引いた金額であ
る。)、分離土地事業所得の金額が一四四五万五二一〇円(前記第二の二2(一)
(7)記載の分離土地事業所得の金額と同額である。)となる。
五 本件各更正処分等の適法性について
1 本件各更正処分について
(一) 推計による本件係争各年分の営業所得等の金額の算定が適法にされてお
り、したがって、原告の本件係争各年分の営業所得、分離土地事業所得及び不動産
所得の金額は前記第二の二1(一)及び(二)、同2(一)及び(二)記載のとお
りと認めることが相当であること、昭和六三年分の分離長期譲渡所得の金額の算定
において、本件買換特例の適用がなく、また、原告主張の貸倒金額を控除すべき根
拠もなく、したがって、昭和六三年分の分離長期譲渡所得の金額は前記第二の二1
(四)記載のとおりとなることは、前記二及び三に説示したとおりである。
 そこで、これらの点及びその余の争いがない本件係争各年分の農業所得の金額及
び所得控除の額を前提に原告の本件係争各年分の総所得金額等及び納付すべき金額
を計算すると、次のとおり(前記第二の二1(六)及び(七)、同2(五)及び
(六)記載のとおり)となる。
(1) 昭和六三年分の所得金額及び納付すべき税額
ア 総所得金額      二二四〇万三〇〇六円
  これに対する税額    六四九万一〇〇〇円
イ 分離土地事業所得金額      五一一万円
  これに対する税額    三〇六万六〇〇〇円
ウ 分離長期譲渡所得金額   一億四四六五万円
  これに対する税額   三八四七万三二〇〇円
エ 納付すべき税額    四八〇三万〇二〇〇円
(2) 平成元年分の所得金額及び納付すべき金額
ア 総所得金額      六四三〇万九八五
七円
  これに対する税額   二七三七万九五〇〇円
イ 分離土地事業所得金額 一四四四万五〇〇〇円
  これに対する税額    八六六万七〇〇〇円
ウ 納付すべき税額    三六〇四万六五〇〇円
② 本件係争各年分に係る本件各更正処分による総所得金額等及び納付すべき税額
は、右(一)記載の各金額を上回らないから、本件各更正処分は適法である。
2 本件第二各賦課決定処分について
(一) 原告が過少申告をし、また、過少申告の一部について通則法六八条一項の
定める重加算税の課税要件が存在することは、前記四に説示したとおりである。し
たがって、原告に対しては、通則法六五条及び六八条に基づき、本件各更正処分に
伴い原告が新たに納付すべき所得税額(納付すべき税額)を基礎として計算される
過少申告加算税及び重加算税を課すべきである。
(二) しかして、前記認定の納付すべき税額を前提として原告に課すべき右各加
算税の額を計算すると、前記第二の二4(一)(3)及び同(二)(2)記載のと
おりとなる。
 本件第二各賦課決定処分による重加算税及び過少申告加算税の額は、昭和六三年
分の過少申告加算税額が七二万四五〇〇円、重加算税額が一八三万四〇〇〇円であ
り、また、平成元年分の過少申告加算税の額が一一万二〇〇〇円、重加算税額が九
七五万一〇〇〇円であり、前記第二の二4(一)(3)及び同(二)(2)に記載
した金額と同額か又はこれを上回らない。
 したがって、右第二各賦課決定処分はいずれも適法である。
(三) なお、昭和六三年分の所得税に係る加算税の賦課決定処分(過少申告加算
税額四四万二五〇〇円、重加算税額二四九万二〇〇〇円の合計額である二九三万四
五〇〇円)に関し、審査請求に対する裁決において、審判所長は、右賦課決定処分
のうち、重加算税の基礎とされた税額のうち審判所長がその基礎とすべきものと認
定した金額を超える部分を基礎として計算される重加算税の額から右部分を基礎と
して計算される過少申告加算税の額を控除した金額である三七万六〇〇〇円を取り
消しているので、重加算税の基礎とされた税額の一部を過少申告加算税の基礎とな
る税額として加算税を見直すことの許否が問題となる。
 しかし、そもそも、通則法六五条の規定による過少申告加算税の賦課と同法六八
条一項の規定による重加算税の賦課とは、相互に無関係な別個独立の処分ではな
く、重加算税の賦課は、過少申告
加算税として賦課されるべき一定の税額に前記加重額に当たる一定の金額を加えた
額の税を賦課する処分として、右過少申告加算税に相当する部分をその中に含んで
いるものと解するのが相当であり、したがって、右のような加算税の見直しは当然
許されるものというべきである。
六 結論
 以上の次第で、本件訴えのうち、被告が平成二年一月三一日付けでした原告の本
件第一各賦課決定処分の取消しを求める部分は不適法であるからこれを却下し、原
告のその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の
負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判
決する。
東京地方裁判所民事第三部
裁判長裁判官 青柳馨一
裁判官 谷口豊
裁判官 加藤聡

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