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令和3年2月4日判決言渡
平成31年(行ケ)第10041号審決取消請求事件
口頭弁論終結日令和2年12月9日
判決
原告イワツキ株式会社
同訴訟代理人弁理士花田吉秋
同日比谷征彦
同日比谷洋平10
同花田健史
被告株式会社瑞光
同訴訟代理人弁護士後藤未来15
同白波瀬悠美子
同訴訟代理人弁理士市川英彦
同青木孝博
主文
1原告の請求を棄却する。20
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2017-800084号事件について平成31年2月18日
にした審決のうち,特許第5433762号の請求項6,7,9ないし13に25
係る部分を取り消す。
(以下,書証については,単に「甲1」などと略記する。)
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯等
(1)被告は,平成23年5月31日に出願した国際特許出願(特願2012-
518387号。優先日平成22年6月1日,優先権主張国日本,優先権主5
張番号:特願2010-126338号)の一部を分割して,平成24年1
0月24日,発明の名称を「創傷被覆材用表面シートおよび創傷被覆材」と
する発明について新たな特許出願(特願2012-234412号。以下「本
件出願」という。)をし,平成25年12月13日,特許権の設定登録(特許
第5433762号。請求項の数19。以下,この特許を「本件特許」とい10
う。)を受けた(甲12,34)。
(2)原告は,平成29年6月30日,本件特許について特許無効審判(無効2
017-800084号)を請求した(甲25)。
被告は,平成29年11月6日付けで,請求項9ないし19を一群の請求
項として訂正する訂正請求(甲27)をした後,平成30年6月29日付け15
の審決の予告(甲28)を受けたため,同年9月4日付けで,請求項1ない
し19を一群の請求項として訂正する訂正請求(甲30。以下「本件訂正」
という。)をした。
その後,特許庁は,平成31年2月18日,本件訂正を認めた上で,特許
第5433762号の請求項1ないし5,8,14ないし19に係る発明に20
ついての特許を無効とし,特許第5433762号の請求項6,7,9ない
し13に係る発明についての審判の請求は,成り立たない旨の審決(以下「本
件審決」という。)をし,その謄本は,同月28日,原告に送達された。
(3)原告は,平成31年3月28日,本件審決のうち,特許第5433762
号の請求項6,7,9ないし13に係る部分の取消しを求める本件訴訟を提25
起した。
2本件訂正後の特許請求の範囲の記載
本件特許の本件訂正後の請求項1,6,7,9ないし13の記載は,次のと
おりである(以下,訂正後の請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を「本
件発明1」などといい,請求項1ないし19に係る発明を「本件発明」という。
甲34)。5
【請求項1】
少なくとも透液層(1)と吸収保持層(3)との2つの層を備えた創傷被覆材
であって,
創傷部位(15)と対面するように使用される側から順に,上記の透液層(1)
と吸収保持層(3)とを直接積層してなり,10
上記の透液層(1)は,上記の創傷部位(15)と対面する第1表面(11)
と,これとは反対側の第2表面(12)と,両表面(11・12)間に亘って厚
さ方向に貫通する多数の貫通孔(13)とを有し,
上記の貫通孔(13)は開孔率が3.07%以上であって,上記の第1表面(1
1)側から第2表面(12)側への液体の透過を許容し,15
上記の第1表面(11)が疎水性を備えている樹脂製のシート材からなり,
上記の吸収保持層(3)は,水を吸収保持可能なシート材を含有する創傷被覆
材において,
上記の吸収保持層(3)は上記の透液層(1)と一体化されておらず,
上記の貫通孔(13)の深さが100~2000μmであり,20
上記の貫通孔(13)が50~400個/cm2
の密度で存在することを特徴と
する創傷被覆材。
【請求項6】
上記のシート材は,低密度ポリエチレン樹脂材料を用いて形成し,
前記の貫通孔(13)は,上記の第1表面(11)での開口面積が直径28025
~1400μmの円形に相当する,請求項1~4のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項7】
上記の第1表面(11)と第2表面(12)との間の寸法は100~2000
μmであり,
前記の貫通孔(13)は,上記の第1表面(11)での開口面積が直径280
~1400μmの円形に相当し,上記の第2表面(12)での開口面積が上記の5
第1表面(11)での開口面積より小であり,50~400個/cm2
の密度で存
在する,請求項1~6のいずれかに記載の創傷被覆材。
【請求項9】
上記の吸収保持層(3)の,創傷側とは反対側の表面に保護層(4)をさらに
備え,この保護層(4)は,樹脂フィルム,織布,編布もしくは不織布からなり,10
上記の貫通孔は,上記の第1表面から上記の第2表面に向かって減少する孔径
を有し,上記の開孔率が15~60%であり,上記の貫通孔の深さが100~2
000μmであり,上記の貫通孔が50~400個/cm2
の密度で存在し,上記
の創傷部位と上記の第2表面との間に貯留空間を有し,上記の創傷部位の上に滲
出液を保持する,請求項1~7のいずれかに記載の創傷被覆材。15
【請求項10】
上記の保護層(4)は他の全ての層を覆うとともに,この他の層より広い面積
に形成されて,他の層の外側にはみ出した外縁部(6)を備えており,
上記の外縁部(6)は上記の他の層が積層された側の表面の少なくとも一部に
粘着部(7)を有する,請求項9に記載の創傷被覆材。20
【請求項11】
上記の保護層(4)は,上記の外縁部(6)に粘着部(7)を有しない非粘着
部(8)を備えている,請求項10に記載の創傷被覆材。
【請求項12】
上記の保護層(4)は,上記の他の層の外側に,上記の外縁部(6)が形成さ25
れていない部分を備えている,請求項10に記載の創傷被覆材。
【請求項13】
上記の保護層(4)は,上記の外縁部(6)に,スリット(9)もしくは小孔
を上記の他の層の外周に沿って備えている,請求項10に記載の創傷被覆材。
3本件審決の要旨
(1)本件発明6,7,9ないし13に関する本件審決の要旨は,以下のとおり5
である。
ア本件発明1の発明特定事項である「上記の吸収保持層(3)は上記の透
液層(1)と一体化されていない」点に関する本件出願の願書に添付した
明細書(以下,図面を含めて「本件明細書」という。)の【0102】~【0
104】及び図17の記載事項は,優先権主張の基礎とされた先の先願(特10
願2010-126338号)の願書に最初に添付された明細書,特許請
求の範囲又は図面(甲12。以下「基礎出願明細書等」という。)には記載
されておらず,本件特許に係る出願の原出願である国際特許出願の願書に
最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(甲13。以下「原出
願明細書等」という。)に記載された発明であり,したがって,被請求人(被15
告)の優先権主張は,特許法41条1項本文の規定を満たしていないから,
本件発明についての新規性,進歩性の判断基準日は,優先日である平成2
2年6月1日ではなく,国際出願日である平成23年5月31日である
(以下,この日を「本件国際出願日」という。)。
イ本件発明6は,本件国際出願日前に頒布された刊行物である甲1(特開20
2007-130134号公報)に記載された発明(以下「甲1発明」と
いう。)及び本件国際出願日前に頒布された刊行物である甲2ないし4,6,
7,9に記載された事項に基づいて,本件発明7,9ないし13は,甲1
発明及び甲2ないし4,6,7に記載された事項に基づいて,いずれも当
業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから,原告25
主張の特許法29条2項違反の無効理由1は理由がない。
ウ本件発明1の「開孔率が3.07%以上」との記載は,本件明細書の発
明の詳細な説明に記載されていた事項に等しい事項であり,特許法36条
6項1号に規定する要件(以下「サポート要件」という。)を満たしている
から,原告主張の同号違反の無効理由3は理由がない。
エ本件発明1の「開孔率が3.07%以上であって」に関し,開孔率の上5
限が規定されていないことのみを理由として,本件発明は明確でないとは
いえず,その特許請求の範囲は特許法36条6項2号に規定する要件(以
下「明確性要件」という。)に適合するから,原告主張の同号違反の無効理
由4は理由がない。
(2)本件審決が認定した甲1発明と本件発明6の一致点及び相違点は,以下の10
とおりである。
ア甲1発明
上面及び傷接触表面となる下面を有する傷手当用品であって,
下面側に位置する下面側被覆層と,上面側に位置する上面側被覆層と,
これらの被覆層の間に介在させた吸収層とを有し,15
下面側被覆層は,積層構造とし,少なくとも傷接触表面側の層は疎水性
樹脂層とし,かつ,これらの層を貫通する多数の孔が設けられ,傷からの
体液が吸収層へ移動し得るようになっており,
吸収層は吸水性の高い材料を使用してなる層であり,
下面側被覆層と上面側被覆層は,吸収層の外側でシール部により互いに20
接合され,吸収層を被覆している,
傷手当用品。
イ一致点
少なくとも透液層と吸収保持層との2つの層を備えた創傷被覆材であ
って,25
創傷部位と対面するように使用される側から順に,上記の透液層と吸収
保持層とを積層してなり,
上記の透液層は,上記の創傷部位と対面する第1表面と,これとは反対
側の第2表面と,両表面間に亘って厚さ方向に貫通する多数の貫通孔とを
有し,
上記の貫通孔は,上記の第1表面側から第2表面側への液体の透過を許5
容し,
上記の第1表面が疎水性を備えている樹脂製のシート材からなり,
上記の吸収保持層は,水を吸収保持可能なシート材を含有する,
創傷被覆材。
ウ相違点10
(相違点1B)
「吸水保持層」について,本件発明1では,「上記の透液層」と「直接積
層」され,「上記の透液層と一体化されていない」のに対し,甲1発明では,
「上記の透液層」と「直接積層」され,「上記の透液層と一体化されていな
い」か,が不明である点。15
(相違点6A)
本件発明6では,本件発明1の「第1表面が疎水性を備えている樹脂製
のシート材」について,「上記のシート材は,低密度ポリエチレン樹脂材料
を用いて形成してある」のに対し,甲1発明では,「下面側被覆層」を,そ
のような材料を用いて形成してあるのかが不明である点。20
(相違点6B)
「貫通孔」について,本件発明6は,「開孔率が3.07%以上」であっ
て,「深さが100~2000μm」であり,「50~400個/cm2
の密
度で存在」し,「上記の第1表面(11)での開口面積が直径280~14
00μmの円形に相当する」のに対し,甲1発明は,開孔率,深さ,存在25
密度,傷接触表面となる下面での開口面積が,いずれも不明である点。
(3)本件審決が認定した本件発明7と甲1発明の一致点及び相違点は,以下の
とおりである。
ア一致点
(2)イに同じ。
イ相違点5
(相違点1A)
「貫通孔」について,本件発明1は,「開孔率が3.07%以上」であっ
て,「深さが100~2000μm」であり,「50~400個/cm2
の密
度で存在」するのに対し,甲1発明は,開孔率,深さ,存在密度が不明で
ある点。10
(相違点1B)
(2)ウの(相違点1B)に同じ。
(相違点7)
本件発明7では,「上記の第1表面と第2表面との間の寸法は100~
2000μmであり,前記の貫通孔は,上記の第1表面での開口面積が直15
径280~1400μmの円形に相当し,上記の第2表面での開口面積が
上記の第1表面での開口面積より小であり,50~400個/cm2
の密
度で存在する」のに対し,甲1発明では,「下側被覆層」の「傷接触表面」
とその反対側の面との間の寸法や,「孔」の大きさ,形状,存在密度が不明
である点。20
(4)本件審決が認定した本件発明9と甲1発明の一致点及び相違点は,以下の
とおりである。
ア一致点
(2)イに同じ。
イ相違点25
(相違点1B)
(2)ウの(相違点1B)に同じ。
(相違点9)
本件発明9では,「上記の吸収保持層の,創傷側とは反対側の表面に保護
層をさらに備え,この保護層は,樹脂フィルム,織布,編布もしくは不織
布からなり」,「貫通孔」について,「上記の第1表面から上記の第2表面に5
向かって減少する孔径を有し,上記の開孔率が15~60%であり,上記
の貫通孔の深さが100~2000μmであり,上記の貫通孔が50~4
00個/cm2
の密度で存在し,上記の創傷部位と上記の第2表面との間
に貯留空間を有し,上記の創傷部位の上に滲出液を保持する」のに対し,
甲1発明は,開孔率,深さ,存在密度が,いずれも不明であり,滲出液を10
保持し得るとも特定されていない点。
第3当事者の主張
1取消事由1-1(甲1発明を主引用例とする本件発明6の容易想到性の判断
の誤り)
(1)原告の主張15
本件審決は,相違点6Bに関し,①本件発明は,「創傷部位上に適量の滲出
液を保持する」ための「適度な貯留空間」として,「貫通孔」が形成されるた
めには,適切な「開口面積」と「深さ」が規定されることがその要件となる
といえるところ,本件発明6は,「開孔率が3.07%以上」であって,「深
さが100~2000μm」であり,「50~400個/cm2
の密度で存在」20
し,「上記の第1表面(11)での開口面積が直径280~1400μmの円
形に相当する」ことを発明特定事項として備えている,②これに対して,甲
1発明は,甲1の【0034】の記載からも明らかなように,「吸収層」に,
「創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促進する」という機能を具備させる一
方,「孔」は,単に,「傷からの体液が吸収層へ移動し得るようになって」い25
るとした発明であり,上記機能を「吸収層」に代えて,または,付加して「孔」
に持たせるべき動機付けとなる記載はないし,これを示唆する記載もない,
③したがって,相違点6Bに関して,甲4の特許請求の範囲[4]に「前記
第1層のシート材の厚さが100~2000μmであり,前記小孔は,創傷
部位に接するように使用される側の面での開孔径が直径相当280~140
0μmであり,他方の面での開孔径が前記創傷部位に接するように使用され5
る側の面での開孔径より小であり,50~400個/cm2
の密度で存在す
る・・・創傷被覆材。」と記載され,[0024]~[0029]に「貫通孔の孔
径としては,第1シート材において創傷部位に接するように使用される側の
面(以下,「創傷側の面」ということがある。)での開孔径が直径相当で28
0~1400μmであることが好ましい。・・・また,貫通孔は,50~40010
個/cm2
の密度で存在することが好ましく,60~325個/cm2
の密度
で存在することが好ましく。さらに,創傷側の面における貫通孔の開孔率と
しては,第1シート材全体に対して15~60%であることが好ましい。・・・
貫通孔について,密度,開孔率および深さを上記の好ましい範囲とすること
は,創傷面と第2層との間において適度な貯留空間を形成して創傷面上に適15
度な滲出液を保持するとともに,滲出液が面内方向に広がるのを防止すると
いう点で有利である。」との技術的事項が記載され,さらに,甲7の【請求項
4】及び【0021】~【0024】にも同様の技術的事項が記載されてい
るとしても,「孔」の開孔率,深さ,存在密度,開口面積の特定がない甲1発
明において,その「吸収層」が有する「創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を20
促進する」という機能をさらに「孔」にも持たせることの動機付けにはなら
ないから,甲1発明に,甲4及び甲7に記載された技術的事項を採用するこ
とは,当業者が容易になし得たことであるとはいえない旨判断したが,以下
のとおり誤りである。
ア本件国際出願日当時の技術常識について25
創傷被覆材の技術分野において,創傷部位からの滲出液による湿潤環境
を維持しながら治療する方法(湿潤治療法)が有効であり(甲4[000
2],甲7【0002】,甲18[0002]),湿潤治療法を効果的に行う
ためには,少なくとも,(ⅰ)創傷面上において滲出液が適度に保持される
機能,(ⅱ)創傷面上から滲出液を適度に排出する機能が求められる(甲4
[0003],甲7【0003】,甲18[0003])ほか,(ⅲ)滲出液5
が面内方向に広がるのを防止する機能を更に備える(甲4[0038],甲
7【0032】)ことが求められることは,本件国際出願日当時における技
術常識であった(以下,原告が主張する創傷被覆材の3つの機能に関する
技術常識を「技術常識1」といい,各機能を指すときは,技術常識1(ⅰ)
などという。)。10
また,創傷被覆材の技術分野において,創傷部位に接する層に設けられ
た貫通孔に関し,その深さが100~2000μmの範囲内にあること
(甲4[0028],甲7【0023】,甲18[0009],甲19【00
21】),その開口面積が直径相当で240~1400μmの範囲内にある
こと(甲4[0024],甲7【0021】,甲19【0020】)は,本件15
国際出願日当時の技術常識であった(以下,原告が主張するこの技術常識
を「技術常識2」という。)。
イ甲1発明に甲7に記載された発明を適用することによる相違点6Bの容
易想到性について
甲1発明は,「創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促進する」(【0034】)20
ことを課題とするものであるところ,技術常識1を有する当業者であれば,
甲1発明において,湿潤治療法をより効果的に行うために,「吸収層」はそ
のままにしつつ,甲1発明の「下面側被覆層」について,技術常識1の3
つの機能を備えるものとすることに着想したはずである。
そして,甲7には「本発明者は,創傷からの滲出液による湿潤状態を維25
持しながら治療する方法に好適な,さらに改良された創傷被覆材を提供す
ることを目的とする。」(【0009】)との記載があるように,甲1発明も
甲7に記載された発明も,創傷からの滲出液による湿潤機能を維持しなが
ら治癒するという点で課題を共通にするものであるから,上記のように着
想した当業者が甲7に接したとき,甲7の「第1シート材」が,湿潤治療
法をより効果的に行うための機能のうち技術常識1の3つの機能を備え5
ることを認識し,甲1発明に甲7に記載された発明を適用することを試み
たはずである。
具体的には,甲1発明における「下面被覆層」は,「少なくとも傷接触表
面側の層は疎水性樹脂層とし,かつ,これらの層を貫通する多数の孔が設
けられ,傷からの体液が吸収層へ移動し得るようになって」いる(甲1【010
021】)ことから,技術常識1の(ⅱ)の機能を有するところ,さらに技
術常識1の(ⅰ)及び(ⅲ)の機能を付与するために,甲1発明の「下面
側被覆層」に代えて,甲7の「創傷部位に向かって突出する多数の凸部(5)
およびその周囲に形成される凹部(6)を有する凸凹シートであり,前記凸部
(5)に厚さ方向に貫通する孔・・を有する」(【0019】)との表面構造と,開15
孔率が15~60%であり,深さが100~2000μmであり,密度が
50~400個/cm2
であり(【0023】),開孔径が直径相当で240
~1100μm(【0021】)である貫通孔とを有する第1シート材を適
用したはずである。
以上のとおり,甲1発明の課題を解決するために,これと共通する課題20
を有する甲7に記載された開孔率等の数値範囲を適用した貫通孔を有す
る凸凹シートを適用する動機付けがあり,当業者であれば相違点6Bは容
易に想到するといえる。
ウ甲1発明に甲4に記載された発明を適用することによる相違点6Bの容
易想到性について25
甲1発明は,「創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促進する」(【0034】)
ことを課題とするものであるところ,技術常識1を有する当業者であれば,
甲1発明において,湿潤治療法をより効果的に行うために,甲1発明の「吸
収層」はそのままにしつつ,「下面側被覆層」の「孔」について,技術常識
1の3つの機能を備えるものとすることに着想したはずである。
そして,甲4には「創傷からの浸出液による湿潤環境を維持しながら治5
療するものである」([0014])との記載があるように,甲1発明と甲4
発明とは,創傷からの滲出液による湿潤機能を維持しながら治癒するとい
う点で課題を共通にするから,上記のように着想した当業者が甲4に接し
たとき,甲4の貫通孔が湿潤治療法をより効果的に行うための機能のうち,
技術常識1の3つの機能を備えることを認識し,甲1発明に甲4に記載さ10
れた発明を適用することを試みたはずである。
具体的には,甲1発明における「孔」は,「傷からの体液が吸収層へ移動
し得る」(甲1【0021】)ものであるから,技術常識1の(ⅱ)の機能
を有するところ,さらに技術常識1の(ⅰ)及び(ⅲ)の機能を付与する
ために,孔について,甲4の[0038]の記載の示唆(当業者は,甲415
の「第1シート材(第1層)」に設けられた貫通孔は,「第2シート材(第
2層)」が存在するか否かにかかわらず,創傷から滲出液が滲み出す初期の
段階では,貫通孔の中途まで滲出液が侵入し,これにより滲出液は,貫通
孔によって面方向に動かないように捕捉された状態となり,創傷箇所より
もその面積を大きく広げることなく,創傷面と第1層との間で保持されて20
湿潤環境を保つものと認識する。)に従って,創傷から滲出液が滲み出す初
期の段階において滲出液を貫通孔の中途まで侵入させ,貫通孔によって面
方向に動かないように捕捉し,創傷箇所よりも滲出液の面積を大きく広げ
ることなく,創傷面と第1層との間で保持して湿潤環境を保つために,「下
面側被覆層」に「初期耐水圧性」を具備させるべく,「創傷側の面での開孔25
径」が反対側の面での開孔径の「1.1~1.8倍」である「傾斜孔」と
し(甲4[0025],)「密度」を「50~400個/cm2
」とし,「開孔
率」を「15~60%」とする(甲4[0035])とともに,「容量」を
「一個あたり0.015~0.55μl」(甲4[0038])としたは
ずである。
そして,「傾斜孔」の「容量」は,「創傷側の面での開口面積」,「深さ」5
及び「開口面積比(創傷側の面での開口面積を反対側の面での開口面積で
除して得た値。)」が与えられれば,これを求めることができるところ,当
業者にとって,上記甲4[0038]のとおり「孔」の「容量」を「一個
あたり0.015~0.55μl」とする示唆さえあれば,これを実現す
るに当たり,技術常識2に照らし,「貫通孔」における通常の「開口面積」10
及び「深さ」の範囲内においてこれらを調整することは適宜なし得る設計
的事項であり,一例として,「容量」を「0.42μl」とするに当たって,
「傾斜孔」の「開口面積比」を「1.45倍」とすれば,「開口面積」は「直
径840μm」となり,「深さ」は「1050μm」となり,相違点6Bの
発明特定事項に至る。15
以上のとおり,甲1発明の課題を解決するために,これと共通する課題
を有する甲4に記載された発明を適用する動機付けがあり,相違点6Bは
当業者であれば容易に想到するといえる。
エ本件発明に対する特許法41条2項の適用について
被告は,後記(2)アのとおり,本件発明についての特許法29条の適用に20
ついては,同法41条2項により本件特許に係る特許出願は基礎出願の時
にされたものとみなされる旨主張するが,本件発明は,本件出願の原出願
である国際特許出願(特願2012-518387号)の原出願明細書等
に記載された発明であるものの,特許法41条1項の規定による優先権の
主張の基礎とされた出願(特願2010-126338号)の基礎出願明25
細書等に記載された発明ではないから,本件出願は,優先日(平成22年
6月1日)にされたものとはみなされず,本件国際出願日(平成23年5
月31日)にされたものとみなされるにとどまる。
オ小活
以上によれば,本件審決の相違点6Bの構成の容易想到性に関する上記
判断は誤りであり,本件審決は,取り消されるべきである。5
(2)被告の主張
ア本件発明に対する特許法41条2項の適用について
本件発明においては「吸収保持層が透液層と一体化されていない態様」
が特定されているところ,「吸収保持層と透液層と一体化されている態様」
と「吸収保持層が透液層と一体化されていない態様」は,一体化を採用す10
るか否かという点で相反するものであり,本件特許の出願人は,このよう
に相反する2つの態様を基礎出願において意図していたからこそ基礎出
願に基づく優先権主張をして後の出願(国際出願)をしたのである。特許
法41条1項の規定による優先権主張の基礎とされた先の出願(特願20
10-126338号)の明細書における「本発明の被覆材は,少なくと15
も2つの層から構成される創傷被覆材であって,創傷部位に接するように
使用される側からA層,C層の順に積層され一体化してなる態様であって
もよい。」(【0019】)の記載は,一体化されていない態様の存在を前提
としながらそれと異なる「一体化してなる態様」について説明するという
出願人の意図を反映するものである。20
したがって,本件発明の「吸収保持層が透液層と一体化されていない」
という技術的事項は,基礎出願明細書等に記載されたものであるから,本
件発明についての特許法29条の適用については,同法41条2項により
本件特許に係る特許出願は,基礎出願の時にされたものとみなされるとい
うべきである。そうすると,基礎出願時には頒布されていなかった甲6,25
7に基づいて容易相当性を判断することは,そもそも許されない。
イ甲1発明に甲7に記載された発明を適用することによる相違点6Bの容
易想到性の主張に対し
(ア)本件発明6は,請求項6が引用する請求項1において,貫通孔の開
孔率,深さ,存在密度がそれぞれ規定されている。そして,本件明細書
の【0032】の記載等に照らせば,当該規定の貫通孔を備えることに5
よって,創傷部位と第2表面(12)との間に適度な貯留空間(14)
を形成でき,当該貯留空間において滲出液を保持することで,創傷部位
上に適量の滲出液を保持して創傷を湿潤に保つという技術的意義を有
する。
これに対し,甲1発明における被覆層の「孔」は,傷からの体液を吸10
収層へ移動させるように機能させることに技術的意義があり,「創傷を湿
潤状態に保ち,傷の治癒を促進する」ことができるのは「孔」という機
能によるのではなく,吸収層において特に水吸収時にゲルを形成する物
質を含ませることによってされている。
このように,甲1発明は,創傷を湿潤状態に保って傷の治癒を促進す15
るための機序や技術思想が本件発明6とは全く異なるものであり,甲1
発明において「創傷を湿潤状態に保ち傷の治癒を促進する」機能を果た
すことが想定されていない「孔」を敢えて改変して,本件発明6のよう
に「孔」が貯留空間を有するようにして体液を保持するように構成しよ
うとする動機付けがあったとはいえない。20
(イ)また,甲7の創傷被覆材では,滲出液は貫通孔(4)の内部ではなく創
傷部と凹部(6)との間で保持されるものであり(【0032】),本件発明
6の構成(創傷部位と第2表面との間に貯留空間を有する貫通孔によっ
て創傷部位の上に滲出液を保持する構成)や甲1発明の構成(吸収層4
0において滲出液を保持する構成)とは異質である。25
さらに,滲出液を保持する場所が相違し,凹部(6)によって滲出液を捕
捉し面方向への広がりを防止するため,甲7の創傷被覆材の第1シート
は,疎水性である必要はなく,親水性であってもよい(【0026】,【0
032】)のに対して,本件発明6の表面シートは,第1表面が疎水性を
備え,甲1発明の被覆層も疎水性を備えるものである(【0028】)。
このように,甲7の創傷被覆材は,滲出液を保持する場所(本件発明5
6は貫通孔,甲1発明は吸収層),第1シートの構成(疎水性を備えるか
否か)において,本件発明6や甲1発明とは構成及び技術思想を異にす
るから,当業者が甲1発明に甲7に記載された事項を組み合わせたとし
ても,本件発明6の構成に容易に想到できたとはいえない。
(ウ)これに対して原告は,甲4,7及び18に依拠して,技術常識1の存10
在を前提とした主張をするが,原告が依拠する文献は,上記2ないし3
の特許文献に記載されているにすぎず,しかも,3つの機能全てを有し
ているのは甲7のみである。また,甲4,7及び18に記載されている
のは飽くまでそれぞれが前提とする具体的な被覆材の構成に関する機
能であり,具体的な構成を捨象し抽象化した機能を取り上げて創傷被覆15
材一般に妥当する普遍的な技術常識であると認めるべき根拠はないし,
その点を措くとして,甲1発明の「下面側被覆層」について,技術常識
1の3つの機能を備えるものとすることに着想したという論拠も示さ
れていない。
また,甲1発明は,「創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促進する」(【020
034】)ために吸収層に着目し,これに「水吸収時にゲルを形成する物
質を含ませる」(【0034】)という解決手段を採用したものであり,貫
通孔に滲出液を保持させることで湿潤状態を維持することはおろか,そ
のために貫通孔の開口率等の数値範囲を適切に設定するという技術思
想は皆無であるから,甲1発明において,その吸収層をもって解決して25
いる課題(創傷を湿潤状態に保つという課題)に対し,その構成を敢え
て変更し,甲7の孔にかかる構成を適用する動機付けがあったとは到底
いえない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ甲1発明に甲4に記載された発明を適用することによる相違点6Bの容
易想到性の主張に対し5
(ア)前記イ(ア)のとおり,本件発明6は,請求項1に規定する貫通孔を備
えることによって,創傷部位と第2表面(12)との間に適度な貯留空
間(14)を形成でき,当該貯留空間において滲出液を保持することで
創傷部位上に適量の滲出液を保持して創傷を湿潤に保つという技術的
意義を有する。10
これに対して甲1発明は,被覆層の「孔」は,傷からの体液を吸収層
へ移動させるように機能させることに技術的意義があり,「創傷を湿潤状
態に保ち,傷の治癒を促進する」ことができるのは「孔」という機能に
よるのではなく,吸収層において特に水吸収時にゲルを形成する物質を
含ませることによるのであるから,甲1発明の「孔」が貯留空間を有す15
るようにして体液を保持するように構成しようとする動機付けはない。
(イ)また,甲4の創傷被覆材は,創傷からの滲出液による湿潤環境を維
持しながら治療する方法に好適な,更に改良された創傷被覆材を提供す
ることを目的・課題とし,そのために,貫通孔を有する第1層と,滲出
液を吸収するための第3層との間に,表面が撥水性で加圧により水が透20
過可能となる初期耐水圧性を備える第2層を介在させ,これらの各層を
互いに一体化したことを特徴とするものである(【0009】,【001
5】,【0042】,【0043】等)。
これに対し,甲1発明は,被覆層から吸収層への滲出液の移動を特に
制限することなく行う構成を採用し,吸収層において滲出液を吸収・保25
持しようとするものである。
このように,甲1発明と甲4の創傷被覆材とは,その構造や目的・課
題,技術思想が全く異なるものであり,その具体的な作用・機能も当然
に異なるから,甲4に当業者が接しても,その一部のパラメータに係る
技術的特徴だけを他の構成と切り離して抽出し,これを甲1発明に適用
しようと動機付けられることはない。5
(ウ)さらに,甲4の創傷被覆材は,第1層(第1シート材)と第3層(第
3シート材)との間に,表面が撥水性であり加圧により透過可能となる
初期耐水圧性を備える第2層(第2シート材)を介在させ,これらを一
体化してなるものである。そして,甲4の創傷被覆材は,このような第
2層(第2シート材)があることによって「滲出液量の少ない初期段階10
において滲出液を透過・吸収させず,滲出液量が過剰になる段階におい
て該過剰な分の滲出液を透過・吸収させることにより,治癒効果を高め
る適度な湿潤環境を具現する」ことができ(【0044】等),そのため
に第1層(第1シート材)は,疎水性である必要はなく,親水性であっ
てもよい(【0032】)とされている。このように,甲4の創傷被覆材15
は,貫通孔を有する第1層(疎水性でも親水性でもよい。)と第3層(第
3シート材)との間に,表面が撥水性であり加圧により透過可能となる
初期耐水圧性を備える第2層(第2シート材)を介在させ,これらの各
層を互いに一体化するという構成によって,治癒効果を高める適度な湿
潤環境を実現しようとするものである。20
これに対して,甲1発明は,傷面からの容易な分離のために疎水性表
面を有する被覆層と,創傷を湿潤状態に保ち傷の治癒を促進するために
水吸収時にゲルを形成する物質を含む吸収層から構成されており(【0
007】,【0034】等),甲4の創傷被覆材のように,第1層(第1シ
ート材)が親水性であってもよい構成や,表面が撥水性であり加圧によ25
り透過可能となる初期耐水圧性を備える第2層を(第1層と第3層の間
に)介在させてそれら各層を一体化する構成とは大きく異なる。
上記の甲1発明と甲4の創傷被覆材との構成の相違に照らせば,甲4
の第1層(第1シート材)の貫通孔の構造は,甲1発明の構成とは全く
異なる甲4の構成,すなわち,表面が撥水性であり加圧により透過可能
となる初期耐水圧性を備える第2層を介在させ,これらの各層を互いに5
一体化する構成や,親水性であってもよい第1層を備える構成を前提と
し,それら甲4の全体的構成においてはじめて技術的意義を有するもの
なのであって,甲4の貫通孔の構造だけを全体から切り離して取り出し
て甲1発明に適用することが動機付けられることはない。
仮に,甲4の貫通孔の構造を甲1発明に適用しようとするのであれば,10
その技術的意義を得るために,甲4の他の構成(表面が撥水性であり加
圧により透過可能となる初期耐水圧性を備える第2層を介在させ,これ
らの各層を互いに一体化する構成や,親水性であってもよい第1層を備
える構成)と合わせて適用することになるから,「上記の吸収保持層(3)
は上記の透液層(1)と一体化されておらず」,「上記の第1表面(11)15
が疎水性を備える」等の本件発明6の構成に容易に想到することはない。
(エ)これに対して,原告は,技術常識1及び同2の存在を前提とした主
張をするが,創傷被覆材に求められる機能に関して技術常識1は存在し
ないこと,当業者が,甲1発明の「下面側被覆層」について,技術常識
1の3つの機能を備えることを着想したはずであるとの論拠はないこ20
とは,前記イ(ウ)のとおりであり,また,技術常識2については,創傷被
覆材における貫通孔の深さ及び開口面積に関し,甲4,7,18及び1
9のせいぜい3ないし4の文献に記載された事項をもって技術常識で
あるとはいえないし,具体的な被覆材の構成を捨象して抽象化した数値
を取り上げて技術常識であるともいえない。25
したがって,原告の上記主張は理由がない。
エ小活
以上によれば,本件審決の相違点6Bに関する容易想到性の判断に誤り
はない。
2取消事由1-2(甲1発明を主引用例とする本件発明7の進歩性の判断の誤
り)5
(1)原告の主張
本件審決は,相違点7について,相違点6Bと同様に,本件発明7は,貫
通孔について,適切な「開口面積」と「深さ」が特定されて,「創傷部位上に
適量の滲出液を保持する」ための「適度な貯留空間」が形成されたものとな
っているのに対し,甲1発明は,「吸収層」に,「創傷を湿潤状態に保ち,傷10
の治癒を促進する」という機能を具備させる一方,「孔」は,単に,「傷から
の体液が吸収層へ移動し得るようになって」いるとした発明であり,上記機
能を「吸収層」に代えて「孔」に持たせるべき動機付けとなる記載はないし,
これを示唆する記載もないから,甲1発明の「吸収層」が有する「創傷を湿
潤状態に保ち,傷の治癒を促進する」という機能を「孔」に持たせるべく甲15
4及び甲7に記載された技術的事項を採用することは,当業者が容易になし
得たことであるとはいえない旨判断した。
しかし,相違点6Bに関する本件審決の判断に誤りがあることは前記1(1)
のとおりであり,また,相違点7の「上記の第2表面での開口面積が上記の
第1表面での開口面積より小であ」る構成は,甲4の[0023]及び[020
029]に開示されており,これを甲1発明に適用することは当業者であれ
ば容易になし得たものである。
したがって,これと異なる本件審決は取り消されるべきである。
(2)被告の主張
前記1(2)のとおり,相違点6Bに関する本件審決の判断に誤りはないから,25
原告の上記主張は理由がなく,また,相違点7に係る構成について,甲1発
明に甲4を適用して容易に想到し得たとする根拠はない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
3取消事由1-3(甲1発明を主引用例とする本件発明9ないし13の容易想
到性の判断の誤り)
(1)原告の主張5
ア本件審決は,相違点6Bと同様の理由により,本件発明9は,「貫通孔」
について,「上記の創傷部位と上記の第2表面との間に貯留空間を有し,上
記の創傷部位の上に滲出液を保持する」との構成を備えているのに対し,
甲1発明は,「吸収層」に,「創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促進する」
という機能を具備させる一方,「孔」は,単に,「傷からの体液が吸収層へ10
移動し得るようになって」いるとした発明であり,上記機能を「吸収層」
に代えて「孔」に持たせるべき動機付けとなる記載はないし,これを示唆
する記載もないから,甲1発明の「吸収層」が有する「創傷を湿潤状態に
保ち,傷の治癒を促進する」という機能を「孔」に持たせるべく甲4及び
甲7に記載された技術的事項を採用することは,当業者が容易になし得た15
ことであるとはいえない旨判断した。
しかし,相違点6Bに関する本件審決の判断に誤りがあることは上記1
(1)のとおりであり,また,相違点9の「上記の第1表面から上記の第2表
面に向かって減少する孔径を有」する点,「上記の創傷部位と上記の第3表
面との間に貯留空間を有し,上記の創傷部位の上に滲出液を保持する」点20
については,甲4の[0023],[0035]及び[0029]に全て開
示されているから,これを甲1発明に適用することは当業者であれば容易
になし得るものであるから,本件審決の判断は誤りである。
イまた,本件審決は,本件発明10ないし13について,本件発明9の発
明特定事項を全て含み,さらに技術的な事項を発明特定事項としている本25
件発明10ないし13は,甲1発明及び甲2ないし4,6,7に記載され
た事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであると
はいえない旨判断したが,本件発明9の容易想到性の判断に誤りがあるか
ら,本件審決の上記判断も誤りである。
ウしたがって,これと異なる本件審決は取り消されるべきである。
(2)被告の主張5
前記1(2)のとおり,相違点6Bに関する本件審決の判断に誤りはなく,ま
た,相違点9に係る構成について甲1発明に甲4を適用して容易に想到し得
たとの根拠はない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
4取消事由2(本件発明6及び7のサポート要件違反の判断の誤り)10
(1)原告の主張
本件審決は,本件発明1の「開孔率が3.07%以上であって」は,本件
明細書の「上記の貫通孔(13)の孔径としては,創傷部位と対面する上記
の第1表面(11)での開口面積が,直径280~1400μmの円形に相
当することが好ましい。・・・」(【0028】),「上記の貫通孔(13)は,15
50~400個/cm2
の密度で存在することが好ましく,・・・」(【003
0】)の各記載における,孔径の最小値である280μmと,密度の最小値で
ある50個/cm2
から,算出した,最小孔径の開口面積の値,50×π×
(2.8/2)2
×10-4
cm2
=3.07×10-2
cm2
に基づくものであ
るから,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていたに等しい事項であ20
ることからすると,「開孔率が3.07%以上」という語句が本件明細書の発
明の詳細な説明には記載されていないことのみを理由として,本件発明は,
本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明でないとはいえない旨判断
した。
しかし,本件明細書には,「上記の貫通孔(13)の密度,開孔率および深25
さを,それぞれ上記の好ましい範囲とすることによって,創傷部位と上記の
第2表面(12)との間に適度な貯留空間(14)を形成でき,創傷部位上
に適量の滲出液を保持するとともに,滲出液が創傷部位の表面内方向に広が
ることを防止できる。」(【0032】)と記載され,その開孔率の範囲につい
ては,「さらに,第1表面(11)における貫通孔(13)の開孔率としては,1
5~60%であることが好ましい。」(【0030】)と記載されているから,5
これらの記載に接した当業者は,開孔率を15~60%とすることによって
はじめて,創傷部位と上記の第2表面(12)との間に適度な貯留空間(1
4)を形成でき,創傷部位上に適量の滲出液を保持するとともに,滲出液が
創傷部位の表面内方向に広がることを防止するとの課題を解決できると認識
する。10
そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,開孔率が15~60%の範
囲以外の範囲については,本件発明の課題を解決できる程度に記載されてい
ないから,本件発明6及び7の「開孔率が3.07%以上」との特定につい
て,発明の詳細な説明が,特許出願時の技術常識に照らし,当業者において
当該発明の課題を解決できると認識することができる程度のものであるとは15
いえない。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
(2)被告の主張
本件発明1の「開孔率が3.07%」という語句ないし数値は,本件明細
書の【0028】や【0030】等の記載から導かれるものであり,本件明20
細書の発明の詳細な説明に記載されていたに等しい事項であるから,サポー
ト要件を満たすことは明らかである。
また,本件発明の課題の解決という観点からも見ても,「開孔率が3.0
7%」の根拠となる【0028】における孔径の開口面積(直径280~1
400μm)や,【0030】における貫通孔の密度(50~400/cm2
)25
や孔径の最小値(280μm)と密度の最小値(50個/cm2
)によって規
定される発明は好ましい態様として記載されており,それらに記載されてい
るに等しい「開孔率が3.07%」という構成によって発明の課題を解決す
ることができると理解できないとはいえない。
原告が指摘する本件明細書の【0030】の「開孔率が15~60%が好
ましい」という趣旨の記載は,そのような数値範囲の構成も「好ましい」態5
様であることを意味するとしても,そのことから,上記のとおり【0028】
や【0030】に記載されているに等しい事項である「開孔率が3.07%」
という構成が発明の課題を解決できないことを意味するものではない。
したがって,原告の上記主張は理由がなく,本件審決の判断に誤りはない。
5取消事由3(本件発明6及び7の明確性要件違反の判断の誤り)10
(1)原告の主張
本件審決は,本件発明1の「開孔率が3.07%以上」とは,本件明細書
の【0030】に記載された「好ましい」開孔率を規定しているものではな
く,単に「貫通孔」による開口の程度を示しているにすぎず,「3.07%」
という数値自体には臨界的意義等の格別の技術的意義はないから,開孔率の15
上限が規定されていないことのみを理由として,明確でないとはいえない旨
判断した。
しかし,開孔率は,発明の課題解決に直結する特徴部分であり,開孔率の
特定が不充分であることは特許権の独占権の範囲についての予測可能性を奪
うものである。20
したがって,本件発明1の「開孔率3.07%以上」との発明特定事項を
有する本件発明6及び7には明確性要件違反があり,これに反する本件審決
の上記判断は誤りであるから,取り消されるべきである。
(2)被告の主張
「開孔率3.07%以上」という記載の指し示す内容は明確であり,原告25
が主張するような「臨界的意義」等の格別な技術的意義の有無にかかわらず,
当該記載をもって明確性要件に反するとはいえない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
第4当裁判所の判断
1本件明細書の記載事項について
本件明細書には,別紙1のとおりの記載があり,この記載によれば,本件明5
細書の「発明の詳細な説明」には,本件発明に関し,次のような開示があるこ
とが認められる。
(1)創傷の治療において,創傷面を乾燥させずに湿潤状態に保つことが創傷の
治癒に有効であり,特に,創傷部位からの滲出液に含まれる成分が創傷の治
癒の促進に役立つため,消毒を行わずに,その滲出液による湿潤環境を維持10
しながら治療する方法(湿潤治療法)が有効であり(【0002】),湿潤治療
法を効果的に行うためには,滲出液が適度に保持されることで創傷面の適度
な湿潤環境が保持されることが肝要であり,創傷被覆材は,滲出液を速やか
に吸い上げてしまうのではなく,創傷面上において滲出液が適度に保持され
るようにする機能を備えていることが求められるが,湿潤治療法は,湿潤環15
境が保たれるように創傷被覆材を肌にしっかりと固定して行うため,創傷面
上に閉鎖領域が形成されることになり,滲出液が新たに滲み出してきて過剰
に貯留されると,創傷面が滲出液により圧迫されて,下掘れ現象を起こすた
め,創傷被覆材は創傷面上から滲出液を適度に排出する機能を備えているこ
とが求められていた(【0003】)。20
「本発明」は,創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する
方法に,好適な,さらに改良された創傷被覆材を提供することを課題とする
ものである(【0010】)。
(2)「本発明」の創傷被覆材用表面シートによれば,表面シートが第1表面に
多数の貫通孔を備えるので,創傷から滲み出した滲出液を良好に貯留でき,25
しかも,その第1表面が疎水性を備えるので,滲み出した滲出液を速やかに
吸い上げてしまうことなく湿潤環境を維持することができ,滲出液の漏れは
なく,また,創傷面との間や上記の貫通孔内などに滲出液を保持して湿潤環
境を良好に維持するものでありながら,その貫通孔は上記の第1表面側から
第2表面側への液体の透過を許容するので,創傷部位に過剰の滲出液を保持
する虞がなく,使用後は剥離が容易であり,発赤や汗疹,異臭の発生もなく,5
様々な形状の創傷面にフィットできるので,各種の創傷の治療に好適なもの
であり,特に褥瘡の予防及び治療に最適である(【0012】,【0016】)。
2甲1の記載事項について
(1)甲1には,別紙2のとおりの記載があり,この記載によれば,甲1には甲
1発明に関し,次のような開示があることが認められる。10
ア熱傷,褥瘡,及びその他の損傷の治療において,傷を保護し,傷からの
体液を吸収するために,従来,ガーゼ,脱脂綿,吸収性繊維からなる層を
含む多層構造のパッド等の傷手当用品が用いられているが,これらの傷手
当用品は,体液を吸収し傷面が乾燥すると,傷面から除去する際に,傷面
を傷つけ,痛みや出血を伴うことがあった。また,傷手当用品は,使用後15
に患部に痛みや出血を生じないように容易に除去できるようにすること
はもちろんであるが,使用の際に,適切な状態で患部に適用できるように
することが衛生上重要である。「この発明」は,このような点に鑑みてなさ
れたもので,本発明の課題は,傷手当用品を患部に適用する際に,傷手当
用品の傷接触表面を汚染することなく,簡単に傷手当用品を患部に適用し20
得る傷手当用品を提供することにある(【0002】,【0005】,【000
6】)。
イ「本発明」は,上面及び傷接触表面となる下面を有する傷手当用品であ
って,吸収層と,吸収層の被覆層とを有し,下面側の被覆層は前記吸収層
へ液体が移動可能なものとし,前記下面側被覆層の少なくとも傷接触表面25
は疎水性とし,上面側の被覆層は把持可能な摘みを有することを特徴とし,
別の構成は,上面及び傷接触表面となる下面を有する傷手当用品であって,
吸収層と,吸収層の被覆層とを有し,下面側の被覆層は積層構造とし,少
なくとも傷接触表面側の層は疎水性樹脂層とし,かつ下面側の被覆層は前
記吸収層へ液体が移動可能なものとし,上面側の被覆層は把持可能な摘み
を有することを特徴とするものである(【0007】,【0008】)。5
ウ「本発明」の傷手当用品は,傷手当用品の下面側に位置するシート状の
被覆層20と,傷手当用品の上面側に位置するシート状の被覆層21と,
これらの被覆層の間に介在させた吸収層40とを備えており,被覆層20
下面側の表面は,傷接触表面となるシリコーンを含む疎水性樹脂層50と,
これらの層を貫通する孔60が設けられ,傷からの体液が吸収層へ移動し10
得るようになっており,被覆層20と21は,吸収層の外側でシール部7
1により互いに接合され,吸収層を被覆している(【0021】,【0022
2】,【図1】,【図3】)。
また,創傷を湿潤に保ち,傷の状態を促進するために,前記吸収層は,
水吸収時にゲルを形成する物質を含むことが好ましく,セルロース系繊維,15
パルプ,高分子吸水ポリマー等の吸収性の高い材料を単独又は併用して使
用することができる(【0017】,【0034】)。
(2)上記(1)イ及びウによれば,甲1発明は,本件審決が認定した発明,すなわ
ち,「上面及び傷接触表面となる下面を有する傷手当用品であって,下面側に
位置する下面側被覆層と,上面側に位置する上面側被覆層と,これらの被覆20
層の間に介在させた吸収層とを有し,下面側被覆層は,積層構造とし,少な
くとも傷接触表面側の層は疎水性樹脂層とし,かつ,これらの層を貫通する
多数の孔が設けられ,傷からの体液が吸収層へ移動し得るようになっており,
吸収層は吸水性の高い材料を使用してなる層であり,下面側被覆層と上面側
被覆層は,吸収層の外側でシール部により互いに接合され,吸収層を被覆し25
ている,傷手当用品」であることが認められる。
3甲4(国際公開第2008/004380号,国際公開日平成20年1月1
0日)及び甲7(特開2010-131163号公報,公開日平成22年6月
17日)の各記載事項について
(1)甲4には,別紙3のとおりの記載があり,この記載によれば,甲4には,
次の事項が開示されていることが認められる。5
ア創傷の治療において,創傷面を乾燥させずに湿潤状態に保つことが創傷
の治癒に有効であり,特に,創傷部位からの滲出液に含まれる成分が創傷
の治癒の促進に役立つため,消毒を行わずに,その滲出液による湿潤環境
を維持しながら治療する方法(湿潤治療法)が有効であることが分かって
きた([0002])。湿潤治療法を効果的に行うためには,滲出液が適度に10
保持されることで創傷面の適度な湿潤環境が保持されることが肝要であ
り,創傷被覆材は,滲出液を速やかに吸い上げてしまうのではなく,創傷
面上において滲出液が適度に保持されるようにする機能を備えているこ
とが求められるが,湿潤治療法は,湿潤環境が保たれるように創傷被覆材
を肌にしっかりと固定して行うため,創傷面上に閉鎖領域が形成されるこ15
とになり,滲出液が新たに滲み出してきて過剰に貯留されると,創傷面が
滲出液により圧迫されて,下掘れ現象を起こすため,創傷被覆材は創傷面
上から滲出液を適度に排出する機能を備えていることが求められていた
([0003])。
「本発明」は,創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療す20
る方法に,好適な,さらに改良された創傷被覆材を提供することを課題と
するものである([0009])。
イ「本発明」は,少なくとも3つの層から構成される創傷被覆材であって,
創傷部位に接するように使用される側から第1層,第2層,第3層に積層
され一体化してなり,前記第1層は,厚さ方向に貫通する孔を多数有する25
樹脂製のシート材からなり,前記第2層は,表面が撥水性であり加圧によ
り水が透過可能となるシート材からなり,前記第3層は,水を吸収保持可
能なシート材からなる創傷被覆材であり,積層された層間では少なくとも
部分的に接合されていて,強制的に剥離されるような外力を加えない限り,
通常の使用状態では各層が分離しないで積層された状態で保つものであ
る([0010],[0015],[0017])。5
ウ第1層は,滲出液が創傷から滲み出した箇所において,滲出液を速やか
に吸い上げてしまうことなく湿潤環境を維持する一方で,滲み出した滲出
液の面積が大きく広がらないように捕捉することを主な目的として設け
られており,第1層を構成するシート材には,厚さ方向に貫通する多数の
孔(「貫通孔」)を有し,貫通孔は,円筒状,樽󠄀状,鼓状等,種々の形状で10
あってもよいが,第1シート材の厚さ方向において,第2層に近づくにつ
れて傾斜的に孔径が小さくなっている貫通孔であり,創傷側の面での開孔
径が反対側の面での開孔径の「1.1~1.8倍」であることが好ましく,
貫通孔の径は,第1シート材において創傷部位に接するように使用される
側の面(創傷側の面)の開孔径が直径相当で280~1400μmである15
ことが好ましく,また,貫通孔は50~400個/cm2
の密度で存在する
ことが好ましく,創傷側の面における貫通孔の開孔率としては,第1シー
ト材全体に対して15~60%であることが好ましく,貫通孔の深さとし
ては,概ね100~2000μmが好ましい([0019],[0022],
[0023],[0024],[0025],[0027],[0028])。20
貫通孔について,密度,開孔率及び深さを好ましい範囲とすることは,
創傷面と第2層との間において適度な貯留空間を形成して創傷面上に適
度な滲出液を保持するとともに,滲出液が面内方向に広がるのを防止する
点で有利であり,上記貯留空間の容量が1個あたり0.015~0.55
μlであることもまた有利である([0029],[0030],[0038])。25
(2)甲7には,別紙4のとおりの記載があり,この記載によれば,甲7には,
次の事項のような開示があることが認められる。
ア創傷の治療において,創傷面を乾燥させずに湿潤状態に保つことが創傷
の治癒に有効であり,特に,創傷部位からの滲出液に含まれる成分が創傷
の治癒の促進に役立つため,消毒を行わずに,その滲出液による湿潤環境
を維持しながら治療する方法(湿潤治療法)が知られている(【0002】)。5
湿潤治療法を効果的に行うためには,滲出液が適度に保持されることで創
傷面の適度な湿潤環境が保持されることが肝要であり,創傷被覆材は,滲
出液を速やかに吸い上げてしまうのではなく,創傷面上において滲出液が
適度に保持されるようにする機能を備えていることが求められるが,湿潤
治療法は,湿潤環境が保たれるように創傷被覆材を肌にしっかりと固定し10
て行うため,創傷面上に閉鎖領域が形成されることになり,滲出液が新た
に滲み出してきて過剰に貯留されると,創傷面が滲出液により圧迫されて,
下掘れ現象を起こすため,創傷被覆材は創傷面上から滲出液を適度に排出
する機能を備えていることが求められていた(【0003】)。
「本発明」は,創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療す15
る方法に,好適な,さらに改良された創傷被覆材を提供することを目的と
するものである(【0009】)。
イ「本発明」は,創傷部に向かって突出する多数の凸部及びその周囲に形
成される凹部を有し,前記凸部に厚さ方向に貫通する孔を有する樹脂製の
シート材からなる第1層及び水を吸収保持可能なシート材からなる第220
層の少なくとも2層から構成され,創傷部位に接する側から第1層,第2
層の順に積層されてなることを特徴とする創傷被覆材であり,第1層(1)
と第2層(2)の間に第2層(2)への滲出液の通過を制限するシート材
(透過性シート材)を有しないが,所望により,透過性シート材が第1層
(1)と第2層(2)との間に有してもよく,各層は,接着剤により一体25
化されていることを要せず,第1層(1)と第3層(3)との周縁部をシ
ール等により接合されていればよい(【0010】,【0060】,【006
2】)。
ウ第1層は,滲出液が創傷から滲み出した箇所において湿潤環境を維持す
る一方で,過剰な滲出液を第2層側へ排出することで,滲み出した滲出液
の面積が大きく広がらないように捕捉することを主な目的として設けら5
れており,第1層を構成するシート材(第1シート材)は,創傷部位に向
かって突出する凸部(5)及びその周囲に形成される凹部(6)を有する
凸凹シートであり,前記凸部(5)に厚さ方向に貫通する孔(貫通孔)を
有し,この貫通孔(4)は,液の通過を許容するものであり,円筒状であ
ってもよく,漏斗状であってもよいが,第1シート材の厚さ方向において10
第2層に近づくにつれ傾斜的に孔径が大きくなる傾斜孔であることが好
ましく,貫通孔の孔径としては,第1シート材において創傷部位に接する
側(創傷側の面)での開孔径が直径相当で240~1100μmであるこ
とが好ましく,また,貫通孔(4)は,第1層に多数存在していればその
数は特に限定されないが,50~400個/cm2
程度の密度で存在する15
ことが好ましく,創傷側の面における貫通孔(4)の開孔率は第1シート
材全体に対して15~60%であることが好ましく,貫通孔(4)の深さ
としては,概ね100~2000μmが好ましく,貫通孔(4)について,
密度,開孔率及び深さを上記の好ましい範囲とすることは,滲出液が面内
方向に広がるのを防止するという点で有利である(【0016】,【00120
7】,【0019】,【0020】,【0021】,【0023】)。
第1シート材は,創傷部と凹部(6)との間に滲出液の貯留空間を形成
するものであり,創傷面と第1層との間に前記貯留空間に創傷部からの滲
出液を保持することにより創傷部の湿潤状態を保持でき,また,第1シー
ト材は,滲出液が多くなると,凸部(5)に形成された貫通孔(4)を通25
して吸収層(2)に吸収させることができるため,滲出液が面内方向に広
がるのを防止することができる(【0024】)。
4取消事由1-1(甲1発明を主引用例とする本件発明6の容易想到性の判断
の誤り)
(1)本件発明の特許法41条2項の適用について
ア本件発明1の発明特定事項である「上記の吸収保持層(3)は上記の透5
液層(1)と一体化されていない」との点は,本件明細書の【0102】
ないし【0104】及び図17に対応するものであるが,この実施形態は,
優先権主張の基礎となる先の出願(特願2010-126338号)の基
礎出願明細書等には記載されていないから,被告による基礎出願の優先権
主張は,特許法41条1項本文の規定を満たしておらず,理由がない。そ10
して,上記構成は,原出願明細書に記載されている事項([0011],[0
102],[0103],図17)であるから,本件発明の進歩性の判断基準
日は,原出願の国際出願日である平成23年5月31日である。
イこれに対し,被告は,前記第3の1(2)アのとおり,本件発明の「吸収保
持層が透液層と一体化されていない」という技術的事項は,基礎出願明細15
書等に記載されていたものといえる旨主張する。
しかし,基礎出願明細書に当たる甲12の【0019】には「本発明の
被覆材は,少なくとも2つの層から構成される創傷被覆材であって,創傷
部位に接するように使用される側からA層,C層の順に積層され一体化し
てなる態様であってもよい。」との記載があるものの,その内容は,A層(透20
液層),B層(透液制限層)及びC層(吸収保持層)の組み合わせに関する
複数の選択肢が示され,いずれも一体化してなる態様を説明していること,
基礎出願明細書等には,実施例を含め,A層とC層が一体化しない構成に
関する記載はないことからすると,基礎出願時における本件発明が,A層
とC層が積層されるが一体化しない態様を許容する趣旨であると解する25
ことはできない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(2)甲1発明に甲7に記載された発明を適用することによる相違点6Bの容
易想到性の判断の誤りについて
本件発明6は,貫通孔に関し,開孔率が3.07%以上であって,深さが
100~2000μmであり,50個~400個/cm2
の密度で存在し,開5
口面積が直径280~1400μmの円形であるとの発明特定事項(相違点
6B)を有するところ,前記1(2)のとおり,第1表面のシート材のこの貫通
孔は,創傷から滲み出した滲出液を貯留し,創傷面との間や上記の貫通孔内
などに滲出液を保持して湿潤環境を良好に維持するものでありながら,その
貫通孔は上記の第1表面側から第2表面側への液体の透過を許容して,創傷10
部位に過剰の滲出液を保持することがないという技術的意義を有するものと
認められる。
これに対し,甲1の発明の詳細な説明には,「被覆層下面側の少なくとも傷
接触表面は疎水性を有する。」(【0028】),「次に,液体の移動について
述べる。被覆層のこの疎水性の表面は,吸収層へ体液などの液体が移動し得15
るように形成される。被覆層の下面側を液体透過性とするためには,メッシ
ュ,穿孔フィルム等のプラスチックシートや,編布,織布,不織布等の液体
透過性の繊維状シートを使用することができる。被覆層に疎水性樹脂層を形
成する場合は,被覆層の液体が移動し得る孔を塞がないように疎水性樹脂層
を塗工するか,疎水性樹脂層を塗工した後に疎水性樹脂層ごと被覆層を打ち20
抜けば良い。」(【0029】),「次に,吸収層について述べる。吸収層は,セ
ルロース系繊維,パルプ,高分子吸水ポリマー等の吸水性の高い材料を単独
又は併用して使用することができ,必要とされる吸収量にあわせてこれらの
量を調整すればよい。特に,水吸収時にゲルを形成する物質を含ませること
が好ましく,このようにすることで,創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促25
進することができる。」(【0034】)との記載がある。これらの記載によれ
ば,甲1発明においては,被覆層を貫通する孔60は,傷からの体液を吸収
層へ移動させるようにする機能を有するものであり,創傷を湿潤状態に保ち,
傷の治癒を促進することができるのは,必要とされる吸収量にあわせて材料
を調整し,特に水吸収時にゲルを形成する物質を含ませることが好ましい吸
収層によってであり,被覆層を貫通する孔の機能によるものではないと理解5
することが相当であり,甲1の発明の詳細な説明には,被覆層20に設けら
れた孔60に創傷部位からの滲出液を保持し,創傷面の湿潤状態を保つこと
についての記載や示唆はない。
また,甲7には,甲1発明の被覆層に相当するところの,多数の凸部及び
その周囲に形成される凹部を有し,凸部には厚さ方向に貫通する孔を有する10
樹脂製のシート材からなる第1層と水を吸収保持可能な第2層の順に積層さ
れてなる創傷被覆材が開示されており(【0010】,【0014】),この創傷
被覆材は,創傷部と第1層の凹部との間に滲出液を貯留する空間が形成され
ることにより,創傷部から流出する滲出液を保持し,創傷部の湿潤状態を保
持し,滲出液が多くなると,第1層の凸部に形成された孔を通して第2層の15
吸収層に吸収されることが開示されている(【0012】,【0024】)。しか
し,甲7の創傷被覆材は,「第1シート材は,創傷部と凹部(6)との間に滲
出液の貯留空間を形成する。これは,創傷面と第1層との間における前記貯
留空間に,創傷部からの滲出液を保持することにより創傷部の湿潤状態を保
持できるという点で優れている。また,第1シート材は滲出液が多くなると,20
凸部(5)に形成された貫通孔(4)を通して吸収層(2)に吸収させるこ
とができるため,滲出液が面内方向に広がるのを防止するという点でも優れ
ている。」(【0024】)との記載があるように,創傷部と凹部(6)との間
に滲出液の貯留空間を形成し,創傷部の湿潤状態を保持するものであり,貫
通孔(4)については,「滲出液が多くなると,凸部(5)に形成された貫通25
孔(4)を通して吸収層(2)に吸収させることができる」という機能を果
たすものである。
そうすると,甲7の貫通孔は,そもそも創傷面からの滲出液を貯留する機
能を有しないから,甲7に記載された貫通孔の開孔率,深さ,密度,直径に
関する技術的事項を甲1発明に適用しても,第1表面のシート材に創傷から
滲み出した滲出液を貯留するための貫通孔を設ける本件発明6に想到するこ5
とができないし,また,創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促進することが
できるのが孔の機能によるものではない甲1発明に甲7に記載された発明を
適用する動機付けもない。
(3)甲1発明に甲4に記載された発明を適用することによる相違点6Bの容
易想到性について10
甲1には,被覆層20に設けられた孔60に創傷部位からの滲出液を保持
し,創傷面の湿潤状態を保つことについての記載や示唆はないことは前記(2)
のとおりである。
他方,甲4には,甲1発明における被覆層に相当するところのシート材(第
1層)には,厚さ方向に貫通する孔を多数有する貫通孔が設けられており,15
この貫通孔については,密度,開孔率および深さを示唆された好ましい範囲
とすることは,創傷面と第2層との間において適度な貯留空間を形成して創
傷面上に適度な滲出液を保持するとともに,滲出液が面内方向に広がるのを
防止する点で有利であることが開示されている([0010],[0024],
[0025],[0027]ないし[0029],[0035],[0038])。20
しかし,甲4の創傷被覆材は,創傷部位に近接する上記シート材(第1層),
表面が撥水性であり加圧により水が透過可能となるシート材(第2層),水を
吸収し保持することが可能なシート材(第3層)からなり,創傷部位に接す
る側から第1層,第2層,第3層の順に積層され一体化してなるものであり
([0015],[0017],[0043]),第1層と第2層は,第1層と第225
層の界面において,第1層の貯留空間が滲出液で満たされても,滲出液が面
内方向に広がることがない程度に密着していることが望ましい([0040])
と記載され,また,第2層の初期耐圧シート材は,滲出液量が少ない初期段
階において滲出液を透過,吸収させず,滲出液量が過剰になる段階において
余剰な分の滲出液を透過,吸収させることにより,治癒効果を高める適度な
湿潤環境を具現する([0044])との記載がある。5
そうすると,甲4に記載された発明は,創傷面と第2層との間において適
度な貯留空間を形成して創傷面上に適度な滲出液を保持するとともに,滲出
液が面内方向に広がるのを防止する機能を有する多数の孔が設けられた第1
層と,初期耐水圧シート材である第2層,水を吸収し保持することが可能な
シート材(第3層)を一体化させた構造を有することにより,創傷面の湿潤10
状態を保つ技術的意義を有するものであるから,甲4に記載された発明のう
ち第1層のみを取り出して,甲1発明に適用する動機付けはない。
(4)原告の主張について
原告は,本件国際出願日当時,創傷被覆材の技術分野において,湿潤療法
を効果的に行うために技術常識1の3つの機能を持たせることが技術常識で15
あったことを前提として,このような技術常識を有する当業者であれば,甲
1発明の「下面側被覆層」の「孔」について,上記の3つの機能を備えるも
のとすることに着想したはずであり,甲1発明と甲4に記載された発明,甲
7に記載された発明は,「創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら
治癒する」という点で課題は共通しているから,上記のように着想した当業20
者であれば,①甲4記載の貫通孔が技術常識1の3つの機能を全て備えるこ
とを認識し,甲1発明に甲4記載の開孔率等に関する技術事項を適用するこ
とを試みたはずであり,また,②甲1発明の「下面側被覆層」に代えて,甲
7に記載された開孔率等の数値範囲を適用した貫通孔を有する凸凹シートを
適用したはずである旨主張する。25
そこで検討するに,確かに,甲4には,「湿潤治療法を効果的に行うために
は,滲出液が適度に保持されることで創傷面の適度な湿潤環境が保持される
ことが肝要であり,創傷被覆材は滲出液を速やかに吸い上げてしまうのでは
なく創傷面上において滲出液が適度に保持されるようにする機能を備えてい
ることが求められる。しかし,一方で,湿潤治療法は,湿潤環境が保たれる
ように創傷被覆材を肌にしっかりと固定して行うため,創傷面上に閉鎖領域5
が形成されることになり,滲出液が新たに滲み出してきて過剰に貯留される
と,創傷面が滲出液により圧迫されて「下掘れ現象」(滲出液の圧力によって
創傷部位の皮膚がえぐられる現象)を起こす。このため,創傷被覆材は創傷
面上から滲出液を適度に排出する機能を備えていることも求められる。」([0
003]),「第1シート材は,創傷から滲み出す滲出液が面方向に広がるのを10
防ぐ作用をする。」([0038])との記載があり,甲7には,「湿潤治療法
を効果的に行うためには,滲出液が適度に保持されることで創傷面の適度な
湿潤環境が保持されることが肝要であり,創傷被覆材は滲出液を速やかに吸
い上げてしまうのではなく,創傷面上において滲出液が適度に保持されるよ
うにする機能を備えていることが求められる。しかし,一方で,湿潤治療法15
は,湿潤環境が保たれるように創傷被覆材を肌にしっかりと固定して行うた
め,創傷面上に閉鎖領域が形成されることになり,滲出液が新たに滲み出し
てきて過剰に貯留されると,創傷面が滲出液により圧迫されて「下掘れ現象」
(滲出液の圧力によって創傷部位の皮膚がえぐられる現象)を起こす。この
ため,創傷被覆材は創傷面上から滲出液を適度に排出する機能を備えている20
ことも求められる。」(【0003】),「第1シート材は,創傷部の湿潤状態を
保持するだけでなく,創傷から滲み出す滲出液が面方向に広がるのを防ぐ作
用をする。」(【0032】),本件国際出願日前に頒布された刊行物である甲1
8(国際公開番号WO2005/000372)には,「前記創傷の治癒を効
果的に行うためには,以下のような機能や作用・効果が被覆材に求められる。25
(ⅰ)滲出液が適度に保持されることで創傷面の適度な湿潤環境が保持され
ること。(ⅱ)創傷からの滲出液が適度に排出されることで,創傷面から滲出
液により圧迫されるのを防ぎ,過剰な滲出液に起因する「下掘れ現象」(滲出
液の圧力によって創傷部位の皮膚がえぐられる現象)を防ぐこと」([000
3])との記載がある。
しかし,原告が主張する技術常識1の3つの機能は,そのような機能を有5
する創傷被覆材に関する上記3つの特許文献に記載されているにすぎず,具
体的な創傷被覆材の構成を捨象して,このような特許文献の各記載から,創
傷被覆材一般において,湿潤療法を効果的に行うためには,技術常識1の機
能を持たせることが技術常識であると認めるには足りない。また,甲1発明
の「被覆層」の「孔」について,「上記の3つの機能を備えるものとすること10
に着想したはずである」と主張する点についても,その具体的な根拠は何ら
示されていないし,仮に,上記の3つの機能を備えるものとすることに着想
したとしても,そこからさらに,甲4に記載された技術的事項,甲7に記載
された技術的事項をそれぞれ甲1に適用する動機付けがないことは前記(2)
及び(3)のとおりである。15
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(5)以上によれば,甲1発明に甲4に記載された発明又は甲7に記載された
発明をそれぞれ適用する動機付けはなく,また,甲1発明に甲7に記載され
た発明を適用しても相違点6Bの構成に想到し得ないから,本件発明6は,
甲1発明及び甲4に記載された発明又は甲1発明及び甲7に記載された発明20
に基づいて,当業者が容易に発明することができたものとはいえず,これと
同旨の本件審決の判断に誤りはない。
5取消理由1-2(甲1発明を主引用例とする本件発明7の容易想到性の判断
の誤り)
本件発明7は,「上記の第1表面と第2表面との間の寸法は100~20025
0μmであり,前記の貫通孔は,上記の第1表面での開口面積が直径280~
1400μmの円形に相当し,上記の第2表面での開口面積が上記の第1表面
での開口面積より小であり,50~400個/cm2
の密度で存在する」(相違
点7)との発明特定事項を含むものであり,貫通孔が第1表面と第2表面を貫
通する孔であることから,上記の発明特定事項は,第1表面と第2表面を貫通
する貫通孔を傾斜孔とし,貫通孔の深さ,開口面積,密度を特定することによ5
り,貫通孔が,創傷から滲み出した滲出液を貯留し,創傷面との間や上記の貫
通孔内などに滲出液を保持して湿潤環境を良好に維持するという技術的意義を
有するものである(前記1(2))。
これに対して,甲1には,被覆層20に設けられた孔60に創傷部位からの
滲出液を保持し,創傷面の湿潤状態を保つことについての記載や示唆はないこ10
とは前記4(2)のとおりであること,甲1発明に甲4に記載された発明又は甲
7に記載された発明をそれぞれ適用する動機付けがないことは,前記4(2)及
び(3)のとおりであるから,相違点7に関しても,当業者が容易に想到し得たと
はいえない。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。15
6取消理由1-3(甲1発明を主引用例とする本件発明9ないし13の容易想
到性の判断の誤り)
(1)本件発明9は,「貫通孔は,上記の第1表面から上記の第2表面に向かっ
て減少する孔径を有し,上記の開孔率が15~60%であり,上記の貫通孔
の深さが100~2000μmであり,上記の貫通孔が50~400個/c20
m2
の密度で存在し,上記の創傷部位と上記の第2表面との間に貯留空間を
有し,上記の創傷部位の上に滲出液を保持する」(相違点9)との発明特定事
項を含むものであり,第1表面と第2表面を貫通する貫通孔を傾斜孔とし,
開孔率,深さ,密度を特定することにより,貫通孔が,創傷から滲み出した
滲出液を貯留し,創傷面との間や上記の貫通孔内などに滲出液を保持して湿25
潤環境を良好に維持するという技術的意義を有するものである(前記1(2))。
これに対して,甲1には,被覆層20に設けられた孔60に創傷部位から
の滲出液を保持し,創傷面の湿潤状態を保つことについての記載や示唆はな
いことは前記4(2)のとおりであるし,甲1発明に甲4記載された発明又は甲
7に記載された発明をそれぞれ適用する動機付けがないことは,前記4(2)及
び(3)のとおりであるから,相違点9に関しても,当業者が容易に想到し得た5
とはいえない。
(2)本件発明10ないし13は,本件発明9の発明特定事項の全てを含むも
のであるところ,本件発明9が甲1発明を主引用例として容易に想到し得な
いものであることは上記(1)のとおりであるから,本件発明11ないし13も,
容易に想到し得ない。10
(3)したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
7取消理由2(本件発明6及び7のサポート要件違反の判断の誤り)
(1)特許法36条6項1号は,特許請求の範囲の記載に際し,発明の詳細な説
明に記載した発明の範囲を超えて記載してはならない旨を規定したものであ
り,その趣旨は,発明の詳細な説明に記載していない発明について特許請求15
の範囲に記載することになれば,公開されていない発明について独占的,排
他的な権利を請求することになって妥当でないため,これを防止することに
あるものと解される。
そうすると,特許請求の範囲の記載が同号所定の要件(サポート要件)に
適合するか否かは,当業者が,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常20
識から,当該発明の課題を解決することができると認識できるか否かを検討
して判断すべきものと解するのが相当である。
そして,本件明細書の開示事項によれば,前記1(1)のとおり,本件発明6
及び7は,創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に
好適な,さらに改良された創傷被覆材を提供することを課題とするものと認25
められる。
(2)本件明細書の発明の詳細な説明には,こうした課題を解決するための手段
に関し,「[1]創傷被覆材(5)の少なくとも創傷部位と対面する部位に配
される表面シートであって,上記の創傷部位(15)と対面する第1表面(1
1)と,これとは反対側の第2表面(12)と,両表面(11・12)間に
亘って厚さ方向に貫通する多数の貫通孔(13)とを有する,樹脂製のシー5
ト材からなり,・・・創傷被覆材用表面シート。」,「[7]上記の第1表面(11)
と第2表面(12)との間の寸法は100~2000μmであり,前記の貫
通孔(13)は,上記の第1表面(11)での開口面積が直径280~14
00μmの円形に相当し,上記の第2表面(12)での開口面積が上記の第
1表面(11)での開口面積より小であり,50~400個/cm2
の密度で10
存在する,前記[1]~[6]のいずれかに記載の創傷被覆材用表面シート。」
(【0011】),「本発明は上記の構成から,次の効果を奏する。(1)本発明
の表面シートを用いた創傷被覆材は,創傷部位を覆うように適用されると,
表面シートが上記の第1表面に多数の貫通孔を備えるので,創傷から滲み出
した滲出液を良好に貯留できる。しかもその第1表面が疎水性を備えるので,15
滲み出した滲出液を速やかに吸い上げてしまうことなく湿潤環境を維持でき
るものでありながら,その滲出液の面積が大きく広がらないように捕捉する
ことができ,滲出液の漏れもない。このため,創傷部位近傍の領域に滲出液
が保持されて治療効果を高める一方,創傷のない正常な皮膚のかぶれの原因
となる滲出液の無駄な広がりを防止できる。・・・」(【0012】),「(5)上記20
の表面シートは,創傷面との間や上記の貫通孔内などに滲出液を保持して湿
潤環境を良好に維持するものでありながら,その貫通孔は上記の第1表面側
から第2表面側への液体の透過を許容するので,創傷部位に過剰の滲出液を
保持する虞がない。しかも表面シートは樹脂製のシート材からなるので,貫
通孔を透過させた滲出液が創傷部位側へ逆流し難いことから,表面シートを25
通過して長時間経過した滲出液に雑菌が繁殖しても,これが創傷部位へ戻さ
れる虞がなく,創傷部の腐敗によるアンモニア臭の発生を効果的に防止する
ことができる。」(【0016】),「上記の貫通孔(13)の孔径としては,創
傷部位と対面する上記の第1表面(11)での開口面積が,直径280~1
400μmの円形に相当することが好ましい。直径280μm未満の円形に
相当したのでは,滲出液が第2表面(12)側へ通過するのを阻害する傾向5
にあるので好ましくない。一方,直径1400μmを超える円形に相当した
のでは,第2表面(12)側に積層した他の層が,この貫通孔(13)を介
して創傷部位の皮膚と接触する虞があり,そのために創傷被覆材(5)を創
傷部位から剥がしにくくなったり,適度な容積の滲出液貯留空間を確保でき
なくなったりする虞があるので好ましくない。」(【0028】),「上記の貫通10
孔(13)は傾斜孔であるので,上記の第2表面(12)での開口面積は上
記の第1表面(11)での開口面積より小さい。開口面積に相当する円形の
直径(以下「開孔径」という。)で比較すると,この第1表面(11)での開
孔径は,第2表面(12)での開孔径の1.1~1.8倍であることが好ま
しく,1.2~1.5倍であることがより好ましい。」(【0029】),「また15
上記の貫通孔(13)は,50~400個/cm2
の密度で存在することが好
ましく,60~325個/cm2
の密度で存在することがより好ましい。さら
に,第1表面(11)における貫通孔(13)の開孔率としては,15~6
0%であることが好ましい。」(【0030】),「上記の貫通孔(13)の深さ,
即ち透液層(1)の厚さでもある第1表面(11)と第2表面(12)との20
間の寸法としては,概ね100~2000μmが好ましく,概ね250~5
00μmがより好ましい。」(【0031】),「上記の貫通孔(13)の密度,
開孔率および深さを,それぞれ上記の好ましい範囲とすることによって,創
傷部位と上記の第2表面(12)との間に適度な貯留空間(14)を形成で
き,創傷部位上に適量の滲出液を保持するとともに,滲出液が創傷部位の表25
面内方向に広がることを防止できる。」(【0032】)との記載がある。
これらの記載は,本件発明の創傷被覆材用表面シートは,創傷被覆材の湿
潤環境を維持するために,創傷部位と対面する第1表面(11)と反対側の
第2表面(12)にわたって多数の貫通孔(13)を設け,この貫通孔の密
度,開孔率及び深さを好ましい範囲とすることによって,創傷部位と第2表
面(12)との間に適度な貯留空間(14)を形成し,創傷部位上に適量の5
滲出液を保持するとともに,第1表面が疎水性を備えることにより,滲み出
した滲出液を速やかに吸い上げてしまうことなく湿潤環境を維持できること
を示しているものといえる。
(3)そして,創傷部位上に適量の滲出液を保持するための貫通孔の開孔率は,
本件明細書の「第1表面(11)での開口面積が,直径280~1400μ10
mの円形に相当することが好ましい。」(【0028】),「貫通孔(13)は,
50~400個/cm2
の密度で存在することが好ましく,60~325個
/cm2
の密度で存在することがより好ましい。」(【0030】)との記載か
ら,貫通孔の孔径及び密度に関する好ましい範囲のうち,直径の最小値であ
る280μm,密度の最小値である50個/cm2
を基に計算すると,次の計15
算式により,開孔率は3.07%となる。
50×π×(2.8/2)2
×10-4
cm2
=3.07×10-2
cm2
そうすると,請求項6が引用する請求項1の「開孔率3.07%以上」と
の発明特定事項は,本件明細書の発明の詳細な説明に直接の記載はないもの
の,記載されているに等しい事項であるといえるから,貫通孔に関して上記20
の開孔率とすることにより,本件発明の課題を解決すると認識するといえる。
(4)これに対し,原告は,本件明細書の【0030】,【0032】の記載に接
した当業者は,開孔率を15~60%とすることによってはじめて,前記課
題を解決できると認識するところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,開
孔率が15~60%の範囲以外の範囲については,本件発明の課題を解決で25
きると認識できる程度に記載されているとはいえない旨主張する。
しかし,本件明細書の【0030】における開孔率15~60%の数値範
囲は好ましい態様に関するものであることが明示されているにすぎないし,
貫通孔の開孔率が3.07%以上とする数値範囲が本件明細書に記載されて
いるに等しい事項であることは前記(3)のとおりであるから,原告の上記主張
は理由がない。5
(5)以上によれば,本件発明6及び9は,本件明細書の発明の詳細な説明に記
載された発明であり,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課
題を解決できると認識できるものであるから,サポート要件に適合するとい
うべきであり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
8取消事由3(本件発明6及び7の明確性要件違反の判断の誤り)10
原告は,貫通孔の開孔率は,発明の課題解決に直結する特徴部分であり,開
孔率の特定が不充分であることは特許権の独占権の範囲についての予測可能性
を奪うものであるから,本件発明1において「開孔率が3.07%以上」との
み記載され,上限が規定されていなくても明確性要件を満たすとした判断には
誤りがある旨主張する。15
しかし,「開孔率3.07%以上」という記載そのものは明確である上,開孔
率の上限値が規定されていないとしても,当業者からすれば,実質的に孔とし
て存在し得ないような開孔率を有するものを含まないことは明らかであるから,
開孔率の上限が規定されていないことを理由として,特許権の独占権の範囲に
ついての予測可能性を奪うものであるということはできない。20
また,特許請求の範囲に記載された数値範囲が不明確であるか否かの判断に
際して,当該数値範囲が臨界的意義を有するか否かは関係しないから,この点
からも原告の主張は理由がない。
したがって,「開孔率3.07%以上」との記載は,明確性要件に反するとは
いえず,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。25
9結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,本件審決を
取り消すべき違法は認められず,原告の請求は棄却されるべきものである。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部5
裁判長裁判官菅野雅之
裁判官中村恭
裁判官岡山忠広15
(別紙1)
1【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱傷,褥瘡,挫傷,切傷,擦過傷,潰瘍等の創傷の治療に好適な創傷5
被覆材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年,創傷の治療において,創傷面を乾燥させずに湿潤環境に保つことが創傷
の治癒に有効であることがわかってきた。特に,創傷部位からの滲出液に含まれ10
る成分が創傷の治癒の促進に役立つため,消毒を行わずに,その滲出液による湿
潤環境を維持しながら治療する方法(以下,「湿潤治療法」ともいう。)が有効で
あることがわかってきた。そのため,このような治療方法に適用される種々の創
傷被覆材が開発されている。
【0003】15
湿潤治療法を効果的に行うためには,滲出液が適度に保持されることで創傷面
の適度な湿潤環境が保持されることが肝要であり,創傷被覆材は滲出液を速やか
に吸い上げてしまうのではなく,創傷面上において滲出液が適度に保持されるよ
うにする機能を備えていることが求められる。しかし,一方で,湿潤治療法は,
湿潤環境が保たれるように創傷被覆材を肌にしっかりと固定して行うため,創傷20
面上に閉鎖領域が形成されることになり,滲出液が新たに滲み出してきて過剰に
貯留されると,創傷面が滲出液により圧迫されて「下掘れ現象」(滲出液の圧力に
よって創傷部位の皮膚がえぐられる現象)を起こす。このため,創傷被覆材は創
傷面上から滲出液を適度に排出する機能を備えていることも求められる。
【0004】25
また,創傷部位に接する材料に通気性がなく創傷面に強く貼り付いてしまうと,
創傷被覆材を剥がすときに治癒したもしくは治癒しかけた箇所を再び傷つけて
しまったりするおそれがある。そのため,創傷面に強く貼り付いてしまうことが
なく,使用後は剥離が容易であり,かつ,使用時は創傷の治療のための湿潤環境
が維持されるように創傷部へ装着できる性質が求められる。
【0007】5
本発明者は,前記した従来の創傷被覆材の問題点を解決するため,創傷部位に
接する透過層として,初期耐水圧の機能を発揮するシート材を配した創傷被覆材
を開発し,既に国際特許出願を行った(特許文献3,4)。この創傷被覆材は,創
傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に用いるものとし
て,優れた機能を有している。10
【0008】
しかしながら,さらに改良された創傷被覆材,即ち(i)滲出液の漏れがなく,創
傷面上に滲出液を適度に保持する機能を十分に有し,(ii)創傷のない正常な皮膚の
かぶれの原因となる滲出液の無駄な広がりがなく,(iii)創傷面に強く貼り付いて
しまうことがなく,使用後は剥離が容易であり,かつ,使用時は創傷の治療のた15
めの湿潤環境を維持して創傷部に固着することができ,(iv)発赤や汗疹の発生も
なく,(v)異臭の発生もなく,(vi)薄型で柔軟な素材で構成されて,様々な形状の
創傷面にフィットでき,創傷面を圧迫することがない創傷被覆材の開発が望まれ
ていた。
2【0010】20
本発明は,創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に好
適な,さらに改良された創傷被覆材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するために,例えば本発明の実施の形態を示す図125
から図17に基づいて説明すると,以下の発明を含むものである。
[1]創傷被覆材(5)の少なくとも創傷部位と対面する部位に配される表面シ
ートであって,上記の創傷部位(15)と対面する第1表面(11)と,これとは反対側の
第2表面(12)と,両表面(11・12)間に亘って厚さ方向に貫通する多数の貫通孔(13)
とを有する,樹脂製のシート材からなり,上記の貫通孔(13)は上記の第1表面(11)
側から第2表面(12)側への液体の透過を許容し,上記の第1表面(11)が疎水性を5
備えていることを特徴とする,創傷被覆材用表面シート。
[6]上記のシート材は,低密度ポリエチレン樹脂材料を用いて形成してある,
前記[1]~[4]のいずれかに記載の創傷被覆材用表面シート。
[7]上記の第1表面(11)と第2表面(12)との間の寸法は100~2000μ
mであり,前記の貫通孔(13)は,上記の第1表面(11)での開口面積が直径280~10
1400μmの円形に相当し,上記の第2表面(12)での開口面積が上記の第1表
面(11)での開口面積より小であり,50~400個/cm2
の密度で存在する,前
記[1]~[6]のいずれかに記載の創傷被覆材用表面シート。
[8]少なくとも透液層(1)と吸収保持層(3)との2つの層を備えた創傷被覆材
であって,創傷部位(15)と対面するように使用される側から順に,上記の透液層15
(1)と吸収保持層(3)とを積層してなり,上記の透液層(1)は,前記[1]~[7]
のいずれかに記載の表面シート(10)からなり,上記の吸収保持層(3)は,水を吸収
保持可能なシート材を含有することを特徴とする創傷被覆材。
[10]上記の吸収保持層(3)の,創傷側とは反対側の表面に保護層(4)をさら
に備え,この保護層(4)は,樹脂フィルム,織布,編布もしくは不織布からなる,20
前記[8]に記載の創傷被覆材。
[11]上記の保護層(4)は他の全ての層を覆うとともに,この他の層より広
い面積に形成されて,他の層の外側にはみ出した外縁部(6)を備えており,上記
の外縁部(6)は上記の他の層が積層された側の表面の少なくとも一部に粘着部
(7)を有する,前記[10]に記載の創傷被覆材。25
[12]上記の保護層(4)は,上記の外縁部(6)に粘着部(7)を有しない非粘着
部(8)を備えている,前記[11]に記載の創傷被覆材。
[13]上記の保護層(4)は,上記の他の層の外側に,上記の外縁部(6)が形成
されていない部分を備えている,前記[11]に記載の創傷被覆材。
[14]上記の保護層(4)は,上記の外縁部(6)に,スリット(9)もしくは小孔
を上記の他の層の外周に沿って備えている,前記[11]に記載の創傷被覆材。5
・・・
[24]前記の吸収保持層(3)が,少なくとも創傷部位に沿って変形可能な伸
縮性を備える,前記[8]~[23]のいずれかに記載の創傷被覆材。
[25]前記[1]~[7]のいずれかに記載の表面シート(10)からなる透液層
(1)を備えることを特徴とする,創傷被覆材。10
・・・
【発明の効果】
【0012】
本発明は上記の構成から,次の効果を奏する。
(1)本発明の表面シートを用いた創傷被覆材は,創傷部位を覆うように適用さ15
れると,表面シートが上記の第1表面に多数の貫通孔を備えるので,創傷から滲
み出した滲出液を良好に貯留できる。しかもその第1表面が疎水性を備えるので,
滲み出した滲出液を速やかに吸い上げてしまうことなく湿潤環境を維持できる
ものでありながら,その滲出液の面積が大きく広がらないように捕捉することが
でき,滲出液の漏れもない。このため,創傷部位近傍の領域に滲出液が保持され20
て治療効果を高める一方,創傷のない正常な皮膚のかぶれの原因となる滲出液の
無駄な広がりを防止できる。したがって,本発明の表面シートを用いた創傷被覆
材は,各種の創傷の治療に好適なものであり,特に褥瘡の予防および治療に最適
である。
【0013】25
(2)上記の表面シートは,多数の貫通孔を有する樹脂製のシート材からなるの
で,創傷部位に強く貼り付いてしまうことがなく,創傷被覆材の周縁部を創傷部
位の周囲に確りと固着して,創傷の治療のための湿潤環境を維持することができ,
しかも,使用後は剥離が容易であるため,交換処置時の疼痛を大幅に軽減するこ
とができる。
【0014】5
(3)創傷部位と対面する側の表面に,樹脂製のシート材からなる表面シートが
配置されるので,この表面に親水性コロイド等を配置した前記の従来技術と異な
り,本発明の表面シートを用いた創傷被覆材を長時間貼り付けたままにしても,
発赤や汗疹はできない。
【0015】10
(4)本発明の表面シートを用いた創傷被覆材は,創傷部位と対面する側の表面
が樹脂製のシート材からなるので,薄型で柔軟な素材で構成でき,様々な形状の
創傷面にフィットできて,創傷面を圧迫することがない。
【0016】
(5)上記の表面シートは,創傷面との間や上記の貫通孔内などに滲出液を保持15
して湿潤環境を良好に維持するものでありながら,その貫通孔は上記の第1表面
側から第2表面側への液体の透過を許容するので,創傷部位に過剰の滲出液を保
持する虞がない。しかも表面シートは樹脂製のシート材からなるので,貫通孔を
透過させた滲出液が創傷部位側へ逆流し難いことから,表面シートを通過して長
時間経過した滲出液に雑菌が繁殖しても,これが創傷部位へ戻される虞がなく,20
創傷部の腐敗によるアンモニア臭の発生を効果的に防止することができる。
3【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の創傷被覆材は,創傷部位を覆うように貼付されるための被覆材であっ
て,創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に適用できる。25
本発明において「創傷」とは,皮膚が傷ついたものを広く意味し,熱傷,褥瘡,
挫傷,切傷,擦過傷,潰瘍,手術創等が含まれる。また本発明において「シート
材」とは,その厚さに特に限定されることなく,有孔のシート材および無孔のシ
ート材の両方を広く意味し,例えば樹脂フィルム,布帛,不織布,ネット等が含
まれる。
以下,本発明の創傷被覆材の構成について,必要に応じて図面を参照しつつ説5
明する。
【0019】
図1は,本発明の創傷被覆材の第1実施形態を示す模式的な断面図である。
この第1実施形態の創傷被覆材(5)は,少なくとも2つの層,即ち,表面シート
(10)からなる透液層(1)と,水を吸収して保持できるシート材からなる吸収保持層10
(3)とを,創傷部位に接するように使用される側から順に備えている。さらに上
記の創傷被覆材(5)は所望により,図1に示すように,上記の透液層(1)と吸収保
持層(3)との間に透液制限層(2)を備えていてもよく,また吸収保持層(3)の透液
制限層(2)側と反対側に保護層(4)を備えていてもよい。各層は互いに積層されて
一体化してある。使用時には上記の透液層(1)が創傷部位に接するように使用さ15
れる。
【0020】
上記の透液層(1)を構成する表面シート(10)は創傷部位と対面する部位に配さ
れ,例えば図1と図2に示すように,創傷部位と対面する第1表面(11)と,これと
は反対側の第2表面(12)と,両表面(11・12)間に亘って厚さ方向に貫通している多20
数の貫通孔(13)とを有する,樹脂製のシート材からなる。上記の貫通孔(13)は上記
の第1表面(11)側から第2表面(12)側への液体の透過を許容する。また上記の第
1表面(11)は疎水性を備えている。
【0021】
前記の吸収保持層(3)は,創傷部位側に隣接している他の層,即ちこの第1実25
施形態では上記の透液制限層(2)と全面的に接合されていてもよいが,部分的に
接合されていてもよく,例えば周縁部のみで接合され,中心部等は透液層(1)や
透液制限層(2)と非接着であってもよい。
【0022】
なお本発明の被覆材において,上記の各層が「積層され一体化してなる」構成
とは,互いに積層された層間で少なくとも部分的に接合されていればよく,強制5
的に剥離させる外力を加えない限り,通常の使用状態では各層が分離しないで積
層された状態を保つことを意味する。この一体化のための接合手段としては,特
に限定されるものではないが,例えばホットメルト接着剤等の接着剤による接着
の他,ヒートシール等による融着,エンボス加工等による接合などが挙げられる。
【0024】10
(透液層)
創傷の治癒においては,本来は創傷部位近傍の領域に滲出液が保持されていれ
ば足り,該領域を超えて滲出液が創傷部位の周囲に広がることは好ましくない。
そのように滲出液が広がった部分において,創傷のない正常な皮膚がかぶれて,
新たに創傷部位が拡大したりして治癒を遅らせることがあるためである。15
上記の透液層(1)は,滲出液が創傷から滲み出した箇所において,滲出液を速
やかに吸い上げてしまうことなく湿潤環境を維持する一方で,滲み出した滲出液
の面積が大きく広がらないように捕捉することを主な目的として設けてあり,こ
れによって創傷の治癒を速やかならしめる効果を奏する。
【0025】20
上記の透液層(1)は,樹脂製のシート材からなる表面シート(10)で構成されてお
り,第1表面(11)と第2表面(12)との間に亘って厚さ方向に貫通する貫通孔(13)を
多数有する。この貫通孔(13)は,それぞれが互いに独立していることが好ましく,
透液層(1)の内部には,面内方向に通水する経路が存在しないことが好ましい。
透液層(1)の第1表面(11)には,上記の多数の貫通孔(13)が開口しているため,こ25
の透液層(1)が創傷部位に強く貼り付いてしまうことを防止できる。
【0026】
なお,図1と図2に示すように,上記の透液層(1)を構成するシート材は凹凸
状に形成してあり,上記の第1表面(11)とは,創傷部位側において平面と接する
透液層(1)の表面をいい,上記の第2表面(12)とは,創傷部位と反対側において平
面と接する透液層(1)の表面をいう。5
【0027】
上記の貫通孔(13)は,円筒状,樽状,鼓状等,任意の形状を採用することができ
るが,例えば図1と図2に示すように,第1表面(11)側から第2表面(12)に向かっ
て徐々に孔径が小さくなる「傾斜孔」であると好ましい。
【0028】10
上記の貫通孔(13)の孔径としては,創傷部位と対面する上記の第1表面(11)で
の開口面積が,直径280~1400μmの円形に相当することが好ましい。直
径280μm未満の円形に相当したのでは,滲出液が第2表面(12)側へ通過する
のを阻害する傾向にあるので好ましくない。一方,直径1400μmを超える円
形に相当したのでは,第2表面(12)側に積層した他の層が,この貫通孔(13)を介し15
て創傷部位の皮膚と接触する虞があり,そのために創傷被覆材(5)を創傷部位か
ら剥がしにくくなったり,適度な容積の滲出液貯留空間を確保できなくなったり
する虞があるので好ましくない。
【0029】
上記の貫通孔(13)は傾斜孔であるので,上記の第2表面(12)での開口面積は上20
記の第1表面(11)での開口面積より小さい。開口面積に相当する円形の直径(以下
「開孔径」という。)で比較すると,この第1表面(11)での開孔径は,第2表面(12)
での開孔径の1.1~1.8倍であることが好ましく,1.2~1.5倍である
ことがより好ましい。
【0030】25
また上記の貫通孔(13)は,50~400個/cm2
の密度で存在することが好ま
しく,60~325個/cm2
の密度で存在することがより好ましい。さらに,第
1表面(11)における貫通孔(13)の開孔率としては,15~60%であることが好
ましい。
【0031】
上記の貫通孔(13)の深さ,即ち透液層(1)の厚さでもある第1表面(11)と第2表5
面(12)との間の寸法としては,概ね100~2000μmが好ましく,概ね25
0~500μmがより好ましい。
【0032】
上記の貫通孔(13)の密度,開孔率および深さを,それぞれ上記の好ましい範囲
とすることによって,創傷部位と上記の第2表面(12)との間に適度な貯留空間10
(14)を形成でき,創傷部位上に適量の滲出液を保持するとともに,滲出液が創傷
部位の表面内方向に広がることを防止できる。
【0033】
なお,上記の貫通孔(13)内に形成される貯留空間(14)の容量としては,貫通孔1
個当り0.015~0.55μLであることが好ましく,0.030~0.4515
μLであることがより好ましく,0.040~0.35μLであることが特に好
ましい。この貯留空間(14)の容量が貫通孔1個当り0.015μL未満では,創
傷部位の表面上に滲出液を保持するのが困難になる傾向にあるうえ,その表面内
方向への拡散を防止することも困難になる傾向にあるため好ましくない。一方,
貯留空間(14)の容量が貫通孔1個当り0.55μLを超えると,透液制限層(2)や20
吸収保持層(3)による滲出液の吸収速度が大きくなり,創傷部位を滲出液で適度
な湿潤環境に保つことが困難になる傾向にあるので,好ましくない。
【0034】
上記の透液層(1)は少なくとも第1表面(11)が疎水性であることから,この透液
層(1)が創傷部位に過剰に強く貼り付くことを防止できるうえ,使用後の創傷部25
位からの剥離を容易にできる。また,上記の貫通孔(13)は上記の第1表面(11)側か
ら第2表面(12)側への液体の透過を許容するが,少なくとも第1表面(11)が疎水
性であることから,この貫通孔(13)を通しての,吸水性(吸液性)を有する吸収保持
層(3)への滲出液の移動を制限でき,透液層(1)と創傷部位との間に滲出液を良好
に保持して,創傷の治療を促進することができる。
【0035】5
上記の透液層(1)は,少なくとも創傷部位と対面する上記の第1表面(11)が疎水
性であればよく,特定の材質等のものに限定されない。・・・
【0039】
上記の透液層(1)を構成する表面シート(10)としては,樹脂フィルムが好ましく,
さらに詳しくは,樹脂フィルムに多数の穿孔が施された有孔フィルムが好ましい。10
この表面シート(10)を形成する樹脂材料としては,本発明の効果を妨げない限り
特定の材料に限定されないが・・・
【0040】
上記の透液層(1)は,前述のように少なくとも第1表面(11)が疎水性を備えるが,
この疎水性は,材料の樹脂の性質にのみ基づくものである必要はなく,必要に応15
じて撥水処理を施すことにより疎水性を発揮したものであっても良い。・・・
【0042】
上記の透液層(1)は,上記の貫通孔(13)を介して滲出液を第2表面(12)側へ透過
させ得るものでありながら,上記の疎水性により,その滲出液の透過を制限でき
ればよく,加圧により液体が透過可能となる性質を有していることが好ましい。20
ここで,本発明において「加圧により液体が透過可能となる」とは,透液層(1)に
加わる液圧が所定の圧力に達するまでは液体が透過せず,その所定の圧力を超え
ると,液体が透過可能となることを意味する。
【0043】
上記の「加圧により液体が透過可能となる」特性は,上記の透液層(1)の第1表25
面(11)が疎水性である場合に具現されやすく,また,上記の貫通孔(13)が傾斜孔で
ある場合に具現されやすい。さらに,上記の性質は,上記の貫通孔(13)が50~
400個/cm2
の密度で存在する場合に具現されやすく,この貫通孔(13)の開孔
率が15~60%である場合に具現されやすい。
【0044】
上記の透液層(1)において,好ましくは加圧により液体が上記の貫通孔(13)を通5
じて透過する。したがって,この透液層(1)は,貫通孔(13)以外の部分では,実質
的に液体が透過しないことが好ましい。
【0046】
上記の透液層(1)は,疎水性を備えるため,創傷から滲み出す滲出液が創傷部
位の表面方向に広がるのを防ぐ作用をする。10
例えば図3に示すように,本発明の創傷被覆材(5)が創傷部位(15)に装着されて
からあまり時間が経過しておらず,創傷部位(15)から滲出液(16)が滲み出した初
期の段階(滲出液に圧力が生じる前の段階)では,上記の貫通孔(13)の中途まで滲出
液(16)が侵入する。透液層(1)の第1表面は疎水性を備えるため,滲出液(16)は貫
通孔(13)によって捕捉された状態となり,創傷部位(15)の表面方向にその面積を15
大きく広げることがなく,創傷部位(15)と透液層(1)との間で保持され,これによ
り創傷部位(15)が湿潤環境下に保たれる。このような,滲出液(16)の面積を大きく
広げることなく湿潤環境を保つ効果を奏するうえで,上記の透液層(1)は,疎水
性を有することが好ましく,貫通孔(13)が傾斜孔であることが好ましく,貫通孔
(13)内の貯留空間の容量が貫通孔1個当り0.015~0.55μLであると好20
ましい。
【0047】
次の段階において,上記の創傷部位(15)から滲出液(16)がさらに滲み出して,そ
の圧力が増すと,図4に示すように,滲出液(16)は透液層(1)の貫通孔(13)を透過
して透液制限層(2)の表面に到達し,その後,この透液制限層(2)を通過してさら25
に吸収保持層(3)へと進むことになる。このとき,上記の滲出液(16)は上記の貫通
孔(13)を通じて逆戻りしないことが好ましい。特に,透液制限層(2)を透過した滲
出液(16)は,滲出後長時間経過しているので雑菌が繁殖している虞がある。例え
ば外力により創傷被覆材(5)が圧迫された際に滲出液(16)が創傷部位にまで逆戻
りすると,これらの雑菌が創傷部位(15)で繁殖する虞もでてくる。そのような滲
出液の逆戻りを防ぐうえでも,上記の貫通孔(13)は傾斜孔であることが好ましい。5
【0048】
また上記の透液層(1)は,例えば図5に示すように,第2表面(12)が凹凸状に形
成してあると,透液制限層(2)に到達した滲出液(16)がこの第2表面(12)の凹部
(17)に捕捉される。この結果,上記の滲出液(16)は,創傷部位(15)の表面方向に広
がることが一層良好に防止されて好ましい。10
【0058】
(吸収保持層)
前記の吸収保持層(3)は,創傷部位から滲み出して前記透液層(1)と透液制限層
(2)を順に透過した滲出液(16)を吸収するための層である。したがって,吸収保持
層(3)は,水を吸収保持可能なシート材からなる。ここで「水を吸収保持可能な」15
性質とは,水などの液体に接して自然に吸収し,吸収した水の少なくとも一部を
重力に抗してシート材内の空隙間に保持できることをいう。したがって,水を吸
収したシート材を持ち上げたときに,吸収した水の一部が落下せずに保持されて
いれば,水を吸収保持可能なシート材ということができる。好ましくは,毛細管
現象により水を吸い上げることのできるシート材が用いられるが,高吸収性ポリ20
マー等,水と結びついて保持する材料を備えたもの等であってもよい。
【0059】
上記の吸収保持層(3)に用いられる,水を吸収保持可能なシート材としては,
スポンジ状のシート材でもよいが,コットン等の親水性の繊維,或いは親水化処
理された繊維で構成されたシート材が好ましい。・・・25
【0060】
上記の吸収保持層(3)が繊維で構成されている場合,創傷被覆材(5)をカットし
た際に切り口から繊維屑や他の副材料等が脱落しない程度に,構成繊維が,バイ
ンダー(接着剤)や圧縮,融着などにより互いに連結されていることが好ましい。
したがって,上記の構成繊維の少なくとも一部に熱融着性の繊維を用いることも
好ましい。5
【0066】
上記の吸収材とは,液体と接触すると短時間に吸収,膨潤し,ゲル化する材料
をいう。この吸収材としては,公知のものを使用することができ,例えば,ポリ
アクリル酸塩系,ポリスルホン酸塩系,でんぷん系,カルボキシメチルセルロー
ス系,ポリビニルアルコール系,無水マレイン酸塩系,ポリアクリルアミド系,10
ポリエチレンオキサイド系の,いわゆる高吸水性樹脂(SuperAbsor
bentPolymer;以下SAPと略称することがある。)や,アルギン酸,
デキストラン等の高い吸水性能を有する天然多糖類等が好ましく用いられ
る。・・・
【0075】15
(保護層)
上記の保護層(4)は,上記の吸収保持層(3)に吸収された滲出液が外部に移るこ
とを防ぐ目的で設けられる。なお,本発明の創傷被覆材(5)は必ずしもこの保護
層を有していなくてもよい。しかしこの場合には,吸収保持層(3)に吸収された
滲出液が外部に移って,例えば衣服や寝具等を汚すことを防ぐために,別途の保20
護用シート材を併用することが好ましい。
【0076】
上記の保護層(4)は,創傷部位に沿うように柔軟な材質で形成され,樹脂フィ
ルム,布帛もしくは不織布を用いることが好ましく,また,それらを組み合わせ
て用いてもよい。中でも樹脂フィルムが,柔軟性や伸縮性と液体の通過を阻止す25
る観点とから,保護層として特に好ましい。
【0077】
上記の樹脂フィルムとしては,液体の透過を阻止する樹脂フィルムが好ましく,
例えばオレフィン系樹脂(ポリエチレン,ポリプロピレン等),ポリエステル系樹
脂,ナイロン系樹脂等で形成された樹脂フィルムが挙げられる。また,ポリウレ
タン系樹脂等で形成された伸縮性を有する樹脂フィルムも好ましく用いられる。5
伸縮性を有する樹脂フィルムを用いることにより,創傷被覆材の皮膚へのフィッ
ト性を高めることができる。樹脂フィルムの厚さとしては,特に限定されるもの
ではなく,強度,柔軟性等を考慮して適宜設定すればよい。
【0078】
上記の保護層(4)として液体の透過を防止する樹脂フィルムを用いた場合には,10
滲出液が創傷被覆材(5)の外部に移ることを効果的に防止できるとともに,外部
から水や汚れが浸入することを防止するうえでも効果的である。また,滲出液の
蒸発を防いで湿潤環境をより効果的に維持する利点もある。
【0079】
上記の樹脂フィルムには,後述するように,必要に応じて,液体の透過を防止15
する樹脂フィルムの一部にスリット等を設けてもよい。この場合はこのスリット
が液体の通路となりうるが,このような場合でもこのスリット以外は液体の透過
を防止するので,特に断らない限り,このような態様で用いられていても「液体
の透過を防止する樹脂フィルム」であることに変わりはない。
【0082】20
本発明の創傷被覆材は,予め使いやすい大きさにカットされて供給されてもよ
い。この場合は,上記の保護層(4)で他の全ての層(1・2・3)を覆うとともに,
この保護層(4)を他の層(1・2・3)より広い面積に形成して,他の層(1・2・3)
の外側にはみ出した外縁部(6)を備えるとともに,この外縁部(6)の創傷部位側の
表面の少なくとも一部に粘着部(7)を有すると好ましい。より具体的に説明する25
と,例えば図6に示すように,透液層(1)と透液制限層(2)と吸収保持層(3)とが
同一形状で重なっていて,それらの外周において前記保護層(4)の外縁部(6)が外
側にはみ出ており,そのはみ出た外縁部(6)の表面に粘着部(7)が形成してある。
4【0084】
(変形例)
上記の第1実施形態では,上記の外縁部(6)の全域に亘って上記の粘着部(7)を5
形成してある。しかし本発明では,例えば図7に示す変形例1や図8に示す変形
例2のように,この粘着部(7)を外縁部(6)の一部にのみ設け,他の層(1・2・3)
の外周に沿った一部で粘着部(7)を省略したものであっても良い。
【0085】
即ち上記の変形例1では,他の層(1・2・3)の外周と保護層(4)の外周とに亘10
って上記の外縁部(6)を横断する状態に,粘着部(7)を省略した非粘着部(8)が形
成してある。この変形例1では,この非粘着部(8)が皮膚に粘着せず,開放領域が
形成されるので,この開放領域を通じて空気が創傷部位の周囲に供給され,嫌気
性菌の増殖を抑止し,感染を防止するので好ましい。なお上記の保護層(4)は,不
織布等の通気性シート材を用いて形成されていてもよいが,例えば無孔の樹脂フ15
ィルムなど,通気性に乏しいシート材を用いて形成したものであってもよく,こ
の場合は前述のとおり,滲出液の移動や蒸発を防ぐ観点からより好ましい。
【0086】
一方,図8に示す上記の変形例2では,非粘着部(8)が保護層(4)の外周にまで
及んでいない。この場合は,上記の保護層(4)に,例えば不織布など通気性を備え20
たシート材が用いられ,これにより,保護層(4)と非粘着部(8)とを順に介して空
気が創傷部位の周囲に供給され,嫌気性菌の増殖が抑止され,感染が防止される。
【0087】
上記の第1実施形態では,他の層(1・2・3)の外周の全部に亘って上記の外縁
部(6)が形成してある。しかし本発明では,例えば図9に示す第3変形例や図125
0に示す第4変形例のように,上記の保護層(4)が,他の各層の外周の一部にお
いて,上記の外縁部(6)を省略したものであってもよい。これらの場合は,外縁部
(6)が省略された部位に開放領域が形成されることから,この開放領域を通じて
空気が創傷部位の周囲に供給され,嫌気性菌の増殖が抑止され,感染が防止され
るので,外縁部(6)の全域に粘着部(7)が形成してあってもよい。
【0088】5
図11に示す第5変形例では,上記の保護層(4)のうち,他の各層(1・2・3)
の外周に沿って,スリット(9)が形成してある。このスリット(9)は開放領域を形
成するので,上記の変形例1~4と同様,この開放領域を通じて空気が創傷部位
の周囲に供給され,嫌気性菌の増殖が抑止され,感染が防止される。
上記の変形例5において,上記のスリット(9)は保護層(4)の内外を連通する通10
気路を備えておればよく,小孔などであってもよい。このスリット(9)や小孔の
大きさと数は,空気の供給によるメリットと,滲出液が外部に移ることのデメリ
ットを勘案して適宜設定すればよい。
なお,前記スリット(9)もしくは小孔を塞がずに,かつスリット(9)もしくは小
孔が外側から見て隠れるように外側にさらにシート材を設けることは,滲出液で15
衣服や寝具を汚すのを防ぐうえで効果的である。
【0089】
上記の第1実施形態や各変形例では,上記の保護層(4)が,図示しない接着剤
で吸収保持層(3)に固定してある。しかし本発明では,上記の粘着部(7)を,上記
の保護層(4)の表面のうちの,上記の外縁部(6)より内側にも形成して,この粘着20
部(7)によりこの保護層(4)を上記の吸収保持層(3)へ一体的に固定してもよい。
5【0094】
(第2実施形態)
上記の第1実施形態では,透液層(1)と吸収保持層(3)との間に,透液制限層
(2)を備える場合について説明した。しかし本発明では,例えば図13に示す第25
2実施形態のように,上記の透液制限層を省略したものであってもよい。
即ち,この第2実施形態では,上記の第1実施形態と異なって,透液制限層が
省略してあり,透液層(1)の第2表面(12)に吸収保持層(3)が直接積層してある。
この第2実施形態では透液制限層を省略してあるので,簡便に製造でき安価に実
施できて好ましい。またこの第2実施形態では透液制限層を省略してあるが,上
記の透液層(1)に疎水性の高い材料を使用することにより,例えば,好適には生5
理食塩水との接触角が85度以上の材料を使用することにより,透液制限層を有
する場合と同様の効果を奏することができる。
(第5実施形態)
図17は本発明の創傷被覆材(5)の第5実施形態を示す。
この第5実施形態では,上記の第1実施形態と異なり,吸収保持層(3)が他の10
層と一体化されていない。即ちこの第5実施形態の創傷被覆材(5)は,表面シー
ト(10)からなる透液層(1)の第2表面(12)に,保護層(4)が周縁部(22)で溶着等に
より一体化されており,袋状に形成されている。そして,この透液層(1)と保護層
(4)との間に,吸収保持層(3)が両層(1・4)とは固定しない状態で挿入してある。
【0103】15
この第5実施形態では,上記の吸収保持層(3)が,透液層(1)や保護層(4)に接
着剤等で固定されていないため,吸収保持層(3)による積極的な吸収が生じにく
く,滲出液が透液層(1)から吸収保持層(3)へ移動することを制限でき,創傷部位
と透液層(1)との間に滲出液を良好に保持できるので好ましい。しかも吸収保持
層(3)は,透液層(1)と保護層(4)との間で,透液層(1)の第2表面(12)に沿って移20
動することができるので,吸収保持層(3)など創傷被覆材(5)の一部にずれ応力が
作用しても,上記の移動により創傷部位との間でそのずれ応力を吸収でき,創傷
部位に加わる応力を緩和できる。この結果,表面シート(10)からなる透液層(1)は
創傷部位に対して相対的な位置ずれを生じにくく,例えば褥瘡の治癒や予防にき
わめて好適である。また吸収保持層(3)が透液層(1)や保護層(4)に対し相対移動25
できるので,創傷被覆材(5)全体が柔軟となって,肌触りを良好にできる利点も
ある。
【0104】
なおこの第5実施形態では,上記の透液層(1)と保護層(4)との間に吸収保持層
(3)を配置した。しかし本発明では,透液層(1)の第2表面(12)と,これに対面す
る吸収保持層(3)の表面の,少なくともいずれかに透液制限層(2)を一体に積層し5
たものであってもよい。また上記の第5実施形態において,上記の吸収保持層(3)
は,上記の透液層(1)に固定されていなければよく,上記の保護層(4)には固定さ
れていてもよい。この場合は,透液層(1)から吸収保持層(3)への滲出液の移動を
制限できるうえ,創傷部位に対し吸収保持層(3)を所定位置に維持できるので,
好ましい。10
6【実施例】
【0105】
以下,上記の透液層に用いる表面シートについて,実施例を挙げて本発明をさ
らに具体的に説明するが,本発明はこれらの実施例により何ら限定されるもので
はない。15
【0106】
[実施例1~3および比較例1~2]
表面シートを構成する樹脂シート材として,実施例1ではポリエチレン製シー
ト材を用い,実施例2ではポリ塩化ビニル製シート材を用い,実施例3ではポリ
ビニルアルコール製シート材を用いた。また,比較例1ではナイロン6製シート20
材を用い,比較例2では界面活性油剤で表面処理したポリエチレン製シート材を
用いた。なお,この比較例2の「界面活性油剤で表面処理したポリエチレン製シ
ート材」としては,具体的には,市販品の生理用ナプキンの表面材として一般的
に使用されているものを使用した。
【0107】25
各実施例と各比較例の,それぞれの所定材料からなる樹脂シート材に多数の貫
通孔を形成して,第1表面と第2表面との間の距離(厚さ)を480μmとしたメ
ッシュシート材とし,このメッシュシート材の第2表面に,パルプとポリオレフ
ィン系バインダー繊維とからなるエアレイド不織布を積層して一体化したもの
を試料とした。なお,上記のメッシュシート材とエアレイド不織布との一体化は,
合成ゴム系のホットメルト接着剤を用い,目付け3g/m2
でドット状に塗布して5
おこなった。
上記の貫通孔は,第1表面側の開孔径が615μmであり,その開孔径が第2
表面側に比べて1.25倍である傾斜孔であり,開孔密度200個/cm2
で,シ
ート材全体に対する開孔率が42%となっており,1個の貫通孔当りの貯留空間
が0.1μLとなっている。10
【0110】
[比較試験]
内径50mmの円筒管を実施例1~3および比較例1,2の各試料の表面に当
接させた後,円筒管の開口側より生理食塩水10mLを静かに注入し,試料に生
理食塩水を吸収させた。生理食塩水の注入後,10分間静置したのち,上記の円15
筒管を除去し,生理食塩水を吸収させた部位の上に濾紙を置いた。この濾紙の上
から直径90mm,2.5kgfの荷重を加え,2分間静置して,試料表面のメ
ッシュシート貯留空間とメッシュシート表面に残留した水分を濾紙に吸収させ
た。次に,上記の濾紙の重量増加分を測定することにより,濾紙に吸収された水
分量,即ちメッシュシート貯留空間およびメッシュシート表面に残留していた水20
分量を計測し,面積当りの残留水分量を算出した。その測定結果を表2に示す。
なお,この比較試験や上記の接触角の測定に用いた生理食塩水としては,イオン
交換水1L中に,塩化ナトリウム(NaCl):8.30g/L(ナトリウムイオン:1
42mmol),塩化カルシウム二水和物(CaCl2・2H2O):0.37g/L(カ
ルシウムイオン:2.5mmol)を溶解させたものを使用した。25
【0111】
【0112】
上記の測定の結果から,比較例1や比較例2では,メッシュシート上に水分が
十分に貯留しなかったが,本発明の実施例1~3では,いずれもメッシュシート
上に水分が十分に貯留されることが明らかとなった。従って,上記の比較例1や5
比較例2を創傷被覆材として使用した場合は,創傷部位が乾燥することになり,
創傷部位を湿潤状態に保てない虞がある。これに対し,本発明の実施例1~3の
いずれかを創傷被覆材として創傷部位に使用すると,その創傷部位を湿潤状態に
保つことができ,被覆材が創傷部位に固着する虞がない。
【0113】10
上記の各実施形態や変形例で説明した創傷被覆材は,本発明の技術的思想を具
体化するために例示したものであり,材質や積層構成,形状,寸法,用法などを,
これらの実施形態や変形例のものに限定するものではなく,本発明の特許請求の
範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0114】15
例えば上記の創傷被覆材は,各層が薄層である場合は,取扱いを容易にするた
め補強層を備えていてもよい。また,創傷被覆材の外面は,例えば創傷部位と接
する面を清浄に維持するためや,粘着層を保護するために,剥離紙などからなる
剥離層を備えたものであってもよい。これらの補強層や剥離層は,創傷被覆材を
創傷部位へ適用したのち除去するものであってもよい。20
【0115】
また上記の各実施形態では,上記の透液層の第2表面を凹凸状に形成した。し
かし本発明はこの第2表面を平滑面に形成したものであってもよい。また上記の
第1実施形態や各変形例では,いずれも保護層の外縁部に粘着部を形成した場合
について説明した。しかし本発明ではこの粘着部を省略して,絆創膏などにより5
創傷部位に固定することも可能である。上記の貫通孔が傾斜孔に限定されないこ
とは,言うまでもない。
【0116】
また上記の各実施形態では,いずれも通常の創傷被覆材として用いる場合につ
いて説明した。しかし本発明の創傷被覆材や表面シートは,表面シートの第1表10
面が創傷部位に対面するように使用されればよく,特定の用法に限定されな
い。・・・
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図17】
(別紙2)
1【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面及び傷接触表面となる下面を有する傷手当用品であって,
吸収層と,吸収層の被覆層とを有し,5
下面側の被覆層は前記吸収層へ液体が移動可能なものとし,前記下面側被覆層の
少なくとも傷接触表面は疎水性とし,上面側の被覆層は把持可能な摘みを有する
ことを特徴とする傷手当用品。
【請求項2】
上面及び傷接触表面となる下面を有する傷手当用品であって,10
吸収層と,吸収層の被覆層とを有し,
下面側の被覆層は積層構造とし,少なくとも傷接触表面側の層は疎水性樹脂層と
し,かつ下面側の被覆層は前記吸収層へ液体が移動可能なものとし,上面側の被
覆層は把持可能な摘みを有することを特徴とする傷手当用品。
【請求項15】15
前記吸収層は,水吸収時にゲルを形成する物質を含むことを特徴とする請求項
1~14のいずれか1項に記載の傷手当用品。
2【発明の詳細な説明】
(1)【技術分野】
【0001】20
本発明は,傷の保護,治療に使用する傷手当用品に関する。特に,傷からの血
液,滲出液等(以下,体液という。)を吸収するのに適する傷手当用品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱傷,褥瘡,及びその他の損傷の治療において,傷を保護し,傷からの体液を25
吸収するために,従来,ガーゼ,脱脂綿,吸収性繊維からなる層を含む多層構造
のパッド等の傷手当用品が用いられている。
しかし,これらの傷手当用品は,体液を吸収し傷面が乾燥すると,傷面から除
去する際に,傷面を傷つけ,痛みや出血を伴うことがあった。このような,剥離
時の痛みや出血を低減するために種々の傷手当用品が提案されている。
【発明が解決しようとする課題】5
【0006】
上記のように,傷手当用品は,使用後に患部に痛みや出血を生じないように容
易に除去できるようにすることは勿論のこと,使用の際に,適切な状態で患部に
適用できるようにすることが衛生上重要である。
この発明は,上記のような点に鑑みてなされたもので,本発明の課題は,傷手当10
用品を患部に適用する際に,傷手当用品の傷接触表面を汚染することなく,簡単
に傷手当用品を患部に適用し得る傷手当用品を提供することにある。
(2)【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため本発明によれば,上面及び傷接触表面となる下面を15
有する傷手当用品であって,吸収層と,吸収層の被覆層とを有し,下面側の被覆
層は前記吸収層へ液体が移動可能なものとし,前記下面側被覆層の少なくとも傷
接触表面は疎水性とし,上面側の被覆層は把持可能な摘みを有することを特徴と
する(請求項1)。この構成によれば,傷手当用品を摘みで把持することにより,
汚染の問題なしに簡単に患部に適用し得る。また,傷接触表面を疎水性とするこ20
とにより,傷手当用品を傷から容易に分離できる。
【0008】
また,前記課題は下記発明によっても達成される。上面及び傷接触表面となる
下面を有する傷手当用品であって,吸収層と,吸収層の被覆層とを有し,下面側
の被覆層は積層構造とし,少なくとも傷接触表面側の層は疎水性樹脂層とし,か25
つ下面側の被覆層は前記吸収層へ液体が移動可能なものとし,上面側の被覆層は
把持可能な摘みを有することを特徴とする(請求項2)。この構成によれば,疎水
性樹脂層の機能を適宜選択することで,傷接触表面側の層の特性を使用方法や治
療目的に応じて変更することが容易となる。
【0017】
また,前記請求項1~14のいずれか1項に記載の傷手当用品において,前記5
吸収層は,水吸収時にゲルを形成する物質を含むことが好ましい(請求項15)。
これにより,創傷を湿潤状態に保ち,傷の治癒を促進することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば,傷手当用品の上面側に設けた摘みにより,傷手当用品の傷接10
触表面に触れずに,また,傷接触表面に皺を発生させないように傷手当用品を患
部に適用することができるので,簡便で衛生的な処置が可能となる。
(3)【0021】
図1に示すように,本実施形態の傷手当用品10は,傷手当用品の下面側に位
置するシート状の被覆層20と,傷手当用品の上面側に位置するシート状の被覆15
層21と,これらの被覆層の間に介在させた吸収層40とを備えている。被覆層
20下面側の表面は,傷接触表面となるシリコーンを含む疎水性樹脂層50と,
これらの層を貫通する孔60が設けられ,傷からの体液が吸収層へ移動し得るよ
うになっている。
被覆層20と21は,吸収層40の外形に沿うように,傷手当用品の対向する20
2辺となるシール部70と,傷手当用品の別の対向する2辺の近傍に形成された
シール部71とで互いに接合され吸収層を被覆している。そして,傷手当用品の
上面側には,被覆層21のシートの縁により形成される摘み30が2箇所設けら
れている。本実施形態の傷手当用品は,その上面が対称的な形状である略正方形
に形成されており,その正方形の対称的な位置である一対の対辺の縁に,これら25
の辺に平行するように摘み30が配置されている。このような位置に摘みを配置
することで,摘みをもったときにバランスよく傷手当用品の重心が取れ,傷手当
用品の下面を水平に保ちながら,傷接触表面に皺や折り目が発生しないように傷
手当用品を適用することができる。
上記実施態様においては,下面側の被覆層20は疎水性樹脂層50を備え,下
面側の被覆層を2層とするものについて述べたが,疎水性樹脂層50を設けずに5
被覆層を1層とする場合には,前述のように,被覆層20の少なくとも傷接触表
面を疎水性とすることにより,傷手当用品を取り外す際に,傷手当用品を傷から
容易に分離できる。・・・
【0022】
図2,図3は,本発明の第2,第3の実施形態に係る傷手当用品であり,それ10
ぞれ,a)は傷手当用品の上面からみた斜視図,b)はa)のB-B線に沿って
切断した側断面図である。第2,第3の実施形態は,被覆層20,21のシール
位置が第1実施形態とは異なり,その結果,摘み31,32の形態も第1実施形
態とは異なったものとなっている。それ以外の部分は,第1実施形態とほぼ同様
である。15
図2に示すように,第2の実施形態では,傷手当用品の上面側において,第1
の実施形態とは逆で被覆層20が,被覆層21に被さるように配置され,被覆層
20の上からシール部71により被覆層20と被覆層21とを互いに接合して
いる。これにより,摘み31は,被覆層20のシートの縁により形成され,傷手
当用品の内側に向けて突出するように配置されている。第2の実施形態の傷手当20
用品は,その上面が対称的な形状である略正方形に形成されており,その正方形
の対称的な位置である一対の対辺の縁近傍に,これらの辺に平行するように摘み
31が配置される。
図3に示すように,第3の実施形態では,傷手当用品の上面側において,吸収
層40の外側でシール部71により被覆層20と被覆層21とを互いに接合し25
ている。これにより,摘み32は,被覆層21のシートの縁により形成され,吸
収層40の外側で,傷手当用品の外側に向けて突出するように配置されている。
第3の実施形態の傷手当用品は,その上面が対称的な形状である略正方形に形成
されており,その正方形の対称的な位置である対辺の縁に,これらの辺に平行す
るように摘み32が配置される。
【0024】5
図5は,本発明の第5の実施形態に係る傷手当用品の上面からみた斜視図であ
る。
図5に示すように,第5の実施形態の傷手当用品10は,傷手当用品の下面側
に位置するシート状の被覆層23と,傷手当用品の上面側に位置するシート状の
被覆層24と,これらの被覆層の間に介在させた吸収層40とを備え,一方向に10
連続する長尺物としてロール状に構成したものである。
被覆層23下面側の表面は,傷接触表面となるシリコーンを含む疎水性樹脂層
50と,これらの層を貫通する孔60とが設けられ,傷からの体液が吸収層へ移
動し得るようになっている。・・・
【0028】15
次に,被覆層20~26について述べる。被覆層は,吸収層の外形を被覆し得
るものであればよく,1枚又はそれ以上のシートから形成することができ,適当
な位置で互いに接合し吸収層を被覆することができる。被覆層は,吸収した体液
が漏れないように,吸収層の外形全体を被覆することが好ましいが,部分的に吸
収層を被覆していない部分があっても良い。20
以下に,被覆層の所要特性,機能等について述べる。まず,疎水性について述
べる。被覆層下面側の少なくとも傷接触表面は疎水性を有する。疎水性とするた
めには,被覆層自体を疎水性の材料で形成しても良いし,被覆層とは別の疎水性
樹脂層を塗工する等して被覆層を積層構造とし,その表面を疎水性にしても良
い。・・・25
【0029】
次に,液体の移動について述べる。被覆層のこの疎水性の表面は,吸収層へ体
液などの液体が移動し得るように形成される。被覆層の下面側を液体透過性とす
るためには,メッシュ,穿孔フィルム等のプラスチックシートや,編布,織布,
不織布等の液体透過性の繊維状シートを使用することができる。被覆層に疎水性
樹脂層を形成する場合は,被覆層の液体が移動し得る孔を塞がないように疎水性5
樹脂層を塗工するか,疎水性樹脂層を塗工した後に疎水性樹脂層ごと被覆層を打
ち抜けば良い。
【0034】
次に,吸収層について述べる。吸収層は,セルロース系繊維,パルプ,高分子
吸水ポリマー等の吸水性の高い材料を単独又は併用して使用することができ,必10
要とされる吸収量にあわせてこれらの量を調整すればよい。特に,水吸収時にゲ
ルを形成する物質を含ませることが好ましく,このようにすることで,創傷を湿
潤状態に保ち,傷の治癒を促進することができる。ゲル形成物質としては,例え
ば,ナトリウムカルボキシメチルセルロース,ナトリウムカルボキシメチルセル
ロースの架橋物,デンプン-アクリル酸(塩)グラフト共重合体,アクリル酸(塩)15
重合体,デンプン-アクリロニトリル共重合体,多価アルコール等が好まし
い。・・・
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
(別紙3)
1請求の範囲
[1]少なくとも3つの層から構成される創傷被覆材であって,創傷部位に接
するように使用される側から第1層,第2層,第3層の順に積層され一体
化してなり,5
前記第1層は,厚さ方向に貫通する孔を多数有する樹脂製のシート材か
らなり,
前記第2層は,表面が撥水性であり加圧により水が透過可能となるシー
ト材からなり,
前記第3層は,水を吸収保持可能なシート材からなる10
創傷被覆材。
[4]前記第1層のシート材の厚さが100~2000μmであり,前記小孔
は,創傷部位に接するように使用される側の面での開孔径相当280~1
400μmであり,他方の面での開孔径が前記創傷部位に接するように使
用される側の面での開孔径より小であり,50~400個/cm2
の密度15
で存在する請求の範囲第1項~第3項のいずれかに記載の創傷被覆材。
2明細書
(1)背景技術
[0002]近年,創傷の治療において,創傷面を乾燥させずに湿潤環境を保つこ
とが創傷の治癒に有効であることがわかってきた。特に,創傷部位から20
の滲出液に含まれる成分が,創傷の治癒の促進に役立つため,消毒を行
わず,創傷部位からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治癒する方
法(以下,「湿潤治療法」ということがある。)が有効であることがわか
ってきた。そのため,このような治療方法に適用される種々の創傷被覆
材が開発されている。25
[0003]湿潤治療法を効果的に行うためには,滲出液が適度に保持されること
で創傷面の適度な湿潤環境が保持されることが肝要であり,創傷被覆材
は滲出液を速やかに吸い上げてしまうのではなく,創傷面上において滲
出液が適度に保持されるようにする機能を備えていることが求められ
る。しかし,一方で,湿潤治療法は,湿潤環境が保たれるように創傷被
覆材を肌にしっかりと固定して行うため,創傷面上に閉鎖領域が形成さ5
れることになり,滲出液が新たに滲み出してきて過剰に貯留されると,
創傷面が滲出液により圧迫されて「下掘れ現象」(滲出液の圧力によって
創傷部位の皮膚がえぐられる現象)を起こす。このため,創傷被覆材は
創傷面上から滲出液を適度に排出する機能を備えていることも求めら
れる。10
[0004]また,創傷部位に接する材料に通気性がなく創傷面に強く貼り付いて
しまうと,創傷被覆材を剥がすときに治癒したもしくは治癒しかけた箇
所を再び傷つけてしまったりするおそれがある。そのため,創傷面に強
く貼り付いてしまわないことも求められる。
(2)発明が解決しようとする課題15
[0009]本発明は,創傷からの浸出液による湿潤環境を維持しながら治療する
方法に好適な,さらに改良された創傷被覆材を提供することを課題とす
る。
(3)課題を解決するための手段
[0010]すなわち,本発明は,20
[1]少なくとも3つの層から構成される創傷被覆材であって,創傷部位
に接するように使用される側から第1層,第2層,第3層の順に積層され
一体化してなり,
前記第1層は,厚さ方向に貫通する孔を多数有する樹脂製のシート材から
なり,25
前記第2層は,表面が撥水性であり加圧により水が透過可能となるシート
材からなり,
前記第3層は,水を吸収保持可能なシート材からなる
創傷被覆材,
[4]前記第1層のシート材の厚さが100~2000μmであり,前
記小孔は,創傷部位に接するように使用される側の面での開孔径が直径相5
当280~1400μmであり,他方の面での開孔径が前記創傷部位に接
するように使用される側の面での開孔径より小であり,50~400個/
cm2
の密度で存在する前項[1]~[3]のいずれかに記載の創傷被覆
材,・・・
(4)発明の効果10
[0011]本発明の創傷被覆材は,創傷からの浸出液による湿潤環境を維持しなが
ら治療する方法に適用すベく,滲出液が創傷から滲み出した箇所において,
滲出液を速やかに吸い上げてしまうことなく湿潤環境を維持する一方で,
滲み出した滲出液の面積が大きく広がらないように捕捉することができ
る。このため,創傷部位近傍の領域に滲出液が保持されて治療効果を高め15
る一方,創傷のない正常な皮膚のかぶれの原因となる滲出液の無駄な広が
りを防止することができる。
したがって,本発明の創傷被覆材は,各種の創傷の治療に好適なもので
あり,特に褥瘡の予防および治療に最適である。
(5)[0015]本発明の創傷被覆材は,少なくとも3つの層力から構成される創傷20
被覆材であって,創傷部位に接するように使用される側から第1層,第2
層,第3層の順に積層され一体化してなるものである。本発明の創傷被覆
材は,所望により,前記第1層,第2層,第3層に加えて,第4層が積層
され一体化してなるものとすることができる。
[0016]図1は,本発明の好ましい例を示す模式的な断面図であり,この例では25
第4層(4)を有している。使用時には第1層(1)が創傷部位に接する
ように使用される。
[0017]本発明の被覆材において,前記各層が積層され一体化してなるとは,積
層された層間で少なくとも部分的に接合されていて,強制的に剥離させる
ような外力を加えない限り,通常の使用状態では各層が分離しないで積層
された状態を保つことを意味する。5
[0019]以下では,各層について詳細に説明する。
(第1層)
第1層は,滲出液が創傷から滲み出した箇所において,滲出液を速やか
に吸い上げてしまうことなく湿潤環境を維持する一方で,滲み出した滲出
液の面積が大きく広がらないように捕捉することを主な目的として設け10
られる。創傷の治癒においては,本来は創傷部位近傍の領域に滲出液が保
持されていれば足り,該領域を超えて滲出液が創傷部位の周囲に広がるこ
とは好ましくなくない。そのように滲出液が広がった部分において,創傷
のない正常な皮膚がかぶれて,新たに創傷部位が拡大したりして治癒を遅
らせることがあるためである。したがって,本発明では,滲出液の面積が15
大きく広がらないようにするための第1層を設けており,それによって創
傷の治癒を速やかならしめる効果を奏する。
[0020]第1層を構成するシート材(以下,「第1シート材」ということがある。)
は,樹脂製のシート材である。
[0022]第1シート材は,厚さ方向に貫通する孔(以下,単に「貫通孔」という20
ことがある。)を多数有する。この孔は,それぞれが独立していることが好
ましく,第1シート材内部には,面内方向に通水する経路は存在しないこ
とが好ましい。第1シート材は,貫通孔を多数有するため,創傷部位に強
く貼り付いてしまうことを防止できる。
[0023]貫通孔は,円筒状,樽状,鼓状等,種々の形状であってもよいが,第125
シート材の厚さ方向において,第2層に近づくにつれ傾斜的に孔径が小さ
くなっている貫通孔であることが好ましい(このように第2層に近づくに
つれ傾斜的に孔径が小さくなっている貫通孔のことを,以下では「傾斜孔」
ということがある。)。図1および図2は,貫通孔が傾斜孔である例を示し
ている。
[0024]貫通孔の孔径としては,第1シート材において創傷部位に接するように5
使用される側の面(以下,「創傷側の面」ということがある。)での開孔径
が直径相当で280~1400μmであることが好ましい。280μm未
満では,滲出液が第2層の方に通過するのを阻害する傾向にあるので好ま
しくない。一方,1400μmを超えると,第2層が創傷部位の皮膚と接
触するおそれがあり,そのために創傷被覆材を創傷部位から剥がしにくく10
なったり,適度な滲出液の貯留空間を確保できなくなったりするおそれが
あるので好ましくない。なお,上記の「直径相当」とは,開孔形状が円形
であるときにはそのまま直径を意味し,円形でないときにはその開孔と面
積が等しい円の直径を意味する。
[0025]貫通孔が傾斜孔である場合,創傷側の面での開孔径は,上記したように15
他方の面すなわち第2層の側の面での開孔径よりも大であるが,第2層の
側の面での開孔径の1.1~1.8倍であることが好ましく,1.2~1.
5倍であることがより好ましい。
[0026]なお,例えば図1および図2に示す第1シート材のように,その表面が
凹凸状である場合,創傷側において第1シート材と接する平面を想定し,20
この平面に接する箇所での孔径を創傷側の面の開孔径とする。同様に,第
2層の側において第1シート材と接する平面を想定し,この平面に接する
箇所での孔径を第2層の側の面での開孔径とする。
[0027]また,貫通孔は,50~400個/cm2
の密度で存在することが好まし
く,60~325個/cm2
の密度で存在することが好ましく。さらに,創25
傷側の面における貫通孔の開孔率としては,第1シート材全体に対して1
5~60%であることが好ましい。
[0028]貫通孔の深さとしては,概ね100~2000μmが好ましく,概ね2
50~500μmがより好ましい。
[0029]貫通孔について,密度,開孔率および深さを上記の好ましい範囲とする
ことは,創傷面と第2層との間において適度な貯留空間を形成して創傷面5
上に適度な滲出液を保持するとともに,滲出液が面内方向に広がるのを防
止するという点で有利である。
[0030]なお,上記の貯留空間の容量としては,貫通孔1個あたり0.015~0.
55μlであることが好ましく,貫通孔1個あたり0.030~0.45
μlであることがより好ましく,貫通孔1個あたり0.040~0.3510
μlであることが特に好ましい。貯留空間の容量が貫通孔1個あたり0.
015μl未満では,創傷面上に滲出液を保持するのが困難になる傾向に
あるうえ,面内方向への拡散を防止することも困難になる傾向にあるため
好ましくない。一方,貫通孔1個あたり0.55μlを超えると,第2層
による滲出液の吸収速度が大きくなり,創傷面を滲出液による適度な湿潤15
環境に保つことが困難になる傾向にあるので好ましくない。
[0033]第1シート材は,加圧により水が透過可能となる性質を有していること
が好ましい。
本発明において,「加圧により水が透過可能となる」とは,シートにかか
る水圧が所定の圧力を超えると水が透過可能となることを意味する。この20
ため,以下では,「加圧により水が透過可能となる」性質を,「初期耐水圧
性」ということがある。
[0035]第1シート材の初期耐水圧性は,第1シート材の表面が疎水性である場
合に具現されやすく,また,貫通孔が傾斜孔である場合に具現されやすい。
さらに,第1シート材の初期耐水圧性は,貫通孔が50~400個/cm25

の密度で存在する場合に具現されやすく,開孔率が15~60%である
場合に具現されやすい。なお,本明細書において第1シート材の初期耐水
圧性という場合,創傷部位に接する側からの初期耐水圧性を意味する。
[0038]第1シート材は,創傷から滲み出す滲出液が面方向に広がるのを防ぐ作
用をする。
本発明の創傷被覆材が創面に装着されてからあまり時間が経過してい5
ない,創傷から滲出液が滲み出す初期の段階では,図2に示すように,上
記の貫通孔の中途まで滲出液が侵入する。これにより,滲出液は,貫通孔
によって面方向に動かないように捕捉された状態となり,創傷箇所よりも
その面積を大きく広げることなく,創傷面と第1層との間で保持されて,
湿潤環境が保たれる。このような,滲出液の面積を大きく広げることなく10
湿潤環境を保つ効果を奏するうえで,第1シート材が初期耐水圧性を有す
ることは有利であり,貫通孔が傾斜孔であることもまた有利であり,さら
に,上記の貯留空間の容量が貫通孔1個あたり0.015~0.55μl
であることもまた有利である。
[0039]次の段階では,滲出液がさらに滲み出して,その圧力が増すと,滲出液15
は第1層を透過して第2層の表面に到達し,その後さらに第3層へと進む
ことになるが,滲出液は第1層を通じて逆戻りしないことが好ましい。特
に,第2層を透過した滲出液は,滲出後長時間経過しているので,雑菌の
繁殖するおそれがあり,例えば外力により創傷被覆材が圧迫されて滲出液
が創傷部位にまで逆戻りすると,感染の原因にもなりかねない。そのよう20
な滲出液の逆戻りを防ぐうえで,貫通孔が傾斜孔であることは有利である。
[0040]第1層と下記の第2層とは,なるべく密着していること,具体的には,
第1層と第2層との界面において,図3に示すように,上記の貯留空間が
滲出液で満たされても滲出液が面内方向に広がることがない程度に密着
していることが好ましい。そのような密着状態は,後述するようにホット25
メルト接着剤を第2層の表面に非全面状に塗布して両層を接合すること
により具現されうる。
[0042](第2層)
第2層は,加圧により水が透過可能となる初期耐水圧性を備えている。
本発明の創傷被覆材は,第2層が初期耐水圧性を備えていることにより,
実際に使用する場合には,創傷から浸出液が滲み出す初期の段階では滲出5
液による圧力に耐えて滲出液を透過させないとともに,滲出液による圧力
が所定の圧力を超えると滲出液を透過させる機能を有することになる。
[0043]第2層を構成するシート材(以下,「第2シート材」ということがる。)
は,初期耐水圧性のシート材であるが,初期耐水圧性は,表面が撥水性で
あることにより具現されやすく,したがって,第2層は,表面が撥水性で10
あり,初期耐水圧性であるシート材からなることが好ましい。
[0044]本発明においては,この初期耐水圧性の指標として,通気度(JIS-L-
1096準拠)と撥水度(JIS-L-1092準拠)を用いることができる。第2
シート材の通気度および撥水度としては,通気度が5~2000〔cm3
/
cm2
s〕の範囲内であり,かつ,撥水度が3点以上であることが好ましい。15
通気度および撥水度がこの範囲内にあることにより,本発明の目的に適う
初期耐水圧性が達成されるため,滲出液量の少ない初期段階において滲出
液を透過・吸収させず,滲出液量が過剰になる段階において該過剰な分の
滲出液を透過・吸収させることにより,治癒効果を高める適度な湿潤環境
を具現する。通気度は,15~500〔cm3
/cm2
s〕の範囲内にあるこ20
とがより好ましく,それにより最適な湿潤環境を長時間にわたって維持で
きるものと推測される。
[0061](第3層)
第3層は,創傷部位から滲み出して前記第1層を経由して第2層を透過
した滲出液を吸収するための層である。したがって,第3層は,水を吸収25
保持可能なシート材からなる。水を吸収保持可能なシート材は,滲出液を
吸収保持可能だからである。
(別紙4)
1【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷部に向かって突出する多数の凸部およびその周囲に形成される凹部を有
し,前記凸部には厚さ方向に貫通する孔を有する樹脂製のシート材からなる第15
層および,水を吸収保持可能なシート材からなる第2層の少なくとも2層から構
成され,創傷部位に接する側から第1層,第2層の順に積層されてなることを特
徴とする創傷被覆材。
【請求項4】
前記第1層のシート材の厚さが100~2000μmであり,前記第1層の孔10
は,創傷部に対向する側の面での開孔径が直径相当240~1100μmであり,
他方の面での開孔径が前記創傷部位に接する側の面での開孔径の0.7~0.9
倍であり,50~400個/cm2
の密度で存在する請求項1~3のいずれかに
記載の創傷被覆材。
2【発明の詳細な説明】15
(1)【背景技術】
【0002】
近年,創傷の治療において,創傷面を乾燥させずに湿潤環境に保つことが創傷
の治癒に有効であることがわかってきた。特に,創傷部位からの滲出液に含まれ
る成分が,創傷の治癒の促進に役立つため,消毒を行わず,創傷部位からの滲出20
液による湿潤環境を維持しながら治療する方法(以下,「湿潤治療法」ということ
がある。)が知られている。そのため,このような治療方法に適用される種々の創
傷被覆材が開発されている。
【0003】
湿潤治療法を効果的に行うためには,滲出液が適度に保持されることで創傷面25
の適度な湿潤環境が保持されることが肝要であり,創傷被覆材は滲出液を速やか
に吸い上げてしまうのではなく,創傷面上において滲出液が適度に保持されるよ
うにする機能を備えていることが求められる。しかし,一方で,湿潤治療法は,
湿潤環境が保たれるように創傷被覆材を肌にしっかりと固定して行うため,創傷
面上に閉鎖領域が形成されることになり,滲出液が新たに滲み出してきて過剰に
貯留されると,創傷面が滲出液により圧迫されて「下掘れ現象」(滲出液の圧力に5
よって創傷部位の皮膚がえぐられる現象)を起こす。このため,創傷被覆材は創
傷面上から滲出液を適度に排出する機能を備えていることも求められる。
【0004】
また,創傷部位に接する材料に通気性がなく創傷面に強く貼り付いてしまうと,
創傷被覆材を剥がすときに,治癒したもしくは治癒しかけた箇所を再び傷つけて10
しまったりするおそれがある。そのため,創傷面に強く貼り付いてしまわないこ
とも求められる。
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は,創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に好15
適な,さらに改良された創傷被覆材を提供することを目的とする。
(2)【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは,上記目的を達成すべく鋭意検討した結果,創傷部に向かって突
出する多数の凸部およびその周囲に形成される凹部を有し,前記凸部に厚さ方向20
に貫通する孔を有する樹脂製のシート材からなる第1層および,水を吸収保持可
能なシート材からなる第2層の少なくとも2層を積層することによって,創傷部
の湿潤状態を適度に保持できる創傷被覆材が得られ,従来の問題が一挙に解決で
きることを見出し,さらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0011】25
すなわち,本発明は,
[1]創傷部に向かって突出する多数の凸部およびその周囲に形成される凹部を
有し,前記凸部に厚さ方向に貫通する孔を有する樹脂製のシート材からなる第1
層および,水を吸収保持可能なシート材からなる第2層の少なくとも2層から構
成され,創傷部位に接する側から第1層,第2層の順に積層されてなることを特
徴とする創傷被覆材,・・・5
[4]前記第1層のシート材の厚さが100~2000μmであり,前記第1層
の孔は,創傷部位に接する側の面での開孔径が直径相当240~1100μmで
あり,他方の面での開孔径が前記創傷部位に接する側の面での開孔径の0.7~
0.9倍であり,50~400個/cm2
の密度で存在する前記[1]~[3]の
いずれかに記載の創傷被覆材,・・・10
【発明の効果】
【0012】
本発明の創傷被覆材は,創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療
する方法に適用すべく,滲出液が創傷から滲み出した箇所において,湿潤環境を
維持する一方で,過剰な滲出液を吸収することで滲み出した滲出液の面積が大き15
く広がらないように捕捉することができる。このため,創傷部位近傍の領域に滲
出液が保持されて治療効果を高める一方,創傷のない正常な皮膚のかぶれの原因
となる滲出液の無駄な広がりを防止することができる。
また,本発明の創傷被覆材は,創傷部と第1層の凹部との間に滲出液を貯留す
る空間が形成されるため,創傷部から流出する滲出液を保持でき,創傷部の湿潤20
状態を保持することができる。滲出液が多くなると,第1層の凸部に形成された
孔を通して吸収層に吸収させることができる。さらに,凸部に孔が形成されるた
め,創傷部と第1層と間に滲出液が保持されやすくなり,第2層(吸収層)への
滲出液の通過を制限するシート材(以下,液透過性シート材という。)は設けなく
てもよい。25
したがって,本発明の創傷被覆材は,各種の創傷の治療に好適に使用でき,特
に褥瘡の予防または治療用被覆材として使用するのが最適である。
(3)【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の創傷被覆材は,創傷部位を覆うように創傷部位に貼付されるための被
覆材であって,創傷からの滲出液による湿潤環境を維持しながら治療する方法に5
適用できる。本発明において,「創傷」とは,皮膚が傷ついたものを広く意味し,
熱傷,褥瘡,挫傷,切傷,擦過傷,潰瘍,手術創等が含まれる。
以下,本発明の創傷被覆材の構成について,必要に応じて図面を参照しつつ説
明する。
【0014】10
本発明の創傷被覆材は,創傷部に向かって突出する多数の凸部(5)およびそ
の周囲に形成される凹部(6)を有し,前記凸部(5)に厚さ方向に貫通する孔
(4)を有する樹脂製のシート材からなる第1層(1)および,水を吸収保持可
能なシート材からなる第2層(2)の少なくとも2層から構成され,創傷部位に
接する側から第1層(1),第2層(2)の順に積層されてなるものである。本発15
明の創傷被覆材は,所望により,前記第1層(1),第2層(2)に加えて,第3
層(3)が積層されてなるものとすることができる。
【0015】
図1は,本発明の好ましい例を示す模式的な断面図であり,この例では第3層
(3)を有している。使用時には第1層(1)が創傷部位に接するように使用さ20
れる。
【0016】
以下では,各層について詳細に説明する。
第1層:
第1層(以下,肌面シートともいう。)は,滲出液が創傷から滲み出した箇所に25
おいて,湿潤環境を維持する一方で,過剰な滲出液を第2層側へ排出することで,
滲み出した滲出液の面積が大きく広がらないように捕捉することを主な目的と
して設けられる。創傷の治癒においては,本来は創傷部位近傍の領域に滲出液が
保持されていれば足り,該領域を超えて滲出液が創傷部位の周囲に広がることは
好ましくない。そのように滲出液が広がった部分において,創傷のない正常な皮
膚がかぶれて,新たに創傷部位が拡大したりして治癒を遅らせることがあるため5
である。したがって,本発明では,滲出液の面積が大きく広がらないようにする
ための第1層を設けており,それによって創傷の治癒を速やかならしめる効果を
奏する。
【0019】
第1シート材は,創傷部位に向かって突出する多数の凸部(5)およびその周10
囲に形成される凹部(6)を有する凸凹シートであり,前記凸部(5)に厚さ方
向に貫通する孔(以下,単に「貫通孔」ということがある。)を有する。この孔(4)
は,それぞれが独立していることが好ましく,第1シート材内部には,面内方向
に通水する経路は存在しないことが好ましい。前記貫通孔(4)が液の通過を許
容する。第1シート材は,貫通孔(4)を多数有するため,創傷部位に強く貼り15
付いてしまうことを防止できる。
【0020】
貫通孔(4)は,円筒状であってもよく,漏斗状であってもよいが,第1シー
ト材の厚さ方向において,第2層に近づくにつれ傾斜的に孔径が大きくなってい
る形状であること,すなわち,孔の断面積が,創傷治療部対向面から他方の面に20
向かって徐々に大きくなる形状であることが好ましい。言いかえれば,貫通孔(4)
が,図2に示されるような,創傷に接しない側(第2層側)を底面とする円錐台
(頂点を切り取った円錐)若しくは円錐台様の形状であることが好ましい。この
ように第2層に近づくにつれ傾斜的に孔径が大きくなっている貫通孔(4)のこ
とを,以下では「傾斜孔」ということがある。図1および図2は,貫通孔が傾斜25
孔である例を示している。
【0021】
貫通孔(4)の孔径としては,第1シート材において創傷部位に接する側の面
(以下,「創傷側の面」ということがある。)での開孔径が直径相当で240~1
100μmであることが好ましい。240μm未満では,滲出液が第2層の方に
通過するのを阻害する傾向にあるので好ましくない。一方,1100μmを超え5
ると,第2層が創傷部位の皮膚と接触するおそれがあり,そのために創傷被覆材
を創傷部位から剥がしにくくなったり,適度な滲出液の貯留空間を確保できなく
なったりするおそれがあるので好ましくない。なお,上記の「直径相当」とは,
開孔形状が円形であるときにはそのまま直径を意味し,円形でないときにはその
開孔と面積が等しい円の直径を意味する。10
【0022】
貫通孔(4)が傾斜孔である場合,創傷側の面での開孔径は,上記したように
他方の面すなわち第2層側の面での開孔径よりも小であり,第2層側の面での開
孔径の0.7~0.9倍であることが好ましい。前記「創傷側の面での開孔径」
は,創傷側において第1シート材と接する平面を想定し,この平面に接する箇所15
での孔径を意味し,前記「第2層側の面での開孔径」は,第2層の側において第
1シート材と接する平面を想定し,この平面に接する箇所での孔径を意味する。
【0023】
また,貫通孔(4)は,第1層に多数存在していればその数は特に限定されな
いが,50~400個/cm2
程度の密度で存在することが好ましく,60~3220
5個/cm2
程度の密度で存在することがより好ましい。さらに,創傷側の面にお
ける貫通孔(4)の開孔率としては,第1シート材全体に対して15~60%で
あることが好ましい。
貫通孔(4)の深さとしては,概ね100~2000μmが好ましく,概ね2
50~500μmがより好ましい。25
貫通孔(4)について,密度,開孔率および深さを上記の好ましい範囲とする
ことは,滲出液が面内方向に広がるのを防止するという点で有利である。
【0024】
第1シート材は,創傷部と凹部(6)との間に滲出液の貯留空間を形成する。
これは,創傷面と第1層との間における前記貯留空間に,創傷部からの滲出液を
保持することにより創傷部の湿潤状態を保持できるという点で優れている。また,5
第1シート材は滲出液が多くなると,凸部(5)に形成された貫通孔(4)を通
して吸収層(2)に吸収させることができるため,滲出液が面内方向に広がるの
を防止するという点でも優れている。
【0029】
第1シート材の初期耐水圧性は,第1シート材の表面が疎水性である場合に具10
現されやすく,また,貫通孔(4)が傾斜孔である場合に具現されやすい。さら
に,第1シート材の初期耐水圧性は,貫通孔(4)が50~400個/cm2
の密
度で存在する場合に具現されやすく,開孔率が15~60%である場合に具現さ
れやすい。なお,本明細書において第1シート材の初期耐水圧性という場合,創
傷部位に接する側からの初期耐水圧性を意味する。15
【0032】
第1シート材は,創傷部の湿潤状態を保持するだけでなく,創傷から滲み出す
滲出液が面方向に広がるのを防ぐ作用をする。本発明の創傷被覆材が創面に装着
されてからあまり時間が経過していない,創傷から滲出液が滲み出す初期の段階
では,上記の創傷部と凹部(6)との間の貯留空間に滲出液が侵入する。これに20
より,滲出液は,前記貯留空間によって面方向に動かないように捕捉された状態
となり,創傷箇所よりもその面積を大きく広げることなく,創傷面と第1層との
間で保持されて,湿潤環境が保たれる。このような,滲出液の面積を大きく広げ
ることなく湿潤環境を保つ効果を奏するうえで,第1シート材が初期耐水圧性を
有することは有利であり,貫通孔(4)が傾斜孔であることもまた有利である。25
また,創傷部からの滲出液が多い場合は凸部(5)に形成された孔(4)から
吸収層(2)に吸収させる。これにより,創傷から滲み出す滲出液が面方向に広
がるのを防ぐ。
【0033】
次の段階では,滲出液がさらに滲み出して,その圧力が増すと,滲出液は第1
層を透過して第2層へと進むことになるが,滲出液は第1層を通じて逆戻りしな5
いことが好ましい。
例えば外力により創傷被覆材が圧迫されて滲出液が創傷部位にまで逆戻りす
ると,繁殖した雑菌による感染の原因にもなりかねない。そのような滲出液の逆
戻りを防ぐうえで,貫通孔が傾斜孔であることは有利である。
【0034】10
第2層:
第2層は,創傷部位から滲み出して前記第1層を透過した滲出液を吸収するた
めの層である。したがって,第2層は,水を吸収保持可能なシート材からなる。
水を吸収保持可能なシート材は,滲出液を吸収保持可能だからである。
【0047】15
第3層:
本発明の創傷被覆材は,前記第1層(1)および第2層(2)を有するが,さ
らに所望により,例えば図1に示されるように第3層(3)を有していてもよい。
第3層(3)は,第2層(2)に吸収された滲出液が外部に移ることを防ぐ目的
で設けられる。本発明の創傷被覆材は,必ずしも第3層(3)を有していなくて20
もよいが,第3層(3)を有しない場合には,第2層(2)に吸収された滲出液
が外部に移って例えば衣服や寝具を汚すことを防ぐために,別途のシート材を併
用することが好ましい。
図1
図2

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激動の時代に
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