弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         少額訴訟判決
          主       文
 1 原告の請求を棄却する。
 2 訴訟費用は原告の負担とする。
          事 実 及 び 理 由
第1 請 求
被告は、原告に対し、金35万6100円及びこれに対する平成15年11月28日か
ら支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 1 請求原因の要旨
原告と被告間の平成15年11月1日付け労働契約について、同月27日原告が即
日解雇されたことによる原告の被告に対する解雇予告手当35万6100円及びこれ
に対する遅延損害金の支払請求
 2 争 点
原告の辞職は被告による解雇か、原告の依願退職か。
第3 争点に関する判断
1 被告は、原告主張の被告による解雇の事実を否認し、その理由として、退職願(乙
3)を根拠に、原告の依願退職であることを主張する。これに対し、原告は、退職願は
原告の真意に基づかずに、又は被告からの強制若しくは欺罔により書かされたもの
で、そこに記載された退職の意思表示は無効又は取り消し得べきものとして効力が
ない旨主張する。
2 そこで検討するに、まず、原告本人尋問の結果並びに証人A及び同Bの証言によれ
ば、以下の経緯及び事実を認めることができる。
① 平成15年10月、被告信用金庫に役員車運転手として採用するための原告の面
接が、上記両証人(常務理事及び人事部長)を含め数名により行われ、その際、
事故歴、違反歴につき質問されたのに対し、原告は、事故や飲酒運転はないが、
スピード違反と駐車違反はあると答え、その回数については特に言わなかったが、
証人らは、そのような違反が2回程度あると受け止めたこと。
② その面接を経て、11月1日から3か月を試用期間として原告を役員車運転手とし
て採用し、本採用の前の同月27日に、面接の際の原告の回答を確認するため、
Cセンターから、原告からの委任を受けた被告の職員に原告の運転記録証明書
(乙2)を取らせたところ、同証明書記録のとおりの違反歴及び免許停止が2回あ
る等の事実が明らかになったこと。
③ そこで、同日朝原告出勤後に、両証人が確認のため9階の部屋に原告を呼び出
し、事情を聴いたところ、事実に相違はなく、面接の際には特に違反回数や処分歴
まで言うことを思い浮かばなかった旨述べ、証人らが「このような事実が分かった
以上、このまま役員車運転手として働いてもらうのは難しい」との趣旨を告げたこ
と。
④ その後証人Bが退職願の用紙を持ってきて、これに記入してくださいと言ったとこ
ろ、原告は黙って記入し署名したが、印鑑をその場に持っていなかったため1階の
自席に戻り、その後押印された退職願(乙3)が提出されたこと。
⑤ 退職願を書いてこれを証人らが受け取ったのは午前10時半か11時ころであり、
原告は昼食後、午後も退職手続等のため前記9階の部屋に一人で待機しており、
その日残業手当、離職票など被告側から渡された書類を受け取って帰ったが、数
日後には、納得がいかなかったので、被告信用金庫に行き、解雇であることを主
張したこと。
 3 以上のうち、③から⑤の経緯に関し、原告本人は、退職願の署名押印は自分がした
けれども、それは原告が「どうしたらよいですか」と問うたところ、「辞めていただくしか
ないですね」と、被告側で持ってきた退職願を書くほかない趣旨のことを言われたた
めそうしたまでで、自分から進んで辞めたいとは言わなかったし、辞めたいとも思って
いなかったと述べる。また、印鑑を取りに行った時と昼食時に部屋を出たのを除い
て、朝から午後までずっと常務理事、人事部長と自分の3人だけで個室におかれ、な
かなか部屋から出してくれなかったこと、そして、退職願を書く前に「解雇ということに
なると、これから他の会社に就職する際に、不利になるのではないか。問い合わせ
が来ればその旨回答せざるを得ない。」などと言われたことがある旨述べ、そのこと
を理由に、強制され、又は騙されて書かされたことを主張する。更に、上記①の採用
面接の際に原告がした回答に関し経歴詐称になると被告が主張するのに対し、原告
は、違反の回数等それ以上のことを尋ねられなかったため、回数や停止処分の存在
について特にその時気づかず、言わなかったまでであると述べ、むしろ採用面接時
に運転記録証明書(乙2)を提出させず、また、後に提出してもらうことになるとも一切
言わなかった点に被告側の落ち度がある旨主張する。
これに対し、証人Aによれば、上記③から⑤の経緯に関しては、このまま働いても
らうのは難しい旨告げたのに対し原告が沈黙していたので、こちらから更に「どうする
んですか」と尋ねたところ、原告の方から「退職するしかないですね」と言い、人事部
長が持ってきた退職願に黙って記入署名し、印鑑を取りに戻った後、押印のある退
職願が自動車課長を通じて提出された旨、また、事情を聴いた9階の部屋は、応接
セットも置かれた人事部の応接室兼会議室で、個人のプライバシーも考慮してその
部屋を使用したまでであり、午前中の早いうちには退職願を受領しており、昼食後午
後には専ら退職の手続のためにその部屋に居て待ってもらっていたにすぎず、狭い
個室に長時間閉じこめていたとの事実はないこと、そして、原告が主張する解雇とな
れば他の会社への再就職の際に不利となるとの言動をしたことはない旨証言する。
更に、上記①の原告の採用面接当時は、履歴書(乙4)や職務経歴書(乙5)を提出
させたものの、運転記録証明書(乙2)の提出は求めておらず、試用期間を経て本採
用に至る前に面接の際の答えを確認のため、同証明書を取ることにしていたのであ
るが、これは応募者が多く、採用前の証明書の事前提出は応募者のプライバシーの
問題もあり、本採用の時点での提出で足りると考えていたからであり、これまで全くト
ラブルがなかったのに今回の原告とのトラブルが発生したことにより、従来の方法を
改め、現在では採用面接の際に提出を求めている旨証言する。
4 以上の原告本人の供述及び証人Aの証言を対照すると、退職願に原告が署名押印
するに至るまでの互いの会話のやり取りについて双方の認識には齟齬があり、その
いずれであったか経緯を逐一確定することまではできないが、たとえ原告本人の供
述を前提としても、原告が不本意ではあったにせよ、辞めていただくしかないですね
との証人らの言葉を一応理解して、それに納得の上、署名押印に応じたことを最低
限認めることができる。原告は、採用面接当時自分の違反歴や免許停止の処分歴
については分かっていたが、面接時それ以上の内容について質問されなかったた
め、思い浮かばなかったとし、その後証明書(乙2)を取られてその事実を指摘されて
気づいたこと、仮に採用面接時被告側に、その事実が明らかになっていたら、自分が
採用されたかどうかについては何とも言えない旨述べているが、それまでも他の会社
の役員車運転手として勤務し、そのころ違反による行政処分を受けているところ、今
回、より安定性の高い被告信用金庫の役員車運転手として応募し、採用され勤務す
ることになれば、証明書(乙2)に記録されているような違反歴及びこれによる2回の
免許停止の処分歴があれば、役員車運転手としての勤務の障害になり得ることは、
社会一般の常識に照らしても当然に予測できるものと言わざるを得ない。その意味
で、原告は、退職願を作成する際に、指摘された自分の側の負い目を全く意識するこ
となく署名押印させられたとまで認定することはできず、その意思に基づかずに退職
願の作成提出に及んだということはできない。また、原告は午前中の事情聴取から
1、2時間程度の比較的短時間のうちに退職願を提出しており、印鑑を取りに一度自
席に戻ったうえで押印したとの経緯もあり、午後は主に退職の手続のために部屋に
留まっていたに過ぎず、残業手当や離職票等の書類を受け取ったことが認められ
る。そして、原告本人の供述以外には、解雇となれば他の会社への再就職の際に不
利となるとの趣旨の言動を証人らがしたことの客観的な証拠もなく、これらの諸点を
考慮すると、原告の退職の意思表示が強制の下になされたとか、被告側の欺罔に基
づきされたとまで認定することはできない。更に原告は、採用面接の際に証明書(乙
2)の提出をさせなかったなどの被告側の落ち度を指摘するが、確かに採用面接の
際の事前の証明書の不提出や違反回数、処分歴の内容にまで踏み込んで尋ねてい
ないとの質問の程度に関し、採用する側に慎重さを欠いた手続上の不備があったこ
とは否定できず、したがって、原告に経歴詐称の事実があり、原告が自己の経歴詐
称を認めて退職願を書き、退職に至ったとの被告が主張するような事実までを認定
することはできないにしても、被告側に前記採用面接の際の手続上の不備があった
ことから、直ちに原告の退職の意思表示の効力が否定されることにはならない。
5 以上によれば、原告の退職願(乙3)に基づく退職の意思表示の効力を否定するこ
とはできず、ほかに原告の辞職が被告による解雇に基づくと認めるに足りる証拠もな
い。よって、被告の解雇を理由とする原告の本件解雇予告手当の請求は理由がな
い。
          東京簡易裁判所少額訴訟3係
              裁 判 官下  里   敬  明

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛