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平成21年9月30日判決言渡
平成20年(行ケ)第10468号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成21年7月8日
判決
原告株式会社長浜製作所
訴訟代理人弁理士稲岡耕作
同皆川祐一
被告特許庁長官
指定代理人信田昌男
同岡田孝博
同森川元嗣
同小林和男
主文
1特許庁が不服2006−20027号事件について平成20年10
月30日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2当事者間に争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「不釣合い修正方法および装置」とする発明につい
て,平成14年4月12日に特許出願をし(甲3),平成18年3月22日に
手続補正をしたが(甲4),同年7月31日付けで拒絶査定を受けたことか
ら,同年9月7日,これに対する不服の審判(不服2006−20027号事
件)を請求した。
特許庁は,平成20年10月30日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決をし,その謄本は,同年11月13日,原告に送達された。
2特許請求の範囲
平成18年3月22日付け手続補正書(甲4)により補正された本願の明細
書(以下「本願明細書」という。)の特許請求の範囲(請求項の数2)の請求
項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」
という。)。
「【請求項1】
不釣合いを修正すべき被試験体の初期不釣合いを測定する第1の測定ステッ
プと,
第1の測定ステップで測定された不釣合いを修正する処理を前記被試験体に
対して行う第1の修正ステップと,
第1の修正ステップで不釣合いが修正された前記被試験体の残留不釣合いを
測定する第2の測定ステップと,
第2の測定ステップで測定された前記被試験体の残留不釣合いを,第1の測
定ステップで測定された初期不釣合いおよび第1の修正ステップで実際に修正
された修正量の比に基づいて補正する残留不釣合いの補正ステップと,
補正ステップで補正された残留不釣合いを修正する処理を前記被試験体に対
して行う第2の修正ステップと,
を有することを特徴とする高速回転機器のための2回修正による不釣合い修正
方法。」
3審決の理由
別紙審決書写しのとおりである。要するに,特開平3−123834号公報
(以下「引用文献1」という。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」と
いう。)に,特開平10−206267号公報(以下「引用文献2」という。
甲2)に記載されている技術的事項を適用して,相違点に係る本願発明の構成
に想到することは当業者にとって容易である,というものである。
上記判断に際し,審決が認定した本願発明と引用発明との一致点及び相違点
は,以下のとおりである。
(1)一致点
「不釣合いを修正すべき被試験体の初期不釣合いを測定する第1の測定ステ
ップと,
第1の測定ステップで測定された不釣合いを修正する処理を前記被試験体
に対して行う第1の修正ステップと,
第1の修正ステップで不釣合いが修正された前記被試験体の残留不釣合い
を測定する第2の測定ステップと,
第2の測定ステップで測定された前記被試験体の残留不釣合いを修正する
処理を前記被試験体に対して行う第2の修正ステップと,
を有することを特徴とする高速回転機器のための2回修正による不釣合い修
正方法。」(審決書5頁19行∼28行)
(2)相違点
「本願発明では,『第2の測定ステップで測定された被試験体の残留不釣合
いを,第1の測定ステップで測定された初期不釣合いおよび第1の修正ステ
ップで実際に修正された修正量の比に基づいて補正する残留不釣合いの補正
ステップを有し,第2の修正ステップでは補正ステップで補正された残留不
釣合いを修正する処理を前記被試験体に対して行う』のに対し,引用発明に
おいては,『再測定結果を修正データとして前記被測定物の再修正を行
う』,すなわち,第2の測定ステップで測定された被試験体の残留不釣合い
を補正するステップを有しておらず,第2の修正ステップにて測定された再
測定結果をそのまま修正データとして残留不釣合いを再修正する処理を前記
被試験体に対して行う点」(審決書5頁30行∼6頁2行参照)。
第3当事者の主張
1取消事由に係る原告の主張
審決には,引用文献2の記載事項の認定等において,(1)N=1の場合を含
むとした認定の誤り,(2)2次測定結果をステップS6に用いず,ステップS
9に対して用いるとした認定の誤り,(3)同一回転供試体の2次修正に補正係
数及び補正角度を用いることが記載されている等と認定判断した誤りがある。
(1)N=1の場合を含むとした認定の誤り
審決は,「N個については,典型的にN=1の場合が含まれていることは
自明である。」(審決書6頁7行,8行)と認定した。
しかし,審決の上記認定は,誤りである。
アすなわち,引用文献2の段落【0011】には,「αの初期値は1,β
の初期値は0である。したがって,後述するように修正係数がN個算出さ
れるまでの間は,初期値1を用いて補正が行われるが,N個の修正係数が
算出された後はその平均値が修正係数αおよび修正角度βとして使用され
る。」(甲2,3頁3欄6行∼10行)と記載されているところ,この記
載のとおり,修正係数の平均値を不釣合い量の補正に使用するためには,
少なくとも2回以上の修正係数を算出することが不可欠であるから,N≠
1であり,N≧2であるものと理解される。
イまた,引用文献2には,「ステップS7で修正係数αnと修正角度βn
がN個算出されたと判定されるとステップS8で次式により,修正係数α
nと修正角度βnの平均値α,βを算出する。」(甲2,3頁3欄37行
∼40行),「これらの修正係数αnと修正角度βnがN個求まると式
(3),(4)により平均された修正係数αおよび修正角度βが算出され
る。」(甲2,3頁4欄36行∼39行)とも記載されている。
ところで,「平均値」とは「平均して得られた数値」(広辞苑)のこと
であり,「平均」とは「不揃いのないようにすること,ならすこと。」
(広辞苑)であるから,平均値α,βを算出するに当たっての「平均され
た修正係数αおよび修正角度βが算出される。」との記載は,平均される
値が複数個存在することを前提としたものであって,複数個の修正係数α
n及び修正角度βnの平均値を修正係数及び修正角度として求めていると
理解するのが自然である。引用文献2に記載された技術事項には,N≧1
が明示されていないのであるから,当業者であれば,文脈から,複数個の
αn,βnを算出した後,それらの平均値であるα及びβを求める(ステ
ップS7→S8)と合理的に理解することができるといえる。
ウこの点について,被告は,一般にN個を示すNを除数にした計算式の場
合,Nが1から始まる自然数を意味することは,計算機技術においては普
通のことであるとする。その一例として,特許第2659268号公報
(乙1)の請求項1には,「N(N≧1の整数)回ごとの平均遅延量を求
め」と記載されているが,「N≧1の整数」と「Nは1から始まる自然
数」は同値であることは明らかであり,このような例を参照すれば,引用
文献2においても同様に理解できると主張する。
しかし,引用文献1は,引用文献2において「Nは1であることを含
む」との事項が記載されていることを前提とするものではないから,被告
の主張は理由がない。
(2)2次測定結果をステップS6に用いず,ステップS9に対して用いると
した認定の誤り
審決は,引用文献2の記載事項について,「2次測定から2次修正までの
間の各ステップでは,2次測定結果(A2,θ2)は,ステップS9の『不
釣合い量A』および『不釣合い位置θ』に対して用いられるのであって,1
次測定結果を用いることが明示されているステップS6,即ち【数1】のA
およびθには用いられないことは明らかである。」(審決書6頁19行∼2
3行)と認定した。
しかし,上記審決の認定は,次のとおり,誤りである。
ア2次測定結果がステップS6に用いられないとした認定の誤り
(ア)まず,引用文献2記載の発明では,N個目までの回転供試体に対す
る1次修正前の不釣合測定結果である1次測定結果と,そのN個目まで
の回転供試体に対する1次修正後の不釣合測定結果である2次測定結果
とのベクトル差が求められ,そのベクトル差から修正不釣合い量A’及
び修正不釣合い位置θ’を算出するための補正係数α及び補正角度βが
求められる。この補正係数α及び補正角度βは,確かに,N個目までの
回転供試体の1次修正のための修正不釣合い量A’及び修正不釣合い位
置θ’の算出に用いられることはない。なぜなら,①補正係数α及び補
正角度βが求められるよりも前にN個目までの回転供試体に対する1次
修正が実行されているからである。また,②引用文献2の【図2】(別
紙「引用文献2【図2】」)のフローチャートのステップS10で「1
次修正済み?」が肯定されると,処理はステップS12以降へと進み,
N個目までの回転供試体に対する修正時に実行される当該フローチャー
トの処理は,1次修正を経ずに終了するからである。
しかし,N個目までの回転供試体の修正時に求められた補正係数α及
び補正角度βは,次の修正対象となるN+1個目以降の回転供試体の修
正のために【図2】のフローチャートが実行されたときに,そのN+1
個目以降の回転供試体の1次修正のための修正不釣合い量A’及び修正
不釣合い位置θ’の算出に用いられる。
(イ)そして,引用文献2の段落【0022】においては,「また以上の
実施の形態では,1次修正だけの場合について説明したが,2次修正ま
で行なうものにも本発明を適用できる。その場合,修正係数は1次測定
結果と2次測定結果のベクトル差に加えて2次測定結果と3次測定結果
のベクトル差を用いることができる。」と記載されているところ,1次
修正のための修正不釣合い量及び不釣合い位置の算出に加えて,2次修
正のための修正不釣合い量及び修正不釣合い位置を算出する場合,2次
修正のための修正不釣合い量及び修正不釣合い位置は,1次修正のため
の修正不釣合い量及び不釣合い位置の算出方法と同様の手法(ルーチ
ン)で算出されるものと考えられる。そうすると,N個目までの回転供
試体の2次修正前後の不釣合測定結果のベクトル差から,2次修正のた
めの補正係数及び補正角度が求められ,この補正係数及び補正角度は,
次の修正対象となるN+1個目以降の回転供試体の2次修正のための修
正不釣合い量及び修正不釣合い位置の算出に用いられることになる。こ
の2次修正のための補正係数及び補正角度を求めるには,上記のとおり
2次修正前後の不釣合い測定結果である2次測定結果を用いることが不
可欠であるから,2次測定結果がステップ6に用いられるといえる。
(ウ)したがって,2次測定から2次修正までの間において「2次測定結
果(A2,θ2)は,・・・1次測定結果を用いることが明示されてい
るステップS6,即ち【数1】のAおよびθには用いられない」とした
審決の上記認定は,誤りである。
イ2次測定結果をステップS9に対して用いるとした認定の誤り
また,引用文献2記載のステップS9においては,ステップS4で記憶
された1次測定結果の不釣合い量及び不釣合い位置θに対し,ステップS
8で算出された修正係数α及び修正角度βを用いた修正が行われる。ステ
ップS4で2次測定結果を記憶し,その2次測定結果A,θ(不釣合い
量,不釣合い位置)に対してステップS9で修正を行うというような被告
主張のステップは,引用文献2に記載されていない。したがって,「2次
測定結果(A2,θ2)は,ステップS9の『不釣合い量A』および『不
釣合い位置θ』に対して用いられる」とした審決の前記認定も,誤りであ
る。
(3)同一回転供試体の2次修正に補正係数及び補正角度を用いることが記載
されている等と認定し,相違点に係る本願発明の構成に容易に想到できたと
判断した点の誤り
審決は,①引用文献2には,2次修正時に,「修正不釣合い量A’を(A
1/Ad)・A2,修正不釣合い位置θ’をθ2+(θ1−θd)として求
めるステップ」が記載されていること(審決書6頁下から7行,6行)を前
提として,②「引用文献2記載の上記技術的事項の2次修正において用いら
れる『修正不釣合い量(A1/Ad)・A2』および『修正不釣合い位置θ
2+(θ1−θd)』は,本願発明の『第1の測定ステップで測定された初
期不釣合いおよび第1の修正ステップで実際に修正された修正量の比に基づ
いて補正』された『残留不釣合い』に相当する」(審決書7頁5行∼10
行)と認定し,③「引用発明1に,引用文献2記載の上記技術的事項・・・
を適用して,相違点に係る本願発明の構成」に想到することが容易であると
判断し(審決書7頁13行∼17行),④「本願明細書に記載された本願発
明の作用効果も,引用発明および上記技術的事項から当業者が予測できる範
囲のものであって,格別顕著なものとはいえない。」(審決書7頁18行∼
20行)と判断した。
しかし,審決の上記認定又は判断①ないし④は,いずれも誤りである。
アすなわち,仮に,引用文献2の段落【0022】の記載から,N個目ま
での回転供試体の2次修正時に求められた補正係数及び補正角度を,次の
修正対象となるN+1個目以降の回転供試体の2次修正のための修正不釣
合い量及び修正不釣合い位置の算出に用いることを読み取ったとしても,
N個目までの回転供試体の1次修正前後の不釣合測定結果から当該N個目
までの回転供試体に対する2次修正のための修正不釣合い量及び修正不釣
合い位置を求めることは全く記載されていないし,その示唆さえもない。
したがって,引用文献2に上記内容の記載があるとはいえない。
イまた,引用文献2においては,「【従来の技術】・・・【0003】・
・・一旦ワークの不釣り合いの修正を行った後,残留不釣り合いを検出し
て,最初の加工を行った部分を再度加工することによって,ワークの修正
を行っている。【0004】【発明が解決しようとする課題】そのため,
2次以上の修正作業が必要となり試験効率が悪い。そこで・・・図6のよ
うな特性から逆算すれば,1次修正だけで不釣合い修正作業を終了する確
率が高くなって試験効率が向上する。しかしながら,図6の特性を求める
にはかなりの時間を要するため,試験効率の改善が強く望まれている。
【0005】本発明の目的は,ワークの不釣り合いを修正するための修正
データを正確に生成することができる動釣合試験機を提供することにあ
る。」(甲2,2頁1欄17行∼2欄1行)と記載されているように,引
用文献2記載の発明は,原則として1次修正だけで不釣合い修正作業を終
了させることが目的であり,その1次修正のための修正データを正確に生
成する構成を提供するものである。
ウ引用文献2の【図2】(別紙「引用文献2【図2】」)のフローチャー
トの処理を概説すれば,次のようになる。1つ目の回転供試体は,S1→
S2→S3→S4→S9→S10→S11と処理が進み,1次測定及び1
次修正が行われた後,再びS1からS2→S3→S5→S6→S7→S8
→S9へと進み,S9で1次測定結果及び2次測定結果に基づいて1次測
定結果が修正される。その後,S10→S12→S13→S15→S16
へと処理が進む。つまり,1つ目の回転供試体は,2次測定の結果の不釣
合い量が所定値を超えていると2次修正をされることなく不良品として搬
出される。このことは,引用文献2において,「ステップS10で1次修
正済みであると判定されるとステップS12において,再度不釣合測定を
行ないステップS13で不釣合い量が所定値以下であり修正不要と判定さ
れればステップS14で良品として搬出し,不釣合い量が所定値を越えて

いればステップS15で不良品として搬出する。次いでステップS16で
所定個数の供試体が測定され修正されたと判定されれば,この処理を終了
し,そうでなければステップS1に戻って次の供試体について不釣合い測
定を行なう。」(甲2,3頁4欄1行∼10行)とされていることからも
明らかである。そして,例えば,N=3とした場合は,2つ目の回転供試
体及び3つ目の回転供試体も,1つ目の回転供試体と同じ処理をたどる。
1つ目から3つ目の回転供試体にとっては,ステップS9における不釣合
い量A及び不釣合い位置θの修正は,意味のない処理である。ステップS
9の修正は,たとえばN=3とした場合に,4つ目の回転供試体以降に対
する処理のために設けられたものである。4つ目の回転供試体は,ステッ
プS1→S2→S3→S4→S9と処理が行われ,ステップS9におい
て,それまでに処理された1つ目,2つ目,及び3つ目の回転供試体にお
ける各1次測定結果と各2次測定結果のベクトル差に基づいて算出された
修正係数α及び修正角度βによって,1次測定結果が補正される。そし
て,処理はS10→S11→S1→S2→S14→S16をめぐる。
つまり,引用文献2の【図2】に示されるフローチャートは,最初のN
個の回転供試体を犠牲にしても,ドリルやカッタ等の切削特性をその間に
把握して,N+1個めの回転供試体からは,1次修正だけで不釣合い修正
作業を終了させる確率を高くするための処理である。そのために,修正係
数α及び修正角度βを,犠牲とするN個の回転供試体の1次測定結果及び
2次測定結果に基づいて求めているのである。
エこれに対して,被告は,引用文献2の発明の詳細な説明「また以上の実
施の形態では,1次修正だけの場合について説明したが,2次修正まで行
なうものにも本発明を適用できる。」(段落【0022】)との記載を根
拠に,引用文献2の【図2】(別紙「引用文献2【図2】」)を,具体的
には,ステップS3を「1次測定」を判定するステップに代えて「2次測
定」を判定するステップとし,ステップS4を「1次測定結果θ,Aを記
憶」に代えて「2次測定結果を記憶」とし,ステップS5を「1次測定結
果と2次測定結果のベクトル差を算出する」に代えて「2次測定結果と3
次測定結果のベクトル差を算出する」とし,ステップS10を「1次修正
済み?」に代えて「2次修正済み?」とするフローチャートに変更し,そ
の変更したフローチャートに従って処理すると解釈することにより,同一
の回転供試体を2次修正することができ,2次修正まで行うものにも本発
明を適用できると主張する。
しかし,そのような解釈は,引用文献2の明示の記載に反しており,誤
りである。
オ以上のとおり,引用文献2記載の発明においては,N+1個目以降の回
転供試体の1次修正のための不釣合い量及び不釣合い位置の修正は,N+
1個目以降の回転供試体の1次修正のために用いられるのであって,N個
目までの回転供試体の2次修正のための不釣合い量及び不釣合い位置の修
正のために用いられるのではないから,引用文献2には,2次修正時に,
「修正不釣合い量A’を(A1/Ad)・A2,修正不釣合い位置θ’を
θ2+(θ1−θd)として求めるステップ」が記載されているとした審
決の認定は誤りである。
そうすると,上記ステップが引用文献2に記載されていることを前提と
して,①「修正不釣合い量(A1/Ad)・A2」及び「修正不釣合い位
置θ2+(θ1−θd)」は,本願発明の「第1の測定ステップで測定さ
れた初期不釣合いおよび第1の修正ステップで実際に修正された修正量の
比に基づいて補正」された「残留不釣合い」に相当するとし,②引用文献
2記載の発明を引用発明に適用して相違点に係る本願発明の構成に想到す
ることが容易であるとし,③本願発明の作用効果も格別顕著なものでない
とした審決の各判断も誤りであるということができ,それらの誤りは審決
の結論に影響を及ぼす。
2被告の反論
(1)N=1の場合を含むとした認定の誤りに対し
原告は,修正係数の平均値が不釣合い量の補正に使用されるためには,少
なくとも2回以上の修正係数の算出が不可欠であって,N≠1であり,N≧
2であると認められるから,N=1の場合が含まれていると認定した審決に
は誤りがあると主張する。
しかし,一般にN個を示すNを除数にした計算式の場合,Nは1から始ま
る自然数を意味することは計算機技術においては普通のことである。そし
て,引用文献2(甲2)においては,N個の平均値もN個を示すNを除数に
した計算式であるから,Nは1から始まる自然数を意味する。この点は,特
許第2659268号公報(乙1)の請求項1には,「・・・N(N≧1の
整数)回ごとの平均遅延量を求め」と記載がある例に照らしても,明らかで
ある。したがって,引用文献2(甲2)においても,最もシンプルなケース
としてN=1を想定することが可能である。
また,引用文献2(甲2)には,「【0005】本発明の目的は,ワーク
の不釣り合いを修正するための修正データを正確に生成することができる動
釣合試験機を提供することにある。」と記載され,「【0026】【発明の
効果】本発明によれば,前後2回の不釣合い測定の結果に基づいて修正補正
値を算出し,測定された不釣合いデータとその修正補正値により修正データ
を算出するようにしたので,修正効率が向上する。」と記載されているよう
に,修正データを正確に生成しようとするものであり,そのために,修正係
数と修正角度を求め,修正不釣合い量及び修正不釣合い位置を計算して修正
データを正確に生成し,正確に修正できるようにするものであるから,平均
値を必須としていないといえる。
したがって,「N個については,典型的にN=1の場合が含まれているこ
とは自明である」とした審決の認定に誤りはない。
(2)2次測定結果をステップS6に用いず,ステップS9に対して用いると
した認定の誤りに対し
原告は,引用文献2における「また以上の実施の形態では,1次修正だけ
の場合について説明したが,2次修正まで行なうものにも本発明を適用でき
る。その場合,修正係数は1次測定結果と2次測定結果のベクトル差に加え
て2次測定結果と3次測定結果のベクトル差を用いることができる。」との
記載(段落【0022】)等に照らせば,2次測定結果がN+1個目以降の
回転供試体の2次修正のための補正係数及び補正角度の算出に用いられるこ
とは明らかであるから,「2次測定結果(A2,θ2)は,・・・1次測定
結果を用いることが明示されているステップS6,即ち【数1】のA及びθ
には用いられない。」とした審決の認定は,誤りである,と主張する。
しかし,原告の上記主張は,次のとおり理由がない。すなわち,引用文献
2の【図2】のフローチャートは,段落【0022】において「また以上の
実施の形態では,1次修正だけの場合について説明したが,2次修正まで行
なうものにも本発明を適用できる。」と記載されているとおり,制御回路C
Uでの不釣合い計測及び1次修正のみではなく,2次修正の不釣合い修正処
理の手順をも示したものである。このフローチャートにおいて,1次修正に
加えて2次修正をも行う不釣合い修正処理の手順を,最もシンプルなN=1
の場合について詳述すると,次のとおりになる。
①ステップS1
1次測定(不釣合い量A1と不釣合い位置θ1を含む不釣合いデータ算
出)
②ステップS2
1次測定の不釣合い量A1が所定値以下か否かの判定
③ステップS3
1次測定か否かの判定。1次測定であるから,ステップS4へ。
④ステップS4
1次測定結果をメモリMに格納
⑤ステップS9
A’←α・A1
θ’←θ1+β
段落【0011】「・・・・・不釣合い量Aに修正係数αを乗じたものを
修正不釣合い量A’として記憶し,さらに,不釣合い位置θに修正角度βを
加算したものを修正不釣合い位置θ’として記憶する。αの初期値は1,β
の初期値は0である。」との記載から,修正不釣合い量A’がα・A1,す
なわち,A1となり,修正不釣合い位置θ’がθ1+β,すなわち,θ1と
なる。
⑥ステップS10
1次修正済みか否かの判定
⑦ステップS11
修正不釣合い量A’(=A1),修正不釣合い位置θ’(=θ1)にて1
次修正
⑧ステップS1
2次測定(不釣合い量A2と不釣合い位置θ2を含む不釣合いデータ算
出)
⑨ステップS2
2次測定の不釣合い量A2が所定値以下か否かの判定
⑩ステップS3
1次測定か否かの判定。1次測定ではないから,ステップS5へ。
⑪ステップS5
修正不釣合いベクトル(Ad,θd)=不釣合いベクトル(A1,θ1)
−不釣合いベクトル(A2,θ2)
⑫ステップS6
段落【0015】の記載「ステップS6に進むと,1次測定結果の不釣合
い量Aと不釣合い位置θに基づいて不釣合い量修正係数αnと不釣合い位置
修正角度βnを次式により算出する。
【数1】αn=A/Ad…(1)
βn=θ−θd…(2)」から,1個目の不釣合い量修正係数α1と
不釣合い位置修正角度β1が以下のように算出される。
α1=A1/Ad
β1=θ1−θd
⑬ステップS7
段落【0016】の「ステップS7で修正係数αnと修正角度βnがN個
算出されたと判定されるとステップS8で次式により,修正係数αnと修正
角度βnの平均値α,βを算出する。」の記載から,N=1の場合にはこの
段階でN個算出されたこととなるからステップS8へ。
⑭ステップS8
N=1であるから
α=α1
β=β1
⑮ステップS9
段落【0011】の記載「・・・・・修正係数がN個算出されるまでの間
は,初期値1を用いて補正が行なわれるが,N個の修正係数が算出された後
はその平均値が修正係数αおよび修正角度βとして使用される。」から,こ
の段階では既にN=1個の修正係数が算出されているのであるから,修正係
数α及び修正角度βは初期値(1,0)ではなく,ステップS6にて算出さ
れた修正係数α及び修正角度βが用いられることとなる。よって,α=α1
=A1/Ad,β=β1=θ1−θdである。
そして,この段階での供試体の(不釣合い量,不釣合い位置)は,2次測
定結果の(A2,θ2)であり,これに対して修正を行うのであるから,ス
テップS4に対応する「2次測定結果θ,Aを記憶」というステップが明記
されていないものの,該ステップを行うことは,技術常識である。よって,
修正不釣合い量A’がα・A2,すなわち,(A1/Ad)・A2となり,
修正不釣合い位置θ’がθ2+β,すなわち,θ2+(θ1−θd)とな
る。
⑯ステップS10
ここでは,1次修正に加えて2次修正を行う不釣合い修正処理であるか
ら,「1次修正済み?」ではなく「2次修正済み?」を判定することなり,
2次修正済みではないからステップS11へ進む。すなわち,1次修正に加
えて2次修正を行うのであれば,ステップS10から分岐した1回目の修正
であるステップS11での1次修正と同様に,2回目のステップS10から
分岐した2回目の修正であるステップS11での修正を2次修正とするの
が,ステップS10から分岐してステップS11で修正処理を行う論理の流
れから自然である。また,上記フローの2回目のステップS9では,最新の
補正値として2次修正のための修正不釣合い量及び修正不釣合い位置が計算
されているのであるから,最新の補正値を用いてステップS11で修正をす
るということになり技術的にも自然であるので,当業者ならそのように解釈
する。
⑰ステップS11
修正不釣合い量A’(=(A1/Ad)・A2),修正不釣合い位置θ’
(=θ2+(θ1−θd))により2次修正を行う。
⑱ステップS1
3次測定(不釣合い量A3と不釣合い位置θ3を含む不釣合いデータ算
出)
⑲ステップS2
3次測定の不釣合い量A3が所定値以下か否かの判定
⑳ステップS14
良品として搬出
以上①ないし⑳のようにN=1の場合,2次測定結果と3次測定結果のベ
クトル差は,1つ目のワーク(回転供試体)の2次修正の後で計算されるの
で,2次修正までの不釣合い修正では2次測定結果と3次測定結果のベクト
ル差は,そのワークの修正には用いられない。このことは,1次測定結果と
2次測定結果のベクトル差は,1つ目のワークの1次修正の後で計算される
ので,1次修正のみの不釣合い修正では1次測定結果と2次測定結果のベク
トル差は,そのワークの修正には用いられないことと対応している。
また,上記1回目のステップS9では,「修正不釣合い量A’」と「修正
不釣合い位置θ’」を算出するための「不釣合い量A」及び「不釣合い位置
θ」に対して1次測定結果(A1,θ1)が用いられるのと同様に,上記2
回目のステップS9では「修正不釣合い量A’」と「修正不釣合い位置θ
’」を算出するための「不釣合い量A」及び「不釣合い位置θ」に対して2
次測定結果(A2,θ2)が用いられることは,明らかである。
一方,ステップS6の実行は,2次修正前には1度しかなく,このときの
【数1】のA及びθとしては1次測定結果(A1,θ1)が用いられ,2次
測定結果(A2,θ2)が用いられるのではない。2次測定結果(A2,θ
2)は,1次測定結果(A1,θ1)との差である(Ad,θd)の算出に用
いられる。
このように,ステップS6とステップS9では,数式は同じA及びθにて
表現されているが,ステップS6のA及びθと,ステップS9のA及びθは
同一のものを意味しているわけではない。審決における,上記「2次測定結
果(A2,θ2)は,ステップS9の『不釣合い量A』及び『不釣合い位置
θ』に対して用いられる」との記載部分は,上記のような意味と理解される
べきである。
また,段落【0022】の記載,すなわち「その場合,修正係数は1次測
定結果と2次測定結果のベクトル差に加えて2次測定結果と3次測定結果の
ベクトル差を用いることができる。」は,修正係数の個数Nが2以上の場合
を想定した記載である。なお,該記載は,修正係数の個数N=1の場合が想
定されないことを意味していないし,「2次修正のための補正係数」,すな
わち「2次修正のための修正係数」が「1次修正のための修正係数」とは別
に必ず算出されることまでを意味していない。そして,修正係数の個数Nが
2以上の場合には,上記「ステップS9」で述べたように,段落【001
1】の記載「・・・・・修正係数がN個算出されるまでの間は,初期値1を
用いて補正が行なわれる・・・・・」から,2次修正における修正係数α及
び修正角度βは初期値(1,0)となり,2次測定結果と3次測定結果のベ
クトル差を用いることにより【数1】に基づいて,α2及びβ2が独立した
値としてα1,β1に追加されることを意味しているのであり,審決の認定
判断に影響するものではない。
したがって,「2次測定結果(A2,θ2)は,・・・1次測定結果を用
いることが明示されているステップS6,即ち【数1】のAおよびθには用
いられない」とした審決の認定に誤りはない。
(3)同一回転供試体の2次修正に補正係数及び補正角度を用いることが記載
されている等と認定判断した誤りに対し
原告は,引用文献2には,N個目までの回転供試体の1次修正前後の不釣
合測定結果から当該N個目までの回転供試体の2次修正のための修正不釣合
い量及び修正不釣合い位置を求めることは全く記載されていないし,その示
唆さえもないから,審決が,①引用文献2にその旨が記載されているとした
こと,したがって,②引用文献2記載の2次修正における「修正不釣合い量
(A1/Ad)・A2」及び「修正不釣合い位置θ2+(θ1−θd)」
は,本願発明の「第1の測定ステップで測定された初期不釣合いおよび第1
の修正ステップで実際に修正された修正量の比に基づいて補正」された「残
留不釣合い」に相当するとしたこと,そして,③引用発明1に,引用文献2
記載の上記技術的事項を適用して相違点に係る本願発明の構成に想到するこ
とが容易であるとしたこと,さらに,④本願発明の作用効果も,格別顕著な
ものではないとしたことは,いずれも誤りであると主張する。
しかし,原告の上記主張は,次のとおり理由がない。
アすなわち,「2次修正」については,引用文献2の【従来技術】として
「【0003】・・・初期不釣り合いが例えば800mgであり,残留不
釣り合いの規格値が100mgである場合,初期不釣り合いのみ修正した
のでは,残留不釣り合いが100mg以上となるため,ワークの不釣り合
いが規格値内に納まらず,動釣合試験においてワークが不合格となる確率
が高い。このため,一旦ワークの不釣り合いの修正を行った後,残留不釣
り合いを検出して,最初の加工を行った部分を再度加工することによっ
て,ワークの修正を行っている。」と記載されている。そして,初期不釣
合いの測定が,N個目までの回転供試体の1次修正前の不釣合測定であ
り,残留不釣合を検出することは,N個目までの回転供試体の1次修正後
の不釣合測定である。よって,N個目までの回転供試体の1次修正前後の
不釣合測定結果から当該N個目までの回転供試体の2次修正のための不釣
合い量及び不釣合い位置を求めることは,引用文献2に記載されていると
いえる。すなわち,「2次修正」とは,同一の回転供試体に対して1次修
正後,更に修正を施すことであって,その際に,前の修正の結果を考慮
(学習)して後の修正を実施するようにすることは,技術者である当業者
にとって技術常識であるといえる(例えば,引用文献1の【作用】参
照。)。前の修正の結果を考慮(学習)して後の修正を実施することは,
同一の回転供試体についての修正においても,また,N個目までの回転供
試体での修正後にN+1個目以降の回転供試体を修正する場合にもあては
まる。そして,1次修正の結果を具体的に,どの様に,どの程度考慮する
かが,当業者にとっての技術思想,すなわち,「発明」となる。
イそして,引用文献2は,「【0005】本発明の目的は,ワークの不釣
り合いを修正するための修正データを正確に生成することができる動釣合
試験機を提供することにある。」と記載しているように,修正データを正
確に生成しようとするものであり,そのために,修正係数と修正角度を求
め,修正不釣合い量及び修正不釣合い位置を計算して修正データを正確に
生成し,正確に修正できるようにする技術思想を開示しているものであ
る。
一方,引用文献2には,主として,複数のワーク(回転供試体)の修正
結果から修正係数αとβを平均値として算出し,他のワーク(回転供試
体)の修正に反映させる技術が記載されているものの,その段落【002
2】には「また以上の実施の形態では,1次修正だけの場合について説明
したが,2次修正まで行なうものにも本発明を適用できる。その場合,修
正係数は1次測定結果と2次測定結果のベクトル差に加えて2次測定結果
と3次測定結果のベクトル差を用いることができる。」と記載されている
のであるから,同一のワーク(回転供試体)に対して1次修正後,更に修
正を施すことも記載されていることが明らかである。そして,これらの修
正において,最もシンプルな場合として,N=1の場合が想定され得るこ
とは前記のとおりであり,その際に,1次修正結果が「α=α1=A1/
Ad,β=β1=θ1−θd」という修正値として2次修正に反映させる
こと(前記ステップS9)は,前述したとおりである。
そして,引用文献2では,最もシンプルなケースとしてN=1の場合,
最初の回転供試体に対する最初の修正(前記ステップS11)では,回転
供試体に対する測定が初めてであるので,補正のための情報がその測定値
以外に存在せず,不釣合い量修正係数α=1(初期値),不釣合い位置修
正角度β=0(初期値)である。
したがって,不釣合い量と不釣合い位置をそのまま修正データとして用
いるので,修正データを正確に生成し,正確に修正できるようにする上記
技術思想は,最初の回転供試体に対する1次修正では用いられていない。
そして,2次修正のための修正不釣合い量及び修正不釣合い位置は上記
「ステップS9」にて述べたように,計算しており,この計算は,修正デ
ータを正確に生成し,正確に修正できるようにする上記技術思想に則って
おり,2次修正においてそれを実現している。
また,引用文献2の段落【0022】の記載は,1次修正時に求められ
た修正係数と2次修正時に求められた修正係数とを,独立した修正係数と
して取扱うことまでを意味せず,該2つの修正係数から平均値を算出する
ことを意味すると解される。そして,「・・・用いることができる。」と
記載され「・・・用いる。」とまでは記載されていない。してみると,
「・・・・・2次測定結果と3次測定結果のベクトル差」から2次修正結
果を反映した修正係数を算出することを必須としていないといえる。つま
り,1次修正に加えて2次修正を行う不釣合い修正処理において,N=1
の場合を排除していない。
したがって,N個目までの回転供試体の1次修正前後の不釣合測定結果
から当該N個目までの回転供試体の2次修正のための修正不釣合い量及び
修正不釣合い位置を求めることは記載されており,引用文献2に「修正不
釣合い量A’を(A1/Ad)・A2,修正不釣合い位置θ’をθ2+
(θ1−θd)として求めるステップ」が記載されているとした審決の判
断に誤りはない。また,その判断を前提とした容易想到性及び作用効果等
に係る審決の判断にも,誤りはない。
第4当裁判所の判断
当裁判所は,審決には,引用文献2の記載事項の認定等において,(1)N=
1の場合を含むとした認定の誤り,(2)2次測定結果をステップS6に用い
ず,ステップS9に対して用いるとした認定の誤り,(3)同一回転供試体の2
次修正に補正係数及び補正角度を用いることが記載されている等と認定判断し
た誤りがあると判断する。以下,その理由を述べる。
1N=1の場合を含むとした認定の誤りについて
審決は,引用文献2記載の技術的事項について,「N個については,典型的
にN=1の場合が含まれていることは自明である。」(審決書6頁7行,8
行)と認定した。
しかし,審決の上記認定は,次のとおり誤りである。
(1)引用文献2の記載
引用文献2には,次のような記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,計測した不釣り合いを修正するための
修正データを生成する動釣合試験機に関する。
【0002】
【従来の技術】動釣合試験機は,ワークを回転するモータと,ワークの基準
角度位置を検出する基準角度センサと,ワークの不釣り合いを検出する不釣
り合い検出センサと,不釣り合い検出センサからの信号に基づいて不釣り合
いを演算し,基準角度センサからの信号に基づいて不釣り合いの位置を基準
角度からの角度位置として演算する演算回路とを備えている。検出された不
釣り合いはミーリングカッタなどによりワークの表面を切削することにより
修正される。
【0003】このような動釣合試験機においては,装置やワークの寸法誤差
などによって,不釣り合いの修正後の残留不釣り合いと初期不釣り合いとの
比である縮小率が6/1程度である。このため,初期不釣り合いが例えば8
00mgであり,残留不釣り合いの規格値が100mgである場合,初期不
釣り合いのみ修正したのでは,残留不釣り合いが100mg以上となるた
め,ワークの不釣り合いが規格値内に納まらず,動釣合試験においてワーク
が不合格となる確立が高い。このため,一旦ワークの不釣り合いの修正を行
った後,残留不釣り合いを検出して,最初の加工を行った部分を再度加工す
ることによって,ワークの修正を行っている。
【0004】【発明が解決しようとする課題】そのため,2次以上の修正作
業が必要となり試験効率が悪い。そこで,ドリルやカッタなどの切削工具の
切削深さと不釣合い量との関係を予め正確に測定して図6のような特性を求
めておき,計測された不釣合いを修正するための切削深さを図6のような特
性から逆算すれば,1次修正だけで不釣合い修正作業を終了する確立が高く
なって試験効率が向上する。しかしながら,図6の特性を求めるにはかなり
の時間を要するため,試験効率の改善が強く望まれている。
【0005】本発明の目的は,ワークの不釣り合いを修正するための修正デ
ータを正確に生成することができる動釣合試験機を提供することにある。
【0006】【課題を解決するための手段】本発明は,回転供試体の不釣り
合いを検出して不釣り合いデータを取得し,その不釣り合いデータを修正す
るための修正データを生成する動釣合試験機に適用され,検出された供試体
の不釣合いデータと,その不釣合いデータに応じて修正した後の供試体の不
釣合いデータとに基づいて修正補正値を算出し,検出された不釣合いデータ
を修正補正値で補正して修正データを算出する算出手段を具備するものであ
る。
【0007】
【発明の実施の形態】
・・・
【0011】ステップS3で第1回目の測定(1次測定)と判定されるとス
テップS4に進み,1次測定結果である不釣合い量Aと不釣合い位置θを制
御回路CUのメモリMに格納する。不釣合い位置θとは,供試体の角度原点
から不釣合いが存在する位置までの角度で表される。ステップS4に続いて
ステップS9に進む。ステップS9では,不釣合い量Aに修正係数αを乗じ
たものを修正不釣合い量A’として記憶し,さらに,不釣合い位置θに修正
角度βを加算したものを修正不釣合い位置θ’として記憶する。αの初期値
は1,βの初期値は0である。したがって,後述するように修正係数がN個
算出されるまでの間は,初期値1を用いて補正が行われるが,N個の修正係
数が算出された後はその平均値が修正係数αおよび修正角度βとして使用さ
れる。」
「【0015】ステップS6に進むと,1次測定結果の不釣合い量Aと不釣
合い位置θに基づいて不釣合い量修正係数αnと不釣合い位置修正角度βn
を次式により算出する。
【数1】αn=A/Ad・・・(1)
βn=θ−θd・・・(2)
【0016】ステップS7で修正係数αnと修正角度βnがN個算出された
と判定されるとステップS8で次式により,修正係数αnと修正角度βnの
平均値α,βを算出する。
【0017】
N
【数2】

α=―――−Σαn・・・(3)
n=1N
N1
β=―――Σβn・・・(4)
n=1N
【0018】その後,上述したとおりステップS9において,修正不釣合い
量A’と修正不釣合い位置θ’を算出してステップS10へ進む。ステップ
S10で1次修正済みであると判定されるとステップS12において,再度
不釣合い測定を行ないステップS13で不釣合い量が所定値以下であり修正
不要と判定されればステップ14で良品として搬出し,不釣合い量が所定値
を越えていればステップS15で不良品として搬出する。次いでステップS

16で所定個数の供試体が測定され修正されたと判定されれば,この処理を
終了し,そうでなければステップS1に戻って次の供試体について不釣合測
定を行なう。」
「【0021】そして,1次修正後の供試体に対して2次測定を行ない,1
次および2次の不釣合い測定結果の差ベクトル(Ad,θd)を算出し,式
(1),(2)から修正係数αnと修正角度βnを求める。これらの修正係
数αnと修正角度βnがN個求まると式(3),(4)により平均された修
正係数αおよび修正角度βが算出される。
【0022】また以上の実施形態では,1次修正だけの場合について説明し
たが,2次修正まで行なうものにも本発明を適用できる。その場合,修正係
数は1次測定結果と2次測定結果のベクトル差に加えて2次測定結果と3次
測定結果のベクトル差を用いることができる。」
「【0026】
【発明の効果】本発明によれば,前後2回の不釣合い測定の結果に基づいて
修正補正値を算出し,測定された不釣合いデータとその修正補正値により修
正データを算出するようにしたので,修正効率が向上する。」
(2)判断
引用文献2には,以下のとおりの趣旨が記載されている。従来の技術にお
いては,装置やワーク(回転供試体)の寸法誤差などにより初期不釣合いの
修正後に2次以上の修正作業を行うことが必要であり,試験効率が悪いとい
う課題があったが,その課題を解決するため,引用文献2記載の発明は,最
初のN個の回転供試体の1次測定結果及び2次測定結果のベクトル差に基づ
いてN個の修正係数及び修正角度を取得し,その平均値を用いて,ドリルや
カッタ等の切削特性をも折り込んだ上で適切な補正係数及び補正角度を取得
し,N+1個目の回転供試体からは,その平均化された補正係数及び補正角
度による修正のみによって不釣合い量を所定値内に抑え,不釣合い修正作業
を早く終了させ,試験効率(修正効率)を改善させようとするものである。
前記引用文献2では,「平均値α,βを算出する」との記載や「平均され
た修正係数αおよび修正角度βが算出される。」との記載中に「平均」との
文言が用いられていることに照らすならば,平均値を求める基礎となる「修
正係数」や「修正角度」が複数存在することを前提としているといえる。引
用文献2記載の技術事項は,その複数の修正係数αn及び修正角度βnの平
均値を補正係数及び補正角度とするものであるから,N≧2であることを所
与の事項としているものと解される。
これに対して,被告は,「一般にN個を示すNを除数にした計算式の場
合,Nは1から始まる自然数を意味することは計算機技術においては普通の
ことである。」との理由や,特許第2659268号公報(乙1)の請求項
1には,「・・・前記復号化フレームN(N≧1の整数)回ごとの平均遅延
量を求め」と記載されている例があるとの理由から,引用文献2記載の発明
においてN=1を含むと理解すべきであると主張する。
しかし,引用文献2におけるNがN=1の場合を含むとの理解は,引用文
献2に記載された前記課題解決のための原理,すなわち最初のN個の修正係
数及び修正角度の平均値を用いて適切な補正係数及び補正角度を取得し,N
+1個目からはその補正係数及び補正角度による修正のみによって不釣合い
量を所定値内に抑え,試験効率(修正効率)を改善させようとする技術思想
と相容れない解釈であるから,採用することができない。
22次測定結果をステップS6に用いず,ステップS9に対して用いるとした
認定の誤りについて
審決は,引用文献2の記載事項について,「2次測定から2次修正までの間
の各ステップでは,2次測定結果(A2,θ2)は,ステップS9の『不釣合
い量A』および『不釣合い位置θ』に対して用いられるのであって,1次測定
結果を用いることが明示されているステップS6,即ち【数1】のAおよびθ
には用いられないことは明らかである。」(審決書6頁19行∼23行)と認
定した(別紙「引用文献2【図2】」参照)。
しかし,上記審決の認定は,次のとおり,誤りである。
(1)2次測定結果がステップS6に用いられないとした認定について
引用文献2の発明では,N個目までの回転供試体の1次修正時に求められ
た修正係数α及び修正角度βは,N+1個目以降の回転供試体の1次修正の
ために別紙「引用文献2【図2】」のフローチャートが実行されたときに,
そのN+1個目以降の回転供試体の1次修正のための修正不釣合い量A’及
び修正不釣合い位置θ’の算出に用いられる。
そして,「また以上の実施の形態では,1次修正だけの場合について説明
したが,2次修正まで行なうものにも本発明を適用できる。その場合,修正
係数は1次測定結果と2次測定結果のベクトル差に加えて2次測定結果と3
次測定結果のベクトル差を用いることができる。」(段落【0022】)と
の記載によれば,N個目までの回転供試体の2次修正前後の不釣合測定結果
のベクトル差から,2次修正のための補正係数及び補正角度が求められ,こ
の補正係数及び補正角度は,次の修正対象となるN+1個目以降の回転供試
体の2次修正のための修正不釣合い量及び修正不釣合い位置の算出に用いら
れるものと理解され,このN+1個目以降の回転供試体の2次修正のための
補正係数及び補正角度を求めるには,上記のとおりN個目までの回転供試体
の2次修正前後の不釣合い測定結果である2次測定結果を用ることが必要不
可欠であるから,2次測定結果はステップ6に用いられるものであるといえ
る。
したがって,2次測定から2次修正までの間において「2次測定結果(A
2,θ2)は,・・・1次測定結果を用いることが明示されているステップ
S6,即ち【数1】のAおよびθには用いられない」とした審決の上記認定
は,誤りである。
この点について,被告は,N=1の場合には,ステップS6の実行は,2
次修正前には1度しかなく,このときの【数1】のA及びθとしては1次測
定結果(A1,θ1)が用いられ,2次測定結果(A2,θ2)が用いられ
ない旨主張する。
しかし,前記のとおり,引用文献2記載の発明においては,N=1の場合
を含まないのであり,被告の上記主張は,その前提において誤りがあるか
ら,採用することができない。
(2)2次測定結果をステップS9に対して用いるとした認定について
ア引用文献2記載のステップS9においては,別紙「引用文献2【図
2】」記載のとおり,ステップS4で記憶された1次測定結果の不釣合い
量及び不釣合い位置θに対して,ステップS8で算出された修正係数α及
び修正角度βを用いた修正が行われる。
イこの点について,被告は,当業者の技術常識をもってすれば,ステップ
S4で2次測定結果を記憶し,その2次測定結果A,θ(不釣合い量,不
釣合い位置)に対してステップS9で修正を行うことが理解可能である旨
主張する。しかし,被告のような理解は,前記課題解決のための技術思想
と相容れないし,また【図2】の明示の記載にも反することになるので,
採用の限りでない。したがって,「2次測定結果(A2,θ2)は,ステ
ップS9の『不釣合い量A』および『不釣合い位置θ』に対して用いられ
る」とした審決の前記認定も,誤りである。
また,被告は,①N=1の場合を含むことを前提すべきであること,②
2回目のステップS9では「修正不釣合い量A’」と「修正不釣合い位置
θ’」を算出するための「不釣合い量A」及び「不釣合い位置θ」に対し
て2次測定結果(A2,θ2)が用いられることが明らかであること,③
ステップS6とステップS9では,数式は同じA及びθにて表現されてい
るものの,ステップS6のA及びθと,ステップS9のA及びθは同一の
ものを意味するわけではないと解すべきであることを理由として,審決が
「2次測定結果(A2,θ2)は,ステップS9の『不釣合い量A』及び
『不釣合い位置θ』に対して用いられる」と認定した点に誤りはないと主
張する。
しかし,被告の上記主張は,以下のとおり理由がない。まず,同主張
は,N=1の場合を含むとしている点で,その前提において採用できな
い。また,同主張は,別紙「引用文献2【図2】」では,「ステップS
6」と「ステップS9」は,いずれも「A」,「θ」と記載されているに
もかかわらず,その記載が同一である点を全く無視して,ステップS6で
は,1次測定の結果を意味し,ステップS9では,2次測定の結果を意味
するものとの技巧的な解釈をしてみたり,引用文献2の【図2】の明示の
記載に反して,S4の1次測定結果θ,Aを記憶を2次測定結果θ,Aを
記憶であると読み替えをしている点で,合理的な解釈を逸脱していると評
価すべきであるから,同主張を採用することはできない。
3同一回転供試体の2次修正に補正係数及び補正角度を用いることが記載され
ている等との認定について
審決は,①引用文献2には,2次修正時に,「修正不釣合い量A’を(A1
/Ad)・A2,修正不釣合い位置θ’をθ2+(θ1−θd)として求める
ステップ」が記載されていること(審決書6頁下から7行,6行)を前提とし
て,②「引用文献2記載の上記技術的事項の2次修正において用いられる『修
正不釣合い量(A1/Ad)・A2』および『修正不釣合い位置θ2+(θ1
−θd)』は,本願発明の『第1の測定ステップで測定された初期不釣合いお
よび第1の修正ステップで実際に修正された修正量の比に基づいて補正』され
た『残留不釣合い』に相当する」(審決書7頁5行∼10行)と認定し,③
「引用発明1に,引用文献2記載の上記技術的事項・・・を適用して,相違点
に係る本願発明の構成」に想到することが容易であると判断し(審決書7頁1
3行∼17行),④「本願明細書に記載された本願発明の作用効果も,引用発
明および上記技術的事項から当業者が予測できる範囲のものであって,格別顕
著なものとはいえない。」(審決書7頁18行∼20行)と判断した。
しかし,審決の上記認定又は判断①ないし④は,いずれも誤りである。
(1)前記のとおり,引用文献2記載の発明は,最初のN個の回転供試体の修
正係数及び修正角度の平均値を用いることにより,ドリルやカッタ等の切削
特性をも折り込んだ上での適切な補正係数及び補正角度を取得し,N+1個
目の回転供試体からは,その補正係数及び補正角度を用いた修正のみによっ
て不釣合い修正作業を早く終了させ,試験効率(修正効率)を改善させよう
とするものである。したがって,引用文献2には,N個目までの回転供試体
の1次修正前後の不釣合測定結果から当該N個目までの回転供試体に対する
2次修正のための修正不釣合い量及び修正不釣合い位置を求めることについ
て,何らの記載もなく,示唆がされているともいえない。
(2)これに対して,被告は,引用文献2の発明の詳細な説明における段落
【0022】に「また以上の実施の形態では,1次修正だけの場合について
説明したが,2次修正まで行なうものにも本発明を適用できる。その場合,
修正係数は1次測定結果と2次測定結果のベクトル差に加えて2次測定結果
と3次測定結果のベクトル差を用いることができる。」と記載されているこ
とを根拠にして,当業者であれば,初期不釣合い及び第1のステップで実際
に修正された修正量の比に基づいて補正された残留不釣合いを用いて同一回
転供試体に対する2次修正を行うことが記載されていると理解し得る旨主張
する(前記第3,2(2)[13頁∼18頁]参照)。
しかし,被告の上記主張は採用することができない。
ア前記のとおり,引用文献2記載の発明における課題解決のための技術思
想の特徴は,最初のN個目までの修正から得られた修正係数及び修正角度
の平均を用いて,適切な補正係数及び補正角度を獲得し,N+1個目から
はその補正係数及び補正角度による修正のみによって不釣合い量を所定値
内に抑えるものであって,2回目までの修正を行う場合にも,1回目と同
様の手順で2回目までの補正係数及び補正角度を算出するものである。
段落【0022】における「2次修正まで行なうものにも本発明を適用
できる。」との記載部分は,これに続く「その場合,修正係数は1次測定
結果と2次測定結果のベクトル差に加えて2次測定結果と3次測定結果の
ベクトル差を用いることができる。」と記載部分を併せて読むならば,N
個目までの回転供試体の2次測定結果と3次測定結果のベクトル差の平均
から獲得した2次修正用の補正係数及び補正角度をもって,N+1個目以
降の回転供試体の2次修正を行い,2回の修正をもって不釣合い量を所定
値内に抑えて試験効率(修正効率)を改善させることを意味するものであ
ると理解するのが自然な解釈である。
被告は,引用文献2には,「同一回転供試体の不釣合いを2回の修正で
仕上げる際に1回目は補正数値を用いずに修正を行い,この1回目の修正
から算出された補正数値をもって2回目の修正を行い,残留不釣合いを極
めて小さい数値にする」という発明の技術思想も開示されていると解すべ
きであると主張する。しかし,「2次修正まで行なうものにも本発明を適
用できる。」との記載部分のみを根拠として,引用文献2記載の発明の技
術思想を,上記のようにn=1の場合も含めて広く理解することは,引用
文献2の発明の前記技術思想の特徴と整合を欠く理解であって賛同できる
ものではない。
イ仮に,被告が主張するように,引用文献2の「2次修正まで行なうもの
にも本発明を適用できる。」との記載部分を「初期不釣合い及び第1のス
テップで実際に修正された修正量の比に基づいて補正された残留不釣合い
を用いて同一回転供試体に対する2次修正を行うこと」の意味と理解した
とするならば,「2次測定結果」と「2次修正が終了した後になって初め
て測定される3次測定結果」のベクトル差を,同一回転供試体の2次修正
のために用いることは,想定できないから,引用文献2の「その場合,修
正係数は1次測定結果と2次測定結果のベクトル差に加えて2次測定結果
と3次測定結果のベクトル差を用いることができる。」との記載を合理的
に理解することが不可能になる。したがって,被告の主張は,採用するこ
とができない。
この点について,被告は,段落【0022】の後半部分の記載は,修正
係数の個数Nが2以上の場合,すなわちN+1個目以降の回転供試体の2
次修正のための記載であると主張する。しかし,被告の主張は,「その場
合,」との文言を無視した恣意的な解釈であるから,採用の限りでない。
(3)以上によれば,引用文献2には,2次修正時に,「修正不釣合い量A’
を(A1/Ad)・A2,修正不釣合い位置θ’をθ2+(θ1−θd)と
して求めるステップ」(N個目までの回転供試体の1次修正前後の不釣合測
定結果から当該N個目までの回転供試体に対する2次修正のための修正不釣
合い量及び修正不釣合い位置を求めること)が記載されているとした審決の
認定は誤りである。
そうすると,上記ステップが引用文献2に記載されていることを前提とし
た審決の各判断,すなわち,①「修正不釣合い量(A1/Ad)・A2」及
び「修正不釣合い位置θ2+(θ1−θd)」は,本願発明の「第1の測定
ステップで測定された初期不釣合いおよび第1の修正ステップで実際に修正
された修正量の比に基づいて補正」された「残留不釣合い」(同一回転供試
体に対する2次修正用の補正係数及び補正角度)に相当するとした判断,②
引用文献2記載の発明を引用発明に適用して相違点に係る本願発明の構成に
想到することが容易であるとした判断,③本願発明の作用効果も格別顕著な
ものでないとした判断は,いずれも誤りであるということができ,それらの
誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるといえる。
4結論
以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由があり,原告の本訴請求
は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
大須賀滋
裁判官
齊木教朗
(別紙)引用文献2【図2】

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