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令和3年2月4日判決言渡
令和2年(ネ)第10020号発信者情報開示請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和元年(ワ)第19689号)
口頭弁論終結日令和2年12月9日
判決5
控訴人X
同訴訟代理人弁護士遠山光貴
被控訴人ソフトバンク株式会社10
同訴訟代理人弁護士五十嵐敦
小林央典
平龍大
主文15
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。20
2被控訴人は,原判決別紙発信者情報目録1記載の各情報を開示せよ。
3被控訴人は,原判決別紙発信者情報目録2記載の各情報を開示せよ。
4被控訴人は,原判決別紙発信者情報目録3記載の各情報を開示せよ。
第2事案の概要等
1事案の概要25
(以下において略称を用いるときは,別途定めるほか,原判決に同じ。)
本件は,控訴人が,氏名不詳者によりインターネット上のウェブサイトに投
稿された本件投稿動画は,控訴人が著作権を有する「控訴人動画」(原判決に
おける「原告動画」)と同一であり,同氏名不詳者の本件投稿行為は,控訴人
動画に係る控訴人の公衆送信権又は送信可能化権を侵害するものであることが
明らかであると主張して,本件投稿行為に係る経由プロバイダであると主張す5
る被控訴人に対し,法4条1項に基づき,本件投稿動画が投稿されたウェブサ
イトに,投稿者と同じユーザIDで最後にログインした者(最終ログイン者。
なお,このログインを「最終ログイン」という。)に関する本件各発信者情報
の開示を求めた事案である。
原判決は,本件各発信者情報は法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者10
情報」に該当しないとして,控訴人の請求をいずれも棄却したところ,控訴人
が控訴を提起した。なお,控訴人は,当審において,侵害されたとする権利に
ついて,控訴人動画の静止画像(甲2-1-2。以下「控訴人画像」という。)
に係る公衆送信権,氏名表示権及び同一性保持権を追加した。
2前提事実15
⑴控訴人は,平成29年6月25日,控訴人動画を「家畜道」というインタ
ーネット上のウェブサイトに投稿した(甲2-1-1,2-1-3,7)。
控訴人動画の再生時間は1分48秒である(甲2-1-1,2-1-3)。
控訴人画像は,控訴人動画の冒頭の一コマである(甲2-1-2)。
⑵氏名不詳者(ユーザ名A)は,平成29年8月23日午前3時38分(協20
定世界時),本件投稿行為をした(甲2-2-1,2-2-2,3)。
本件投稿動画は,ユーザ名Aの紹介ページから見ることができる状態にあ
りそのサムネイル画像(動画の冒頭部分だけを静止画像とし,控訴人動画の
内容が分かるようにしたもの。)には,控訴人画像がトリミングされたもの
(甲2-1-2,2-2-1。以下「本件サムネイル画像1」という。)と,25
控訴人画像がトリミングされた上,画像が暗くなり,かつ,その上には錠前
様のアイコンが配置されている状態であるもの(甲22の1。以下「本件サ
ムネイル画像2」という。)がある。
⑶本件サイトに動画をアップロードするためには,メールアドレス,ユーザ
名,パスワードを登録して同サイトの会員になり,登録したユーザ名及びパ
スワードを用いて同サイトにログインする必要がある(甲9)。5
⑷本件発信者情報1は,平成31年4月28日午後0時00分34秒(協定
世界時)に,IPアドレス(省略)(以下「本件IPアドレス」という。)
を被控訴人から割り当てられ,本件サイトに最終ログインした最終ログイン
者の氏名又は名称及び住所である。
本件IPアドレスは,控訴人が本件サイトの運営・管理者であるキプロス10
共和国法人(以下「本件キプロス法人」という。)に本件投稿行為について
発信者情報開示仮処分を申し立てたところ(東京地方裁判所平成31年(ヨ)
第22041号),同法人から,ユーザ名Aが本件投稿動画をアップロード
した際のIPアドレスは保有していないが,最終ログインIPアドレスは保
有しているとして,開示されたものである(甲1,3)。15
⑸本件発信者情報2及び同3は,本件IPアドレスを,本件投稿行為が行わ
れた日時頃に割り当てられていた者の氏名又は名称及び住所である(本件発
信者情報3は,本件発信者情報2を更に秒数まで特定したものである。)。
⑹被控訴人は本件発信者情報1を保有している。
3争点20
⑴権利侵害の明白性(争点1)
ア控訴人動画の著作物性(争点1-1)
イ控訴人は,控訴人動画の著作者であるか(争点1-2)
ウ控訴人は,控訴人動画の著作権者であるか(争点1-3)
エ控訴人動画と本件投稿動画が同一であるか(争点1-4)25
オ控訴人画像の著作物性(控訴人の当審主張。争点1-5)
カ控訴人は,控訴人画像の著作者,著作権者であるか(控訴人の当審主張。
争点1-6)
キ最終ログイン者による控訴人画像の氏名表示権侵害の成否(控訴人の当
審主張。争点1-7)
ク最終ログイン者による控訴人画像の同一性保持権侵害の成否(控訴人の5
当審主張。争点1-8)
⑵本件各発信者情報は,法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」
に該当するか(争点2)
ア本件発信者情報1は,法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」
に該当するか(争点2-1)10
イ本件発信者情報2又は同3は,法4条1項の「当該権利の侵害に係る発
信者情報」に該当するか(争点2-2)
⑶被控訴人は,本件発信者情報1につき,法4条1項の「開示関係役務提供
者」に該当するか(争点3)
4争点に関する当事者の主張15
⑴争点1-1ないし争点1-4について
原判決「事実及び理由」第3の1ないし4に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。
⑵争点1-5(控訴人画像の著作物性)について
ア控訴人の主張20
控訴人画像は,被写体にどのような着ぐるみを着せて,どのような小道
具を用い,どのようなポーズを取らせるか,どのような背景を写し出すか,
どのような構図とするか,撮影の際の露出や陰影のつけ方等について創意
工夫があるから,写真の著作物(著作権法10条1項8号)としての創作
性が認められる。25
イ被控訴人の主張
控訴人画像は,人物ないし人形(着ぐるみ)の顔及び身体等をありふれ
た構図で撮影したものにすぎず,創作性が認められるかは明らかではない。
⑶争点1-6(控訴人は,控訴人画像の著作者,著作権者であるか)につい

ア控訴人の主張5
控訴人画像は,控訴人が被写体となり,控訴人が指示した第三者が撮影
したものであるが,映画を静止画像化したものを写真の著作物とする場合
は,撮影者が著作者,著作権者になるのではなく,映画の著作物の著作者,
著作権者が静止画の著作者,著作権者となるというべきである。
映画の撮影者は,映画の全体的形成に創作的に寄与した者(著作者),10
製作に発意と責任を有する者(著作権者)の補助者として撮影を行ってい
るにすぎないというべきであるし,映画を静止画像化した場合のみ撮影者
が著作者,著作権者になるとすると,動画と静止画で権利が異なる者に分
属し,多数の著作(権)者が生じ権利関係が複雑化し,著作権法16条,
29条の趣旨を没却するからである。15
したがって,控訴人画像の著作者,著作権者は,控訴人動画の著作者,
著作権者である控訴人である。
イ被控訴人の主張
控訴人動画が控訴人ないし控訴人の具体的指示を受けたカメラマンに
よって撮影されたものか否か等については明らかではなく,控訴人が,控20
訴人動画を静止画像化した控訴人画像の著作者,著作権者であることが明
らかとはいえない。
⑷争点1-7(最終ログイン者による控訴人画像の氏名表示権侵害の成否)
について
ア控訴人の主張25
(ア)本件サイトでは,投稿者の紹介ページで,投稿動画がサムネイル画
像により一覧で表示されるところ,本件サムネイル画像1及び2では,
控訴人動画の冒頭部分にあった控訴人動画掲載に係るウェブサイトの
URLアドレスが表示されなくなっており,控訴人の控訴人画像に係る
氏名表示権を侵害する。
(イ)a本件サイトで,本件サムネイル画像1及び2が表示されるのは,5
投稿者の紹介ページで,投稿動画が単独で表示されるウェブページ(イ
ンラインリンク)が自動的に設定されるためである。すなわち,投稿
者が動画を投稿すると,リンクを指示する情報及びリンク先の画像の
表示の仕方(大きさ,配置等)等のデータが,投稿者紹介ページに係
るサーバの記憶媒体に記録され,インターネットを利用してウェブサ10
イトを閲覧する者が投稿者紹介ページにアクセスすると,自動的にH
TMLが生成されるとともに,リンク画像の表示データがユーザの端
末に送信され,これにより,ユーザの操作を介することなく,投稿画
像のデータが端末の画面上に表示される。この際,リンク先の画像の
表示の仕方に関するHTML等の指定により,リンク先の元の画像と15
は縦横の大きさが異なる画像やトリミングされた画像が表示されるこ
とになるのである。また,本件サイトにおける投稿者紹介ページのH
TMLは不変のものでなく,閲覧者が投稿者閲覧ページを閲覧するた
びに,閲覧日時や閲覧数に応じて新たに生成され,閲覧者の端末に送
信される。20
そうすると,本件サムネイル画像1及び2は,ユーザ名Aの紹介ペ
ージが閲覧されるごとに生成,送信されるから,そのたびに控訴人画
像の氏名表示権侵害があると評価することができる(最高裁判所平成
30年(受)第1412号令和2年7月21日第三小法廷判決・民集
74巻4号1407頁参照)。25
b被控訴人は,本件サムネイル画像1及び2が本件サイトで自動的に
生成されるとすれば,氏名表示権の侵害者は本件サイトというべきで
あると主張するが,本件サイトは管理画面においてサムネイル画像を
選択することができ(甲24),本件サイトの管理画面にログインする
ことができる者が紹介ページ(ツイッターのリツイートに相当する)
で表示されるサムネイル画像を選択し,その結果,紹介ページで氏名5
表示権や同一性保持権の侵害が生じたのであるから,前記最高裁判決
の趣旨は,本件にも妥当する。
イ被控訴人の主張
(ア)控訴人動画掲載に係るウェブサイトのURLアドレスは,単なるU
RLの表示であり,控訴人を指す名称である変名と理解することはでき10
ないから,氏名表示権の侵害は認められない。
(イ)控訴人の主張によれば,本件サムネイル画像1及び2は本件サイト
で自動的に生成されるのであるから,氏名表示権の侵害者は本件サイト
というべきであり,本件投稿行為をした者や,本件サムネイル画像1及
び2の生成時におけるログイン者(ユーザ名A)ではない。本件は,リ15
ツイートという積極的な作為によりサムネイル画像を発信したリツイー
ト事件とは事案が異なる。
⑸争点1-8(最終ログイン者による控訴人画像の同一性保持権侵害の成否)
について
ア控訴人の主張20
(ア)本件サムネイル画像1及び2では,控訴人動画の冒頭部分にあった
控訴人動画掲載に係るウェブサイトのURLアドレスが表示されなくな
っていることは前記(4)アのとおりである。
さらに,本件サムネイル画像2では,控訴人画像に錠前様のアイコン
と「プライベート」との文言が付され,色も暗くなっている(甲22-25
1)。
以上からすると,最終ログイン者は,控訴人画像の同一性保持権を侵
害しているものである。
(イ)本件サムネイル画像1及び2は,ユーザ名Aの紹介ページが閲覧さ
れるごとに生成,送信されるから,そのたびに同一性保持権侵害がある
と評価することができることは,氏名表示権侵害について前記(4)ア5
(イ)で主張したとおりである。
イ被控訴人の主張
争う。
⑹争点2-1(本件発信者情報1は,法4条1項の「当該権利の侵害に係る
発信者情報」に該当するか)について10
ア控訴人の主張
(ア)最終ログイン者が権利侵害の主体であること
a最終ログイン者が本件投稿動画の投稿行為を行ったこと
⒜本件サイトでは,動画をアップロードするためには,まず無料会
員又はプレミアム会員になる必要がある(甲9の1)。会員となる15
ためにはメールアドレス,ユーザ名及びパスワードを登録する必要
があり(甲9の2),会員となった者が動画をアップロードするた
めには,入力画面にユーザ名及びパスワードを入力してログインす
る必要がある(甲9の3)。
ユーザ名及びパスワードを複数で共用する者は通常存在しない。20
特に本件サイトのようなアダルトサイトの利用は他の者に知られた
くない事項であるから,複数人で共用することは考えられない。
本件サイトの他のユーザのうち控訴人に判明している者について
みれば,本件サイトへの加入日から最終ログイン日まで1年3か月
あるいは2年5か月離れているが,いずれも他者にユーザ名又はパ25
スワードを使用させたことがないと述べている(甲17,18)。
⒝本件サイトでは会員登録をする際に利用規約(Terms&
Conditions)(甲16)に同意する必要があるところ,
利用規約にはユーザ名及びパスワードを機密情報として扱い,他の
個人または団体に開示してはならないこと,自己のユーザ名及びパ
スワードを使用してウェブサイトへのアクセスを他の人に提供し5
てはならないこと,各セッションの終了時にアカウントを確実に終
了すること,他のユーザがパスワード等を表示又は記録できないよ
うに,パブリック又は共有コンピュータからアカウントにアクセス
する場合は特に注意する必要があることが規定されている。
⒞本件キプロス法人の開示したユーザ名Aのログイン記録によれば,10
最終ログインの際に用いられたIPアドレス以外のIPアドレス
がユーザ名Aとして本件サイトにログインした形跡はない(甲3)。
⒟本件発信者情報1について,控訴人が被控訴人に対して裁判外で
発信者情報開示請求をしたところ(甲5),被控訴人は法4条2項
による意見照会を行い(甲6),その後,ユーザ名Aはユーザ名全15
体を削除した(甲19)。最終ログイン者が本件投稿動画を含むユ
ーザ名を削除することが可能である以上,本件投稿動画は,本件発
信者情報1の契約者が投稿し,かつ,管理していたものである。
b最終ログイン者は,最終ログイン直前の本件投稿動画の再生並びに
本件サムネイル画像1及び2の表示により,控訴人動画及び控訴人画20
像の公衆送信権侵害,控訴人画像の氏名表示権侵害及び同一性保持権
侵害をしている。
⒜ユーザ名Aの紹介ページにおいて,平成29年9月6日の時点で
の本件投稿動画の再生回数は4757回,平成31年4月28日の
時点での再生回数は5500回であるから(甲21,22の2),25
407日の間に743回,1日当たり約1.8回再生されている。
⒝利用者の本件投稿動画や本件サムネイル画像1及び2の閲覧のた
びに控訴人動画及び控訴人画像の公衆送信権が侵害され,控訴人画
像の氏名表示権及び同一性保持権が侵害されているとみるべきと
ころ(これらは,送信可能化権侵害と異なり,情報を記録すること
が要件とはなっていない。),本件投稿動画の前記⒜の再生の頻度5
から,最終ログイン日もしくはそれに極めて近い日に本件投稿動画
が再生され,本件サムネイル画像1及び2が表示されているとみる
べきであり,最終ログイン者とこれらの権利侵害をした者が同一で
あることは明らかである。
c仮に,最終ログイン者が本件投稿行為や,最終ログイン直前の本件10
投稿動画の再生,本件サムネイル画像1及び2の表示そのものを行っ
ていないとしても,最終ログイン者は,侵害主体と評価されるべきで
ある。
⒜著作権侵害においては,直接物理的に侵害行為を行った者のみな
らず,侵害者を管理し営業上の利益帰属主体となる者(例えばカラ15
オケスナック営業者につき最高裁判所昭和59年(オ)第1204
号同63年3月15日第三小法廷判決・民集42巻3号199頁参
照),インターネットサービス提供者(TV放送を,遠隔地の利用
者が視聴可能なサービスを提供した者につき最高裁判所平成21
年(受)第653号同23年1月18日第三小法廷判決・民集6520
巻1号121頁参照)等に侵害主体概念が拡張されている。
⒝本件サイトでは,ユーザ登録をした上でユーザ名及びパスワード
を入力すると動画を登録したり,登録した動画を削除したりするこ
とができるところ(甲23の1・2),最終ログイン者は,意見照
会の後にユーザ名全体を削除している。すなわち,最終ログイン者25
は,仮に,物理的に自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に本件
投稿動画を記録した者でなかったとしても,その後,当該記録を記
録媒体から削除せずに保持し続け,意見照会後は削除しているので
あるから,受信者からの求めに応じて自動的に情報を送信すること
ができる状態を作り出す状態を維持していたものというべきであ
り,控訴人動画の送信可能化権侵害の主体であると評価することが5
できる。
⒞前記⒜のとおり,本件サイトでは,ユーザ登録をした上でユーザ
名,パスワードを入力すると動画を登録したり,登録した動画を削
除したりすることができること,前記b⒝のとおり,最終ログイン
日もしくはそれに極めて近い日に本件投稿動画が再生され,本件サ10
ムネイル画像1及び2が表示されていることにより,最終ログイン
者とこれらの再生・表示行為の主体の間には密接な関係があるとみ
られることから,最終ログインの直近の本件投稿動画の再生行為や,
本件サムネイル画像1及び2の表示行為の時点において,ユーザ名
Aの管理画面にログイン可能であった者は,控訴人動画及び控訴人15
画像の公衆送信権侵害行為をし,控訴人画像の氏名表示権及び同一
性保持権を侵害した者と評価される。
(イ)本件発信者情報1が法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情
報」に該当すること
a法4条1項が「侵害情報の発信者の特定に資する情報」とし,「侵20
害情報を送信した者の情報」としていないこと,省令が定める情報の
1号,2号において「発信者」そのものと「その他侵害情報の送信に
係る者」とを区別していることからすると,法4条1項の開示対象で
ある「氏名,住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であ
って総務省令で定めるもの」とは,発信者を特定(識別)するために25
参考となる情報一般を意味する。
b仮に,最終ログイン者が公衆送信の主体と評価することができない
としても,本件投稿ログインに係るパスワード等と同じパスワード等
を用いて最終ログインしている以上,最終ログイン者と本件投稿行為
をした者とはパスワード等を共用する関係にある。
パスワード等を共用する以上,最終ログイン者は,本件投稿行為を5
した者と本件投稿行為について意思疎通があるものとして共同不法行
為者に該当する(民法719条1項前段)。あるいは,最終ログイン
者と他の者のいずれが本件投稿動画を投稿した者であるかを知ること
ができない点で「共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたか
を知ることができないとき」に該当し共同不法行為者に該当する(同10
項後段)。さらに,最終ログイン者は,パスワード等を共用しその秘
密を保持することにより,他の者が記録媒体上の本件投稿動画を削除
することを防止し,また,本件投稿動画を第三者に閲覧させる状態を
継続することを容易にしたという意味で,本件投稿行為をした者を幇
助したと評価することができる(同条2項)。15
少なくとも最終ログイン者の情報が開示されれば,その者から本件
投稿行為をした者を特定することができる可能性があるし,最終ログ
インも本件投稿行為に関連した情報であるから,最終ログイン者の情
報は,法4条1項の「発信者の特定に資する情報」に該当するという
べきである。20
イ被控訴人の主張
(ア)最終ログイン者が権利侵害の主体であるとはいえないことについて
a最終ログイン者が本件投稿行為を行ったとはいえない。
⒜アカウントを共用してサイト運営等をすることはジャンルを問わ
ず行われており,アダルトサイトであるからといってアカウントの25
共用が考えられないとはいえない。
⒝控訴人は「A」のユーザ名が削除された旨主張するが,控訴人が
指摘する甲第19号証がこのような事実を示すものであるのか不
明であるし,控訴人の主張する本件投稿動画がいつの時点まで存在
していたのかも不明である。さらに,「A」のユーザ名がいずれか
のタイミングで削除されたと仮定するとしても,削除がユーザ名A5
によるものであるか不明である。したがって,控訴人の主張は成り
立たない。なお,そもそも,回線の契約者と特定の日時における回
線の利用者が異なることはしばしばあり,被控訴人から意見照会を
受けた者と最終ログイン者が同一か否かも不明である。
⒞本件投稿動画が平成29年9月6日から平成30年10月18日10
まで1日当たり1.8回再生されていたとしても,最終ログイン日
である平成31年4月28日の当日又はそれに極めて近い日時に
おいて本件投稿動画が再生されたことの証明にはならないし,その
ような推認をすることもできない。
b控訴人は,最終ログイン者が本件投稿行為そのものを行っていない15
としても,侵害行為者と評価されるべきであると主張する。
しかし,著作権侵害の主体が常に発信者に該当するとはいえない。
また,法4条1項は「侵害情報の発信者」としているところ,ログイ
ン情報の発信と侵害情報の発信は明確に異なり,非侵害情報であるロ
グイン情報を発信したにすぎない最終ログイン者が「侵害情報の発信20
者」に当たるとはいえない。
(イ)本件発信者情報1が法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情
報」に該当するとの主張について
a省令が定める情報の1号,2号における「侵害情報の送信に係る者」
とは,あくまでも侵害情報の発信に関与したことが認められる者と解25
すべきであり,これに非侵害情報を発信した者が含まれると解するこ
とはできない。
b控訴人は,最終ログイン者と本件投稿行為をした者とは民法719
条1項前段又は後段の共同不法行為者に該当するとか,最終ログイン
者が本件投稿行為をした者を幇助したと評価することができる(同条
2項)と主張する。5
しかし,そもそも「A」というアカウント及びパスワード等が最終
ログイン者と本件投稿行為をした者との間で共用されていたか否かや,
具体的にどのように共用されていたかも明らかでない。むしろ,最終
ログインが本件投稿から約1年8か月もの期間が経過した後に行われ
たことに照らせば,最終ログイン者と本件投稿行為をした者との間に10
控訴人が主張するような関係性は認められない。
⑺争点2-2(本件発信者情報2又は同3は,法4条1項の「当該権利の侵
害に係る発信者情報」に該当するか)について
ア控訴人の主張
本件IPアドレスは,本件投稿行為においても用いられていた可能性が15
高い。そうすると,本件投稿行為がされた日時頃に本件IPアドレスを割
り当てられていた者は,本件投稿行為をした者である可能性が高いから,
本件発信者情報2又は同3は,法4条1項の発信者情報に該当する。
なお,侵害情報でない情報を送信した者が省令1号の「発信者その他侵
害情報の送信に係る者」か否かといった問題は,最終ログインに係るIP20
アドレスに関するものであり,本件投稿行為時のIPアドレスには妥当し
ない。
イ被控訴人の主張
控訴人の主張は争う。
⑻争点3(被控訴人は,本件発信者情報1につき,法4条1項の「開示関係25
役務提供者」に該当するか)について
ア控訴人の主張
最終ログイン者が本件投稿行為をした者であると事実認定又は評価され
た場合には,被控訴人が用いる特定電気通信設備は,侵害情報の流通とい
った「特定電気通信の用に供される」ものである。
また,ログイン情報が「侵害情報の発信者の特定に資する情報」(法45
条1項)に該当すると判断された場合には,当該ログイン情報の送信は侵
害情報の流通に不可欠又は前提となっているから,「特定電気通信の用に
供される」ものに該当する。
したがって,被控訴人は「開示関係役務提供者」に該当する。
イ被控訴人の主張10
(ア)法4条1項が定める「開示関係役務提供者」とは,他人の権利を侵
害したとされる情報を流通させた特定電気通信の用に供される特定電気
通信設備を用いる特定電気通信役務提供者であるところ,被控訴人は,
最終ログイン時に,最終ログインをするという,権利侵害情報でない情
報の発信の用に供された電気通信設備を用いて当該非侵害情報を媒介し15
たにすぎない。
(イ)控訴人は,最終ログイン者が投稿者と事実認定又は評価された場合
には,被控訴人が用いる特定電気通信設備は,侵害情報の流通といった
「特定電気通信の用に供される」ものであると主張する。
しかし,仮に,最終ログイン者が本件投稿行為をした者と同一人物で20
あったとしても,本件投稿時に使用されたプロバイダが被控訴人である
とはいえず,この者が被控訴人の用いる電気通信設備によって本件投稿
を行ったと推認することはできない。
(ウ)控訴人は,ログイン情報が「侵害情報の発信者の特定に資する情報」
(法4条1項)に該当すると判断された場合には,当該ログイン情報の25
送信は侵害情報の流通に不可欠又は前提となっており,「特定電気通信
の用に供される」ものに該当するから,被控訴人は「開示関係役務提供
者」に該当すると主張する。
控訴人のいう「ログイン情報」を最終ログイン者の氏名・住所等の情
報を指すと解するとしても,最終ログインは,本件投稿行為から約1年
8か月もの期間が経過した後になされたものであり,これを行った者と5
本件投稿行為をした者との関係性も不明である以上,このような情報は,
「氏名,住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総
務省令で定めるもの」には該当しない。
また,仮に,最終ログインに係る情報が「氏名,住所その他の侵害情
報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるもの」に該当10
するとしても,そのことは,本件投稿行為から約1年8か月も後に行わ
れた最終ログインが侵害情報の流通に「不可欠又は前提」であることを
示すものでもないし,「特定電気通信の用に供される」ものであること
を基礎づけるものでもない。
さらに,最終ログインに係る情報が「侵害情報の発信者の特定に資す15
る情報」に当たるか否かは,省令の定める「発信者情報」に該当するか
否かの問題であり,被控訴人が「特定電気通信役務提供者」に該当する
か否かの問題とは関係がない。
第3当裁判所の判断
事案に鑑み,争点2(本件各発信者情報は,法4条1項の「当該権利の侵害20
に係る発信者情報」に該当するか)から判断する。
1争点2-1(本件発信者情報1は,法4条1項の「当該権利の侵害に係る発
信者情報」に該当するか)について
⑴ア(ア)法4条1項は,特定電気通信による情報の流通によって自己の権利
を侵害されたとする者は,侵害情報の流通によって当該開示の請求をす25
る者の権利が侵害されたことが明らかであるときで,かつ当該発信者情
報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のため必要である
場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるときに限り,
当該特定電気通信の用に供される特定電気通信役務提供者(開示役務提
供者)に対し,その保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名,
住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で5
定めるものをいう。)の開示を請求することができる旨定め,これを受け
て省令は,「発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称」(1
号),「発信者その他侵害情報の送信に係る者の住所」(2号)が開示対象
になるものと規定している。これは,文言上,侵害情報の発信者その他
侵害情報の送信に係る者の氏名又は名称,住所を開示対象とする趣旨と10
解される。
また,法2条4号によれば,「発信者」とは,「特定電気通信役務提供
者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該記録媒体に記録された情
報が不特定の者に送信されるものに限る。)に情報を記録し,又は当該特
定電気通信設備の送信装置(当該送信装置に入力された情報が不特定の15
者に送信されるものに限る。)に情報を入力した者をいう。」と定義され
ている。そこで,本件においても,上記のように記録媒体に侵害情報を
記録し,又は送信装置に侵害情報を入力した者に関する情報が開示対象
となることになるが,侵害情報の記録又は送信装置への入力という意味
合いにおいて,侵害情報の送信に当たる行為は,本件投稿行為であると20
いうほかない。
控訴人は,本件投稿行為のほか,ユーザ名Aの紹介ページにおいて,
最終ログインの直近の本件投稿動画の再生の時点において控訴人動画
及び控訴人画像の公衆送信権の侵害行為があり,最終ログインの直近の
本件サムネイル画像1又は2の表示の時点において控訴人画像の氏名25
表示権侵害行為及び同一性保持権の侵害があったとして,これらの再生
ないし表示をもって,侵害情報の送信であると主張する。しかし,これ
らの再生ないし表示の時点で,特定電気通信設備の記録媒体への情報の
記録又は特定電気通信設備の送信装置への情報の入力があるわけでは
なく,これらの再生ないし表示を省令が1号に定める侵害情報の送信と
いうことはできないから,控訴人の主張は採用することができない。5
また,控訴人は,本件サイトの管理画面にログインすることができる
者が,紹介ページで表示されるサムネイル画像を選択し,その結果紹介
ページで氏名表示権や同一性保持権の侵害が生じたと主張するが,この
ような主張も権利侵害行為と侵害情報の送信に当たる行為を混同する
ものというべきであり,本件投稿行為とは別の機会にサムネイル画像の10
選択行為が存在することを認めるに足りる証拠はないし,仮に,そのよ
うな選択行為が存在したとしても,以下に判示する理由が同様に当ては
まるから,結論に影響を与えるものではない。
(イ)本件発信者情報1は,侵害情報の送信である本件投稿行為そのもの
の発信者情報ではないから,法4条1項の定める開示対象とはいえない。15
仮に,侵害情報の送信そのものでなく,その準備行為等,これと密接
に関係するログインに係る発信者情報も,法4条1項の定める開示対象
になると解したとしても,本件発信者情報1は,本件投稿行為の後約1
年8か月も経過した後の最終ログインに係るものであって,侵害情報の
送信の準備行為とはいえないことはもちろん,本件投稿行為との関連も20
極めて希薄なものというべきであるから,結局,本件発信者情報1が,
法4条1項の定める開示対象であるとはいえない。
イ控訴人は,仮に,本件発信者情報1が侵害情報の送信である本件投稿行
為に関する発信者情報ではないとしても,最終ログイン者が本件投稿行為
をした者であることが認められ,ないしはそのように評価されると主張す25
る。しかし,以下のとおり,本件において最終ログイン者が本件投稿行為
をしたと認め,又はそのように評価することはできない。
(ア)本件サイトでユーザ名やパスワードが共有される可能性は否定でき
ず,このことは本件サイトがアダルトサイトであるからといって排除さ
れるものではないし,また,利用規約も遵守されるとは限らないこと,
本件投稿行為から最終ログインまで約1年8か月を経過していること5
からすると,本件投稿行為をした者と,最終ログイン者の本件サイトに
おけるユーザ名やパスワードが共通であったとしても,両者が同一とは
直ちにはいえない。控訴人は,本件サイトの他のユーザが他者にユーザ
名又はパスワードを使用させたことがないと述べている旨主張するが,
わずか2例にすぎず(甲17,18),これを一般化することはできない。10
(イ)本件サイトでは6か月分しかログを保有しないので(甲3),本件投
稿行為から約1年8か月後の最終ログインまで,最終ログインの際に用
いられたIPアドレス以外のIPアドレスがユーザ名Aとして本件サ
イトにログインしていないかどうかは不明である。
(ウ)令和元年5月17日付けの控訴人の開示請求(甲5)に対し,被控訴15
人は,遅くとも同年6月18日までに最終ログインに係るIPアドレス
を付与された契約者に法4条2項に係る意見照会をした(甲6)が,そ
の後である令和2年4月10日現在,本件サイトで,本件投稿動画があ
ったURLにアクセスしようとすると,エラー表示がされるようになっ
ている(甲19)ことが認められる。しかし,エラー表示の原因が最終20
ログイン者による削除であるか否かは明らかでなく,また,仮にそうで
あったとしても,そのことから直ちに,最終ログイン者が本件投稿行為
をした者であると推認することはできない。
(エ)控訴人の主張するとおり,本件投稿動画の平成29年9月6日の時
点での再生回数が4757回,平成30年10月18日の時点での再生25
回数が5500回と認められるとしても,そもそもこのような再生をし
た者(仮に,最終ログイン日もしくはそれに極めて近い日に本件動画を
再生した者がいるとすればその者も含む。)と最終ログイン者,さらには
本件投稿行為をした者の同一性を推認させる事情は何ら明らかにされて
いない。
ウ控訴人は,最終ログイン者は,仮に物理的に自動公衆送信装置の公衆送5
信用記録媒体に本件投稿動画を記録した者でなかったとしても,当該記録
を記録媒体から削除せずに保持し続け,意見照会後は削除しているのであ
るから,受信者からの求めに応じて自動的に情報を送信することができる
状態を作り出す状態を維持したものであり,①送信可能化権侵害の主体で
ある,②本件投稿行為者との共同不法行為者に当たる,③本件投稿行為者10
を幇助したものであると評価することができると主張する。
しかし,記録媒体から削除せずに保持し続けた行為をもって,送信行為
と同視することはそもそもできないし,最終ログイン者と本件投稿者との
関係を具体的に明らかにする証拠はなく,最終ログイン自体は時期的にみ
ても本件投稿行為との直接的関連が認められない以上,控訴人の主張は採15
用できない。
エ控訴人は,法4条1項の開示対象である「氏名,住所その他の侵害情報
の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるもの」とは,発信
者を特定(識別)するために参考となる情報一般を意味すると主張する。
しかし,そのような解釈は,侵害情報の発信者の特定に資する情報一般20
を開示の対象とするのでなく,特定電気通信(法2条1号)による情報の
流通によって権利侵害を受けた者について加害者の特定を可能にして被
害者の権利の救済を図るという要請と,情報の発信者のプライバシー,表
現の自由,通信の秘密の保護の要請の双方に配慮し,開示を定める情報を
限定的に列挙した法4条1項,省令の趣旨に反するもので,採用すること25
ができない。
⑵小括
以上によれば,本件発信者情報1は,法4条1項の「当該権利の侵害に係
る発信者情報」に当たるとはいえない。
2争点2-2(本件発信者情報2又は同3は,法4条1項の「当該権利の侵害
に係る発信者情報」に該当するか)について5
本件発信者情報2及び同3は,本件IPアドレスを本件投稿行為が行われた
日時頃に割り当てられていた者の氏名又は名称及び住所であるが,そもそも,
本件IPアドレスが,平成31年4月28日午後0時00分34秒(協定世界
時)と,本件投稿行為が行われた平成29年8月23日午前3時38分(協定
世界時)に,同一人物に割り当てられていたと認めるに足りる証拠はない(な10
お,本件において最終ログイン者が本件投稿行為をしたと認め,又はそのよう
に評価することはできないから,最終ログイン時に割り当てられた本件IPア
ドレスが本件投稿行為に用いられたIPアドレスであると推認できないこと
については,前記1(1)イのとおりである。)。
以上によれば,本件発信者情報2及び同3は,法4条1項の「当該権利の侵15
害に係る発信者情報」に当たるとはいえない。
第4結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は,
いずれも理由がないからこれを棄却した原判決は相当であって,本件控訴は理
由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。20
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
菅野雅之
裁判官
本吉弘行5
裁判官
岡山忠広

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