弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
       事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人Aは,広島市に対し,2617万2219円を支払え。
3 被控訴人広島市長は,原判決添付別紙目録記載の施設に関する維持管理費用の
支出を命じてはならない。
第2 事案の概要
 事案の概要は,次のとおり付加・訂正するほかは,原判決「第2 事案の概要」
に記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決4頁22行目の「定めなければならないが,」から同26行目の「であ
る。」までを「定めなければならない。同条同項が「公の施設」の設置について条
例主義を採用したのは,公の施設の設置が地方公共団体の遂行すべき重要な事業の
一つであり,かつ,一般に相当額の予算措置を必要とするものであることにかんが
みて,地方公共団体における最も基本的な意思決定方式である議会の決議を経て制
定される条例という法形式によらしめたものである。本件施設について設置条例が
制定されていない以上,未だ公用開始処分は行われていないから,これを公共の用
に供すること(通常どおりの作動等)はできず,したがって,このための費用の支
出を命ずることは当然違法である。なお,仮に,本件施設の維持管理費用の支出命
令とその原因行為(条例を制定しないことあるいは条例を制定せずに本件施設の設
置管理を行うこと)とを概念上分別するとしても,両者の行為者はともに被控訴人
広島市長で共通であるから,原因行為の違法性は後行の支出命令の違法性に直結す
るものである。」に改める。
2 原判決6頁1行目の「始めて」を「初めて」に改める。
3 原判決7頁5行目の「である。」の次に改行して,以下のとおり加える。
ウ 本件施設は,α公園の利用者の利便性を確保するため,都市計画道路β線とα
公園を結び,高齢者や身体障害者等の交通弱者の利用を容易にすると同時に,γビ
ル内の駐車場を公園利用者の駐車場としても活用することを公共用の目的として,
平成7年度に基本設計・実施設計を行った後,平成8年11月に建設工事に着手さ
れた。平成10年1月,本件施設の本体部分が完成したことから,被控訴人広島市
長は,同月28日,本件施設を上記公共用の目的に供する行政財産として決定し
た。
 そして,本件施設周辺部の外溝工事等の附帯工事を行い,最終的に平成10年3
月に本件施設に関する工事が全て完了した。そこで,広島市は,平成10年3月2
3日,本件施設の完成式を行い,この日から本件施設を公共の用に供し,併せて,
本件施設の完成を広報紙に掲載し,市民への周知を図った。
 被控訴人広島市長は,本件施設を行政財産として管理し,地方自治法232条第
1項に基づき,その費用を支出しているものであり,何ら違法性は存しない。
エ 仮に条例を制定しないままの設置管理行為が違法であるとしても,その違法性
が支出命令の違法性に直結すると解することは,原因行為を無限定に住民訴訟にお
ける司法審査の対象とすることになり,違法な財務会計上の行為を対象とする地方
自治法242条の2の住民訴訟制度の趣旨に反する。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)について
 当裁判所も本件差止請求は適法であると判断する。その理由は,原判決7頁8行
目から8頁6行目までと同じであるから,これを引用する。
2 争点(2)について
(1) 控訴人らは,要するに,本件施設は「公の施設」であるにもかかわらず,
設置条例が制定されていないから,未だ公用開始処分は行われていないという外な
く,「公の施設」としての維持管理費用の支出を命ずることはできず,単に「公の
施設」ではない一般行政財産として暫定的に必要最小限の保存行為に関する維持管
理費用を支出し得るにとどまると主張する。
 以上のとおり,本件では,本件施設に関する維持管理費用の支出の違法性が争わ
れているのであるから,当該支出が「地方公共団体の事務を処理するために必要な
経費」(地方自治法232条1項)といえるかどうかが問題となる。その関係で,
設置管理に関する条例が制定されていない状況下における本件施設の維持管理(作
動を含む。)が広島市の「事務」に当たるかどうかについて判断する。
(2) 証拠(乙6,7)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
 本件施設は,α公園の利用者の利便性を確保するため,都市計画道路β線とα公
園を結び,高齢者や身体障害者等の交通弱者の利用を容易にすると同時に,γビル
内の駐車場を公園利用者の駐車場としても活用することを公共用の目的として,平
成7年度に基本設計・実施設計を行った後,平成8年11月に建設工事に着手され
たものである。平成10年1月,本件施設の本体部分が完成したことから,被控訴
人広島市長は,同月28日,本件施設を上記公共用の目的に供する行政財産として
決定した。次いで,その周辺部の外溝工事等の附帯工事を行い,最終的に平成10
年3月に本件施設に関する工事が全て終了したため,広島市は,平成10年3月2
3日,本件施設の完成式を行い,この日から本件施設を公共の用に供した。
(3) 以上の事実によれば,本件施設は,公共の用に供することと決定された行
政財産(地方自治法238条4項)であって,平成10年3月23日,公衆の一般
的な利用に供する旨の意思が明らかにされているから,本件施設は,同日以降,公
共用物として公用開始がなされていると認められる。したがって,本件施設の維持
管理(通常どおりの作動を含む。)は,広島市の事務に当たり,そのために要する
費用の支出は広島市の事務を処理するための必要な経費と認められ,その支出に違
法があるとは認められない。
 この点,控訴人らは,地方自治法244条の2第1項が「公の施設」の設置につ
いて条例主義を採用したのは,「公の施設」の設置が地方公共団体の遂行すべき重
要な事業の一つであり,かつ,一般に相当額の予算措置を必要とするものであるこ
とにかんがみて,地方公共団体における最も基本的な意思決定方式である議会の決
議を経て制定される条例という法形式によらしめたのであるから,本件施設につい
て設置条例が制定されていない以上,未だ公用開始処分は行われておらず,これを
公共の用に供するために作動させることはできないのであって,このための費用の
支出を命ずることもできないと主張する。
 しかしながら,公の施設すなわち「住民の福祉を増進する目的をもってその利用
に供するための施設」(地方自治法244条1項)といっても,その外延は明らか
でなく,文言上これに当たりそうなもの全てにつき例外なく条例を要するとし,そ
の点に遺漏があれば,その管理運用に係る支出が違法であるとすると,煩瑣に耐え
ず,かえって住民の福祉を阻害しかねない。そして,控訴人らが地方自治法244
条の2第1項の立法趣旨として主張する「公の施設」の設置が地方公共団体の遂行
すべき重要な事業の一つであって,一般に相当額の予算措置を必要とするものであ
るという点は,いわゆる自然公物に維持・修繕等のために手を加える場合や公用物
の設置・維持・修繕等の場合にも当てはまることであるが,これらの場合には必ず
しも条例という議会の決議は要求されていないし,控訴人らも,必要最小限の保存
行為に関する維持管理費用の支出は許されるとしているのであって,同条同項の立
法趣旨を控訴人ら主張のように理解するには無理がある。また,地方自治法第2編
第10章においては,住民による施設の利用関係に着目して,特に重要な施設の廃
止とか長期かつ独占的利用について厳格な要件を課すことや利用料金の設定等につ
いての規定を設けるなど,特に利用関係について規制する規定が整備されていると
ころである。これらの事情に徴すれば,「公の施設」の設置につき条例を定めなけ
ればならないという趣旨は,住民による施設の利用を充実させるという観点から,
住民による適正・公平な利用について民主的なコントロールを及ぼすため,その利
用規制面について条例で定めることを本体とし,この面について条例で定める以
上,利用対象物を明らかにするため,これと併せて設置についても条例で定めるこ
ととされたものと解すべきである。したがって,同条同項が,たとえ行政財産であ
る物についても設置条例が定められないうちは住民の用に供してはならないという
ように,住民の利用を阻害する方向の趣旨を含むものと解するのは相当ではなく,
「公の施設」に関する公用開始処分を設置条例の制定という形式に限定する控訴人
らの主張は採用できない。
 他に本件施設の維持管理費用の支出命令を違法とすべき事実を認めるに足りる証
拠はない。
(4) したがって,被控訴人Aが広島市長としてこれまでに行った本件施設の維
持管理費用の支出命令及び被控訴人広島市長が今後行う本件施設の維持管理費用の
支出命令が違法であるということはできない。
3 結論
 よって,控訴人らの請求はいずれも理由がなく棄却すべきであるところ,これと
同旨の原判決は正当として是認すべきであるから,主文のとおり判決する。
広島高等裁判所第4部
裁判長裁判官 草野芳郎
裁判官 山口浩司
裁判官廣永伸行は,転勤したため,署名・押印できない。
裁判長裁判官 草野芳郎

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