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裁判例


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○ 主文
一 被告が、昭和三九年六月一日から昭和四二年九月三〇日までに移出された原告
製造に係る扇風機の物品税につき、昭和四三年三月二三日付でした更正処分及び過
少申告加算税賦課決定処分(葛間二特第一一〇号)のうち、左の部分を取り消す。
1 昭和四〇年三月分についてされた処分
2 昭和四一年七月分についてされた処分のうち、課税標準額が一三、四四四、〇
〇〇円を越える部分
3 同年八月分についてされた処分のうち、課税標準額が二、〇七一、〇〇〇円を
越える部分
4 昭和四二年五月分についてされた処分のうち、課税標準額が二一、五〇七、〇
〇〇円を越える剖分
5 同年六月分についてされた処分のうち、課税標準額が二七、一五六、〇〇〇円
を越える部分
6 同年七月分についてされた処分のうち、課税標準が二一、三九一二、〇〇〇円
を越える部分
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告が、昭和四三年三月二三日付で原告に対し昭和三九年六月一日から昭和四
二年九月三〇日までに移出した原告の製造に係る扇風機についてした物品税更正処
分及び決定処分並びに加算税賦課決定処分(葛間二特第一一〇号及び同第一一一
号)を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 原告の請求原因
1 原告は電気器具の製造業者であり、扇風機(物品税法《以下法という。》一
条、同法別表「課税物品表」第二種第九号の9《昭和四一年四月改正以前は第三種
第二一号》の物品)を製造している。
2 原告は、物品税課税物品の製造者として、昭和三五年一〇月二四日法三五条二
項に規定する製造開始申告書を原告の扇風機の製造場を所轄する被告に提出し、そ
の後右製造場から移出した扇風機に関して、別表二(更正処分の明細)の「課税月
分」欄記載のとおりの各月について、それぞれ同法二九条二項に規定するところに
より、その数量及び課税標準額、税額等を記載した物品税納税申告書を被告に提出
した(そのうち、課税標準額、税額の明細は別表二の「申告」欄記載のとおりであ
る。)。そして、右申告書記載の課税標準額の基礎となつた扇風機の小売価額は、
別表一の「納税申告の基礎とした小売価格」欄記載のとおりである。3 ところ
が、被告は、原告が昭和三九年六月一日から昭和四二年九月三〇日までにその製造
場から移出した扇風機について、昭和四三年三月二一日付で、別表二の「更正」欄
掲記のとおりの更正処分(増加税額九、一〇四、〇〇〇円)及び過少申告加算税
(金額四五四、一〇〇円)賦課決定処分(葛間二特第一一〇号―以下これらの処分
を本件更正等処分という。)、並びに無申告の部分に対するものとして、別表三掲
記のとおりの賦課決定処分(金額一一、七〇〇円)及び無申告加算税(金額五〇〇
円)賦課決定処分(葛間二特第一一一号-以下これらの処分を本件決定等処分とい
う。)をそれぞれした(以下本件更正等処分及び本件決定等処分を総称して本件処
分という。)。
4 しかしながら、被告のした本件処分は、いずれも課税標準額の算定の根拠とな
つた扇風機の移出時における小売価格を過大に認定した違法があるので取り消され
るべきである。
二 請求原因に対する被告の認否及び主張
1 請求原因1ないし3の事実は全部認め、同4の主張は争う。
2 本件処分の商法性に関する被告の主張
(一) 原告は、法三条二項に規定するとおり、制造場から移出した扇風機につい
て物品税を納める義務を負うこととなるが、原告は、別表二の「課税月分」欄記載
の各月について同「申告」欄記載の申告をしたのみで別表三の「課税月分」欄掲記
のとおりの各月については被告に何ら納税申告をしていなかつたものである。
(二) 本件原告の扇風機のごとき第二種物品の課税標準となる金額の算定は、原
則として法一一条一項二号、二項の規定によるのであるが、法一三条所定の一定の
要件に該当するときは、前記法一一条一項二号、二項の規定によらず、法一三条一
項の規定によることとなり、製造場から移出される際に明らかにされている小売価
格を基礎として、課税標準額を算出することとなる。ところで、前記の明らかにさ
れている小売価格の意義については、同法施行令一七条、同法施行規則一二条の規
定するところである。すなわち、法一三条一項にいわゆる「小売価格が明らかにさ
れている」とは、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(昭和二二
年法律第五四号)二四条の二(再販売価格維持契約)に規定する再販売価格を決定
し、これを維持するための契約、又は大蔵省令で定める方法により小売価格が明ら
かにされている場合を指し、右に大蔵省令で定める小売価格を明らかにする方法と
しては、当該物品をその製造に係る製造場から移出する前において、当該製造場又
はその者の同法施行令九条六項に規定する特殊販売機関が一般日刊新聞に小売価格
を広告する方法、あるいは当該物品をその製造に係る製造場から移出する前におい
て、当該製造者又はその者の同法施行令九条六項に規定する特殊販売機関が当該物
品又は当該物品の包装、容器、説明書等で消費者に入手されるものに小売価格を表
示する方法によつて明らかにされていることを指すものである。
(三) ところで、原告は、前記の法一三条一項の規定により課税標準を算出する
方法の適用を受けるため、同条二項の定めるところにより、国税庁長官にあてて、
「一定率の適用を受けるための確認申請書」を提出し、原告の課税物品たる扇風機
については、製造場から移出するときにおいて、その説明書等のパンフレツト及び
プライスカードで消費者に販売される際の小売価格を表示して小売価格を明らかに
することとなつているので法一三条一項の適用を受けたい旨申請し、昭和三九年六
月三日付で同条二項所定の国税庁長官の確認を受けた。そして、右確認の際に、法
一三条一項の適用を受け始める日は同年六月一日と指定された。従つて、右確認に
より、原告の扇風機に対する物品税の課税標準の算出は、法一一条一項二号の規定
によることなく、法一三条一項所定の方法、すなわち、製造場から移出される時に
明らかにされている小売価格に基づいて算出する方法によることとなつたのであ
る。
(四) 原告は、昭和三九年六月一日から昭和四二年九月三〇日までの別表二の
「課税月分」欄及び別表三の「課税月分」欄にそれぞれ掲記する各月において、そ
れぞれ製造場から別表一の「機種」欄記載のとおりの各種の扇風機を移出した。そ
して製造場から移出した扇風機全部につき、それぞれ別表一の「明示小売価格」欄
に掲記する価格で、当該各月に該当する価格を表示したプライスカード(以下別表
一の「明示小売価格」欄の価格を表示したプライスカードを高額プライスカードと
いう。)を添付したものであるところ、右高額プライスカードに表示された価格
は、前記の同法旅行規則一二条一項二号にいう当該物品の包装・容器・説明書等で
消費者に入手されるものに表示した小売価格に該当するから、右プライスカードの
金額が法一三条一項に規定する「当該小売価格」にほかならない。従つて、右小売
価格に基づいて課税標準を算出した別表二、三掲記の本件処分はいずれも適法であ
る。
三 被告の主張に対する原告の認否及び反論
1 原告の主張2(一)のうち、原告が別表三の「課税月分」欄掲記の各月につき
納税申告をしていないことは認める。同2(二)の主張は争う(その内容は後記原
告の反論のとおり)。同2(三)のうち、原告が法一三条一項の適用を受けるた
め、被告主張の日時に国税庁長官より被告主張の確認を受けたこと及び法一三条一
項の適用を受け始める日を同月一日と指定されたことはいずれも認め、その余の主
張は全部争う(その内容は後記原告の反論のとおり)。同2(四)の事実のうち、
原告が昭和三九年六月から昭和四二年九月までに別表一の「機種」欄掲記の各種扇
風機を移出したことは認めるが、移出した扇風機全部につき高額プライスカードが
添付されていたことは否認する。但し、後述のとおり小泉産業株式会社(以下単に
小泉産業という。)に移出した分について、被告主張のとおりの高額プライスカー
ドが付されていたことは認めるが、それは移出総数量の一部にすぎない。その余の
主張は全部争う。
2 原告の反論
(一) 租税法の原則はあくまで実質課税である。従つて、被告は、原告の扇風機
について実勢価格を調査し、その実勢価格が国税庁長官に対する確認申請の際に届
出た価格よりも高い場合にはその実勢価格に基づいて課税すべきである。現在、電
気器具業界においては、パンフレツト等に表示された価格は現実の小売価格を意味
するものでないことはすでに常識であり、それよりも大巾に下廻る価格が実際の小
売価格とされるのであつて、このような措置をとることは商慣習にまでなつている
のである。本件の場合も、後述するように、プライスカードの価格は販売政策上の
名目的な価格にすぎないのであるから、右プライスカードに表示された価格を基礎
として本件処分をしたのは違法である。
(二) 第二種物品に対する物品税の課税標準を算定するについては、法一一条一
項二号に基づいてするのが原則であつて、法一三条一項はあくまで例外的な規定で
ある。すなわち、法一三条一項は、専ら納税者の便宜を図つた納税方法を定めるも
のであり、納税者の利益のための規定である。租税法の実質課税の原則から考えて
も、納税者は原則として実際の卸販売価格に基づいて課税される法一一条一項二号
の適用を受けるべきであり、原告は法一一条一項二号の移出価格(この計算は容易
である。)に基づく税額以上の課税を負担すべき義務はなく、国家もそれ以上の税
金を国民から取り立てる権利はない。このように、法一三条一項の課税標準算定方
法の特例規定の適用を受は受ることがら、直ちに原則規定である法一一条一項二号
の適用が排除されるものではなく、法一一条一項二号によつて本件扇風機の課税標
準を算出することは何らさしつかえないのであつて、法一三条三項但書に該当する
場合にのみ、法一一条の原則規定にかえるというわけではない。いうまでもなく、
法一三条は懲罰規定ではないのであるから、本件の場合においては、法一三条の
「当該小売価格」の意義につき被告主張のように解すべきものとするならば、むし
ろ、原則規定であるとともに原告にとつて有利となる法一一条一項二号の適用を認
めるべきである。
(三) ところで、被告が課税標準算出の根拠としたプライスカードの小売価格
は、次のような理由から法一三条一項の「当該小売価格」ということはできない。
すなわち、右高額プライスカードは、原告が製造し移出した全製品について付され
ていたものではなく、原告の取引先の一つである小泉産業に対して移出した商品に
のみ付されていたにすぎないものである。小泉産業は、原告の大口の取引先ではあ
るが、その取引高は概ね原告の全取引高の約半数以下である。
更に、右高額プライスカードの小売価格は、実は小泉産業が一方的に決定した価格
であつて、何ら原告自身の意思によつて決定されたものではない。法一三条一項の
「当該小売価格」とは、納税者である原告自身が小売価格と考え、原告自身の4意
思により小売価格と決定されたものでなければならないと解すべきところ、右高額
プライスカードは前記のごとく小泉産業の一方的決定によるものであつて、原告自
身はこれに表示された価格をもつて本件扇風機の小売価格と考えたこともなけれ
ば、そのように決定したこともない。更にまた、小泉産業自身にしても、右プライ
スカードの価格をもつて実際の小売価格とする意思はなく、ただ営業政策上、本件
扇風機の価格をいく分高めに表示しておき、実際に小売販売する場合に値引き幅を
大きくすることにより顧客の購買心を誘い販売高を伸ばそうとするものであつて、
右高額プライスカードに表示された小売価格は、いわば見せかけの幻の小売価格で
ある。このように一般消費者に対しては、実際の小売価格よりも高目の価格を表示
したパンフレツトないしはプライスカードを添付することは、電気器具業界では常
識であり、商慣習となつている。
以上のように、原告の意思に基づかずに決定されたものであるうえ、全移出製品の
一部についてのみ付されたにすぎず、かつ、小泉産業においても実際の小売価格と
する真意を有していなかつた右プライスカードの小売価格は、右いずれの点からも
法一三条一項所定の「当該小売価格」ということができず、従つて、当該小売価格
が存在しないこととなるので、同条三項但書前段の「当該物品が同項(同条一項)
の規定に該当しないこととなつたとき」にあたるものと解されるから、結局、本件
の場合、同条項の適用はないものと解さなければならない。法一三条は法一一条の
特例規定であるから、特例規定の適用がなければ、原則的規定である法一一条が適
用されるのは法の一般的常識である。従つて、本件扇風機の課税標準な算定するに
ついては法一一条一項二号の適用が認められるべきである。
しかるに被告は、前述のとおり、到底法一三条一項所定の「当該小売価格」に該当
しない前記高額プライスカードに表示された小売価格を基礎として、課税標準を算
出したのであるから、被告の本件処分は違法である。
(四) 仮にそうではないとしても、前述のように右高額プライスカトドは、原告
より小泉産業に対して移出された扇風機についてのみ添付されていたのであり、そ
れ以外の取引先に対して移出した扇風機については、前記のプライスカードは全く
添付されていなかつたのであるから、この扇風機につき右プライスカードの価格を
基礎として課税標準を算出した被告の本件処分は違法というべきである。
(五) 仮に、以上の主張が理由がないとしても、法一三条一項の「当該小売価
格」とは、同条二項により国税庁長官が確認した小売価格を指すものと解すべきで
ある。国税庁長官の確認を受けた小売価格が存在した場合、それと異る小売価格が
表示されたとしても、その表示された小売価格が直ちに国税庁長官の確認を受けた
法一三条一項の「当該小売価格」となるとする法の規定はどこにも存在しない。す
なわち、小売価格を表示する場合、製造者の意思に基づかず、一部の業者の販売政
策上の幻の価格も表示されうるのであるから(本件の場合は、まさにこのような場
合である。)、国税庁長官が小売価格を確認することになり、課税の適正を期して
いるものである。従つて、国税庁長官の確認を得る際には、同法施行令一八条一項
三号、二項により、品種ごとに小売価格を示し、その証拠書類の添付を必要として
いるのであり、価格が不相当な場合は、当然国税庁長官の確認を得ることができな
いのである。このように課税の適正を期する法の趣旨からも法一三条一項の「当該
小売価格」とは国税庁長官に確認された小売価格を指すものと解すべきであり、右
確認された価格に基づかずに課税標準を算出した本件処分は違法である。
四 原告の反論に対する被告の答弁と再反論
1 原告の反論2(一)、(二)の主張はいずれも争う。同2(三)の事実のう
ち、小泉産業に移出された扇風機にのみ高額プライスカードが添付されており、他
の業者に移出された扇風機には、プライスカードが添付されていなかつたこと及び
原告が右プライスカードの価格表示に関知せず、また、小泉産業において同プライ
スカードに表示されている価格を実際の小売価格とする意思を有していなかつたこ
とはいずれも否認し、その余の事実は不知、その余の主張は全部争う。同2
(四)、(五)の主張は全部争う。
2 被告の再反論
(一) 原告は、租税法の実質課税の原則により、本件扇風機の実勢価格を調査
し、それに基づいて課税すべき旨主張するが、実勢価格とは、物品が製造場から移
出されるときの価格ではなく、現実に消費者が購入する際の価格をいうものであ
り、法一三条一項が予定している小売価格とは異なることは明らかである。本件扇
風機につき、前述(前記二2(二)および(二)掲記)のとおり、法一三条一項の
適用を受ける以上、製造場から移出される時において、その明らかにされた小売価
格に基づいて、課税標準を算出すべきことは明らかである。
(二) ところで、第二種物品の課税標準額の算定は、法下条一項二号の規定によ
ることが原則であるが、法一三条一項には明示された小売価格を課税標準算出の基
礎とする旨の特例が規定されている。その立法趣旨は以下に述べるとおりである。
すなわち、複雑な経済社会において、多種多様な課税物品を大量的に生産、取引す
る企業において、各種の取引条件、取引方法のもとで課税物品を販売移出する際の
卸売価格は、当然ながら千差万別であり、このような卸売価格を基礎として課税標
準額を求めることとなれば、納税手続は極めて繁雑となることは避けられない。そ
こで、現実の卸売価格を基礎として課税標準を求める方法に代えて、小売価格から
標準的卸売価格を統一的に求める簡便な方法として立法されたのが法一三条一項で
ある。つまり、企業が消費者に向けて明らかにした小売価格を基準として、販売業
者の通常の利潤及び費用、製造者が販売のため通常支払う運送費等を控除し、標準
的卸売価格を帰納的に求め、これによつて単一的課税標準を求めようとするもので
ある。従つて、法一三条一項は、法一一条一項二号の特例を規定するものというこ
とができるが、そのねらうところは、必ずしも原告の主張するように、単に納税者
の便宜ないしは利益のみを図るものではなく、むしろ、課税標準の合理化と徴税の
便宜に資するをもつて本旨とするものというべきである。
ところで、法は、第二種物品の課税標準の算定方法につき、原則的規定である法一
一条一項二号によるか、あるいは特例規定である法一三条一項によるかは一応納税
者の選択に委ねているものと解されるが、一旦、法一三条の適用を受けるため同条
二項により国税庁長官の確認を受けた後においては、法一三条三項本文により、当
該物品の課税標準は「第一項の規定により計算した金額とする。」と一義的に定め
られ、爾後においてその適用を受けずに法一一条一項二号の適用を受けるために
は、法一三条三項但書の定めるところにより、その不適用の旨を届出るか、所定の
不該当の事由が生じない限り、法一三条一項による課税標準の算定方法が強制され
るものと解すべきであり、この点に関する原告の主張は失当である。
(三) 原告は、前記プライスカードが添付されたのは、原告より小泉産業に移出
された扇風機だけに限られており、それは原告からの全移出量の一部にすぎず、し
かも、その価格は小泉産業が一方的に販売政策上決めたもので、原告の意思によつ
て決定されたものではない旨主張するが、そのような事実はなく、原告は、扇風機
の移出数量を上廻る数量のプライスカードの作成を合資会社信陽堂(以下信陽堂と
いう。)に発注し、これをすべての扇風機に添付して移出したものであつて、右プ
ライスカードの作成添付はすべて原告の責任でなされたものである。もつとも、原
告は、前記プライスカードのほかに、別表一の「納税申告の基礎とした小売価格」
欄に記載したとおりの価格を表示した別種のプライスカード(以下これを低額プラ
イスカードという。)をも信陽堂に発注して作成しているが、その作成数量は極め
て少数であるうえ、そのうちいくらかは原告自身に保有されたままとなつていたの
であり、このプライスカードが移出される扇風機に添付された事実は全然認められ
ない。むしろ、原告は、このプライスカードを国税庁長官に対する確認申請あるい
は所轄税務署長に対する機種変更届等に使用したにすぎず、いわば税務対策用のプ
ライスカードであつたといわざるを得ない。そして現実に使用されたのは、前記
「明示小売価格」を表示した高額プライスカードであつたことは明らかである。
原告が昭和三九年六月から昭和四二年九月までに移出した扇風機の機種、移出数
量、右の二種のプライスカードの作成数量及び低額プライスカードのうち原告の保
有していた数量などの関係は別表一記載のとおりである。
(四) 原告は、法一三条一項の「当該小売価格」とは、国税庁長官の確認した価
格である旨主張するが、前述のように、これは同法施行令一七条、同法施行規則一
二条一項の規定に従つて明らかにされた小売価格をいうものであつて、国税庁長官
の確認を受けるために提出した確認申請書に記載した小売価格をいうものではな
い。右国税庁長官の確認とは、法一三条一項の適用を受けうるか否かを確認するに
すぎないのであつて、何か明示された小売価格であるかを確認するものではない。
確認申請にあたり提出される申請書には小売価格を記載することとなつているが、
それはあくまでも申請時において申請者が予定している価格であるにすぎないので
あつて、現実に移出する時にその価格が明示されていなければ、課税の根拠とする
ことはできないものである。
第三 証拠(省略)
○ 理由
一 請求原因1ないし3の事実は全部当事者間に争いがない。そこで、被告による
本件処分の適法性につき判断する。
二 まず、本件課税の根拠法規について検討する。
1 物品税法上第二種の課税物品の課税標準の算定方法は、原則として法一一条一
項二号の定めるところによるものである。すなわち、「第二種の課税物品で製造者
が当該物品の製造に係る製造場から移出したもの」の課税標準は、その「移出の時
において通常の卸取引数量により、かつ、通常の卸取引形態により、その製造場で
行なうと否とを問わず、あらゆる購入者に対して自由に販売のために提供するもの
とした場合における当該物品の販売価格に相当する金額」によるものとされてい
る。
しかし、例外的に法一三条一項による課税標準の特例の適用が認められる。同条項
によれば、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」に規定する再販売
価格(いわゆる小売価格)維持契約により、小売価格が定められていることその他
の事由により、製造場から移出される時において小売価格が明らかにされている物
品の課税標準は、当該小売価格から、販売者の通常の利潤など政令で定めるところ
により計算した金額を控除した金額(控除額は、同法施行令一七条、同令別表第二
によれば扇風機については明示された小売価格の四一パーセント相当額及び当該物
品に課せられるべき物品税額に相当する金額の合計額である。)とすることかでき
るものと定められている。そして、この適用を受けるためには、あらかじめ品名ご
とにその旨を国税庁長官に申請し、確認を受けなければならない(法一三条二
項)。なお、証人a、同bの各証言によると、法一三条一項により課税標準を求め
ることが許される場合を一般に「一定率の適用」と指称していることが認められる
(以下「一定率の適用」というときは法一三条一項の適用による場合を指す。)。
2 そこで、法一一条一項二号と一三条一項とをその立法趣旨等の観点から比較衡
量してみるに、法一一条一項二号は、取引関係における市場価格、すなわち、自由
競争のもとにおける価格は当該物品の適正な時価を示すものとし、正常な取引関係
において適正な時価で取引される実際販売価格はそのまま適正な当該物品の課税標
準たりうるものとの見地に立つものであつて、その点ではより実質課税の原則に添
うものということはできるのであるが、その計算は繁雑であつて、納税手続上の非
能率性が顕著である。のみならず、同一物品であつても取引条件により移出時の卸
販売価格が異るという不合理を生ずる可能性がある。これに反し、法一三条一項の
場合は、右繁雑さを克服し、納税手続上の能率向上を期待できるうえに、その基礎
となる小売価格は販売契約に左右されることなく、従つて、同一物品同一税負担の
原則に近づくことができる利点がある反面、実際の卸販売価格を把握することを放
棄し、製造場から移出される時に明示されている小売価格を一応最終的に消費者に
販売される際の価格と見なして、そこから中間の利益など一定の額を控除すること
により、卸販売価格を推定しようというものであつて、納税手続上の簡便さを実現
するために、課税標準の基礎となる卸販売価格の査定に関して、一定の擬制と技術
性を導入したものということができる。
以上を要するに、法一三条一項の立法趣旨は、物品税納税手続の簡易化及び能率化
を目指し、かつ、同一物品に対する物品税を均一化しようとするところにあると解
するのが相当である。
3 ところで、原告が国税庁長官に対し法一三条一項による一定率の適用を受ける
ための確認申請をして、昭和三九年六月三日付でその確認を受けたこと並びに同確
認において、右の適用を受け始める日を同月一日と指定されたことは当事者間に争
いがない。
原告は、租税法上の実質課税の原則から、原告の本件扇風機の実勢価格を調査した
うえ、その実勢価格が、国税庁長官に対する確認申請の際に屈出た価格よりも高い
場合にはその実勢価格に基づいて更正決定などがなされるべきである旨主張する。
しかしながら、前記のとおり、原告は本件扇風機の課税標準の算定方法につき、国
税庁長官より法一三条二項の確認を受けたことによつて、同条一項の規定による一
定率適用を受けることが確定したものであり(このことについては更に後述す
る。)、また、前述のとおり、法一三条一項が適用される以上、同法施行令一七
条、同法施行規則一二条の定めるところにより明示された小売価格をもつて現実の
小売価格と見なし、これを基礎として課税標準を算出するものとしており、他方、
一旦法一三条一項の適用を受けることになつた課税物品については同条三項但書所
定の事由が発生した場合に限り右適用が除外されるものと解すべきところ、原告の
本件扇風機の課税においては、本件各証拠によるもかかる適用除外事由は認められ
ないから、原告主張のように実勢価格すなわち現実の小売価格を課税標準算定の基
礎とすることは、右各法令の趣旨から許されないことは明らかであつて、原告の右
主張は採用できない(租税法上の実質課税という一般的原則から直ちに原告主張の
ごとき結論を導き出すことはできない。)。
4 次に、原告は、法一三条が納税者の利益のために立法されたものであり、か
つ、法一一条に対する例外規定であること、同じく法一三条が懲罰規定ではないこ
と、などの理由から、原告が法一三条一項の適用を受けることとなつた後にも、そ
の選択により法一一条一項二号の適用を受けることが可能である旨主張する。なる
ほど、前述のとおり、法一三条一項の趣旨とするところは納税手続の簡易化、能率
化を図るものである点において、納税者の便宜を考慮した面の存在することは否定
できないが、それが総てではなく、その反面において先に判示したごとく税務当局
の徴税上の便宜、能率化に資する面も重要なものとして考慮されているのであるか
ら、一定率の適用を受けるべく国税庁長官の確認を受けた以上、法一三条一項の規
定によつてのみ課税標準を算出すべきものと解するのが相当であつて、法一三条三
項但書、四項に該当する事情の生じない以上、法一一条一項二号の適用を考慮する
余地はないものというべきである。法一三条一項が懲罰規定でないことは明らかで
あるが、だからといつて右の結論が左右されるものでないことはいうまでもない。
よつて、原告の前記主張は採用できない。
三 次に、一定率の適用による場合、原告の本件扇風機について、一体、法一三条
一項所定の明示された小売価格に該当するものは何かという点につき検討する。
1 同法施行令一七条によれば、法一三条一項にいわゆる「製造場から移出される
時において小売価格が明らかにされている第二種の課税物品で政令で定めるもの」
とは、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」二四条の二(再販売価
格維持契約)に規定する再販売価格を決定し、これを維持するための契約により、
または大蔵省令で定める方法により、小売価格が明らかにされているものを指すの
であるが、右大蔵省令で定める小売価格を明らかにする方法とは、同法施行規則一
二条一項によれば、当該物品をその製造に係る製造場から移出する前において、当
該製造者などが一般日刊新聞に小売価格を広告する方法、あるいは、同じく製造場
から移出する前において、当該製造者などが当該物品又は当該物品の包装、容器、
説明書等で消費者に入手されるものに小売価格を表示する方法を指すものであるこ
とが明らかである。
ところで、本件の場合、原告がその製造にかかる扇風機を移出する際、プライスカ
ードを添付して小売価格を明示していたこと自体は当事者間に争いがないところ
(但し、プライスカードが全部の扇風機に付されていたか、一部にのみ添付されて
いたかについては争いがあるが、この点については後に判断する。)、右プライス
カードは、前記の当該物品又は当該物品の包装、容器、説明書等で消費者に入手さ
れるものに該当するものと解することができる。
2 原告は、本件扇風機に添付されたプライスカードが小泉産業の一方的意思決定
によるものであり、かつ、その価格は販売政策上のものであつて、原告はこれが添
付につき何ら関知していないと主張するので、この点につき判断するに、成立に争
いのない甲第二号証、乙第八号証、第九号証の一ないし五、いずれも原本の存在及
び成立につき争いのない甲第一号証、乙第一六、第二二号証、証人bの証言により
真正に成立したものと認められる乙第二ないし第七号証、証人a、同c、同bの各
証言を総合すると、次の事実を認めることができる。
原告は主に小型扇風機とドライヤーを製造販売している電気器具メーカーである
が、その製造する小型扇風機(その機種は別表一の「機種」欄記載のとおりであ
る。)の主な卸販売先は、昭和三四年ごろから取引を始めた大阪に本社を持つ小泉
産業であつた。小泉産業は、小型扇風機については、昭和三九年ごろから昭和四三
年ごろまでの間において、その取扱う商品のほとんど全部を原告から仕入れ、原告
も右の期間においては小型扇風機の全生産量の約八割を小泉産業に卸売りしてお
り、両者の取引関係は相当に緊密であつた。特に、原告にとつては小泉産業は重要
な取引先であつたことから、その原告に対する立場は非常に強く、小型扇風機の仕
入れ契約あるいは同扇風機の小売価格の決定などにおいては、ほとんど小泉産業側
の意思によつて交渉がまとまる傾向にあつた。小型扇風機の仕入れ契約の交渉は、
毎年一、二月ごろ原告側のd、eと小泉産業側の東京営業所長fあるいは大阪本社
の山本商品第一部長らとの間で行なわれ、右商品価格は前年度の仕入れ価格などを
参考にして決定された。そして、本件扇風機の場合は、原告の製造場(現在は東京
都葛飾区<以下略>所在の原告の奥戸工場であるが、昭和四〇年ごろそこに移転す
る以前は、同区<以下略>に存していた。)において、製品を包装する際に製品と
ともに小売師格を表示した直径五センチメートルほどの丸型のプライスカードを一
緒に密封し、そのプライスカードを消費者に提示することにより、小売価格が消費
者に明示されることとなるが(このころ原告が製品にプライスカードを添付してい
たことは当事者間に争いがない。)、そのプライスカードに表示される小売価格の
決定に関しては、毎年二月ごろ小泉産業の主催で夏物電気器具の展示会を行ない、
二、三年前からの各メーカーの小売価格の動向を参考にしながら小泉産業側が主導
的立場に立つてその小売価格案を原告側に提示し、原告がそれを了承するという形
で決定されるのが通例であつた。
ところで、電気器具業界においては、消費者に示される製品のパンフレツト、単価
シールなどに表示されている小売価格は、必ずしも実際に予想される小売価格と同
一ではなく、それよりも二、三割ほど高目になつているものであり、これは、実際
に小売する場合に値引き幅を大きくすることを可能ならしめ、営業成績を上げよう
とする販売政策から考え出されたものであるが、このことは、すでに同業界におい
て慣習的なものとなつている。そこで、小泉産業も、原告の扇風機に付されるプラ
イスカードに表示されるべき小売価格を決定するにあたつては、予想される実際の
小売価格よりも約二、三割ほど高目にするようメーカーである原告に働きかけ、原
告が消費者に対する信用保持の観点からかかる高額表示に難色を示したこともあつ
た(昭和四一、四二年ごろ)が、結局、取引関係において優位に立つ小泉産業が自
らの意思を押し通し、原告もこの小売価格を了承せざるを得ないという形で決定さ
れるのが常であつた。こうして小売価格が決定されると、原告は信陽堂に発注して
右小売価格を表示したプライスカードを印刷、作成したうえ、これを原告の製造場
において扇風機とともに包装し、消費者に提示されるまでに卸問屋、小売業者によ
つて右プライスカードが差し換えられるようなことはなかつた(もつとも、原告は
右プライスカードとは別にこれにより低額の小売価格を表示したプライスカード
《低額プライスカード》を作成していたが、この点は後にふれることとする。)。
右の認定に反する証拠はない。
3 右の事実によれば、前記プライスカード(高額プライスカード)に表示された
小売価格の決定過程において、原告がその立場上優位にある小泉産業の意思にそむ
ぎえなかつたとしても、最終的には、なお原告自らの意思と責任で右価格とするこ
とを決定したものというべきであるから、原告がこれを表示した前記プライスカー
ドを製品に添付したのは、同法施行規則一二条一項にいう「当該製造者(中略)
が、当該物品又は当該物品の包装、容器、説明書等で消費者に入手されるものに小
売価格を表示する」ことに該当すること明らかである。従つて、原告の前記主張は
理由がない。
四 1 次に、原告は、被告が本件処分の基礎とした小売価格を表示した示した荊
記高額プライスカードは、原告から小泉産業へ移出した扇風機のみに付されていた
ものと主張するのでこの点につき検討すると、前顕甲第二号証、乙第一ないし第七
号証、いずれも成立に争いのない乙第一一号証、第一二ないし第一四号証の各一、
二、第二三号証、いずれも原本の存在及び成立につき争いのない乙第一五ないし第
二一号証、証人c、同bの各証言に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実を認める
ことができる。
原告は毎年三月ごろ、前記認定のとおり、高額プライスカードと低額プライスカー
ドの二種のプライスカードを信陽堂に発注して作成していた(但し、昭和四〇年度
には右低額プライスカードを作成していない。)。しかし、右低額プライスカード
は、毎年せいぜい一〇〇ないし四〇〇枚ほどしか作成されず、それは信陽堂がいず
れも原告に対するサービスとして、無料で印刷したものであり、その表示された小
売価格は、別表一の「納税申告の基礎とした小売価格」欄記載の金額であつて、例
えば、LF五七〇では高額プライスカードが四、一〇〇円であるのに対し、低額プ
ライスカードが二、九〇〇円であつた。原告は、右低額プライスカードを専ら国税
庁長官や被告に対して提出する確認申請書や機種変更届出書などに添付するために
使用するほかは全く利用せず、他への流用は禁止していた(昭和四二年度に移出さ
れたNF六六〇型扇風機用の低額プライスカードのうち原告の手許に残存するもの
については、袋に入れて使用禁止の表示が付されていたものであり、このことは右
事実を裏付けるものである。)。
原告の東京本社から大阪、札幌、仙台、福岡等に所在する営業所や出張所に対し小
型扇風機が移出される際も高額プライスカードのみが添付され、低額プライスカー
ドが同時に添付されることはなく、前記営業所及び各出張所の係員らには、同一機
種に前記のごとく小売価格の異なる高低二種のプライスカードが作成されているこ
とさえも知らされていなかつた。そして、原告から小泉産業に移出された扇風機に
ついてはもとより(これが全製品の約八割に当る。)、他の移出先に対するものに
ついても、添付されたプライスカードはすべて高額プライスカードのみであつた。
そして、右高額プライスカードに表示された小売価格は、別表一の「高額プライス
カード」欄の「明示小売価格」欄記載の金額(別表四の「明示小売価格」欄記載と
同一)であつた。
証人bの証言のうち、右認定に反する部分は採用できず、その他右認定を動かすに
足りる証拠はない。
2 ところで、前顕乙第二号証によれば、原告の納税関係の責任者であるbは、葛
飾税務署員aの質問に対し、昭和三九年度においては同年六月三日に国税庁長官の
確認を受けてから約一か月経過して後に高額プライスカードやパンフレツトを作成
したものであるように記憶している旨述べていることが認められるが、仮にそうで
あつたとしても、前頭甲第一号証、乙第一六、第二二号証によれば、原告の扇風機
については、原告自身が作成するパンフレツトのほかに、大手の卸問屋である小泉
産業自身で作成する消費者向けのパンフレツトが存し、そのパンフレツトには、昭
和三七年ごろから原告の製品の小売価格が表示されていて、消費者に提示されうる
状態にあつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。従つて、昭和三九年六
月中に原告が移出した本件扇風機について、仮にその全部に原告自ら高額プライス
カードを添付した事実がないとしても、同プライスカードに表示されたと同額の小
売価格が小泉産業の作成に係る消費者向けのパンフレツトに表示されている限り、
同会社と原告との間の前記認定のごとき緊密な取引関係に照らせば、原告においで
右パンフレツトにする価格の表示を容認していたものと推認すべきであり、結局、
右パンフレツトに小売価格が表示されていることをもつて製造者たる原告が小売価
格を明らかにしたものと解することが相当である。してみれば、昭和三九年六月中
に移出した本件扇風機についても、その課税標準は別表一の「明示小売価格」欄記
載の価格を基礎にして、法一三条一項によりこれを算出すべきものといわなければ
ならない。
3 以上の事実によれば、結局、本件処分の対象となつた原告が移出した扇風機に
は単に小泉産業に対するもののみならず、その他の移出先に対するものをも含めて
全部高額プライスカードが添付されていたか、あるいはそれに類する方法とみられ
る消費者に対するパンフレツトに表示する方法により前記の「明示小売価格」が表
示されていたものと認めることができるから、右認定に反する事実に立脚する原告
の前記主張は採用できない。また、本件の場合、法一三条三項但書に該当する事由
が存する旨の原告の主張も、以上述べたところにより採用できないことは明らかで
ある。
五 更に、原告は、法一三条一項にいわゆる「当該小売価格」とは、国税庁長官の
確認を受けたものでなければならない旨主張する。しかしながら、法一三条二項所
定の国税庁長官の確認とは、第二種物品の課税標準の算定につき、原則規定である
法一一条一項二号の適用を排除し、法一三条一項の一定率の適用を許容する趣旨の
ものであつて、いわば法一三条一項の規定の適用要件であるということができる。
従つて、右確認の趣旨は、指定された日以後の課税標準の算出は、法一三条一項に
よる旨を確定するにとどまり、それ以上に何が法一三条所定の「当該小売価格」で
あるかについては、前述のとおり、同法施行令一七条、同法施行規則一二条一項に
規定されているのである。
もつとも、同法施行令一八条一項、二項によれば、右確認申請に際しては、当該物
品の小売価格を申請書に掲記しなければならず、更に小売価格が明らかであること
を証する書類その他の物件を添付しなければならないこととされているが、これは
必ずしも右確認の際に課税標準の基礎となる明示された小売価格を確定しようとす
るものではなく、申請者につき、以後法一三条一項の方法で課税標準を求めること
が可能な状況にあるか否か、換言すれば、法一三条二項の確認を与えうる状況にあ
るか否かについての資料を求めるものにほかならないと解すべきである。よつて、
原告の前記主張が失当であることは明らかである。
六 1 そこで、本件更正等処分の課税標準額及び税額につき検討する。
法二九条二項によれば、第二種物品の製造者は毎月課税標準たる金額及び税額を記
載した申請書を翌々月末日までに所轄税務署長に提出しなければならない旨定めら
れており、また、法三一条二項によれば、第二種物品の物品税はその毎月分を申告
書の提出期限である翌々月末日までに納付しなければならない旨定められている。
従つて、本件の扇風機についても、その課税標準額及び税額は毎月確定されなけれ
ばならないものであるから、その確定のためには、本件扇風機の毎月の明示小売価
格及び移出数量の確定を要するところ、明示小売価格が別表一ないし四の「明示小
売価格」欄記載の金額であつたことは前記認定のとおりであり、また、前頭乙第六
号証とその方式及び趣旨により真正に成立した公文書と推定すべき乙第二八号証の
一ないし三によれば、本件更正等処分がされた各月において、原告がその製造場か
ら移出した各種の扇風機の移出数量の明細は、別表四の「移出数量」欄記載のとお
りであることが認められ、右認定に反する証拠はない(もつとも、被告は各年度別
の各種扇風機の移出数量を特定して主張し(昭和四五年八月一八日付、昭和四六年
六月七日付各準備書面》、原告も右数量を認めているが、もともと物品税は各月ご
との課税標準を基礎として課税されるものであるから、当裁判所は原告の右自白に
もかかわらず証拠によつて各月ごとの移出数量を認定した。その結果は、各月ごと
の右認定数量を各年度ごとに合計した場合、当事者間に争いのない前記数量と若干
の齢齬がみられるが、当裁判所としては前記認定したところに拠らざるをえないの
である。)。
そこで、前記認定の各月ごとの移出数量(別表四の「移出数量」欄記載のとおり)
と明示小売価格(別表一、別表四の各「明示小売価格」欄記載のとおり)に基づ
き、法一三条一項、同法施行令一七条により課税標準額を算出すると、別表四の
「課税標準(全部)」欄記載のとおりとなり(なお、同表の「課税標準(一個)」
欄は、各種扇風機の一個当りの課税標準額である。)、各月の税額は同表の「税
額」欄記載のとおりとなる。そして、別表二の本件更正処分の課税標準額と別表四
の前記認定の課税標準額とを対照して見れば明らかなように、本件更正等処分につ
き、昭和四〇年三月分の課税標準額を一、〇〇〇円と認定した点、昭和四一年七月
分の課税標準額を一三、四四四、〇〇〇円を超えて一五、〇五〇、〇〇〇円と認定
した点、同年八月分の課税標準額を二、〇七一、〇〇〇円を超えて二、一三〇、〇
〇〇円と認定した点、昭和四二年五月分の課税標準額を二一、五〇七、〇〇〇円を
超えて二一、五〇九、〇〇〇円と認定した点、同年六月分の課税標準額を二七、一
五六、〇〇〇円を超えて二七、一八六、〇〇〇円と認定した点及び同年七月分の課
税標準額を二一、三九三、〇〇〇円を超えて二一、三九九、〇〇〇円と認定した点
は、いずれも違法であつて、取り消されるべきことが明らかである。
2 次に本件決定等処分の課税標準額につき検討する。
原告が別表三の「課税月分」欄掲記の各月に所定の納税申告をしなかつたことは当
事者間に争いがない。そして、前顕甲第一、第二号証、乙第二二号証、証人a、同
bの各証言によれば、扇風機の需要は、毎年春先から夏にかけて集中しており、秋
から冬期にかけてはほとんど扇風機が移出されることはないけれども、稀にはごく
少数ながら移出されることがあることが認められ、右認定に反する証拠はない。と
ころで、本件決定処分の対象となつた別表三の「課税月分」欄記載のとおりの各月
の扇風機の移出数量につき、これを直接認めるに足りる証拠はないが、弁論の全趣
旨によれば、原告は、本件訴額全体からみて極めて僅少部分にすぎない本件決定処
分の課税標準額(六四、〇〇〇円)、税額(一一、七〇〇円)及び無申告加算税額
(五〇〇円)については、その数額な明らかに争わないものと認められるので、こ
れを自白したものとみなすべきである。
そうすると、本件決定等処分には原告主張の違法はない。
七 以上によれば、本件処分のうち、本件更正等処分の次の部分は違法というべき
であるが、その余については原告主張の違法はない。
(1) 昭和四〇年三月分の処分
(2) 昭和四一年七月分の処分のうち、課税標準額が一三、四四四、〇〇〇円を
越える部分
(3) 同年八月分の処分のうち、課税標準が二、〇七一、〇〇〇円を越える部分
(4) 昭和四二年五月分の処分のうち、課税標準が二一、五〇七、〇〇〇円を越
える部分
(5) 同年六月分の処分のうち、課税標準が二七、一五六、〇〇〇円を越える部

(6) 同年七月分の処分のうち、課税標準が二一、三九三、〇〇〇円を越える部

よつて、原告の本訴請求中、本件更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち
右(1)ないし(6)の部分の取消しを求める限度で理由があるからこれを認容
し、その余は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法
八九条、九二条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 高津 環 牧山市治 慶田康男)
別表一、二(省略)

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