弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を取消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方は、原判決の事実の部に記載せられたとおり、事実上の主張、証拠の
提出、援用、認否をたし、かつ控訴人は、甲第一号証の一、二と甲第二号証の一、
二とは同一書証であつて、甲第一号証の一、二は裏書抹消前に提出されたものであ
り、甲第二号証の一、二は裏書抹消後甲第二号証の三の附箋を附し、書証審号を変
更して提出したものであると述べた。
         理    由
 控訴人が被控訴人にあて、昭和二十五年一月三十一日、金額百万円、満期同年二
月二十八日、振出地、支払地ともに甲府市、支払場所株式会社山梨中央銀行と定め
た約束手形一通を振出したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二
号証の一、原審証人Aの証言により真正に成立したと認める甲第二号証の二、三に
よれば、右手形の受取人として所持人となつた被控訴人は、昭和二十三年三月十三
日右約束手形を株式会社八十二銀行上田支店に裏書譲渡し、同支店は同日株式会社
山梨中央銀行に取立委任のため裏書譲渡し、同銀行は満期の翌々日である昭和二十
五年三月三十一日に支払場所に呈示したが、支払を拒絶せられたこと、株式会社八
十二銀行上田支店は右手形を被控訴人に返還した後、昭和二十五年八月三日(本訴
提起後)裏書部分をすべて抹消したことを認めることができる。このように裏書が
すべて抹消された以上裏書の連続については抹消された裏書は存在しないものとみ
なされるのであり、且つ本件手形(甲第二号証の一)が現に被控訴人の手中に存す
るのであるから被控訴人は現に本件手形の正当な所持人であるというべきである。
 よつて進んで控訴人の主張する本件手形は繭及び生糸売買代金支払のために振出
されたものであるが、右売買は経済統制法規に違反する無効の法律行為であるから
控訴人に右売買代金支払の義務なく従つて本件手形上の債務を履行する義務がない
との抗弁について判断する。成立に争のない乙第一号証、原審における控訴人(被
告)本人尋問の結果及びこれによつて真正に成立したと認める乙第三号証、原審証
人B、同Cの各証言を綜合すれば、控訴人は被控訴人から、(一)昭和二十四年三
月三十日、控訴人主張のとおり本繭及び生糸を代金合計三百十七万五千三百八十円
にて買受け、(二)同年四月二十九日控訴人主張のとおり本蘭、選除繭及び生糸を
代金四百九十四万二千五百五十四円にて買受け、その都度現物の引渡を受けたこ
と、その後数回にわたつて、控訴人は被控訴人に右代金を分割弁済した残額が、昭
和二十四年七月十九日現在において金三百万円あつたこと(右金額は乙第一号証に
よつて認める)、控訴人は、被控訴人に同年十月十四日右残額代金の内金として金
十万円を支払い、その頃残額金二百九十万円の支払のために、約束手形三通を被控
訴人にあてて振出したこと、その後控訴人は被控訴人に金九千七百円を支払い昭和
二十五年一月三十一日には被控訴人との間に残債務を金二百八十九万円と協定し、
右約束手形三通の書替手形として同日金額百万円の約束手形二通金額八十九万円の
約束手形一通を振出したこと、本件手形は右書替手形三通のうちの一通であること
を認めることができる。
 しかして、本件繭及び生糸売買の時である昭和二十四年三月三十日及び同年四月
二十九日には本繭については、臨時物資需給調整法(昭和二十一年法律第三十二
号、同年十月一日公布)に基く上繭集荷割当規則(昭和二十四年農林省令第十号、
同年二月十六日公布)、選除繭については、蚕糸業法施行令第五条の規定に基く玉
繭、屑繭、副蚕糸及び真綿統制規則(昭和二十一年農林省令第七十号、同年十二月
五日公布)、生糸については、前記臨時物資需給調整法に基く指定生産資材割当規
則(昭和二十三年総理庁令、法務庁令、大蔵省令、文部省令、厚生省令、農林省
令、逓信省令、労働省令第一号、同年六月十五日公布)が施行されており、繭及び
生糸は、右法令に定められた場合の外は、何人もこれを譲渡し、何人もこれを譲受
けてならなかつたことが明かである。しかるに、前記認定の繭及び生糸の被控訴人
から控訴人に対する譲渡が右法令に定められた場合に該当したいことは当事者間に
争のないところであり、右諸法令は、いわゆる配給統制に関するもので、戦後破綻
に瀕していた我が国の経済産業を回復、振興し並びにこの種物資の需給調整、輸出
振興することを目的とした公の秩序に関する強行法規であることは多言を要しない
ところであるから、本件繭及び生糸の売買契約は、これらの諸法令に違反して繭及
び生糸を譲渡することを目的とした、即ち公の秩序に反する事項を目的とした無効
の法律行為なることは明かであつて、当時控訴人は被控訴人に対し右売買代金支払
の義務はなかつたのである。
 ところが被控訴人は、右売買代金残額支払のため本件手形を振出した当時には既
に右統制法令は廃止されていたのであるから、控訴人被控訴人間の本件手形の振出
及び交付により、当事者双方は右売買の無効なことを知つて追認したものというべ
く、従つて本件手形は有効な売買の代金支払のために振出された有効のものであ<要
旨>ると主張しているので、進んで、この点について判断する。前掲上繭集荷割当規
則及び玉繭、屑繭、副蚕糸及び真綿統制規則はともに昭和二十四年農林省令
第四十三号で同年五月二十七日に廃止せられそれにより繭に関する配給統制が撤廃
され、また昭和二十四年農林、通商産業省令第二号で、同年七月一日から生糸が指
定生産資材から削除せられ、生糸に関する配給統制が撤廃されたのであるから、そ
の後に前掲本件当事者間の各売買契約が締結されたとすれば、勿論それに有効であ
り、従つて新たに契約を締結しなくても、当事者が前になした売買の無効なことを
知つて追認すれば民法第百十九条但書の規定により、そのときに新たな売買契約を
なしたものとみなされてよさそうに一応考えられぬでもない。然したがら本件の場
合は、売買が無効である当時すでにその目的物の引渡を了しその代金も過半は支払
済であり、当事者は売買契約をたした目的を大半達しているのであつて、残代金の
一部支払義務の存在を合法化するため、過去において公序良俗に反し無効であつた
売買を、追認によつてそのときに新たに有効な売買が成立したと看做そうとするの
は、国家が当時当該物資の需給を統制してその違反行為を無効とし、私法上の保護
を与えなかつた趣旨からみて、今更私権保護に値しないもの、云いかえれば、かか
る場合には追認によつても新たに有効な売買が成立したと看做すことはできないも
のと解するのが相当である。しかのみならず本件一切の証拠によつても控訴人並び
に被控訴人が本件手形の振出にあたつて前記認定の売買契約が前記統制法規違反の
故に無効であることを知りながら、これを追認したものと認めることができる資料
はない。むしろ原審における控訴人(被告)本人尋問の結果によれば、控訴人は、
前記認定の売買契約が無効であるとは考えずに、右売買契約上の債務を履行するた
めに本件手形を振出したものと認められるのであるから被控訴人の再抗弁はこれを
採用することができない。
 然らば、本件手形は、前段説示のように公の秩序に反する事項を目的とする、無
効な売買契約に基く代金の残額一部支払のために振出されたもので、結局本件手形
の原因となる控訴人の債務は存在しないものであり控訴人は被控訴人に対しては本
件手形上の債務を履行する責なきものというべきである。従つて、控訴人に対し本
件手形金の支払を求める被控訴人の請求を認容した原審判決は失当であるから、こ
れを取消し、被控訴人の請求を棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八
十九条第九十六条を適用し、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 斎藤直一 判事 山口嘉夫 判事 猪俣幸一)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛