弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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     主       文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人鏡町長は,「八代郡医師会立病院建設支援ふるさと融資利子補給町村負担金」につき,未払部分の支出
命令をしてはならない。
 3 被控訴人鏡町収入役は,「八代郡医師会立病院建設支援ふるさと融資利子補給町村負担金」につき,未払部分の
支出命令をしてはならない。
 4 被控訴人Aは,鏡町に対し103万4000円及びうち62万2000円に対する平成14年4月10日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 
 5 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
 6 仮執行宣言
第2 事案の概要等(略称等は,原判決のそれに従う。)
 1(1) 本件は,熊本県八代郡鏡町の住民である控訴人両名を含む7名が,本件負担金(八代郡医師会立病院建設支援
ふるさと融資利子補給町村負担金)の支出は地方自治法232条の2及び地方財政法4条の5に反して違法であると主
張して,被控訴人鏡町長及び同鏡町収入役に対し未払部分の支出差止めを求めるとともに,鏡町長である被控訴人Aに
対して,鏡町に代わって,本件負担金のうち既に支出した分(平成13年10月分62万2000円,平成14年10
月分41万2000円)について損害賠償金及び平成13年分の62万2000円に対する訴状送達の日の翌日(平成
14年4月10日)から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
    当事者の主張は,次項2のとおり当審における主張を補足するほか,原判決の「事実及び理由」中の「事案の
概要」欄(3頁3行目から17頁末行まで)に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,6頁10行目の「
(本件負担金)額は,」の次に「平成13年から平成26年までの14年間で合計346万1000円であり,」を加
える。)。
  (2) 原審は,本件負担金の支出は違法でないとして,控訴人両名を含む7名の請求をいずれも棄却した。
(3) そこで,これを不服とした控訴人両名が,第1記載のとおり,控訴した。
(4) 当審における争点は,ア 本件監査請求は適法か,イ 本件負担金の支出に公益上の必要性(地方自治法23
2条の2)があるか,ウ 本件負担金の支出は割当的寄附禁止の規定(地方財政法4条の5)に違反するか,である。
 2 当審における補足主張
(控訴人ら)
(1) 公益上の必要性
ア 原判決は,「公益上の必要性」の判断について,地方公共団体の長に裁量権を認め,その裁量権の逸脱・濫
用があったか否かという緩やかな基準を用いたが,これは地方自治法232条の2の解釈を誤るものであり,控訴人ら
が原審で主張しているように,3つの観点(原判決9頁12行目から14頁初行まで)から検討すべきである。
イ 病院の開設許可を担当していた熊本県の担当者は,Cのγ病院の開設許可申請と八代郡医師会の郡医師会立
病院の開設許可申請とを不公平に扱った違法があるが(東京高裁平成16年12月15日判決。甲48の1,2),ふ
るさと融資制度に基づく本件負担金は,郡医師会立病院を財政面で支援して,より一層同病院開設を容易にしたもので
あり,上記不公平に扱った違法を実現させる手段そのものである(違法目的に加担するものである)から,違法であ
る。
(2) 割当的寄附金等の禁止
仮に,原判決が言うように,割当的寄附金等の禁止の規定(地方財政法4条の5)は,強制的に寄附の意思表
示をさせて,これを収納する行為を禁止しているのだと解したとしても,本件はこれに該当する。
すなわち,郡医師会は,ふるさと融資制度の活用を提案して,八代郡の各町村や町村会に対して,執拗に財政
的支援を要請し,八代郡町村会は,このような郡医師会の要請を受けて,支援やむなしという状況の下で,八代郡の各
町村の負担金を決定したのであり,八代郡内の町村が負担金の支出を拒否することは困難であった。したがって,各町
村は,いわば強制的に負担金の了承の意思表示を強いられたということができる。
現に,証人F(平成元年から平成13年まで鏡町町長。以下「F前町長」という。)は,「鏡町が日ごろ医師
会の皆さん方にいろいろと要望し,お世話になっている関係で,やはりよその町並みには出さないといけないだろうと
いうことも考えました」(証言調書68項),「他の町村が出すのに,鏡町がこれを断るということは,なかなか言い
づらいことだったと私は思います」(証言調書71項)と証言している。また,F前町長が,平成10年4月16日開
催の町村長会議において,すでに負担金の導入は決定されていたのに,同年6月10日開催の鏡町議会定例会におい
て,負担金について「現在検討中でございます。各町村がこれを了承したことはございません」と虚偽の説明をしたの
は,郡医師会の強い要請を受けた宮原町の懇請,郡医師会への協力態勢の評価,他の町村長との足並み揃え等,様々な
事実上の圧力があり,F前町長はもはや自由な意思形成ができる状況になかったことを示している。
(被控訴人ら)
(1) 公益上の必要性
病院の開設許可を担当していた熊本県の担当者が,Cのγ病院の開設許可申請と八代郡医師会の郡医師会立病
院の開設許可申請とを不公平に扱ったとしても,そのことは本件負担金の違法性に影響を与えるものではない。 すな
わち,八代郡内の町村においては,郡内に病院が皆無であったことから,徳洲会系の病院であるか,郡医師会系の病院
であるかを問わず,救急医療体制の整った総合病院の設置を強く要望していたところ,郡医師会からふるさと融資制度
の利用による財政支援の要請があり,これに応じて本件負担金を支出することによって,郡医師会立病院が開設されて
病院がない状態が改められ,休祭日,夜間を問わず24時間の診療体制を実現することができたのであって,そこには
γ病院の開設を妨害する目的はなく,熊本県の担当者の違法目的に加担したなどとはいえないのであって,本件負担金
を支出する公益上の必要性があったというべきである。
(2) 割当的寄附金等の禁止
前項(1)で述べたように,八代郡内の町村は,かねてから救急医療体制の整った総合病院の設置を強く要望して
いたことから,郡医師会立病院の設置について本件負担金を支出して財政的支援を行ったものであり,そこには何ら強
制の意味は含まれない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,原審と同様,本件監査請求は適法であり,本件負担金の支出は違法ではないから,本件各請求はい
ずれも棄却すべきものと判断する。
  その理由は,原判決の「事実及び理由」中の「第3 争点に対する当裁判所の判断」欄(18頁初行から25頁
19行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用し,当審における補足主張に関し,次項以下のとおり判断す
る。
2 公益上の必要性について
ページ(1)
 ア 控訴人らは,原判決が,「公益上の必要性」の判断において,地方公共団体の長に裁量権を認め,その裁量権
の逸脱・濫用があったか否かということを判断したことは,地方自治法232条の2の解釈を誤るものであると主張す
るが,採用できない。その理由は,原判決が判示するとおり(19頁3行目から18行目まで)である。
 イ 控訴人らは,ふるさと融資制度に基づく本件負担金は,郡医師会立病院を財政面で支援して,同病院開設を容
易にしたものであり,違法な郡医師会立病院開設許可の内容を実現させる手段そのものである(違法目的に加担するも
のである)から違法であるとも主張する。
   しかしながら,仮に,病院の開設許可を担当していた熊本県の担当者が,γ病院の開設許可申請と郡医師会立
病院の開設許可申請とを不公平に扱った違法があったとしても,そのことは,郡医師会立病院の開設を財政面で支援す
るためにした本件負担金の支出行為までも当然に違法とするものではない。原判決が判示しているとおり(20頁6行
目から21頁19行目まで),被控訴人鏡町長にγ病院の開設を妨害する目的が認められず,本件負担金の支出に公益
上の必要性が認められる以上,熊本県の職員の前記違法行為があったとしても,本件負担金の支出行為が違法となるも
のではない。
 ウ 寄附金の支出が「公益上の必要性」を欠き違法であるかどうかは,原判決も判示している,寄附金交付の趣旨
・目的,寄附の対象となる事業の目的・性質,議会の対応等のほか,寄附金の交付が住民にもたらす利益・効果,当該
地方公共団体の財政に及ぼす影響,動機の不正,平等原則違反等の諸般の事情を総合的に考慮した上で検討することが
必要である。
   これを本件について検討するに,引用に係る原判決認定の事実(当審で補正後のもの)によれば,本件負担金
を支出する対象となる事業は,一般病床も含む療養型病院の開設であること,本件負担金を支出する目的は,病院の建
設資金をふるさと融資制度を利用して財政面で支援することであること,本件負担金を支出して病院が開設されること
により,かねてから救急医療体制の充実を望んでいた住民の意向が実現されるほか,これからの高齢化社会にも対応す
ることができること,これによる鏡町の財政的な負担額は,14年間で346万1000円(年平均25万円弱)と比
較的少額であること,本件負担金の支出について議会の議決を経ていること,本件負担金の支出は,郡医師会からの要
請を直接の契機とするものであるが,支出を決定した主な動機は,八代郡内に病院が皆無であったことから,救急医療
体制の整った総合病院の設置が強く望まれていたことにあったとみることができること,など諸般の事情を総合する
と,本件負担金の支出について,公益上の必要性があるとした被控訴人鏡町長の判断に裁量権の逸脱・濫用を認めるこ
とは困難である。
3 割当的寄附金等の禁止について
 ア 地方財政法4条の5の「割り当てて」「強制的に徴収(これに相当する行為を含む。)する」とは,一体的な
観念であり,原判決も判示するように,権力関係又は公権力を利用して強制的に寄附の意思表示をさせて,これを収納
することを意味していると解すべきであり,寄附に応じない場合に不利益をもたらすことを暗示するなど社会的心理的
に圧迫を加える場合を含むものである。
 イ 控訴人らは,仮に,割当的寄附金等の禁止の規定(地方財政法4条の5)が,強制的に寄附の意思表示をさせ
て,これを収納する行為を禁止しているのだと解したとしても,郡医師会は,ふるさと融資制度の活用を提案して,八
代郡の各町村や町村会に対して,執拗に財政的支援を要請し,八代郡町村会は,このような郡医師会の要請を受けて,
支援やむなしという状況の下で,八代郡の各町村の負担金を決定したのであり,八代郡内の町村が負担金の支出を拒否
することは困難であったから,本件は強制的な寄附に該当すると主張し,F前町長の証言内容を援用する。
しかしながら,F前町長が,「鏡町が日ごろ医師会の皆さん方にいろいろと要望し,お世話になっている関係
で,やはりよその町並みには出さないといけないだろうということも考えました」(証言調書68項),「他の町村が
出すのに,鏡町がこれを断るということは,なかなか言いづらいことだったと私は思います」(証言調書71項)と証
言している内容は,他の町村並に寄附をすることはやむを得ないと考えていたことを意味しても,それを超えて,寄附
をしてまで病院を開設して欲しいとは考えていないのに,寄附を拒否すると何らかの不利益があることを暗示されるな
どして,これを慮って寄附をすることにしたことまでも意味するものと解することはできず,上記証言をもってして
も,本件負担金の支出が強制的に行われた寄附に当たると認めることはできない。
ウ また,控訴人らは,F前町長が,平成10年4月16日開催の町村長会議において,すでに負担金の導入は決
定されていたのに,同年6月10日開催の鏡町議会定例会において,負担金について「現在検討中でございます。各町
村がこれを了承したことはございません」と虚偽の説明をしたのは,郡医師会の強い要請を受けた宮原町の懇請,郡医
師会への協力態勢の評価,他の町村長との足並み揃え等,様々な事実上の圧力があり,F前町長はもはや自由な意思形
成ができる状況になかったことを示していると主張する。
  しかしながら,F前町長は,上記町議会定例会において,「これが今すぐという問題ではなくて,どうしても
この対応は11年度に入るというようなこともございまして,各町村ともに,現在検討中ということでございます。各
町村がこれを了承したことはございません」(甲1)と答弁しているのであって,負担金の問題は将来の問題であり,
各町村とも未だ最終決定はしていないという法律上当然のことを述べたようにも解する余地があるのみならず,仮に虚
偽の説明をしたものであったとしても,それは未だ決定されておらず,議会の意見を聴いた上で再考する余地もあると
いう姿勢を示したものと解することもできるのであって,虚偽の説明をしたことをして,F前町長が自由な意思形成が
できる状況になかったことを窺わせるとはいえず,上記主張は採用できない。
 4 以上によれば,本件負担金の支出を適法として控訴人らの各請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件
各控訴は理由がないから,主文のとおり判決する。
 福岡高等裁判所第1民事部
          裁判長裁判官  簑   田   孝   行
             裁判官  駒   谷   孝   雄
             裁判官  岸 和 田   羊   一
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