弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告人兼上告代理人山口邦明,同森徹,上告人野々山哲郎,同土釜惟次,同國部
徹の各上告理由について
1本件は,平成19年7月29日施行の参議院議員通常選挙(以下「本件選
挙」という。)について,東京都選挙区の選挙人である上告人らが,公職選挙法1
4条,別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定は憲法14条1項
等に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記選挙区におけ
る選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1)参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員の選挙につ
いて,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区
分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする
一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表
で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとした。そして,各
選挙区ごとの議員定数については,定数を偶数としてその最小限を2人とする方針
の下に,昭和21年当時の人口に基づき,各選挙区の人口に比例する形で,2人な
いし8人の偶数の議員数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法の参議院
議員定数配分規定は,以上のような選挙制度の仕組みに基づく参議院議員選挙法の
議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり,その後,沖縄返還に伴って沖
縄県選挙区の議員定数2人が付加された外は,平成6年法律第47号による議員定
数配分規定の改正(以下「平成6年改正」という。)まで,上記定数配分規定に変
更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により,参
議院議員選挙についていわゆる拘束名簿式比例代表制が導入され,各政党等の得票
に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ご
とに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが,比例代表
選出議員は,全都道府県を通じて選出されるものであって,各選挙人の投票価値に
差異がない点においては,従来の全国選出議員と同様であり,選挙区選出議員は従
来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎない。
(2)選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,参議院議員選挙法
制定当時は1対2.62(以下,較差に関する数値は,すべて概数である。)であ
ったが,その後,次第に拡大した。平成6年改正は,平成4年7月26日施行の参
議院議員通常選挙当時には1対6.59にまで拡大していた選挙区間における議員
1人当たりの選挙人数の最大較差を是正する目的で行われたものであり,前記のよ
うな参議院議員の選挙制度の仕組みに変更を加えることなく,直近の平成2年10
月実施の国勢調査結果に基づき,できる限り増減の対象となる選挙区を少なくし,
かつ,いわゆる逆転現象を解消することとして,参議院議員の総定数(252人)
及び選挙区選出議員の定数(152人)を増減しないまま,7選挙区で議員定数を
8増8減した。上記改正の結果,上記国勢調査結果による人口に基づく選挙区間に
おける議員1人当たりの人口の最大較差は,1対6.48から1対4.81に縮小
し,いわゆる逆転現象は消滅することとなった。その後,上記改正後の議員定数配
分規定の下において平成7年7月23日に施行された参議院議員通常選挙当時の選
挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対4.97であった。
(3)平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下「平成12年改
正」という。)により,比例代表選出議員の選挙制度がいわゆる非拘束名簿式比例
代表制に改められるとともに,参議院議員の総定数が10人削減されて242人と
された。定数削減に当たっては,改正前の選挙区選出議員と比例代表選出議員の定
数比をできる限り維持する方針の下に,選挙区選出議員の定数を6人削減して14
6人とし,比例代表選出議員の定数を4人削減して96人とした上,選挙区選出議
員の定数削減については,直近の平成7年10月実施の国勢調査結果に基づき,平
成6年改正の後に生じたいわゆる逆転現象を解消するとともに,選挙区間における
議員1人当たりの選挙人数又は人口の較差の拡大を防止するために,定数4人の選
挙区の中で人口の少ない3選挙区の定数を2人ずつ削減した。上記改正の結果,い
わゆる逆転現象は消滅したが,上記国勢調査結果による人口に基づく選挙区間にお
ける議員1人当たりの人口の最大較差は1対4.79であって,上記改正前と変わ
らなかった。
(4)平成12年改正後の参議院議員定数配分規定の下で平成13年7月29日
に施行された参議院議員通常選挙(以下「前々回選挙」という。)当時において,
選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対5.06であった。
最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1
号56頁(以下「平成16年大法廷判決」という。)は,その結論において,前々
回選挙当時,上記定数配分規定は憲法に違反するに至っていたものとすることはで
きない旨判示したが,同判決には,裁判官6名による反対意見のほか,漫然と現在
の状況が維持されるならば違憲判断がされる余地がある旨を指摘する裁判官4名に
よる補足意見が付された。
平成16年大法廷判決を受けて,参議院議長が主宰する各会派代表者懇談会は,
「参議院議員選挙の定数較差問題に関する協議会」を設けて協議を行ったが,平成
16年7月に施行される参議院議員通常選挙(以下「前回選挙」という。)までの
間に定数較差を是正することは困難であったため,同年6月1日,同選挙後に協議
を再開する旨の申合せをした。これを受けて,前回選挙後の同年12月1日,参議
院改革協議会の下に選挙制度に係る専門委員会が設けられ,同委員会において,現
行の選挙制度の仕組みを維持しつつ,①較差5倍を超えている選挙区及び近い将
来5倍を超えるおそれのある選挙区について較差の是正を図るいわゆる4増4減
案,②4倍前半まで較差の是正を図ることを考慮し,その選択肢として14増1
4減まで含めて検討する案のほか,③較差を4倍未満とするため現行の選挙制度
の仕組み自体の見直しを検討する案など,各種の是正案が検討されたが,本件選挙
に向けての当面の是正策としては,上記の4増4減案が有力な意見であるとされ,
同案に基づく公職選挙法の一部を改正する法律(平成18年法律第52号)が平成
18年6月1日に成立した。同改正(以下「本件改正」という。)の結果,平成1
7年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選挙区間における議員1人当た
りの人口の最大較差は,1対4.84に縮小した。また,本件改正後の参議院議員
定数配分規定(以下「本件定数配分規定」という。)の下で施行された本件選挙当
時の選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対4.86であ
った。
なお,上記の専門委員会の報告書に表れた意見によれば,現行の選挙制度の仕組
みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替える措置により較差の是正を図ったと
しても,較差を1対4以内に抑えることは困難であるとされている。また,同報告
書においては,本件選挙に向けての較差是正の後も,参議院の在り方にふさわしい
選挙制度の議論を進めていく過程で,定数較差の継続的な検証等を行う場を設け,
調査を進めていく必要があるとされた。
3憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の
投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。
しかしながら,憲法は,どのような選挙制度が国民の利害や意見を公正かつ効果的
に国政に反映させることになるのかの決定を国会の裁量にゆだねているのであるか
ら,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるもの
ではなく,参議院の独自性など,国会が正当に考慮することができる他の政策的目
的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国
会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を是認し得るものであ
る限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっ
ても,憲法に違反するとはいえない。
上記2(1)において指摘した参議院議員の選挙制度の仕組みは,憲法が二院制を
採用し参議院の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとしたこと,都道
府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治
的まとまりを有する単位としてとらえ得ること,憲法46条が参議院議員について
は3年ごとにその半数を改選すべきものとしていること等に照らし,相応の合理性
を有するものであり,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えているとは
いえない。そして,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の
変動につき,それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題
は,複雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要するものであって,その決定は,基本
的に国会の裁量にゆだねられているものである。しかしながら,人口の変動の結
果,投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにも
かかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると
判断される場合には,当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解する
のが相当である。
以上は,最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民
集37巻3号345頁(以下「昭和58年大法廷判決」という。)以降の参議院
(地方選出ないし選挙区選出)議員選挙に関する累次の大法廷判決の趣旨とすると
ころでもあって,基本的な判断枠組みとしてこれを変更する必要は認められない。
そして,当裁判所は,昭和58年大法廷判決以降,参議院議員通常選挙の都度,
上記の判断枠組みに従い参議院議員定数配分規定の合憲性について判断してきた
が,平成4年7月26日施行の参議院議員通常選挙当時の最大較差1対6.59に
ついて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていた旨判示したもの
の,いずれの場合についても,結論において,各選挙当時,参議院議員定数配分規
定は憲法に違反するに至っていたものとすることはできない旨判示してきたところ
である。しかし,人口の都市部への集中が続き,最大較差1対5前後が常態化する
中で,平成16年大法廷判決及び最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年1
0月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁においては,上記の判断枠組み自
体は基本的に維持しつつも,投票価値の平等をより重視すべきであるとの指摘や,
較差是正のため国会における不断の努力が求められる旨の指摘がされ,また,不平
等を是正するための措置が適切に行われているかどうかといった点をも考慮して判
断がされるようになるなど,実質的にはより厳格な評価がされてきているところで
ある。
4上記の見地に立って,本件選挙当時の本件定数配分規定の合憲性について検
討する。
参議院では,前記2(4)のとおり,平成16年大法廷判決中の指摘を受け,当面
の是正措置を講ずる必要があるとともに,その後も定数較差の継続的な検証調査を
進めていく必要があると認識された。本件改正は,こうした認識の下に行われたも
のであり,その結果,平成17年10月実施の国勢調査結果による人口に基づく選
挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差は,1対4.84に縮小すること
となった。また,本件選挙は,本件改正の約1年2か月後に本件定数配分規定の下
で施行された初めての参議院議員通常選挙であり,本件選挙当時の選挙区間におけ
る議員1人当たりの選挙人数の最大較差は1対4.86であったところ,この較差
は,本件改正前の参議院議員定数配分規定の下で施行された前回選挙当時の上記最
大較差1対5.13に比べて縮小したものとなっていた。本件選挙の後には,参議
院改革協議会が設置され,同協議会の下に選挙制度に係る専門委員会が設置される
など,定数較差の問題について今後も検討が行われることとされている。そして,
現行の選挙制度の仕組みを大きく変更するには,後に述べるように相応の時間を要
することは否定できないところであって,本件選挙までにそのような見直しを行う
ことは極めて困難であったといわざるを得ない。
以上のような事情を考慮すれば,本件選挙までの間に本件定数配分規定を更に改
正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものということはできず,本件選
挙当時において,本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたものとすること
はできない。
5しかしながら,本件改正の結果によっても残ることとなった上記のような較
差は,投票価値の平等という観点からは,なお大きな不平等が存する状態であり,
選挙区間における選挙人の投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあ
るといわざるを得ない。ただ,前記2(4)の専門委員会の報告書に表れた意見にも
あるとおり,現行の選挙制度の仕組みを維持する限り,各選挙区の定数を振り替え
る措置によるだけでは,最大較差の大幅な縮小を図ることは困難であり,これを行
おうとすれば,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となることは否定でき
ない。このような見直しを行うについては,参議院の在り方をも踏まえた高度に政
治的な判断が必要であり,事柄の性質上課題も多く,その検討に相応の時間を要す
ることは認めざるを得ないが,国民の意思を適正に反映する選挙制度が民主政治の
基盤であり,投票価値の平等が憲法上の要請であることにかんがみると,国会にお
いて,速やかに,投票価値の平等の重要性を十分に踏まえて,適切な検討が行われ
ることが望まれる。
6以上の次第であるから,本件定数配分規定が本件選挙当時憲法に違反するに
至っていたということはできないとした原審の判断は,是認することができる。論
旨は採用することができない。
よって,裁判官中川了滋,同那須弘平,同田原睦夫,同近藤崇晴,同宮川光治の
各反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,
裁判官藤田宙靖,同古田佑紀,同竹内行夫,同金築誠志の各補足意見がある。
裁判官藤田宙靖の補足意見は,次のとおりである。
私は,多数意見に同調するが,先に平成16年大法廷判決における補足意見2
(以下「16年判決補足意見2」という。)及び平成18年大法廷判決(多数意見
3項掲記の平成18年10月4日判決)における私の補足意見(以下「18年判決
補足意見」という。)において述べたところに鑑み,以下の補足をしておくことと
したい。
1立法府は,両院の定数配分を含む選挙制度の在り方につき法律によって定め
るに当たり(憲法47条),多様な政策的要請を踏まえ,適正な裁量を行う義務を
負っており,この義務に反して,例えば,変転する社会情勢等を考慮に入れ時宜に
適した判断をしなければならないのに,慢性的に旧弊に従った判断を維持し続ける
とか,当然考慮に入れるべき事項を考慮に入れず,又は考慮すべきでない事項を考
慮し,あるいはさほど重要視すべきではない事項に過大の比重を置いた判断をして
いるような場合には,憲法によって課せられている義務に適った裁量権の行使を行
わないものとして,憲法違反との司法判断を受けてもやむを得ないものというべき
である。参議院選挙区選出議員の選挙における定数配分の在り方に関していうなら
ば,従来の我が国の立法においては,憲法により保障された基本的人権の一つであ
る投票価値の平等についての配慮が必ずしも充分であったとはいえず,また,これ
を是正するためにその間行われた諸改正においても,この問題につき立法府自らが
基本的にどう考え,将来に向けてどのような構想を抱くのかについて,明確にされ
ることのないままに,単に目先の必要に応じた小幅な修正が施されて来たに止まる
という憾みを否定することができないのであって,このような状態が漫然と維持さ
れるならば,そのような状況下で行われた選挙については,議員定数配分規定が違
憲であるとの判断がされる可能性は充分にある。以上は,16年判決補足意見2及
び18年判決補足意見において述べたとおりである。
2このような見地に立って,本件で問題とされている議員定数配分規定の合憲
性についてみるならば,問われるべきは,平成16年大法廷判決以後本件選挙まで
の間に,立法府が,定数配分をめぐる立法裁量に際し,諸々の考慮要素の中でも重
きを与えられるべき投票価値の平等を十分に尊重した上で,それが損なわれる程度
を,二院制の制度的枠内にあっても可能な限り小さくするよう,問題の根本的解決
を目指した作業の中でのぎりぎりの判断をすべく真摯な努力をしたものと認められ
るか否かであるといわなければならない。そして,本件において問題とされている
いわゆる4増4減案に基づく公職選挙法改正については,多数意見も指摘する平成
16年大法廷判決以後の立法府内での検討作業の経緯等に照らし,あくまでもそれ
が「当面の」是正策として成立させられたものである限りにおいては(つまり,今
後の更なる改善の余地が意識的に留保されており,また改善への意欲が充分に認め
られる限りにおいては),その段階において許される一つの立法的選択であると評
価することもできないではなく,問題の根本的解決に向けて,立法府が真摯な努力
を続けつつあることの一つの証であると見ることも,不可能ではなかった。これ
が,平成18年大法廷判決当時の状況である。
しかし,いうまでもなく,いわゆる4増4減による改正が,表向きはともかくと
して実質的に改革作業の終着駅となり,しかもそれが,最大較差5倍を超えないた
めの最小限の改革に止めるという意図によるものであったとするならば,問題の重
要性,そしてその解決に向けての国民に対する責任につき,参議院ないし国会がど
の程度真摯に考えているのかについて改めて疑いが抱かれることになることは,1
8年判決補足意見の末尾において既に指摘しておいたとおりである。本件選挙は,
この法改正の後初めて行われた選挙であるから,現時点において改めて,上記のよ
うな見地から,この4増4減措置等についての評価がなされなければならないこと
になる。
3参議院において,4増4減措置の導入が,少なくとも表向きは差し当たり暫
定的なものとされていたことは,その後選挙制度に関し参議院改革協議会が4回に
わたって開かれ,その第3回会議(平成20年6月9日)には,「参議院改革協議
会専門委員会(選挙制度)」が設置されていること(当審に顕著な事実)からも推
認される。他方でしかし,同専門委員会が第1回目の会議を開いたのは,その半年
後の同年12月19日になってようやくのこと(同)であり,しかも,(公にされ
ている限りでは)そこで実質的な検討が行われた気配は窺われない。このことは,
その後開催された同専門委員会の諸会議においても基本的に同様であって,要する
に参議院は,先の4増4減措置の導入後現在に至るまで,およそ3年間にもわたっ
て,更なる定数是正につき本格的な検討を行っているようには見受けられないので
ある。そして,それが何故であるか,更なる定数是正にはどのような理論的・実際
的な問題が存在し,どのような困難があるために改革の前進が妨げられているのか
等について,参議院は,国民の前に一向にこれを明らかにしようとはしていない。
4投票価値の平等という見地からする限り,最大較差4倍超という数字をもっ
てなお平等が保たれているということは,本来無理な強弁というべく,それにもか
かわらずこれを合憲であるというためには,それを許す合理的な理由の存在と,そ
れについての立法府自らの国民に対する明確な説明,及び問題解決に向けての絶え
ざる真摯な努力が必要であるといわなければならない。そして,このような見地か
らするとき,参議院における上記のような状況をもって,なおこれを立法府の義務
に適った裁量の枠内にあるものと認めることができるか否かについては,正直なと
ころ,甚だ心もとないものがあるといわざるを得ず,先のいわゆる4増4減措置に
ついても,その導入の真意につきいささかの疑念を抱かざるを得ないところではあ
る。こういった意味において,本件選挙当時既に本件定数配分規定が違憲というべ
き状態にあったと考える余地も無いではない。ただ,少なくとも本件選挙が行われ
た当時においては,いわゆる4増4減措置自体につき,なお,その後の本格的改正
作業に向けての暫定的な措置としての位置付けを認め得るものであったこと,ま
た,誠に遅々たる歩みであるとはいえ,参議院において,平成16年大法廷判決の
趣旨等をも踏まえ選挙制度の改革に向けての前進をなお続けようとの気運が消失し
てしまったとまで見ることはできないこと等に鑑みるならば,参議院における上記
のような検討状況についての憲法的判断は,今後の動向を注意深く見守りつつ,次
回の参議院議員通常選挙の時期において改めて行うこととするのも,現時点では一
つの選択肢であろうかと考える。
多数意見は,参議院議員選挙制度の抜本的改革を行うためにはある程度の時間的
余裕が必要となることを一つの理由として,本件選挙当時の本件定数配分規定を必
ずしも違憲とはいえないものとしたが,いうまでもなくそれは,そのことを口実
に,立法府が改革のための作業を怠ることを是認するものではない。仮に,早期の
結論を得ることが困難であるというならば,その具体的な理由と作業の現状とを絶
えず国民に対して明確に説明することが不可欠なのであって,それを欠くままに徒
らに現状を引き摺るようなことがあるとするならば,立法府自らの手による議員定
数是正措置に向けての残された期待と信頼とが遂に消失してしまう事態を招くこと
も,避けられないというべきであろう。
裁判官竹内行夫の補足意見は,次のとおりである。
私は,多数意見に同調するものであるが,その5項において触れられている現行
参議院議員選挙制度の仕組みの見直しについての適切な検討に関して,私の意見を
補足して述べておきたい。
多数意見が指摘するとおり「このような見直しを行うについては,参議院の在り
方をも踏まえた高度に政治的な判断が必要」であるところ,そのような政治的判断
を行うに当たっては,投票価値の平等の重要性を踏まえつつも,単なる議員定数配
分上の数の問題としてではなく,国会を国権の最高機関として位置づけて二院制を
採用した憲法の下における国家の統治機構の在り方にかかわる問題として,広い観
点から,これを検討する必要がある。国会が,憲法の定めたところの趣旨にのっと
り十分にその機能を発揮することが,国民生活にとり重要であると考えるからであ
る。
憲法は,二院制を採用し,衆議院と参議院がそれぞれ特色のある機能を発揮する
ことを予定している。憲法43条は,両議院とも全国民を代表する選挙された議員
により組織されるもの(国民代表原理)と定めている。そして,投票価値平等の理
念は,衆議院議員選挙のみならず参議院議員選挙においても妥当するが,憲法が二
院制を採用した趣旨からして,選挙の仕組みにおける選出基盤に関する理念が両議
院の間で同じでなければならないということはなく,異なって当然である。衆議院
議員選挙については,「各選挙区の選挙人数又は人口数(中略)と配分議員定数と
の比率の平等が最も重要かつ基本的な基準とされるべき」(最高裁昭和49年(行
ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁)であると
され,厳格な投票価値の平等が求められているところであるが,他方,参議院議員
選挙制度の仕組みについては,国民各層の種々の利害や考えを公正かつ効果的に吸
収する多角的民意反映の考えに基づいて,厳格な人口比例主義以外の合理的な政策
的目的ないし理由をより広く考慮することは,二院制の趣旨に合致するものであ
る。
以上は昭和58年大法廷判決以来の累次の当審判例の趣旨とするところであり,
これらの判例法理が認めるように,憲法は投票価値の平等を要求しているが,それ
が参議院議員選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではない。
私は,衆議院議員の選挙においては,人口に基づいて議員定数を配分することが重
視されることが当然であると考えるが,参議院も同様の厳格な人口比例原理を選出
基盤とした議員により構成するとすれば,参議院は「第二衆議院」ともいうべきも
のとなりかねず,憲法が採用した二院制の趣旨が損なわれる結果になることを危惧
する。むしろ参議院議員の選出基盤が衆議院議員のそれと異なる要素を有すること
によって,両院あいまって,国会が総体として公正かつ効果的に国民を代表する機
関たり得ると考えられるのである。国民の利益は複雑で,意見は多様であるため,
人口の多寡を基準にした選出基盤だけでは多様な民意が十分反映されない。一例を
挙げれば,人口が集中した大都市地域と人口の少ない地方の間では,異なった問題
があり,異なった解決策が求められることも少なくない。今日の日本においては,
全国をカバーする交通網や情報網は著しく発達したものとなったが,大都市と地方
の間の種々の面における不均衡の問題はむしろより深刻になったという指摘も見ら
れ,国政と地方の関係に関する問題意識や地方分権に関する議論が高まっているの
が現状である。多種多様の問題に対応して国土のバランスの取れた発展を期するた
めには,地方の実情と問題意識に通暁した者が国政に参画することが必要である
が,人口の多寡により定数配分が定められる仕組みにおいては,国会議員が国民全
体の代表者であるとしても,人口の少ない地域の問題意識を国会に十分反映させる
ことには実際上困難を伴う。単純な人口比例原理の問題点を補う仕組みを設けるこ
とには十分な合理性があり,人口比例原理により選出される議員から成る衆議院と
それとは異なる選出基盤をも併せて用いる参議院とがあいまって,多様な民意を二
院制の国会に反映させることができるとされてきているのである。
ところで,現行の参議院議員選挙制度の仕組みにおいて,比例代表選出議員の選
挙に関しては,1人1票の価値の原則が実現している。投票価値の平等との関係で
問題となるのは選挙区選挙についてである。多数意見が指摘するとおり,選挙区選
挙に関する現行の選挙制度の仕組みの下においては,最大較差の大幅な縮小を図る
ことは困難な事情がある。これは,憲法46条が参議院議員の任期を6年とし,そ
の半数を3年ごとに改選することを求めていることと関係がある。現行制度におい
ては,半数改選を実現するため都道府県単位の各選挙区に偶数の定数配分(最小限
2人)を行っているが,投票価値の平等化のための措置として,仮にこれを奇数配
分(最小限1人)にして,平成12年10月実施の国勢調査による人口に基づき最
大剰余方式により定数配分を行うとすると,47選挙区のうち15選挙区の定数が
1人となる。この場合,これら15県の選挙人は6年に一度しか投票し得ないこと
となり,これは3年ごとに選挙が行われる定数2人以上の選挙区の選挙人の半分し
か投票機会がないことを意味するが,このような絶対的不平等が許容されるとは思
えない。
また,選挙区が都道府県単位とされていることには,累次の当審判決が触れたと
おりのそれなりの合理性が認められる。都道府県は普通地方公共団体として地方自
治を担い,我が国の政治や行政の実際において重要な役割を果たしているのであ
り,都道府県単位の選挙区制は,長年にわたる慣行として国民の間において定着し
ているといえよう。もちろん,都道府県単位の選挙区制は憲法に定められたもので
はなく,唯一,絶対の選択肢でもないが,国政と地域を結ぶその機能は重要であ
り,それに代わり得るもので国民が受け入れる選挙区制を見いだすことは,決して
容易ではない。
このように,都道府県単位の選挙区に偶数(最小限2人)の定数を配分する現行
の参議院議員選挙制度の仕組みは,合理性を有しているのであるが,現行の定数配
分の仕組みを前提とした場合,投票価値の平等という観点からは,較差の縮小が求
められている状況にある。投票価値の平等の重要性を踏まえながら,憲法が二院制
を採用した趣旨や参議院の独自性を損なうことがないような選挙制度の見直しを実
現することは,容易ならない課題であるといわざるを得ない。投票価値の平等の重
要性については今更多言を要しないが,選挙制度自体を見直すとすれば,単なる数
字上の定数配分の是正ではなく,憲法が国権の最高機関である国会につき二院制を
採用している趣旨を踏まえた統治機構の在り方についての検討が求められる。それ
故にこそ,参議院の在り方を踏まえた正しく高度の政治判断が必要とされるのであ
る。
参議院議員の定数配分については,国会においても参議院の在り方を踏まえた抜
本的な検討の必要性が指摘され,何度か是正措置が執られたところであるが,参議
院の在り方にふさわしい代表基盤とは何か,参議院の場合に投票価値平等の原則が
譲歩を求められるとして,憲法が二院制を採用した趣旨も含め,これを正当化する
他の政策的目的ないし理由として国会は何を考慮しているのか,といった基本的な
諸点について,国民の理解が進んでいるとは見受けられない。これらの諸点につい
て一朝一夕に結論を得ることは困難であろうが,国会が憲法によってゆだねられた
立法裁量権を行使して選挙制度の仕組みを検討するに当たって,これらの点に関す
る論点を国民に広く明らかにしつつ検討を加え,衆議院とは異なった参議院の在り
方にふさわしい選挙制度の仕組みの基本となる理念を速やかに提示することが望ま
れる。
裁判官古田佑紀は,裁判官竹内行夫の補足意見に同調する。
裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである。
私は,多数意見に賛成するものであるが,本件選挙における投票価値の較差の現
状が憲法上いかに評価されるべきかについて,私の見解を述べておくこととした
い。
1憲法は,両議院の議員の任期と参議院議員の半数改選制を自ら定めるほか
は,議員の定数,選挙人及び被選挙人の資格,選挙区,投票の方法その他両議院の
議員の選挙に関する事項について,挙げて国会の立法にゆだねているから(43条
ないし47条),これらの事項をいかに定め,どのような形態の選挙制度を採用す
るかに関し,国会が広範な裁量権を有していることは明らかであり,選挙制度を決
定するに当たって,投票価値の平等が唯一,絶対の基準となるものではないことも
当然である。
しかし,投票価値の平等は,すべての有権者が国政選挙に対して平等な権利を持
ち,その意味において国民の意見が国政に公正に反映されることを保障する憲法上
の要請であるから,国会が選挙制度を決定するに際して考慮すべき単なる一要素に
すぎないものではなく,衆議院のみならず参議院においても,選挙制度に対する最
も基本的な要求として位置付けられるべきものである。最高裁平成6年(行ツ)第
59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁が,投票価値の平
等は憲法14条1項に由来するものであり,国会の立法裁量権にもおのずから一定
の限界があることを指摘しているように,このことは,これまでの当裁判所判決の
趣旨とするところであったと考えられる。多数意見が,投票価値の平等は,参議院
の独自性など国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関
連において調和的に実現されるべきものであると説示している部分も,これを前提
とした上で,投票価値の平等を重視する余り,他の面でバランスや合理性を欠く選
挙制度となることは適当でないとの趣旨を述べたものと解される。
2一般に,憲法の平等原則に違反するかどうかは,その不平等が合理的根拠,
理由を有するものかどうかによって判定すべきであると考えられているが,投票価
値の平等についても,基本的には同様の考え方が妥当すると思う。投票価値の較差
については,その限度を2倍とする見解が有力であるが,2倍に達しない較差であ
っても,これを合理化できる理由が存在しないならば違憲となり得る反面,例えば
二院制の在り方等からする十分な理由があれば,2倍を超える較差が合理的裁量の
範囲内とされることもあり得ると考えられるから,2倍は理論的,絶対的な基準と
まではいえないように思われる。しかし,2倍という数値は,常識的で分かりやす
い基準であり,国会議員選挙における投票価値の平等といった,全国民に関係す
る,国政の基本にかかわる事柄について,基準の分かりやすさは重要であるから,
著しい不平等かどうかを判定する際の目安としては重視すべきであると考える。
また,これまでの当裁判所の判例においては,議員定数配分規定の全体を不可分
一体のものとしてその効力の有無が判断されてきており,私もそれが正しいと考え
るが,そうした形で判断する以上,選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較
差だけでなく,全国的な較差の広がりの状況も判断要素とするのが相当である。
なお,比例代表をも加えて投票価値を算定するという,多数意見3項掲記の平成
18年10月4日大法廷判決における那須裁判官の補足意見は,大変傾聴すべき見
解であるが,選挙区選挙における投票価値の較差のみをもってしても憲法14条1
項違反の問題が生ずるとしてきた従来の判例の態度には,十分な理由があると思わ
れる。しかし,投票価値に地域的な較差のない比例代表の存在を,1回の参議院議
員通常選挙において各有権者が行使し得る権利の総体という観点から,選挙区選挙
における投票価値の不平等を一定程度埋め合わせる要素として考慮することは,当
然許されるものと思う。
3本件選挙当時において,選挙区間の最大較差は,目安と考えるべき2倍をは
るかに超えて4.86倍にも達していた。全国的な較差の状況については,様々な
指標の採り方があるが,差し当たり原判決が認定しているところによって平成17
年国勢調査に基づき人口500万人以上の9大都道府県とそれ以外の38府県との
比較を見ると,人口では前者が9%上回っているのに,本件改正後の議員数は前者
が52人,後者が94人であって,議員1人当たりの平均人口にほぼ2倍の較差が
生じていたから,本件選挙当時においても,人口ちゅう密地域とそれ以外の地域と
の間に大きな較差があったことが推認される。このような較差状況は,投票価値の
著しい不平等状態に当たると認めざるを得ず,これを憲法上合理的範囲内として是
認するためには,よほど強い明確な理由が存在しなければならない。
半数改選制は,衆議院に比較し相対的に安定性,継続性を重んじようとした参議
院に特有の憲法上の要請であり,これとの関係で奇数区を設けないこととしている
点も含めて,投票価値の平等に譲歩を求めるやむを得ない理由になると考えるが,
この要請を満たしつつ,投票価値の著しい不平等を生じさせないような制度設計を
行うことは,現在の参議院議員選挙の枠組みを固定的に考えなければ可能であるの
で,上記のような大きな較差を正当化するには足りない。
選挙区間の平等な定数配分の実現を妨げている大きな要素として,衆議院に比べ
て議員総数が少ないことに加えて,そのうちの相当数を比例代表に割り当てている
ことと,都道府県を選挙区選挙の単位としていることがある。現行のように選挙区
選挙と比例代表の2本建てとするかどうか,議員総数を何人としそれを選挙区選挙
と比例代表にどう配分するか,選挙区割りをどう定めるかは,いずれも参議院の性
格決定に関係するところがあり,正に立法府の裁量に属する。しかし,前述のよう
に,この裁量には限界があるのであり,国会は,投票価値の著しい較差をもたらさ
ないように裁量権を行使すべき責務を有している。都道府県が,その長い歴史から
も政治的,経済的,社会的に独自の意義と実体を有していることは否定できず,こ
れを選挙区選挙の単位とすることの結果として,投票価値にある程度の不平等が生
じることは合理性を欠くものではないと認めてよいが,我が国の参議院は,連邦制
国家における上院のような存在ではなく,組織原理を衆議院と全く異にするもので
はないのであるから,都道府県代表的意義という理由をもって較差を合理化するこ
とには,憲法上限度があるというべきである。
結局,参議院議員の選挙においては,衆議院に比較すれば,投票価値の不平等を
緩やかに考えてよい要素はあるものの,上記のような著しい不平等の存在を長期に
わたって合理化できるほどの根拠は見いだし難いといわなければならず,大幅な較
差縮小のための立法措置が不可避である。
4多数意見が指摘するとおり,現行の選挙制度の仕組みを維持し,各選挙区の
定数を振り替える措置による是正では,較差を4倍以内とすることすらできないの
であって,大幅な較差縮小を実現するためには,選挙の仕組み自体の抜本的な見直
しが必要とされる。そして,こうした制度の見直しは,二院制の下における参議院
の役割,在り方を踏まえた,それにふさわしい,バランスの取れたものであること
が求められるから,国会に対して,この判決の趣旨に沿った法改正の立案・審議の
ため,一定の時間的猶予を認めざるを得ず,本件選挙までの間に本件定数配分規定
を更に改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えたものとまでいうことはで
きないものであり,今直ちに違憲判断をすることは相当でない。
裁判官中川了滋の反対意見は,次のとおりである。
私は,本件定数配分規定は憲法に違反するものであり,本件選挙は違法であると
考える。その理由は次のとおりである。
1多数意見は次のとおり述べる。①憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれ
ば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値
の平等を要求していると解される。②しかしながら,憲法は,どのような選挙制
度が国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることになるのかの決定
を国会の裁量にゆだねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組み
を決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,参議院の独自性など,国会が正
当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において,調和的に
実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権
の行使として合理性を是認し得るものである限り,それによって投票価値の平等が
一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。
私は,以上の点については賛成するものである。したがって,国会の定めた本件
定数配分規定が国会の裁量権の行使として合理性を是認し得るものであるかどうか
が問われなければならない。
2多数意見は,参議院議員の選挙制度の仕組みは,憲法が二院制を採用し参議
院の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとしたこと,都道府県が歴史
的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まとまり
を有する単位としてとらえ得ること,憲法46条が参議院議員については3年ごと
にその半数を改選すべきものとしていること等に照らし,相応の合理性を有するも
のであり,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えているとはいえないと
する。そして,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口の変動
につき,それをどのような形で選挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は,複
雑かつ高度に政策的な考慮と判断を要するものであって,その決定は,基本的に国
会の裁量にゆだねられているものであるとした上,本件選挙当時において選挙区間
における議員1人当たりの選挙人数の最大較差が1対4.86であったとしても,
国会において定数較差の問題について今後も検討が行われることとされているこ
と,現行の選挙制度の仕組みを大きく変更するには相応の時間を要するから本件選
挙までにそのような見直しを行うことは困難であったこと等の事情を考慮すれば,
本件選挙までの間に本件定数配分規定を更に改正しなかったことが国会の裁量権の
限界を超えたものということはできないとして,本件選挙当時において本件定数配
分規定が憲法に違反するに至っていたものとすることはできないとする。
確かに,現行法制下での参議院議員の選挙制度は,創設された当初から,都道府
県を選挙区とし,半数改選制への配慮から,各選挙区につき,最小限を2人とする
偶数の議員定数を配分する制度を採用してきているところ,このような都道府県単
位の選挙区設定及び定数偶数配分制には上記のような一定の合理性を認めることが
できる。しかし,憲法は二院制と3年ごとの半数改選を定めているにすぎず,都道
府県単位の選挙区設定及び定数偶数配分制は憲法上に直接の根拠を有するものでは
ない。そして,参議院議員の定数配分については,その後当初の人口分布が大きく
変わり,それに伴う人口比例による配分の改定が適宜行われなかったこともあっ
て,最大較差1対6.59まで拡大したこともあり,そのような較差は,当審判決
により,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態と判断された。ところが,そ
の後2回にわたる定数改正があったにもかかわらず,本件選挙当時にはなお1対
4.86の最大較差があったものである。上記1①のとおり,投票価値の平等を憲
法の要求であるとする以上,そのような較差が生ずる選挙区設定や定数配分は,投
票価値の平等の重要性に照らして許されず,これを国会の裁量権の行使として合理
性を有するものということはできないと解するべきである。このような較差が生じ
ている不平等状態は違憲とされるべきものと考える。
3以上によれば,本件定数配分規定は違憲であるが,国会による真摯かつ速や
かな是正を期待し,事情判決の法理に従い本件選挙を違法と宣言するにとどめ,無
効とはしないものとするのが相当である。
裁判官那須弘平の反対意見は,次のとおりである。
1国民が議会構成員を選挙するについては,1人1票の原則を基本とすべきで
あるから,ある選挙人に与えられる投票の価値が他の選挙人に与えられる投票の価
値の2倍以上となる事態は極力避けなければならない。この理は,憲法14条(法
の下の平等),15条3項(普通選挙の保障)及び44条ただし書(議員選挙にお
ける差別禁止)の各規定から当然に導かれるものであって,憲法47条が議員選挙
に関する事項を法律に委任しているからといって,特に変更を受けるものではな
い。多数意見が「累次の大法廷判決の趣旨とするところ」として要約する基本的な
判断枠組みは適切なものであるが,この枠組み自体は上記1人1票の原則を否定す
るものではなく,むしろこれを当然の前提としていると解される。この前提に立つ
と,今回の訴訟で問題とされている選挙区間の投票価値の最大較差1対4.84な
いし4.86という数値が1票の価値の不平等を示すものでこそあれ,平等を裏付
けるものではあり得ないという判断に行き着くのはむしろ当然のことである。
2それでは,選挙区間の投票価値に上記の較差があるからといって,直ちに
「違憲」という結論を導き出してよいかというと,問題はそれほど単純ではない。
私は,これまでの多くの訴訟の中で投票価値の較差を示すものとして用いられて
きた数値が平等・不平等の実態を適正に反映しているか,また,その較差を是正す
る具体的・現実的な方法として何が考えられるかについて,根本に立ち戻って点検
する必要があると考える。そのための一つの手法として,考察の対象を選挙区だけ
に限定せず,比例代表選挙の定数にも広げることが考えられる。すなわち,
(1)参議院議員の選挙において,各選挙人は選挙区選出議員を選ぶのに1票,
比例代表選出議員を選ぶのに1票と,二つの投票を行う。参議院議員選挙における
各選挙人の政治的意思は,この二つの投票行動が相まって表明されるものとなって
いる。選挙区選挙と比例代表選挙は決して無関係な2個の選挙がたまたま同時に行
われるというものではなく,被選挙人の定数(選挙区146人,比例代表96
人),選出母体となる区域(選挙区は都道府県単位,比例代表は全国を通じ一つ)
等についてそれなりの関係づけをし,一体のものとして設計され運用されている。
選出された議員も,選挙区から選出された者であると比例代表から選出された者で
あるとを問わず,ひとしく参議院の構成員として何らの区別もなく立法活動に携わ
ることになる。したがって,参議院議員選挙における投票の価値を考えるのに,選
挙区における投票と比例代表における投票とを一体のものと見て,両者を総合して
計算することはごく自然なことである。
(2)比例代表選挙は全都道府県を通じて一つの単位として投票が行われるから
各選挙人の投票価値に差はない。したがって,これを選挙区選挙の投票価値と合わ
せて計算すれば,選挙区選挙だけの場合に比べて較差はかなり緩和されたものとな
る。詳細は平成18年大法廷判決(多数意見3項掲記の平成18年10月4日判
決)における私の補足意見の中で指摘したとおりであるから省くとして,結論だけ
見れば,前回選挙では,最も投票価値の低い東京都を1とした場合,最大較差は鳥
取県の2.89であった。本件選挙について同様な方法で計算すると,最も投票価
値の低い神奈川県を1とした場合,最大較差は鳥取県の2.83となる。この較差
は前回よりわずかに縮小しているが,投票価値の平等という点で問題であることに
違いはなく,この較差を少なくとも1対2未満に収める必要があることは前述のと
おりである。
3最大較差が1対2未満の範囲内に収まることが望ましいとしても,参議院議
員選挙における現行の選挙制度の仕組みを前提とする限り,較差の大幅な縮小を図
ることが難しいという問題はこれまでの参議院議員選挙をめぐる訴訟でしばしば指
摘されてきた。しかし,視野を比例代表の定数にまで拡大し,最大較差についても
比例代表を合わせて計算すると,状況はかなり変わったものとなる。
例えば,比例代表の定員16名分を減じて,これを定員が過少な選挙区に順次振
り替えることができれば,参議院議員の定数全体はそのままでも,選挙区と比例代
表とを合わせて計算した投票価値の最大較差は一定程度縮小する。これに加えて,
平成12年改正で減員となった10名を復活させこれを選挙区の定員に振り向けれ
ば,更に事態は改善する。その際,各選挙区について最低2の定数を配分しつつ,
これを超える定数については奇数配分も可能とした上で(これにより各選挙区の増
員数が常に偶数でなければならないという窮屈さを回避できる),奇数定員の選挙
区について偶数定員の選挙を行う回と奇数定員の選挙を行う回を交互に組み合わ
せ,かつ全国の選挙区を総体としてみたときに奇数選挙区選挙が一方に偏らないよ
うに分散させる等の方法を加味して,全体として憲法46条の「3年ごとに議員の
半数を改選する」との要請を満たすことも可能であり,これらの策を動員すること
で,比例代表を合わせた投票価値の最大較差を1対2.2程度にまで縮小すること
が可能となる。
4私は,平成18年大法廷判決において,比例代表を合わせて計算しても最大
較差は1対2.89であり,これが違憲領域に近接していると認められることを前
提としつつ,「憲法の許容する立法の裁量権の範囲内に辛うじて踏みとどまったも
の」として,結論的には憲法違反を否定する多数意見に賛同した。この判断は,対
象となった選挙が平成16年大法廷判決から6か月しか経たない時期に行われたこ
と,その間に参議院が定数較差問題に関する協議会を発足させるなど是正に向けて
具体的で真摯な対応を執り結果として平成18年6月の4増4減の本件改正が実現
したこと等の経緯を重視したことによるものであった。
これに対し,本件選挙については,本件改正が平成18年大法廷判決における上
記判断に織り込み済みであって再度評価の材料とすることは相当でなく,他に,国
会の審議に見るべき進展があったとか,進展に向けた真摯な努力が重ねられたとい
う形跡も見受けられない。そして,現行の選挙制度の仕組みの下でも,比例代表を
も含めた全体の選挙の最大較差を相当程度縮小させる方法がないとはいえないこと
は,上記3に述べたところから明らかである。
してみると,本件選挙については,適切な対応がなされることなく1対2をはる
かに超えて1対3に近い大幅な較差が残されたまま実施された点において,憲法の
違反があったと判断せざるを得ない。
5本件のような選挙定数訴訟において,憲法違反と判断された場合の主文の在
り方については,最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判
決・民集30巻3号223頁で確立された判例に倣い,主文で請求を棄却しつつ,
当該選挙が違法である旨を宣言するいわゆる事情判決にとどめる考え方が有力であ
る。しかし,事情判決といっても,請求全部を棄却するものであることに相違はな
く,直接,立法府に改正を促す法的効果を持つものでもない。しかも,元来,公職
選挙法204条の定める訴訟類型には本件のような違憲を理由とする定数訴訟を含
むことは予定されておらず,その上,事情判決の適用も排除される中で,最高裁が
法的救済の必要性を重視する立場から,あえて一般法理を適用して示した判断が上
記昭和51年大法廷判決であって,同判決は実質的には違憲確認ないし違憲宣言判
決に近いものであると見ることができる。以上の来歴を念頭において,本件訴訟の
本質を直視すれば,事情判決から竿頭一歩を進めて,端的に主文で違憲確認をする
方法を認めてもよいのではないかと考える。その場合には,原告の主張の眼目が定
数配分の違憲について判断を求める点にあることをも考慮し,違憲確認の対象を定
数過少が争われている当該選挙区に関する定数配分規定に絞り,かつ,定数が過少
なものにとどめられているという一種の立法不作為の限度において判断すれば足
り,選挙自体を無効とするまでのことはないと考える。定数の過少が問題とされる
選挙区について,当選者に投票した選挙人のせっかくの政治的意思表示を無に帰
し,いったん当選者とされた被選挙人を何の落ち度もないのに国政の場から排除す
ることは,本件訴訟が目的とする範囲を超えて無用な混乱を来すことにもなる。そ
こで,選挙無効の訴えの中に含まれると解される違憲確認を求める部分に着目し,
主文において本件定数配分規定のうち東京都選挙区の議員数を10人にとどめたま
まである点につき違憲である旨を確認するとともに,これを超える選挙無効の請求
については「その余の請求を棄却する」等の文言により一部認容判決である趣旨を
明らかにするのが相当であり,そうすることが違憲法令審査権を有する最高裁判所
の職責を尽くす途にもつながると考える。
裁判官田原睦夫の反対意見は,次のとおりである。
私は,多数意見と異なり,本件定数配分規定は憲法に違反するものであって,本
件選挙は違法であると考える。
1投票価値の平等の憲法上の意義
国民が選挙権の行使によって国政に参加できることは,民主主義国家の基本原理
であり(憲法前文,43条1項),その参政権は,人種,信条,性別,社会的身
分,門地,教育,財産又は収入によって差別されてはならない(憲法44条ただし
書)ことはもちろんのこと,その選挙権を行使する地域(居住地)によって,投票
価値に較差を生じさせることは,原則として投票権の平等を侵害するものであっ
て,憲法14条1項,15条1項,3項,43条1項,44条ただし書,47条に
違反するものというべきである。国会が国権の最高機関(憲法41条)たる由縁
は,国会を構成する議員が,かかる国民の平等な参政権の行使によって選出され,
全国民を代表することによるものである。
もっとも,私も,多数意見が述べるように,憲法は,投票価値の平等を選挙制度
の仕組みの決定における唯一,絶対の基準としているものではないことは是認する
ものである。しかし,多数意見が述べる「投票価値の平等は,参議院の独自性な
ど,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連におい
て調和的に実現されるべきものである」とする点には賛成できない。国民の参政権
の実現たる選挙における投票の価値の平等は,選挙制度や地政学的な配慮をも加え
た上での技術的な諸問題から一定の譲歩を迫られざるを得ないことはあり得るもの
の,それは,選挙制度を構築する上で,最も重視されるべき要素であって,他の政
策的目的ないし理由との間で調和的に実現されるべきものにとどまるのではない
(最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号
2283頁における大野正男裁判官外5名の反対意見,最高裁平成9年(行ツ)第
104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁における尾崎行
信裁判官外4名の反対意見,最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6
日大法廷判決・民集54巻7号1997頁における河合伸一裁判官外4名の反対意
見参照)。
2参議院の組織及びその議員の選挙制度と憲法
憲法は,参議院の構成に関しては,全国民を代表する選挙された議員でこれを組
織するものとし(43条1項),任期を6年として3年ごとに議員の半数を改選す
る(46条)こと以外は,その定数(43条2項),議員及びその選挙人の資格
(44条本文),選挙区,投票の方法その他議員の選挙に関する事項(47条)
は,法律でこれを定めるものとし,その具体的な規律は,国会の合理的な裁量に委
ねている。
国会が,憲法により認められた立法上の裁量権を行使し,参議院の組織,選挙制
度を構築するに当たっては,連邦制国家における二院制とは異なり,単一国家にお
ける二院制の意義,憲法上衆議院の優越が認められ,参議院には,解散がなく,そ
の議員の半数を3年ごとに改選する制度が設けられたことの趣旨を踏まえた参議院
の位置付け等の諸点を十分に考慮し,また,憲法上の要請たる国民の投票権に係る
投票価値の平等を,いかなる政策的要素の下にいかなる程度まで修正することが許
されるかについて厳密な較量がなされるべきものである。そして,国会は,参議院
の組織,選挙制度について立法をした後においては,その後の我が国の経済構造を
含む社会情勢の変化,人口動態等,その政策選択の基礎を成した社会的な事実関係
の変動を常に注視し,既存の参議院の組織や選挙制度がその変動に十分に対応し得
ているか否かを機会あるごとに検証し,その変動の程度が,立法当初あるいはその
後の改正法制定時に想定されていた限度を超えていると認められるに至った時は,
その新しい事態に対応すべく,参議院の組織や選挙制度の見直しを継続的に行って
いくべき義務を憲法上負っているものと解される。そして,社会構造の変化や人口
動態が,立法当初あるいはその後の改正法制定当時の想定と著しく異なるに至り,
その結果,既存の組織と憲法の定める二院制の理念との間に大きな乖離が生じ,あ
るいは,既存の選挙制度が国民の国政への参政権の根幹を成す投票権の平等を著し
く害するに至った場合には,国会は,かかる事態を解消するに足る合理的な施策を
伴う立法を行うべき義務を負っているものというべきである。
そして,国会が,上記の目的に沿う法改正を行うに必要と認められる合理的な期
間を経過した後においても,何らの措置を採ることなくその事態を放擲し,あるい
は,国会が採った立法措置が上記の事態を解消するには程遠い当面の弥縫策としか
評し得ないものである場合には,憲法によって認められた立法権の適正な行使を,
国会が正当な理由なく怠るものといわざるを得ず,そのような状態にある組織や選
挙制度は違憲状態に陥っていると評価せざるを得ないのであり,そのような違憲状
態にある選挙制度の下で施行される参議院議員選挙は,違法との評価を受けること
となる。
3従前の参議院議員の選挙制度とその議員の配分
(1)参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)
憲法の制定を受けて制定された参議院議員選挙法(昭和22年2月に公布)は,
参議院議員の定数250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人に区分
し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出するものとする一
方,地方選出議員は,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都
道府県を単位とする選挙区において選出するものとし,憲法46条が参議院議員は
3年ごとにその半数を改選すべきものとしていることに応じて,各選挙区の定数は
偶数とし,昭和21年4月26日現在の人口に基づき,各選挙区の人口に比例する
形で2人ないし8人の議員数を配分した。その結果,選挙区間における議員1人当
たりの人口の最大較差は,宮城県選挙区と鳥取県選挙区間の2.62倍であった
(なお,較差が2倍を超える選挙区は合計12存した。)。
ところで,同法制定過程における帝国議会の審議記録を見ると,全国選出議員
は,「専ら学識経験ともに優れた,全国的な有名有為の人材を簡抜することを主眼
と致しますと共に,職能的知識経験を有するものが,選挙される可能性を生ぜしめ
ることに依つて,職能代表制の有する長所を採り入れむとする狙ひを持つ」(昭和
21年12月4日,第91回帝国議会貴族院における大村清一国務大臣の法案説明
(同議事速記録5号61頁))ものと位置付けられていた。なお,この立法過程で
は,全議員を全国から選出するとの選挙制度の可否についても議論されている。
他方,地方選出議員の意義について,憲法制定過程における政府の説明は,「形
式的ニ言フ地方代表,精神的ニ地方ヲ代表スルノデハアリマセヌ。・・・此ノ地方
代表的ナ考ヘ方ト云フ考ハ,・・・国ヲ現スヤウナ人材ハ地方的ニ捜シタ方ガ,・
・・其ノ地方的ノ判断ニ依ツテ捜シ方ガ,色々ナ制限モ離レテ却テ公正ナ結果ガ得
ラレルノデハナカラウカ」,「固ヨリ地域代表ト云ウ言葉ヲ以テ致シテ居リマスル
選挙ハ,実ハ地域代表デハナイノデアツテ,選挙ノ方便トシテ地域的ニ区切リヲ付
ケテ国家全体ヲ現ス者ヲ選ビ出スト云フコトニ過ギナイノデアリマス」(昭和21
年9月20日,第90回帝国議会貴族院「帝国憲法改正案特別委員会」における金
森徳次郎国務大臣の発言(同議事速記録18号7頁,27頁))というのであり,
また,上記参議院議員選挙法の審議における政府の答弁では,「参議院に於て審議
をする際に於きまして,地方の実情に精通して居る議員が加はつて居ることも望ま
しいことだと考へるのであります」,「外国の第二院に付きましては,州を代表す
るとか,地域を代表すると云ふやうな考へ方があるかと思ふのでありまするが,我
国の参議院に於きましては,地域代表と云ふ意味の思想は,是は採ることが出来な
いものと思ふのであります,唯地域代表的性質と云ふやうなことを私も時々申上げ
て居りますが,是は地方の事情に詳しい人に出て貰ふと云ふ趣旨で申上げて居るの
でありま(す)」(昭和21年12月5日,第91回帝国議会貴族院「参議院議員
選挙法案特別委員会」における大村清一国務大臣の答弁(同議事速記録2号10
頁,17頁))というのであって,参議院議員選挙法において設けられた地方選出
議員は,決して都道府県の住民の利益を代表するものではなく,国会が広く地方の
実情を把握し,また,有用な多種,多様な人材を参議院議員として確保するには,
各地方の選挙区から選出する途を設けることが望ましい,と位置付けて設けられた
制度であることが明らかである。
同法制定当時,上記のような趣旨で各地方区が設けられたことは,その当時の通
信,交通事情を顧みれば容易に理解できる。公刊されている資料によれば,同法が
施行された昭和22年当時の我が国の通信事情は,戦災や戦時中の整備不良等によ
って大きく乱れた後の復興過程であり,電話普及率も低く,郵便事情も交通網の整
備の遅れもあって遅配続きの状況にあった。また,交通網はというと,航空路は米
軍占領下で全く利用できず,現在,入手し得る昭和22年6月の国鉄列車ダイヤに
よれば,ようやく一部復活した急行列車を利用しても,東京-大阪間11時間50
分,東京-博多間28時間50分,東京-鹿児島間35時間40分,東京-青森間
21時間,青森-函館-札幌間14時間30分という状態であった。
国会が予算審議権や立法権を適正に行使するには,我が国各地の情況を十分踏ま
える必要があるところ,上記のように通信,交通網が未整備であった同法制定時に
おいては,各地方の実情を弁えた人材の選出という趣旨から地方区を設け,人口比
例配分をしつつも,半数改選制を確保すべく各都道府県に偶数の議員を割り付けた
ものである。その結果,上記のとおり12選挙区で投票価値の較差が2倍を超え,
最大較差は2.62倍となった。同法は,上記のとおり,憲法の制定を受けて,そ
の施行前に第1回参議院議員選挙(昭和22年4月20日施行)を行うべく制定さ
れたものであるが,間もなく施行される憲法の定める理念を具体化すべく制定され
たものであって,その選挙制度及び選挙区に係る議員定数の配分は,憲法施行後に
おいては,国会に認められた合理的な裁量権の行使の範囲内として承認されるべき
ものであることはいうまでもない。
(2)公職選挙法の制定
昭和25年に制定された公職選挙法は,参議院議員選挙法の議員定数配分規定を
そのまま引き継いだ。なお,同法の衆議院議員定数配分規定(別表第1)には,
「本表は,この法律施行の日から5年ごとに,直近に行われた国勢調査の結果によ
って,更正するのを例とする」旨の規定が設けられたが,参議院議員定数配分規定
(別表第2)には,同様の規定は設けられなかった。その理由は,今日では必ずし
もつまびらかではないが,(1)に記載した立法経緯から明らかなとおり,地方選挙
区選出の議員は,当該地方住民の代表ではなく,広く有為の人材を地方からも求
め,また,中央に対応する意味での地方の実情に精通している人材を選出するため
の方法として設けられたものであるところから,各地方の住民の代表として選出す
る場合に求められるような厳密な人口比例配分原則によることは,必ずしも適さな
いと考えられたことによるものと忖度される。
この配分規定のうち選挙区選出議員の定数配分は,昭和46年に沖縄復帰に伴っ
て沖縄県選挙区の議員定数2人が付加された外は,参議院議員選挙法制定以来,後
述の平成6年の定数是正までの47年間改正されることはなかった。
(3)昭和57年の拘束名簿式比例代表制の導入
昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により,従来の全国選出議員制
度に替えて,拘束名簿式比例代表制が導入された。
同制度は,全国選出議員については,個人本位の選出制度を廃止し,一定の要件
を満たす政党等がその名称,候補とすべき者の氏名及びそれらの者の間における当
選人となるべき順位を記載した名簿を提出して,その名簿登載者を候補者とするも
のである。
同改正案は,参議院議員の提出によるものであり,その提案理由として,①参
議院全国区制について,参議院にふさわしい人をより得やすい制度とすることが必
要であること,②全国区制は,有権者にとっても候補者の選択が著しく困難であ
り,多くの候補者にとって膨大な経費を要すること,③政党が議会制民主主義を
支える不可欠の要素となっており,また,国民の政治的意思形成の媒介として重要
な機能を果たしていること,が挙げられていた。
ところで,前記のとおり,参議院議員の地方選出議員は,各地方の代表ではな
く,参議院議員選挙法制定当時の交通,通信網の未整備の状況を踏まえて,全国選
出議員と共に各地方から地方の実情に詳しい全国民を代表する議員を選出すべきも
のとされたものであるから,全国選出議員制度が見直されるに際して,当然に地方
選出議員制度についても,その選出制度が設けられた趣旨に立ち返って検討がなさ
れてしかるべきであった。殊に,同制度が設けられた当時に比して,全国の交通網
は,羽田と主要都市間の航空路が開設され,新幹線も既に全線開通していた山陽新
幹線に加えて,同年には東北新幹線が盛岡まで開通するなど格段に整備され,ま
た,電話のほぼ全世帯への普及,ファックスの利用など,通信網も著しく発展して
おり,地方選出議員制度が設けられた時点とは異なり,地方からの選出議員によら
なくても中央に対応する意味での地方の情況を十分に把握できるようになっていた
のである。また,その間,我が国の産業構造は第一次産業から第二次,第三次産業
へと比重が大きく移動し,それに伴う人口の都市集中によって,上記改正前の昭和
55年6月22日に施行された参議院議員通常選挙の際の地方区間の議員1人当た
りの選挙人数の最大較差は,1対5.37にも達していたにもかかわらず,その是
正措置については,何らの検討も加えられてはいない。
(4)平成6年の改正
平成6年法律第47号による公職選挙法の改正は,平成4年7月26日施行の参
議院議員通常選挙施行時の選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差が,1
対6.59にまで拡大していたのを緩和することを目的としてされたもので,参議
院議員の総定数は従前のままとして,選挙区選出議員を4県で各2人増加し,他
方,北海道で4人,2県で各2人減員するものであった(8増8減)。その結果,
直近の国勢調査の結果に基づく人口基準の最大較差は,1対6.48から1対4.
81に縮小はしたものの,依然として4倍を大きく超えていた。また,その改正過
程においても上記の参議院議員選挙法制定時に選挙区選出議員制度が設けられた趣
旨が没却され,選挙区選挙は都道府県代表的な性格のものであるとし,各都道府県
に2人の定数を割り振ることを当然の前提として論議されていて(平成2年7月3
1日付け,選挙制度審議会の「参議院議員の選挙制度の改革及び政党に対する公的
助成等についての答申」参照),各都道府県に2人の定数を割り当てることによ
り,選挙区間において投票価値に著しい較差が生じることとなるが,その政策目的
は何か,それは投票価値の平等に著しい不均衡をもたらしてでも実現するに値する
ものなのか,投票価値の不均衡を是正するために長期的にはどのような方策がある
のか等について,検討された形跡は窺えないのである。
(5)平成12年の改正
平成12年法律第118号による公職選挙法の改正は,議員定数の削減(比例代
表選出議員4人,選挙区選出議員6人)と,比例代表選出議員選挙を従来の拘束名
簿式比例代表制から非拘束名簿式比例代表制に変更するものである。
選挙区選挙に関しては,選挙区選出議員定数6人の削減に伴い,3県で各2人の
定数が削減された。しかし,同法改正の際にも,平成6年の改正時と同様,選挙区
選出議員選挙の位置付け等についての基本的な論議がされた形跡は窺えない。
(6)平成18年の改正
平成18年法律第52号による改正は,多数意見にて紹介されているように,当
審の平成16年大法廷判決を受けて行われたものであるが,平成19年の本件選挙
に向けた当面の是正策として策定されたものである。その検討過程においては,選
挙区間の較差を是正する措置として,改正法として成立した4増4減案のほか,1
4増14減案(最大較差は1対4.13となる。)まで他に4案が存したが,選挙
区に対する改正法による影響が一番小さい4増4減案が採用された。その結果,平
成17年国勢調査結果に基づく議員1人当たりの人口基準の最大較差は,1対4.
84になるに至った。なお,その改正法においても議員1人当たりの人口の較差が
1対4を超える選挙区が6,1対3を超え1対4までの選挙区が9存し,また,議
員定数4人以上の選挙区間で議員1人当たりの人口の較差が1対2を超える選挙区
が8(うち1対2.5を超える選挙区が4,最大で1対2.81)存するのであっ
て,人口規模の大きい選挙区間においても議員1人当たりの人口の較差が無視し得
ない状況に至っていることが認められる。
(7)小括
以上,参議院議員選挙法制定以後の選挙区選挙制度に関する改正経緯を通覧した
が,選挙区選挙に関しては,昭和22年の参議院議員選挙法制定以後,戦後の復
興,経済成長の下で,同法制定時に比して我が国の社会,経済構造は著しく変革
し,また,人口動態も大きく変動し,それに伴い各選挙区間の人口基準の最大較差
は,同法制定当時に比して大きく拡大し,既に昭和37年7月1日施行の参議院議
員通常選挙時において4倍を超えるに至っていたにもかかわらず,その制度の見直
し作業は長らく放置され,選挙区選挙制度についての改正が行われるのは,制度発
足以来,実に47年を経た平成6年まで待たなければならなかったのである。しか
も,平成6年の8増8減の改正たるや,前記のとおり,選挙区選挙制度の根本問題
に立ち入ることなく,また,投票価値の較差が4倍を超える事態が生じていること
を是認し得る理由について何ら検討することなく,取りあえず最大較差を5倍以下
に抑えるための施策として採用されたにすぎなかったのである。また,その後の選
挙区選挙制度に関する平成12年,平成18年改正も,憲法の定める二院制の意義
や参議院議員選挙法において選挙区選挙制度が採り入れられた趣旨について根源的
な検討を加えることなく,既存の選挙区選挙制度への影響をできるだけ抑止しつつ
較差を5倍以下に抑えるべく改正がされたものと解さざるを得ないのであって,そ
れらの改正は単なる弥縫策であるとの評価を受けてもやむを得ないものといえる。
4参議院選挙区制の抜本的見直しの必要性
(1)選挙と投票価値の平等
1に記載したとおり,投票権の平等の要請は,憲法の基本的な理念に基づくもの
であると理解する限り,選挙制度を検討するに際しては,その制度における技術的
なあるいは地政学的な関係上,選挙区間に投票価値の不平等が生じ得るとしても,
その較差は,でき得る限り1に近づけるよう努力すべきものであり,その較差が2
を超える場合には,その較差が生じるについての合理的な理由が明らかにされなけ
ればならないものというべきである。
(2)現行の選挙区選挙制度が設けられた趣旨
昭和22年に制定された参議院議員選挙法が採用した選挙区選挙は,3(1)に記
載のとおり,憲法43条に定める全国民を代表する議員を選出する手段として,当
時の交通,通信手段の未整備を踏まえ地方の実情を国会に反映させるには,地方の
実情を知悉した人材を選出する必要があるとの発想の下に設けられた制度であるか
ら,交通,通信手段が整備され発達し,あるいは,各種の情報伝達手段が充実し,
国会議員が国民の声を博く入手し,それを反映する方法が整った時点においては,
その制度制定時の立法趣旨に遡って,その制度を抜本的に見直すべく検討がされて
しかるべきである。
また,参議院議員選挙法では,前述のとおり,人口を基準とする選挙区間の最大
較差は,2.62倍となっていたが,それは,上記の制度趣旨から選挙区を都道府
県に割り当て,かつ,半数改選制の趣旨から偶数を割り当て,人口比例配分した結
果,上記の較差を生じたというのであり,かつ,較差が2倍を超えるのは合計して
12選挙区で,それ以外はすべて2倍以内に収まっていたのであって,その較差の
程度は,当該選挙制度を選択した趣旨からして是認し得る範囲内にとどまっていた
ものといえる。
(3)現行の選挙制度と選挙区間の投票価値の平等
多数意見が述べるように,現行の「都道府県単位の選挙区」と「偶数配分」の制
度を維持し,かつ,選挙区選出議員の総定数を現行程度に止める限り,各選挙区の
定数を振り替える措置により較差の是正を図ったとしても,較差を1対4以内に抑
えることは困難である。
しかしながら,上記の各要素は,前述のとおりいずれも憲法上の要請ではなく,
また,定数の点はともかくとして,その余の点は参議院議員の選挙制度を検討する
上での所与の要件でもない。まず,選挙区選出議員制度自体,前記のとおり当初全
国選出議員制度が設けられる下で,当時の通信,交通事情を踏まえれば,全国的に
有名有為の人々を求めるほか,地方での有名有為の人々を求めることにも意義があ
るとして設けられた制度である。しかし,インターネットに代表される情報伝達手
段が高度化した今日では,地方在住の有為な人材が広く全国に知られている例は,
枚挙に暇がないほど存するのであって,全国区に替わって設けられた比例選出制度
のほかに選挙区選出議員制度を存立する必要性は,少なくとも制度が設けられた当
時に比すればはるかに小さくなっている。
また,3(1)で検討したとおり,参議院議員選挙の選挙区が都道府県を単位とし
て定められたのは,中央に対応する意味での地方の実情に通じた有為な人材を求め
る方法の一つとして定められたものにすぎず,決して都道府県の代表を選出する趣
旨で設けられたものではないのであるから,選挙区制を維持するとしても,都道府
県を選挙区として維持すべき必然性は全く存しないのである(選挙区制度の見直し
の一環として,一部の合区案が主張されているが,従前の選挙区制に引き摺られた
弥縫策的な案という側面はぬぐえない。)。また,仮に都道府県を選挙区とする制
度を維持するとしても,半数改選制の故をもって必ず選挙区選出議員数を偶数にす
る必要はない(選挙区選出議員数を奇数にした場合の不都合については,これまで
にも指摘されているが,例えば,参議院議員の定数242人中半数の121人は比
例区で,残余の121人は選挙区で選出するものとし,3年ごとにその一方の議員
の選挙を行うこととすれば,選挙区選出議員が奇数であっても特段の不都合は生じ
ない。仮に,かかる方式を採れば,最大剰余法を用いると,最大較差は1対2.4
6(鳥取県と山口県)で,2倍を超えるのは10県にとどまる。また,かかる選挙
制度を採れば,3年間の時間差が生じるとはいえ,投票価値が完全平等である比例
代表選挙と選挙区選挙の較差を平均して評価することも正当化され,そうすると,
上記の最大較差は2倍を下回ることとなる。)。
参議院議員の選挙制度の抜本的見直しを行うに当たっては,今日の,選挙区間に
おいて4倍を超える人口較差が生じる最大の原因たる,選挙区を都道府県を単位と
し,かつ,偶数を配分するという制度を廃止することが大前提となる。その上で,
いかなる選挙制度を構築するかは,憲法の関連諸規定及びその趣旨を踏まえた上
で,国会が合理的な裁量をもって定めることとなるのである。
なお,国会がその裁量権を行使して選挙制度を構築するに当たっては,少なくと
も以下の諸点につき十分に留意することが必要であろう。
①二院制たる参議院にふさわしい議員を,全国民を代表する者として選出でき
る制度であること
②現在採用されている衆議院議員選挙制度(1人別枠方式を含む都道府県ごと
に更に区割りをした小選挙区制とブロック別比例代表制の併用制)とは異なる方式
であること(都道府県に1人別枠を設ける小選挙区制は,地域代表的側面をも有し
ているので,同制度の存在は,参議院議員の選挙において,都道府県の地域代表を
選出することにつき消極の方向で機能する。)
③今日の,インターネットを用いることによる情報の質,量を含めたその伝達
の即時性,広域性,及び,全国の主要都市間はほぼ同日中に往復できるという充実
した交通機関網の存在に十分配慮した制度であること
④国民の参政権の基本たる投票権の価値は,でき得る限り平等になるように工
夫し,その平等が維持できない場合にも,その較差の程度及びその範囲をできる限
り限局するように努力すること。それらの工夫によっても,1票当たりの人口較差
が2倍を超える場合には,2倍を超えてでも当該選挙制度を選択する理由につい
て,国民に明示すること
⑤今後の人口動態の変動を視野に入れ,新たに選択された選挙制度が比較的長
期間安定的に機能し得ること
5本件選挙における投票価値の平等
本件選挙時点での議員1人当たりの選挙人数の較差は,最大は鳥取県と神奈川県
の1対4.86であるが,それ以外に4倍を超えるのは大阪,北海道,兵庫,東
京,福岡の5選挙区に及び,また鳥取県を基準として3倍を超えている選挙区は1
5選挙区に及んでいる。また,議員1人当たりの選挙人数較差が3倍を超える地域
をみると,鳥取,島根,高知,福井,徳島の5選挙区(その選挙人数の合計は約3
07万人)に対し,上述の神奈川,大阪,北海道,兵庫,東京の5選挙区(その選
挙人数の合計は約3387万人)に達するに至っているのである。
このように選挙区間の最大較差はもちろんのこと,全選挙区の2割を超える選挙
区間で最大較差が3倍を超えており,その3倍を超える選挙区の選挙人数の合計は
全選挙人数の32.65%に達しているのである。
これだけ多数の選挙人の投票の価値が,上記鳥取外4選挙区の投票の価値よりも
3分の1以上劣位に評価される(逆にいえば,鳥取外4選挙区の選挙人(その合計
は前述の約307万人で全選挙人数の2.96%)の投票の価値が,神奈川外4選
挙区の選挙人(その合計は,前述の約3387万人で全選挙人数の32.65%)
の投票価値の3倍に評価されることになる。)だけの合理的理由は全く見いだせな
いのである。
また,選挙区選挙の定数中過半数を選出するのに必要な選挙区数とその選挙区の
選挙人数を計算すると,47選挙区中最も議員1人当たりの選挙人数が少ない鳥取
選挙区から数えて29位までの選挙区の定員で,選挙区選出議員の総数の過半数を
選出することができるが,その選挙人数は全体の33.3%にとどまる。すなわ
ち,選挙人全体の3分の1の投票で選挙区選出議員の過半数を選出することができ
るのであって,かかる点からみても,投票の価値の不平等さは顕著である。
このように,本件選挙時点においては,各選挙区間における投票価値に著しい不
平等が生じるに至っているが,その不平等が許容される合理的な理由が国会から国
民に示されたことは一度もない。そして,その著しい投票価値の不平等について,
合理的に説明することができない以上,その不平等は,憲法14条の趣旨に反し,
違憲状態にあるとの評価を受けざるを得ないのである。
6本件選挙の違法性
(1)従前の最高裁判所大法廷判決による問題点の指摘
参議院議員通常選挙において,選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差
が4倍を超えたのは,昭和37年7月1日実施の選挙からであって,その後の前記
の選挙制度の改正にもかかわらず,本件選挙までの45年間,最大較差が4倍以下
にとどまったことは一度もない。国民の参政権たる選挙の投票価値が4倍を超える
ことを合理化するに足る政策目標などは見いだすことはできず,かかる状態は,違
憲状態にあるものと解さざるを得ない。
そうした中で,昭和52年7月10日施行の参議院議員通常選挙(選挙区間の選
挙人数の最大較差は1対5.26)の効力が争われた訴訟に係る最高裁昭和54年
(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁におい
て,団藤重光裁判官が違憲であるとの反対意見,谷口正孝裁判官が違憲状態にある
との意見を述べるに至った。
次に,平成4年7月26日施行の参議院議員通常選挙(選挙区間の選挙人数の最
大較差は1対6.59)に係る最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日
大法廷判決・民集50巻8号2283頁の多数意見は,同選挙時における選挙区間
の投票価値の不平等は,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていた
ものと評価せざるを得ないとしながらも,なおその是正措置を講じなかったことを
もって,立法裁量権の限界を超えるものではないとして合憲としたが,前記のとお
り大野正男裁判官ほか5名の反対意見があり,その反対意見においては,選挙区間
の議員1人当たりの選挙人数の最大較差の問題だけではなく,付加選挙区(定数2
に人口比に応じて定数を2の倍数増加された選挙区)間の平等の確保の問題が論じ
られ,また,個別の反対意見において,投票価値の平等の確保の観点からの選挙区
選挙の制度についての見直しを含めた検討の必要性が指摘されるに至っていた。
その後も上記選挙後に施行された各参議院議員通常選挙に係る各最高裁判所大法
廷判決において,上記反対意見と同様の観点からの反対意見や補足意見,殊に現行
の選挙区選挙制度の抜本的な見直しを指摘する意見が,詳細に述べられている。
(2)国会の立法不作為の違法
国会は,憲法により認められた立法裁量権を適正に行使すべき責務を有してお
り,本件のごとき選挙制度に関しては,社会情勢の変化に対応して,制度自体の改
変をも含めてその是正につき,常に意を払うべき責務が存する。
殊に憲法との関係については,1に記載したとおり国会が国権の最高機関たる由
縁が,国会を構成する議員が国民の平等な参政権の行使たる選挙によって選出され
ることによるものであることからすれば,国会は,選挙における投票価値の平等の
確保については格段に意を払うべきものであるところ,前記のとおり,既に昭和3
7年施行の参議院議員通常選挙時において,選挙区間の議員1人当たりの選挙人数
の較差が最大1対4.09と4倍を超えていたにもかかわらず,平成6年の公職選
挙法の改正まで32年間,較差是正のための立法措置を全くとらなかったのであっ
て,その不作為は責められてしかるべきである。また,上記平成6年の改正やその
後の平成18年の改正は,いずれも選挙区間の投票価値の較差を若干減少させるも
のであったものの,前記のとおり,単なる弥縫策にすぎないと評さざるを得ないも
のである。
しかも,前記のとおり平成4年の参議院議員通常選挙に係る平成8年の大法廷判
決では,多数意見においても,本件選挙当時の較差は違憲の問題が生ずる程度の不
平等状態が生じていたものと評価せざるを得ないとし,また6名の裁判官が違憲で
あるとの反対意見を表明しているのである。
かかる最高裁判所大法廷判決がされた以上,国会は,同判決を受けて,参議院の
憲法上の位置付けをも踏まえた上で,既存の選挙制度を抜本的に見直し,国民の投
票価値の平等をできる限り実現し,憲法上の違法評価を受けるおそれのない制度
を,立法をもって構築すべき法的責務を負うに至ったものというべきである。もち
ろん,4において述べたような選挙制度の抜本的な見直しを,短期間で成し遂げる
ことは困難であって,その見直しには相当程度の期間を要するのであり,その間,
見直しに係る立法がされないことは,即違法との評価を受けるものではない。
しかし,上記平成8年判決から本件選挙まで10年以上の期間を経過しているに
もかかわらず,その間,上記のとおり,平成18年の公職選挙法の改正では,選挙
区の議員定数を一部分見直すことによって選挙区間の投票価値の較差を若干低減さ
せる弥縫策をとったにとどまり,選挙制度の抜本的改正に着手されることなく推移
してきたのであって,このように長期間,選挙制度の抜本的改正を怠り,違憲状態
を放置してきた国会の対応は,国会に与えられた立法に係る裁量権を合理的に行使
すべき責務を怠るものとして,違法であるとの評価を受けざるを得ないものであ
る。
7まとめ
以上のとおり,何らの合理的理由もなく4倍を超える投票価値の較差が多数の選
挙区において生じるという違憲状態が長期間にわたって生じ,かつ,その解消のた
めには選挙制度の抜本的改正が必要であることが最高裁判所大法廷判決によって指
摘されたにもかかわらず,その後10年以上かかる改正がされないままの状態の下
で施行された本件選挙は,憲法に反する違法な選挙制度の下で施行されたものとし
て無効であるといわざるを得ない。
しかし,本件選挙によって選出された議員への影響や,本件選挙後の平成19年
11月30日,参議院に参議院議長の諮問機関として参議院改革協議会が設置さ
れ,選挙制度改正を含む較差是正について抜本的に検討することとされていること
にかんがみ,本件では事情判決の法理を適用して,本件選挙を違法と宣言するにと
どめるのが相当である。
裁判官近藤崇晴の反対意見は,次のとおりである。
私は,多数意見と異なり,本件定数配分規定は本件選挙当時憲法に違反するに至
っていたものと考える。その理由は,次のとおりである。
1憲法適合性の判断枠組み
いわゆる参議院議員選挙の定数訴訟において,昭和58年大法廷判決以降の累次
の大法廷判決の多数意見は,参議院議員定数配分規定の憲法適合性を判断する基本
的な判断枠組みとして,多数意見の3項に摘記されているように判示してきた(た
だし,平成16年大法廷判決においては多数意見ではなく「補足意見1」)。私
は,この基本的な判断枠組みは,一般論として承認してよいと考える。①参議院
は,第二院ではあっても,国権の最高機関である国会を構成し(憲法41条,42
条),全国民を代表する選挙された議員で組織するとされる(憲法43条1項)の
であるから,参議院についても投票価値の平等が要求されるのは当然であり,②
しかし,憲法が二院制を採る以上,民意を多角的に反映させるという目的を達成す
るために,選挙制度についても,衆議院のそれとは異なる独自性を追求することが
要請されるものというべきだからである。③要は,この両者のバランスが取れて
いるかどうかであって,これによって憲法適合性の判断をすべきことになる。
2本件定数配分規定の憲法適合性
このような観点によって本件選挙について見ると,本件定数配分規定の下におけ
る選挙区間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差は,1対4.86に及んでい
た。この数値は,投票価値の平等がほぼ実現されているといえる最大2倍未満の較
差を著しく逸脱するものであり,異なる選挙区間の選挙人の投票価値の平等を大き
く損なうものであったといわなければならない。
このように大きな較差を生じた要因は,参議院議員の選挙制度について,参議院
議員の任期を6年とし,3年ごとに議員の半数を改選するという憲法46条の要求
するところのほか,法律によって,参議院議員の総定数を242人,そのうち選挙
区選出議員の定数を146人とし,各都道府県をそれぞれ1選挙区として各選挙区
に偶数によって定数配分をするという仕組みが採られていることにある。このよう
な仕組みを前提とする限りは,我が国の現在の人口分布の下では選挙区間における
上記の最大較差を4倍以内とすることは不可能だからである。
このような選挙制度の基本的な仕組み自体には,国会が正当に考慮することがで
きる政策的目的ないし理由が備わっているものということができる。すなわち,第
二院である参議院については議員総定数を衆議院のおよそ半数とし,その約6割を
地域代表的性格を有する選挙区選出議員の定数に充て,残りの約4割を全国単位で
選出される比例代表選出議員の定数に充てることにより,衆議院議員の選挙制度と
相まって民意の多角的反映の実現に資するものとすること,現在の都道府県制に
は,明治22年に現在の都府県割と同じ3府43県制(北海道は別格扱いであっ
た。また,東京府から東京都に変わったのは昭和18年である。)が確立して以来
120年に及ぶ歴史があり,選挙区を都道府県単位にすることには,地方制度に関
する国民の社会通念に深く根ざした一定の合理性があること,半数改選の制度は,
参議院の構成を衆議院のそれに比べてより安定的なものとする機能を果たし得ると
考えられることなどである。
しかしながら,これらの政策的目的ないし理由自体は国会が正当に考慮すること
ができるものであるとしても,これを実現しようとすれば,現状では,選挙区間に
おける上記の最大較差を4倍以内に収めることすら不可能であって,本件選挙にお
いては前記のとおり最大較差が実に1対4.86に達していたのである。これだけ
の較差があるにもかかわらず憲法の要求する投票価値の平等が実現していると評価
することは到底できないし,また,他の政策的目的ないし理由との関連において投
票価値の平等を調和的に実現するためには,投票価値の平等がこの程度に損なわれ
ることになっても,これが国会による裁量権の行使として合理性を是認し得るもの
であるとも,考えにくいところである。
したがって,私は,従前の大法廷判決における一般論としての基本的な判断枠組
みの下においても,本件選挙当時,本件定数配分規定によって投票価値の著しい不
平等が生じていたものというほかなく,本件定数配分規定は全体として憲法14条
1項に違反していたものと考える。この点に関する論旨は理由がある。ただし,本
件選挙のうち提訴に係る選挙区の選挙を無効とするのではなく,いわゆる事情判決
の法理により,選挙無効の請求を棄却するとともに,判決主文において上記選挙の
違法を宣言するにとどめることが相当である。
3平成16年・平成18年大法廷判決との関係
上記のように本件定数配分規定が違憲であるとすることと,平成16年大法廷判
決及び平成18年大法廷判決(多数意見3項掲記の平成18年10月4日判決)と
の関係について,私の考えるところを述べておきたい。
本件選挙は,いわゆる4増4減を内容とし,平成18年6月7日から施行された
本件改正後の本件定数配分規定によったものであるが,本件改正前の定数配分規定
によった直前2回の参議院議員通常選挙における選挙区間の議員1人当たりの選挙
人数の最大較差について見てみると,平成13年7月29日施行の前々回選挙にお
いては1対5.06であり,平成16年7月11日施行の前回選挙においては1対
5.13であった。すなわち,いずれも本件選挙における前記の最大較差4.86
を上回っていたのであるが,平成16年大法廷判決は前者につき,平成18年大法
廷判決は後者につき,いずれも,選挙当時において定数配分規定が憲法に違反する
に至っていたものとすることはできないとした。
しかし,平成16年大法廷判決において,多数意見のうち4人の裁判官による
「補足意見2」は,平成12年改正にそれなりの合理性が認められることなどを理
由に,前々回選挙当時の定数配分規定について,今回は違憲とまではいえないが違
憲に近い状態であるとの見解を示したものであり,また,6人の裁判官による反対
意見は,これを違憲とした。
次に,平成18年大法廷判決において,10人の裁判官による多数意見は,①
平成16年大法廷判決の言渡しから前回選挙までの期間が約6か月にすぎなかった
こと,②前回選挙後に,いわゆる4増4減を内容とする本件改正がされ,選挙区
間における議員1人当たりの人口の最大較差が1対4.84に縮小したことなどを
考慮すると,前回選挙までの間に定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量
権の限界を超えたものと断ずることはできないとした。そして,国会においては投
票価値の較差をより縮小するための検討を継続することが憲法の趣旨に沿うもので
あると付言した。また,5人の裁判官による反対意見は,これを違憲とした。
すなわち,平成16年大法廷判決と平成18年大法廷判決は,結論は合憲ではあ
るが,決して国会の裁量権行使の合理性を積極的に是認したものではなく,投票価
値の平等を十分に実現するための法改正を行う時間的余裕が乏しい中で選挙の直前
又は直後に行われた定数配分規定の改正に一定限度の評価を与え,更に国会に対し
て参議院議員選挙制度の仕組みを根本的に見直すことを求めることによって,当該
選挙における定数配分規定を直ちに違憲とはしなかったものということができるの
である。
前回選挙後にされたいわゆる4増4減を内容とする本件改正は,根本的な見直し
には程遠い弥縫策と評するほかないものであって,平成16年大法廷判決と平成1
8年大法廷判決の多数意見を前提としても,本件選挙当時の本件定数配分規定を違
憲とする余地は十分にあると考えられる。私は,前々回選挙についても,前回選挙
についても,5倍を超える較差を生じていた当時の定数配分規定は,前記の基本的
な判断枠組みの下であっても,憲法14条1項に違反していたものと考えるが,平
成16年大法廷判決と平成18年大法廷判決の多数意見を前提としても,本件定数
配分規定を違憲とすることが,必ずしも実質的にこれと抵触するものではないと考
えるものである。
4抜本的改正の必要性
参議院議員の選挙制度の上記のような基本的な仕組みは,昭和22年に制定され
た参議院議員選挙法において既に採用されていたものであるが,その当時において
は,選挙区間における人口を基準とする最大較差は1対2.62にとどまってい
た。最大較差が2倍を超えてはいたが,上記のような国会が正当に考慮することが
できる政策的目的ないし理由との関連において,投票価値の平等も調和的に実現し
ていたものと評価することができる。しかし,その後の人口変動に伴い,人口ない
し選挙人数が改選議員1人当たりの全国平均をはるかに下回る県が増加したことに
よって,最大較差を4倍以内に収めることすらできなくなったのである。すなわ
ち,参議院議員の選挙制度の基本的な仕組みとして前記の諸点のすべてを維持する
限りは,これらの政策的目的ないし理由との関連において投票価値の平等を調和的
に実現することは不可能となったものというべきである。これを解決するために
は,参議院議員の選挙制度の基本的な仕組みのうち,例えば選挙区割りの見直しな
ど,憲法の要求する点以外の点について見直しを行い,これを抜本的に改正するこ
とが不可避であると考えられる。
なお,明年7月に施行される次回の参議院議員通常選挙までには,最小限の是正
措置を講ずることは別として,上記のような抜本的な見直しを実現することは困難
であろうが,国会においては,4年後に施行される次々回の参議院議員通常選挙ま
でには,憲法の要求する投票価値の平等を他の政策的目的ないし理由との関連にお
いて調和的に実現するために,参議院議員の選挙制度の抜本的見直しを行うこと
が,憲法の要請にこたえるものというべきである。次々回の選挙もこのような抜本
的な見直しを行うことなく施行されるとすれば,定数配分規定が違憲とされるにと
どまらず,前記事情判決の法理によることの是非が検討されることになろう。
裁判官宮川光治の反対意見は,次のとおりである。
1私の反対意見の要旨
衆議院及び参議院の各議員を選挙する権利は,国民主権を実現するための,国民
の最も重要な基本的権利である。人口は国民代表の唯一の基礎であり,投票価値の
平等は憲法原則である。したがって,法律により選挙区や定数配分を定めるには,
人口に比例して選挙区間の投票価値の比率を可能な限り1対1に近づけなければな
らない。憲法が参議院の役割について示すところは,衆議院に対する抑制・均衡・
補完の機能を通じて,国会の審議を慎重にし,これによって衆議院と共に,国民代
表機関たる国会を万全たらしめることに尽きる。そのような参議院の役割・独自性
などを十全に機能させるべく,選挙制度を構築するに際し,国会が正当に考慮でき
る事柄があり得るとしても,選挙区間の投票価値の最大較差が2倍を超えることが
ないよう,その範囲で考慮すべきものである。なお,憲法は,参議院議員に都道府
県代表としての機能を求めてはいない。そうした政策目的により,投票価値の平等
を上記以上に後退させることが許されるというのは,根拠のない主張である。人口
の移動,都市化,産業構造の変化という戦後我が国社会が遭遇した大きな変容に対
応して,国会は,小手先の弥縫策ではなく,奇数配分区の設定,行政区にとらわれ
ず大規模な区割りを試みる等,選挙制度を抜本的に改革すべきであったのであり,
そのような試みは,遅くとも,平成6年の公職選挙法改正時ころまでに実現すべき
であった。国会の無為により長きにわたり続いている1票の価値の大きなゆがみ
は,我が国の政治の活力と時代適応能力を減殺し,また,政治の正統性への疑念を
も招来している。
多数意見は,本件改正によって,本件選挙時の最大較差は前回選挙当時の最大較
差1対5.13から1対4.86に縮小し,さらに,本件選挙の後には,参議院改
革協議会が設置されるなど,今後も検討が行われることとされているとし,なお存
する投票価値の大きな不平等状態を解消すべく現行選挙制度の仕組み自体の見直し
に向けて,適切な検討が行われることが望まれると付言した上,本件定数配分規定
は,本件選挙当時,憲法に違反するに至っていたとはいえないとしている。私は,
この多数意見には賛成できない。私は,本件定数配分規定は,本件選挙当時,違憲
無効の状態にあったと考える。そして,事情判決の法理により,主文において本件
選挙が違法である旨を宣言するとともに,将来,選挙無効請求事件において,選挙
結果を無効とすることがあり得ることを付言すべきものと考える。
以上の私の意見は,累次の最高裁判所大法廷判決において,反対意見を述べてき
た少なからぬ数の先輩裁判官たちの意見と趣旨において同じである。それら反対意
見の系譜に連なり,今日の時点で,私が,特に付言したいことを,以下に述べる。
2基本的な権利としての選挙権と平等原則
憲法は,前文において「主権が国民に存することを宣言」し,「国民は正当に選
挙された国会の代表者を通じて行動」すること,「国政は,国民の厳粛な信託によ
るものであって,その権威は国民に由来し,その権力は国民の代表者がこれを行
使」すると規定する。これらの規定は,国民主権を宣明し,これを議会制民主制に
より実現することを表している。衆議院及び参議院の議員を選挙することは,国民
の固有の権利であり(15条1項),国民主権を実現するための最も重要な基本的
権利である。そして,憲法において両議院の議員の選挙に対する国民の権利がこの
ように位置付けられていることを踏まえると,憲法は,近代選挙の5原則である,
普通選挙(15条3項,44条ただし書),平等選挙(14条),自由選挙(21
条),秘密選挙(15条4項),直接選挙のすべてについて,要請していると理解
できる。憲法は,両議院の定数(43条2項),両議院の議員及びその選挙人の資
格(44条本文),選挙区,投票の方法その他両議院の選挙に関する事項(47
条)について法律で定めることとしているが,国会の立法裁量は,以上の憲法原則
に従う限りで認められるものである。
主権者国民の権利の実現という観点から考えると,投票価値は可能な限り平等で
なければならない。人口は,国民代表の唯一の基礎である(フランス1793年憲
法21条)。人がどこに住んでいるかによって投票の効果が異なることを,正当化
する理由は存在しない。人口こそが,議席配分の出発点であり,かつ決定的な基準
である。これこそが,平等保護条項の明確で断固とした要請である(レイノルズ事
件についての1964年アメリカ合衆国連邦最高裁判所判決法廷意見)。したがっ
て,法律により選挙区や定数配分を定めるに当たっては,人口に比例して,選挙区
間の投票価値の比率を可能な限り1対1に近づけなければならない。
3考慮することができる政策的目的について
(1)多数意見は,昭和58年大法廷判決以降の累次の大法廷判決の趣旨を,基
本的判断枠組みとして踏襲している。その第1の枠組みは,投票価値の平等は憲法
上の要請であるが,それは,国会が選挙制度の仕組みを決定するに際しての唯一,
絶対の基準ではなく,正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との
関連において調和的に実現されるべきものであり,①憲法が二院制を採用し参議
院の実質的内容ないし機能に独特の要素を持たせようとしたこと,②都道府県が
歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し一つの政治的まと
まりを有する単位としてとらえ得ること,③憲法46条が参議院議員については
3年ごとにその半数を改選すべきものとしていること等に照らすと,参議院議員の
選挙制度の仕組みは,相応の合理性を有し,国会の裁量権の合理的な行使の範囲を
超えているとはいえない,というものである。
(2)二院制に関し,比較制度的に見ると,二院制における第二院には,いくつ
かの類型がある。連邦制国家における第二院(上院)は,連邦の各構成国(州)を
代表する。例えば,アメリカの上院は,建国時の歴史的経緯から,各州から2人ず
つ選出される任期6年の議員により組織されている(アメリカ合衆国憲法1条3節
①,修正17条1項)。ドイツの連邦参議院は,ラント(州)政府が任命するラン
ト政府の構成員により構成され,各ラントは少なくとも3票の票決権を有し,人口
が一定以上のラントは,4票,5票,6票の票決権を有する(ドイツ連邦共和国基
本法51条1項,2項)。他方,イギリスや我が国の旧憲法下の帝国議会のよう
な,民選によらない貴族院型のものがある。また,民選による場合でも,フランス
の元老院の議員は,地方公共団体の代表として間接選挙により選出される(フラン
ス第5共和国憲法24条3項)。地方政府の首長や地方議会議員との兼職が認めら
れており,選挙人団は地方議会の代表が多数を占めている。
我が国憲法における二院制は,これらとは異なる,二院制度の民主制的発展型と
もいうべき独自のものである。両院とも,直接普通選挙によって選出される議員に
よって組織され,議員は全国民を代表する(43条)。憲法が,衆議院の議員の任
期は4年とし,衆議院解散の場合は,その任期満了前に終了すると定める(45
条)一方,参議院の議員の任期は6年とし,3年ごとに議員の半数を改選すると定
めていること(46条),両院議員の兼職を禁止していること(48条),法律案
は,憲法に特別の定めがある場合を除いては,両議院で可決したときに法律となる
としていること(59条1項),衆議院が解散されたときの参議院緊急集会を定め
ていること(54条2項)等を踏まえると,憲法が参議院の存在理由としているこ
とは,異なる時期や方法で表明された国民の多様な意思を反映して審議を慎重に重
ね,かつ深めることにより,衆議院に対する抑制・均衡・補完の機能(一院制が陥
りやすい多数派の横暴・審議の形骸化を阻止し,補正するという政治的効用もあ
る)を果たし,これによって衆議院と共に,国民代表機関たる国会を万全たらしめ
ることであると考えることができる。さらに,付加すると,解散等により衆議院が
機能しない時に,国民の代表機関を確保することがある。
憲法において参議院の在り方として考えていることは,以上に尽きる。憲法は,
参議院議員を地域代表とすること,都道府県代表とすることを何ら要請していな
い。そうしたことを憲法が想定しているという議論は,根拠なき思い込みにすぎな
い。
参議院においては,長期的・総合的な視点から国政上の諸問題に対応すること,
衆議院のみでは十分に代表されない国民各層の利益や意見を代表し反映すること,
非政党的な色彩の多種多様な意見が反映されること等が望ましい(参議院制度研究
会「参議院のあり方及び改革に関する意見」昭和63年)。そうした,参議院に期
待される役割を果たすことを可能とするために,選挙制度上の工夫を試みること
は,それが可能であるならば,必要なことでもある。しかし,そうした試みは,投
票価値の平等を侵さない限りにおいて,具体的には,最大較差1対2の範囲におい
て検討されるべきものである。そして,その範囲であろうと,較差が生ずることに
ついては,試みの合理性が吟味されるべきである。
(3)都道府県を選挙区の単位とすることは,昭和22年2月公布の参議院議員
選挙法(昭和22年法律第11号)によって地方選出議員の選挙区として採用され
た。選挙区ごとの議員定数については,2人以上の偶数とし,昭和21年当時の総
人口を地方選出議員の総定数150で除して得られた数字で各選挙区の人口を除
し,その結果得られた数値を基準とし,いわゆる最大剰余方式により議員数を配分
したのであるが,都道府県を選挙区の単位とし偶数配分した結果,最大較差は既に
1対2.62に達していた。当初から,違憲状態にあったというべきである。もっ
とも,参議院議員選挙法は,憲法が昭和21年11月3日公布された直後の状況に
おいて,選挙権の意義及び投票価値の平等の重要性に対する認識がいまだ十分に浸
透していなかった状況の下で,かつ短期間に制定されたのであり,スタートとして
は,やむを得ない内容であった。しかし,その後において是正されるべきものであ
った。
その後,戦後経済の復興,我が国社会の構造変化が進み,人口構成が大きく変化
する中で,上記区割りと定数配分では投票価値の不平等状態は悪化する一方であっ
たのであるから,国会としては,相当以前において,抜本的な見直しを行うべきで
あったというべきである。
(4)1選挙区に2名以上の偶数を割り当て,3年ごとの改選を維持する限り,
現在の都道府県単位の区割りでは限界があり,最大較差を4倍以下とすることは不
可能である。小手先の手直しではなく,抜本的に制度を改正しなければならない。
憲法46条は,参議院議員の任期は6年とし,3年ごとに議員の半数を改選する
と定めている。その意味は,議員総数を偶数とし,3年ごとにその半数を改選する
ということであり,憲法は,各選挙区に議員を偶数配分し3年ごとにその半数を改
選することまでを求めてはいない。確かに,人口過少地域において,全国比例代表
選出議員の選挙は3年ごとに行われるとしても,選挙区選挙は6年に1度しか行わ
れないこととなれば,その選挙区の選挙人については投票の機会が均等でなく,制
度としては望ましいものであるとはいえない。しかし,それらの選挙区の選挙人の
1票の価値が数倍であるという,侵すことが許されない平等原則に反した事態を解
消するには,やむを得ないことというべきである。例えば,1人,3人,5人,7
人等という奇数配分を容認し,基準人数により人口に比例した議員数を計算し,四
捨五入等の工夫をして配分議員数を算出すれば,計算上(1人の選挙区が15区前
後,3人の選挙区が6区前後,5人,7人の選挙区が各1区程度生ずるが),最大
較差は1.5以下に収まり,投票価値の不平等は,抜本的に改善する。その場合,
1人の選挙区を隣県と合区し,2人,あるいは3人の選挙区とするという方法を採
れば,3年ごとの投票の機会を確保することができる。また,奇数配分をした場
合,全国比例代表選挙と選挙区選挙を3年ごとに交互に実施することとする方法を
採ることによっても,投票の機会を均等にすることができる。
他方,憲法は,行政区を選挙区とすることを求めてはいないのであるから,都道
府県単位ではなく,人口を基礎にブロック分けを検討することが考えられる。な
お,将来,道州制が導入されることとなっても,参議院議員選挙区の区割りを道州
単位で行う必要はない。そして,仮に選挙区の区割りが道州単位に沿ったものとな
るにしても,人口比例原則は堅持されなければならない。
4国会が是正措置を講じなかったことについて
平成4年7月施行の参議院議員選挙時には,最大較差が1対6.59にまで達
し,国会は47年という長い年月を経て,平成6年,選挙区選挙の定数是正に踏み
切ったが,それはいわゆる8増8減であり,平成12年改正は6減,平成18年改
正は4増4減という,弥縫策に終わり,いずれも最大較差1対4.8前後とする程
度のものにすぎなかった。遅くとも,国会は,平成6年改正時において,投票価値
の不平等状態を抜本的に改善する制度改革を行うべきであったが,無為のまま今日
に至っている。こうして長きにわたり続いている1票の価値の大きなゆがみは,本
来,議員選出に結び付くべき投票行動が生かされず,膨大な数の死票が生じている
に等しい状況をもたらしているのであり,その状況は,我が国の政治の活力と時代
適応能力を減殺し,また,政治の正統性への疑念を招来している。
多数意見は,第2の基本的判断枠組みとして,人口の変動の結果,投票価値の著
しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを
是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合に
は,当該議員定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当であると
している。そして,結論において,本件選挙までに本件定数配分規定を更に改正し
なかったことが国会の裁量権の限界を超えてはいないと判断している。
私は,60余年にわたる国会の不作為を,裁量権の行使の範囲にあるものとして
容認することは到底できない。
5むすび
以上により,私は,本件定数配分規定は,本件選挙当時,違憲無効の状態にあ
り,いわゆる事情判決の法理により,原判決を変更し,上告人らの請求を棄却する
が,主文において本件選挙が違法である旨を宣言すべきであると考える。そして,
さらに,今後,国会が,抜本的改革に要する合理的期間経過後においても,改革し
ない場合は,将来提起された選挙無効請求事件において,当該選挙区選挙の結果に
ついて無効とすることがあり得ることを付言すべきものと考える。
(裁判長裁判官竹崎博允裁判官藤田宙靖裁判官甲斐中辰夫裁判官
今井功裁判官中川了滋裁判官堀籠幸男裁判官古田佑紀裁判官
那須弘平裁判官涌井紀夫裁判官田原睦夫裁判官近藤崇晴裁判官
宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官竹内行夫裁判官金築誠志)

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