弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人中西金太郎の上告趣意第一、一のうち、憲法一一条、三一条ないし三四条
違反をいう点は、刑訴法三三九条一項一号によりなした公訴棄却の決定が確定した
としても、同一事実について再度の公訴提起をし、それに伴ない被告人の身柄を勾
引または勾留することが許されないとする法的根拠はないから、所論違憲の主張は、
その前提を欠き、その余は、単なる法令違反、事実誤認の主張にすぎない。同第一、
二は、憲法三八条一項違反をいうが、本件記録に徴しても被告人の自白調書には任
意性を疑うに足りる証跡が窺われないから、所論違憲の主張は、その前提を欠き、
同第二、一は、当裁判所の判例に違反するというが、判例を具体的に摘示しないか
ら不適法であり、また、同第二、二は、原判決の採用する被告人の捜査官に対する
自白調書が捜査官の偽計によるものであることを前提として、所論引用の判例に違
反するとするが、記録に徴しても、かかる事実が認められないから、所論判例違反
の主張は、前提を欠き、同第三および第四は、単なる法令違反、事実誤認の主張で
あつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。もつとも、所論にかん
がみ、職権をもつて調査すると、被告人たる米国軍人等に対する訴訟書類の送達に
ついては、刑訴法五四条によつて準用される民訴法一六九条その他によるほか、日
米合同委員会の合意事項たる「日米行政協定の実施上問題となる事項に関する件」
第八項E(民事裁判資料二九号・刑事裁判資料七〇号一四〇頁参照)に準拠して行
なわれるべきものである。ところが、記録編綴の被告人に対する起訴状謄本の送達
報告書の記載によると、受送達者氏名「横須賀米海軍基地司令部法務部気付A宛」
とした本件起訴状謄本は、昭和四三年九月一〇日横須賀市a町b丁目c番地米軍基
地内事務員Bにより受領されている。そして当時被告人は、右「横須賀米海軍基地
司令部」に所属せず、「在日米海軍極東地区海上輸送司令部」に所属する米海軍軍
属であつたのであるから、本件起訴状の謄本は、その送達の場所を誤つたものであ
つて、適式なものとはいえない。しかしながら、原審の確定したところによると、
被告人に対する本件起訴状の謄本は、米海軍当局の慣行に従い、前記横須賀基地司
令部法務部を経由し、昭和四三年九月一八日ころ被告人の所属する前記輸送司令部
に回送され、そのさい、管轄受訴裁判所の発した日本文の起訴状の謄本は右法務部
において同部員により職務上英文に翻訳され、そのご同月三〇日ころ、そのうち右
英訳にかかる起訴状と弁護人選任に関する通知だけが本人たる被告人に交付された
というのであるから、これにより、日本語を解しない被告人は、自己に対する公訴
事実の内容と罪名を了知するとともに自ら弁護人選任に関する所要の手続をするこ
とができたのである。そうすると、本件において、起訴状謄本の送達場所を誤つた
ことのほか、日本文の起訴状の謄本自体が被告人に交付されなかつた瑕疵があつた
としても、前記経過によりなされた本件送達の瑕疵は、いまだ被告人に対する公訴
提起そのものの効力を失わしめるものとは認められない。のみならず、記録を精査
しても、右のような送達の瑕疵のために、被告人において公判期日における防禦権
の行使が害されたと認むべき何らの事跡がないのであるから、原判決を破棄しなけ
れば著しく正義に反するものとは解されない。また、その他記録を調べても刑訴法
四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり決定する。
  昭和四七年七月二八日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   川   信   雄
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    岡   原   昌   男

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