弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を札幌高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告人の上告理由第一点の三、四および第三点ならびに上告代理人中山信一郎の
上告理由第二点について。
 原審は、原判決(その引用する第一審判決を含む。)にみられるように、その認
定した諸事実を総合して、被上告人がした訴外株式会社D(以下、Dという。)と
の間の売買契約の合意解除、土地交換契約および上告人との間の本件定期貯金契約
の解約、その払戻金のDへの支払委任は、いずれも、被上告人の意思表示に要素の
錯誤があつたから無効であり、したがつて、上告人が右支払委任に基づきDに対し
てなした原判示金九〇〇〇万円の支払は、その委任が無効であることにより非債弁
済となるに過ぎず、被上告人に対し有効な給付行為としての効力を主張できないも
のであるから、被上告人の上告人に対する本件定期貯金債権は消滅しなかつたこと
になる、と判示している。
 しかし、本件において、上告人は、昭和四〇年三月一二、三日ごろ、当時上告人
の組合長であつた訴外Eが、被上告人から、被上告人のDに対する売買代金一億八
〇〇〇万円の返還債務を弁済するため、本件定期貯金契約を解約し、その払戻金に
よりDに対して支払をするよう委任したい旨の申出を受けて承諾し、右委任に基づ
いて、上告人が同月二〇日右払戻金九〇〇〇万円をDに支払つたから、本件定期貯
金債権は消滅した旨の抗弁を提出し、原審は、右抗弁に関し、原判示の経緯により
被上告人がDに返還すべき前記売買代金のうち、「残金九〇〇〇万円については、
控訴人(被上告人)と被控訴組合(上告人)が本件定期貯金契約を合意解約し、控
訴人の委任により被控訴組合がその払戻金九〇〇〇万円をDに支払うことにより、
これを決済した」と認定判示している。
 思うに、右判示によれば、本件定期貯金契約の解約および被上告人の上告人に対
する支払の委任は、要するに、本件定期貯金の払戻金により金九〇〇〇万円をDに
給付することをその内容とするものなのであり、その実質においては、被上告人が
みずから定期貯金の払戻を受けてこれをDに支払う場合と同視すべきものであつて、
Dに対する支払の動機のごときは、上告人に表示されたかどうかにかかわりなく、
右定期貯金の解約および支払委任という法律行為の要素となるものではないと解す
るのが相当である。かような見地に立つときは、かりに、前記売買契約の合意解除
および土地交換契約が、原判示の要素の錯誤により無効であつたとすれば、被上告
人からDに対する支払が非債弁済となるものと解すべきであつて、これがため右定
期貯金契約の解約ないし支払委任が要素の錯誤により無効となるものとすることは
できないといわなければならない。そして、上告人が、右委任に基づいて、定期貯
金の払戻金九〇〇〇万円を支払つたのであるから、本件定期貯金債権金九〇〇〇万
円はこれによつて消滅したというべきである。上告人の前記抗弁は理由がある。右
に説示したとおりであるから、本件定期貯金債権が存在するとして、その一部の支
払を求める被上告人の本訴請求は、理由がないものといわざるをえず、原審が、本
件請求を認容したのは、民法九五条の解釈適用を誤り、ひいて理由不備の違法をお
かしたものというべく、論旨は理由があるから、その余の上告理由に対する判断を
省略して、原判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す
べきものとする(なお、上告代理人中山信一郎提出の昭和四六年一〇月一日附上告
理由補充書は、上告理由書提出期間経過後に提出されたものであるから、右記載の
上告理由に対しては判断を示さない。)。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決す
る。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    小   川   信   雄

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