弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     控訴及び上告の費用は上告人の負担とする。
         理    由
 本件上告理由は別紙記載のとおりである。
 被上告人は本件上告を不適法であると主張し、上告却下の判決を求めるのでまず
本件上告の適否について按ずるに、原判決は被上告人の控訴により第一審判決を取
り消し、本件を第一審裁判所に差戻したのである。大審院の判決が、原判決のよう
に第一審判決を取り消し差戻した第二審判決を中間判決と解し、これに対し直ちに
上告することはできないものとしていたことは被上告人所論のとおりであるけれど
も、本件の場合、原判決によつて本件は原審級を離脱するのであるから、原判決は
これを終局判決と解するを相当とし、従つて、これに対し民事訴訟法第三九三条に
よつて当裁判所に直ちに上告することができるものと解するを相当とする。
 そこで本件上告理由について判断を加えるに
 原判決の確定するところによれは、兵庫県美嚢郡a村農地委員会は昭和二三年一
〇月一九日本件農地について買収計画を定め、これに対し被上告人は異議決定を経
て上告人に訴願し、上告人は同年一二月二日附裁決をもつて訴願を棄却し、その裁
決書は同二四年一月二九日被上告人に送達された。これよりさき、被上告人は同二
三年一二月一七日訴願裁決に対し、上告人に再審議陳情をなし、これに対し上告人
は再審議陳情の件と題し「昭和二三年一一月二九日附兵庫県農委裁第四八六別裁定
書について元訴願人Bより再審議の陳情ありたるも、その理由認め難く前決定のと
おり買収すべきものとするも、訴願人が昭和二二年二月原野として前所有者Dより
収得せる所有権は農地調整法に違反せるものなるを以てその所有権移転登記を抹消
し、前所有者より買収すべきものとする」と記載した文書を同二四年二月九日被上
告人に送達したのである。被上告人は右再審議陳情に対する決定の取消を求めて本
訴を提起し第一審判決は右決定は行政処分にあたらないものとし、原判決はこれを
行政処分と解したのである。すなわち原判決は右再審議陳情に対する決定の手続は
違法であるけれども、単純な事実的行為と同視すべきではなく、本件買収計画はそ
の限度において一部変更せられたものといわなければならないと判示したのである。
 しかしながら、右の決定においては「前決定のとおり買収する」としており訴願
裁決を変更したものとは認められず、このような再審議申請に基いて訴願裁決を変
更することができるかどうかはしばらくおき、到底これを行政処分と解することは
できない。もつとも右決定後段にはさらに「所有権移転発記を抹消し、前所有者よ
り買収すべきものとする」。と記載されているけれども、かゝる記載のある文書を
被上告人に送達したからと言つてそのために本件移転登記が抹消されるわけもなく、
又所有権移転の効力が失われるものでもない。また訴外Dを所有者とする買収計画
を定めるには自作農創設特別措置法第六条に定める手続を履践しなければならない
から、上告人が本件決定によつて、本件買収計画をDを所有者とする買収計画に変
更する趣旨とも考えられない。このように考えるならば、右決定の記載は単に上告
人の見解を示したものか或は単に上告人のとろうとする手段を予告的に通知したも
のに過ぎないものと解すべきであつて、このように法律効果の伴わない単純な通知
を内容とする本件決定は到底原判決説明のようにこれを行政処分と解することはで
きない。本件第一審判決が右決定の取消を求める請求を失当であるとしこれを棄却
したのは正当であつて、結局被上告人の控訴は理由なきに帰する。
 つぎに本件訴願裁決及買収計画の取消を求める訴について按ずるに、本件訴願裁
決書が被上告人に送達されたのは前述のとおり昭和二四年一月二九日であり、被上
告人が第一審裁判所に「訴変更の申立書」を提出して訴願裁決及買収計画の取消を
求めたのは同年七月一四日であることは記録に徴し明かであるから、自作農創設特
別措置法第四七条の二に定める出訴期間経過後であり、右の訴が不適法であること
も第一審判決の判示するとおりである。原判決は買収計画の取消を求めると訴願裁
決の取消を求めると、又再審議陳情に対する決定の取消を求めるといずれの訴も買
収計画の違法を理由とする限り、実質上国を相手方として買収計画の取消を目的と
する同一事件であると説明するけれども、買取計画の取消を求める訴の提起できる
のは自作農創設特別措置法第四七条の二、行政事件訴訟特例法第五条第四項によつ
て訴願申立入については裁決書の送達のあつた日から一ヶ月以内である。行政処分
に対して不服のある者がその取消を求める訴を提起するには、取消を求める行政処
分は特定されていなければならないのであつて、もとより民事訴訟法第二三二条に
より請求の基礎に変更のない限り請求又は請求の原因を変更することができるけれ
ども、同法第二三五条の趣旨に従い、新に行政処分の取消を求めることのできるの
はその行政処分についての出訴期間内でなければならない。又農地の所有者は買収
計画に対する不服申立の権利を失つた後も買収処分取消の訴において買収計画の違
法を攻撃することはできるけれども、(当裁判所昭和二四年(オ)第四二号同二五
年九月一五日判決参照)買収計画に対する訴の出訴期間経過後において買収計画そ
のものの取消を求める訴を提起できるものではない。本訴において当初被上告人は
再審議決定の取消を求めて訴を提起したのであるがこのような訴の提起によつて、
後に加えられた買収計画及訴願裁決の取消を求める訴が出訴期間内に提起されたも
のとする余地は全くない。要するに本件一審判決が右買収計画及訴願裁決の取消を
求める訴を却下したのは至当であつて結局被上告人の控訴は理由なきに帰する。
 しかるに、原判決が第一審判決を取り消し、本件を第一審裁判所に差戻したのは
法律の解釈を誤つた違法があり破棄を免れず、而して原審の確定した事実に基き裁
判をするに熟するから民事訴訟法第四〇八条第一号、第三八四条、第九五条、第八
九条に則り主文のとおり判決する。
 右は裁判官全員一致の意見によるものである。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
 裁判官河村又介は出張につ署名捺印することができない。
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎

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