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平成27年3月25日判決言渡
平成26年(行ケ)第10111号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成27年2月9日
判決
原告株式会社津田
訴訟代理人弁理士佐藤英昭
同丸山亮
同林晴男
被告特許庁長官
指定代理人神悦彦
同窪田治彦
同幸
同堀内仁子
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2013-5147号事件について平成26年3月17日にした
審決を取り消す。
第2前提事実
1特許庁における手続の経緯等(争いがない。)
原告及び有限会社情報科学研究所は,発明の名称を「表面に放射性汚染物が付
着した野菜の洗浄方法及び洗浄装置。」とする発明につき,平成23年5月28日,
特許出願(特願2011-132663号。以下,「本願」という。)をしたが,平
成24年12月14日付けで拒絶査定を受けたため,平成25年3月18日付けで
拒絶査定に対する不服の審判(不服2013-5147号)を請求し,この審理の
過程で,平成26年2月10日,手続補正をした(以下「本件補正」という。)。
原告は,平成26年4月30日,有限会社情報科学研究所から,本願に係る特許
を受ける権利の同社の持ち分を譲り受け,同日,特許庁長官に名義変更届を提出し
て,これを承継した。
特許庁は,審理の結果,平成26年3月17日,「本件審判の請求は,成り立た
ない。」との審決をし,その謄本を,同年4月1日,原告に送達した。
2特許請求の範囲の記載
本件補正後の本願の特許請求の範囲(請求項の数は2である。)の請求項1の記
載は,以下のとおりである(甲55。以下,同請求項に記載された発明を「本願発
明」という。また,本件補正後の本願の明細書及び図面を併せて「本願明細書」と
いう。なお,下線を付した範囲が本件補正による補正部分である。)。
「【請求項1】
表面に放射性汚染物が付着した野菜の洗浄処理方法であって,
前記野菜を,水素ガスを水中で微細気泡化して還元処理を行った酸化還元電位が
-400mV~-600mVである還元水を用いて洗浄し,前記放射性汚染物を除
去する第1洗浄段階と,
前記野菜を,野菜の活性と鮮度を保つ空気を水中で微細気泡化させたマイクロバ
ブル水を用いて洗浄する第2洗浄段階と,
洗浄汚染水中の放射性物質の除去を行う洗浄汚染水処理段階と,を有し,
前記第1洗浄段階と前記第2洗浄段階とを連続的に行うことを特徴とする表面に
放射性汚染物が付着した野菜の洗浄方法。」
3審決の理由
審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,本願出
願前に頒布された特開2003-235945号公報(甲51。以下「引用例1」
という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて
当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定
により特許を受けることができないというものである。
審決が認定した引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は以
下のとおりである。
(1)引用発明の内容
「野菜類などの被洗浄物(7)がネットコンベアー(17)の上で,殺菌水面
(15)のところで,被洗浄物が沈むか沈まないかの位置に保持されながら,上側
から,さまざまな角度を有する噴射ノズル(14)から,激しく噴射される殺菌水
の中を,所定の速度で送られていき,
供給管(10)から殺菌水が電働バルブ(9)をかいして噴射ノズルへの配管
(8)に供給され,噴射ノズルなど複数のノズルから噴射した殺菌水は水面を被洗
浄物と共に激しく水激し,
この時,発生した気泡(24)は剥離された虫や異物をくるみ,下からの水流
(27)によって中央部から両側の排水用トレイ(41)に吸収され,アジャスタ
ー(59)を通って排出され,この状態で重いものは対流に乗って回動しながら捕
捉アミ(42)に溜り,
被洗浄物は洗浄,殺菌後,渡し用コンベアー(36)によって,高濃度炭酸水の
脱臭処理工程に移動され,
渡し用コンベアーから送られた被洗浄物は,炭酸水が上側のさまざまな角度から
噴射される炭酸用ネットコンベアー(39)の上で炭酸水の水面近傍において発泡
作用や水激作用と攪拌振動作用,超音波洗浄作用により,塩素系の殺菌処理による
塩素臭を発散させて匂いのない製品を得ることにより,
小さな虫や付着物を取り除く洗浄,殺菌と炭酸ガスによる発泡作用を利用した,
塩素臭の脱臭もできる,野菜類などの洗浄,殺菌,脱臭方法。」
(2)一致点
「表面に汚染物が付着した野菜の洗浄処理方法であって,
前記野菜を,第1の洗浄液を用いて洗浄し,前記汚染物を除去する第1洗浄段
階と,
第2の洗浄液を用いて洗浄する第2洗浄段階と,
洗浄汚染水中の汚染物質の除去を行う洗浄汚染水処理段階と,を有し,
前記第1洗浄段階と前記第2洗浄段階とを連続的に行う表面に汚染物が付着し
た野菜の洗浄方法。」である点。
(3)相違点
[相違点(1)]
「「第1の洗浄液」及び「第2の洗浄液」が,本願発明ではそれぞれ「水素ガス
を水中で微細気泡化して還元処理を行った酸化還元電位が-400mV~-600
mVである還元水」及び「野菜の活性と鮮度を保つ空気を水中で微細気泡化させた
マイクロバブル水」であるのに対して,引用発明ではそれぞれ「殺菌水」及び「炭
酸水」である点。」
[相違点(2)]
「表面に付着した汚染物が,本願発明では「放射性」であるのに対して,引用発
明では放射性であるかどうか不明な点。」
第3原告主張の取消事由
1取消事由1(引用発明,一致点及び相違点の認定の誤り(相違点の看過))
(1)洗浄の対象物
審決は,引用発明の「野菜類などの被洗浄物」は,本願発明の「野菜」に相当す
るとして,一致点を認定した。
しかし,引用発明の「被洗浄物」は,「小さな虫,髪の毛,ごみなどや,野菜類
の表面にある水をはじく生成物中に住み着いた細菌等が表面に付着した食材及び布
または機材」であって,食材,布,及び機材から選ばれる一つ以上のものではなく,
「食材及び布」又は「食材及び機材」として限定しており,野菜のみを被洗浄物と
することを想定していない。また,引用発明の出願当時は,野菜の表面に放射性汚
染物が付着することは想定しておらず,放射性汚染物が付着していない粘土鉱物は
少量であれば無害であると考えられていたので,引用発明は,粘土鉱物を完全に除
去することを想定していない。また,仮に,引用発明の物理的な洗浄方法で放射性
汚染物まで除去しようとすれば強い圧力が必要で,野菜がちぎれたり,野菜の食感
を損なったりする虞がある。そして,引用発明が放射性汚染物を除去できない以上,
放射性汚染物の害毒の大きさを考慮すれば,引用発明の対象物は,放射性汚染物で
あってはならないものである。なお,引用例1には,殺菌水及び炭酸水を回収し再
利用する点が記載されており,このことからも放射性汚染物を洗浄の対象としてい
ないことは明らかである。
これに対し,本願発明の被洗浄物は「表面に放射性汚染物が付着した野菜」であ
って,放射性汚染物は害毒の大きいことから通常の汚染物とは全く異なるものであ
る。また,被除去物である放射性物質は,ナノオーダーの大きさの粘土鉱物の微細
な薄片であって,非常に除去しにくいものであるところ,本願発明は,洗浄の対象
物を放射性汚染物に特定したものである。
したがって,審決には洗浄の対象物が異なるという相違点を看過した誤りがある。
(2)洗浄方法
審決は,引用発明の「野菜類などの洗浄,殺菌,脱臭方法」は本願発明の「野菜
の洗浄方法」に相当すると認定した。
しかし,引用発明の洗浄方法は,「殺菌水」及び「炭酸水」を用い,殺菌水の水
激という「物理的洗浄力」,殺菌水の殺菌力による「化学的洗浄力」及び炭酸水に
よる殺菌水の洗浄除去によって洗浄を行うものである。これに対し,本願発明は,
水素ガスを水中で微細気泡化して還元処理を行った酸化還元電位が-400mV~
-600mVである「還元水」及び「マイクロバブル水」を用い,陰イオンの静電
反発力を用いる電気的洗浄方法であって,引用発明とは洗浄液の種類,洗浄の方法
のみならず,作用機序及び効果が異なるのであるから,異なる洗浄方法というべき
である。
なお,引用例1には,殺菌水及び炭酸水を回収し再利用する点が記載されている
のであるから,これは必須の構成であるというべきであり,この点においても本願
発明とは異なるものである。
したがって,審決は洗浄方法に関する上記相違点を看過した誤りがある。
2取消事由2(相違点の判断の誤り)
(1)相違点1の容易想到性の判断の誤り
ア審決は,還元水が殺菌作用を持つことは当業者の技術常識であるから,引用
発明の殺菌水に替えて還元水を用いることに格別の困難性はないなどと判断した。
しかし,引用例1には,殺菌水に替えて還元水を用いることは記載も示唆もされ
ておらず,これを用いる動機付けがない。また,通常用いられる還元水である電解
カソード水では,野菜の表面に付着した放射性汚染物を洗浄処理しても充分な結果
が得られず,還元水として通常用いられている水素水の酸化還元電位は約-300
mVであるところ,本願発明は,酸化還元電位が-400mV~-600mVであ
る特別な還元水を用いて野菜の表面に付着した放射性汚染物の除去に成功したもの
である。さらに,水素ガスは,爆発限界が非常に広いこと,爆発力が絶大であるこ
と,危険性が高く恐怖感があることなどから,水素ガスを使用することには阻害要
因がある。
イまた,審決は,引用発明の「炭酸水」に替えて多量の気泡が混入された溶液
である「マイクロバブル水」を用いることに格別の困難性はないなどと判断した。
しかし,引用例1には,炭酸水に替えてマイクロバブル水を用いることは記載も
示唆もされておらず,これを用いる動機付けがない。引用発明における炭酸水の課
題・作用・効果は,塩素系殺菌水の消臭作用であるのに対し,本願発明のマイクロ
バブル水の課題・作用・効果は,還元水で洗浄した野菜の活性化であり,相互に全
く異なっているので,「炭酸水」に替えて「マイクロバブル水」を用いることは容
易に想到できたものではない。
ウしたがって,審決の容易想到性の判断には誤りがある。
(2)相違点2の容易想到性の判断の誤り
審決は,引用発明を,表面に放射性汚染物が付着した野菜に適用することにより,
相違点2に係る構成を採用することは当業者が容易になしうる事項であると判断し
た。
しかし,前記(1)のとおり,引用発明は,放射性汚染物が付着することは想定し
ておらず,引用発明の洗浄方法では,表面に放射性汚染物が付着した野菜の放射性
汚染物を除去することは困難である。また引用発明は,「殺菌水」及び「炭酸水」
を回収して再利用するものであるから,放射性汚染物が付着した野菜を引用発明の
方法で洗浄することはできない。そうすると,引用発明を放射性汚染物が付着した
野菜の洗浄に用いることは,当業者であっても容易に想到することはできない。
したがって,審決の容易想到性の判断には誤りがある。
(3)なお,本願発明の還元水の水素ガスは気化するため,本願発明には,残留
する成分を何も加えないで,野菜の表面に付着した放射性汚染物を除去できるとい
う非常に優れた効果があるのであって,審決はこの点を看過した誤りがある。
第4被告の反論
1取消事由1(引用発明,一致点及び相違点の認定の誤り(相違点の看過))
に対し
(1)洗浄の対象物
原告は,引用発明の洗浄の対象物には放射性汚染物は含まれない旨主張する。
しかし,引用例1の記載によれば,引用発明の洗浄の対象物は食材であって,こ
れに野菜類が含まれることは明らかである。また,野菜の生産過程等において表面
に放射性汚染物が付着することや,野菜の表面が放射性物質の有無にかかわらず粘
土鉱物によって汚れることは引用発明においても当然想定されており,引用例1に
放射性物質が付着した野菜などを排除する記載はない。また,引用例1の記載から
引用発明を認定できることは技術的に明らかであって,引用発明の認定において,
洗浄水の廃棄・回収に関する事項を認定する必要はない。
したがって,審決の引用発明,一致点及び相違点の認定に誤りはなく,原告の主
張は理由がない。
(2)洗浄方法
原告は,本願発明が水素ガスを水中で微細気泡化して還元処理を行った酸化還元
電位が-400mV~-600mVである還元水を用い,陰イオンの「静電反発力
を用いる電気的洗浄方法」であるのに対して,引用発明は殺菌水の水激という水に
よる「物理的洗浄力」及び殺菌水の殺菌力による「化学的洗浄力」である点が相違
点である旨主張する。
しかし,上記相違点は,実質的に相違点1と同一であるから,原告の主張は理由
がない。
2取消事由2(相違点の判断の誤り)に対し
(1)相違点1の容易想到性の判断の誤り
ア原告は,引用発明において,殺菌水に替えて還元水を用いる動機付けがない
旨主張する。
しかし,引用発明は,殺菌水面上に噴射した殺菌水の水激作用による洗浄に,同
様に噴射した炭酸水の気泡による洗浄を重畳したものであるところ,このような作
用を期待できる他の洗浄水が利用可能であることは,当業者が容易に理解できる。
そして,引用発明において「殺菌水」は野菜表面の殺菌のために用いられるもので
あるところ,還元水が殺菌作用を持ち野菜の洗浄に利用できることは,本願出願時
に周知の事実である。また,引用発明の塩素系の除菌剤には作業者の安全性や食品
の品質の劣化の問題も指摘されている一方で,還元水は,野菜の洗浄・除菌,固体
粒子汚れの除去に優れていることが広く知られていた上,飲料・食品に供されるも
のであるから,人体に対する安全性も問題がない。さらに,還元水は,酸化還元電
位が低いほど一層の還元力を発揮し,洗浄力をより期待できることも明らかである。
そうすると,引用発明において還元水の採用を試みることの動機があり,特に固体
粒子汚れの除去の観点から,より酸化還元電位の低い当該還元水を採用することは,
当業者が容易に想到できるといえる。なお,水素ガスを水中で微細気泡化して還元
処理を行った還元水とそれ以外の還元水との間に洗浄・殺菌効果に格別差異はない
上,水素ガスは一般的に使用されるものであり,阻害要因とはならない。
したがって,引用発明の殺菌水に替えて「酸化還元電位が-400mV~-60
0mVである還元水」を用いることは当業者が容易に想到しうる事項である。
よって,審決の判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
イ原告は,引用発明において,炭酸水に替えてマイクロバブル水を用いること
の動機付けがない旨主張する。
しかし,引用発明の「炭酸水」は,発泡した泡による吸着作用を利用し虫や細か
い異物を除去する作用・効果を有するものであるところ,この作用は,「マイクロ
バブル水」の有する作用・効果と同様のものであり,本願の出願時点で野菜の洗浄
液として「マイクロバブル水」を用いることは周知の技術である。
そうすると,ことさら放射性物質の洗浄という作用・効果によらずとも,引用発
明の発泡作用を有する洗浄液として,炭酸水に替えてマイクロバブル水を用いるこ
とは,当業者が容易になしうる事項である。
したがって,審決の判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
(2)相違点2の容易想到性の判断の誤り
原告は,引用発明は野菜類の放射性汚染物を除去するために用いることを想定し
ていない,引用発明は「殺菌水」及び「炭酸水」を回収して再利用するものである
から,放射性汚染物が付着した野菜を引用発明の方法で洗浄することはできないな
どと主張する。
しかし,放射性物質の降下によって野菜が汚染されることが従前より広く知られ
ていることからすれば,その中で特に放射性物質に着目することは格別なことでは
なく,引用発明においても想定されている。また,前記1(1)のとおり,引用発明
が,野菜の表面に付着した汚染物が放射性であるなしにかかわらず洗浄可能である
ことは明らかである。
したがって,審決の判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
第5当裁判所の判断
1本願発明及び引用発明について
(1)本願発明の要旨
本願明細書によれば,本願発明は,原子力発電の事故等で低レベルの放射能に汚
染された農産物から放射能汚染物を除去するための農産物の洗浄方法及び洗浄装置
に関するものであり(【0001】),農作物の放射能除去技術については,福島第
1原子力発電所の事故が発生するまでほとんど研究されておらず,還元水やマイク
ロバブル水による洗浄可能性が考えられていたが,実用化されていなかった(【0
002】)。本願発明は,野菜表面に付着した放射能除去方法を提案することを課題
とするものであり(【0004】),解決する手段として,第1洗浄段階として,水
素ガスを水中で微細気泡化して還元処理を行った酸化還元電位が-400mV~-
600mVである還元水を用いて野菜を洗浄して前記放射性汚染物を除去し,これ
に連続して,②第2洗浄段階として,前記野菜を,野菜の活性と鮮度を保つ空気を
水中で微細気泡化させたマイクロバブル水を用いて洗浄し,③洗浄汚染水処理段階
として洗浄汚染水中の放射性物質の除去を行うものである(【0008】【001
0】【0011】【0014】【0016】【0017】【0028】)。本願発明は,
農作物表面に付着した放射能を,通常の放射能レベルに近い安全数値の範囲まで除
去し,農作物の流通促進と風評被害防止を主眼としている(【0031】)。
(2)引用発明
ア引用例1には,次のとおりの記載がある(甲51。図1については,別紙引
用発明図面目録参照)。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,次亜塩素酸,又は二酸化塩素を次亜塩素酸
塩や亜塩素酸塩の水溶液に塩酸,硫酸,酢酸,クエン酸などの少なくても,いずれ
か一つの酸性希釈液を加えて生成した殺菌水を用いて,これを食材に激しく噴射し,
殺菌をおこなう装置において,被洗浄物を殺菌水の水面近傍に位置させて,洗浄,
殺菌をおこなうことによって,水の持つ流体的特長を最大限に,活かすことに関す
るものでる(「である」の誤記と思われるが,原文のママ。)。
【0002】又,同時に食材の表面に付着した,小さな虫,髪の毛,ごみなどや,
野菜類の表面にある水をはじく生成物中に住み着いた細菌等をより効率良く除去し
て洗浄をおこなうことに関するものである。
【0003】なおかつ炭酸水の持つ,小さな気泡の生成と消滅による振動攪拌作
用や,微弱な超音波振動を利用して,殺菌水が食材の表面に直接作用し易くし,殺
菌効率を高めることや脱臭を目的とした,洗浄,殺菌,脱臭方法及びその装置に関
する。」
「【0009】
【発明が解決しようとする課題】一般に,このような噴射水流や水激だけでの装
置では,食材及び布や機材の表面の極めて薄い臨界膜(被洗浄物の微細な表面空間
に生まれる,動き難い水の層)を一部は剥離できても,全体的に剥離して,常に新
しい殺菌水を食材表面に,有効に接触させて殺菌をおこなうことができなかった。
【0010】このため,一般細菌数を10の二乗以下に下げるには,長い時間が
必要であったが,長時間殺菌水に浸漬しておくと食材が痛み商品性が損なわれた。
又,生産性も悪くコスト競争の激しい現在の生産設備としては使用できないと言う
問題があった。
【0011】又,食材の表面に付着した異物,例えば,小さな虫やごみ,そして
細かい髪の毛などは殺菌と別に新たな洗浄除去工程が必要であった。
【0012】その上,殺菌効果においては野菜などの表面に形成された植物の保
護層のさまざまな隙間についている細菌などは,今までの殺菌水の攪拌やシャワー
状の噴射流だけでは,なかなか取りにくいものであった。このため,初期の細菌数
が10の8乗ぐらいあると,10の4乗以下には下がりにくい状況にあった。
【0013】又,次亜塩素酸ソーダは,100ppm以上の濃度になると微妙に
塩素臭が残り,水洗浄に時間をかける必要があった,洗浄殺菌機を通過した時点で
まったく塩素臭のない野菜洗浄はできなかった。このため,野菜サラダなどの食感
を損なう事があった。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明はこのような点を考慮してなされたもので
あり,次亜塩素酸による殺菌も二酸化塩素(亜塩素酸ソーダ)を使用して殺菌する
場合もともに,食材表面にできて,なかなか移動しない水溶液の臨界膜(被洗浄物
の微細な表面空間に生まれる,動き難い水の層)を剥離して常に新しい殺菌水が入
れ替わり,入れ替わり接触するようにし,同時に,小さな虫や付着物を取り除く洗
浄,殺菌と炭酸ガスによる発泡作用を利用した,塩素臭の脱臭もできる方法及び装
置を提供するものである。」
「【0022】又,洗浄,脱臭に使用される炭酸水の生成は,タンク内に炭酸ガ
スを圧力充填して,その炭酸ガスの中にシャワー状に水を噴射して微細な水粒子と
して吸収させるのが望ましい。このとき,タンク内水位又は圧力が所定の条件に達
したとき,排水バルブを開き,この時,排水中の流量抵抗を大きくし,排水中にタ
ンク内の圧力が,大気圧以上の圧力状態に保持されるようにし,連続的に炭酸ガス
を供給し水を加圧給水させながら高濃度炭酸泉を生成させるのが好ましい。
【0023】
【発明の実施の形態】以下,図面を参照して本発明の実施の形態について説明す
る。図1・・・は本発明による洗浄,殺菌,脱臭方法の実施例を示す図である。
【0024】図1において,殺菌水の水面近傍で殺菌処理をおこなうことを特徴
とする水激攪拌洗浄殺菌装置1は,食材の投入口2より,例えば,野菜などでは,
表面にできるだけ,隠れた部分がないようにしてから投入し,食材はネットコンベ
アー17の上で,殺菌水面15のところで,食材が沈むか沈まないかの位置に保持
されながら,上側から,さまざまな角度を有する噴射ノズル14から,激しく噴射
される殺菌水の中を,所定の速度で図-1(「図1」の誤記と思われるが,原文マ
マ。)の左側に送られていく。
【0025】供給管10から殺菌水が電働バルブ9をかいして噴射ノズル14へ
の配管8に供給される。噴射ノズル14など複数のノズルから噴射した殺菌水は水
面15を被洗浄物7と共に激しく水激する。
【0026】この時,発生した気泡24は剥離された虫や異物をくるみ,下から
の水流27によって中央部から両側の排水用トレイ41に吸収され,アジャスター
59を通って排出される。」
「【0030】被洗浄物は洗浄,殺菌後,渡し用コンベアー36によって,高濃
度炭酸水の脱臭処理工程に移動される。この時,渡し板37はくし状になっていて
支え具23が被洗浄物を渡し用コンベアー36に渡し易くなっている。
【0031】渡し用コンベアーから送られた食材は炭酸水が,上側のさまざまな
角度から噴射される,炭酸用ネットコンベアー39の上で前記殺菌処理と同じく炭
酸水の水面近傍において発泡作用や水激作用と攪拌振動作用,超音波洗浄作用によ
り,塩素系の殺菌処理による塩素臭を,発散させて匂いのない製品を得るものであ
る。」
「【0038】次にこのような構成からなる本実施の形態の洗浄,殺菌,脱臭作
用について説明する。殺菌水の水面に激しい水激を加えると,水面は波立つばかり
でなく,水激によって多量の気泡24を生成する,又,水激は水面下にも激しい攪
拌作用と水面を叩くことから生まれる,振動作用を与え,これらが,食材に同時に
働き,洗浄と殺菌の2工程が同時におこなわれる。古来より洗濯などでは,棒で叩
く方法が知られているが,水激によって食材と水面を叩く方法は極めて高い洗浄効
果をもたらす。
【0039】又,この時,発生する大量の泡は大小無数の形状となり,その消滅
と発生により生まれる,微弱な超音波や振動波が食材の表面に付着した水の臨界膜
を除去して,細菌や,虫,異物などを殺菌水と良く反応させながら,効率的に除去
する。一般にこうして発生する気泡は,消滅時に微弱な超音波が発生する事が知ら
れている。
【0040】この時,発生する気泡郡は,噴射水激25は斜めから与えているも
のである。真上から与えるよりも大量に発生する。又,真上から与える噴射水激2
6は水面を激しく叩くため水面下に振動波として伝達する。又,噴射水激の水流の
太さと強さを変えることを合せ用いることにより,今までに,なかった洗浄と殺菌
の効果が得られる。尚,この水流の中にエアーを混合させて一層強力な状態にして
も良い」
「【0044】
【発明の効果】本発明は近年,市場において食材その他,食器や搬送用ケース類
などの殺菌は,極めて高い精度で要求されるようになってきた。しかし,これと相
反して,汚染状態は悪化した食材が輸入されるようになっている。本方法及び装置
は,これらの相反する問題を解決することができる。特に野菜類などにおいて,中
国はもとより,メキシコからも輸入されており,気候環境,衛生環境の違いは,野
菜類の表面に形成される植物の分泌物や虫の量や異物の硬さ,溶けにくさ,などを
異にしている。このため,従来の方法である,殺菌槽に一定量の野菜を入れ下部か
らエアーによる攪拌程度では,対応できなくなってきた。又,食材の周りから激し
く噴射水をかけて,殺菌をおこなう方法も,影の部分ができるため,殺菌効果に位
置的バラツキが生じ,対応できないが,その全てが解決する。」
「【0048】これらの全てが一体的に解決できるよう,殺菌水が反応する方法
及び機構が考案された。洗浄,殺菌,脱臭方法及び,その装置は,食品業界はもと
より,あらゆる業界の洗浄,殺菌,脱臭に役立つものである。」
イ上記記載によれば,引用発明は,①次亜塩素酸,又は二酸化塩素を次亜塩素
酸塩や亜塩素酸塩の水溶液に塩酸,硫酸,酢酸,クエン酸などの少なくとも,いず
れか一つの酸性希釈液を加えて生成した殺菌水を用いて,これを食材に激しく噴射
し,殺菌を行う装置において,被洗浄物を殺菌水の水面近傍に位置させて,洗浄,
殺菌を行うことによって,水の持つ流体的特長を最大限に活かすこと,②同時に食
材の表面に付着した,小さな虫,髪の毛,ごみなどや,野菜類の表面にある水をは
じく生成物中に住み着いた細菌等をより効率良く除去して洗浄を行うこと,③炭酸
水の持つ,小さな気泡の生成と消滅による振動攪拌作用や,微弱な超音波振動を利
用して,殺菌水が食材の表面に直接作用し易くし,殺菌効率を高めることや脱臭を
目的とした,洗浄,殺菌,脱臭方法及びその装置に関するものである(【000
1】ないし【0003】)。従来の噴射水流や水激だけでの装置では,食材表面にで
きる水溶液の臨界膜を全体的に剥離して殺菌水を有効に接触させることができない,
食材の表面に付着した異物などは殺菌と別に新たな洗浄除去工程が必要である,殺
菌効果においても不十分である,次亜塩素酸ソーダは,100ppm以上の濃度に
なると微妙に塩素臭が残る,などの課題があった(【0009】ないし【001
3】)。そこで,引用発明は,このような課題を解決するため,食材表面にできて,
なかなか移動しない水溶液の臨界膜を剥離して常に新しい殺菌水が入れ替わり接触
するようにし,同時に,小さな虫や付着物を取り除く洗浄,殺菌と炭酸ガスによる
発泡作用を利用した,塩素臭の脱臭もできる方法及び装置を提供するものである
(【0014】)。近年,市場において食材その他,食器や搬送用ケース類などの殺
菌については極めて高い精度が要求される一方で,汚染状態が悪化した食材が輸入
され,特に野菜類などについては,中国,メキシコなどから輸入され,気候環境,
衛生環境の違いは,野菜類の表面に形成される植物の分泌物や虫の量や異物の硬さ,
溶けにくさなどを異にしているため,従来の方法では対応できなくなるなどの問題
が生じていたが,引用発明はこれらの問題を全て解決するものである(【004
4】)。
2取消事由1(引用発明,一致点及び相違点の認定の誤り(相違点の看過))
について
(1)引用発明,一致点及び相違点の認定の誤りについて
引用例1の記載(【0023】ないし【0026】【0030】【0031】【00
38】ないし【0040】)及び前記1(2)イによれば,引用発明は,審決が認定し
たとおりであると認められ,審決の認定に誤りはない。
また,本願発明と引用発明を比較すると,審決が判断したとおり,①引用発明の
「野菜類などの被洗浄物」は本願発明の「野菜」に,「野菜類などの洗浄,殺菌,
脱臭方法」は「野菜の洗浄方法」に相当し,②本願発明と引用発明はともに「表面
に汚染物が付着した野菜の洗浄処理方法」であって,③「第1の洗浄液を用いて洗
浄し,汚染物を除去する第1洗浄段階」と「第2の洗浄液を用いて洗浄する第2洗
浄段階」と「洗浄汚染水中の汚染物質の除去を行う洗浄汚染水処理段階」を備えて
おり,④第1洗浄段階と第2洗浄段階が連続して行われる点で共通しているのであ
るから,審決がした一致点の認定に誤りはなく,相違点についても審決が認定した
とおりであって誤りはない。
(2)原告の主張について
ア引用発明の洗浄の対象物について
(ア)原告は,引用発明の「被洗浄物」は,「小さな虫,髪の毛,ごみなどや,野
菜類の表面にある水をはじく生成物中に住み着いた細菌等が表面に付着した食材及
び布または機材」であって,食材,布,及び機材から選ばれる一つ以上のものでは
なく,「食材及び布」又は「食材及び機材」として限定しており,野菜のみを被洗
浄物とすることを想定していない旨主張する。
確かに,引用例1の記載(【発明の名称】【0005】【0009】)によれば,引
用発明における洗浄の対象物は,食材,布及び機材であると認められる。
しかし,前記1(2)で認定した引用発明の構成によれば,布及び機材の有無を問
わず食材のみであっても効果を生じるものと認められ,引用例1に「食材及び布や
機材」と記載された趣旨は,食材と同時に布や機材も洗浄することができることを
意味しているにすぎず,野菜類を含む食材のみを洗浄の対象物とできることは明ら
かである。このことは,引用発明の課題の中で「食材の表面に付着した異物,例え
ば,小さな虫やごみ,そして細かい髪の毛などは殺菌と別に新たな洗浄除去工程が
必要であった。」(【0011】)として食材のみを挙げていること,実施例の説明に
おいても,「殺菌水の水面近傍で殺菌処理をおこなうことを特徴とする水激攪拌洗
浄殺菌装置1は,食材の投入口2より,例えば,野菜などでは,表面にできるだけ,
隠れた部分がないようにしてから投入し,」(【0024】)として食材のみが記載さ
れていること,また効果についても,「特に野菜類などにおいて,中国はもとより,
メキシコからも輸入されており,気候環境,衛生環境の違いは,野菜類の表面に形
成される植物の分泌物や虫の量や異物の硬さ,溶けにくさ,などを異にしている。」
(【0044】)として,野菜類について特に記載されていること,適用範囲につい
て,「洗浄,殺菌,脱臭方法及び,その装置は,食品業界はもとより,あらゆる業
界の洗浄,殺菌,脱臭に役立つものである。」(【0048】)として洗浄対象物が引
用例1に列挙されたものに限定されていないことなどからも明らかである。
したがって,原告の主張は理由がない。
(イ)原告は,引用発明の出願当時は,野菜の表面に放射性汚染物が付着するこ
とは想定していない,放射性汚染物が付着していない粘土鉱物は少量であれば無害
であると考えられていたので,引用発明は,粘土鉱物を完全に除去することを想定
しておらず,このことは,引用例1に,殺菌水及び炭酸水を回収し再利用する点が
記載されていることからも明らかである,仮に,引用発明の物理的な洗浄方法で放
射性汚染物まで除去しようとすれば強い圧力が必要で,野菜がちぎれたりする虞が
あり,引用発明が放射性汚染物を除去できない以上,放射性汚染物の害毒の大きさ
を考慮すれば,引用発明の対象物は,放射性汚染物であってはならないものである
旨主張する。
しかし,引用発明は,野菜の表面に形成された硬さや溶けにくさなどが異なる異
物を洗浄除去できるものであることからすれば,放射性汚染物である異物であって
も洗浄除去できるものがあると考えられ,放射性汚染物が付着することを想定して
いないということはできない。また,上記1(2)の引用発明の構成からすれば,引
用発明は,洗浄汚染水を回収して再利用することは必須の構成とはなっておらず,
洗浄汚染水の回収に関する原告の主張はその前提を欠くというべきである。さらに,
引用発明は付着した異物の大きさを限定していないのであるから,野菜の表面に粘
土鉱物が付着することも想定されているというべきであって,仮に引用発明が放射
性物質を含んだ粘土鉱物を完全に除去できないとしても,これを低減することは十
分可能であるから,引用発明が放射性汚染物を洗浄の対象物としていないというこ
とはできない。
したがって,原告の主張は理由がない。
イ洗浄方法について
原告は,本願発明が水素ガスを水中で微細気泡化して還元処理を行った酸化還元
電位が-400mV~-600mVである還元水を用い,陰イオンの「静電反発力
を用いる電気的洗浄方法」であるのに対して,引用発明は殺菌水の水激という水に
よる「物理的洗浄力」及び殺菌水の殺菌力による「化学的洗浄力」である点が相違
点である旨主張する。
確かに,本願発明が陰イオンの静電反発力を用いる電気的洗浄方法であるのに
対し,引用発明1が殺菌水の水激という「物理的洗浄力」である点で相違するこ
とは認められる。
しかし,かかる相違は,第1洗浄段階での洗浄に用いる水が,還元水であるか,
殺菌水であるかの相違によって生じている相違点であって,この点は,審決では
相違点1において認定されている。
したがって,審決の相違点の認定に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
ウなお,原告は,その他審決の引用発明の認定について縷々主張するが,引用
発明の認定は,本願発明との比較において必要な範囲で認定すれば足りるところ,
本件においては,審決の引用発明の認定に不足はないのであるから,前記認定判断
を左右しない。
(3)小括
以上によれば,審決の引用発明,一致点及び相違点の認定には誤りはなく,取消
事由1は理由がない。
3取消事由2(相違点の判断の誤り)について
(1)相違点1の容易想到性の判断の誤りについて
ア原告は,引用例1には,殺菌水に替えて還元水を用いることは記載も示唆も
されておらず,これを用いる動機付けがない,本願発明は,酸化還元電位が-40
0mV~-600mVである特別な還元水を用いて野菜の表面に付着した放射性汚
染物の除去に成功したものである上,還元水の生成に水素ガスを使用することには
阻害要因があるなどと主張する。
しかし,本願の出願当時,還元水が洗浄・殺菌力を有していることが公知であっ
たことについては当事者間に争いはなく,いずれも本願の出願前に刊行された特許
第3843361号公報(甲63。以下「甲63文献」という。)及び国際公開2
008/117387号(乙2。以下「乙2文献」という。)によれば,還元水と
して,水素ガスを水中で微細気泡化して還元処理を行った酸化還元電位が-400
mV~-600mVである還元水が存在していたこと,還元電位が低い方が一般的
に洗浄力が高いことは周知技術であったことが認められる(甲63【0026】
【0027】,乙2【0013】,)。また,本願の出願前に刊行された特開2007
-145961号公報(甲52。以下「甲52文献」という。),引用例1,甲63
文献及び乙2文献によれば,本願の出願当時,引用例1に記載された殺菌水(次亜
塩素酸などの塩素系の除菌剤)については,作業者の安全や食品の品質の劣化の問
題があることが指摘されていたこと(甲51【0010】,甲52【0006】),
一方で,還元水は,飲料水として用いられていたり(甲63【0019】,乙2
【0014】【0032】),野菜類を含む食品の洗浄・除菌に用いられていたりし
ており(甲52【0006】【0031】),人体に対する安全性が高いものと認識
されていたものと認められる。
そうすると,より人体に対する安全性が高い方法とするため,引用発明において
還元水の採用を試みることの動機付けがあるというべきであり,洗浄力の観点から,
より酸化還元電位の低い当該還元水を採用することは,当業者が容易に想到するこ
とができたものである。
したがって,審決の判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
なお,本願発明は野菜の洗浄方法にすぎないから,水素ガスに一般的な意味で危
険性があるからといって,水素ガスを用いて還元水を生成する処理過程において特
段の危険性があることを認めるに足りる証拠はなく,引用発明において還元水を採
用する際に,水素ガスを用いて還元水を生成することが阻害要因となるとまでいう
ことはできない。
イ原告は,引用例1には,炭酸水に替えてマイクロバブル水を用いることは記
載も示唆もされておらず,これを用いる動機付けがない,引用発明における炭酸水
の課題・作用・効果は,塩素系殺菌水の消臭作用であるのに対し,本願発明のマイ
クロバブル水の課題・作用・効果は,還元水で洗浄した野菜の活性化であり,相互
に全く異なっている,引用発明に記載された洗浄方法で,表面に放射性汚染物が付
着した野菜の放射性汚染物を除去することは困難であるなどと主張する。
しかし,引用例1によれば,引用発明における炭酸水は,加圧給水された水に炭
酸ガスを吸収させることによって生成させているのに対し(【0022】),本願明
細書によれば,本願発明におけるマイクロバブル水は,加圧噴射された水に空気を
エジェクターにより吸収させ空気のマイクロバブルとして生成させているものであ
る(【0013】)。そうすると,本願発明のマイクロバブル水と引用発明の炭酸水
とは,いずれも加圧給水された水に気体を吸収させることにより生成したものであ
るから,吸収させる気体が本願発明は空気であるのに対し,引用発明は炭酸ガスで
あるという相違はあるものの,吸収させた気体の大きさ等に相違があるとはいえず
(本願の明細書によれば,キャビテーション装置によりマイクロバブルをさらに微
細化することも記載されているものの,この微細化する前のものも「マイクロバブ
ル」と記載されていることから,同判断を左右しない。),これらの吸収させた気体
の差異に格別の技術的意義があるとは認められない。そして,甲52文献及び特開
2008-264771号公報(甲53)によれば,本願の出願当時,野菜の洗浄
液としてマイクロバブル水を用いることは周知の技術であることも併せて考慮すれ
ば,引用発明の炭酸水に代えてマイクロバブル水を用いることは当業者が適宜なし
得る設計事項というべきものである。
したがって,審決の容易想到性の判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
なお,原告は,本願発明のマイクロバブル水の作用等は,還元水で洗浄した野菜
の活性化であると主張する。しかし,当該効果の有無はさておき,本願明細書には,
マイクロバブル水を用いて洗浄したことによる野菜の活性化については一切記載が
ないから,原告の主張は前提を欠き,理由がない。
(2)相違点2の容易想到性の判断の誤り
原告は,①引用発明は,放射性汚染物が付着することは想定しておらず,引用発
明の洗浄方法では,表面に放射性汚染物が付着した野菜の放射性汚染物を除去する
ことは困難であること,②引用発明は,「殺菌水」及び「炭酸水」を回収して再利
用するものであるから,放射性汚染物が付着した野菜を引用発明の方法で洗浄する
ことはできないことなどから,当業者であっても引用発明を放射性汚染物に適用す
ることは容易に想到することはできない旨主張する。
しかし,前記2(2)ア(イ)で判示したとおり,引用発明が,放射性汚染物が付着す
ることを想定していないということはできず,また,「殺菌水」及び「炭酸水」を
回収して再利用することを必須の構成とするものでもないことによれば,原告の主
張はいずれもその前提を欠くものである。
したがって,審決の容易想到性の判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
(3)なお,原告は,本願発明については,「本願発明の還元水の水素ガスは気
化するので,残留する成分を何も加えない」という効果や「野菜の表面に付着した
放射性汚染物を除去できる」という格別の効果がある旨主張する。しかし,これら
の効果は洗浄水として還元水を用いたことによる効果か,本願発明の構成に基づく
効果であるにすぎず,本願発明の構成が前記のとおり容易想到である以上,これを
格別の効果であるということはできない。
4小括
以上によれば,原告の取消事由1及び2についてはいずれも理由がなく,審決の
認定判断に誤りはない。
第6結論
よって,原告の請求は理由がないから,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官設樂一
裁判官大寄麻代
裁判官平田晃史
(別紙)
引用発明図面目録
【図1】

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