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平成12年(ワ)第21175号商標権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成13年12月14日
              判       決
       原      告        オーシャン パシフィック ア
パレル コーポレーション
原      告ニッキー株式会社
       上記両名訴訟代理人弁護士    関  根  秀  太
同               石  村  善  哉
同               達  野  大  輔
上記両名訴訟復代理人弁護士山  本  英  幸
       被      告        株式会社ラッキーコーポレーシ
ョン
被      告    NことR
       上記両名訴訟代理人弁護士    北  川  鑑  一
              主       文
  1 被告株式会社ラッキーコーポレーションは,別紙第1標章目録(一)ないし
(九)及び別紙第2標章目録(一)ないし(七)記載の各標章を付したティーシャツを輸
入し,販売し,販売のために展示してはならない。
  2 被告株式会社ラッキーコーポレーション及び被告Rは,連帯して,原告オ
ーシャン パシフィック アパレル コーポレーションに対し342万2016
円,原告ニッキー株式会社に対し4209万9689円及びこれらに対する平成1
2年10月19日から各支払済みまで各年5分の割合による金員を各支払え。
  3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
  4 訴訟費用はこれを3分し,その2を被告らの,その余を原告らの負担とす
る。
  5 この判決は,第1項及び第2項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
 1 主文第1項と同旨
 2 被告株式会社ラッキーコーポレーション及び被告Rは,連帯して,原告オー
シャン パシフィック アパレル コーポレーションに対し693万2000円,
原告ニッキー株式会社に対し9728万1600円及びこれらに対する平成12年
10月19日から各支払済みまで各年5分の割合による金員を各支払え。
 3 被告株式会社ラッキーコーポレーション及び被告Rは,別紙謝罪広告目録記
載の謝罪文を同目録記載の要領で同目録記載の新聞に掲載し,別紙連絡文目録記載
の文書を同目録記載の業者に対し送付せよ。
第2 事案の概要
   本件は,原告らが,別紙第1標章目録(一)ないし(九)及び別紙第2標章目録
(一)ないし(七)記載の各標章(以下「本件各標章」と総称する。)を付したティー
シャツ(以下「本件商品」という。)を並行輸入し,販売した被告ラッキーコーポ
レーション(以下「被告ラッキー」という。)に対して,商標権侵害を理由として
上記行為の差止めを,被告らに対して,損害賠償及び謝罪広告の掲載等を請求した
事案である。
1 前提となる事実(証拠及び弁論の全趣旨で認定したものを除き,争いがな
い。)
(1) 原告オーシャン パシフィック アパレル コーポレーション(以下「原
告OP」という。)は,衣料品等の販売を業とする米国法人であり,原告ニッキー
株式会社(以下「原告ニッキー」という。)は,洋品雑貨の製造及び販売等を業と
する株式会社である。
被告ラッキーは,輸入日用品雑貨及び輸入洋品雑貨の販売等を業とする株
式会社であり,被告R(以下「被告R」という。)は,被告ラッキーの代表取締役
である。
(2) 原告OPは,以下の各商標権(以下「本件各商標権」と総称し,その登録
商標を「本件各商標」と総称する。)を有する。
 ア 登録番号     2276510号
   出願年月日    昭和57年10月13日
   登録年月日    平成2年10月31日
   商品の区分    旧第17類
   指定商品     被服(運動用特殊被服を除く),布製身回品(他の
類に属するものを除く)及び寝具類(寝台を除く)
   登録商標     別紙第1商標目録記載のとおり
 イ 登録番号     1679048号
   出願年月日    昭和50年6月5日
   登録年月日    昭和59年4月20日
   商品の区分    旧第17類
   指定商品     被服(運動用特殊被服を除く),布製身回品(他の
類に属するものを除く)及び寝具類(寝台を除く)
   登録商標     別紙第2商標目録記載のとおり
(3)オーシャン・パシフィック・サンウェア・リミテッド(以下「サンウェア
社」という。)は,本件各商標権を有していたが,平成4年8月28日,三菱商事
株式会社(以下「三菱商事」という。)に対し,本件各商標について専用使用権を
設定し,三菱商事は,同日,原告ニッキーに対し,本件各商標について独占的な使
用許諾をした。その後,原告OPは,サンウェア社を買収して,本件各商標権を譲
り受け,サンウェア社と三菱商事との契約におけるサンウェア社の地位を引き継い
だ(甲1及び2の各1,甲15)。
(4) 被告ラッキーは,本件各標章を付したティーシャツ(本件商品)をフィリ
ピンから輸入し,これを複数の小売販売会社又は卸業者に販売した。また,被告ラ
ッキーは今後も本件商品を輸入,販売するおそれがある(弁論の全趣旨)。
  本件各標章は本件各商標と同一又は類似のものである。
 2 争点及び当事者の主張
 (1) 被告ラッキーが本件商品を輸入,販売したことは,いわゆる真正商品の並
行輸入として,実質的違法性が阻却されるか。
(被告らの主張)
ア(ア)被告ラッキーは,本件商品を,フィリピン所在のジャンズ・インタ
ーナショナル(以下「ジャンズ社」という。)から輸入した。ところで,ジャンズ
社はフィリピン所在のザ・ネイチャー・クロージング・アンド・スポーツウェア・
カンパニー・リミテッド(以下「ネイチャー・クロージング社」という。)から,
ネイチャー・クロージング社はシンガポール所在のオリエント・パシフィック・サ
ンウェア・ピーティーイー・リミテッド(以下「オリエント・パシフィック社」と
いう。)から,さらにオリエント・パシフィック社は原告OPから,それぞれ本件
各商標についての使用許諾を受けているから本件商品は真正商品である。
(イ)ネイチャー・クロージング社は,以下のとおり,オリエント・パシ
フィック社から本件各商標についての使用許諾(サブランセンス)を受けている。
 すなわち,オリエント・パシフィック社の副社長であるPは,ネイチ
ャー・クロージング社にあてて,書簡(甲3,以下「P書簡」という。)を送って
いる。
P書簡の第2文には,「We are in  the proce
ss of appointing them as sub-licensee
 to handle the  USA brand‘Ocean Pacif
ic’or‘Op’in the Philippines territor
y.」(現在当社は,ネイチャー・クロージング社をサブライセンシーと指名すべ
く内部手続中である。)と記載されている。すなわち,オリエント・パシフィック
社とネイチャー・クロージング社との間でライセンス契約についての合意はできた
が,原告OPの内部ではまだ手続が完了していないとの趣旨が述べられている。同
第3文には,「ネイチャー・クロージング社は平成10年12月1日より原告OP
の商品を製造,販売等できるでしょう。」と記載されている。ところで,P書簡の
作成日付は平成10年12月1日であるから,第3文は,「本日より製造,販売等
できる」との趣旨である。したがって,P書簡によれば,ネイチャー・クロージン
グ社が,本件各商標についての使用許諾(サブランセンス)を受けていることは明
らかである。
なお,オリエント・パシフィック社は,平成11年6月19日に,ネ
イチャー・クロージング社に対して,本件各商標を使用した商品の製造,販売を中
止するよう要求する書簡を送付しているが(甲5),P書簡を送付してから6か月
もの間,本件各商標の使用の中止を求めていない。このことは,原告OP側がネイ
チャー・クロージング社が本件各商標を使用することを認めていたことを示唆して
いる。
イまた,オリエント・パシフィック社が作成した「伝票」(丙2の1)及
び運送機関が作成した「送り状」(丙2の2)の存在から,オリエント・パシフィ
ック社がネイチャー・クロージング社に対し,カタログを2通送付したことが分か
るが,同カタログは,原告OPから同社製品の製造及び販売を許可された者のみに
送付されるのであるから,ネイチャー・クロージング社は,本件商品の製造,販売
の許諾を得ていたというべきである。
また,フィリピンの弁護士が作成した書簡(丙3)において,ネイチャ
ー・クロージング社が原告OP製品を取り扱える権利の存在が確認されている。
ウオリエント・パシフィック社は原告OPのライセンシーであり,契約締
結についての代理権を授与されたといえるから,オリエント・パシフィック社とネ
イチャー・クロージング社との間の上記契約には民法110条が適用される。した
がって,オリエント・パシフィック社は,ネイチャー・クロージング社に対して上
記サブライセンスを授与する権限がなかったことを善意無過失の第三者である被告
ラッキーに主張し得ない。
(原告らの反論)
ア原告OP又は同原告から本件各商標についての使用許諾を受けているオ
リエント・パシフィック社は,ネイチャー・クロージング社又はジャンズ社に対し
て,本件各商標についての使用許諾(サブライセンス)を与えたことはない。本件
商品はいわゆる真正商品には当たらない。
   イ 被告らは,P書簡を根拠として,ネイチャー・クロージング社がオリエ
ント・パシフィック社から本件各商標についての使用許諾を受けた旨主張する。
 しかし,P書簡は商標の使用を許諾する契約書でもないし,商標権使用
許諾についての契約の成立を推測させる書面でもない。すなわち,同書簡には,オ
リエント・パシフィック社はネイチャー・クロージング社と,本件各商標について
のサブライセンスの契約の交渉中であるということが記載されているにすぎない。
また,ネイチャー・クロージング社は,オリエント・パシフィック社に,P書簡が
作成された6日後の平成10年12月7日付けで,契約成立に必要な原告OPの承
認を得るようオリエント・パシフィック社に要求する旨の書簡(甲4)を送付して
いることからも,商標権の使用許諾が成立していないことは明らかである。P書簡
を根拠とする被告らの主張は失当である。
   ウ なお,P書簡が作成された経緯は次のとおりである。すなわち,オリエ
ント・パシフィック社とネイチャー・クロージング社とは,同月1日ころ,原告O
Pの商標についてのサブライセンス契約締結に向けての交渉をしていたが,同契約
締結のためには,商標権者である原告OPが同契約締結に同意することが条件とな
っていた。ところで,ネイチャー・クロージング社は,当時,ショッピングモール
に出店を希望していたところ,同ショッピングモールへの出店についての競争が激
しかったため,家主から出店の承諾を得ることは困難な状況であり,ネイチャー・
クロージング社が原告OPの商標権の使用許諾を得ることが出店の承諾を得るのに
効果的であると考えた。ところが,オリエント・パシフィック社との上記サブライ
センス契約の締結のための原告OPの同意は未だ得られず,上記契約の締結には至
っていなかったので,ネイチャー・クロージング社は,オリエント・パシフィック
社に対して,上記ショッピングモールの家主に提示する目的で書類の作成を依頼
し,オリエント・パシフィック社のPはこの依頼に応えて,P書簡を作成したので
ある。しかし,結局,原告OPからの上記承諾は得られず,上記サブライセンス契
約は締結されなかった。
(2)本件商品をいわゆる真正商品と誤認したことについて被告らに過失がない
か。
(被告らの主張)
本件商品が真正商品ではないとしても,前記(1)で主張したとおりの内容の
P書簡が存在しており,被告Rは,これを信頼して,ネイチャー・クロージング社
が本件各商標の使用許諾を得ているものと認識していた。並行輸入に当たっては,
このような書簡を信用して取引をすれば足りると解されており,ライセンス契約書
などを確認することを求めるのは相当でない。
    したがって,被告らが本件商品を真正商品と誤信したことに過失はない。
(原告らの反論)
アブランド品の並行輸入において,P書簡のような書類が添付されている
場合は,当該商品が偽造品である可能性が非常に高い。被告らがP書簡を持ち回
り,本件商品が真正商品であると強調した行為は,かえって,被告Rが本件商品が
真正商品ではないと認識していたことを推測させる。
   イ P書簡を見れば,同書簡が署名者によって作成されたものであるかの
点,オリエント・パシフィック社が原告OPから本件各商標の使用を許諾され,再
許諾権を有しているのかの点,上記書簡の内容は本件各商標の使用を許諾するとい
うものであるのかの点等について当然に疑問を抱くはずである。このような疑問を
解消するためには,原告OPに対して,本件各商標の使用を許諾されているかを確
認すべきであり,かつ,同確認作業は容易である。ところが,被告らは,上記の確
認作業をしないばかりか,何らの調査もしておらず,これは,P書簡が将来の言い
訳の材料として都合がよいと考えたからにすぎない。以上の経緯に照らすならば,
被告らは,本件商品が真正商品ではないと認識していたことが明らかである。
ウ原告OPは,本件商品を発見した後,本件商品を扱っているいくつかの
店舗に警告書を発送した。これに対する被告Rの対応は,不自然であって,あらか
じめ侵害の警告を受けることを予測し準備していたことが窺える。すなわち,商標
権者から侵害品であるとの警告を受けた場合,通常,当該商品の真偽を確認するた
め,警告者との間において事実確認をする努力をするはずであるが,被告Rは,原
告OPから警告を受けたことを知ると,オリエント・パシフィック社に確認をした
り,原告OPに連絡することをせずに,販売先に対しP書簡のコピーを送付し,本
件商品が真正商品であると強調して回った。このような被告Rの行為からすると,
被告Rは本件商品が真正商品であると確信していたのではなく,逆に,はじめから
本件商品が真正商品ではないことを承知していたものというべきである。
エ本件商品のうちの一部(甲12の写真番号117ないし130)は,一
見して不自然なプリントがされているが,このような不自然なプリントが施された
ティーシャツを正規のライセンシーが製造するはずはなく,上記商品が真正商品で
ないことは一見して明らかである。ところが,被告ラッキーは上記の商品を販売し
ていたのであるから,被告Rは,本件商品が真正商品ではないということを十分認
識していたと推測される。
オ 以上のとおり,被告Rは,本件商品が真正商品ではないと認識していた
というべきであり,仮にこのような認識がなかったとしても,被告Rは,本件商品
の輸入に際して調査を一切していなかったのであるから,本件商品を真正商品と誤
認したことについて過失があるというべきである。
また,被告Rには,取締役としての職務を行うに付き悪意又は重過失が
あったというべきであるから,商法266条の3第1項の責任を負う。
(3) 損害額はいくらか。
(原告らの主張)
原告らの損害額は,以下の額と推定されるべきである(商標法38条2
項)。
ア 輸入数量について
 (ア)信用状によれば,被告ラッキーの総輸入数量は少なくとも65万7
449着であり,そのうちジャンズ社からの輸入数量は52万4639着である。
ところで,ライセンサーは,ライセンシーに対して,他社ブランドの
同種商品を扱うことを禁止するのが普通であり,一つの会社が複数の同種の企業か
ら商品の製造に関するライセンスを受けることは通常あり得ない。したがって,被
告ラッキーがジャンズ社から輸入した商品は原告OPの商標を付した商品のみであ
ったと考えて差し支えない。仮に,原告OPの商標を付した商品以外の商品が混在
してたとしても,その割合は非常に低いと考えられる。
 (イ)被告ラッキーが開示した伝票の記載から推測した本件商品の輸入数
量は,以下のとおりである。
被告ラッキーは,本件訴訟の過程で,平成10年9月から平成12年
8月までの日付のある伝票を開示し,原告らはこれを見分して,その結果を甲第7
4号証にまとめた。上記伝票の宛名は,「田原屋」,「ユウキ」,「エフ」,「坂
善商事及びゼンモール」,「その他」と記載されている。
a上記伝票によると,被告ラッキーは,本件商品を,株式会社田原屋
に対しては1万9209着,株式会社ユウキに対しては2018着,株式会社エフ
に対しては5923着,坂善商事に対しては2178着販売したことになる。しか
し,上記伝票は,1枚ごとが独立の用紙となっており,これらを紐で綴じているだ
けであるから,仮にその中の一部分に綴じ落としがあったとしても外見からこれを
判断することはできず,上記各社への販売数が上記数量であると断定することはで
きない。
b 「その他」伝票(合計18冊)によると,被告ラッキーの本件商品
の販売数量は3万6493着になる。
 ところで,「その他」伝票については,平成10年9月から平成1
1年11月までの日付のある伝票はスタンプの押捺により,平成12年1月以降の
日付のある伝票は印刷により,それぞれ通し番号が付されている。しかし,伝票に
付された通し番号には欠番が数多く存在するところ,番号の欠落した伝票は,存在
するにもかかわらず提出しなかったものと考えられ,これを基に計算すると,被告
ラッキーの本件商品に関する伝票は本来なら60冊存在するものと推測される。
 このように「その他」伝票は60冊存在するはずであるから,同伝
票に基づく販売数量は12万1643着(3万6493着×60÷18≒12万1
643着)となる。
c したがって,伝票の記載によれば,被告ラッキーは,本件商品を少
なくとも15万0971着(1万9209着+2018着+5923着+2178
着+12万1643着=15万0971着)販売したことになる(実際の販売数
は,後記(ウ)で計算する。)。
(ウ) 被告ラッキーが原告らに開示した同社の帳簿の記載から計算される
平成10年9月から平成12年8月までの総販売数量は35万6041着であり,
この数量に上記開示されていない「その他」伝票に含まれていると推定される本件
商品の数量8万5150着(12万1643着-3万6493着)を加えたとして
も,44万1191着にしかならない。
上記販売数量は,前記信用状から計算される総輸入数量65万744
9着と大きな隔たりがあるから,被告ラッキーが原告OPに開示した帳簿の他にも
帳簿が存在するものと推測され,開示された帳簿は全体の約67.1パーセント
(44万1191着÷65万7449着×100)にすぎないというべきである。
そして,本件商品の実際の販売数量に対する開示された伝票に記載さ
れている数量の割合が,総輸入量に対する帳簿上の総販売数量の割合と同一である
として,本件商品の実際の販売数量を推計すると,22万4972着(15万09
71着÷0.67.1)となる。
(エ) なお,被告らは,インボイスを提示し,同インボイスに示された輸
入数量が本件商品の輸入数量であると主張する。
しかし,上記インボイスには,ジャンズ社の名称が表示されているも
のの,その商品内容としては,単に「T-SHIRTS」と記載されているのみで
あって,上記インボイスのみでは,本件商品が輸入されたのが被告らの主張する期
間であったか否かが全く不明であるから,上記インボイスは本件商品の輸入数量の
証拠とはなり得ない。
(オ) 以上総合すると,被告ラッキーは本件商品を少なくとも20万着は
輸入,販売したというべきである。
 イ輸入原価について
 (ア) 被告らは,被告ラッキーによる本件商品の輸入価格(FOB価格)
は,1着当たり560円(4.87米ドル)又は455円(3.96米ドル)であ
ると主張する。しかし,本件商品のようにフィリピンから輸入したプリントティー
シャツが上記のように高価であることは不自然である。被告らの提出したインボイ
スには上記の価格の記載があるものも存在するが,上記インボイスが真に本件商品
の輸入に係るものであるかの点,及び本件商品の輸入に上記インボイスのみが使用
されたかの点については全く明らかにされていないので,上記インボイスを根拠と
して本件商品の輸入原価を求めることはできない。
  そこで,本件商品の輸入原価は,被告らが平成10年9月から平成1
2年8月までの期間にジャンズ社からのティーシャツの輸入に使用した信用状の記
載を基礎として算定すべきである。そうすると,ティーシャツの輸入数量は合計5
0万2789着,その価格の合計は162万8655米ドルとなり,1着当たりの
単価は平均約3.24米ドルとなる。
(イ)そして,上記の3.24米ドルに輸入諸費用及び関税を加えた輸入
原価は429円となる。
 ウ 販売価格について
 被告ラッキーから提出された伝票に基づき,本件商品の販売価格を計算
すると,販売数量は合計6万5821着,販売総額は7863万784円であり,
1着当たりの平均販売価格は約1195円となる。
 エ 被告の得た利益について
 前記のとおり,本件商品の販売価格は1195円,1着当たりの輸入原価
は429円であるから,本件商品の1着当たりの粗利益は少なくとも766円であ
る。
 そして,商標法38条2項に基づく損害額の推定の場合には,侵害者から
具体的な経費の主張,立証がない場合には,粗利益をもって損害額と認めるべきで
あるところ,本件においては被告らから経費に関する具体的な主張,立証が全くさ
れていないのであるから,上記粗利益が原告らの損害額と推定されるべきである。
 したがって,被告らの得た利益は1億5320万円(20万着×766
円)となるので,原告らの損害額は同額と推定される。
なお,仮に,経費の控除をすべきとしても,被告ラッキーは従来から輸入
衣料品の販売をしており,新規の設備投資や人件費の投入が不要であったこと,被
告ラッキーは従業員数が数人の会社であり人件費が少なくて済むこと,宣伝広告等
の費用が不要であることを考慮すれば,粗利益の65パーセントをもって純利益と
認めるべきである。そうすると,被告らの得た純利益は,9948万円(1億53
20万円×0.65)となる。
(被告らの主張)
    争う。
甲第74号証の記載内容については認める。
    被告ラッキーは,すべての伝票及び帳簿を原告らに開示した。
    被告ラッキーの伝票には番号が表示されているが,番号順に伝票を使用し
ているわけではない。後に間違いが生じた場合に備えて番号を付しているだけであ
って,同一番号さえなければそれでよいのである。
なお,原告らは,一つの会社が複数の同種の企業から商品の製造に関する
ライセンスを同時に受けることはあり得ないと主張するが,フィリピンでは,1社
が1ブランドのライセンシーということは極めて稀であり,逆に10ないし20の
ブランドを取り扱う会社が存在する。
(4) 謝罪広告等は必要か。
(原告らの主張)
被告らが本件商品が真正商品である旨を喧伝したことにより,市場におい
て真正商品に対する不安,不信感が生じ,原告らの業務上の信用は著しく害され
た。
したがって,被告らは,信用回復に必要な措置として,謝罪広告を掲載
し,かつ,上記喧伝行為を行った会社に対し誤りを通知する義務がある。
(被告らの主張)
争う。
第3 当裁判所の判断
1事実関係
  前提となる事実,証拠(甲1及び2の各1及び2,3ないし6,7の1及び
2,9,11の1ないし4,15,24ないし26,28)及び弁論の全趣旨によ
れば,以下の各事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(1) 原告OPの本件各商標権の取得
 本件各商標権は,サンウェア社が有していたが,同社は,平成4年8月2
8日,三菱商事に対し,本件各商標について専用使用権を設定し,三菱商事は,同
日,原告ニッキーに対し,本件各商標について独占的な使用を許諾した。三菱商事
と原告ニッキーとの間の上記契約では,原告ニッキーは本件各商標を付した衣類品
の卸売価格の総額の2.4パーセント相当の金額を三菱商事に支払うことが約さ
れ,サンウェア社と三菱商事との間の上記契約では,三菱商事は原告ニッキーの上
記卸売価格の総額の2パーセントの金額をサンウェア社に支払うことが約された。
その後,原告OPは,サンウェア社から本件各商標権を譲り受け,サンウェア社と
三菱商事との契約におけるサンウェア社の地位を引き継いだ。
(2) ネイチャー・クロージング社のサブライセンス取得交渉の経緯
ア平成10年ころ以降,本件商品を,被告ラッキーはジャンズ社から,ジャ
ンズ社はネイチャー・クロージング社から,それぞれ輸入又は購入した。
 ところで,ネイチャー・クロージング社とオリエント・パシフィック社と
のサブライセンス契約交渉の経緯は以下のとおりである。
イ オリエント・パシフィック社は,原告OPから本件各商標について使用許
諾を受けているが,平成10年ころ,ネイチャー・クロージング社との間で,同社
に対して本件各商標の使用許諾(サブライセンス)についての交渉をしていた。オ
リエント・パシフィック社がネイチャー・クロージング社に対して本件各商標の使
用を許諾するには,原告OPの承諾が必要であったため,オリエント・パシフィッ
ク社は原告OPから上記承諾を得ようとしたが,結局承諾は得られなかった。その
ため,オリエント・パシフィック社とネイチャー・クロージング社との間の上記契
約交渉も長期間に及んだが,契約は成立するに至らなかった。
ウ 当時,ネイチャー・クロージング社は,あるショッピングモールへの出店
を図っていたが,その出店のためには,本件各商標の使用許諾を得ることが有利と
考えていた。ネイチャー・クロージング社は,本件各商標の使用許諾についてオリ
エント・パシフィック社が原告OPの承諾を得る見通しがたたなかったにもかかわ
らず,オリエント・パシフィック社に対して,同社が近い将来にネイチャー・クロ
ージング社に対して本件各商標の使用許諾をする予定である旨の文書の作成を要請
した。これに対し,オリエント・パシフィック社のマーケティング担当上級副社長
Pは,平成10年12月1日付けのP署名の書簡(P書簡)を作成して,これをネ
イチャー・クロージング社に交付した。同書簡には,「オリエント・パシフィック
社は,フィリピンにて登記済みの会社であるネイチャー・クロージング社と意見の
一致をみたことをお知らせ致します。オリエント・パシフィック社は,合衆国のブ
ランドである‘Ocean Pacific’又は‘OP’をフィリピン国内で扱
うサブライセンシーとしてネイチャー・クロージング社を指名する手続中です。ネ
イチャー・クロージング社は,平成10年12月1日から原告OPの商品を製造,
販売することができるでしょう。」と記載されている。
エ ネイチャー・クロージング社は,依然として原告OPの承諾が得られない
ため,同月7日付けで,オリエント・パシフィック社に対して,契約の早期成立を
促す書簡を送付した。これに対して,オリエント・パシフィック社は,平成11年
6月9日付けで,本件各商標の使用許諾についての原告OPの承諾が未だに得られ
ない旨の回答書を送付した。
オ ネイチャー・クロージング社は,許諾を受けずに,本件各商標を付した商
品の製造,販売を開始したため,オリエント・パシフィック社から製造,販売の中
止を求められたが,同年8月24日付けで,オリエント・パシフィック社に対し
て,P書簡を引用して,本件各商標を付した商品の製造,販売の中止を求めるオリ
エント・パシフィック社の措置に対して抗議をした。
これに対して,オリエント・パシフィック社は,同月26日付けで,ネイ
チャー・クロージング社に対し,本件各商標の使用許諾をするには原告OPの承諾
が必要なこと,P書簡はショッピングモールの賃貸人との交渉に利用するために作
成したものであり,これにより本件各商標の使用を許諾したものではないこと等を
回答している。
 さらに,オリエント・パシフィック社は,同年9月1日付けで,ネイチャ
ー・クロージング社に対して,本件各商標の使用許諾についての原告OPの承諾は
未だ得られておらず,オリエント・パシフィック社とネイチャー・クロージング社
との間の本件各商標の使用許諾に関する契約は締結されていないこと,同契約が締
結されないうちは,ネイチャー・クロージング社は本件各商標を使用できないこと
を重ねて警告した。
(3) 被告ラッキーの対応
ア 原告OPは,平成12年6月14日付けで,被告ラッキー及び被告ラッ
キーから本件商品を仕入れた小売店等に対して,本件商品を販売することは原告O
Pが有する本件各商標権を侵害するから,本件商品の仕入及び販売の中止を求める
旨の警告書を送付した。
 被告ラッキーは,原告OPに対して,同月19日付けで,本件商品はジ
ャンズ社から輸入した真正商品であり,本件各商標権を侵害しないこと,本件商品
の販売の中止をする必要はないと考えていることを記載した書面を送付し,同月2
2日付けで,P書簡の写しをファックスにより送付した。そして,被告ラッキー
は,同月19日付けで,同被告が本件商品を販売した小売店である株式会社田原屋
に対し,同月27日付けで,株式会社エフに対し,本件商品は真正商品であって,
原告OPの商標権を侵害しないから,原告OPからの販売中止の要請に応じる必要
はない旨の書面を各送付した。
イ 原告OPは,被告ラッキーに対して,同月30日付けで,P書簡には,
原告OPがネイチャー・クロージング社に対して本件各商標の使用を許諾した旨の
記載は一切ないこと,オリエント・パシフィック社とネイチャー・クロージング社
との間で交渉されていた契約は締結に至らなかったこと,したがって,本件商品は
真正商品ではないから,直ちに本件商品の販売を中止するよう求めることを内容と
した書面を送付した。
これに対し,被告ラッキーは,同年7月7日付けで,同社が本件商品を
販売した小売店であるゼンモール株式会社に対し,被告ラッキーは本件商品が真正
商品であるかについてに十分な調査をした結果,本件商品が真正商品であることを
確信しているから安心してほしい旨の書面を送付した。
2商標権侵害の有無
 前記1で認定した事実を基礎として,被告ラッキーが本件商品をジャンズ社
から輸入,販売した行為が,いわゆる真正商品の並行輸入として,実質的違法性を
欠くといえるかについて検討する。
 登録商標と同一の商標を付した商品を輸入し,国内で販売する等の行為は,
商標権侵害を構成する。しかし,当該商品が国外において,当該商標を適法に付さ
れた上で拡布されたものであって,かつ,国外で当該商標を適法に拡布した者と国
内の商標権者とが同一人であるか又は同一人と同視し得るような特殊な関係がある
ときは,登録商標が有する出所表示機能及び品質保証機能を害しないことから,そ
のような特殊な関係にある当該商標を付した商品を輸入し,国内で販売する行為
は,いわゆる真正商品の並行輸入,販売行為として,商標権の侵害行為としての実
質的違法性を欠き,商標権侵害を構成しないというべきである。
 前記1で認定したとおり,ジャンズ社は本件各商標の使用許諾を得ていなか
ったことは明らかであるから,本件商品が国内の商標権者である原告OP又は原告
OPと同視し得るような特殊な関係にある者によって製造され,拡布された商品と
いうことはできない。
 なお,被告らは,オリエント・パシフィック社が原告OPのライセンシーで
あり,サブライセンス契約締結についての代理権を授与されたといえるから,オリ
エント・パシフィック社とネイチャー・クロージング社との間の本件各商標の使用
許諾契約には民法110条が適用され,オリエント・パシフィック社は,ネイチャ
ー・クロージング社に対して上記サブライセンスを授与する権限がなかったことを
善意無過失の第三者である被告ラッキーに対抗できない旨主張する。しかし,オリ
エント・パシフィック社とネイチャー・クロージング社との間の上記契約は,そも
そも,原告OPを代理してされた行為ではない(自ら当事者として締結交渉をした
ものである。)から,この点の被告らの主張は,それ自体失当である。
以上のとおり,本件商品を輸入,販売した被告ラッキーの行為は,本件各商
標権侵害を構成する。
3被告らの損害賠償責任の有無
(1)無過失を基礎付ける事実の有無
 前記1で認定した事実を基礎として,被告ラッキーが本件商品を輸入し,
販売するについて,過失がなかった否か(すなわち,商標法39条,特許法103
条の推定を覆す事情が存在したか否か)について検討する。
 被告らは,オリエント・パシフィック社がネイチャー・クロージング社に
交付したP書簡には,オリエント・パシフィック社がネイチャー・クロージング社
に対して本件各商標の使用を許諾した旨の記載があり,被告Rはこれを信用して本
件商品を輸入,販売したのであるから,被告らに過失はない旨主張する。
 しかし,被告らの主張は,以下のとおりの理由から採用できない。すなわ
ち,P書簡には,「オリエント・パシフィック社は,合衆国のブランドである‘O
cean Pacific’又は‘OP’をフィリピン国内で扱うサブライセンシ
ーとしてネイチャー・クロージング社を指名する手続中です。」(第2文)と記載
されており,同記載を読めば,オリエント・パシフィック社とネイチャー・クロー
ジング社との間の本件各商標の使用許諾についての契約が未だ成立していないこと
は十分認識できたといえる。
 ところで,P書簡には,「ネイチャー・クロージング社は,平成10年1
2月1日から原告OPの商品を製造,販売することができるでしょう。」(第3
文)との記載があり,平成10年12月1日付けの作成日と併せて読むと,上記の
日にネイチャー・クロージング社に使用を許諾したとの誤解を与える可能性がない
ではない。
 しかし,上記のように,同書簡は,その直前の文が「オリエント・パシフ
ィック社はネイチャー・クロージング社をサブライセンシーとして指名する手続中
である」と記載されている以上,その文面の不自然さや矛盾にに気付くはずであ
る。そうすると,本件商品を輸入しようとする者は,同書簡の第3文に都合の良い
記載を発見したとしても,オリエント・パシフィック社に問い合わせるなどして,
同書簡が作成された経緯や契約内容を調査すべき義務があるというべきである。本
件全証拠によっても,被告ラッキーは,このような調査義務を尽くした事実は認め
られず,そうすると被告ラッキーには,本件各商標権の侵害行為をしたことについ
て過失がないとする事情は存在しない。
(2) 被告らの責任
 以上のとおり,被告ラッキーには,本件商品を輸入,販売するに当たり,
本件商品がいわゆる真正商品であると誤認したことについて過失がないとする事情
が存在しないことは明らかであるから,被告ラッキーは不法行為に基づいて損害賠
償をすべき責任を負う。また,被告Rは,いわゆる真正商品であるとして本件商品
を輸入,販売したことに重過失があるといえるから,商法266条の3に基づい
て,損害賠償をすべき責任を負う。
4 損害額
 (1) 事実認定
 前提となる事実,証拠(甲30ないし74,84ないし86)及び弁論の
全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
ア 各伝票の記載及び態様
 被告らは,本件訴訟の過程で,本件商品の販売に際して被告ラッキーが
作成した各伝票(納品書,納品伝票,返品書等)を原告らに開示し,原告らは,こ
れらを分析して,甲第74号証としてまとめた(同証拠に記載されている事実につ
いては被告らも認めている。)。
 同証拠によれば,上記各伝票の記載上は,被告ラッキーは,平成11年
3月から平成12年7月までの間に,本件商品を合計6万5821着販売し,その
売上高は合計7863万784円であった。
上記各伝票の宛名には,「田原屋」,「ユウキ」,「エフ」,「坂善商
事及びゼンモール」,「その他」がある(これ以外に「売上」と題するファイルに
綴じられたものがある。)。このうち「田原屋」,「ユウキ」,「エフ」,「坂善
商事及びゼンモール」を宛名とするものは,それぞれ個々の取引ごとに個別に作成
され,各伝票には,伝票番号,数量,単価,売上金額等が記載され,一定期間のも
のが紐で綴じられている。また,「その他」を宛名とするものは,1冊ごとに分か
れた複写式のものであり,日付,伝票番号,商品名又は商品を表す記号,納入先,
数量,単価及び売上金額等が記載されているが,弁論の全趣旨によれば,同伝票の
伝票番号は連続しておらず,欠番の数が連続して存在する番号数よりも多いことが
認められる。
イ 信用状の記載
被告ラッキーを開設依頼者とする平成10年7月16日ないし平成12
年5月25日発行の信用状に記載された積出商品の合計数量は65万7449着で
ある。
上記各信用状のうち,受益者をジャンズ社,商品をティーシャツとする
平成10年11月25日ないし平成12年5月25日発行の信用状に記載された積
出商品の合計数量は40万2459着,合計金額は127万6430.5米ドルで
ある(なお,商品としてティーシャツとトレーナーの両者を記載している信用状は
除外した。)。
ウ 帳簿の記載
被告らは,本件訴訟の過程で,原告らに,売上台帳を開示し,原告ら
は,同台帳写しを甲第84ないし86号証として提出している。同証拠の記載によ
れば,被告ラッキーは,平成10年9月から平成12年8月までの間に,衣類を合
計35万6041着販売したとされる。
 (2)被告ラッキーの得た利益額
 前記(1)で認定した事実を基礎として,被告ラッキーが本件商品を販売した
ことにより得た利益について検討する。
ア 売上総額について
  被告ラッキーが本件商品の販売に際して作成した伝票のうち,原告らに
開示された伝票の記載によれば,被告ラッキーの本件商品の販売数量は合計6万5
821枚であり,その売上高は合計7863万784円である。
しかし,前記(1)で判示したように,上記各伝票のうち,「田原屋」,
「ユウキ」,「エフ」及び「坂善商事及びゼンモール」を宛名とするものは,個々
の取引ごとに個別に作成され,紐で綴じられ,開示されていないものがあったとし
ても外形上は見分けることができない。また,上記各伝票のうち,「その他」を宛
名とするものは,1冊ごとに分かれた複写式のものであるが,その伝票番号は連続
しておらず,欠番が多数存在する。したがって,被告ラッキーが開示した上記各伝
票が,被告ラッキーが本件商品について作成した伝票のすべてであると断定するこ
とはできず,かえって,被告ラッキーが開示した以外にも本件商品の取引が存在す
ることが推測される。
 ところで,前記(1)で判示した信用状によれば,被告ラッキーは,平成1
0年7月ころから平成12年5月ころまでの間に,衣服を少なくとも65万744
9着輸入していることが記載上確認される。他方,被告ラッキーが開示した帳簿類
によれば,平成10年9月から平成12年8月までの間に,合計35万6041着
が販売されたことが記載上確認される。上記帳簿の記載は,信用状の記載と対比す
ると,真実の取引を忠実に反映していないことは明らかである。そして,被告ラッ
キーが開示した帳簿類は,真実の取引全体のおおむね54パーセント(35万60
41÷65万7449≒0.5415)にすぎないと解することができる(仮に,
上記帳簿の記載が真実の売上を反映しているとすると,被告ラッキーは,上記の期
間に17万着近い在庫を抱えたことになって不自然である。)
 上記認定した事実及び被告らの態度を総合考慮すると,被告ラッキーが
作成した本件商品に係る伝票は,同被告が本件訴訟の過程で開示した伝票の少なく
とも1.5倍は存在するものと推測される。
したがって,被告ラッキーが販売した本件商品の数量は,合計9万87
31着と推計される(6万5821×1.5=9万8731.5,なお,1着未満
切り捨てにより算定した。)
イ販売価格
前記(1)で判示したように,被告ラッキーが開示した伝票によれば,被告
ラッキーの本件商品の販売数量は合計6万5821着,売上高は合計7863万7
84円であったのであるから,本件商品の1着当たりの販売価格は1194円とな
る(7863万434÷6万5821≒1194.61,なお,1円未満切り捨て
により算定した。)。
ウ 輸入原価
   (ア) ジャンズ社から被告ラッキーへ宛てたコマーシャルインボイス中に
は,ティーシャツの価格が4.87米ドル,3.96米ドル,3.69米ドルと記
載されているものも存在する(甲75ないし83)。しかし,本件全証拠によって
も,上記各インボイスに記載されたティーシャツが本件商品に該当すると認定する
ことはできない。その他,本件証拠中,本件商品の輸入原価を示す証拠は存在しな
いので,結局,本件商品の輸入原価は,被告ラッキーがジャンズ社から輸入したテ
ィーシャツの輸入原価の平均値によって算定するのが合理的である。
     そうすると,前記(1)で判示したように,被告ラッキーが平成10年1
1月ころから平成12年5月ころまでの間に,ジャンズ社から輸入したティーシャ
ツ40万2459着の合計価格は127万6430.5米ドルであるから,本件商
品の1着当たりの輸入価格は3.17米ドルとなる(127万6430.5÷40
万2459≒3.1715,なお,0.01ドル未満切り捨てにより算定し
た。)。
(イ)弁論の全趣旨によれば,被告ラッキーが本件商品を輸入した当時の
為替レートは,平均で1ドル115円であること及び関税等の輸入費用の合計は,
多くとも輸入商品の価格の3割であることが推認される。
   (ウ) したがって,本件商品1着当たりの輸入原価及び輸入費用の合計額
は,多くとも474円となる(127万6430.5÷40万2459×115×
1.3≒474.15,なお,1円未満切り捨てにより算定した。)。
エ 粗利益
(ア) したがって,本件商品1着当たりの粗利益は720円となる(11
94-474=720)。
   (イ) 前記のとおり,被告ラッキーは本件商品を少なくとも9万8731
着販売したのであるから,被告ラッキーが本件商品の販売によって得た粗利益は7
108万6320円となる(9万8731×720=7108万6320円)。
オ 利益額
弁論の全趣旨によれば,被告ラッキーは従業員が数人の小規模な会社で
あり,事業遂行に際し必要となる経費は少ないものと推測されるから,被告ラッキ
ーの利益率は,少なくとも65パーセントはあるものと解する。
したがって,本件商品を販売することにより被告ラッキーが得た利益は
4620万6108円となる(7108万6320×0.65=4620万610
8)。
(3) 原告らの損害額
ア 原告ニッキーの損害額
前記1で認定したとおり,原告ニッキーは,本件各商標を使用した商品
の卸売価格の2.4パーセントを三菱商事に支払わなければならないところ,弁論
の全趣旨によれば,上記卸売価格は1着当たり1733円であると認められるか
ら,原告ニッキーの損害額は,被告ラッキーが本件商品を販売したことにより得た
純利益である4620万6108円から本件商品9万8731着分の原告ニッキー
の上記卸売価格の2.4パーセントである410万6419円(1733×0.0
24×9万8731≒410万6419.7,なお,1円未満切り捨てにより算定
した。)を控除する必要がある。したがって,原告ニッキーの損害額は,4209
万9689円(4620万6108円-410万6419=4209万9689)
となる。
イ 原告OPの損害額
前記1で認定したとおり,原告OPは,三菱商事から,本件各商標を使
用した商品についての原告ニッキーの卸売価格の2パーセントを受領できるとこ
ろ,前記アで判示したように,本件商品の卸売価格は1着当たり1733円である
から,原告OPの損害額は,被告ラッキーが販売した本件商品9万8731着分の
原告ニッキーの上記卸売価格の2パーセントである342万2016円(1733
×0.02×9万8731≒342万2016.4,1円未満切り捨てにより算定
した。)となる。
 (4) なお,被告らからの主張はないが,念のため,過失相殺の点について判断
する。
前記1で認定したとおり,確かに,P書簡の作成日付は平成10年12月
1日であるにもかかわらず,同書簡には「ネイチャー・クロージング社は,平成1
0年12月1日から原告OPの商品を製造,販売することができるでしょう。」と
記載されており,同書簡は,上記記載部分だけを読むならば,ネイチャー・クロー
ジング社が平成10年12月1日から本件各商標を使用できるとの誤解を与える可
能性がなくはない。しかし,①P書簡には,上記文章の直前に,「オリエント・パ
シフィック社はネイチャー・クロージング社をサブライセンシーとして指名する手
続中です。」と記載されており,本件各商標の使用許諾に関する契約は未だ成立し
ていない旨が明記されているのであって,同書簡の全体を読んだ者に対して,オリ
エント・パシフィック社がネイチャー・クロージング社に本件各商標の使用許諾を
与えた旨の誤解を生じさせることはないといえること,②仮に,P書簡を読んだ第
三者が,上記のような誤解を受けたとしても,同書簡の記載内容は上記のように一
見して不自然であるから,本件各商標を付された商品についての取引をするに当た
っては,オリエント・パシフィック社に本件各商標の使用許諾の有無について確認
するなどの調査をすべきであるところ,それにもかかわらず,被告ラッキーが何ら
確認調査をすることなく,ネイチャー・クロージング社と取引をすることは著しく
注意を欠いていると評価できること等の事実に照らすならば,オリエント・パシフ
ィック社には,被告らが,本件商標権を侵害したことについて,何らの過失もない
というべきである。本件の損害賠償額の算定に当たり,上記事情を斟酌するのは相
当でない。
5謝罪広告等の請求の当否
(1)前記1記載のとおり,原告OPが本件商品を販売している小売店に対して
販売中止の警告をしたにもかかわらず,被告ラッキーは,当該警告を無視して,何
ら確認調査をすることなく,上記小売店に対して,本件商品はいわゆる真正商品で
ある旨の書面を送付したことが認められ,これにより,原告らは,業務上の信用を
害されたといえる。しかし,本件において,一切の事情を考慮すると,謝罪広告を
しなければ,原告らの信用の回復が図れないと解するのは相当でない。したがっ
て,謝罪広告を求める原告らの請求は理由がない。
(2) また,被告らの輸入,販売態様に照らし,本件各商標権に基づいて本件各
商品の輸入等の差止めを求める原告OPの請求は理由がある(これに対して,独占
的使用権に基づいて本件各商品の輸入等の差止めを求める原告ニッキーの請求は理
由がない。)。
6 結語
  よって,原告らの請求は,①原告OPについて,本件商品の輸入等の差止め
並びに342万2016円及びこれらに対する所定の遅延損害金の支払を,②原告
ニッキーについて4209万9689円及びこれらに対する所定の遅延損害金の支
払を求める限度で,それぞれ理由がある。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官    飯村敏明
裁判官谷 有恒
裁判官佐野 信
(別紙)
第1標章目録第2標章目録謝罪広告目録(省略)
連絡文目録(省略) 第1商標目録第2商標目録

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