弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     控訴人の本件控訴を棄却する。
     控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、別紙目録
(二)記載の土地を引き渡せ。
     控訴費用及び附帯控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。
         事    実
 控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という。)の訴訟代理人は、「原判決を
取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担
とする。」との判決を求め、附帯控訴につき「附帯控訴棄却」の判決を求めた。
 被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という)の訴訟代理人は、控訴人の控
訴につき、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を
求め、附帯控訴として、第一次的に「控訴人は被控訴人に対し別紙目録(二)記載
の土地(以下、本件仮換地という)を引き渡せ。」との判決及び仮執行の宣言を求
め、予備的に、「控訴人は、被控訴人が右目録(一)記載の土地(以下、従前の土
地という。)につき、堅固な建物以外の建物の所有を目的とする期間の定めなき賃
借権を有することを確認する。控訴人は被控訴人に対し被控訴人が、三重県知事よ
り本件仮換地につき賃借権の目的となるべき土地としての指定を受けたときは、右
土地を引渡せ。附帯控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
 当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、左記のほか、原判決事実摘示のとお
りであるから、これを引用する(但し、原判決三枚目裏末行目の「同A」の次に、
「同B」と加入する)。
 (控訴代理人の陳述)
 一、 従前の土地の賃貸借が解除されたことは次の事実によつてもこれを窺知す
ることができる。すなわち、被控訴人は戦災を受けて復興する見透しもないまま、
昭和二三年秋には右土地上に所在する工場が台風により倒壊し、加うるに本件土地
は道路敷地となつて右工場は分断され、右土地の仮換地は被控訴人の事務所、工場
とは道路を距てた反対側に予定されていた等の事情により、被控訴人は昭和二四年
初頃から、右土地を使用する意図を抛棄し、その賃料を支払う意思をも失うに至つ
たのである。かかる状況下において、控訴人は右賃貸借契約の解除をなしたのであ
り、被控訴人においても、むしろ、これを諒承していたのである。
 二、 被控訴人は従前の土地の借地権を所定期間内に土地区劃整理事業施行者た
る三重県知事に届出ていない。右は、被控訴人において、当時は、すでにその借地
権なきことを自認していたためであり、借地権を放棄したものと認むべきである。
仮に、しからずとしでも、被控訴人は昭和三五年三月控訴人を相手取り借地権確認
の調停申立をなすまで、十余年間に亘り、本件土地の使用方を申出たこともなくこ
れを使用収益しないまま放置していたのであるから、右借地権は一〇年の消滅時効
により消滅している。
 三、 仮に、被控訴人が本件仮換地にその主張の如き賃借権と同一の使用収益権
を有し、右土地の引渡を求める権利ありとしても、被控訴人は右土地の賃料を支払
つていないから、控訴人は同時履行の抗弁を提出し、本件仮換地の引渡は、被控訴
人において右不払賃料を支払うと引換になされるべきことを主張する。すなわち、
昭和三八年二月当時の本件仮換地の適正賃料は一ケ月金三万一三〇四円であるが、
被控訴人は昭和二四年以降右適正賃料を基準とした各年度の適正賃料を支払うべき
義務があるにも拘らず、控訴人は、一ヶ月金三四円五九銭の割合による賃料を供託
しているに過ぎないから、控訴人は右賃料の差額の支払あるまで、本件仮換地を引
き渡すべき義務はない。
 (被控訴代理人の陳述)
 一、 控訴人の消滅時効の主張は否認する。
 従前の土地上に存在した被控訴人所有の工場建物は、昭和三二年秋頃の台風によ
り倒壊したが、被控訴人はその後も引続き賃料を支払つていた。ところが、控訴人
は昭和二四年七月分以後の賃料の受領を拒否するに至つたが、被控訴人は、その後
も右土地を鉄柱、業務用パイプ鉄材の保管場所として、また、工業用揚水タンクを
設置したまま使用収益していたところ、昭和二九年七月一七日撤去命令により工
場、倉庫、家屋等を撤去するまで、右土地を占有し来つた。これより前の昭和二八
年頃、当時の被控訴人会社の代表者であつたBが、控訴人に対し本件仮換地の使用
及び賃料につき取り決めるよう申入れたところ、控訴人は仮換地が使用し得る状態
になつてから協議する旨回答していた。そして、昭和三三年九月末頃に至り、本件
仮換地を占有していた訴外Cがこれを明渡したので、同年一〇月二日、再び、Bは
控訴人に対し右土地の使用を申出で賃料一万円を提供したが、控訴人はこれを拒絶
した。そこで、被控訴人は昭和三五年三月二九日四日市簡易裁判所に対し借地権確
認の調停を申立て、同年一〇月二七日該調停が不調に終るや同年一一月九日本訴を
提起したものである。以上によれは、被控訴人が現実に本件仮換地を使用し得るよ
うになつたのは昭和三三年九月末日頃であつて、それ以前は右土地につき賃借権を
行使し得ない状況に在つたものであるから、この間は、消滅時効は進行しないので
ある。仮にしからすとしでも、被控訴人が本件従前の土地を使用することができな
くなつたのは昭和二九年七月一七日以降のことであるから、被控訴人が調停申立を
した昭和三五年三月二九日までの間には消滅時効は完成していない。
 二、 控訴人その余の主張事実を否認する。
 三、 被控訴人は昭和二二年一月頃本件土地区劃整理事業施行者たる三重県知事
に対し、控訴人の連署を得て本件従前の土地の賃借権の届出をした。そして、右土
地は一筆の土地であり、被控訴人は右一筆の土地全部について賃借権を有するので
あるから、右土地の仮換地として本件仮換地が指定されたことにより、当然、被控
訴人は右土地につき、前記賃借権と同一の使用収益権を取得したものであり、この
ことは、施行者による格段の指定を要しないところといわねばならない。そこで、
被控訴人は控訴人に対し、本件仮換地の前記使用収益権に基き右土地の引渡を求め
るため附帯控訴に及ぶ。
 仮に、右第一次請求が理由がないとすれば、被控訴人は予備的に次の請求をす
る。すなわち、控訴人は、本件従前の土地につき被控訴人が有する賃借権について
もこれを争つているので、被控訴人は、控訴人に対し、右土地につき、被控訴人が
堅固な建物以外の建物の所有を目的とする期間の定めなき賃借権を有することの確
認を求め、さらに、本件土地区劃整理事業施行者たる三重県知事より、本件仮換地
につき賃借権の目的となるべき土地の指定通知がなされたときは、控訴人に対し右
土地の引渡を求める。
 (立証)
 一、 控訴代理人は乙第三号証から第六号証を提出し、当審証人D、Eの各証言
及び当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、甲第八号証から第一一号証の各
成立は知らない、第一二号証の成立は認めると述べ
 二、被控訴代理人は甲第八号証から第一二号証を提出し、当審証人A、C、Bの
各証言を援用し、乙第三、第四号証の各成立は認める、第五号証はB名下の印影の
み認めるがその余の部分の成立は知らない、第六号証の成立は知らないと述べた。
         理    由
 一、 当裁判所も、被控訴人は、本件仮換地につき原判決認定の如き使用収益権
を有するものと判断し、その理由は、控訴人の当審における主張に対し次のとおり
判断を附加なるほかは、原判決の説示するとおりであるからその理由記載を引用す
る。
 (一) 当審における控訴人本人尋問の結果中、控訴人の当審主張一の事実に添
う部分は原判決採用の各証拠及び当審証人Bの証言に照し、とうてい措信し難く、
他に、右事実を認めて原審認定を覆すの証拠はない。
 (二) 被控訴人が賃借権を放棄したとの点については、これを認める何らの証
拠もない。控訴人の消滅時効の主張については、いずれも成立に争ない乙第三、第
四号証、当番証人Bの証言により成立の真正を認め得る甲第九、第一〇号証、当審
証人Cの証言により成立の真正を認め得る甲第一一号証と、当審証人B、当審証人
Cの各証言を総合すると、被控訴人は昭和二九年七月頃まで従前の土地を使用収益
していたこと及び本件仮換地は、その従前の所有者たる訴外Cにおいて昭和三三年
九月末日頃始めてこれを控訴人に明け渡した事実が認められるところ、本訴提起の
日が昭和三五年九月一一日たることは記録上明白であるから、いずれにせよ、被控
訴人の賃借権が消滅時効により消滅したとは認め難い。
 そして、従前の土地につき三重県知事を施行者とする旧特別都市計劃法による土
地区劃整理事業が施行され、右土地に対する仮換地(換地予定地)として本件仮換
地が指定されたことは当事者間に争なく、また、本件土地区劃整理事業は土地区劃
整理法施行後は、同法施行法第五条により昭和三〇年四月一日以降同法第三条第四
項の土地区劃整理事業となつたものと認められるから、被控訴人は本件仮換地につ
き前記賃借権と同一の内容を有する使用収益権を取得したものというべく、され
ば、控訴人に対し右使用収益権の確認を求める被控訴人の請求は正当として認容す
べきである。
 二、 次に、被控訴人の当審における本件仮換地の引渡請求につき判断する。
 被控訴人が本件仮換地につき使用収益権を有することは前説示のとおりであり、
控訴人が本件仮換地を占有していることは控訴人の争わないところである。
 しかるところ、被控訴人は、本件仮換地につき本件土地区画整理事業の施行者か
ら土地区画整理法第九八条第一項所定の権利の目的となるべき土地としての指定通
知を受けていないことは被控訴人の自認すべきところであるが、本件においては、
被控訴人は施行者からの指定通知なくして本件仮換地を現実に使用収益し得るもの
と解するを相当とし、その理由は以下述べるとおりである。すなわち、本件各証拠
によると、被控訴人が賃借していた従前の土地は一筆の土地の全部であり、右一筆
の土地に対し一の仮換地が指定されたことが認められるうえ、成立に争ない甲第一
号証、被控訴人作成部分の成立については当事者閲に争なくその余の部分も原審及
び当審における証人Aの証言により成立の真正を推認し得る乙第二目方証と、右証
言及び当審証人D<要旨>D、Eの各証言を総合すると、本件土地区画整理事業にお
いては、未登記借地権等の届出の期間は旧特別都市計画法施行令第四五条に
より昭和二二年一月二九日までと定められたところ、被控訴人は、右期間内に施行
者に対し、従前の土地につき控訴人名義で連署された未登記権利届(但し、届出の
日及び受付日の記載なく受付印の押捺はない)を提出したことが明白である。そし
て、右D、Eの各証言によれば、当時、右事業を担当していた四日市都市計画復興
事務所においては、一時に右の如き権利申告が殺到したため、右届出書には受付印
を押捺せず、かつ、受付日を記載しなかつた事例が多く、また、届出日時の記載洩
れの届出書も存したこと及び、当時、同事務所の受け付けた権利申告は約二五〇〇
件に達したが、うち、同事務所において指定通知したものは僅少であり、特に、一
筆の土地全部についての賃借権及び届出日時の記載洩れの申告に対しでは全くこれ
を指定通知していないことが認められる。しかも、当審証人Bの証言により成立の
真正を認め得る乙第六号証と原審及び当審における証人Bの証言を総合すると、被
控訴人は、戦前より、従前の土地に南接する右Bの所有土地及び訴外F所有土地を
それぞれ賃借し右三筆の土地上に建物数棟を所有していたところ、昭和二三、四年
頃従前の土地上に存した建物が倒壊したが、前記復興事務所は、従前の土地が都市
計画施行地区であることを理由として建物を再建しないよう指示したため、被控訴
人は建物の新築を見合わせこれを材料置場等に使用し来り、また、前記二筆の土地
上に存した被控訴人所有の倉庫及び木造平家建トタン張建物等については、昭和二
八年頃旧特別都市計画法第一五条の規定による移転命令が発されたため、控訴人は
さきにも触れた如く昭和二九年七月頃までに右各建物を除去して従前の土地を明け
渡した事実を認めることができる。上記認定事実によれば、被控訴人は一筆の土地
全部の賃借人として、旧特別都市計画法施行令第四五条に基きその所定期間内に、
従前の土地につき有する賃借権の届出をなした者であるが、施行者は、右の如き場
合には賃借人に対しこれを指定通知する要なきものとしたため、爾来約二〇年を経
過した今日に至るまで、被控訴人に対しでは格別の指定通知をしなかつたに過ぎな
いのであり、この間、施行者としでも、従前の土地については被控訴人の賃借権が
存するとの前提の下に、爾後の手続を進めているやに窺われるのである。このよう
な場合にまで、従前の土地の賃借人は、施行者の指定通知がなければその仮換地を
使用収益できないとするのは著しく迂遠に過ぎるものというべく、畢竟、そこに
は、もはや、法が施行者の指定通知を要求した理由ないしは必要性は失われている
ものと解さねばならない。されば、被控訴人は施行者の指定通知を受けるまでもな
くして、本件仮換地を現実に使用収益し得るものとなすべきである。
 なお、控訴人は本件仮換地の引渡義務と、被控訴人の延滞賃料支払債務とは同時
履行の関係に在る旨主張するが、本件事実関係に徴すると、とうていそのように認
めることはできないから該主張は理由がない。
 三、 叙上説示の如く、原判決は相当であつて控訴人の本件控訴は理由がないか
らこれを棄却し、被控訴人の附帯控訴による当審第一次請求は正当であるからこれ
を認容すべく、民訴法第三八四条第九五条第八九条を各適用して、主文のとおり判
決する。
 なお、被控訴人の当審における仮執行宣言の申立については、これを付さないの
が相当と認められるので、該申立を却下することとする。
 (裁判長裁判官 県宏 裁判官 越川純吉 裁判官 可知鴻平)
 (別紙)
      目     録
 (一) 四日市市大字ab番
      宅地  三二六・二八平方米(九八坪七合)
 (二) 右(一)土地の仮換地
      第c区dブロック(ロ)
         一九九平方米(六〇坪二合)

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