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裁判例


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平成19年7月30日判決言渡
平成18年(行ケ)第10483号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成19年6月18日
判決
原告タイヨーエレック株式会社
訴訟代理人弁理士伊藤洋二
同三浦高広
同水野史博
被告特許庁長官
肥塚雅博
指定代理人川島陵司
同藤田年彦
同山本章裕
同二宮千久
同大場義則
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が訂正2006−39055事件について平成18年9月20日に
した審決を取り消す。
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,平成11年11月5日,発明の名称を「弾球遊技機」とする発
明につき特許出願(優先権主張平成10年11月9日,平成11年7月
27日。以下「本件出願」という。)をし,平成15年8月15日,特許
第3461310号として特許権の設定登録(設定登録時の請求項の数
4。以下,この特許を「本件特許」という。)を受けた。
本件特許について特許異議の申立てがされたため,特許庁は,これを異
議2003−73358号事件として審理し,その係属中の平成17年8
月2日,原告は,特許請求の範囲の減縮等を目的として本件特許に係る明
細書について訂正を求める訂正請求をした。
特許庁は,審理の結果,平成17年12月5日,上記訂正を認めた上
で,「特許第3461310号の請求項に係る特許を取り消す。」との決
定(以下「決定」という。)をし,その謄本は,同月21日,原告に送達
された。
(2)原告は,決定の取消しを求める訴訟(当庁平成18年(行ケ)第1001
8号)を提起し,その係属中の平成18年4月14日,特許請求の範囲の
減縮等を目的として本件特許に係る明細書(以下,図面と併せて「本件明
細書」という。)について訂正(以下「本件訂正」という。)を求める訂
正審判請求をした。
特許庁は,これを訂正2006−39055号事件として審理し,平成
18年9月20日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以
下「審決」という。)をし,その謄本は,同年10月2日,原告に送達さ
れた。
2特許請求の範囲
(1)本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとお
りである。
「【請求項1】入賞球を検知する入賞球検知部と,
入賞球検知信号に基づいて払い出すべき賞球個数の情報である賞球個
数情報を生成する賞球個数情報生成手段と,
その生成された賞球個数情報に基づいて賞球払出機構に所定数の賞球
の払い出しを行わせる賞球払出制御手段と,
前記賞球払出制御手段による賞球の払い出しを検知する払出賞球検知
機構と,
前記賞球個数情報生成手段が生成する賞球個数情報と,前記払出賞球
検知機構による払出賞球の検知情報とに基づいて,前記賞球払出機構に
よる賞球の払い出しを管理する賞球払出管理手段とを備え,
各入賞口に対応して,各々特定の個数の賞球数が固有賞球数として定
められており,
前記賞球払出制御手段は,
入賞球検知信号の入力順に,その入賞球検知信号に対応する賞球数設
定用信号を出力する賞球個数指令出力手段と,
前記賞球数設定用信号の入力順に,その賞球数設定用信号に対応する
固有賞球数データを記憶格納する固有賞球数データ記憶手段とを備え,
その固有賞球数記憶手段に記憶格納されている固有賞球数データを先
に格納されているものから順に読み出し,その読み出し順に,対応する
個数の賞球の払い出しを前記賞球払出機構に行わせるものであり,
前記賞球数設定用信号に対応する前記固有賞球数データは,各々一定
個数のデータビットを含むと共に,そのデータビットの組み合わせが,
払い出すべき賞球数に一対一に対応する形で定められて記憶され,
電源遮断により電源電圧が低下する異常が発生したか否かを検出する
異常検出手段と,
該異常検出手段による検出結果を受けて異常確定情報を生成する異常
確定情報生成手段と,
前記異常確定情報を記憶する異常確定情報記憶手段と,
少なくとも前記賞球個数情報を遊技情報として記憶する遊技情報記憶
手段と,
前記電源遮断により電源電圧が低下する異常検出時に,前記遊戯情報
記憶手段に記憶されている遊技情報の喪失阻止処理を行うバックアップ
実行制御部とを備え,
前記異常確定情報を前記異常確定情報記憶手段に書き込む処理ルーチ
ンは,前記バックアップ実行制御部のCPUが該CPUに接続された別
体の入出力回路に予め定められたタイミングにて自発的にアクセスし,
そのアクセス時において入出力回路への異常検出の入力を確認した場合
に実行されるサブルーチンである弾球遊技機。」
(2)本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(
以下,請求項1に係る発明を「訂正発明」という。なお,下線は訂正箇所
である。)。
「【請求項1】入賞球を検知する入賞球検知部と,
入賞球検知信号に基づいて払い出すべき賞球個数の情報である賞球個
数情報を生成する賞球個数情報生成手段と,
その生成された賞球個数情報に基づいて賞球払出機構に所定数の賞球
の払い出しを行わせる賞球払出制御手段と,
前記賞球払出制御手段による賞球の払い出しを検知する払出賞球検知
機構と,
前記賞球個数情報生成手段が生成する賞球個数情報と,前記払出賞球
検知機構による払出賞球の検知情報とに基づいて,前記賞球払出機構に
よる賞球の払い出しを管理する賞球払出管理手段とを備え,
各入賞口に対応して,各々特定の個数の賞球数が固有賞球数として定
められており,
前記賞球払出制御手段は,
前記入賞球検知信号に基づく賞球個数情報の入力順に,その賞球個数
情報に対応する賞球数設定用信号を出力する賞球個数指令出力手段と,
前記賞球数設定用信号の入力順に,その賞球数設定用信号に対応する
固有賞球数データを記憶格納する固有賞球数データ記憶手段とを備え,
その固有賞球数データ記憶手段に記憶格納されている固有賞球数デー
タを先に格納されているものから順に読み出し,その読み出し順に,対
応する固数の賞球の払い出しを前記賞球払出機構に行わせるものであ
り,
前記賞球数設定用信号に対応する前記固有賞球数データは,各々一定
個数のデータビットを含むと共に,そのデータビットの組み合わせが,
払い出すべき賞球数に一対一に対応する形で定められたビット組の形で
記憶され,
電源遮断により電源電圧が低下する異常が発生したか否かを検出する
異常検出手段と,
該異常検出手段による検出結果を受けて異常確定情報を生成する異常
確定情報生成手段と,
前記異常確定情報を記憶する異常確定情報記憶手段と,
少なくとも前記賞球個数情報を遊技情報として記憶する遊技情報記憶
手段と,
前記電源遮断により電源電圧が低下する異常検出時に,前記遊技情報
記憶手段に記憶されている遊技情報の喪失阻止処理を行うバックアップ
実行制御部とを備え,
前記異常確定情報を前記異常確定情報記憶手段に書き込む処理ルーチ
ンは,前記バックアップ実行制御部のCPUが該CPUに接続された別
体の入出力回路に予め定められたタイミングにて自発的にアクセスし,
そのアクセス時において入出力回路への異常検出の入力を確認した場合
に実行されるサブルーチンであり,前記CPUは,補助電源によりバッ
クアップ処理終了後も一定時間その作動が確保され,前記サブルーチン
は,無限ループの設定により,前記バックアップ処理終了後の前記一定
期間にメインジョブのルーチンに復帰しないようになっており,
当該弾球遊技機の電源スイッチがオフされた場合には,終了信号を発
生させ,この終了信号により前記異常確定情報の生成を禁止化する手段
によって,前記バックアップ処理を行わせないようになっていることを
特徴とする弾球遊技機。」
3審決の内容
審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,訂正発明は,
特開平6−71028号公報(以下「刊行物A」という。甲1),特開平8
−202633号公報(以下「刊行物B」という。甲2),特開平10−2
34990号公報(以下「刊行物C」という。甲3)に記載された発明,及
び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたもので,特許
法29条2項の規定により出願の際独立して特許を受けることができないか
ら,本件審判の請求は同法126条5項の規定に適合しないというものであ
る。
審決は,訂正発明と刊行物Aに記載された発明(以下「引用発明」とい
う。)とを対比し,次のとおりの一致点及び相違点があると認定した。
(一致点)
「入賞球を検知する入賞球検知部と,入賞球検知信号に基づいて払い出す
べき賞球個数の情報である賞球個数情報を生成する賞球個数情報生成手段
と,その生成された賞球個数情報に基づいて賞球払出機構に所定数の賞球の
払い出しを行わせる賞球払出制御手段と,前記賞球払出制御手段による賞球
の払い出しを検知する払出賞球検知機構と,前記賞球個数情報生成手段が生
成する賞球個数情報と,前記払出賞球検知機構による払出賞球の検知情報と
に基づいて,前記賞球払出機構による賞球の払い出しを管理する賞球払出管
理手段とを備え,各入賞口に対応して,各々特定の個数の賞球数が固有賞球
数として定められており,前記賞球払出制御手段は,前記入賞球検知信号に
基づく賞球個数情報の入力順に,その賞球個数情報に対応する賞球数設定用
信号を出力する賞球個数指令出力手段と,前記賞球数設定用信号の入力順
に,その賞球数設定用信号に対応する固有賞球数データを記憶格納する固有
賞球数データ記憶手段とを備え,その固有賞球数データ記憶手段に記憶格納
されている固有賞球数データを先に格納されているものから順に読み出し,
その読み出し順に,対応する個数の賞球の払い出しを前記賞球払出機構に行
わせるものであり,前記賞球数設定用信号に対応する前記固有賞球数データ
は,払い出すべき賞球数に一対一に対応する形で定められて記憶され,電源
遮断により電源電圧が低下する異常が発生したか否かを検出する異常検出手
段と,該異常検出手段による検出結果を受けて異常確定情報を生成する異常
確定情報生成手段と,前記異常確定情報を記憶する異常確定情報記憶手段
と,少なくとも前記賞球個数情報を遊技情報として記憶する遊技情報記憶手
段と,前記電源遮断により電源電圧が低下する異常検出時に,前記遊戯情報
記憶手段に記憶されている遊技情報の喪失阻止処理を行うバックアップ実行
制御部とを備え,前記異常確定情報を前記異常確定情報記憶手段に書き込む
処理ルーチンはサブルーチンである弾球遊技機。」である点。
(相違点1)
固有賞球数データに関して,訂正発明は,払い出すべき賞球数に一対一に
対応する形で定められたデータビットを含む一定個数のデータビットの組合
せで記憶されているのに対し,引用発明には,当該賞球数の記憶形式がデー
タビットであるか否か不明である点。
(相違点2)
電源電圧が低下する異常が発生した場合,訂正発明は,サブルーチンに
て,(i)CPUが該CPUに接続された別体の入出力回路に予め定められたタ
イミングにて自発的にアクセスして異常の有無確認し,(ii)バックアップ処
理後にメインジョブのルーチンに復帰しない処理を無限ループにて行い,(
Ⅲ)バックアップ処理終了後も一定期間その作動が確保されるようになって
いるのに対し,引用発明は,(i)異常の有無の具体的確認手段は不明であり,
(ii)バックアップ処理後にメインジョブのルーチンに復帰しない処理を無限
ループにて行っているか否か不明であり,さらに,(Ⅲ)バックアップ処理
終了後も一定期間動作が確保されるか否か不明である点。
(相違点3)
訂正発明は,弾球遊技機の電源スイッチがオフされた場合には終了信号を
発生させ,この終了信号により前記異常確定情報の生成を禁止化する手段に
よって,前記バックアップ処理を行わせないようになっているのに対し,引
用発明は電源スイッチオフの場合に,バックアップ処理を行わせるか否か不
明である点。
第3当事者の主張
1原告主張の取消事由
審決には,相違点2の容易想到性の判断を誤り(取消事由1),相違点3
の容易想到性の判断を誤り(取消事由2),その結果,訂正発明は当業者が
容易に発明をすることができたもので,出願の際独立して特許を受けること
ができないと誤って判断した違法がある(なお,原告は,相違点2の認定の
誤りについても主張するが,同主張の当否については,「第4当裁判所の
判断」の「3」中で判断したとおりである。)。
(1)取消事由1(相違点2の容易想到性の判断の誤り)
ア相違点2(ii)についての容易想到性の判断の誤り
審決は,相違点2(ii)について,「引用発明においてもバックアップ
電源にてその処理が確保されている停電割込処理,すなわち,当該割込
処理のサブルーチン以外のルーチンワークが実行されることはないもの
であるから,当該サブルーチン終了後もメインルーチンに復帰しないこ
とは明らかであること,さらに,無限ループのルーチンはそのルーチン
を繰り返すものであることは周知の事項であることを勘案すれば,メイ
ンルーチンに復帰させない手段として,当該無限ループのルーチンを採
用することは当業者が適宜選択採用し得る程度の事項であり,しかも,
当該採用したことによる格別の作用効果も認められない。」(審決書1
1頁末行∼12頁8行)と判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
(ア)バックアップ電源(補助電源)はCPUの作動を確保するもの
で,引用発明において,CPUが実行する各処理の一部である停電割
込処理の「サブルーチン終了後も」,バックアップ電源からCPUに
電源が供給されている間は,CPUの作動は可能であり,CPUによ
る各処理の実行も可能である。
したがって,引用発明において,「当該割込処理のサブルーチン以
外のルーチンワークが実行されることはない」ことを理由に,「当該
サブルーチン終了後もメインルーチンに復帰しないことは明らかであ
る」とした審決の判断は誤りである。
(イ)停電時にCPUの作動が補助電源によりバックアップ処理終了後
一定期間確保されるようにした場合,その一定期間が過ぎればCPU
は作動しなくなるので,バックアップ処理が終了したときは,刊行物
Aに記載されているように,停止命令「STOP」によってプログラ
ムの動作を停止させてメインルーチンに復帰させないようにするのが
通常である。これに対し訂正発明では,バックアップ処理終了後の一
定期間においても,「無限ループ」(バックアップ処理の終了後に,
処理を繰り返し行うもの)の設定により,プログラムの動作を継続さ
せてメインルーチンに復帰させないようにしている。
このようにバックアップ処理後の一定期間,メインジョブのルーチ
ンに復帰しない処理を無限ループによって行う構成(相違点2(ii)に
係る訂正発明の構成)について,刊行物AないしC(甲1ないし
3),特開平5−35614号公報(以下「周知刊行物D」という。
甲4),特開平4−303225号公報(以下「周知刊行物E」とい
う。甲5)のいずれにも記載も示唆もない。
したがって,引用発明において,「メインルーチンに復帰させない
手段として,当該無限ループのルーチンを採用することは当業者が適
宜選択採用し得る程度の事項であ」るとした審決の判断は誤りであ
る。
(ウ)そして,相違点2(ii)に係る訂正発明の構成とした場合には,プ
ログラムの動作が継続するので,メインジョブ以外の処理でバックア
ップ処理終了後に必要とされる処理があるときは,無限ループのルー
チンの繰り返しにおいてその処理を行うことが可能である。
例えば,CPUには,それが正常に作動しているかを監視するウォ
ッチドッグタイマが設けられることがある(甲6ないし8)。このウ
ォッチドッグタイマは,CPUが正常に作動しているときはタイムア
ウトする前にクリアされるが,CPUが暴走状態になってクリアされ
ないままタイムアウトしたときは,CPUをリセットし,結果的にバ
ックアップデータが消失してしまう可能性があるため,CPUのメイ
ンジョブでは定期的にウォッチドッグタイマをクリアし,タイムアウ
トしないようにしている。相違点2(ii)に係る訂正発明の構成とすれ
ば,無限ループの設定によって,定期的にウォッチドッグタイマをク
リアする処理を行うことにより,上記不具合が発生しないようにする
ことが可能となる。もっとも,本件明細書には,「ウォッチドッグタ
イマ」なる用語それ自体は記載されていないが,「CPUがプログラ
ム暴走等したときに,ウォッチドッグタイマの作動によってCPUを
リセットする」ことは少なくとも示唆されている。
これに対して,引用発明のようにバックアップ処理終了後に停止命
令「STOP」によりプログラムの動作を停止させる構成において
は,ウォッチドッグタイマをクリアすることはできない。
このように訂正発明では,メインジョブ以外の処理でバックアップ
処理終了後に必要とされる処理がある場合には,無限ループのルーチ
ンの繰り返しにおいてその処理を行うことが可能であるという作用効
果を奏する。この作用効果は,引用発明のようにバックアップ処理終
了後に停止命令「STOP」によりプログラムの動作を停止させてし
まうものからは決して得られない格別のものであるから,相違点2(ii
)に係る訂正発明の構成を採用したことによる「格別の作用効果も認め
られない」とした審決の判断は誤りである。
イ相違点2(Ⅲ)についての容易想到性の判断の誤り
審決は,相違点2(Ⅲ)について,「バックアップ処理終了検出手段
を持たない本件訂正発明は,バックアップ処理時間が不明であるから当
該処理終了後の一定時間の始期を如何に設定するのか記載されていない
ばかりでなく,当該一定期間は,如何なる作用,効果を達成する為の如
何なる長さの期間であるのかも記載されていない。してみると,バック
アップ処理終了後も一定期間その作動を確保することは,前記周知のバ
ックアップ電源供給手法に基づいて,そのバックアップ処理の確実性の
担保等を勘案して適宜設定しうる設計的事項であり格別のものではな
い。」(審決書12頁14行∼22行)と判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
すなわち,訂正発明は,「CPUが,補助電源によりバックアップ処
理終了後も一定期間その作動が確保される」構成を前提として,「無限
ループの設定により,前記バックアップ処理終了後の前記一定期間にメ
インジョブのルーチンに復帰しない」構成としたものであり,両構成は
一体不可分の関係にあるにもかかわらず,審決が,「バックアップ処理
終了後も一定期間その作動を確保する」ことのみについて格別のもので
あるか否かを判断したことは誤りである。
(2)取消事由2(相違点3の容易想到性の判断の誤り)
審決は,「停電対策としてバックアップ手段を設けた機器において,電
源スイッチのオフによる電源電圧低下の場合と,遊戯中における停電によ
る電源電圧の低下の場合とを峻別して,前者の場合と後者の場合とで相違
する処理を行わせることは,前記周知刊行物Eに示される様に周知の事項
である。一方,弾球遊技機において,電源電圧低下の原因が遊戯中におけ
る停電のときは遊技状態の記憶を保持する必要があるのに対し,その原因
が閉店時の電源スイッチオフのとき等は遊技状態の記憶を保持する必要性
がない場合も周知である。してみると,電源スイッチのオフのときに,遊
技状態の記憶を保持するバックアップ処理を行わせない様にすることは,
当業者が必要に応じて適宜行う技術的事項であり,しかも,そのための構
成においても格別な点は認められないから,当該相違点は格別のものでは
ない。」(審決書12頁24行∼35行)と判断した。
しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。
ア周知刊行物E(甲5)記載の電源断監視装置は,主電源の断が人的要
因によるものか,外的要因によるものかを判別し,それによって主電源
断後の割込み処理ルーチンを変えているが,そのいずれの場合において
も,測定データや操作箇所の設定状態等所定の情報をメモリ等に記憶さ
せるバックアップ処理を行っており(段落【0001】,【0003
】),周知刊行物Eには,電源スイッチオフの場合にバックアップ処理
を行わせないことについて記載も示唆もない。
また,周知刊行物E記載の発明の課題は,「主電源の断が検出された
とき,それが人的要因によるものか,外的要因によるものかを瞬時に判
別し,所定の情報を迅速かつ確実に待避できるようにする」(段落【0
008】)ことにあるが,「電源スイッチオフの場合に,バックアップ
処理を行わせない」こととした場合,そのような課題を達成できなくな
るので,周知刊行物Eから「電源スイッチオフの場合に,バックアップ
処理を行わせない」構成を導き出すことはできない。
さらに,審決が引用した特開平11−184569号公報(甲1
1),特開平6−4168号公報(甲12),特開6−175938号
公報(甲13)にも,「電源スイッチオフの場合にバックアップ処理を
行わせないこと」について記載も示唆もない。
イ審決は,「弾球遊技機において,電源電圧低下の原因が遊戯中におけ
る停電のときは遊技状態の記憶を保持する必要があるのに対し,その原
因が閉店時の電源スイッチオフのとき等は遊技状態の記憶を保持する必
要性がない場合も」周知であると認定しているが,何ら証拠も示さず
に,上記事項が周知であると認定したこと自体誤りである。
また,被告が周知例として挙げる乙1ないし3は,いずれも「閉店時
の電源スイッチオフのとき等は遊技状態の記憶を保持する必要性が無い
場合」が周知であることを示すものではない。
ウ「弾球遊技機の電源スイッチがオフされた場合には終了信号を発生さ
せ,この終了信号により前記異常確定情報の生成を禁止化する手段によ
って,前記バックアップ処理を行わせないようになっている」という相
違点3に係る訂正発明の構成について,刊行物AないしC,周知刊行物
D,Eのいずれにも記載も示唆もない。
エ以上のアないしウに照らすならば,相違点3について,「電源スイッ
チのオフのときに,遊技状態の記憶を保持するバックアップ処理を行わ
せない様にすることは,当業者が必要に応じて適宜行う技術的事項であ
り,しかも,そのための構成においても格別な点は認められないから,
当該相違点は格別のものではない。」とした審決の判断は誤りである。
2被告の反論
(1)取消事由1に対し
ア相違点2(ii)の容易想到性について
(ア)①停電状態,すなわち,電源オフになると電気機器は作動しない
ものであることは技術常識であるから,電源オフ状態で電気機器が動
作する場合はバックアップ電源等によりバックアップされたものであ
ることは当然の技術事項であること,②刊行物Aには,停電割込処理
のサブルーチン終了後に行うCPUの処理動作に関する記載がないこ
となどに照らすならば,引用発明においては,停電対策としての停電
割込処理のサブルーチン終了後にCPUを動作させる必要性はないの
であるから,上記サブルーチン終了後にCPUの動作を行わないと理
解される。
したがって,引用発明において,上記サブルーチン終了後に「当該
割込処理のサブルーチン以外のルーチンワークが実行されることはな
い」とした審決の認定に誤りはなく,また,「メインルーチンに復帰
させない手段として,当該無限ループのルーチンを採用することは当
業者が適宜採用しうる程度の事項である」とした審決の判断に誤りは
ない。
(イ)本件明細書(甲14)の段落【0179】には,バックアップ処
理終了後にメインジョブのルーチンに復帰させない手法の一つとし
て「無限ループの設定」との文言が記載されているのみで,いかなる
ステップを有するループであるのか,その具体的構成に関する記載は
なく,バックアップ処理終了後に無限ループの繰り返しにおいて必要
とされる処理とはいかなるものかも記載されていない。
かえって,本件明細書の段落【0179】中には,「②・・・プロ
グラム処理の続行は可能であるが,補助電源電圧が不安定化してくる
と,プログラムの正常作動が困難となり,甚だしい場合は暴走状態に
陥って」と記載されているとおり,バックアップ処理後にプログラム
処理を行わせること,すなわち無限ループによる処理を行わせること
について消極的な記載がある。
そうすると,原告が主張する「メインジョブ以外の処理でバックア
ップ処理終了後に必要とされる処理がある場合には,無限ループのル
ーチンの繰り返しにおいてその処理を行うことが可能であるとの効
果」に格別な内容はない。
イ相違点2(Ⅲ)の容易想到性について
原告の主張は,訂正発明において「CPUが,補助電源によりバック
アップ処理終了後も一定期間その作動が確保される」構成と「無限ルー
プの設定により,前記バックアップ処理終了後の前記一定期間にメイン
ジョブのルーチンに復帰しない」構成とを一体不可分としなければなら
ない技術上の具体的理由を示していないから,その前提において失当で
ある。
(2)取消事由2に対し
ア審決が周知刊行物Eにより認定した周知事項の内容は,「電源スイッ
チのオフによる電源電圧低下の場合と,遊戯中における停電による電源
電圧の低下の場合とを峻別して,前者の場合と後者の場合とで相違する
処理を行わせること」である。審決は,周知刊行物Eにはもとより,刊
行物AないしC,周知刊行物Dにも,「電源スイッチオフの場合に,バ
ックアップ処理を行わせない」構成の記載があると認定していないの
で,これを前提とする原告の主張は,主張自体失当である。
イ周知刊行物Eには,「人的要因による電源スイッチのオフに基づく電
源電圧低下の場合と,遊戯中における停電に基づく電源電圧の低下の場
合とを峻別して,前者の場合と後者の場合とで相違する処理を行わせる
こと」が示され,「人的要因による電源スイッチオフとして,営業終了
時に電源オフとすること」,及び「当該電源オフにおいては,不正行為
とならないように遊技情報を翌日迄保存しないこと」も周知の事項(例
えば,乙1ないし3)であるから,当該人的要因による電源スイッチオ
フの場合に遊技情報の保存処理を行う必要がないことは,当業者にとっ
ては当然の帰結である。
そして,人的要因により電源スイッチオフがされたか否かを検出する
ステップで電源スイッチオフが検出された場合には,遊技情報の保存処
理を行わないステップとなることは当然であり,相違点3に係る訂正発
明の構成は当業者が適宜なし得る程度の事項であるから,審決の判断に
誤りはない。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(相違点2の容易想到性の判断の誤り)について
(1)相違点2(ii)の容易想到性
原告は,審決が,「メインルーチンに復帰させない手段として,当該無
限ループのルーチンを採用することは当業者が適宜選択採用し得る程度の
事項であり,しかも,当該採用したことによる格別の作用効果も認められ
ない。」として,引用発明において相違点2(ii)に係る訂正発明の構成を
採用することは容易想到であると判断したのは誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア(ア)刊行物A(甲1)の段落【0121】及び図29等によれば,引
用発明においては,排出制御装置58が行う「停電割込処理」によっ
て,「停電記憶」(停電検出時(停電割込処理実行時)の各処理状態
及び停電が発生した旨の記憶)をした後,停止命令「STOP」によ
り排出制御装置58の動作を停止させていることが認められる。
そうすると,引用発明においては,停電時のバックアップ処理であ
る「停電割込処理」の終了後に,「メインルーチンに復帰させない」
手段として,停止命令「STOP」を採用しているものと解される。
(イ)本件出願の優先日当時,「無限ループ」は,コンピュータプログ
ラムの命令の連続した一系列が何度も何度も無限に繰り返されること
を意味し(「マグローヒル科学技術用語大辞典第3版」1801頁参
照),あるプログラムが「無限ループ」となった場合には,プログラ
ムがいつまでも終了せずに,コンピュータがその他の処理を実行する
ことができなくなり,実質的に停止状態となることは技術常識であっ
たものと認められる。
そして,上記技術常識に照らせば,サブルーチンの最後に「無限ル
ープ」を採用すると,当該サブルーチンがいつまでも終了せずに,メ
インルーチンその他の処理を実行することができなくなり,停止命
令「STOP」と同様の機能を果たすことは,当業者にとって自明で
ある。
そうすると,刊行物A(甲1)に接した当業者にとっては,引用発
明において,停電時のバックアップ処理である「停電割込処理」の終
了後に,「メインルーチンに復帰させない」手段として,停止命令「
STOP」を採用することに代えて,「無限ループ」(相違点2(ii)
に係る訂正発明の構成)を採用することは,必要に応じて適宜なし得
る程度の設計的事項であり,容易想到であったものと認められる。
イこれに対し原告は,バックアップ処理後の一定期間,メインジョブの
ルーチンに復帰しない処理を無限ループによって行う相違点2(ii)に係
る訂正発明の構成については,刊行物AないしC,周知刊行物D,周知
刊行物Eのいずれにも記載も示唆もないと主張する。
しかし,前記ア(イ)認定の本件出願の優先日当時の技術常識に照らせ
ば,上記各刊行物に相違点2(ii)に係る訂正発明の構成について記載が
ないとしても,そのことは,引用発明に上記構成を採用することが容易
想到であったとの前記判断を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
ウ次に,原告は,訂正発明では,相違点2(ii)に係る構成を採用するこ
とにより,メインジョブ以外の処理でバックアップ処理終了後に必要と
される処理がある場合には,無限ループのルーチンの繰り返しにおいて
その処理を行うことが可能であるという作用効果を奏するものであり(
例えば,「無限ループ」で定期的にウォッチドッグタイマをクリアする
処理を行う。),このような作用効果は,引用発明のようにバックアッ
プ処理終了後に停止命令「STOP」によりプログラムの動作を停止さ
せる構成からは決して得られない,格別の効果であると主張する。
しかし,訂正発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「前記サブル
ーチンは,無限ループの設定により,前記バックアップ処理終了後の前
記一定期間にメインジョブのルーチンに復帰しないようになっており」
との記載があるが,「無限ループの設定」により「サブルーチン」とし
て特定の処理を行うとの記載はない。
また,本件明細書(甲14)を参酌しても,無限ループのステップで
何らかの処理を行うことについて記載も示唆もない。もっとも,本件明
細書には,「ここで,図33に示すように,電源遮断フラグのセットと
同時にバックアップデータ格納エリア595へのアクセスを禁止し,さ
らに停止命令(STOP)の挿入あるいは無限ループの設定により,バ
ックアップ処理終了後にメインジョブのルーチンに復帰させないように
しておくことができる。このようにすれば,次のような効果が達成可能
である。①・・・②バックアップ処理終了後も補助電源の電圧は一定期
間維持され,プログラム処理の続行は可能であるが,補助電源電圧が不
安定化してくると,プログラムの正常作動が困難となり,甚だしい場合
は暴走状態に陥って,バックアップデータ格納エリア595内のデータ
が壊されてしまうこともありうる。しかし,上記のようにプログラムを
停止させれば,そのような不具合発生を防ぐことができる。」(段落【
0179】),訂正発明の請求項1には「前記CPUは,補助電源によ
りバックアップ処理終了後も一定時間その作動が確保され」るとの記載
がある。これらの記載から,「停止命令(STOP)の挿入」又は「無
限ループの設定」は,バックアップ処理終了後に,プログラムを停止さ
せてCPUを作動させないようにするとの目的を読み取ることができる
ものの,「無限ループの設定」により,何らかの具体的な処理を行うこ
とや,上記目的とする効果以外の他の効果を奏することを読み取ること
はできない。これに対し,原告は,「無限ループ」で行う処理の例とし
て,「定期的にウォッチドッグタイマをクリアする処理」を主張する
が,本件明細書には「ウォッチドッグタイマ」に関する具体的な記載は
なく,本件明細書の他の記載事項からこれが記載されていることが自明
であるということもできないので,上記主張は本件明細書の記載に基づ
かないものとして失当である。
そして,バックアップ処理終了後に,プログラムを停止させてCPU
を作動させないようにすることは,上記段落【0179】に記載がある
ように,「停止命令(STOP)の挿入」によっても奏されるものであ
り,「無限ループの設定」による格別の効果であるとはいえない。
さらに,メインジョブ以外の処理でバックアップ処理終了後に必要と
される処理がある場合には,無限ループのルーチンの繰り返しにおいて
その処理を行うことが可能であるという原告主張の作用効果は,無限ル
ープの設定により行う処理が具体化されない以上,実際にどの程度の技
術的意義や効果があるのか確認することができないので,格別なもので
あるとは認め難い。
したがって,相違点2(ii)に係る訂正発明の構成を採用することによ
り格別な効果を奏するとの原告の主張は採用することができない。
(2)相違点2(Ⅲ)の容易想到性
原告は,審決が,「バックアップ処理終了後も一定期間その作動を確保
することは,前記周知のバックアップ電源供給手法に基づいて,そのバッ
クアップ処理の確実性の担保等を勘案して適宜設定しうる設計的事項であ
り格別のものではない。」と判断したのは誤りであると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり理由がない。
アすなわち,審決が認定判断するように(審決書12頁9行∼13
行),「バックアップ電源の供給期間を所定期間」とし,「当該所定期
間はその目的からして,少なくともバックアップ処理が終了する期間以
上であること」は技術常識であること(例えば,甲2)に照らすなら
ば,電源電圧が低下する異常が発生した場合のサブルーチンについ
て,「バックアップ処理終了後も一定期間サブルーチンの作動を確保す
ること」(相違点2(Ⅲ)に係る本件訂正発明の構成)は,バックアッ
プ処理の確実性を担保するため適宜設定しうる設計的事項であり,その
効果も格別のものではないといえるから,引用発明に相違点2(Ⅲ)に
係る本件訂正発明の構成を採用することは,当業者にとって容易想到で
あったものと認められる。
イこれに対し原告は,訂正発明は,「CPUが,補助電源によりバック
アップ処理終了後も一定期間その作動が確保される」構成を前提とし
て,「無限ループの設定により,前記バックアップ処理終了後の前記一
定期間にメインジョブのルーチンに復帰しない」構成としたもので,両
構成は一体不可分の関係にあるにもかかわらず,審決が,「バックアッ
プ処理終了後も一定期間その作動を確保する」ことのみについて格別の
ものであるか否かを判断したことは誤りであると主張する。
しかし,原告の主張によっても,上記両構成を一体不可分とすること
の技術的意義や作用効果に関する具体的な指摘はなく,また,前記(1)で
認定判断したとおり,引用発明において「バックアップ処理後にメイン
ジョブのルーチンに復帰しない処理を無限ループにて行」う構成(相違
点2(ii)に係る訂正発明の構成)を採用することは容易想到であって,
その構成により格別な効果を奏するものでないことに照らすならば,審
決が原告の主張する両構成を一体不可分のものとして判断していないこ
とが誤りであるとの原告の主張は,前提において採用することができな
い。
(3)以上のとおり,審決における相違点2(ii)及び(Ⅲ)の容易想到性の判
断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点3の容易想到性の判断の誤り)について
原告は,審決が,相違点3について,「電源スイッチのオフのときに,遊
技状態の記憶を保持するバックアップ処理を行わせない様にすることは,当
業者が必要に応じて適宜行う技術的事項であり,しかも,そのための構成に
おいても格別な点は認められないから,当該相違点は格別のものではな
い。」として,引用発明において相違点3に係る訂正発明の構成を採用する
ことは容易想到であると判断したのは誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(1)相違点3の容易想到性
審決が認定するように(審決書12頁24行∼27行),「停電対策と
してバックアップ手段を設けた機器において,電源スイッチのオフによる
電源電圧低下の場合と,遊戯中における停電による電源電圧の低下の場合
とを峻別して,前者の場合と後者の場合とで相違する処理を行わせるこ
と」は,本件出願の優先日当時,周知であったこと(例えば,甲5)が認
められる。
そして,刊行物A(甲1)には,「排出制御装置58の起動に際して,
先ず,当該遊技機1に対する電源投入によるものか,停電復帰によるもの
か(・・・)を判定し,電源投入であれば各種のフラグやタイマを初期化
する。一方,停電復帰であれば,停電時の出力状態へ戻す(・・・)停電
復帰処理を行って,停電によって中断された際の各処理へ戻る。」(段落
【0088】)との記載があり,この記載によれば,引用発明の排出制御
装置58が,停電復帰ではなく遊技機1に対する電源投入により起動する
場合,すなわち,電源スイッチをオフとする通常の電源断後に電源投入に
より起動する場合には,「各種のフラグやタイマ」を「初期化する」の
で,停電による電源断の場合と異なり,「各種のフラグやタイマ」に関す
る記憶をバックアップ処理する必要がないことは明らかである。
そうすると,刊行物Aに接した当業者であれば,引用発明において,「
弾球遊技機の電源スイッチがオフされた場合には終了信号を発生させ,こ
の終了信号により前記異常確定情報の生成を禁止化する手段によって,前
記バックアップ処理を行わせない」構成(相違点3に係る訂正発明の構
成)を採用することは必要に応じて適宜行う技術事項であり,容易想到で
あったことが認められる。
(2)原告の主張に対する判断
これに対し原告は,①周知刊行物E(甲5)には,電源スイッチオフの
場合にバックアップ処理を行わせないことについて記載も示唆もなく,周
知刊行物Eから「電源スイッチオフの場合に,バックアップ処理を行わせ
ない」構成を導き出すことはできないこと,②審決は,「弾球遊技機にお
いて,電源電圧低下の原因が遊戯中における停電のときは遊技状態の記憶
を保持する必要があるのに対し,その原因が閉店時の電源スイッチオフの
とき等は遊技状態の記憶を保持する必要性がない場合も」周知であると認
定したが,何ら証拠も示さずに,上記事項が周知であると認定したことに
は誤りがあること,③相違点3に係る訂正発明の構成について,刊行物A
ないしC,周知刊行物D,Eのいずれにも記載も示唆もないことを理由
に,「電源スイッチのオフのときに,遊技状態の記憶を保持するバックア
ップ処理を行わせない様にすることは,当業者が必要に応じて適宜行う技
術的事項であり,しかも,そのための構成においても格別な点は認められ
ないから,当該相違点は格別のものではない」との審決の判断は誤りであ
ると主張する。
しかし,審決は,周知刊行物Eから「電源スイッチオフの場合に,バッ
クアップ処理を行わせない」構成を認定したのではなく,周知刊行物Eを
例に挙げて「停電対策としてバックアップ手段を設けた機器において,電
源スイッチのオフによる電源電圧低下の場合と,遊戯中における停電によ
る電源電圧の低下の場合とを峻別して,前者の場合と後者の場合とで相違
する処理を行わせること」が周知であると認定したのであるから,原告の
主張①は,審決を正解しないもので,前提において失当である。
次に,前記(1)認定のとおり,刊行物Aの記載から,電源スイッチをオフ
とする通常の電源断の場合には,停電による電源断の場合とは異なり,「
各種のフラグやタイマ」に関する記憶をバックアップ処理する必要がない
ことは明らかであって,刊行物Aは相違点3に係る訂正発明の構成を示唆
するものといえるから,原告の主張③は採用することはできない。また,
原告の主張②でいう審決の周知事項の認定に誤りはない。
したがって,相違点3に係る訂正発明の構成を採用することは必要に応
じて適宜行う技術事項であり,当該相違点は格別のものではないと判断し
た審決が誤りであるとの原告の主張は採用することができない。
(3)以上によれば,原告主張の取消事由2は理由がない。
3結論
原告は,上記取消事由以外にも,引用発明では,刊行物A(甲1)の図2
9のフローチャートに示されるように,バックアップ処理後は「STO
P」,つまり停止命令によりプログラムの動作を停止させる構成となってお
り,「バックアップ処理後にメインジョブのルーチンに復帰しない処理を無
限ループにて」行っていないことは明らかであるにもかかわらず,審決が,
相違点2として,引用発明は,「(ii)バックアップ処理後にメインジョブの
ルーチンに復帰しない処理を無限ループにて行っているか否か不明」と認定
したことに誤りがあると主張する。確かに,前記1(1)ア(ア)のとおり,引用
発明においては,停電時のバックアップ処理である「停電割込処理」の終了
後に,「メインルーチンに復帰させない」手段として,停止命令「STO
P」を採用し,「無限ループにて」行っていないが,一方で,審決は,引用
発明に,相違点2(ii)に係る訂正発明の構成を採用することの容易想到性の
有無を判断しているから,原告が誤りと主張する審決の上記認定部分は,審
決の結論に影響するものではなく,審決の取消事由となるものではない。
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取
り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のと
おり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官大鷹一郎
裁判官嶋末和秀

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