弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人原増司、同木島繁雄、同福島栄一、同角健治の上告理由及び上告代理
人木島繁雄、同角健治の上告理由(追加)について。
 原判決は、いわゆる「雷おこし」(又は「雷おこし」。以下単に「雷おこし」と
いう。)につき、その由来、江戸時代末期から本件審決当時までの製造販売に関す
る実情、品質形状、浅草等の風物に関する文献や辞典類等における取扱い等に関し
て詳細に事実を認定したうえ、右各事実によれば、おそくとも本件商標の登録出願
がされた昭和一一年頃には、当該取引業者たると需要者たるとを問わず、「雷おこ
し」の名称をもつて、何びとか特定の業者の商品にのみ用いられるべき商標である
と認識する者はなく、古くから浅草雷門附近で製造販売されてきた認定のような品
質形状のおこしを指称する普通名称として、このような商品に付して自由に使用さ
れる語であると一般に認識され、そして、「雷おこし」の語に添えて古くから右の
商品の包装、看板などに描かれ用いられてきた雷神等の図形も、それ自体は、「雷
おこし」の文字と併用されることにより、雷おこしという商品を印象づけるにすぎ
ない、何びとも自由に使用しうる慣用的な図形として一般に認識されていたという
べきであり、そのような世人一般の認識は、本件審決の当時においてもなお存在し
ていたというべきであるから、本件商標の構成中の「雷おこし」「元祖」「浅草雷
門角」の文字と、雷神、連鼓、雷光、雲、寺院の堂塔等の図形は、それら個々のも
のとしてはなんら商品の出所を表示するに足りる特別顕著性がないとし、結局、本
件のイ号、ロ号各標章は本件商標の権利範囲に属するものではないとしているので
ある。
 所論は、まず、本件商標の構成中の「雷おこし」等の文字、雷神等の図形は特別
顕著性がないものであるとした右原審の認定判断には、証拠に基づかないで事実を
認定した違法、採証法則違反、審理不尽、理由不備又は理由齟齬等の法令違反があ
るというけれども、右原審の認定判断は、挙示の証拠に照らし、すべて正当として
首肯することができ、また、本件商標の登録手続において審査官が権利不要求の申
出削除の訂正命令をした事実も右認定をくつがえすに足りないとした原審の判断も
正当であつて、その過程に所論の違法はない。所論は、ひつきよう、原審の認定し
ない事実や原審の認定に反する事実を前提とし、あるいは原審と異なる見解や独自
の見解に立つて、原審の専権に属する事実の認定、証拠の取捨判断を非難するもの
であつて、採用することができない。
 次に所論は、旧商標法(大正一〇年法律第九九号)二二条一項三号による商標権
の範囲の確認の審判においては、登録の当時を基準として、商標の構成それ自体を
対比し、もつぱらその技術的範囲に関して対象である権利の内容を判断すべきであ
り、また、本件商標は無効審判の請求期間を経過したことにより不可争性を獲得し
ているから、係争の部分をも含めてその全体につき特別顕著性を有するものとして
判断すべきであるのに、原判決は、その解釈を誤り、審決の当時を基準としてこれ
を判断すべきものとし、本件商標の獲得した不可争性を無視した結果、不当に本件
商標権の範囲を確定したものであり、また、商標権の確認といいながらその実質は
商標権の効力について判断したものであつて、違法であるという。
 しかし、商標は取引においてその商品が自己の製造、販売等の営業にかかるもの
であることを表彰するために使用するものであるから、商標権の範囲の確認は、そ
の商品の取引の実情において、これが取引者や需要者の間に混同誤認を引きおこす
虞があるかどうかによつて決定すべきものと解すべきである。また、一部に特別顕
著性を有しない文字等を含む商標も登録されないわけではなく(旧商標法二条二項
参照)、商標権の範囲の確認審判については請求期間の制限が設けられていないこ
とから考えれば、本件商標につき、無効審判請求期間を経過したことにより所論の
ような不可争性が生じているものと解することはできない。そして、原判決は、前
記のように、「雷おこし」の名称や雷神等の図形に関する原判示のような世人一般
の認識が、本件登録出願がされた昭和一一年頃には既に存在しており、かつ、本件
審決の当時においてもなお存在していたことを理由として、本件のイ号、ロ号各標
章は本件商標の権利範囲に属するものではないとしているのであつて、その説示か
らすれば、商標権の範囲の確認につき登録時、審決時のいずれを基準として判断す
べきものと解するかは原判決の結論に影響を及ぼすものではなく、また、所論のよ
うに原判決が商標権の効力について判断したものではないことは、明らかである。
原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、右と異なる見解や独自の見解に
立つて原審の判断を非難するか、原判決の傍論部分を非難するにすぎないものであ
つて、すべて、採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    天   野   武   一
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    高   辻   正   己

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