弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決を破棄する。
本件を知的財産高等裁判所に差し戻す。
理由
上告人X1代理人梅田康宏ほかの上告受理申立て理由並びに上告人X2及び同
X3代理人松田政行ほか,同X4及び同X5代理人岡崎洋ほか,同X6及び同X7代
理人前田哲男ほか,同X8及び同X9代理人伊藤真ほか並びに同X10代理人尾崎行
正ほかの上告受理申立て理由(ただし,いずれも排除されたものを除く。)につい

1本件は,放送事業者である上告人らが,「ロクラクⅡ」という名称のインタ
ーネット通信機能を有するハードディスクレコーダー(以下「ロクラクⅡ」とい
う。)を用いたサービスを提供する被上告人に対し,同サービスは各上告人が制作
した著作物である放送番組及び各上告人が行う放送に係る音又は影像(以下,放送
番組及び放送に係る音又は影像を併せて「放送番組等」という。)についての複製
権(著作権法21条,98条)を侵害するなどと主張して,放送番組等の複製の差
止め,損害賠償の支払等を求める事案である。
上告人らは,上記サービスにおいて複製をしているのは被上告人であると主張す
るのに対し,被上告人は,上記サービスの利用者が私的使用を目的とする適法な複
製をしているのであり,複製をしているのは被上告人ではないと主張する。
2原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)上告人X1,同X2,同X4,同X8及び同X10は,それぞれ,別紙著作物
目録記載のとおり,同目録記載の各放送番組について複製権を有する。上告人ら
(上告人X6を除く。)は,放送事業者であり,それぞれ,1審判決別紙放送目録
記載のとおり,同目録記載の各放送に係る音又は影像について複製権を有する(以
下,別紙著作物目録記載の各放送番組及び1審判決別紙放送目録記載の各放送に係
る音又は影像等を併せて「本件番組等」と総称する。)。
Aは,放送事業者であった者であり,別紙著作物目録記載のとおり,同目録記載
の放送番組について複製権を有し,また,1審判決別紙放送目録記載のとおり,同
目録記載の放送に係る音又は影像について複製権を有していた。上告人X6は,放
送事業者であり,平成20年10月1日,会社分割により,Aのグループ経営管理
事業を除く一切の事業に関する権利義務を承継した。
(2)被上告人は,ロクラクⅡを製造し,これを販売し,又は貸与している。
ロクラクⅡは,2台の機器の一方を親機とし,他方を子機として用いることがで
きる(以下,親機として用いられるロクラクⅡを「親機ロクラク」といい,子機と
して用いられるロクラクⅡを「子機ロクラク」という。)。親機ロクラクは,地上
波アナログ放送のテレビチューナーを内蔵し,受信した放送番組等をデジタルデー
タ化して録画する機能や録画に係るデータをインターネットを介して送信する機能
を有し,子機ロクラクは,インターネットを介して,親機ロクラクにおける録画を
指示し,その後親機ロクラクから録画に係るデータの送信を受け,これを再生する
機能を有する。
ロクラクⅡの利用者は,親機ロクラクと子機ロクラクをインターネットを介して
1対1で対応させることにより,親機ロクラクにおいて録画された放送番組等を親
機ロクラクとは別の場所に設置した子機ロクラクにおいて視聴することができる。
その具体的な手順は,①利用者が,手元の子機ロクラクを操作して特定の放送番
組等について録画の指示をする,②その指示がインターネットを介して対応関係
を有する親機ロクラクに伝えられる,③親機ロクラクには,テレビアンテナで受
信された地上波アナログ放送が入力されており,上記録画の指示があると,指示に
係る上記放送番組等が,親機ロクラクにより自動的にデジタルデータ化されて録画
され,このデータがインターネットを介して子機ロクラクに送信される,④利用
者が,子機ロクラクを操作して上記データを再生し,当該放送番組等を視聴すると
いうものである。
(3)被上告人は,平成17年3月ころから,初期登録料を3150円とし,レ
ンタル料金を月額6825円ないし8925円として,親機ロクラク及び子機ロク
ラクを併せて貸与するサービスや,子機ロクラクを販売し,親機ロクラクのみを貸
与するサービスを開始した(以下,これらのサービスを併せて「本件サービス」と
いう。)。
本件サービスの利用者は,子機ロクラクを操作して,親機ロクラクの設置されて
いる地域で放送されている放送番組等の録画の指示をすることにより,当該放送番
組等を視聴することができる。
3原審は,仮に各親機ロクラクが被上告人の管理,支配する場所に設置されて
いたとしても,被上告人は本件サービスの利用者が複製を容易にするための環境等
を提供しているにすぎず,被上告人において,本件番組等の複製をしているとはい
えないとして,上告人らの請求を棄却した。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを
提供する者(以下「サービス提供者」という。)が,その管理,支配下において,
テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」とい
う。)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が
自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするもので
あっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すな
わち,複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,
程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断す
るのが相当であるところ,上記の場合,サービス提供者は,単に複製を容易にする
ための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,放送を受
信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用い
た放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービ
ス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,
放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の
主体というに十分であるからである。
5以上によれば,本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等を認定する
ことなく,親機ロクラクが被上告人の管理,支配する場所に設置されていたとして
も本件番組等の複製をしているのは被上告人とはいえないとして上告人らの請求を
棄却した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,上記の機器の管理状況等に
ついて更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官金築誠
志の補足意見がある。
裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである。
著作権法上の複製等の主体の判断基準に関しては,従来の当審判例との関連等の
問題があるので,私の考え方を述べておくこととしたい。
1上記判断基準に関しては,最高裁昭和63年3月15日第三小法廷判決(民
集42巻3号199頁)以来のいわゆる「カラオケ法理」が援用されることが多
く,本件の第1審判決を含め,この法理に基づいて,複製等の主体であることを認
めた裁判例は少なくないとされている。「カラオケ法理」は,物理的,自然的には
行為の主体といえない者について,規範的な観点から行為の主体性を認めるもので
あって,行為に対する管理,支配と利益の帰属という二つの要素を中心に総合判断
するものとされているところ,同法理については,その法的根拠が明らかでなく,
要件が曖昧で適用範囲が不明確であるなどとする批判があるようである。しかし,
著作権法21条以下に規定された「複製」,「上演」,「展示」,「頒布」等の行
為の主体を判断するに当たっては,もちろん法律の文言の通常の意味からかけ離れ
た解釈は避けるべきであるが,単に物理的,自然的に観察するだけで足りるもので
はなく,社会的,経済的側面をも含め総合的に観察すべきものであって,このこと
は,著作物の利用が社会的,経済的側面を持つ行為であることからすれば,法的判
断として当然のことであると思う。
このように,「カラオケ法理」は,法概念の規範的解釈として,一般的な法解釈
の手法の一つにすぎないのであり,これを何か特殊な法理論であるかのようにみな
すのは適当ではないと思われる。したがって,考慮されるべき要素も,行為類型に
よって変わり得るのであり,行為に対する管理,支配と利益の帰属という二要素を
固定的なものと考えるべきではない。この二要素は,社会的,経済的な観点から行
為の主体を検討する際に,多くの場合,重要な要素であるというにとどまる。にも
かかわらず,固定的な要件を持つ独自の法理であるかのように一人歩きしていると
すれば,その点にこそ,「カラオケ法理」について反省すべきところがあるのでは
ないかと思う。
2原判決は,本件録画の主体を被上告人ではなく利用者であると認定するに際
し,番組の選択を含む録画の実行指示を利用者が自由に行っている点を重視したも
のと解される。これは,複製行為を,録画機器の操作という,利用者の物理的,自
然的行為の側面に焦点を当てて観察したものといえよう。そして,原判決は,親機
を利用者が自己管理している場合は私的使用として適法であるところ,被上告人の
提供するサービスは,親機を被上告人が管理している場合であっても,親機の機能
を滞りなく発揮させるための技術的前提となる環境,条件等を,利用者に代わって
整備するものにすぎず,適法な私的使用を違法なものに転化させるものではないと
している。しかし,こうした見方には,いくつかの疑問がある。
法廷意見が指摘するように,放送を受信して複製機器に放送番組等に係る情報を
入力する行為がなければ,利用者が録画の指示をしても放送番組等の複製をするこ
とはおよそ不可能なのであるから,放送の受信,入力の過程を誰が管理,支配して
いるかという点は,録画の主体の認定に関して極めて重要な意義を有するというべ
きである。したがって,本件録画の過程を物理的,自然的に観察する限りでも,原
判決のように,録画の指示が利用者によってなされるという点にのみに重点を置く
ことは,相当ではないと思われる。
また,ロクラクⅡの機能からすると,これを利用して提供されるサービスは,わ
が国のテレビ放送を自宅等において直接受信できない海外居住者にとって利用価値
が高いものであることは明らかであるが,そのような者にとって,受信可能地域に
親機を設置し自己管理することは,手間や費用の点で必ずしも容易ではない場合が
多いと考えられる。そうであるからこそ,この種の業態が成り立つのであって,親
機の管理が持つ独自の社会的,経済的意義を軽視するのは相当ではない。本件シス
テムを,単なる私的使用の集積とみることは,実態に沿わないものといわざるを得
ない。
さらに,被上告人が提供するサービスは,環境,条件等の整備にとどまり,利用
者の支払う料金はこれに対するものにすぎないとみることにも,疑問がある。本件
で提供されているのは,テレビ放送の受信,録画に特化したサービスであって,被
上告人の事業は放送されたテレビ番組なくしては成立し得ないものであり,利用者
もテレビ番組を録画,視聴できるというサービスに対して料金を支払っていると評
価するのが自然だからである。その意味で,著作権ないし著作隣接権利用による経
済的利益の帰属も肯定できるように思う。もっとも,本件は,親機に対する管理,
支配が認められれば,被上告人を本件録画の主体であると認定することができるか
ら,上記利益の帰属に関する評価が,結論を左右するわけではない。
3原判決は,本件は前掲判例と事案を異にするとしている。そのこと自体は当
然であるが,同判例は,著作権侵害者の認定に当たっては,単に物理的,自然的に
観察するのではなく,社会的,経済的側面をも含めた総合的観察を行うことが相当
であるとの考え方を根底に置いているものと解される。原判断は,こうした総合的
視点を欠くものであって,著作権法の合理的解釈とはいえないと考える。
(裁判長裁判官金築誠志裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官
横田尤孝裁判官白木勇)
(別紙)
著作物目録
1X1
番組名「バラエティー生活笑百科」
番組名「福祉ネットワーク」
2X2
番組名「踊る!さんま御殿!!」
3X4
番組名「関口宏の東京フレンドパークⅡ」
4A
番組名「MUSICFAIR21」
5X8
番組名「いきなり!黄金伝説。」
6X10
番組名「ペット大集合!ポチたま」

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