弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告理由一乃至五について。
 論旨は本件土地が牧野ではないというに帰するのであるが、原判決の認定すると
ころによれば、本件土地は永年にわたり主として採草の目的で使用収益されていた
のであるから、かかる事実の認められる以上、本件土地が自作農創設特別措置法に
いう「採草の目的に供される土地」、すなわち牧野に該当することは明白であつて、
原判決が本件買収を違法として取消したのは至当である。論旨は昭和二四年一月二
一日附農林次官通牒二四農政第九七号を引用して、本件土地を牧野ではないと主張
するけれども、右通牒は下級行政庁に対し牧野と林地との区別について、事務処理
上の一応の標準を示したに過ぎないものと解すべく、もとより法令としての効力を
持つものではないから、右通牒に示された樹冠疏密度が〇・三以上の土地であつて
も法律にいう「採草の目的に供される土地」と認められる以上これを未墾地と解す
ることはできないのであつて論旨は理由がない。
 上告理由六について。
 論旨は山林においても採草は経営上不可欠であり、採草の事実があつても山林育
成のためにした場合はその土地は山林であつて牧野ではないというのであるが、原
判決はたんに採草の事実のみによつて本件土地を牧野であると判断したのではなく、
 「主として採草の目的で使用収益されていた」事実を認定した上で牧野としたの
であつて、論旨は理由がない。
 上告理由七について。
 論旨は原判決が本件土地を牧野と認定するに際し、あたかも、被上告人の主観の
みによつて判断したかのように主張するけれども、原判決は被上告人の主観的意図
によつてのみ牧野であると判断したのではなく、証拠によつて、大正八年被上告人
が居村a村から本件土地の払下げを受け、爾来堆肥の材料たる生草の採取地として
使用して来り、其の間松樹を伐採しその跡に松苗を植え採草地としてやり直した事
実、今日に至るも尚採草地として使用している事実等を認定し、このような客観的
な事実に基いて本件土地を牧野であるとしたのであつて、原判決に所論のような違
法はない。本件土地の主たる使用目的が採草にある以上、現在松樹直径三、四寸位
のものが五、六尺乃至八尺おき位に生立している事実は本件土地を牧野と解するに
ついて妨げとなるものではない。諭旨は原審の採用しない証拠によつて原判決の認
定しない事実を主張するのであつて理由がない。
 上告理由八について。
 論旨は主として林木の育成のために用いられている土地は牧野ではなく、若し原
判決のように解するならば、すべての山林所有者は林木育成のための採草を農業経
営上必要な採草であると主張し牧野買取は混乱を免れず未墾地買取は不可能となる
と主張するのであるが、原判決は本件土地についてその主たる使用目的が採草であ
る事実を認定しているのであつて、林木育成の目的で採草する場合にも、その土地
を牧野と解すべきものと判示してはいない。所論は原判決の判示していない事実を
根拠とする主張であつて理由がない。
 上告理由九について。
 論旨は原審の専権に属する証拠の取捨選択を非難するに過ぎず理由がない。
 上告理由十について。
 論旨は本件土地の買収に関する各般の事情について述べるけれども、本件土地が
法律上牧野であつて未墾地と解されない以上、これを未墾地として買収することの
できないことは法律の定めるところであつて、論旨は理由がない。
 昭和二五年四月四日附上告代理人岩渕止外一名提出の上告理由書は法定期間経過
後につき判断をしない。
 以上説明のとおり上告に理由がないから、本件上告を棄却することとし、民事訴
訟法三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致した意見によ
り、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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