弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役六月及び罰金三千円に処する。
     但し原判決確定の日より四年間右懲役刑の執行を猶予する。
     被告人が右罰金を完納することができないときは十五日間被告人を労役
場に留置する。
     押収にかかる証拠物第一乃至第四号及び第六号はこれを没収する。
     原審における訴訟費用三千百四十円は被告人の負担とする。
         理    由
 本件非常上告申立の理由は末尾添付書面記載のとおりである。
 よつて記録を調査するに、原審三本木簡易裁判所は、昭和二七年一二月二九日、
被告人は、(一)昭和二七年一一月一七日午前三時頃青森県三戸郡a村A方倉庫よ
り同人所有の叺入大豆六斗を窃取し、(二)同月一九日法定の除外事由がないのに
七首一振を携帯所持したものであるとの事実を認定し、右(一)の所為は刑法二三
五条に、(二)の所為は銃砲刀剣類等所持取締令一五条、二七条に各該当するとこ
ろ、(二)の七首携帯所持の罪については所定刑中懲役刑を選択し、以上二罪は刑
法四五条の併合罪であるから同法四七条、一〇条に則り重い(一)の窃盗の刑に法
定の加重をした刑期範囲内において被告人を懲役に処すべく、但し同法二五条に従
い刑の執行を猶予すべきものとし、被告人を懲役一年に処す、但四年間右刑の執行
を猶予するとの判決を言い渡し、この判決は上訴申立期間の経過により確定するに
至つたことが認められる。
 およそ、簡易裁判所は、裁判所法三三条一項によれば窃盗罪及び右銃砲刀剣類等
所持令違反の罪について裁判権を有するが、しかし同条二項によれば、禁錮以上の
刑を科することができないのを原則とし、ただ、同条二項但書所定の特定の事件に
おいてのみ三年以下の懲役を科することができるに過ぎず、そして同但書所定の特
定事件の中には、窃盗罪に係る事件又は窃盗罪及びこれと観念的競合若くは牽連犯
の関係に立ち刑法五四条一項により窃盗罪の刑を以て処断すべき他の罪に係る事件
が含まれるけれども、銃砲刀剣類等所持取締令一五条、二七条違反の罪の如きは、
右但書に特に挙示されていないのであるから、特に刑法五四条一項により窃盗罪そ
の他右但書所定の犯罪の刑を以て処断すべき関係のない限り、簡易裁判所はこれに
ついて禁錮以上の刑を選択して言渡をすることができないこと明らかである。簡易
裁判所が裁判所法三三条二項の制限を超える刑を科するのを相当と認めるときは同
条三項、刑訴法三三二条により決定で事件を管轄地方裁判所に移送しなければなら
ないのであるから、原審が、すでに本件の窃盗と銃砲刀剣類等所持取締令違反とを
刑法四五条の併合罪と認めた以上、前者につき懲役三年以下を言い渡し、後者につ
き罰金刑を選択して言い渡すべきものとするならば格別、しからずして、後者につ
き懲役刑を選択し、重い前者の法定懲役刑に併合罪の加重をした刑期範囲内におい
て被告人に対し一個の懲役刑を言い渡すのを相当と認めたのであるから、原審とし
てはすべからく裁判所法三三条三項、刑訴法三三二条により事件を管轄地方裁判所
に移送する決定をなすべきものであつた。しかるに原審はこれをしないで自から前
記のような判決をしたのであるから、原審の審判は裁判所法三三条二項に違反する
ものというのほかない。本件非常上告は理由がある。そして、原判決は被告人のた
め不利益であると認められるから、刑訴法四五八条一号により原判決を破棄し、右
被告事件につき更に判決することとする。
 原判決確定の事実に法律を適用すると、窃盗の点は刑法二三五条に、七首不法携
帯所持の点は銃砲刀剣類等取締令一五条、二七条、罰金等臨時措置法二条に各該当
するから、後者の法定刑中罰金刑を選択した上、それぞれ所定の刑期及び金額の範
囲内において被告人を懲役六月及び罰金三千円に処すべきものとし、なお、罰金刑
の換刑処分につき刑法一八条、刑の執行猶予につき同法二五条、没収につき同法一
九条、訴訟費用の負担につき刑訴法一八一条を各適用し、裁判官全員一致の意見で
主文のとおり判決する。
 本件公判には検察官安平政吉が出席した。
  昭和三二年一月七日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    島           保
            裁判官    小   林   俊   三

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