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平成26年(許)第39号
株式買取価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
平成27年3月26日第一小法廷決定
主文
1原決定を破棄し,原々決定を取り消す。
2抗告人が有していた株式会社A発行に係る株式の買
取価格を1株につき106円とする。
3鑑定人に支払った鑑定料120万円のうち94万8
837円を抗告人の,25万1163円を相手方の
各負担とし,原審及び当審における抗告費用はいず
れも相手方の負担とする。
理由
抗告代理人小黒芳朗,同吉田博樹の抗告理由について
1本件は,相手方を吸収合併存続株式会社,株式会社A(以下「A社」とい
う。)を吸収合併消滅株式会社とする吸収合併(以下「本件吸収合併」という。)
に反対したA社の株主である抗告人が,A社に対し,抗告人の有する株式を公正な
価格で買い取るよう請求したが,その価格の決定につき協議が調わないため,抗告
人が,会社法786条2項に基づき,価格の決定の申立てをした事案である。
A社は非上場会社であるところ,非上場会社において会社法785条1項に基づ
く株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法(将来期待される純利益を一定の資本
還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定する方法をいう。)を用いて
株式の買取価格を決定する場合に,当該会社の株式には市場性がないことを理由と
する減価(以下「非流動性ディスカウント」という。)を行うことができるか否か
が争われている。
2記録によれば,本件の経緯は,次のとおりである。
(1)A社は,平成24年6月当時,発行済株式の総数338万7000株の非
上場会社であり,株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定款の定めがあっ
た。
(2)A社は,平成24年6月6日,相手方との間で,効力発生日を同年10月
1日として本件吸収合併をする旨の合併契約を締結した。
(3)平成24年8月8日に開催されたA社の株主総会において,上記契約を承
認する旨の決議がされた。
A社の株式32万5950株を有する抗告人は,上記株主総会に先立ち,本件吸
収合併に反対する旨をA社に通知した上,上記株主総会において本件吸収合併に反
対し,同年9月12日,A社に対し,上記株式を公正な価格で買い取ることを請求
した。
(4)平成24年10月1日,本件吸収合併の効力が発生し,A社は相手方に吸
収合併された。
抗告人は,同年11月21日,原々審に対し,上記株式の買取価格の決定の申立
てをした。
(5)鑑定人のB公認会計士は,原々審において,次のとおり鑑定意見を述べ
た。
本件では収益還元法を用いるのが相当であるところ,A社において将来期待され
る純利益を予測し,その現在価値を合計すると,約3億6158万3000円とな
る。そして,非上場会社の株式は上場会社の株式のように株式市場で容易に現金化
することが困難であるため,非流動性ディスカウントとして上記金額から25%の
減価を行い,その結果を発行済株式の総数338万7000株で除すると,A社の
株式の公正な買取価格は,1株につき80円となる。
3原審は,次のとおり,収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合で
あっても非流動性ディスカウントを行うことができると判断して,抗告人が有して
いた株式の買取価格を1株につき80円と定めるべきものとした。
吸収合併に反対して会社からの退出を選択した株主には,吸収合併がされなかっ
たとした場合と経済的に同等の状況を確保すべきところ,A社の株式の換価は困難
であり,このことは株式の経済的価値自体に影響を与えているというべきであるか
ら,株式の換価の困難性を考慮することが裁判所の合理的な裁量を超えるものとい
うことはできない。抗告人は収益還元法を採用する限りは非流動性ディスカウント
を行うことはできないと主張するが,抗告人の享受していた財産的地位は換価の困
難性を反映したものというべきであり,上記主張は理由がない。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
会社法786条2項に基づき株式の価格の決定の申立てを受けた裁判所は,吸収
合併等に反対する株主に対し株式買取請求権が付与された趣旨に従い,その合理的
な裁量によって公正な価格を形成すべきものであるところ(最高裁平成22年
(許)第30号同23年4月19日第三小法廷決定・民集65巻3号1311頁参
照),非上場会社の株式の価格の算定については,様々な評価手法が存在するが,
どのような場合にどの評価手法を用いるかについては,裁判所の合理的な裁量に委
ねられていると解すべきである。しかしながら,一定の評価手法を合理的であると
して,当該評価手法により株式の価格の算定を行うこととした場合において,その
評価手法の内容,性格等からして,考慮することが相当でないと認められる要素を
考慮して価格を決定することは許されないというべきである。
非流動性ディスカウントは,非上場会社の株式には市場性がなく,上場株式に比
べて流動性が低いことを理由として減価をするものであるところ,収益還元法は,
当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより
株式の現在の価格を算定するものであって,同評価手法には,類似会社比準法等と
は異なり,市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。吸収合併
等に反対する株主に公正な価格での株式買取請求権が付与された趣旨が,吸収合併
等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可
能とする反面,それに反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに,退
出を選択した株主には企業価値を適切に分配するものであることをも念頭に置く
と,収益還元法によって算定された株式の価格について,同評価手法に要素として
含まれていない市場における取引価格との比較により更に減価を行うことは,相当
でないというべきである。
したがって,非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がさ
れ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディ
スカウントを行うことはできないと解するのが相当である。
5以上と異なる原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原決定は破棄を免れない。そして,以上説示したと
ころによれば,A社において将来期待される純利益の現在価値の合計は約3億61
58万3000円であり,発行済株式の総数は338万7000株であるから,株
式の買取価格は抗告人の主張するとおり1株につき106円となるものというべき
である。したがって,原々決定を取り消し,抗告人が有していたA社の株式の買取
価格を1株につき106円とし,鑑定人に支払った鑑定料120万円については当
事者の合意に照らして鑑定結果と各当事者の主張金額とのかい離額に応じて分担さ
せることとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官池上政幸裁判官櫻井龍子裁判官金築誠志裁判官
山浦善樹)

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