弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
本件抗告をいずれも棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
○ 理由
第一 本件抗告の趣旨および理由ならびに相手方参加人のこれに対する各意見は別
紙記載のとおりである。
第二 当裁判所は前記当事者が原審および当審において提出した疎明資料をすべて
検討したうえ、次のとおり判断する。
一 当裁判所も抗告人らは本件処分の取消しを求める本案訴訟について原告適格を
有し、従つて、その執行停止申立てについても申立人適格を有するものと判断す
る。その理由は次のとおり改めるほか、原決定二枚目表一〇行目から同六枚目裏一
〇行目にしるすところと同一であるから、これを引用する。
原決定三枚目表一三行目冒頭から同四枚目表四行目にある「・・・・・・・・・そ
れぞれ相接しており、」までを次のとおり改める。
「(二)別紙当事者目録抗告人(一)記載の抗告人ら(以下、伊達抗告人らとい
う。)は、伊達市内(有珠地区を除く。)に居住する漁民を構成員とする伊達漁業
協同組合(以下、伊達漁協という。)の正組合員であつて、同組合が有する抗告人
ら主張の漁業権に基づき、同組合の定める漁業権行使規則により、その主張の各海
域で現実に漁業を営んでいること、
(三) 他方、別紙当事者目録抗告人(二)記載の抗告人ら(以下、有珠抗告人ら
という。)は伊達市内有珠地区に居住する漁民を構成員とする有珠漁業協同組合
(以下、有珠漁協という。)の正組合員であつて、同組合が有する抗告人ら主張の
漁業権に基づき、同組合の定める漁業権行使規則によりその主張の各海域で現実に
漁業を営んでいること、
(四) 本件処分のなされた当時伊達漁協の漁業権の及ぶ海域のうち伊達市内の有
珠地区を除く地域の海岸沿いの海域(海区四八号)と有珠漁協の漁業権の及ぶ海域
のうち有珠地区の海岸沿いの海域(海区四七号)ならびにこれら海域の沖合側の各
海域(伊達漁協については海共一三五号、有珠漁協については海共一三四号)はそ
れぞれ相接しており、」
二 抗告人らに回復困難な損害が生ずるかどうかについて。
1 本件埋立工事による漁業被害について。
(一) 参加人の計画にかゝる本件埋立工事の概要、右工事に関する施工方法ない
しその状況等についての当裁判所の事実認定も次のとおり改めるほか、原決定理由
(原決定七枚目表一行目から同一〇枚目裏八行目まで)にしるすところと同一であ
るので、これをここに引用する。
(1) 原決定七枚目裏末行目冒頭から同九枚目表四行目末尾までを次のとおり改
める。
「東護岸、取付護岸および取水口設備等の工事の終了後に行われる本件埋立工事に
ついては、取水口設地予定地付近から東西両防波堤設置予定地の先端付近に至る取
水口外かく施設内である海域の海底を、ホイルカツターを吸水口に取付けたポンプ
しゆんせつ船(以下、ホイルカツター式ポンプしゆんせつ船という。)によつて水
深七メートルにしゆんせつし、右しゆんせつ船で穿掘吸引した土砂を海水とともに
四つの沈澱池に区画された埋立予定地の第一沈澱池に排水のうえ同沈澱池に沈降さ
せ、その上澄みの海水を順次同様の方法で第二以下の沈澱池に流下させ、この間徐
々に土砂が沈澱されて最終の上澄み海水は、第一沈澱池の前面に設置する排水口を
経て放出されること、第一沈澱池が土砂の沈澱により埋立てられると右しゆんせつ
船の排水管を第四の沈澱池に伸ばして同沈澱池を埋立てることにし、上澄み海水を
第三の沈澱池へ流下させたうえ前記排水口を経て放出すること、更に第四沈澱池の
埋立てが終れば、右しゆんせつ船の排砂管を第二沈澱池に移動し、前記同様の方法
でこれより吐き出された土砂を同沈澱池に沈降させ、その上澄み海水を第三沈澱池
に流下させたうえ前記排水口から放出させること、第二沈澱池の使用中にさきに埋
立てられた第四沈澱池の堆積土砂を陸揚げして第四沈澱池を再び沈澱泄として使用
できるようにし、第二沈澱池が沈降土砂により埋立てられた時は前記しゆんせつ船
の排砂管を第四沈澱池に戻し、吐き出された土砂を同沈澱池に沈降させ、その上澄
み海水は第三沈澱池に流下させたうえ、前記排水口から放出すること、以下同様に
第二、第四両沈澱池を交互に沈澱池として使用して上記のとおり徐々に土砂を沈澱
させながらしゆんせつを行い、このしゆんせつが完了した時に陸揚げされていた土
砂の一部で第三沈澱池を埋立て、埋立工事すべてを終了するものであること、万一
予測を越えて粒度の細かい土砂が混入した場合に備え、第三沈澱池にポンプ場を設
け、上澄み海水を更に排水浄化設備に導き、この設備によつて、濁度一、五〇〇p
pmの海水の濁り(浮遊懸濁物質)であつてもこれを四〇ppm以下に充分浄化処
理したうえ、前記排水口から護岸内側の海水汚濁防止シートで囲まれている海域に
放出されて希釈拡散され、更にその外側にある右シートとあいまつて、右浮遊懸濁
物質のシート外流出が防止されていること(なお昭和四九年八月から一〇月にかけ
てなされた検査の結果によると、右排水口出口における処理水中の浮遊懸濁物質量
は最低三・二ppm、最高二〇・六ppmである。)、」
(2) 原決定九枚目表末行目にある「しかし右シートは、・・・・・・・・・」
以下同一〇枚目表三行目末尾までを次のとおり改める。
「しかし右シートは、同年一〇月二八日しけのためその相当部分が破損したので、
参加人は、今後このような破損事故が生じないように、昭和四九年五月二四日東護
岸側から、波高二・九m、風速二〇m/s、水深七mを設計条件として改良補強さ
れた海水汚濁防止シートの展張を開始し、同年七月三日展張用メインワイヤーをエ
ントモ岬(西防波堤側)に定着し、引続き、メインアンカーおよびサブアンカーな
どの据付けをしてシートの下端を海底に定着させ、同月一〇日右シートの設置を完
了し、その保守点検を厳重に実施しているので、右シートの機能じたいには特別の
欠陥は生じていないこと、」
(二) ところで、抗告人らは参加人が本件埋立工事に伴う海水汚濁の防止対策と
してとられた上記引用の原審認定にかゝるホイルカツター式ポンプしゆんせつ船の
採用、排水浄化設備の新設、海水汚濁防止シートの布設について、これら対策の欠
陥を指摘する。しかも特に参加人が改良補強して前記月日に再び布設した海水汚濁
防止シートについては、原理的、構造的に右シート内に存する汚濁水の外海流出を
防止する効果はもとより、風波潮流に耐えうる強度もなく、現在既にその各所に破
損部分が存在するもので、このことは、昭和四九年七月二六日には既に三〇メート
ル位の長さの間だけでシートの下部が五ケ所にわたり二~三メートルの大きさで破
れていたこと、九月一日にはエントモ岬西方約一キロメートルの海岸に右シートの
補助ブイが二個漂着し、同月一六日には右シートのフロートが二個アルトリ岬沖に
流れていたこと、八月八日から九月一四日までの間、アルトリ岬東側の海岸に右シ
ートのランキングロープが合計四五本も流れ着いたことから明らかであつて、参加
人がこれら汚濁防止対策を講じても海水の汚濁は本工事海域内にとどまらず、海流
の影響等に支配され外海に移動拡散し、ひいては抗告人らの漁獲の減少を来たす旨
主張する。
これに対し、相手方および参加人は右防止対策が現在における科学的水準からみて
その完全性を強調するけれども、仮りに参加人の施した右対策がその主張のような
完全性を期待できず、他方、疎明資料からみて右シートに一部破損部分が生じてい
ることが窺われるとしても、本件埋立工事に伴う海水の汚濁が抗告人らが主張する
ように右工事海域のみならず、その外側に存する抗告人らの漁場海域にまで拡散
し、抗告人らの漁業に甚大な影響を及ぼす程の広範囲かつ濃度の汚濁状態を招来し
たことの疎明はない。のみならず、本件埋立工事により生じた海水の汚濁状態が、
将来しかも長期にわたり継続して抗告人らの漁獲の減少を来たし、これがひいては
漁業自体の存続を断念せざるをえない状態に陥る程度にまで達するおそれがあると
の疎明もない。
また、仮りに抗告人らが本件埋立工事に伴う直接の影響によつて、或る程度の漁獲
の減少を来たし、これにより抗告人らが損害を蒙ることがあつたとしても、その損
害が社会通念上金銭賠償の受忍ないし許容可能性の限度を超えているものとは全疎
明資料からみても窺知しがたい。
(三) 次に、捨石工事により本件埋立地付近の海域に赤潮が発生した旨の抗告人
らの主張については、当裁判所も原決定と同一の理由により右捨石工事と赤潮の発
生との間に因果関係の存在を認め難いものと判断するので、原決定一二枚目表九行
目冒頭から同裏六行目末尾までをそのまゝ引用する。
(四) 更に、抗告人らは参加人による右汚濁防止シートの布設直後からシート内
海域の海底に堆積している微細な土砂と異常発生したプランクトンによる赤潮の発
生で右海水が赤褐色に汚濁し、荒天時にはこれがシートの破損個所、シート間の継
ぎ目、シート下端と海底間のすき間から流出し、有珠漁協の海域へ流れ込み、その
結果右漁協における昭和四九年度の突磯漁業の出漁日数および水揚高が著しく減少
した旨主張する。
しかしながら、右主張の海域にその主張のような漁業に直接影響する赤潮が発生し
たことの疎明はない。のみならず、その主張のような漁獲高の減少があつたとして
も、これが右主張の赤潮に起因することの疎明ももとよりない。
(五) また、抗告人らは、有珠漁協の漁場は有珠岳の噴火によつて流れ込んだ溶
岩が岩礁を形成し、これに天然のコンブやワカメ等の海草が付着して藻場となつて
おり、漁場に流れ込む河川がなく、海水の透明度が良好であつたため、このような
自然条件を生かし、沖出し一、二〇〇メートルまで、水深一七メートル以浅の部分
において、のぞき箱で海底をのぞき、ヤスで獲物(主としてウニ、アワビ、ナマコ
など)をとる突磯漁業という特色ある漁法が広く行われ、その漁獲高は全漁獲高の
六割を占めるものであるところ、本件埋立工事により昭和四九年に入つてからは海
水が広範囲にわたつて汚濁し、有珠抗告人らの右漁業の出漁日数が従前の五割以下
(ウニ漁業では一割)に減少した。更に抗告人A、同B、同Cが昭和四九年五月下
旬から六月上旬にかけてエントモ岬とアルトリ岬の間のややアルトリ岬寄りの沖合
約六〇〇メートルの海域に設置したホタテ貝採苗器を同年八月中旬から下旬にかけ
て引き上げたところ、これに収納してあるフイルムに泥が付着し、その結果抗告人
Aのホタテ稚貝は全部窒息死し、その他の抗告人二名については、採苗数が昭和四
八年に比較して一割ないし一割五分に止まつた旨主張する。
しかしながら、有珠漁場において抗告人らが主張する程の海水の汚濁状態が生じた
ことについての疎明はもとより、抗告人らが主張する漁獲高の減少、ホタテ稚貝の
死滅が本件埋立工事に直接起因するものであるとの疎明もない。
(六) なお、抗告人らは伊達火力本館基礎工事に伴つて汲み上げられた一日約
七、〇〇〇トンにのぼる大量の地下水(淡水)が、この海域に排出され、これが海
水汚濁の一因をなし、有珠抗告人らの漁業に影響を及ぼしている趣旨の主張をす
る。しかしながら、仮りに抗告人ら主張のような損害があつたとしても、これはそ
の主張どおり本館基礎工事に伴うもので、本件処分と直接の関係がないこと右主張
自体から明らかというべく、抗告人らの右主張は採用の限りでない。
(七) 以上のとおりであるから結局本件埋立工事に基づく海水の汚濁により本案
判決確定の時点において抗告人らに対し行政事件訴訟法二五条二項所定の回復困難
な損害を生ずるものということができない。
2 本件埋立工事完成後の漁業環境の悪化について。
抗告人らが主張するように本件取水口外かく施設の完成に伴い防波堤等により漁場
が危険にさらされる程の返し波が生ずるおそれがあるとの疎明は十分でなく、また
潮流および魚道の変化ならびに海底の砂の移動についても抗告人らの主張を裏付け
うる疎明はない。
3 取水および温排水による被害について。
当裁判所も原決定説示のとおり本件処分は抗告人らが主張する取水および温排水に
よる損害につき直接の原因をなすものといえず、結局本件処分と右損害の間には相
当因果関係を欠くものと判断する。従つて、原決定一三枚目表八行目から同一四枚
目裏五行目まで当裁判所の判断としてここに引用する。
4 本件埋立地の水面が消失することによる損害について。
当裁判所も抗告人らの有する全漁場のうち右消滅海域が永久に消滅することをもつ
て、行政事件訴訟法二五条二項所定の回復困難な損害を生ずるものということがで
きないと判断するのであつて、その理由は原決定理由(原決定一四枚目裏七行目か
ら同一五枚目表九行目まで)と同一であるので、これを引用する。5環境権に対す
る侵害について。
抗告人らの環境権侵害に関する主張についての当裁判所の判断も原決定理由(原決
定一五枚目表一一行目から同裏一三行目まで)にしるすところと同一であるので、
これを引用する。
第三 以上のとおり、本件処分によいつて抗告人らに回復困難な損害を生ずるもの
ということはできないから抗告人らの本件申立てはその余の点について判断するま
でもなく、いずれも理由がなく、却下を免れない。
よつて、これと同旨の原決定は正当であるから、本件抗告はいずれも棄却すること
とし、抗告費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条をそれぞれ適用して、
主文のとおり決定する。
(裁判官 松村利智 長西英三 山崎末記)
抗告の趣旨
一、原決定を取消す。
二、相手方が昭和四八年六月二五日北海道電力株式会社に対し港湾第二九号指令を
もつてした伊達市<以下略>および<以下略>ならびに国有鉄道用地の地先海面三
三、七九五・九〇平方メートルの公有水面埋立免許処分の効力は、本案判決が確定
するまでこれを停止する。
三、申立費用は第一、二審とも相手方の負担とする。
との裁判を求める。
抗告の理由
一、原決定は、行政事件訴訟法二五条二項にいわゆる「回復の困難な損害」の解釈
適用を誤つた違法がある。
1 原決定は本件埋立工事により、工事海面外の海域をも汚染させ、抗告人らの漁
業に影響を与えることを認めながら、それが将来にわたり漁業を営むこと自体を不
可能にする程の壊滅的な打撃を与えるとか、長期間にわたり大巾な漁獲の減少を招
く程の程度に達するおそれがあるとは認められず、その損害は原則として金銭賠償
をもつて償うことができる性質の損害である、という。
2 原決定の右の判断は、昭和四八年七月から同年一一月までに行われた投石工事
によつて漁業被害が生じなかつたことおよび昭和四九年春以降に予定されているし
ゆんせつ工事の期間が七カ月に過ぎないことの二点を主たる根拠にしているようで
あるが、しかし現に投石工事により、海が濁り、有珠申立人らは磯突漁業の出漁日
数が減少させられたのである。(有珠抗告人らの陳述書、なお雨水や河水による濁
りは比重の関係で海の表層部分を汚濁し、比較的早く元にもどるが、工事による海
水自体の汚濁は中、底層部まで全体に及び汚濁はなかなか消えない。)
しゆんせつ工事は、機械的に海底をかきまわし、沈でん地層に流送された土砂まじ
りの海水が、再び海へ排出されるのであるから、海水の汚濁は、投石工事にくらべ
て、はるかに甚大なものになることは明らかである。北電は、しゆんせつ工事の期
間を七カ月と予定しているようだが、自然を相手の工事であり、計算どおり進まな
いことも考えられる。しかも予定されたしゆんせつ工事が七カ月で終つても、しゆ
んせつ部分は自然の海底を七メートルの深さに堀り下げるものであるから、そこに
標砂かたまり、これを取り除くためにその後もすい時しゆんせつを繰り返さざるを
えないのである。
海の濁りは日光をさえぎるため周辺の藻場を死滅させ、また赤潮の原因となる。本
件埋立工事の被害は、決して埋立工事海域にかぎられるものではないし、工事期間
中に限られるものでもない。原決定は、この点を誤認しており、とうてい納得でき
ない。
3 原決定は、漁獲減少の被害は、金銭賠償によつて償うことができるというが、
不当である。抽象的には、このようにいえるかも知れないが、抗告人らにとつては
漁業は生計のほとんど唯一の手段である。漁業生産物は、労働者にとつての賃金と
等しい。抗告人らおよびその家族は漁業によつてぎりぎりの生活をしており、漁獲
の減少は生活の破碇につながる。このような意味で、事後的な金銭賠償は不相当で
あり、本件埋立工事により抗告人らに「回復の困難な損害」を生ずるおそれがある
といわざるをえない。
4 原決定は本件埋立工事により、伊達申立人らの漁場のうち本件工事海面を含む
約一二万五、〇〇〇平方メートルの海域が漁場としては永久に消滅することを認め
ながら、右消滅海域の面積が伊達申立人らの漁場全体の四〇〇分の一ないし二〇〇
分の一以下であり、消滅海域は近くのし尿処理場の汚水の流入でよい漁場でなくな
り伊達申立人らも近年においては、ほとんど漁場として利用していなかつたことを
理由に、右漁場の消滅は回復困難な損害とはいえないという。
しかしこの判断は、環境破壊を公認し、海の実態を知らない驚くべき暴論である。
し尿処理場の汚水でよい漁場なくなつたからといつて、直ちにつぶしてよいという
ことにはならない。し尿処理場の汚水は、完全に処理、浄化して排水することが可
能であるし、抗告人らを含む伊達、有珠の漁民もこれを要求しているにもかかわら
ず、行政(主として伊達市)の怠慢から、不完全な処理しかしないで汚水をたれ流
してきたのである。し尿の汚水を完全に浄化すれば、よい漁場に回復するし、そう
することが筋である。原決定は発想が全く逆である。
従前から強調しているとおり、海に均質ではない。沿岸浅海部が生物の再生産の場
所として特に重要である。漁場の価値は、そこで大きな魚貝や海藻類がどれ程とれ
るかによつてきまるものではない。単なる面積比で漁場の価値を判断するのは誤り
も甚しい。
5 行政事件訴訟法二五条二項にいわゆる「回復の困難な損害」とは、終局判決後
の措置では救済の実をあげえないような損害の発生を防ぐのが執行停止制度の目的
であるから、金銭による賠償が社会通念上妥当でないような損害または原状回復の
ために異常な経済的犠牲を要する損害のいずれかであればよく、必ずしも「著しい
損害」である必要もなく、金銭賠償の能否を基準とするものではない、と解されて
いる(田中二郎外編「行政法演習II七五頁。田中二郎外編行政法講座第三巻三一
一頁)。原決定は「回復の困難な損害」を「著しい損害」に限られるとする不当に
厳格な解釈をしている。
本件埋立工事が完成すれば、これを撤去することは物理的に不可能ではないにして
も、撤去工事自体がまた重大な海水汚濁の原因となり、社会経済的にも得策でない
との考慮が働き、本件埋立免許が違法であるとされても、抗告人らの本訴が棄却さ
れる可能性がある。(行政事件訴訟法三一条)いずれにしても、抗告人らに回復困
難な損害が生ずるとみるべきことは論をまたない。
北電は、昭和四九年春から、埋立工事を再開することを計画しているから、緊急に
執行停止をする必要がある。
二、原決定は、取水および温排水による被害は、本件埋立免許処分によつて直接に
生ずる損害とはいえないから、行政事件訴訟法二五条二項の損害には該当しないと
いうが、誤りである。
一般に、埋立免許は埋立地の利用目的を限定してなされる。本件の場合は、伊達火
発の取水口、取水路、物揚場、荷置場等の施設用地造成のためという目的である。
本件埋立地が埋立免許に予定された目的どおり取水に利用された場合には、抗告人
らの漁業を営む権利が侵害されるのであるから、この損害は埋立免許による損害と
いうべきである。一般的にいえば、取水、排水は、埋立に通常伴うものではないけ
れども、本件の場合には、不可分の関係にある。また、排水口は取水口と水路およ
びパイプでつながつており、排水は取水の結果であり、両者を切りはなして論ずる
ことができない。
原決定は、排水による海水汚濁については、行政庁による規制が別途に講じられる
ということを一つの理由とするが、温排水については、未だ排水基準すら定められ
ておらず、行政庁の規制なるものも、実効性は全くない。
ましてや、海水の取水については現在なんらの法的規制もない。
本件のような毎秒二二トンという大量の取水による漁業資源の減少がおきる場合、
漁業者は、取水施設の建設の段階でしか、これを争う有効な手段がないのである。
三、原決定は、抗告人らの漁業を営む権利の内容および漁場の範囲について、誤つ
た認定をしている。原決定は伊達申立人らは、第一種区画漁業権(海区第四八
号)、第一ないし第三種共同漁業権(海共第一三五号)に基づき、有珠申立人らは
第一種漁業権(海区第四七号)、第一ないし第三種共同漁業権(海共第一三四号)
に基づき、それぞれ所属漁業協同組合の漁業権行使規則により、漁業を営んでいる
と、判示するが、抗告人らが原審で提出した申立補充書(第四)で主張し、疏明し
たとおり、前記各漁業権は、昭和四八年八月三一日かぎり消滅し、同年九月一日
に、同申立補充書に記載した新漁業権の免許を受け、現在はこれら漁業権を行使し
ている。この一事からも明らかなように、原審裁判所は、本件記録および疏明方法
を十分精査していない。
四、その他の抗告理由は、追つて近日中に提出するが、北電は本年春からしゆんせ
つ工事を再開すべく準備しているので、早急に原決定を取消して執行停止の裁判を
していただきたい。
抗告理由補充書
第一、原決定は、環境破壊、公害問題を全く理解しない結果、誤つた判断に至つて
いる。具体的に誤りを指摘する。
一、原決定には、現在の環境をより良好なものに改善していこうとする積極的な発
想が全然ないばかりか、現状を固定し、あるいは現在少し汚染されているところ
は、もつと汚染してもかまわないとの誤つた観念に貫ぬかれている。
これは、本件埋立工事海域に、し尿処理場の汚水が流入するようになつてからは、
よい漁場とはみられなくなり、この海域が埋立によつて永久に消滅しても回復困難
な損害を生ずるものとはいえない、と判断したり、また本件埋立地付近の海面およ
び海岸一帯は、し尿処理場や工場および鉄道護岸の存在等により自然環境として噴
火湾沿岸の各地方と比較して格段に良好であるとは必ずしもいえないから、本件埋
立工事がもたらす景観や自然環境への影響を目して回復困難な損害とはいえない、
とする点などに明らかにあらわれている。(甲第四八号証、八〇号証)
二、原決定は、漁獲減少の損害は、原則として金銭賠償によつで償うことができる
性質の損害であるというが、これも漁民の生活権を無視し、公害を激化させてきた
議論である。瀬戸内海など本州の公害先進地で沿岸漁業が急速に衰退したのは、一
旦金銭補償で汚染を受忍してしまうと、その後被害が蓄積増大しても、因果関係の
立証の負担という事実上の困難さのため、企業の提示するわずかの見舞金で泣き寝
入りさせられ、次第に漁業への意欲を失い、後継者も育たず、これがまた汚染を容
易にし増大させることになるといつた悪循環の結果であつたのである。とくに、汚
染源の立地の段階で、隣接漁業権者に異議申立など、その権利保全の制度が十分認
められなかつたことが、汚染をなしくずし的に広げてきた原因でもあつた。汚染は
最初の第一歩でくいとめなければならない。(甲第三一号証、五〇号証、六六号証
の七、七一号証の四)
損害発生のおそれがあるときは、被害者が金銭補償を望むのでない限り、事前差止
(ないしは、損害の発生を防止する設備をするまで原因行為を行わせない)が原則
である。四日市や水俣の公害の実状をみるまでもなく金銭賠償は事後的にほかに損
害を回復する方法がないためやむをえず認められる措置である。原決定は原則と例
外を取り違えている。(なお、大阪弁護士会環境権研究会「環境権と差止請求」法
律時報昭和四七年一二月号、昭和四八年二月号)
民法上認められている所有物防害予防請求権および占有保全の訴(民法一九九条)
は、金銭賠償が可能な場合でも事前予防(差止)を認めている。本件もこれと本質
を同じくする。
公有水面埋立法においても、同法六条は同法四条の権利者に対してではあるか、そ
の損害を補償し、または損害の防止施設をなすことを定め、同法八条は、右損害を
補償しまたは損害の防止施設をした後でなければ工事に着手することを禁じてい
る。すなわち、法律自体、公有水面埋立については、事後的な損害賠償は不適当で
あることを認めているのであり、この理は同法四条所定の権利者に損害を及ぼすお
それかある場合に限られないと解すべきである。
三、原決定は、行政庁による規制の有効性を過信し、裁判所による国民の権利救済
を拒否する誤りを犯している。
原決定は、排水による海水の汚濁については、電気事業法により通産大臣が規制す
ることができる旨定められているから、排水による損害については本件埋立免許の
直接の損害ではない、という。しかし、行政上の規制措置だけでは公害を防止する
ことができないばかりか、かえつて公害を激化させてきたのが我国の実状ではなか
つたか。原審は発電所からの温排水について、通産大臣が有効に規制することがで
き、または規制した事実があるとでもいうのであろうか。温排水について、通産大
臣の規制措置が可能であるからといつて、これによつて被害を受けるおそれのある
者が直接裁判所に出訴する権利を奪われる理由はない。本件処分は、実質的には、
漁業権の空間的および内容的な収用である。(甲第四七号証)
四、原決定は、被害が明白に立証されなければ、事前差止を認めないとの極端に厳
格な立場をとる。すなわち、しゆんせつ工事による海域の汚染は、工事海面の面積
および工事の方法から考えると必ずしも広範囲なものとは考えられないとし、また
埋立工事完成後の漁業環境悪化について、防波堤はその位置および形状につき返し
波の発生をできるだけ少なくするように考案されたものであり、また防波堤の外側
の斜面には消波ブロツクを二層に積み上げることになつているから、漁業に影響を
及ぼすほどの顕著な返し波が生ずるおそれがあるとの疏明は十分でなく、潮流およ
び魚道の変化ならびに海底の砂の移動についても、抗告人らの主張する影響を生ず
るといえるほどの疏明はない、と判示する点に右の態度がみられる。
しかし、未知の部分が多い自然界においては、理論計算や設計値どおりの効果が生
じないのが通常である。被害の有無、程度が完全に立証されない場合は、被害があ
り、その程度が大きくなるおそれがあるものとして対処するのが賢明な態度であ
る。(甲第一〇二号証)
現に、相手方および北電が十分な安全性を見込んで設計されていると称していた汚
濁防止シートが、設置後わずか三か月余の昭和四八年一〇月二八日の時化の際に無
残に破壊してしまつた。
原決定が、しゆんせつ工事により汚濁される海域の範囲は必ずしも広範囲なものと
は考えられないとした根拠は、明らかでないが、原審参加人北電の提出した水理公
式による計算(疏丙第八号証)を勘酌しているとも考えられるので、この点につき
疑問を提示する。理論計算値を現実の汚染の予測に用いるときの一般的な問題点は
前述したが、なおその計算式にあてはめる各種のデータ(初期濃度や海流の速度な
ど)の信頼性についても十分な吟味をしなければ計算結果はそのまま使えない。こ
れらのデータを少し変えれば、汚染範囲は、何倍も違つてくる。数字やP・P・M
で汚染の実態を把握できないことは、経験が示していることを特に強調しておきた
い。
五、原決定は、被害を個々ばらばらに取り上げるだけで、被害を長期的、総合的に
とらえる正しい視点を見失つている。また、汚染および被害の量的な側面にとらわ
れ、質的な側面を看過する誤りをおかしている。
たとえば、原決定は、埋立工事海域の面積が全体の漁場の二〇〇分の一ないし四〇
〇分の一程度であることから、埋立工事海域の漁場の価値を判断するが、消滅海域
が水産資源の再生産にどの程度の重要性をもつか、およびそれが漁場全体との関係
でどの程度の比重を占めるかなどの質的な面に全く考慮を払つていない。(単に量
的な比較で漁場の価値を云々することは誤りがあるが、仮りに本件の場合量的な面
をとり上げるとすれば、埋立によつて失われる自然の海岸線と残される自然の海岸
線の長さをみるべきである。伊達漁協が漁業権をもつ海岸線は約一七キロメートル
であり、そのうち本件埋立により失われる海岸線は約八五〇メートルで、全体の二
〇分の一に相当する。)(甲第八二号証の四)
原決定は、環境権について、極めて皮相的、観念的な理解しかしていない。抗告人
らの主張する環境権の意義、内容および本件埋立免許が抗告人らの環境権を侵害す
るゆえんは、原審で提出した反論書および申立補充書で詳しく述べた。(なお、大
阪弁護士会環境権研究会編「環境権」参照)
原決定は、本件埋立工事が比較的小規模であり、また、本件埋立地付近の海面およ
び海岸一帯は、し尿処理場や工場および鉄道護岸の存在等により、自然環境として
噴火湾沿岸の各地方と比較して格段に良好であるとは必ずしもいえないし、築造さ
れる東西の防波堤および埋立地には特に景観や自然環境を損うような構築物の建設
が予定されているわけではないから、本件工事がもたらす景観や自然環境への影響
を目して回復困難な損害ということはできない、という。
しかし、一二万五〇〇〇平方メートールのしゆんせつおよび埋立は、決して「比較
的小規模のもの」とはいえない。
自然の海岸線は、それ自体、自然環境の重要な構成素材である。とくに沿岸浅海部
は、海中生物の再生産になくてはならない部分であり、自然の砂浜は海水の浄化作
用をも営む。これを一旦埋立で消滅させてしまえば、原状に回復することは不可能
に近い。自然環境の破壊による損害を金銭で評価することも不可能である。原決定
は、環境素材のうちの景観だけを重視し、また良好な環境でなければ保護に値しな
いとの一面的な誤つた見方をしている。(甲第四二-四三号証)
第二、被害についての補足的主張
一、北電は、今春埋立工事を再開するに当つては、汚濁防止フエンスをより完全な
ものにして設置するというが、安全なものができるという保障はなにもない。汚濁
防止フエンスの原理や仕組みが変わらない(変えようがない)以上、原決定も認め
ているとおり、汚濁水の流出を防ぐことができないのは明らかである。捨石工事の
際に設置したフエンスについても、北電および相手方は絶対安全だと明言してきた
のである。
しゆんせつ工事の途中で、フエンスが破損したら、土砂が一度に流出し、汚濁水が
海流にのつて広範囲に広がることは見易い道理である。(甲六二号証の一、二、六
三号証の一、二)
二、原決定は、昭和四八年九月に噴火湾内に発生した赤潮について、これは本件埋
立地付近に局部的に発生したものではなく、噴火湾一帯に大量に発生したものであ
つて、小規模の捨石工事と右赤潮の発生との間に因果関係があるとは到底認められ
ないといい、また、しゆんせつ工事によつて海底の栄養塩等が浮上するとこれによ
つて赤潮が発生するとの見解があるが、本件における程度のしゆんせつ工事によつ
ても抗告人らの漁業に影響を及ぼすほどの赤潮が発生するおそれがあるものと認め
るに足りる資料はない、という。
しかし、前記昭和四八年九月の赤潮の発生の原因が捨石工事に起因するものとは認
められないとしても、赤潮が発生したこと自体、本件埋立海域を含む噴火湾東北部
が相当汚染され赤潮が発生しうる状態にあることを窮わせる。したがつて、仮りに
しゆんせつ工事がそれだけで赤潮発生の原因とはならないとしても、夏季の海水の
温度上昇と相まつて、赤潮発生を促進する引き金となり、または赤潮の広域化、深
刻化の条件となることは確実である。この意見で現在以上の汚染をもたらす埋立工
事は絶対避けなければならない。原決定は、このような観点を見落としている。
(甲第八二号証の二、三)
三、原決定は、埋立工事完成後の漁業環境の悪化について、潮流の変化や海底の砂
の移動を重視しないが、これは、しかし埋立が完成したあと一定の時間をへて、始
めて判明することであり、完成前の段階で、正確に予測することは、もともと無理
なことである。相手方こそ影響がないということ、またはあつても無視しうる程度
のものであることを事前に証明する責任がある。〈甲第七一号証の三)
海底の砂の移動については、東護岸の捨石工事がほぼ終つた現在、東護岸の西側の
海岸に砂が堆積するという影響が現にあらわれているのである。(当審で新たに疏
明する)(甲第三一号証。四〇号証の一、二、四一号証、七四号証九七号証の一、
二)
抗告理由再補充書
第一、被害についての補足的主張
一、しゆんせつ工事関係
1 コンブ、ワカメ、ノリ等の海草類は、海の濁りによる日射量の減少により生育
を阻害される。海草類は魚のように自由に移動できないから、大きな被害を受け
る。
2 しゆんせつによる浮泥が周辺の海底に堆積するとタコ、ナマコ、その他貝類等
の底生動物が死滅する。
3 沈澱池の汚濁防止の効果は小さい。
沈澱池といつても、埋立予定地の区画した部分にすぎず、しゆんせつした土砂まじ
りの海水を長時間滞留させておく仕組みのものではない。土砂まじりの海水は常時
沈澱池に流入され、そこを流れて排出されるのであるから、粒の大きい砂は沈澱す
るが、微細な泥土は沈澱せず、かえつて沈澱しかかつた土砂が流れにまきこまれて
排出されることさえ予想される。
4 海水汚濁防止シートは、その構造および強度の両面で全く不完全であり、汚濁
防止の効果がない。その理由は、これまで詳しく述べた。
相手方および北電は、昭和四八年一〇月二八日の時化の際のシート破損についてシ
ートは水深七メートルで一・五メートルの波高毎秒二〇メートルの風速を設計条件
とし、これに十分な安全率を考慮して設計されており、その強変は水深七メートル
でおおよそ波高二・七メートル、風速毎秒二〇メートルまでの海象条件に耐えうる
ものがあつたが、当日は長和地先の最大風速は毎秒約二〇メートル、最大波高二・
九メートルにも達した台風並みの時化に見舞われたために起きた事故であり、まさ
しく天災にも等しいと弁解する。
しかし当日の長和地先の最大風速は北電の観測によつても設計条件の毎秒二〇メー
トルというのであり、この毎秒二〇メートルの風も、最大瞬間風速であり、長時間
継続してこの風速の風が吹いていたわけではないことを注意すべきである。
波高一・五メートルを設計条件とし、これに十分な安全率を考慮して設計されてい
るというが、設計条件のわずか二倍以下の波高に耐えないのでは、十分な完全率を
考慮したとはとうていいえない。
なおシートの破損状態からみて、シートは、当日の時化で一時に破損したというよ
り、海中に設置してある間に、潮流や波浪により少しずつ弱くなつていたと認めら
れる。(原審の証拠保全の検証写真参照)
しゆんせつ工事期間中に、シートが破損する事態が発生することも十分予測され
る。
たとえ、シートが破損しなくても、シートの構造上汚濁防止の効果がないから、し
ゆんせつ工事海域の至近距離に設置されている有珠漁協組合員の養殖施設(一〇〇
メートル位はなれた所から設置してある)が汚濁水の被害を受けるのは免れない。
二、取水、温排水関係
温排水による海水の温度上昇は、コンブなどにつく害虫の発生を促進するおそれが
ある。
取水、温排水の双方の影響として、軽い温排水が海の表層をおおい、取水により沖
合底層の重い海水が引つぱり込まれる結果、従来の海中生物相が変化する。(例え
ば、底層の生物が外洋性のものに変る。)生物相が変わればそれに対応して漁具、
漁法、漁業形態を変えなければならず、そのための資本投下、技術習得等の負担を
強いられることとなる。
三、工事完成後の漁業環境悪化関係
自然の砂浜は波を消す作用をする。本件埋立により、エントモ岬東側の約八〇〇メ
ートルの自然の砂浜がなくなり五一九メーールの東護岸および防波堤と一六五メー
トルの西防波堤ができる。これによる返し波は周辺の小型漁船の航行を困難にし、
養殖施設を破損流出させるおそれがある。護岸および東西の防波堤ができることに
よつて海岸の地形が変り、潮流に変化をきたす。
エントモ岬は、自然の防潮防波堤のはたらきをしているが、護岸と東西の防波堤
は、このはたらきをなくしてしまい、強い北西流が直接エントモ岬西側の有珠漁協
の漁場に侵入してくるようになり、そこに土砂を堆積させる。土砂がたまると底生
動物が被害を受けるし、水深が浅くなつて養殖漁場としても不適になる。
あるところに土砂がたまるのは、他の部分の土砂が運びとられることを意味する。
防波堤をつくると海岸線の状態が変る。茨城県の鹿島の海岸では、防波堤ができた
あと、砂浜がゴロ石の海岸に一変したという。
四、漁業被害を考える場合、漁獲量の減少は、漁業者の生活を破碇させるだけでな
く、国民に対するたんぱく食料資源の供給が阻害される意味があることを看過すべ
きではない。
第二、取水および温排水による被害は、本件埋立免許による損害といいうる。
一般的にいえば取水、排水は埋立に通常伴うものではないけれども、本件の場合に
は不可分の関係にある。取水、温排水の被害が本件埋立免許から生ずる直接の損害
であるかどうかは用語の問題にすぎない。埋立地利用の目的は違法(目的どおり利
用できない)であるが、埋立免許自体は適法であるなどということはありえない。
免許の当否は、目的との関連で判断されるべきものである。
問題は埋立地利用によつて権利利益を害される者に、どの段階で争う資格を認める
のが必要かつ適当かということである。
第三、本件免許の違法事由は、これまで詳しく述べたが、本案である札幌地方裁判
所昭和四八年(行ウ)第八号事件における抗告人(原告)らの第一、第二準備書面
で整理要約して主張した。
抗告理由補充書 (三)
第一、海水汚濁防止対策の欠陥
一 ホイルカツター式ポンプしゆんせつ船によるしゆんせつ
参加人が同方式によるしゆんせつが海水汚濁を少なくする例としてあげる豊浦漁港
での調査(疎丙第二九号証)は調査主体が汚濁防止義務を負う当の施工業者である
点で、調査結果をそのまま信頼できない。
二 海水汚濁防止シート
参加人は、シートを改良したというが、抗告人らが本案事件での現場検証(昭和四
九年六月一日実施)に参加して見分したところでは、シートは改良前のものと原
理、構造が基本的に同じであり、従前くわしく述べたとおり汚濁防止の効果はな
い。シート下端全長にわたり取り付けるという浮き上り防止用の鎖にしても、海中
では浮力がつくから、錘としての効果は小さく、かつ上部のフロート部分が強化さ
れただけ潮流の力がシート下部に作用し、シート下端と海底のすぎ間から海水が出
入りする。抗告人ら漁民の経験では、この海域に設置した目のあらい網を固定する
錘でさえ、網に加わる潮流の力で、海底を移動することがある。前記現場検証の
際、指示説明を担当した参加人の職員も、シート下端と海底との間の海水の出入り
を否定しなかつた。
参加人のしたシートの改良なるものはしよせんその場しのぎの場当り的対策に過ぎ
ず、これを是認した被告にも確たる根拠は何もない。参加人および被告が絶対安全
と称していた旧シートが何故破損したのか。(天災だとの弁解は、事前調査の不十
分さを自白している。)その原因の徹底的究明(海況調査を含む)がなされて、は
じめて的確な対策が可能となる。このような調査、究明をしないで、単にシートの
材質やワイヤーを強化したからといつてシートが完全なものになる筈がない。(原
理的に、このようなシートは汚濁防止に効果はないが、その点を別にしても、強化
したシートの材質やワイヤーで絶対破損しないとの保障は全くない。)
三 排水浄化設備
参加人は新たに排水浄化設備を設け、しゆんせつ海水の濁りを除去して排水する計
画である、という。その排水浄化設備は、現に青函トンネル等の工事で稼動中のも
のと同一機能を有し、排水中の浮遊懸濁物質量は七ないし二七町であるとし証拠と
して業者作成の設計書(疎丙第三二号証)と青函海底トンネル調査坑工事に伴う津
軽海狭西口付近漁業影響調査報告の抜粋(疎丙第三三号証)をあげている。しか
し、右疎丙第三二号証は参加人の注文で本件排水浄化設備の設計施工を請負つた業
者の作成した資料である点で客観性に疑問があるし、故障の場合の対策(予備設備
を設けるか)など不明で、本案で詳しく審査しなければ性能を吟味できない。
疎丙第三三三号証はトンネル工事によるものだけに原水の性質懸濁濃度が、本件し
ゆんせつ海水と違つており、単純には比較できない。したがつて、参加人が設置を
予定している排水浄化設備については、検討に耐えうる十分な稼動実績があるとは
認められない。仮りに、排水浄化設備で排水の懸濁濃度が二〇ないし四〇冊程度と
なつたとしても、それで漁業になんらの影響を及ぼさないという保障はないのであ
る。しかも本件においてはこのしゆんせつ海水の排水中の汚濁としゆんせつ場所
(海底)からの汚濁がプラスされる。
第二、被害の発生
一 エントモ岬は北西流(北西へ向う潮流)に対する自然の防波堤の役割を果して
きた。ところが、東護岸ができたためにエントモ岬の防波堤の作用が失われ、かつ
東護岸の返し波の発生により、強い北西流がエントモ岬以西の有珠漁協の養殖漁場
に脅威を与えるようになつた。現に、昭和四九年四月二二日の時化の際の北西流に
より、エントモ岬沖の有珠漁協組合員(有珠抗告人らを含む)の養殖施設が破損し
たり、何十メートルも流されるなどの被害を受けた。この程度の時化はこれまで
も、たびたびあつたが、養殖施設が破損したりしたことはなかつた。
二 埋立の直接の被害ではないが、本件発電所の本館建設工事に伴い、本年一月こ
ろから長和地区の地下水が枯かつし、井戸水が枯れる等の被害が出た。これも、被
告および参加人の事前調査の不十分さを証明する。
第三、埋立立地の誤り
一 長和地先の海域はもともと港湾築造および埋立に不適な場所である。この海域
は潮の流れが強く、また流れも複雑で、自然の海岸を人工的に変えたり防波堤を築
造したりすれば、周囲の海岸および海底に変化(浸触、堆積)を来すからである。
明治以来、この海域には港がつくられたことはない。漁民は長年の体験で知つてい
る。
被告や参加人は本件埋立をきめるにあたり漁民の経験や浜の慣行を全く調査してい
ない。簡単な流向観測や実験室内での模型実験ぐらいでは海の実相を把握できるも
のではない。
現に、本件埋立現場から東方約五キロの伊達市西浜海岸に五年位前から修築工事中
の伊達漁港では潮流の変化で工事開始後しだいに砂浜が削り取られ約二〇〇メート
ルの防波堤ができた現在四〇メートルも海岸線が後退した事実がある。
二 昭和四八年一〇月末で工事を中止していた本件東護岸自体が全体として沈降し
ている。被告参加人らは本件埋立海域の地質調査をしていない。
三 本件しゆんせつ埋立海域には、し尿処理場の廃水によるヘドロが堆積してお
り、これがしゆんせつにより広範囲に拡散される。
四 噴火湾は、近年汚染が進み、夏季には赤潮が発生する現状である。噴火湾での
新たな汚染源の立地は認めるべきではない。
第四、被害の範囲について
原決定は取水、温排水による被害および発電所操業による大気汚染の被害は、本件
埋立による直接の損害とはいえないとしてこれを判断しないが、そのように狭く解
釈すべき理由はない。
大分地裁昭和四六年七月二〇日判決(判例時報六三八号三六頁)は改正前の公有水
面埋立法四条二号の「其ノ埋立ニ因リテ生スル利益ノ程度カ損害ノ程度ヲ著シク超
過スルトキ」の意義に関し、正当に次のように解釈している。
「免許を受けた者が一般私企業の場合、造成された埋立地の価値や土地に建設され
る工場のもたらす経済的利益と埋立により蒙る権利者の損害を単に計数的に比較検
討するだけではなく、工場建設がその地方住民の生活環境におよぼすもろもろのマ
イナス面の影響の有無程度をも検討すると共に、他面埋立により蒙る権利者の直
接、間接の損害の実態を正確に把握し、国土の総合利用、国民経済上の見地からし
て埋立により生ずる利益の程度が既存権利の消滅その他埋立により生ずる損害の程
度を著しく超過することが何人の目から見ても客観的に明瞭であり、既存の権利を
消滅させ、又は損害を生じさせてもやむをえないことが肯認される場合に限る」と
し、工場建設、操業、原料製品運搬のもたらす大気汚染、海水汚濁等による生活環
境に与えるマイナス面の影響をも考慮しているのである。本件埋立てによる被害の
範囲についても、右と同様に解釈すべきである。
抗告理由補充書 (四)
第一 海の濁りと被害の発生
一 有珠漁協の漁場は、有珠岳の噴火によつて流れ込んだ溶岩が岩礁を形成し、こ
れに天然のコンブやワカメ等の海草(他の魚や具類の餌にもなる)が付いて藻場と
なり、また漁場に流れ込む河川がないため、海水の透明度が良いとの自然条件を生
かして、のぞき箱で海底をのぞいてヤスで獲物をとる突磯漁業という特色ある漁法
が広く行われている。漁場は、沖出し一、二〇〇メートルまで、水深一七メートル
以浅の部分である。突磯漁業による漁獲高は全漁獲高の六割を占める。
二 ところが、昭和四九年に入つてからは、海が広範囲に濁つているため有珠抗告
人らの突磯漁業の出漁日数は、従前の五割以下(ウニ漁では一割)に減少した。海
が濁つた原因は、北電の本件埋立工事および本館工事に起因する。すなわち
1 昭和四八年七月から一〇月未まで行われた東護岸捨石工事により埋立工事海域
と周辺に土砂が堆積した(洗石などはほとんど実施していない。最近始めた沈澱池
の区画をつくるための捨石工事でも、洗石は全くしていない。)
2 本館基礎工事に伴い、汲み上げられた大量(一日約七〇〇〇トン)の地下水
(淡水)が、この海域に排出されている。
3 東護岸ができたため、従前、北西流(有珠に向う流れ)に対して、自然の防波
堤の役割を果してきたエントモ岬の機能が失われ、長流用からの淡水の汚濁水が北
西流にのつて直接エントモ岬西側の有珠の漁場に流入するようになつた。これまで
も長流川の汚濁水が有珠漁場に流入したことはあるが、その濁りは数日で消え、本
年のように何日も続くことはなかつた。海底は、エントモ岬などの自然の地形を生
かし、それに適した漁法を行つてきた。本件埋立にともなう東西の護岸の築造は、
エントモ岬の消滅と同じ結果をもたらす。
三 海の濁りは、突磯漁業に影響を与えるだけではない。ワカメの種糸やホタテ養
殖施設の網に泥がつき、ワカメの種子やホタテ稚貝の付差率が本年は、とくに悪く
なつた。しかも泥のつき方が例年になく下(東側、つまり本件工事現場方向)の網
に目立つて多い。これは、下潮(有珠へ向う流れ)が多いことによるだけでなく、
海の泥が本件工事に起因していることを示している。漁民とくに有珠抗告人らにと
つては、海の濁り自体が被害なのである。
第二 シート設置直後からの汚濁および赤潮の発生
一 北電は、本年七月三日に本件埋立工事海域に汚濁防止シートを張りめぐらし
た。その直後からシート内の海水は赤褐色に濁り、現在に至る二〇日間以上も消え
ない。
濁りは、工事海域の海底に堆積している微細な土砂と異常発生したプランクトン
(赤潮)によるものと考えられる。本件工事海域には、し尿処理場の排水に含まれ
る窒素やリンなどの栄養塩が多く赤潮の発生の素地はあつたのであるが、そこにシ
ートを張つて表層海水を停滞させかつ海底のヘドロや土砂(長期間沈降しないとこ
ろからみて、ごく微細な土砂である)が混合し、海水の夏期の温度上昇と相まつ
て、赤潮現象をひき起こしたと思われる。
本年七月五日、抗告人と代理人らが現場へ赴き見分したときは、赤褐色の濁水がシ
ートの上部および下部からシート外に流れ、二筋の帯状を成して北西流にのりエン
トモ岬ををこえて有珠漁場に流入していた。
この濁りにより、シート内の東護岸や岩に生育していた天然のコンブはドロドロに
くさつた。
二 この度の濁りは、北電がシートを張りめぐらした段階で発生した。今後、北電
がしゆんせつ工事を始めれば、もつとひどい汚濁と赤潮の発生は確実である。しゆ
んせつ工事の予定時期は、海がひかく的穏やかな夏期である点で工事自体に好都合
かもしれないが、ワカメの種子やホタテの稚貝が育つ時期に当り、海水の温度が上
昇する時期であり、北西流が一年で最も卓越する時期である点で漁業者とくに有珠
抗告人らにとつては、最も悪い時期である。
三 しゆんせつ後、シートを取り外したとき、シート内海底にたまつた土砂(大部
分がシートの下端から流出するが)は、どうなるか。北電はこれを漁業に影響を与
えない方法で処理するとの計画は示していない。
第三 即時工事中止の必要性
北電は漁民らの理にかなつた疑問に耳をかさず工事中止の要求に対しても汚濁の因
果関係が判明しないなどと称して工事を強行している。
本件執行停止の申立をしてからすでに満一年、原決定が出されてから半年も経過し
た。北電は、本年七月末から八月上旬にも、しゆんせつ工事開始を予定している。
早急に原決定を取消し、執行停止の裁判をされるよう求める。
抗告理由補充書 (五)
一、シートの破損
北電が昭和四九年七月三日本件埋立工事海域に海水汚濁防止シートを張りめぐらし
た直後から、シート内海域が汚濁し、赤潮が発生した。有珠抗告人らの要請によ
り、政府調査団が同月二六日現地調査をした。その際、舟の上から海中に張つてあ
るシートを見分したところ、三〇メートル位の長さの間だけで、シートの下部が五
カ所も二-三メートルの大きさで破れているのが判明した。
(甲第一三七号証一枚目裏に七月一九日とあるのは、七月二六日の誤記である。)
シートの全長を調べれば、さらに多くの破損個所が発見されるだろう。
二、事前調査の不備
抗告理由補充書(四)で述べた海水の汚濁、赤潮の発生および昭和四八年一〇月と
今回のシートの破損は、相手方および北電の事前調査(環境影響事前評価=環境ア
セスメント)の不備を証明する。本件埋立免許は、すでにこの点だけで取消を免れ
ない。
三、免許条件の違反
相手方の本件埋立免許書(疏乙第四号証)の八項は、「工事中は船舶の運航、停け
いその他公益上及び公安上の障害を起こさないよう適当な処置をするものとす
る。」との条件を定めている。
従前述べた本件埋立工事による海水汚濁、赤潮発生により有珠漁協の漁民らへ漁業
被害を与えたことは「公益上の障害」を発生させたことに該当し、北電は本件埋立
免許条件に違反しているというべきである。
四、相手方の怠慢
相手方は、本件埋立免許と同時に北海道沿岸水域の工事取締条例により、北電に対
し本件工事施行を許可した(疏乙第九号証)。右工事許可書八項には、公益上必要
があると認めたときは、相手方は北電に対し許可の取消、工事の中止、設計工法の
変更等の処分をすることができる旨定められている。前述の漁業被害の発生は、正
に「公益上必要がある。」場合であるから、相手方は工事の中止等必要な処分をす
る責務があるのにこれを怠つている。裁判所による迅速な執行停止が必要なゆえん
である。
有珠漁協は、前記条例(疏乙第七号証)第五条にいう利害関係者であるのに、本件
工事許可はその事前の承諾をえていない違法がある。
抗告理由補充書 (六)
一、排水浄化設備について
北電の設置する排水浄化設備は、排水中の浮遊懸濁物質の除去には、ある程度効果
があるかもしれないが、排水中の窒素やリンなどの栄養塩類の除去には効果がな
い。本件工事海域の海水および海底にはし尿処理場の排水による栄養塩類が多量に
浮遊、蓄積している。しゆんせつによつて海底をかく乱すれは、栄養塩類が浮上す
るが、排水浄化設備はこれに対してなんらの効果もなく、赤潮発生の原因となる。
二、相手方は、昭和四九年七月四日の赤潮発生以後も、北電に対してなんら効果的
な対策を指導せず、シート内海水は、汚濁の度を強めている。北電は、同年八月初
め、し尿処理場の排水口をシート東側に移す工事をしたが、効果はない。
いぜんシートとシートの継ぎ目およびシート下端と海底の間にはすき間がある。
(甲第一四七号証の一-七)
抗告理由補充書 (七)
一 シートの破損について
従前くり返し述べたとおり、汚濁防止シートは原理的、構造的に汚濁水の流出防止
に効果がなく、風や潮流に耐える強度もない。本年九月一日、エントモ岬西方約一
キロの海岸に本件シートの補助ブイ二個が漂着し、同月一六日本件シートのフロー
ト二個がアルトリル岬沖に流れていた。また本年八月八日から九月一四日までの
間、アルトリ岬東側の海岸に本件シートのラツキングロープが合計四五本も流れつ
いた。(甲第一六一ないし一六三号証および甲第一六六号証の写真12~20)こ
のことは、この海域の潮流は北西流(伊達から有珠へ向う流れ)が卓越しているこ
とを示すとともに、シートが各所で破損していることを物語る。
二 本件工事による海水汚濁について
本件工事海域の海底には、東護岸工事、西防波堤工事(洗石を全然しない)、しゆ
んせつ工事などによつて生じた泥と本年七月五日以降シート内に発生した赤潮のブ
ランクトンの死がいが堆積している。海が平穏なときは泥は沈でんしていて海水は
比較的すんで見えるが、海が荒れると(南東の風で潮が北西流)、海底から泥がま
い上り、汚濁水がシートのすき間、破損した個所およびシート下端と海底のすき間
から流出し、有珠漁協の海域へ流れ込む。このため、本年の有珠漁協における突磯
漁業の出漁日数および水揚高が著しく減少した。(甲第一五一ないし一五五号証)
相手方のした本件海域の水質測定結果、とくに疎乙第一四六、一四七号証は、測定
日がことさら海の穏やかな潮流が南西流の日に限かれており、しかも採水がほとん
ど表層水だけである点で、信用に値しない。(なお甲一六六号証の写真21、22
参照)汚濁は北電がしゆんせつを開始した本件八月末から一層ひどくなつた。
三 ホタテ稚貝の死滅について
本年五月下旬から六月上旬にかけてエントモ岬とアルトリ岬の間のややアルトリ岬
よりの沖合約六〇〇メートルの海域に設置した抗告人A、同B、同Cの各ホタテ採
苗器は、同年八月中旬から下旬に引き上げた際、採苗器に収納してあるフイルムに
ドロがついて、ホタテ稚貝が窒息死していた。抗告人Aのものは、全滅、後二者の
採苗数は、昨年に比べ、一割ないし一割五分にとどまつた。ホタテ稚貝の採取方法
は、いくつかあるが、右方法は約三〇センチ四方の網(網の目は一分五厘)の中に
フイルムを収納し、海中につるしておき、フイルムに天然のホタテ稚貝を付着させ
て採取する方式であり、この採苗方法や設置時期などは水産改良普及所の指導を受
けている。(フイルムには泥も付着しやすい)これら採苗器の網には、い貝(しゆ
り貝ともいう黒い雑貝)が例年になく多数付着していたが、これも海水の汚濁に起
因する。
相手方は、右ホタテ採苗器の設置場所が本件工事海域からはるかに離れた場所であ
るというが、汚濁防止シートのフロート、ブイ、ローブなどがこの海域まで流れて
来ている事実からみて、本件工事によるドロが常時この海域に流れ込んでいること
は明らかである。
また、相手方は、右施設よりもエントモ岬よりに設置されている施設に異常が発生
していないと主張するが、従前毎年エントモ岬からアルトリ岬の間の海域には、ワ
カメ養殖施設(ワカメ種糸を海中につり下げる)を設置してきたが、本件工事によ
る汚濁水にさらされるのを恐れて、本年はこの海域への設置を避けたのが実情であ
る。(甲第一六一号証)
抗告人らは、浅海漁業(突磯養殖)によつて生計を立てており海の濁りは致命的で
ある。突磯や養殖がだめになつたからといつて、にわかに漁法を変えることができ
るものではない。
そもそも、相手方および北電は、本件工事にともなう海の濁りによる漁業被害につ
いては全く事前調査をしていない。北電のした模型実験なるもの、海の濁りによる
漁業への影響に考慮を払つていない。
四 しゆんせつ埋立工事について
北電は、しゆんせつ埋立工事の期間について、はじめ昭和四九年四月から同年一〇
月末までと主張し(昭和四八年一一月八日意見書)、次いで昭和四九年六月中旬か
ら同年一〇月末までとし(昭和四九年四月六日補充意見書)、現在では、同年八月
末から同年一〇月末までと述べている(疎丙第四二号証)。北電は、能率的に工事
をするというが、能率的にすることは、当初から考えていない筈はなかろう。工事
予定期間の極端な短縮は、手抜き、たれ流しを意味するといわざるをえない。しゆ
んせつポンプ船および排水浄化設備の稼動能力とのかね合いで、右予定期間内に、
終了することを相手方および北電は改めて、示すべきである。
北電は、本年八月末からしゆんせつ工事を急ピツチで始めており、ごく最近から、
しゆんせつ土砂だけでなく、他の陸上からの土砂をも搬入し、ちんでん池(埋立予
定地)に投入している。これは、工事方法の重大な変更であるにもかかわらず、関
係漁民および相手方になんらの事前連絡もない。北電は、しゆんせつと切離して埋
立だけを急ぎ完成させ、執行停止事件ひいては本裁判をも無意味に帰せしめること
を意図している。(西防波堤工事も短期間に工事をしたが、この種の工事は時間を
かけて行わないと、安定せず、後日補修をくり返さざるをえなくなり、そのつど漁
業被害をひき起す。)
御庁において、直ちに原決定を取消して執行停止の裁判をされるよう重ねて要求す
る。
以上
抗告理由補充書 (八)
一 有珠漁協は、昭和四九年四月二二日の総会で、従前の伊達火力絶対反対の態度
を修正し、その後北電との間で、協定書(疎丙第三九号証)を取り交わした。しか
し、右総会で態度修正に賛成した組合員数は約一〇〇名で、組合員総数一八〇名の
過半数ではあるが、三分の二以上の多数ではなく、かつ書面による同意もないから
(漁業法八条三項、五項)、右総会決議およびこれにもとすく右協定は有珠漁協の
漁業権に被害な受けること(漁業権の実質的内容的放棄)を受忍する効力をもつも
のではない。
二 北電は、本件埋立工事を急ピツチで強行し、本年一〇月末で埋立を終えると称
しているもようであるが、これは執行停止の裁判を無意味にすることを狙つたごま
かしの口実であり、従来の工程表等からみて、しゆんせつ、埋立、関連工事とも本
年一〇月末で完了することはありえない。相手方も北電と一体となり、裁判回避の
ために、工事未完成のまましゆん功認可を出すとすれば、その責任は重大である。
北電は、執行停止の裁判中にもかかわらず、あえて、工事を強行しているのである
から、裁判所は本件の判断に当つて、工事が相当程度進行したという実績に影響さ
れるべきではない。
最後に、直ちに執行停止の裁判をされるよう要望する。
(別紙) 当事者目録及び相手方、参加人の補充意見書(省略)

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