弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
一 被告は、原告に対し、一〇〇万円及びこれに対する平成二年一一月二一日から
支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、春日井市立北城小学校長名をもって、左記の陳謝文を縦横それぞれ一
メートルの白紙に墨書して、春日井市役所一階ロビー内掲示板及び春日井市立北城
小学校玄関壁面に一か月掲示せよ。

陳述文
 当職は、貴職員団体に対し、一九九〇年一〇月四日以来長期にわたって貴職員団
体の交渉要求を拒否してきたことをここに深く陳謝するとともに、今後かかる違法
行為を行わないことを誓約します。
年 月 日
春日井市立北城小学校
学校長A
春日井学校労働者組合御中
第二 事案の概要
 本件は、愛知県春日井市立小中学校の教職員を構成員とする職員団体である原告
が、春日井市立北城小学校の校長に対し、同小学校における勤務条件について、地
方公務員法(以下「地公法」という。)五五条に基づく交渉(以下「本交渉」とい
う。)を申し入れたところ、同校長がこれに応じなかったことを理由として、被告
に対し、国家賠償法一条に基づく損害賠償と謝罪広告を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 原告らについて
(一) 原告は、春日井市立小中学校の教職員を構成員として昭和六二年五月二三
日に結成された職員団体であり、地公法五二条及び五三条の要件を満たす登録団体
である。(原告代表者本人)
(二) 訴外B(以下「B」という。)は、昭和四九年四月愛知県教育委員会から
愛知県春日井市公立学校教員に任命された者であり、昭和六〇年四月から愛知県春
日井市立北城小学校(以下「北城小学校」という。)に補され現在に至っている。
 Bは、原告結成と同時に原告の組合員となり、平成元年五月から原告の書記長の
地位にある。(証人B)
2 被告らについて
(一) 訴外Aは、平成二年四月一日以降北城小学校の校長の地位にある(以下
「A校長」という。)。(争いがない。)
(二) A校長は、学校管理者として、勤務時間の割振り、休暇の承認、執務環境
の整備などに関し権限を与えられているほか、仮に学校長自身にその権限が認めら
れない事項であっても、教育行政につき教育委員会に報告し、その円滑かつ妥当な
運営を図る義務を負うものであるから、職員団体から勤務条件に関し適法な交渉の
申入れがあった場合には、その申入れに応ずべき地位に立つものである。(争いが
ない。)
3 予備交渉に至るまでの経過
(一) 原告は、Bの勤務校である北城小学校の勤務条件の改善を図るため、A校
長を相手として、左記の日時に交渉を実施してきた。(争いがない。)
平成二年六月二八日 午後四時から午後六時三〇分
同年七月五日 午後四時三〇分から午後七時
同月七日 午後四時から午後七時
同月一一日 午後五時三〇分から午後五時四五分
(二) 右各交渉における交渉内容は、左記の事項である。
(1) 「泊を伴う学校行事」の時間外勤務について
(2) 年次休暇の取得方法
(3) 研修旅費について
(4) 短縮授業中の研修について
(5) その他関連事項
 右交渉事項のうち、(2)、(4)及び(1)のうち当面する五学年のいわゆる
野外学習の勤務については交渉を終了した。(3)については交渉はなされたが結
論に達しなかった。(争いがない。)
(三) 平成二年九月二五日、北城小学校の校長室において、BはA校長に交渉を
申し入れた。
 A校長がその交渉内容を問い質したので、Bは「修学旅行の勤務に関することが
中心となる。」旨伝えたところ、A校長が「それは先生と話せばよい。」と答えた
ことから、Bは、「修学旅行も近づいているので都合のよい日を二、三日あげて欲
しい。組合の方で検討するので。」と話したが、A校長からは明確な返事はなく、
Bは、「とにかく交渉を申し入れましたよ。」と述べて校長室を出た。(争いがな
い。)
(四) 平成二年九月二七日になってもA校長からの返事がなかったことから、同
日午後四時三〇分ころ、BがA校長に問い質したところ、A校長は「交渉に応じる
かどうかわからない。」と答えた。
 これに対して、Bは、明朝返事を聞きたい旨伝えた。(争いがない。)
(五) 平成二年九月二八日、午前中にBが校長室を訪れると、A校長は、「先生
と話してから。」「交渉に応じるかどうかはわからない。」などと繰り返した。B
は授業時間が迫っていたため、後で来る旨告げて校長室を出た。
 同日昼過ぎ、Bが再び校長室を訪れた際、A校長は、「まだ迷っている。」「二
人で話せばよい。」と繰り返したことから、Bは、「交渉に応じる立場にあるのだ
から、可能な日時を示して欲しい。」と述べたところ、A校長は、「まず、予備交
渉をしてからでないと。」と答えた。そこで、Bは、修学旅行も迫っているので即
本交渉をして欲しい旨告げたが、A校長は予備交渉にこだわりつつ明言を避け、
「四時に来て欲しい。」と述べた。
 Bが同日午後四時に校長室を訪れた際、A校長との間で同年一〇月四日午後四時
三〇分から予備交渉を行うことで合意した。(争いがない。)
4 予備交渉の実施
(一) 平成二年一〇月四日午後四時三〇分から、北城小学校校長室において原告
と学校当局との間で予備交渉が行われた(以下「本件予備交渉」という。)。参加
者は、原告側が委員長等四名、学校側が校長と教頭であった。(争いがない。)
(二) 原告側から、交渉内容、参加者等を記した「予備交渉ー春学組案」を参加
者に配布されて予備交渉が開始され、まず、本交渉の場所を北城小学校校長室で行
うことを決定した。
 次に、交渉員数の話となったところ、A校長は、「交渉参加者は当局側である我
々が二名であるから、組合側も二名にして欲しい。そうしなければ交渉に応じるこ
とはできない。前回の交渉の時、圧力を感じた。」、「地方公務員法に「役員の中
から指名する者」とあるから、役員全員が参加しなくてもよいではないか。委員長
と書記長だけでいいではないか。」と述べた。
 これに対し、原告側は、組合役員に一般組合員を加えた合計六名の出席を要求
し、①前回の北城小校長交渉においても、我々が行った他校における交渉において
も、暴行、暴言により交渉を混乱させたことはないこと、②他の小中学校校長交渉
も同様の人数で実施し、特に反対されたこともないこと、③役員の中から誰が参加
するのかは、組合内部の問題であり、全員出席しても違法ではないこと、④地方公
務員法では、「役員以外の者を指名することができる」としており、役員以外も参
加することができること、⑤「圧力を感じる」ということで参加者を制限すること
は不当であることなどを述べた。
 これに対し、A校長は約二時間にわたって「圧力を感じる」、「人数もあらかじ
め取り決めることになっているから」などと繰り返したほか、しばらく沈黙を続け
ており、その間教頭から「六でだめなら四というのが歩み寄りではないか。」とい
う発言がなされたが、原告からは再びその不当性の主張がなされたことから、結局
A校長は「三名ではどうですか。」との提案をした。
 しかし、原告はこの提案を拒否したことから、A校長は、同日午後七時ころ、
「人数が一致しないので交渉に応じない。」と述べて席を立った。(証人A、原告
代表者本人及び弁論の全趣旨)
5 予備交渉以降
(一) 原告は、本件予備交渉以後、修学旅行も迫っていたことから、平成二年一
〇月八日、原告委員長CがA校長に予備交渉の継続を要求したが、A校長はこれに
応じようとしなかった。
 そこで、同委員長は、翌一〇月九日午前一〇時までに再考して返事をするようA
校長に申し入れた。(争いがない。)
(二) 平成二年一〇月九日午前一〇時までにA校長から何らの回答もなかったこ
とから、
原告は、同日、弁護士伊神喜弘を代理人として、A校長に対し、抗議を申し入れる
とともに直ちに予備交渉を開くことを求めた書面を送付した。
右書面では、連絡先を原告委員長としてA校長からの回答を待ったが、A校長から
の回答はなかった。(争いがない。)
(三) 平成二年一〇月一八日、原告委員長がA校長に再度確認の電話を入れた
が、A校長の予備交渉継続拒否の姿勢は変わらなかった。(争いがない。)
二 争点
1 原告の主張
(一) A校長の本交渉拒否
 前記の事実経過からすれば、A校長は、原告が同校長から出された原告側の本交
渉参加者数を二名又は三名とする旨の提案を受け入れないことを理由として、本件
予備交渉を一方的に中止し、本交渉を拒否していること(以下「本件交渉拒否」と
いう。)が明らかである。
(二) A校長の本件交渉拒否行為の違法性
(1) 地公法五五条の趣旨
 地公法五五条は、職員団体と地方公共団体の当局との交渉について定めていると
ころ、同条にいう交渉も、勤労者の団体交渉権の保障を定めた憲法二八条に由来す
るものである。
 したがって、地方公務員の交渉は団体協約締結権を伴わず、その手段たる争議権
を否定されてはいるが、団体の組織を背景として相手方と対等の立場に立って勤務
条件等の改善のため折衝することができることは私企業の労働組合の場合と何ら異
ならず、同条に基づく職員団体の交渉についても、労働法的な考慮の下に考察され
るべきである。
 そして、地公法五五条一項ないし一一項は、職員団体の交渉について定めている
が、これらの規定を形式的に理解し職員団体の交渉を不当に制限することがあって
はならない。
(2) 地公法五五条五項の解釈について
 団体交渉において、労働組合側の交渉員の員数と誰が交渉員となるかは、当該組
合の自主的決定に委ねるべきものであって、使用者が一方的に制限することは原則
として組合への団結自治の侵害・支配介入となるというべきであって、この法理は
地公法上の職員団体にあっても同様であり、公務員の団結体たる職員団体だからと
いって、この理を否定し、職員団体の自主的決定を制約すべき理由は存在しない。
 地公法五五条五項の規定は、交渉の手順を定めているだけであって、交渉人数に
ついて協議が成立しない場合に、地方公共団体の当局が交渉を拒否することを正当
化するものではない。
 したがって、交渉員数について協議が成立しないとき、交渉員数は職員団体の自
主的決定に委ねられるものであって、役員の一部である二名ないし三名のみに交渉
員数を制限することは、団結自治の侵害・支配介入として違法である。
(3) 本件交渉拒否行為の違法性
(ア) A校長は、本件予備交渉において、原告が六名の交渉員を提案しているの
に対し、これを二名ないし三名に制限し、これを原告が受け入れないことを理由と
して予備交渉自体を中止したが、これは実質的に何ら正当な理由なく本交渉を拒否
したものにほかならず、その違法性は顕著である。
 また、職員団体の役員は、労働組合法七条二号にいう労働者の代表者と解すべき
であって、その性格上当然全員が交渉員に含まれるべきものである。したがって、
交渉員数を原告の役員の一部である二名ないし三名のみに制限したA校長の提案
は、右の観点からも違法である。
(イ) 地方公共団体の当局が職員団体の自主的に決定した交渉員数に同意せず、
これを理由に本交渉を拒否することが違法とならない場合があり得るとしても、地
方公務員に労働基本権が保障されている趣旨に照らすと、その場合には、本交渉が
開かれなくともやむを得ないと考えられるだけの実体的理由及び手続的理由が存在
することが必要と考えるべきである。
 A校長が原告の交渉員数を二名ないし三名のみに制限する理由は、原告の交渉員
が五、六名で声を荒げたり、いろいろと発言したりして圧迫、圧力を感じたという
程度のものであって、本交渉が開かれなくともやむを得ないと考えられるだけの実
体的理由としては薄弱である。
 また、本件予備交渉において原告が二名ないし三名の交渉員数の提案を受け入れ
ないことを理由として、予備交渉そのものを中止し、原告からのその再開要求にも
応じないのは、交渉に応ずる誠実な態度とはいえない。
(ウ) A校長の本件交渉拒否行為は、本交渉の実現を回避するため、本件予備交
渉を決裂させることにより本交渉の開催を不可能にしようとする意図に基づいた行
為であり、交渉員数問題はそのための口実に過ぎない。これは地公法五五条一項の
定める団交応諾義務の不履行であって違法である。
(三) 原告の損害
 A校長の右違法行為は、原告の登録団体たる存在を否定する行為にほかならず、
原告の職員団体としての社会的評価又は存在価値を著しく低下させるものであっ
て、原告の名誉を毀損し、また原告の職員団体としての諸活動にも大きな障害を生
じさせた。
 これらは、金銭に見積れば、慰藉料として一〇〇万円を下らない。
 また、原告の職員団体としての社会的評価又は存在価値の低下と名誉の毀損は、
右慰藉料の支払だけで回復することは困難であり、右回復のために請求欄第二項記
載の陳謝文の掲示させることが相当である。
(四) 結論
 よって、原告は、被告に対し、国家賠償法一条に基づき、損害賠償として一〇〇
万円及びこれに対する本訴状送達の日である平成二年一一月二一日から支払ずみま
で民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払並びに請求欄記載の謝罪広告の掲
示を求める。
2 被告の主張
(一) 本交渉における交渉員数の取り決めは、本交渉をスムーズにかつ平静に行
うための一つの必要な条件であり、地公法五五条五項により許容されているもので
ある。
 A校長は、本件予備交渉に先立ち、原告との間で数回にわたり本交渉をもった
が、原告側は、ほとんど常に五、六名で交渉に臨み、数の力を背景にA校長を威
嚇、威圧する傾向がないではなく、A校長は、この本交渉において精神的、身体的
圧迫を受け、平静に話合いをすることが困難な事態を経験していたので、地公法の
前記規定に従い、本交渉が平静にスムーズに行われるようにと考えて、本件予備交
渉をもつこととした。
(二) A校長は、本件予備交渉において、本交渉の参加人数について、当初原告
側、当局側各二名、後に原告側三名、当局側二名の提案を行ったが、右提案は、原
告の組合員数が六名くらいと推認できること、交渉場所が小学校という職場である
こと、被告側の交渉員数が校長と教頭の二名であること、本交渉における議題の内
容、その他本件予備交渉における諸般の事情に照らし、常識的に見て極めて妥当な
提案であって、決して不当な提案ではない。
 これに対して、原告側があくまでも六名を主張して譲らなかったため、右人数の
取り決めについて合意するに至らず、本交渉へ進展しなかったものである。
 A校長には、本交渉を拒否する意図は全くなく、また客観的にも実質的に交渉を
拒否すると評価し得る言動も全くなかったものであるから、違法性は全くない。
第三 争点に対する判断
一 地公法五五条の趣旨
1 原告は、地公法五五条の定める職員団体と地方公共団体の当局との交渉は、勤
労者の団体交渉権の保障を定めた憲法二八条に由来するものであるから、同条に基
づく職員団体の交渉についても、労働法的な考慮の下に考察されるべきであると主
張する。
2 しかし、原告の右主張は採用することができない。
 なぜなら、そもそも地公法が労働組合法の適用を全面的に排除し(地公法五八条
一項)、争議行為等を禁止(同法三七条一項)したのは、①地方公務員は、地方公
共団体の住民全体の奉仕者として、実質的にはこれに対して労務提供義務を負うと
いう特殊な地位を有し、かつ、その労務の内容は、公務の遂行すなわち直接公共の
利益のための活動の一環をなすという公共的性質を有するものであって、地方公務
員が争議行為に及ぶことは、右のようなその地位の特殊性及び職務の公共性と相容
れず、また、そのために公務の停廃を生じ、地方住民全体ないしは国民全体の共同
利益に重大な影響を及ぼすか、又はそのおそれがあること、②地方公務員の給与、
勤務時間その他の勤務条件が、法律及び地方公共団体の議会の制定する条例によっ
て定められ(地公法二条、二四条六項)、また、その給与が地方公共団体の税収等
の財源によって賄われるところから、専ら当該地方公共団体における政治的、財政
的、社会的その他諸般の合理的な配慮によって決定されるべきものであることから
であって、このような場合には、私企業における労働者の場合のように団体交渉に
よる労働条件の決定という方式が当然には妥当せず、争議権も、団体交渉の裏付け
として本来の機能を発揮する余地に乏しいという理由に基づくものである(最高裁
判所昭和五一年五月二一日大法廷判決・刑集三〇巻五号一一八七頁)。
 それ故、憲法二八条の定める労働基本権の保障は地方公務員にも及ぶとはいえ、
それは地方公務員を含む地方住民全体ないしは国民全体の共同利益のためにこれと
調和するように制限されることもやむを得ないというべきであって、その結果とし
て、地公法五五条の定める職員団体と地方公共団体の当局との交渉には団体協約を
締結する権利を含まないものとされ(地公法五五条二項)、右交渉拒否に対する不
当労働行為制度による担保も存在しないものとされているのである(地公法五八条
一項)。
 したがって、地公法五五条の定める職員団体と地方公共団体の当局との交渉は、
私企業における労働者が有する団体交渉権とは実質的に異なっているといわざるを
得ないのであって、同条の解釈にあたっても、労働組合法の解釈をそのまま持ち込
む余地はなく、右のような制約の存在する交渉にふさわしい解釈がなされれば足り
るというべきである。
二 地公法五五条五項の解釈について
1 原告は、地公法五五条五項の解釈として、交渉員数について協議が成立しない
とき、交渉員数は職員団体の自主的決定に委ねられるものであって、役員の一部で
ある二名ないし三名のみに交渉員数を制限することは、団結自治の侵害・支配介入
として違法であると主張する。
2 しかし、原告の右主張は採用することができない。
 まず、地公法五五条の解釈にあたって、労働組合法の解釈をそのまま持ち込むこ
とができないことは前記のとおりであるから、労働組合法の解釈として原告主張の
考え方を採用できるかどうかについてはひとまずおき、既に述べたように同法の定
める団体交渉権とは実質的に異なったものとして規定されている地公法五五条の解
釈に労働組合法の解釈をそのまま当てはめられるものではない。
 そして、同条五項の解釈としては、同項が交渉員数の取り決め自体を予備交渉の
目的と規定していることからすると、当局側がその予備交渉の過程で職員団体側の
交渉員数を制限するよう申し入れることを肯定していることは明らかであるし、そ
の結果予備交渉がまとまらなかったとき、これを理由として本交渉を拒否すること
が原則として可能であることも一般論として承認しているものと解するのが相当で
ある。
 そもそも、団体交渉権というのは、労働者が団結した団体を交渉主体としてその
代表者を通じて労働条件について使用者と交渉する権利であって、多衆が立会して
交渉する権利ではないというべきであるから、右団体の代表者が当該団体を代表し
てその団体の意思を使用者に伝達する機会が保障されれば団体交渉の必要最小限の
要件は満たされると考えられる。
 したがって、当局側が、予備交渉の過程で、職員団体側の出席人数を減らすよう
求めたとしても、原則として団結自治の侵害・支配介入として違法となる余地はな
いというべきである。
三 本件交渉拒否行為の違法性について
1 原告は、職員団体の役員は労働組合法七条二号にいう労働者の代表者と解すべ
きであって、その性格上当然全員が交渉員に含まれるべきものであると主張する
が、地公法五五条五項は、交渉の当事者を「職員団体がその役員の中から指名する
者」と規定しており、職員団体の役員全員が同条の定める交渉に出席し得る資格を
有することは明らかであるが、現実の交渉員をその役員の一部に制限することを禁
止しているとは到底解し難いから、原告の右主張は採用することはできない。
2 原告は、A校長の本件交渉拒否行為は、実体的にも手続的にも違法不当なもの
である旨主張するので、本件における原告とA校長との交渉経過に即して検討す
る。
(一) 前記認定事実によれば、A校長は、原告が同校長からなされた原告側の本
交渉参加者人数を二名又は三名とする旨の提案を受け入れないことを理由として、
本件予備交渉を一方的に中止するとともに、予備交渉の決裂を理由として本交渉の
開催を拒否していること(本件交渉拒否)が認められる。
 しかし、既に述べたように、地公法五五条の解釈として、当局側が予備校渉の過
程で職員団体側の交渉員数を制限するよう申し入れることは許容されており、その
結果、予備交渉が交渉員数の点でまとまらなかったことを理由として本交渉に応ず
ることを拒否することは、原則として適法であると解されるから、A校長の本件交
渉拒否行為についても、原則としてこれを違法と断ずることはできないというべき
である。
(二) もっとも、職員団体の交渉について定めている地公法五五条一項ないし一
一項の規定を形式的に理解し、職員団体の交渉を不当に制限することがあってはな
らないことはもちろんであるから、予備交渉がまとまらなかった理由が、当局側が
非常識ないし著しく不当な提案をしてこれに固執したことにある場合、又は、当局
側に本交渉に応ずる意思が当初から全くなく、本交渉を行わないことの口実とする
ため、予備交渉が決裂することを目的として当局側が故意に妥協を拒み自論に固執
した場合には、右原則に対する例外として、予備交渉の決裂を理由として本交渉に
応ずることを拒否することが同法五五条に反する違法なものとなる余地があると解
するのが相当である。
 これを本件についてみるに、前記認定の事実及び成立に争いのない甲第一、二号
証、第五号証、証人A、同B、原告代表者本人の各供述によれば、本件予備交渉に
おいて、A校長は原告側に、当初交渉参加員数を、原告側、当局側を同数の二名と
するよう求めたものの、その後話合いの過程で原告側参加員数を三名とすることに
譲歩したこと、これに対し原告の当時の組合員数は六名を大幅に超える人数ではな
かったことが推測されるところ、原告側は当初から一貫して組合役員に一般組合員
を加えた六名の者の交渉参加を要求していたこと、北城小学校は教職員が一九名の
比較的小規模の学校であるが、原告組合員のうち北城小学校に勤務する教諭は右B
書記長一人であったこと、ところで本交渉の当面の中心議題は修学旅行の回復措置
の問題であったが、これらの問題につきA校長と交渉をもつに当たり、原告側に六
名の者の参加を実際に必要とする具体的事情は窺えないこと、一方、A校長は、北
城小学校に新任の校長として着任以来、前記のとおり原告との本交渉に応じてきて
いたのであるが、その間の交渉参加者は、当局側が二名に対し、原告側は五ないし
六名の多数であり、しかも原告側参加者の役員と一般組合員との構成比率もよく分
からない状態であったこと、交渉前に、原告から、「校長交渉に傍聴を希望する方
は組合まで連絡を」と記載された、交渉に多衆の教員の参加を呼びかける趣旨のビ
ラが配布されたことがあったこと、A校長は、こうした原告との交渉に疲労感とと
もに、原告側出席人数が学校側の二ないし三倍であることに強い圧迫感を覚えてい
たことが認められる。
 以上認定の本件交渉に至る経緯、状況に照らすと、A校長の参加人員に関する右
提案をもって、非常識ないし著しく不当なものと評価することはできないし、ほか
にこれが原告の交渉権を不当に制限するものであることを認めるに足りる証拠はな
い。
 また、A校長が原告からの予備交渉の再開要求に応じなかった点についても、成
立に争いのない甲第三号証の一並びに原告代表者本人及び証人Bの各供述によれ
ば、原告は、A校長に対して予備交渉の再開を求めるに際し、一方的にA校長の提
案の不当性を主張するのみで原告側に妥協の余地があることを伝えていないことが
認められるから、A校長において、予備交渉を再開しても妥結の余地がないものと
判断してその再開に応じなかったこともやむを得ないものというべきである。
(三) 更に、原告は、A校長の本件交渉拒否行為は、本交渉の実現を回避するた
め、本件予備交渉を決裂させることにより本交渉の開催を不可能にしようとする意
図に基づいた行為であり、交渉員数問題はそのための口実に過ぎないと主張する
が、証人Aは右意図の存在を否定しているのみならず、同証人及び原告代表者本人
の各供述によれば、平成三年六月三〇日、原告からの申入れに応じて行われた予備
交渉において、A校長と原告との間に本交渉の参加者を当局側二名、原告側三名と
する旨の合意が成立し、同年七月一九日、右合意に基づいて現実に地公法五五条に
基づく本交渉が行われていることに照らしても、A校長に本交渉に応ずる意思が当
初から全くなく、本交渉を行わないことの口実とするため、予備交渉が決裂するこ
とを目的として当局側が故意に妥協を拒み自論に固執したことを認めるには足りな
いというべきである。
 したがって、A校長の本件交渉拒否行為が前記例外に該当することは認め難い。
3 そうすると、A校長の本件交渉拒否行為には、原告の主張するような違法性は
存在しないといわざるを得ないから、右行為の違法をいう原告の主張は理由がな
い。
四 結論
 以上のとおりであるから、原告の請求はいずれも理由がないのでこれを失当とし
て棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文
のとおり判決する。

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