弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     控訴費用は控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人等の請求を棄却する。訴訟費用は第
一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴人等代理人は控
訴棄却の判決を求めた。
 当事者双方の事実上並びに法律上の主張は、控訴代理人において、労働基準法第
八十六条第二項の規定によると、災害補償に関する民事訴訟を提起するには、労働
者災害補償審査会の審査又は仲裁を経なければならないことゝなつているから、か
ゝる手続を経ないで提起された本訴は不適法である、なお被控訴人等主張の審査に
対し、その主張の如く今日に至るまで右審査会に不服を申立てていないことは認め
ると述べ、被控訴人等代理人において、本訴の提起に当つて控訴人主張の如き手続
を経ていないことは認めるが、本件災事補償については、原判決事実摘示の如く、
既に所轄労働基準監督署長の審査を経たものであるところ、被控訴人等としては固
より該査定に異議はなく、控訴人も今日に至るまで該審査の結果に対し不服ありと
して前記審査会に審査又は仲裁を請求したことはないから、かゝる場合において
は、右審査会の審査若くけ仲裁を経ずして、直ちに災害補償に関する民事訴訟を提
起し得るものであつて、本訴は固より適法であると述べた外は、すべて原判決事実
摘示と同一であるから、これを引用する。
 当事者双方の証拠の提出、援用並びに認否は原判決事実摘示の通りであるから、
これを引用する。
         理    由
 一、 先ず本訴の適否について考察する。
 (一) 本訴は被控訴人等が使用者たる控訴人に対し、労働基準法第七十九条及
び第八十条に基く遺族補償並びに葬祭料の支払を請求するものである
 (二) 労働基準法第八十六条第二項には、「労働基準法による災害補償に関す
る事項について、民事訴訟を提起するには、労働者災実補償審査会(以下審査会と
略称する)の審査又は仲裁を経なければならない。」旨が規定されている。
 (三) しかるところ本件については、昭和二十四年八月十三日所轄長岡労働基
準監督署長の審査によつて、被控訴人等の三男Aの死亡は業務上の死亡に該当する
ものと認定せられ、使用者たる控訴人は被控訴人等に対し遺族補償金十五万円並び
に葬祭料金九千円を支払うべきものとする査定があつたが、これに対しては、被控
訴人等は固より異議なく控訴人も亦本件口頭弁論の終結当時に至るまで審査会に不
服を申立てなかつたので、結局本訴は審査会の審査又は仲裁を経ないで提起された
ものであることは、当事者間に争いがない。
 (四) よつて前記労働基準法第八十六条第二項の規定の趣旨は、叙上の如く、
所轄労働基準監督署長の審査に対し、使用者から審査会に不服申立のなかつえ場合
においても、なおかつ、何等かの方法によつて、審査会の審査又は仲裁を経なけれ
ば、災害補償に関する民事訴訟を提起し得ないものと、解すべきや否やについて次
に考える。
 (五) 労働基準法第八十五条及び第八十六条の規定によると、労働者の災害補
償について、その業務上災害の認定、補償金額の決定その他補償の実施に関し、労
使双方の間に紛争のある場合においては、当事者はその権益の保護を図るため、直
ちに民事訴訟を提起することは、暫くこれを避け、先ず監督行政官庁たる所轄労働
基準監督署長の審査又は事件の仲裁を受け、これに対して不服のある者は、更に審
査会に審査又は仲裁を請求し得るのであつて、該審査又は仲裁によつて当事者間で
自発的に紛争を解決した場合の外、当事者は審査会の審査又は仲裁を経た後におい
て、始めて災害補償についての民事訴訟を提起し得るものとせられている。
 かゝる規定の設けられた趣旨は、災害補償は、災害の犠牲となつた労働者若くは
その遺族を救済せんとする制度の目的からみて、その実施に急を要するものがある
ばかりでなく、その紛争の解決についても、常に労使関係の実体に接触して専間的
知識を具えている関係行政機関をしてこれに当らしめることが望ましいところか
ら、災害補償に関する紛争については、当事者をして直ちに民事訴訟によつてその
権益の保護を図らしめることを暫く避け、先ず関係行政機関をして、その審査又は
仲裁をなさしめ以て紛争の迅速適正なる解決を図らしめたものに外ならない。
 (六) しかるところ労働基準法第八十六条第一項には、所轄労働基準監督署長
の審査及び仲裁に不服ある者は、審査会の審査又は仲裁を請求し得る旨を規定して
いるのであつて、仮りに使用者が労働基準監督署長の審査又は仲裁に不満であつて
も、これに対して審査会に不服を申立て、その審査又は仲裁を請求しない限り、審
査会自ら審査又は仲裁の手続を開始するに由なく、又労働者が労働基準監督署長の
審査若くは仲裁に不服のない場合においては、労働者が自ら進んで審査会に審査又
は仲裁を更に請求し得べきものでないことは、前示第八十六条第一項の規定に徴し
て明白であつて、かゝる場合においてもなおかつ前示第八十六条第=項の要件を充
足せしめるためのみに、異議なき労働者をして更に審査会に審査又は仲裁を請求せ
しめんとすることについては、法令上の根拠を欠くものであるばかりでなく、かく
ては屋上屋を架するの弊に陥り、労働基準法が労働者の災害補償を迅速に実施せん
とする目的にも背馳する結果となるものといわなければならない。
 (七) 叙上の如く解すると、労働者としては労働基準監督署長の審査又は仲裁
に不服はなく、しかも使用者からも該審査若くは仲裁に対して審査会に敢て不服の
申立をなさない場合においては、審査会が審査又は仲裁の手続を開始するに由な
く、待つて前記第八十六条第二項において民事訴訟を提起するための前提要件とし
て要請している審査会の審査又は仲裁を経べき機会は存しないのであるから、かゝ
る場合においても災害補償に関する民事訴訟を提起するには、審査会の審査若くは
仲裁を経なければならないとすることは不合理である。
 (八) しかのみならず労働基準監督署長の審査又は仲裁に対し使用者から不服
の申立がなく、従つて審査会の審査又は仲裁を経なかつた場合と雖も、災害補償に
関する紛争について、既に労働基準監督署長の審査若くは仲裁があつた以上は、労
働基準法が、当該紛争の解決に当つて、民事訴訟を提起するに先だち、先ず関係行
政機関をして、紛争の適正かつ迅速なる解決をなさしめんとする目的は一応達成さ
れているものと解すべきである。
 使用者にして該審査又は仲裁に不服あるときは、前述の如く、更に審査会に審査
若くは仲裁の請求をなし得べきものであるに拘らず、使用者が自らかゝる救済の機
会を利用せずして終つたことについては、その結果は使用者自らの甘受すべきとこ
ろである。
 <要旨>(九)以上の説明から考えると、労働基準法第八十六条第二項の規定は、
災害補償に関する紛争について、いかなる場合においても、審査会の審査又
は仲裁を経なければ、民事訴訟を提起し得ないものとする趣旨ではなく、同第二項
は同条第一項の規定を承けて、労働基準監督署長の審査又は仲裁に不服ある者が審
査会の審査又は仲裁を請求した場合、に限つて、該審査若くは仲裁がなされた後に
おいて始めてよく災害補償に関する民事訴訟を提起し得るものとせられているので
あつて、労働基準監督署長の審査又は仲裁に対し労使双方のいずれよりも、不服の
申立がない場合においては、審査会の審査若くは仲裁を経るの要なく、直ちに民事
訴訟を提起し得るものと解するのが相当である。
 (一〇) これを本件についてみるに、前示災害補償に関する長岡労働基準監督
署長の査定に対しては被控訴人等においては毫も異議なく、使用者える控訴人も本
件口頭弁論の終結当時に至るまでの間に、該査定に対しこれを不服として審会査に
審査又は仲裁を請求する措置に出でなかつたことは、前段説述の通りであるから、
被控訴人等が審査会の審査又は仲裁を経ないで、本件災害補償に関する訴を提起し
たことは適法である。従つて本訴を不適法とする控訴人の主張は採用できない。
 二、 よつて進んで本案請求の当否について按ずるに、被控訴人等の本訴請求の
正当であることは、洵に原判決の理由において説明する通りであつて、当裁判所も
亦これを別異に判定すべき根拠を見出すことはできないから、こゝに原判決の理由
を引用して、被控訴人等の請求を認容すべきものとする。
 三、 従つて原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないか、民事訴訟法第三
百八十四条、第九十五条、第九十八条に則り、主文の通り判決する。
 (裁判長判事 渡辺葆 判事 浜田潔夫 判事 牛山要)

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