弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人松島政義の上告理由第二点ないし第五点、および同山本忠義、同茶村
剛の上告理由について。
 原審の確定するところによれば、上告人が代表者である訴外D電機株式会社は、
昭和二四年一〇月二三日、被上告人B商資株式会社から、金二〇〇万円を、利息月
一割、弁済期同年一一月二三日の約束で、利息を天引の上借り受け、上告人は原判
示の経緯を経て同年一二月二二日右貸金債務の担保としてその所有する本件不動産
に被上告会社のため第二順位の抵当権を設定したが、同二五年三月二二日にいたり、
上告人と被上告会社との間において、D電機の被上告会社に対する前記貸金債務の
同年三月三一日における元利合計を三〇〇万円として残額を打ち切り、右債務の連
帯保証人たる上告人において本件不動産を右三〇〇万円の債務の代物弁済として提
供し被上告会社名義に所有権移転登記をすることとし、被上告会社においては右不
動産を他に売却することに努力し、売却代金から前記貸金債務三〇〇万円を精算の
うえ残額を上告人に返還する旨の合意が成立し、右の合意に基づき、同年四月五日、
上告人から被上告会社に対し、本件不動産の所有権移転登記がなされたというので
ある。そして、原審は、右の事実および原審認定の本件における事実関係のもとに
おいては、同年三月二二日なされた前記合意は、本件不動産所有権を前記貸金債務
三〇〇万円の弁済にかえて被上告会社に移転する旨の代物弁済契約であつて、上告
人主張の譲渡担保契約ではない旨判断していることが明らかである。
 ところで、代物弁済とは本来の給付に代えて他の給付をなすことにより既存債権
を消滅させる債権者と弁済者間の契約であつて、担保の目的物たる財産権を移転す
ることにより信用授受の目的を達成する制度の一である譲渡担保が、財産権移転後
もなお既存債権を存続せしめ、債務者においてこれを弁済しない場合に、右財産権
によつてこれが満足をはかることを目的とするのとは、趣を異にする。すなわち、
前者は代物の交付(財産権の移転)により既存債権を消滅させることを契約の要素
とするに対し、後者は契約による財産権の移転後もなお既存債権の存続を前提とし
ている点において、両者間には本質的な差異が存するのであつて、ある契約が代物
弁済・譲渡担保のいずれに該当するかは、慎重に検討すべきところである。ことに
代物弁済契約の形式を借り担保たる不動産の名義を債権者に移転せしめながら、な
お既存債権を消滅せしめることなく、名義を移転した不動産を処分することにより
清算を行うことが行われうるからである。
 右の見地に立つて本件をみるに、前記原審の確定するところによれば、被上告会
社は、昭和二五年三月二二日成立した本件契約により本件不動産所有権の移転を受
けた後において、右不動産を他に売却することに努力し右売却代金から原判示の本
件貸金債権三〇〇万円を精算のうえ残額を上告人に返還する旨約したというのであ
るから、原審の右認定自体からしても、本件契約が代物弁済契約であると断定した
原審の判断には疑問が存する。もつとも、甲五号証には「上告人所有の不動産を三
〇〇万円を限度として代物弁済を為す」旨の記載があるけれども、同号証の「売却
代金より先に抵当権のある債務の弁済をした残額を上告人に返還することを約諾す
る」旨の記載その他の証拠資料等と対比して考察すれば、前記代物弁済なる記載が
その本来の意味において用いられたものか否かは疑わしく、したがつて、かゝる事
実関係にある本件においては、原審としては、前記の諸点につき更に審理を尽くし、
もつて前記契約の趣旨を明らかにすべきである。しかるに、原審が、右の点につい
て審理を尽くさず、首肯するに足る理由を示すことなく、同号証の前記記載等に依
拠し、本件契約は代物弁済契約であつて上告人主張の譲渡担保契約ではない旨速断
したのは違法であり、原判決はこの点において破棄を免れない。そして、本件契約
が右のいずれに該当するかについては、なお前記の諸点について審理する必要があ
るから、これらの点について審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すのを相
当と認める。
 よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    岩   田       誠

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