弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人伊藤正昭、同フランク・イー・鬼頭、同松井健二の上告趣意第一点につい
て。
 所論は、違憲(憲法三一条違反)をいうが、実質は単なる法令違反の主張であつ
て(控訴裁判所がなんら事実の取調をしないで第一審判決より重い刑を科しても、
刑訴四〇〇条但書に違反しないことは、当裁判所大法廷屡次の判例とするところで
ある。昭和二七年(あ)第四二二三号同三一年七月一八日言渡刑集一〇巻七号一一
七三頁、昭和三〇年(あ)第一九八四号同三二年二月一五日言渡刑集一一巻二号七
五六頁、昭和二七年(あ)第二七六号同三三年七月二日言渡刑集一二巻一一号二三
七七頁各参照)、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 同第二点について。
 所論は、違憲(憲法三九条後段違反)をいうが、下級審の有罪判決に対し、検察
官が上訴してより重い刑の判決を求めることは、被告人を二重の危険にさらすもの
でなく、したがつて憲法三九条に違反して重ねて刑事上の責任を問うものでないこ
とは、当裁判所の判例(昭和二四年新(れ)第二二号同二五年九月二七日大法廷判
決刑集四巻九号一八〇五頁)とするところ、このことは被告人が米国籍を有する者
であるの故をもつて、別異に解するいわれはない。したがつて所論違憲の主張は理
由がない。
 同第三点について。
 所論は、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
 よつて刑訴四〇八条により主文のとおり判決する。
 この判決は、右第一点につき裁判官山田作之助、同城戸芳彦の後記少数意見があ
るほか裁判官の一致した意見である。
 裁判官山田作之助、同城戸芳彦の上告趣意第一点についての少数意見は次のとお
りである。
 多数意見は、第一審判決が懲役刑の執行猶予を言渡した場合に、控訴審がなんら
事実の取調をしないで、第一審判決を量刑不当として破棄し、みずから訴訟記録お
よび第一審で取り調べた証拠のみによつて、ただちに懲役刑(実刑)の言渡をして
も、刑訴四〇〇条但書に違反するものではないとした昭和二七年(あ)第四二二三
号同三一年七月一八日大法廷判決(刑集一〇巻七号一一七三頁)、および同旨のそ
の他の大法廷判決を踏襲しているのであるが、わたしはこの多数意見には左袒でき
ない。
 思うに刑事裁判の要諦は、犯罪事実の認定と刑の量定との二点に尽きる。そして
この犯罪事実の認定と刑の量定とは、公開の法廷で裁判官みずから直接に証人その
他の証拠を取り調べ、なおこれ等に対する被告人の意見弁解をきいて得た心証によ
つてのみ、はじめてできるのであつて、裁判官がこれ等について直接の取り調べを
せず、被告人の意見弁解もきかないで、書面審理のみによつてはできるものではな
いのである。この理は刑事裁判の本質からする当然の帰結であつて、いやしくも裁
判官がみずから犯罪事実を認定し、刑を量定する以上、それが第一審であると控訴
審(第一審判決を破棄して自判する場合)であると、その理を異にするいわれはな
い。この点に関して昭和二六年(あ)第二四三六号同三一年七月一八日大法廷判決
(刑集一〇巻七号一一四七頁)が、控訴裁判所が第一審判決を破棄し、訴訟記録な
らびに第一審裁判所において取り調べた証拠のみによつて、直ちに被告事件につき
犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは、憲法(三一条、三七条)の保障
する権利を害し、直接審理主義、口頭弁論主義の原則を害することになるから、許
されない、と判示しているのはまことに至当であるというべきである。そして前述
のように刑の量定と犯罪事実の認定とは、その本質上いずれも裁判官が直接証拠を
取り調べて得た心証によつてのみ決し得るものである以上、この両者の間にその理
を別にすることが許さるべきではないことは前述のとおりである。以上の次第であ
るので、わたくしは多数意見が、控訴審がいわゆる書面審理のみによつて刑の量定
をなし得るとしていることには、賛成し得ない。(なお前掲昭和二七年(あ)第四
二二三号事件の大法廷判決における栗山、真野、小谷、谷村、小林裁判官の各反対
意見参照)。
  昭和三九年五月二九日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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