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裁判例


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平成22年3月24日判決言渡
平成21年(行ケ)第10212号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年3月17日
判決
原告X
訴訟代理人弁理士小池晃
同伊賀誠司
同藤井稔也
同野口信博
同祐成篤哉
訴訟代理人弁護士高橋雄一郎
被告特許庁長官
指定代理人齋藤哲
同赤穂隆雄
同岩崎伸二
同田村正明
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2005−10496号事件について平成21年6月22日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が後記名称の発明について特許出願をしたところ,拒絶査定を
受けたので,これに対する不服審判請求をし,平成17年6月13日付け・平
成21年3月23日付けで特許請求の範囲等を変更する手続補正(変更後の発
明の名称「電子証券発行システム」)をしたが,特許庁が請求不成立の審決を
したことから,その取消しを求めた事案である。
2争点は,平成21年3月23日付け補正後の請求項1に係る発明(本願発
明)が下記各引用文献に記載された発明との関係で進歩性を有するか(特許法
29条2項),である。

・特開2001−306811号公報(発明の名称「保険契約システム」,出
願人大日本印刷株式会社,公開日平成13年11月2日。以下,この文献
を「引用文献1」といい,これに記載された発明を「引用発明」という。甲
1)
・特開2001−338130号公報(発明の名称「公共施設等の建設・管理
システム」,出願人株式会社フジタ,公開日平成13年12月7日。以下,
この文献を「引用文献2」という。甲2)
・特開2000−148875号公報(発明の名称「新金融活性化システム」,
出願人A,公開日平成12年5月30日。以下,この文献を「引用文献
3」という。甲3)
・特開2000−196786号公報(発明の名称「画像処理装置,画像処理
方法及び記憶媒体」,出願人キャノン株式会社,公開日平成12年7月
14日。以下,この文献を「引用文献4」という。甲4)
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成14年2月5日になした国内出願(特願2002−2755
0号)による優先権を主張して,平成15年2月4日,名称を「証券,該証
券に印刷された内容を画面に表示しまたはプリンタに印刷させるコンピュー
タ,該証券を印字するプリンタ,該証券を売買する市場形成方法,証券発行
コンピュータおよびプリンタを有するコンピュータシステム,証券作成方法,
投資者のコンピュータ,証券表示方法,証券情報提供方法,電子証券,該電
子証券を記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体,電子証券発行シス
テム,電子債券」とする発明について特許出願(特願2003−27127
号,請求項の数17。公開公報〔特開2003−303280号〕は甲2
8)をし,その後平成17年3月7日付けで特許請求の範囲の変更等を内容
とする手続補正(第1次補正,変更後の発明の名称「電子証券発行コンピュ
ータシステム」,甲13)をしたが,拒絶査定を受けたので,これに対する
不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2005−10496号事件として審理し,その
中で原告は平成17年6月13日付け(第2次補正,変更後の発明の名称
「電子証券発行システム」,甲17)及び平成21年3月23日付け(第3
次補正,請求項の数1,甲27。以下「本件補正」という。)でそれぞれ特
許請求の範囲の変更等を内容とする手続補正をしたが,特許庁は,平成21
年6月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その
謄本は同年7月7日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件補正後の特許請求の範囲は,上記のとおり請求項1(以下「本願発
明」という。)から成るが,その内容は以下のとおりである。
・【請求項1】
電子証券発行コンピュータと投資者コンピュータとを有し,前記電子証
券発行コンピュータと前記投資者コンピュータとがネットワークを介して
相互に通信可能に接続されていると共に,前記投資者コンピュータにプリ
ンタが接続され,
前記電子証券は,事業者が調達した資金と引き換えに交付する資金調達
用の電子証券である旨の文言画像と,前記事業者が,前記電子証券を所有
する者に,前記事業者の事業活動の結果得た利益を分配する旨の文言画像
と,前記事業者が,前記電子証券を所有する者に,利息を定期的に支払う
旨の文言画像と,前記事業者が,倒産,経営不振などの理由により,前記
利息を定期的に支払う旨の文言画像が示す利息の支払を履行することがで
きなくなった場合に,調達した前記資金の返済または調達した前記資金お
よび前記利息の返済を,国,地方公共団体またはその他の公法人が,あら
かじめ決定された限度で保証する旨の文言画像とを画像形成するためのデ
ータと証券の正当性を保証するための証券発行者の電子署名が含まれた電
子データからなり,
前記電子証券を,電子証券発行コンピュータから前記投資者コンピュー
タに対して前記ネットワークを介して電子的に発行するための電子証券発
行システムであって,
前記電子証券発行コンピュータは,
前記電子証券の電子データの入力を受け付ける入力手段と,
前記入力手段より入力された前記電子証券の電子データに対してコピー
・プロテクトを電子的に施すと共に,1回のみの印刷を可能とするプロテ
クトを電子的に施しハードディスクに記録する記録手段と,
前記投資者コンピュータに前記ネットワークを介して前記ハードディス
クに記録されているコピー・プロテクト及び1回のみの印刷を可能とする
プロテクトが施された電子証券の電子データを送信する送信手段とを有し,
前記投資者コンピュータは,
前記電子証券発行コンピュータの送信手段から前記ネットワークを介し
て送信された前記電子証券の電子データを受信する受信手段と,
前記受信手段で受信した前記電子証券の電子データをハードディスクに
記録する記録手段と,
前記記録手段で記録した電子証券の電子データの画像を形成する画像形
成手段と,
前記画像形成手段が形成した電子証券の電子データの画像を表示する表
示手段と,
印字命令があったとき,電子証券の電子データの1回のみの印刷を可能
とするプロテクトに従って,前記ハードディスクに記録された前記電子証
券の電子データの内容についてのプリントジョブを作成し,このプリント
ジョブを前記プリンタに送信する印字命令送信手段とを有し,
前記投資者コンピュータに接続されたプリンタは,
前記投資者コンピュータから出力された前記プリントジョブに従って電
子証券の電子データの画像を原本として印刷する印字手段を有し,
前記事業者が,前記電子証券を利用して資金を調達することができると
共に,証券を購入することがなかった者が,前記電子証券を購入し,必要
に応じて,印刷された証券を原本として流通させ,新たな市場を形成する
ことができるようにする電子証券発行システム。
(3)審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本願発明は引用文献1に記載された発明(引用発明)
及び引用文献2∼4に記載された技術並びに周知の事項に基づいて当業者が
容易に発明をすることができたから特許を受けることができない(特許法2
9条2項),というものである。
なお,審決が認定した引用文献1に記載された発明(引用発明)の内容,
本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,上記審決写し記載のとおりで
ある。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下に述べるとおりの誤りがあるので,違法と
して取り消されるべきである。
ア取消事由1(相違点1についての判断の誤り)
(ア)証券の法的性質の違い
本願発明における証券は投資証券であって,購入した投資家は事業者
の事業活動の結果得た利益の分配を受ける債権者となり,事業者は債務
者となる。
これに対し,引用発明における証券は,旅行会社が代理して販売する
保険商品(海外旅行保険)に係る保険証券であり,保険契約を締結する
と保険による保護を受ける契約者が債権者となり,契約者は保険の内容
にしたがった保証を受ける。
引用文献2において,債務者となるSPC4は,資産対応証券(優先
出資証券・特定社債権・特定約束手形)の発行によって得られた金銭で
特定資産を取得し,資産の管理・処分によって得られた金銭で債権者で
ある投資家6に対して資産対応証券の元本や利回り配当等の支払をする。
したがって,引用文献2の資産対応証券は投資証券である。
引用文献3において,融資債券1は投資家が債権者,金融業務実行機
関が金利等を支払う債務者となるものであり,保証債券2は融資債券1
に対して債務証券4の担保不足を保証し,保証債権2を引き受ける投資
家が債権者となり,金融実行機関が金利等を支払う債務者となるもので
あるから,融資債券1,保証債券2は共に投資証券である。
そこで,本願発明の証券と引用発明における証券を対比すると,引用
発明の証券は旅行会社が代理して販売する保険商品(海外旅行保険)に
かかる保険証券であり,投資家ではなく海外旅行者等の保険契約者が債
権者となるのに対して,本願発明の証券は,投資家が債権者となって債
務者である事業者の事業活動の結果得た利益の分配を受けられるように
する投資証券であり,本願発明の証券と引用発明の保険証券とはその法
的性質を大きく異にしている。そして,引用文献2の証券,引用文献3
の融資債権1及び保証債権2はいずれも投資証券であるが,引用発明に
おける保険証券とは全く法的性質が異なる。したがって,引用発明に引
用文献2及び3に記載された投資証券を組み合わせる動機はなく,引用
文献2及び3のそれぞれの契約の内容を示す記載を,適宜取捨選択して
引用発明の証券に記載することには何ら技術的困難性がないとすること
はできない。
(イ)証券の流通性
本願発明における証券は,市場で取引(売買)がされることを前提と
している。
これに対し,引用発明における証券は,海外旅行の傷害保険であり,
市場で取引(売買)がされることを前提としたものではない。
引用文献2における資産対応証券(優先出資証券・特定社債権・特定
約束手形)が市場で取引(売買)されるものであるかどうかについては,
引用文献2に何ら示唆はない。資産対応証券は一般に投資家に直接交付
されるべきもので,むしろ市場における取引が予定されていない証券で
あると考えられる。
引用文献3における融資債券1と保証債券2は,いずれも市場で取引
(売買)されるものではない。
以上,本願発明における証券は市場で取引(売買)がされることを前
提にした流動性がある証券であるのに対して,引用文献1∼3における
各証券は,それぞれ,海外旅行の傷害保険,資産対応証券,融資債券及
び保証債券であり,いずれも市場で取引(売買)される証券ではないし,
印刷された証券を原本として流通させるべき証券でもない。したがって,
引用文献1∼3記載の各証券は,本願発明のように「証券を購入するこ
とがなかった者が,前記電子証券を購入し,必要に応じて,印刷された
証券を原本として流通させ,新たな市場を形成することができるように
する」前提に欠ける。
(ウ)本願発明の証券の新しさ
有価証券に関しては証券取引法2条1項各号にその種類が限定列挙さ
れているが,本件特許出願時において,本願発明の証券は,証券取引法
2条1項各号の有価証券のいずれにも該当するものではない。また,本
願発明の証券は,上記のとおり,引用文献1∼3では示唆されていない
特徴を有する。そうすると,引用文献1∼3の記載からも本件特許出願
時の証券取引実情からも,本願発明の証券を実現するための動機付けを
見出すことはできず,したがって,引用文献2及び3のそれぞれの契約
の内容を示す記載を適宜取捨選択して引用発明における証券に記載する
ことには何ら技術的困難性がないとすることはできない。
(エ)小括
本願発明の証券は,上記のとおり,引用文献1∼3の各証券と法的性
質が大きく異なる上,流通性を有するものであり,その証券の内容も本
件特許出願時に証券取引法に定義のない新規な証券である。そして,本
願発明の証券は,流通性を有するからこそ,証券の正当性を保証するた
めの証券発行者の電子署名が含まれ,さらに電子証券の電子データに対
してコピー・プロテクトを電子的に施すとともに,1回のみの印刷を可
能とするプロテクトを電子的に施している。このように,本願発明の証
券の流通性と電子署名やコピープロテクトや印刷回数制限の考え方は,
ひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握すべきものであって,
証券の内容や流通性との関係で技術的変更を要するものである。
したがって,審決が「・・・引用例1記載の発明における電子化証券
の電子データに含まれる『契約内容を示すデータ』を,『事業者が調達
した資金と引き換えに交付する資金調達用の電子証券である旨の文言画
像と,前記事業者が,前記電子証券を所有する者に,前記事業者の事業
活動の結果得た利益を分配する旨の文言画像と,前記事業者が,前記電
子証券を所有する者に,利息を定期的に支払う旨の文言画像と,前記事
業者が,倒産,経営不振などの理由により,前記利息を定期的に支払う
旨の文言画像が示す利息の支払を履行することができなくなった場合に,
調達した前記資金の返済または調達した前記資金および前記利息の返済
を,国,地方公共団体またはその他の公法人が,あらかじめ決定された
限度で保証する旨の文言画像とを画像形成するためのデータ』とするこ
とは,電子化証券の券面の記載内容(人為的な取り決めに過ぎない契約
事項)に変更があるものの,この変更に対応して格別の技術的変更を必
要とするものでもなく,当業者であれば,適宜成し得たものと認められ
る。」(22頁9行∼22行)としたことは誤りである。
イ取消事由2(相違点2についての判断の誤り)
(ア)引用文献4の段落【0001】【0002】には,著作権を有する著
作物の情報をプリントアウト等する画像処理装置等に関して著作権保護
を想定した場合,例えばデジタルデータ化された電子ファイルについて
は,電子ファイルからの印刷を禁止し又は印刷回数を制限することが想
定され,また,ファイル自体の電子データとしての複写を禁止すること
が想定されることが従来技術として記載されている。
また,審決が掲げる周知例1(大村岳雄・吉田耕造・深澤寛晴,日経
PB社,日経デジタルマネーシステム別冊ネットバンキング日米最新
事例とシステム構築法101頁∼102頁,1998年(平成10年)
12月1日発行,以下「甲5文献」という。甲5,乙1)には,有価証
券をオンラインで送達することが記載されているのではなく,有価証券
取引に関連する書類(口座開設のための書類,取引報告書,月次報告書
等)のオンラインでの確認をできるようにすることが記載されている。
本願発明と引用文献4に記載された技術を対比すると,引用文献4に
は著作権保護のために電子ファイルの印刷を禁止し又は印刷回数を制限
することが示唆されているだけで,本願発明のように,有価証券の電子
データの印刷を1回限りとし,印刷された証券を原本として流通させる
考え方は示唆されていない。そもそも,絵画や写真等の著作物は印刷さ
れた証券を原本として流通させるものではない。したがって,引用文献
4に記載されているのは,有価証券の複写を禁止する技術ではない。
また,甲5文献には,有価証券取引に関連する書類(口座開設のため
の書類,取引報告書,月次報告書等)のオンラインでの確認をできるよ
うにすることが記載されているだけで,本願発明のように,有価証券の
電子データの印刷を1回限りとし,印刷された証券を原本として流通さ
せる考え方は示唆されていない。
すなわち,電子データの有価証券の原本を紙に印刷するため,紙への
印刷回数を1回に制限する考え方は,引用文献4や甲5文献には示唆さ
れていない。したがって,引用文献4や甲5文献からは「前記事業者が,
前記電子証券を利用して資金を調達することができると共に,証券を購
入することがなかった者が,前記電子証券を購入し,必要に応じて,印
刷された証券を原本として流通させ,新たな市場を形成することができ
る」ようにする本願発明の特有の作用効果も実現することはできない。
したがって,審決が「・・・有価証券に関する書類をオンラインで送
達し,受け取り側が印刷する技術思想は当業者が通常有していた周知の
技術思想であり,さらに,印刷に際してプリントジョブが送受信される
ことは当業者に自明のことである。また,著作物の不正複写を禁止する
著作権保護に関する技術と有価証券の複製防止に関する技術とは,互い
に関連する技術分野であり,著作物の不正複写を禁止するための技術手
段を有価証券の複製防止のために置換あるいは付加して適用することは,
当業者の通常の創作能力の発揮にあたる。」(23頁9行∼16行)と
した判断には誤りがある。
(イ)審決は,「・・・例えば,特開平9−93561号公報(以下,「周
知例2」という。)(判決注:発明の名称「ディジタル放送システムの
不法視聴及びコピー防止方法と装置」,出願人エルジー電子株式会社,
公開日平成9年4月4日。以下,この文献を「甲6文献」という。甲
6)【0002】−【0028】段落等に開示されているように,デー
タヘッダのコピー防止制御ビットを用いる手段のセキュリティーが低い
ことが当業者に知られており,有価証券の原本に強く求められる,唯一
無二の存在であることが担保されない。よって,請求人の主張する周知
技術を参酌しても本願の明細書には,原本性を担保する技術的な仕組み
が何ら記載されておらず,当業者にとって自明でもない。よって,原本
となる印刷物の証券を印刷する考え方について,本願発明は,印刷され
た電子証券の原本性を担保する技術的な裏付けがなく,印刷物を証券の
原本と人為的に定義しているにすぎず,印刷された証券を原本として流
通させることが,技術的な事項に基づくものではなく人為的な取り決め
に基づくものであり,当業者が適宜決定できる事項と認められる。」
(24頁4行∼15行)とした。
しかし,そもそも,本願発明は「前記事業者が,前記電子証券を利用
して資金を調達することができると共に,証券を購入することがなかっ
た者が,前記電子証券を購入し,必要に応じて,印刷された証券を原本
として流通させ,新たな市場を形成することができる」ようにすること
を特徴とするものであって,有価証券の原本が唯一無二の存在であるこ
とを担保するための技術を特徴とするものではない。すなわち,有価証
券の原本が唯一無二の存在であることを担保するための技術は,本願発
明とは異なる発明である。そして,引用文献4,甲5文献,甲6文献の
いずれにも,本願発明の特徴である印刷された証券を原本として流通さ
せる考え方が示唆されていないにもかかわらず,「電子証券の原本性を
担保する技術的な裏付けがない」ことから直ちに「印刷物を証券の原本
と人為的に定義しているにすぎず,印刷された証券を原本として流通さ
せることが,技術的な事項に基づくものではなく人為的な取り決めに基
づくものである」とした判断は誤りである。
ウ取消事由3(相違点4に関する判断の誤り)
本願発明は,本願発明の証券の電子データの印刷を1回限りとし,「前
記事業者が,前記電子証券を利用して資金を調達することができると共に,
証券を購入することがなかった者が,電子証券を購入し,必要に応じて,
印刷された証券を原本として流通させ,新たな市場を形成することができ
る」ようにすることを特徴とするものであり,この点に関し,引用文献4,
甲5文献,甲6文献のいずれにも示唆がないことは上記のとおりである。
審決は,それにもかかわらず,「電子証券の原本性を担保する技術的な
裏付けがない」ことから直ちに,「印刷物を証券の原本と人為的に定義し
ているにすぎず,印刷された証券を原本として流通させることが,技術的
な事項に基づくものではなく人為的な取り決めに基づくものであ」ると判
断したものであり(25頁4行∼7行),本願発明の特徴である印刷され
た証券を原本として流通させる考え方に関し判断を誤っている。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)∼(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)取消事由1に対し
ア「証券の法的性質の違い」につき
原告は,引用発明における保険証券と引用文献2及び引用文献3の投資
証券とはその法的性質が大きく異なり,したがって,引用発明に引用文献
2及び引用文献3に記載された事項を組み合わせる動機付けを見つけ出す
ことはできない旨主張する。
しかし,証券の法的性質は,何ら技術的性質を有するものではなく,本
願発明の電子証券発行システムに技術的な裏付けを与えるものでもないか
ら,証券の法的性質自体は進歩性を評価するに際して考慮に値しない。た
だし,引用発明における証券と引用文献2及び3に記載の各証券の法的性
質が異なる点が,技術的観点からみて組合せに阻害要因があるとして進歩
性を肯定する理由になり得るかについては考慮すべきであり,その点につ
いて以下論ずる。
審決は,本願発明と引用発明は,前記<一致点>のとおりの「電子化証
券発行システム」である点で一致すると認定し,その点に当事者間に争い
はない。そして,上記電子化証券発行システムにあって,引用発明におい
て発行される電子化証券は保険契約証券であるから,引用文献2記載の証
券並びに引用文献3記載の融資債券1及び保証債券2とは確かに証券とし
ての性質が異なり,証券としての契約内容は相違するものである。しかし,
証券発行の際に関与する上記電子化証券発行システムの構成自体に対して
格別な技術的変更を余儀なくするものではなく,単に発行する証券の内容
(データ)に変更が生じるものである。そして,その内容(データ)変更
は,証券分野一般において取り扱う証券の契約内容の取捨選択の問題にす
ぎず,発行する証券の契約内容に応じて適宜なし得ることである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
イ「証券の流通性」につき
本願発明に係る証券の記載内容は,「事業者が調達した資金と引き換え
に交付する資金調達用の電子証券である旨の文言画像と,前記事業者が,
前記電子証券を所有する者に,前記事業者の事業活動の結果得た利益を分
配する旨の文言画像と,前記事業者が,前記電子証券を所有する者に,利
息を定期的に支払う旨の文言画像と,前記事業者が,倒産,経営不振など
の理由により,前記利息を定期的に支払う旨の文言画像が示す利息の支払
を履行することができなくなった場合に,調達した前記資金の返済または
調達した前記資金および前記利息の返済を,国,地方公共団体またはその
他の公法人が,あらかじめ決定された限度で保証する旨の文言画像」(以
下「証券記載の文言画像」という。)であるので,「前記電子証券を所有
する者に,前記事業者の事業活動の結果得た利益を分配する」ことと「前
記電子証券を所有する者に,利息を定期的に支払う」ことは証券を市場で
取引することに関連しているものの,誰にどのような対価を支払うかは証
券に記されている契約内容に基づく取り決め事項であって,経済原則や人
為的な精神活動に主に依存し,何ら技術的事項といえるものでもないから,
本願発明における証券記載の文言画像が,引用発明に引用文献2,3に記
載された技術を組み合わせたものと比較して,格別な技術的特徴を有する
ものではない。
また,本願発明における証券記載の文言画像と「証券を購入することが
なかった者が,電子証券を購入し,必要に応じて,印刷された証券を原本
として流通させ,新たな市場を形成することができるようにする」との関
係は,本願発明における証券記載の文言画像が「証券を購入することがな
かった者が,前記電子証券を購入」することと技術的に関係するものでは
なく,加えて,「必要に応じて,印刷された証券を原本として流通させ,
新たな市場を形成することができるようにする」ことがそもそも「必要に
応じて」と記載されているように必須の構成要件ではなく,しかも後記の
とおり,上記要件は技術的裏付けを欠くものであるので,いずれの点にお
いても引用発明に引用文献2,3に記載された技術とを組み合わせたもの
と比較して格別な特徴があるとはいえない。
したがって,「証券の流通性」における原告の主張は理由がない。
ウ「本願発明の証券の新しさ」につき
特許法上の発明とは,特許法2条に規定されているとおり,自然法則を
利用した技術的思想の創作のうち高度なものであるところ,本願発明の証
券は,証券取引法2条1項各号に規定されていない有価証券であるからと
いって,そのことが何ら技術的思想の創作を担保するものでないことは明
白であるから,本願発明の証券が直ちに特許を受ける発明の対象となるも
のではない。また,本願発明における有価証券及び有価証券を発行する手
続自体は人為的取り決めそのものであるから,自然法則を利用した技術的
思想の創作ではなく,発明の対象とはならない。
さらに,本願発明の証券の新しさを,本願発明の証券を実現するための
動機付けがないことの起因とするとしても,前記のとおり,引用発明にお
ける保険契約証券,引用文献2記載の証券並びに引用文献3記載の融資債
券1及び保証債券2とは証券としての性質が異なり,証券としての契約内
容は相違するものであるが,証券発行の際に関与する電子化証券発行シス
テムの構成自体に対して格別な技術的変更を余儀なくするものではなく,
単に発行する証券の内容(データ)に変更が生じるものである。そして,
その内容(データ)変更は,証券分野一般において取り扱う証券の契約内
容の取捨選択の問題にすぎず,発行する証券の契約内容に応じて適宜なし
得ることである。
したがって,「本願発明の証券の新しさ」における原告の主張は理由が
ない。
エ「小括」につき
原告は,「本願発明の証券は,流通性を有するからこそ,証券の正当性
を保証するための証券発行者の電子署名が含まれ,さらに電子証券の電子
データに対してコピープロテクトを電子的に施すと共に,1回のみの印刷
を可能とするプロテクトを電子的に施している。このように,本願発明の
証券と流通性と電子署名やコピープロテクトや印刷回数制限の考え方は,
ひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握すべきものであって,証
券の内容や流通性との関係で技術的変更を要するものである。」旨主張す
る。
しかし,本願明細書(平成15年2月4日付けの出願当初の明細書〔甲
9の2〕は平成17年6月13日付け手続補正書〔甲17〕により全文が
補正された。)及び図面〔甲9の3〕には,電子署名,コピープロテクト,
1回のみの印刷を可能とするプロテクトの各々の技術について,以下の記
載がある(下線は被告による。)。
・「コンピュータ21bは,配当文言3,利息文言4および保証文言5を
含む証券情報の入力があると(S301のYES),入力された証券情
報に基づいて電子証券を作成する(S302)。ここで,電子証券とは,
上述のような証券(図1参照)を電子データ化したものであり,当該証
券の名称に係る文言1,額面に係る文言2,配当文言3,利息文言4,
保証文言5,証券番号などの証券情報が電子データとして含まれるとと
もに,証券の正当性を保証するための証券発行者(事業者)の電子署名
が含まれている。また,電子証券には,違法な改ざんや複製などのを防
止するための所定のコピー・プロテクトが電子的に施される。」(段落
【0041】)
・「さらに,本発明を適用した電子証券発行システムにおいては,コンピ
ュータ22bは,ハードディスク214に記録された電子証券の内容を
ディスプレイに表示するとともに,電子証券の内容を接続されたプリン
タ24に印刷出力させる。この場合には,電子証券にたとえば1回のみ
の印刷を可能とするプロテクトを電子的に施すことにより,当該電子証
券の印刷物を証券の原本として流通させる構成とすることができる。
…」(段落【0045】)
以上によれば,本願当初明細書及び図面には,電子署名,コピープロテ
クト,1回のみの印刷を可能とするプロテクトの各々の技術について,電
子的に施すものであること以外それぞれを達成するための具体的な技術的
裏付けは何ら記載されていない。また,本願発明の証券の流通性と証券の
正当性を保証するための証券発行者の電子署名,電子証券の電子データに
対する電子的に施されたコピープロテクト,及び1回のみの印刷を可能と
する電子的に施されたプロテクトとのそれぞれの関係についても,証券の
原本として流通させる点が記載されているのみであり,相互の技術的関係
については記載も示唆もない。そして,電子署名,コピープロテクトの各
々の技術自体は,情報セキュリティの分野において周知慣用の技術に他な
らず,1回のみの印刷を可能とするプロテクトの技術自体も,後記のとお
り,印刷回数を制限する当該分野の周知慣用の技術と技術的相違がないも
のである。
してみると,原告が「本願発明の証券と流通性と電子署名やコピープロ
テクトや印刷回数制限の考え方は,ひとまとまりの構成ないし技術的思想
として把握すべきもの」と主張する点は理由がなく,「証券の内容や流通
性との関係で技術的変更を要するものである」と主張する点は具体性に欠
け,本願の明細書または図面の記載に基づくものとはいえず,理由がない。
よって,本願発明は,引用発明に引用文献2及び3に記載された技術とを
組み合わせたものと比較して,格別な技術的変更を要するものではない。
(2)取消事由2に対し
ア原告は,「甲5文献には,有価証券をオンラインで送達することが記載
されているのではなく,有価証券取引に関連する書類(口座開設のための
書類,取引報告書,月次報告書等)のオンラインでの確認をできるように
することが記載されている。」旨主張している。しかし,甲5文献には
「証券会社サイドから見てみても,取引報告書や月次報告書の顧客への送
付が義務づけられているために,人件費や郵送費などの負担が重くのしか
かっている。各個人がオンラインで確認,印刷して保管すればよいという
風になれば,証券会社としてもかなりの経費節減になる。さらに種々の法
定関係書類においても電子化が進めば,かなりの事務量の軽減が可能にな
る。」(102頁左欄14行目∼19行目)とあり,郵送費負担をなくす
ことと各個人が印刷して保管することが記載されていることから,原告が
甲5文献について「オンラインでの確認をできるようにすることが記載さ
れているだけ」と主張する点は理由がなく,審決における甲5文献に例示
された周知の事項の認定に誤りはない。
また,原告は,電子データの有価証券の原本を紙に印刷するため,紙へ
の印刷回数を1回に制限する考え方は,引用文献4や甲5文献には示唆さ
れていないことを主張しているが,前記のとおり,本願の明細書及び図面
を参酌しても,紙への印刷回数を1回に制限する技術について,それを達
成するための具体的な技術的裏付けが記載されておらず,また,審決が
「引用例4記載事項A」として示した「電子ファイルからの印刷を禁止し,
又は印刷回数を制限すること」が従来技術であることに争いはないところ,
印刷回数を1回に制限することも当然に含まれることであるから,紙への
印刷回数を1回に制限することはそれを達成するための技術に基づく特徴
ではなく,有価証券の利用の態様に基づくものであり,人為的な精神活動
に主に依存するものである。してみると,相違点2に係る本願発明の構成
は,引用発明,引用文献4に記載された公知の技術及び甲5文献の周知の
事項を組み合わせたものと比較して,格別な技術的効果を奏するものでは
ない。
イ原告が主張する「前記事業者が,前記電子証券を利用して資金を調達す
ることができると共に,証券を購入することがなかった者が,前記電子証
券を購入し,必要に応じて,印刷された証券を原本として流通させ,新た
な市場を形成することができる」という有価証券の利用の態様は,印刷さ
れた証券の原本性を必須とするところ,本願発明の電子証券発行システム
の構成においてそれに関連する要件は,証券の正当性を保証するための証
券発行者の電子署名,電子証券の電子データに対する電子的に施されたコ
ピープロテクト,1回のみの印刷を可能とする電子的に施されたプロテク
トとの要件にあるといえるものの,本願の明細書及び図面を参酌しても,
前記のとおり,電子署名,コピープロテクト,1回のみの印刷を可能とす
るプロテクトの各々の技術については,それぞれを達成するための具体的
な技術的裏付けは何ら記載も示唆もない。してみると,原告が「有価証券
の原本が唯一無二の存在であることを担保するための技術を特徴とするも
のではない」と自認するとおり,本願発明の特徴は当該技術に基づくもの
ではなく,印刷物を証券の原本として人為的に定義しているにすぎず,有
価証券の契約内容と有価証券の利用の態様に基づくものであり,人為的な
取り決めに主に依存しているものである。
また,審決は,甲6文献を印刷された証券を原本として流通させる考え
方が示唆されている例として挙げたものではない。
(3)取消事由3に対し
取消事由3における原告の主張は,原告が取消事由2(イ)で主張する点と
実質的に変わるところはないから,それに対する反論は前記(2)イのとおり
である。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下原告主張の取消事由について検討する。
2取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について
(1)本願発明の意義
ア本件補正後の明細書(甲7,27等)には,以下の記載がある。
・【発明の属する技術分野】
「本発明は,証券,該証券に印刷された内容を画面に表示しプリンタ
に印刷させる電子証券発行システムに関する。」(段落甲17【000
1】)
・【従来の技術】
「株券は,株主の地位あるいは権利を表彰する有価証券として良く知
られている証券である。事業者は,資金を得るために,株主の地位ある
いは権利を株券に表彰させ,これを交付する。株券を買った者(すなわ
ち,株主)は,上記のように株主の地位あるいは権利を取得するため,
株券を発行した株式会社の経営に参画することができる。すなわち,株
主は,株主総会に出席し,議決に参加し,株券を発行した会社に対し配
当を請求することなどができる。」(甲17段落【0002】)
・「さらに,株主は,株券を第三者に対して売却することもできる。株主
は,株券の購入金額以上の金額で株券を売却することにより,その差額
分の利益を得ることができる。」(甲17段落【0003】)
・「また,債券も,政府,地方公共団体,特別の法律によって設立された
法人,あるいは事業者が公衆に対して集団的に負担する債務に対して発
行される有価証券として良く知られている証券である。債券は,購入金
額の償還期限があらかじめ定められており,償還期限後に,債券発行者
から債券の所有者に対して,元利金が支払われることを特徴とする。債
券の購入者も,債券の購入金額以上の金額で債券を売却することにより,
その差額分の利益を得ることができる。」(甲17段落【0004】)
・【発明が解決しようとする課題】
「しかし,事業者は,株券の交付のみでは必ずしも十分な資金を調達
できない場合がある。また,事業者は,債券を発行すると償還期限後に
元利金を償還しなければならなくなる。したがって,債券を発行して資
金を調達することは,事業者にとって負担が大きい。」(甲17段落
【0005】)
・「一方,株券や債券などを購入する投資者にとっては,株券や債券以外
にも新たな金融商品が創作されれば,この金融商品を売買することによ
り,新たな利益を得る機会を持つことができる。」(甲17段落【00
06】)
・「そこで,本発明は,かかる事情に鑑み,配当文言や利息文言,保証文
言は表示されているが,元本の償還期限が表示されていない電子証券を
発行することにより,事業者にとっては容易に資金を調達することがで
き,投資者にとっては新たな金融商品となる,株券でなく債券でもない
電子証券を受け取り,この証券に印刷された内容を画面に表示しプリン
タに印刷させることができる電子証券発行システムを提供することを目
的とする。」(甲17段落【0007】)
・【課題を解決するための手段】
「本発明によれば,上記課題は,次の手段により解決される。」(甲
17段落【0008】)
・「すなわち、本発明に係る電子証券発行システムは、電子証券発行コン
ピュータと投資者コンピュータとを有し、前記電子証券発行コンピュー
タと前記投資者コンピュータとがネットワークを介して相互に通信可能
に接続されていると共に、前記投資者コンピュータにプリンタが接続さ
れている。そして、前記電子証券を、電子証券発行コンピュータから前
記投資者コンピュータに対して前記ネットワークを介して電子的に発行
するシステムである。」(甲17段落【0009】)
・「ここで、前記電子証券は、事業者が調達した資金と引き換えに交付す
る資金調達用の電子証券である旨の文言画像と、前記事業者が、前記電
子証券を所有する者に、前記事業者の事業活動の結果得た利益を分配す
る旨の文言画像と、前記事業者が、前記電子証券を所有する者に、利息
を定期的に支払う旨の文言画像と、前記事業者が、倒産、経営不振など
の理由により、前記利息を定期的に支払う旨の文言画像が示す利息の支
払を履行することができなくなった場合に、調達した前記資金の返済ま
たは調達した前記資金および前記利息の返済を、国、地方公共団体また
はその他の公法人が、あらかじめ決定された限度で保証する旨の文言画
像とを画像形成するためのデータと証券の正当性を保証するための証券
発行者の電子署名が含まれた電子データからなる。」(甲17段落【0
010】)
・「また、前記電子証券発行コンピュータは、前記電子証券の電子データ
の入力を受け付ける入力手段と、前記入力手段より入力された前記電子
証券の電子データに対してコピー・プロテクトを電子的に施すと共に、
1回のみの印刷を可能とするプロテクトを電子的に施しハードディスク
に記録する記録手段と、前記投資者コンピュータに前記ネットワークを
介して前記ハードディスクに記録されているコピー・プロテクト及び1
回のみの印刷を可能とするプロテクトが施された電子証券の電子データ
を送信する送信手段とを有する。」(甲17段落【0011】)
・「また、前記投資者コンピュータは、前記電子証券発行コンピュータの
送信手段から前記ネットワークを介して送信された前記電子証券の電子
データを受信する受信手段と、前記受信手段で受信した前記電子証券の
電子データをハードディスクに記録する記録手段と、前記記録手段で記
録した電子証券の電子データの画像を形成する画像形成手段と、前記画
像形成手段が形成した電子証券の電子データの画像を表示する表示手段
と、印字命令があったとき,電子証券の電子データの1回のみの印刷を
可能とするプロテクトに従って,前記ハードディスクに記録された前記
電子証券の電子データの内容についてのプリントジョブを作成し,この
プリントジョブを前記プリンタに送信するする印字命令送信手段とを有
する。」(甲27段落【0012】)
・「この投資者コンピュータは、プリンタが接続されており、このプリン
タは、前記投資者コンピュータから出力された前記プリントジョブに
従って電子証券の電子データの画像を原本として印刷する印字手段を有
する。
この電子証券発行システムでは,前記事業者が,前記電子証券を利用
して資金を調達することができると共に,証券を購入することがなかっ
た者が,前記電子証券を購入し,必要に応じて,印刷された証券を原本
として流通させ,新たな市場を形成することができる。」(甲27段落
【0013】)
・【発明の実施の形態】
「以下に添付図面を参照して,本発明の好適な実施の形態を詳細に説
明する。」(甲17段落【0014】)
・「図1は,本発明が適用された電子証券発行システムによって発行され
る証券を示す図である。この証券には,『日本道路公団(有料高速道
路)証券』の文言1と,『100万円』の文言2と,『日本道路公団は,
有料高速道路の営業により得た利益をこの証券の所有者に分配する』の
文言3と,『日本道路公団は,額面金額の3%の利息を,毎年4月1日
にこの証券の所有者に支払う』の文言4と『この証券は,日本道路公団
が経営不振に陥り,利息文言どおりの利息の支払ができくなったった場
合には,額面金額の60%の資金の返済を日本国が保証する』の文言5
と,『発行日平成14年4月1日」の文言6とが記載されてい
る。』」(甲17段落【0015】)
・「『日本道路公団(有料高速道路)証券』の文言1は,本証券が,日本
道路公団が運営する有料高速道路に係るものであることを示す趣旨であ
る。この文言1により,証券を購入しようとする者は,本証券が日本道
路公団による資金調達のために発行されたものであることが分かる。」
(甲17段落【0016】)
・「『100万円』の文言2は,本証券の発行により調達される資金の額
を示す趣旨である。『日本道路公団は,高速道路の営業により得た利益
をこの証券の所有者に分配する』の文言3は,本証券の所有者には,日
本道路公団から配当金が支払われる旨を示す文言である。」(甲17段
落【0017】)
・「『日本道路公団は,額面金額の3%の利息を,毎年4月1日にこの証
券の所有者に支払う』の文言4は,本証券の所有者には,日本道路公団
から利息が支払われる旨を示す文言である。したがって,本証券の所有
者には,日本道路公団から毎年3万円が支払われることになる。」(甲
17段落【0018】)
・「『この証券は,日本道路公団が経営不振に陥り,利息の支払ができな
くなった場合には,額面金額の60%の資金の返済を日本国が保証す
る』の文言5は,日本国が本証券に記載の額面金額を一定の限度で保証
する旨を明確にする趣旨である。」(甲17段落【0019】)
・「これにより,本証券の交付後,日本道路公団が経営不振に陥り,利息
文言どおりの利息の支払ができなくなったとしても,本証券の所有者に
は,額面金額の60%の資金の返済が日本国により保証される。本証券
によれば,証券の購入者の安心感を惹起させることができ,証券の購入
者の証券購買意欲を向上させることができる。また,前記日本国の保証
は,一定の限度に限られる。したがって,本証券によれば,日本国は,
額面金額の全額を負担する必要はない。」(甲17段落【0020】)
・「『発行日平成14年4月1日』の文言6は,発行日を明確にする趣
旨である。」(甲17段落【0022】)
・「図2は,本発明の参考例となる電子証券発行システムの全体構成を示
すブロック図である。この参考例の電子証券発行システムは,証券会社
に設置されたコンピュータ21aと,投資者の所有するコンピュータ2
2aとが,ネットワーク23aを介して相互に通信可能に接続されてい
る。なお,ネットワーク23aに接続される機器および台数は,図2に
示す例に限定されない。」(甲17段落【0026】)
・「つぎに,参考例となる電子証券発行システムの動作の概要を説明する。
図4および図5は,それぞれ本実施の形態におけるコンピュータ21a
および22aの証券情報提供処理の手順を示すフローチャートである。
なお,図4および図5のフローチャートにより示されるアルゴリズムは,
それぞれコンピュータ21aおよび22aのROM212またはハード
ディスク214に制御プログラムとして記憶されており,CPU211
によって実行される。」(甲17段落【0029】)
・「図4において,証券会社に設置されたコンピュータ21aは,特定の
証券に係る配当文言3,利息文言4および保証文言5を含む証券情報が
入力されるまで待機する(S101のNO)。証券会社におけるオペレ
ータは,入力装置216を介して前記図1に示したような特定の証券に
係る配当文言3,利息文言4および保証文言5を,当該証券の名称に係
る文言1,額面に係る文言2などの他の証券情報とともに,コンピュー
タ21aに入力する。」(甲17段落【0030】)
・「コンピュータ21aは,配当文言3,利息文言4および保証文言5を
含む証券情報の入力があると(S101のYES),入力された証券情
報をハードディスク214に記録するとともに(S102),当該証券
情報をネットワークインタフェース217およびネットワーク23aを
介して投資者の所有するコンピュータ22aに送信する(S103)。
なお,ステップS103の証券情報の送信処理は,ステップS101の
証券情報の入力処理に応じて自動的に行うものであってもよいし,投資
者の所有するコンピュータ22aから送信要求の受信を待って行うもの
であってもよい。」(甲17段落【0031】)
・「図5において,投資者の所有するコンピュータ22aは,証券会社に
設置されたコンピュータ21aからネットワーク23aおよびネットワ
ークインタフェース217を介して,配当文言3,利息文言4および保
証文言5を含む証券情報を受信すると(S201),受信した証券情報
をハードディスク214に記録するとともに(S202),ディスプレ
イ215に表示する(S203)。」(甲17段落【0032】)
・「したがって,このような参考例によれば,投資者は,オフィスや自宅
に居ながらにして,証券の内容を確認することができ,コンピュータ2
2aを利用したオンライン手続により所望の証券を即座に購入すること
ができる。また,証券会社は,ネットワークのみを介して本発明に係る
証券を宣伝広告し同時に販売することができる。」(甲17段落【00
33】)
・「図6は,本発明を適用した証券発行システムの全体構成を示すブロッ
ク図である。本発明が適用された証券発行システムは,前記参考例で説
明した電子証券発行システムの場合と同様に,証券会社に設置されたコ
ンピュータ21bと,投資者の所有するコンピュータ22bとが,ネッ
トワーク23bを介して相互に通信可能に接続されてなり,さらにコン
ピュータ22bにはプリンタ24が接続されている。」(甲17段落
【0036】)
・「コンピュータ21bは,配当文言3,利息文言4および保証文言5
を含む証券情報の入力があると(S301のYES),入力された証
券情報に基づいて電子証券を作成する(S302)。ここで,電子証
券とは,上述のような証券(図1参照)を電子データ化したものであ
り,当該証券の名称に係る文言1,額面に係る文言2,配当文言3,
利息文言4,保証文言5,証券番号などの証券情報が電子データとし
て含まれるとともに,証券の正当性を保証するための証券発行者(事
業者)の電子署名が含まれている。また,電子証券には,違法な改ざ
んや複製などのを防止するための所定のコピー・プロテクトが電子的
に施される。」(甲17段落【0041】)
・「したがって,本発明を適用した電子証券発行システムによれば,電子
証券を証券の原本としてネットワークを介して流通させることができる
ので,投資者は,オフィスや自宅に居ながらにして,電子証券をコンピ
ュータ22bを利用したオンライン手続により購入し,即座に取得する
ことができる。また,証券会社は,電子証券をネットワークのみを介し
て販売することができ,後日証券を郵送するなどの必要がなくなる。」
(甲17段落【0044】)
・「さらに,本発明を適用した電子証券発行システムにおいては,コンピ
ュータ22bは,ハードディスク214に記録された電子証券の内容を
ディスプレイに表示するとともに,電子証券の内容を接続されたプリン
タ24に印刷出力させる。この場合には,電子証券にたとえば1回のみ
の印刷を可能とするプロテクトを電子的に施すことにより,当該電子証
券の印刷物を証券の原本として流通させる構成とすることができる。こ
のように,ネットワーク23bを介して購入し取得した電子証券の印刷
物を証券の原本として流通させる場合,図9において,コンピュータ2
2bは,それぞれ電子証券の印字命令を待って(S404),ハードデ
ィスク214に記録された電子証券の内容についてのプリントジョブを
作成し(S405),当該プリントジョブをプリンタ24に送信する
(S406)。」(甲17段落【0045】)
・「以上説明した本発明の発行対象となる電子証券には,償還期限という
概念がない。したがって,上記実施の形態に係る証券または電子証券に
よれば,事業者は,現実的には,元金の償還という負担を負うことがな
い。」(甲17段落【0046】)
・「また,本発明の発行対象となる電子証券によれば,電子証券の所有者
は,配当を受けることができる。また,本発明の発行対象となる電子証
券の所有者は,定期的に利息を得ることもできる。さらには,仮に,本
発明の発行対象となる電子証券を交付した事業者が倒産あるいは経営不
振に陥って証券に記載された利息文言どおりの利息の支払いができなく
なっても,または電子証券に含まれる利息を定期的に支払う旨の文言画
像が示す利息の支払いができなくなっても,本発明の発行対象となる電
子証券の所有者には,あらかじめ決定された限度において,国,地方公
共団体またはその他の公法人から,事業者に調達された資金(元本)ま
たは当該資金および利息(元利金)が返済される。よって,本発明の発
行対象となる電子証券は,投資者にとって魅力的な金融商品なのであ
る。」(甲17段落【0047】)
・「さらに,本発明の発行対象となる電子証券は,従来存在しなかった新
たな金融商品である。したがって,この電子証券を市場に流通させれば,
新たな金融市場を形成することができる。」(甲17段落【004
8】)
・【発明の効果】
「以上説明したように,本発明によれば,投資者は,新たな金融商品
となる,電子証券を購入することによって,従来なかった新たな金融市
場を利用して利益を追求することができ,事業者は,電子証券を利用し
て資金を調達することができる。この電子証券は,電子署名が施され,
更に,コピー・プロテクトが施されていることで,違法な改ざんや複製
を防止することができ,更に,1回のみの印刷を可能とすることで,そ
の印刷された証券を原本として流通させることができる。」(甲17段
落【0054】)
・【図1】本発明の発行対象となる電子証券を示す図(甲17,9の3)
・【図2】本発明の参考例となる電子証券発行システムの全体構成を示す
ブロック図(甲17,9の3)
・【図6】本発明が適用された証券発行システムの全体構成を示すブロッ
ク図(甲17,9の3)
イ上記記載によれば,本願発明は,電子証券発行システムに関するもので
あって,配当文言,利息文言及び保証文言は表示されているが元本の償還
期限が表示されていない電子証券の発行を可能にすることにより,事業者
にとっては容易に資金を調達することが,投資者にとっては株券又は債券
でもない新たな金融商品となる電子証券を受け取ることができる上,この
証券に印刷された内容を画面に表示しプリンタに印刷させることができる
ものであり,電子証券に電子署名及びコピー・プロテクトを施すことで違
法な改ざんや複製を防止するともに,1回のみの印刷を可能とすることで
その印刷された証券を原本として流通させることにより,新たな金融市場
を形成することを効果とするものであることが認められる。
(2)引用発明の意義
ア一方,引用文献(甲1)には,以下の記載がある。
・【請求項1】
「ネットワークを通じて利用者との間で保険契約を行う保険契約シス
テムにおいて,
入力フォームを提示して利用者に必要事項の入力を要求する第1要求手
段と,
入力された前記必要事項を含む契約内容確認データを作成し,利用者に
提示して電子署名の付与を要求する第2要求手段と,
保険料の支払い方法の指定を要求する第3要求手段と,
利用者が電子署名を付した前記内容確認データ,及び前記支払い方法の
指定に基づいて保険契約を成立させる契約手段と,
前記保険契約が成立した場合に契約内容データを作成し,電子署名を付
して利用者へ送信することにより契約完了を通知する完了通知手段と,
前記第1要求手段,前記第2要求手段,前記第3要求手段,前記契約手
段及び前記完了通知手段が行った処理の内容及び処理の時刻をログデー
タとして記録するログ記録手段と,を備えることを特徴とする保険契約
システム。」
・【請求項2】
「成立した前記保険契約についての証券データを作成する証券作成手
段と,
前記証券データ及び前記ログデータを利用者へ送信する送信手段と,を
備えることを特徴とする請求項1に記載の保険契約システム。」
・【請求項3】
「前記送信手段による送信前に,前記証券データ及び前記ログデータ
に電子署名を付す署名手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の
保険契約システム。」
・【課題を解決するための手段】
「請求項1に記載の発明は,ネットワークを通じて利用者との間で保
険契約を行う保険契約システムにおいて,入力フォームを提示して利用
者に必要事項の入力を要求する第1要求手段と,入力された前記必要事
項を含む契約内容確認データを作成し,利用者に提示して電子署名の付
与を要求する第2要求手段と,保険料の支払い方法の指定を要求する第
3要求手段と,利用者が電子署名を付した前記内容確認データ,及び前
記支払い方法の指定に基づいて保険契約を成立させる契約手段と,前記
保険契約が成立した場合に契約内容データを作成し,電子署名を付して
利用者へ送信することにより契約完了を通知する完了通知手段と,前記
第1要求手段,前記第2要求手段,前記第3要求手段,前記契約手段及
び前記完了通知手段が行った処理の内容及び処理の時刻をログデータと
して記録するログ記録手段と,を備えることを特徴とする。」(段落
【0006】)
・「上記のように構成された保険契約システムによれば,ネットワークを
通じて利用者との間でデータの送受信を行うことにより保険契約が行わ
れる。即ち,まず利用者は提示された入力フォームに必要事項を入力す
る。次に,入力した事項を含む契約内容確認データが利用者に提示され,
利用者は内容を確認し,同意の意味で電子署名を付す。また,利用者は
保険料の支払い方法を指定する。電子署名が付された契約内容確認デー
タ及び保険料の支払い方法の指定に基づいて保険契約がなされ,その旨
が利用者に通知される。また,この一連の処理の内容及び処理時刻がロ
グデータとして記録されている。」(段落【0007】)
・「よって,ネットワークを通じて容易に保険契約が結ばれるとともに,
そのために行われた処理についてのログデータが記録され,後の証明な
どに利用することができる。」(段落【0008】)
・「請求項2に記載の発明は,請求項1に記載の保険契約システムにおい
て,成立した前記保険契約についての証券データを作成する証券作成手
段と,前記証券データ及び前記ログデータを利用者へ送信する送信手段
と,を備えることを特徴とする。これにより,利用者は証券をデータの
形で保持することができる。また,利用者はログデータも保持するので,
自ら行った保険契約手続きの記録を保存しておくことができる。」(段
落【0009】)
・「請求項3に記載の発明は,請求項2に記載の保険契約システムにおい
て,前記送信手段による送信前に,前記証券データ及び前記ログデータ
に電子署名を付す署名手段を備えることを特徴とする。これにより,利
用者へ送られる証券データ及びログデータが真正なものであるか否かを
利用者が判断することができる。」(段落【0010】)
・【発明の実施の形態】
「以下,図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明す
る。」(段落【0018】)
・「図1に,本発明の実施形態にかかる保険契約システムの概略構成を示
す。なお,以下の実施形態では,契約者が海外旅行の傷害保険に加入す
る場合を例にとって説明する。」(段落【0019】)
・「図示のように,保険契約システムは,ネットワーク1を介してクライ
アント端末2,A社サーバ3,B旅行代理店のサーバ10,及びC保険
会社のサーバ12が接続されて構成される。ネットワーク1の最も好適
な例はインターネットである。」(段落【0020】)
・「クライアント端末2は,保険の契約を希望する利用者が使用する端末
であり,利用者の自宅や勤務先に設置されたものとすることができる。
クライアント端末2はICカードリーダを備え,ICカード5との間で
後述のように種々のデータを入出力することができる。また,クライア
ント端末2にはプリンタ6が接続され,必要な場合に記入書類などをプ
リントアウトすることができる。」(段落【0021】)
・「図1において,B旅行代理店はC保険会社の海外旅行傷害保険の取扱
代理店となっている。保険の契約上,利用者はB旅行代理店との間で保
険契約を行うことになる。A社は,利用者とB旅行代理店の間で行われ
る保険契約のための手続きをB旅行代理店に代わって代行する会社であ
り,ネットワーク1を介して利用者との間で種々の手続きを行う。そし
て,契約が成立した後で必要なデータなどをB旅行代理店及びC保険会
社へ送る。」(段落【0022】)
・「A社サーバ3は,A社が管理するデータベース4を有している。デー
タベース4には,保険契約手続きに必要な情報を利用者に入力してもら
うための入力フォームのデータが記憶されている。契約の際に利用者が
選択・入力すべき事項は多数存在するが,それらは関連するまとまり毎
に1つの構成モジュールとして用意され,データベース4に記憶されて
いる。例えば,住所・氏名,旅行内容に関する事項,保険料の支払い情
報,などが個別の構成モジュールとして用意される。それら構成モジュ
ールをデータベース4から読み出し,組み合わされることにより入力フ
ォームが構成され,利用者に提示される。」(段落【0023】)
・「また,A社サーバ3は,利用者の保険加入手続きの進行中に何らかの
処理が行われる毎にその処理内容及び時刻をログ情報として記録する。
このログ情報は,後に契約内容などが問題となった場合の証明として利
用することができる。なお,ログ情報の記録については後に詳しく説明
する。」(段落【0024】)
・「次に,ある利用者が契約を行う際の手続きの流れについて,図2及び
3を参照して説明する。図2は,1つの傷害保険契約手続きにおいて利
用者,A社サーバ,B旅行代理店及びC保険会社が実行する処理を示し
た図である。図3は,図2に示した手続きの進行中にクライアント端末
2上で利用者に提示される画面例を示す。」(段落【0025】)
・「クライアント端末2がA社サーバ3に接続されると、利用者が申し込
みのために必要な事項を入力するための入力フォームが表示される(ス
テップS6)。これらは、例えば図3に示すように、旅行先に関する事
項(画面2)、契約タイプに関する事項(画面3)、契約者に関する事
項(画面4)などに分けて利用者に提示される。なお、これらは先に述
べたように、個別の構成モジュールとしてデータベース4に記憶された
ものである。また、複数の構成モジュールの組み合わせとして1つの入
力画面上の入力フォームを構成することもできる。なお、図3において
各画面は入力すべき項目名のみをリスト的に表示しているが、実際は各
項目についての入力ボックスや選択枝が表示され、利用者が入力を行う
ことになる。」(段落【0027】)
・「次に、利用者はこれら画面2乃至4の指示に従って、必要事項を入力
する(ステップS8)。A社サーバ3は入力事項を受け取り、画面5に
示すような申し込み内容確認画面を利用者に提示して内容の確認を促す。
また、内容が正しければ、利用者の電子署名を行うことを要求する(ス
テップS10)。」(段落【0028】)
・「利用者は表示された契約内容を確認し、正しければ同意の意味で電子
署名を行う(ステップS16)。電子署名は一般的に以下のように行わ
れる。署名者(ここでは利用者)は、対象となるデータ(ここでは申し
込み内容確認データ)をハッシュ関数で処理し、その結果を署名者の秘
密鍵で暗号化する。この暗号化により得られたデータを電子署名として
対象となるデータと共に送信する。受け取り側(ここではA社サーバ)
は予め署名者の公開鍵を所持しており、電子署名を公開鍵で復号化して
ハッシュ関数による処理結果を得る。また、受け取った申し込み内容確
認データを同じハッシュ関数で処理して処理結果を作成し、電子署名か
ら得られた処理結果と比較する。両者が一致すれば、署名者からの文書
であることが確認される。」(段落【0029】)
・「次に、A社サーバ3は電子署名が付与された申し込み内容確認データ
を利用者から受け取り、公開鍵で復号化して利用者が確かに署名したか
否かを確認する。これにより、本人以外の者が他人に保険をかけること
を防止できる。確認後、A社サーバ3は利用者に支払い情報の入力フォ
ームを提示する(ステップS14、画面6)。利用者はクレジットカー
ド情報などの支払い情報を入力し、その支払い情報に対して電子署名を
付して送信する(ステップS16)。」(段落【0030】)
・「A社サーバ3はこのデータを受け取り,復号化してその利用者からの
データであることを確認する。その後,申し込み内容及び支払い情報の
内容を審査し,契約の成否を判定する。内容に問題が無い場合,契約を
成立させ,契約完了通知データを作成する(画面7)。契約完了通知デ
ータは,契約番号の他,契約内容を含む。そして,契約完了通知データ
にA社サーバの電子署名を付し,契約原本データとして一時的に保存す
るとともに,その複写データをクライアント端末2へ送信する(ステッ
プS20)。」(段落【0031】)
・「利用者は電子署名付きの契約完了通知データを受け取る(ステップS
20)。A社の電子署名は,A社がその保険契約を確かに行ったことを
示し,利用者はこれをA社の公開鍵で復号化することにより,その保険
契約の成立を確認することができる。」(段落【0032】)
・「その後,A社サーバ3は契約が成立したこと及び契約内容などを確認
のための電子メールで利用者へ送信する(ステップS22)。利用者は
確認メールによっても契約の成立及び契約内容を確認することができる
(ステップS24)。」(段落【0033】)
・「以上の処理において,A社サーバ3はA社サーバ自身及び利用者が
行った手続き・処理の内容及び時刻を逐次ログ記録している。即ち,A
社サーバ3が申し込み内容1を利用者に提示した時刻,利用者が必要事
項を入力して返信した時刻,利用者が契約内容確認データに電子署名を
付して送信した時刻,などが記録,保持される。そして,A社サーバ3
はこのログ情報を,その契約内容データと共にデータベース4などに記
憶,保存する。また,契約内容に基づいて証券データを作成し,これに
上記のログデータを添付し,A社の電子署名を付して利用者へ送信する
(ステップS28)。」(段落【0034】)
・「利用者は,証券データ及びログデータを受け取る(ステップS28)。
付与されている電子署名により,A社からの送信後に第3者が不正に内
容を改竄することが防止できる。このログデータは,上述の保険加入手
続きにおいてA社サーバ及び利用者が行った手続き・処理のログ記録で
あり,各手続き・処理の内容及び時刻が含まれている。このログデータ
は,その保険契約が有効に存在することの1つの証明手段として機能し
うる。利用者は受け取ったログデータを自己のICカード5に保存して
手続きの記録を残すことができる。さらに,契約手続きにおいて利用者
が入力した事項(住所・氏名などの利用者情報や支払い情報など)をI
Cカード5へ記憶しておくことにより,類似の契約を次回行う場合にI
Cカード5から利用者情報や支払い情報などを読み出して使用し,再入
力を省略することができる。」(段落【0035】)
・「また,B旅行代理店やC保険会社の代行業務を行うA社サーバがB旅
行代理店やC保険会社の電子署名を預かり,契約内容データに付して利
用者へ送信することもできる。」(段落【0046】)
・「また,代行業務を行うA社サーバは,契約後に種々の形態でデータの
管理を行うことができる。例えば,A社サーバは契約内容データの原本
を保管することができる。別の方法として,バックアップデータのみを
保管し,原本を保険会社へ送ることもできる。また,原本及びバックア
ップデータは保管せず,付与された電子署名データのみを保管すること
もできる。さらには,それら全て又はいずれかの組み合わせを保管する
こともできる。A社サーバは,こうして保管したデータについて後に利
用者や保険会社などから請求があった場合に証明を行うことができ
る。」(段落【0047】)
・【発明の効果】
「以上説明したように,本発明によれば,ウェブ上で容易かつ迅速に
保険契約を行うことができる。また,重要な内容やアクションに対して
は電子署名が付されるので,安全かつ確実に契約を行うことができる。
さらに,A社は契約の手続きにおいて自社,利用者及び他の機関が行っ
たアクション及びその時刻などの情報をログデータとして記録,保持し
ており,後に契約の有無や契約内容などについて疑義が生じた場合にロ
グデータをによる証明を行うことができる。」(段落【0048】)
・【図1】本発明の実施形態にかかる保険契約システムの概略構成を示す

・【図2】保険契約手続の流れを示す図
イ上記記載によれば,引用文献1に基づく引用発明は,インターネットを
利用した保険契約システムに関するものであり,上記システムは,利用者
が提示された入力フォームに必要事項を入力し,次に入力した事項を含む
契約確認データが利用者に提示され,利用者は内容を確認した上,同意の
意味で電子署名を付し,更に利用者は保険料の支払方法を指定し,電子署
名が付された契約内容確認データ及び保険料の支払方法の指定に基づいて
保険契約がなされ,その旨が契約内容を含む契約完了通知データに電子署
名を付して,利用者に通知されるとともに,この一連の処理の内容及び処
理時刻がログデータとして記録されることにより,ウェブ上で容易かつ迅
速,安全かつ確実に保険契約を行うとともに,後に契約の有無や契約内容
について疑義が生じた場合にログデータによる証明を行うものであること
を認めることができる。
(3)原告の主張に対する判断
本願発明における証券は,投資者が債権者となって債務者である事業者の
事業活動の結果得た利益の分配を受けられるようにすることなどを内容とす
る証券であるのに対し,引用発明の証券は旅行会社が代理して販売する保険
商品(海外旅行保険)に係る証券であり,証券に表わされる権利義務の内容
は異なる。また,本願発明の証券が市場で取引(売買)されることを前提と
しているのに対し,引用発明における保険証券は海外旅行の傷害保険であり,
市場で取引(売買)がされることを前提としたものではなく,両者は流通性
の点で異なる性格を有する。
しかし,本願発明における証券が本願における優先権主張日当時の証券取
引法2条1項各号に該当しないとしても,審決が認定した相違点1は,電子
化証券の電子データに含まれる「契約内容を示すデータ」が本願発明と引用
発明とでは異なるというものであるところ,上記のとおり,本願発明と引用
発明では証券に表わされる権利義務の内容が異なること,及び本願発明にお
ける証券は証券取引法2条1項各号に該当せず新規な権利関係を表わす証券
であることは,電子化証券の電子データに含まれる契約内容を示すデータの
変更をもたらすものではあるが,契約内容を示すデータの変更は「電子化証
券発行システム」のみならず証券分野一般において取り扱う証券の契約内容
の問題にすぎないのであって,特許法2条が想定する「自然法則を利用した
技術思想の創作」の問題ではない。そうすると,相違点1に係る本願発明の
構成は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する
者)が引用発明に基づいて,契約の内容を適宜取捨選択して容易に想到し得
たものというべきであり,これと結論を同じくする審決の判断に誤りはない。
なお,原告は,本願発明の証券は流通性を有するからこそ,証券の正当性
を保証するための証券発行者の電子署名が含まれ,さらに電子証券の電子デ
ータに対してコピー・プロテクトを電子的に施すとともに,1回のみの印刷
を可能とするプロテクトを電子的に施しており,本願発明の証券の流通性と
電子署名やコピープロテクトや印刷回数制限の考え方は,ひとまとまりの構
成ないし技術的思想として把握すべきものであって,証券の内容や流通性と
の関係で技術的変更を要するものである旨主張する。
しかし,証券の内容(契約内容を示すデータ)の変更が自然法則を利用し
た技術思想の問題ではなく,引用発明における「電子化証券発行システム」
に技術的な変更を必要とさせるものでないことは前記のとおりである。また,
証券の流通性故に,電子署名,電子データに対するコピー・プロテクト及び
印刷回数制限が必要であるとして本願発明がこれを備えるに至ったものであ
り,その点において引用発明との関係で技術的変更が必要であるとしても,
審決は,本願発明及び引用発明における電子化証券がいずれも「契約内容を
示すデータと証券の正当性を保証するための証券発行者の電子署名が含まれ
た電子データ」からなる点で一致することを認定した上,コピー・プロテク
ト及び1回のみの印刷を可能とするプロテクトが施された電子化証券の電子
データを処理するための機能手段の有無の点を相違点2として認定した上,
その容易想到性について判断している。したがって,原告の上記主張は,相
違点1に関する判断の誤りをいう点においては理由がなく,採用することが
できない。
3取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について
(1)原告は,甲5文献(甲5)には有価証券取引に関連する書類(口座開設の
ための書類,取引報告書,月次報告書等)のオンラインでの確認をできるよ
うにすることが記載されているだけであると主張する。
しかし,甲5文献には,「・・・日本においてインターネット取引を浸透
させるうえでの課題を述べる。・・・証券関係の書類の電子化も必要だ。・
・・証券会社サイドから見ても,取引報告書や月次報告書の顧客への送付が
義務付けられているために,人件費や郵送費などの負担が重くのしかかって
いる。各個人がオンラインで確認,印刷して保管すればよいという風になれ
ば,証券会社としてもかなりの経費節減になる。さらに種々の法定関係書類
においても電子化が進めば,かなりの事務量の軽減が可能になる。」との記
載(101頁左欄4行目∼102頁21行目)がある。
そして,上記記載によれば,甲5文献には,取引報告書等の顧客への送
付のための郵送費の節減のためインターネット取引を利用して有価証券取引
に関する書類を顧客が印刷して保管することが記載されていることが認めら
れ,そうすると,審決が甲5文献の記載から「有価証券に関する書類をオン
ラインで送達し,受け取り側が印刷する技術思想は当業者が通常有していた
周知の技術思想であ」る旨を認定したこと(23頁9行∼10行)に誤りは
なく,原告の前記主張は理由がない。
(2)原告は,引用文献4(甲4)には著作権保護のために電子ファイルの印刷
を禁止し又は印刷回数を制限することが示唆されているだけであって,本願
発明のように,有価証券の電子データの印刷を1回限りとし,印刷された証
券を原本として流通させる考え方は示唆されていないと主張する。
確かに,引用文献4は著作権保護のために電子ファイルの印刷を禁止又は
印刷回数を制限することは示唆されていても,有価証券の電子データの印刷
を1回限りとして印刷された証券を原本として流通させることについての記
載はない。
しかし,本願明細書(甲17)の段落【0045】に「・・・電子証券に
たとえば1回のみの印刷を可能とするプロテクトを電子的に施すことにより,
当該電子証券の印刷物を証券の原本として流通させる構成とすることができ
る。」と記載されているように,本願発明において電子証券の電子データの
印刷を1回のみ可能とする電子的プロテクトを施すのは,電子証券の電子デ
ータが複数回印刷され印刷された証券の原本性が担保されなくなること,す
なわち原本としての正当性を有さない,いわば違法な複製物たる証券が市場
で流通することを防ぐためであると認められる。してみると,引用文献4に
記載された技術と本願発明は,違法な複製物を作成しないために,電子デー
タの印刷回数を制限するという技術課題を有するという点では共通し,技術
分野も電子データの印刷という点では共通するといえる。そうすると,引用
文献4に記載された周知技術を引用発明に適用することにより本願発明の課
題である電子ファイルから印刷された印刷物の原本性を担保するとの効果を
得ようとすることは,当業者であれば容易に想到し得たことというべきであ
る。
(3)以上より,審決が,「・・・有価証券に関する書類をオンラインで送達し,
受け取り側が印刷する技術思想は当業者が通常有していた周知の技術思想で
あり,さらに,印刷に際してプリントジョブが送受信されることは当業者に
自明のことである。また,著作物の不正複写を禁止する著作権保護に関する
技術と有価証券の複製防止に関する技術とは,互いに関連する技術分野であ
り,著作物の不正複写を禁止するための技術手段を有価証券の複製防止のた
めに置換あるいは付加して適用することは,当業者の通常の創作能力の発揮
にあたる。」(23頁9行∼16行)として,相違点2に係る本願発明の
構成は,引用発明及び引用文献4に記載された事項及び周知技術に基づいて
当業者が容易に想到し得たものとした審決の判断に誤りはない。
4取消事由3(相違点4についての判断の誤り)について
審決は,印刷された証券を原本として流通させるか否かを本願発明と引用発
明の相違点4の一内容として認定したが,電子証券の電子データの画像を印刷
したものを証券の原本として認めた上流通させるか否かは人為的な取り決めに
よって決まるものであって,自然法則を利用した技術的思想に関する問題では
ないから,当該証券の発行者等の当事者が適宜決定できる事項である。
また,相違点4のうち,本願発明における電子化証券発行システムが引用発
明と異なり,「前記事業者が,前記電子証券を利用して資金を調達することが
できると共に,証券を購入することがなかった者が,前記電子証券を購入し,
新たな市場を形成することができるようにする」ことは,本願発明における電
子化証券発行システムの作用効果をいうにすぎない。
したがって,相違点4に係る本願発明の構成は,当業者が適宜決定すべき社
会的取決めに基づくものにすぎないとして,引用発明等に基づいて当業者が容
易に想到し得たものとした審決の判断に誤りはない。
5結語
以上によれば,原告主張の取消事由は全て理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官真辺朋子

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