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裁判例


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主文
原判決を破棄する。
被上告人の控訴を棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人諏訪康雄ほかの上告受理申立て理由及び上告参加代理人茅根熙和,同
春原誠,同和田健児の上告受理申立て理由(ただし,いずれも排除されたものを除
く。)について
1本件は,被上告人に所属する組合員(以下「被上告人所属者」という。)ら
が上告参加人(以下「参加人」という。)から運転士に発令されないことが所属労
働組合を理由とする不利益な取扱い及び被上告人に対する支配介入であり不当労働
行為に当たるとする被上告人の救済申立てにつき,千葉県地方労働委員会(当時)
が救済命令を発したところ,再審査の申立てを受けた中央労働委員会が不当労働行
為の成立を否定して上記命令を取り消し,上記救済申立てを棄却する旨の命令(以
下「本件命令」という。)をしたため,被上告人がその取消しを求める事案であ
る。
2原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
参加人は,昭和62年4月1日,日本国有鉄道改革法等に基づき,日本国有
鉄道(以下「国鉄」という。)が経営していた東日本区域の旅客鉄道事業等を承継
して設立された株式会社である。
被上告人は,昭和62年3月31日までは国鉄の,同年4月1日からは参加人等
の職員のうち,旧C局管内の動力車に関係のある者で組織された労働組合である。
参加人の職員の労働組合としては,被上告人のほかにA労組(以下「A労組」とい
う。)やB労組(以下「B労組」という。)等がある。
ア国鉄においては,国鉄職員採用規程による合格者で動力車乗務員を希望し
動力車乗務員採用試験に合格した者について,新規採用時教育を経て鉄道学園の普
通課程動力車乗務員予科で教育を受け,同予科修了後に助士職等に従事し,その後
に試験を受けて普通課程動力車乗務員本科に入り,同本科修了後に士職見習として
実務練習に従事し,実務試験に合格すれば運転士資格を取得して,運転士に発令さ
れるという養成体系を基本として,運転士の養成が行われていた。
この養成体系は昭和52年度の採用者から実施されており,同54年度に上記予
科に入った者までは,ほぼ全員が上記体系のとおり養成されて運転士に発令された
が,同55年度から同57年度までに上記予科に入った者については,上記体系が
それまでと一部異なる形で運用されるなどし,運転士資格取得後の運転士への発令
(以下「運転士発令」ともいう。)を留保されていた。上記のような国鉄における
職員の採用は,昭和57年度が最後であった。
イ他方,参加人は,昭和63年5月に就業規則の細則として昇進基準を定め,
この昇進基準において,運転士になろうとする者は,運転士試験を受けて合格した
後に所定の教育を受け,その修了試験に合格すれば運転士資格を取得するが,運転
士発令は需給状況等を勘案してするものとされ,上記修了試験合格及び運転士発令
の各段階でそれぞれ昇格するものとされていた。そして,昇進基準の説明資料で
は,運転士については,一部の例外的な経路を除いて,その前段階で車掌職を経験
することを標準的な昇進経路とするものとされ,このことは被上告人を含む参加人
の労働組合にも説明された。このような昇進経路が定められたのは,国鉄におい
て,運転士や車掌等の系統ごとの意識が強く,それがサービスの低下等につながっ
ていたことから,その弊害を解消することを目的とするものであった。
参加人のC支社は,昭和63年以降,次のような形で運転士発令を行った。
ア運転士経験者に対する運転士発令
C支社では,国鉄において運転士を経験していた職員で直営売店等に配属されて
いた者から,昭和63年から平成元年にかけて60名を運転士に発令した。このう
ち,被上告人所属者は23名であった。
イ運転士発令留保者に対する車掌職を経た運転士発令
C支社では,昭和63年12月に予定されていたD線の暫定開業に伴い平成元年
夏に車掌が不足することが見込まれる一方,新たに定められた前記の昇進基準に基
づく車掌試験等を行って車掌を確保することは時期的に困難な面があった。そこ
で,前記アのとおり,昭和55年度から同57年度までに前記予科に入って運転
士資格を取得した者で,国鉄における運転士発令が留保されたため運転士の経験が
なく,国鉄における前記体系の下で養成されたため車掌職の経験もない者(以下
「本件未発令者」という。)に,補完教育と呼ばれる車掌となるための教育を施し
て車掌に発令することとし,選考の手続を経た上,車掌となることを希望した者1
5名から7名を選んで補完教育を行い,昭和63年12月に車掌に発令した。この
7名はいずれもA労組に所属する組合員(以下「A労組所属者」という。)であ
り,被上告人所属者はいずれも車掌となることを希望しなかった。
C支社は,平成2年にD線のE駅開業等により運転士が不足することが見込ま
れ,需要に応じた運転士発令ができる人材を確保する必要があったことから,同元
年も,本件未発令者のうち希望する者から補完教育の対象者の選考を行った。同支
社は,現場長において将来運転士となるためには車掌職を経験した方がよい旨を説
明して本件未発令者との面談を行い,選考の手続を経た上,車掌となることを希望
した者29名から15名を選んで補完教育を行い,平成2年1月に車掌に発令し
た。補完教育の対象として選ばれたのは,A労組所属者が希望者9名全員,被上告
人所属者が希望者11名のうち3名であり,その余の3名はB労組に所属する者で
あった。なお,被上告人所属者であった上記3名は,運転士発令に至る前に被上告
人を脱退した。
C支社は,以上のようにして車掌職を経験した本件未発令者を平成元年から同2
年にかけて運転士に発令した。なお,本件未発令者に対する補完教育は,平成2年
以降は行われていない。
ウ昇進基準に基づく運転士発令
C支社では,平成3年以降,昇進基準に基づく運転士発令をすることが可能にな
ったことから,原則として新規に所定の試験に合格した者で車掌職の経験を積ませ
た者の中から昇進基準に基づいて運転士発令を行っている。
なお,C支社では,運転士の経験のない者に対する運転士発令については,車掌
職の経験をほぼ必要不可欠な条件とする運用がされていたところ,上記のとおり,
平成2年以降は本件未発令者に対する車掌への発令のための補完教育は行われてい
なかった。そして,本件未発令者のうち被上告人所属者については,1名が昇進基
準に基づくものとは別途の発令として平成12年に運転士に発令されたが,他の者
は運転士に発令されていない。また,本件未発令者のうちA労組所属者であって運
転士発令をされていない者は,平成4年時点で,そのほとんどがC支社の非現業の
職員又は運転士発令を希望しない者であった。
被上告人は,国鉄の労働組合であった頃から,いわゆる国鉄の分割民営化に
反対する立場を明確にし,ストライキを含む反対闘争を行った。また,参加人が設
立された以後も,平成元年には営業,売店及び研修職場における2度のストライキ
や列車を止めるストライキを実施し,同2年1月及び3月にも断続的にストライキ
を実施した。
他方,参加人の幹部は,昭和62年に開かれた経営計画の考え方等の説明会にお
いて,穏やかな労務政策を採る考えはない,参加人の方針に対する反対派はしゅん
別して断固として追及する,等距離外交は考えていないなどと述べたり,同年に開
かれたA労組の定期大会において,反対派が残っていることは残念なことであり,
A労組が参加人における一企業一組合になることを期待する旨を述べたりした。
被上告人は,参加人が平成元年の補完教育の対象者の選考に当たって所属労
働組合による差別を行ったものであり,同2年以降は補完教育を廃止して昇進基準
に基づく運転士発令を行っているのも,本件未発令者のうち被上告人所属者を運転
士にさせないことを目的とするものであって,所属労働組合による差別であるなど
と主張している。
3原審は,上記事実関係等の下で,次のとおり判断して,不当労働行為の成立
を否定した本件命令を取り消すべきものとした。
本件未発令者のうち,平成元年の補完教育を希望した被上告人所属者は11名い
たが対象者として選ばれたのは3名にすぎず,他方,同年の補完教育を希望したA
労組所属者は9名全員が対象者として選ばれるなど,その選考において著しい差異
が生じているところ,参加人は被上告人所属者が適性や成績で劣るというような主
張や立証を一切しておらず,このような差異が生じたのは所属労働組合が選考の考
慮要素とされたことを強く推定させる。参加人の幹部は被上告人に対する嫌悪や敵
対的な態度を表明しているのであるから,選考を担当したC支社の幹部においても
同様の意識を有していた蓋然性は高い。平成4年の時点でA労組所属者に運転士へ
の発令の必要がある者はいないかごく少数にとどまっていたとうかがわれ,参加人
が補完教育を廃止し,以後は昇進基準に基づいて職員を運転士に発令してその需要
を満たし,本件未発令者を運転士の登用の経路から排除したのは,上記の時点で本
件未発令者のうち運転士になることを希望した者の全てないし大半が被上告人所属
者であったためであると考えざるを得ない。参加人は,本件未発令者からの運転士
への発令に関して,所属労働組合を理由として被上告人所属者を不利益に扱い,被
上告人の弱体化を図ったものというべきであり,労働組合法7条1号本文にいう不
利益な取扱い及び同条3号の支配介入による不当労働行為が成立する。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
平成元年の補完教育の対象者の選考において,本件未発令者のうち,A労組所属
者については希望者全員が対象者として選ばれたのに対し,被上告人所属者につい
ては対象者として選ばれたのは希望者の一部にとどまっていた。しかしながら,前
記2イのとおり,参加人が昭和63年5月に定めた昇進基準においては運転士発
令が昇進として位置付けられていたものであり,その昇進に至る過程の一つと解さ
れる補完教育の対象者の選考に当たり,本件未発令者のうち補完教育を希望した被
上告人所属者の中で対象者に選ばれなかった者の能力や勤務成績等が,対象者に選
ばれたA労組所属者と比較して劣るものでなかったということについては,被上告
人が一応の立証をすべきところ,そのような事情はうかがわれない。また,上記選
考においても被上告人所属者3名が補完教育の対象者として選ばれていることに加
え(上記3名は運転士発令に至る前に被上告人を脱退したというのであるが,それ
が参加人からの働きかけによるものと認めるべき事情はうかがわれない。),上記
選考とほぼ同じ時期に,国鉄において運転士を経験していた被上告人所属者23名
が参加人によって運転士に発令されてもいるところである。
そして,参加人は,平成2年以降は補完教育を行わずに昇進基準に基づいて運転
士発令をしているが,この同年以降の運用の下において,同元年までの補完教育を
受けなかった本件未発令者が原則として運転士に発令されなくなったことは,所属
労働組合が被上告人である者と他の組合である者との間で異なるものではない。ま
た,補完教育が行われた当時において,被上告人所属者である本件未発令者のう
ち,平成元年の補完教育を希望しながら対象者に選ばれなかった者については補完
教育の対象者とはしないとの参加人の判断が示されていたものということができ,
その余の者は車掌職の経験が運転士発令に至る標準的な昇進経路であることが周知
されていた中で車掌となるための補完教育を受けることを希望していなかったもの
であって,その後,昇進基準に基づく運転士発令に加えてこれらの者を対象として
改めて同様の教育の機会を特に設けるべき需給状況の変化等の事情が生じていたと
もうかがわれない。
これらの事情によれば,平成元年の補完教育の対象者に係る選考の結果が上記の
とおりであることや,前記2のように被上告人がストライキを含む反対闘争を行
っている中で参加人の幹部が参加人の方針に対する反対派の労働組合への敵対的な
姿勢を示す発言をしていたことなどを考慮しても,参加人が補完教育の対象者の選
考において所属労働組合を理由として被上告人所属者を不利益に取り扱ったものと
までいうことはできず,また,参加人が平成2年以降は補完教育を行わなかったこ
とが,上記のような選考の結果や補完教育に係る希望の状況,運転士及び車掌の需
給状況等を踏まえて同年以降は運転士発令を所定の標準的な形で行う趣旨で採られ
た措置であるという以上に,殊更に被上告人所属者を運転士の登用の経路から排除
する目的に出たものであるということもできない。
以上によれば,参加人が,運転士の経験のない者に対する運転士発令につき車掌
職の経験をほぼ必要不可欠な条件とする運用の下で,本件未発令者につき,車掌へ
の発令のために行われた平成元年の補完教育の対象者の選考において被上告人所属
者である希望者11名からは3名を除いて対象者に選ばず運転士に発令しなかった
こと及び同2年以降は補完教育を行わず被上告人所属者である本件未発令者からは
1名を除いて運転士に発令しなかったことは,いずれも,所属労働組合を理由とす
る労働組合法7条1号本文にいう不利益な取扱いに当たるとはいえず,被上告人に
対する同条3号の支配介入に当たるともいえないというべきである。
5これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上に説示した
ところによれば,被上告人の請求は理由がなく,これを棄却した第1審判決は正当
であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官櫻井龍子裁判官宮川光治裁判官金築誠志裁判官
横田尤孝裁判官白木勇)

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