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平成15年(ネ)第5415号 特許権侵害差止等請求控訴事件
平成16年9月22日口頭弁論終結
(原審・東京地方裁判所平成15年(ワ)第2355号,平成15年9月30日判
決)
     判    決
控訴人(原告) ジー・オー・ピー株式会社
 訴訟代理人弁護士 小林幸夫
 補佐人弁理士 久保司
 被控訴人(被告) アルインコ株式会社
 訴訟代理人弁護士 加藤幸江,弁理士 藤川忠司
     主    文
 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。
     事実及び理由
第1 控訴人の求めた裁判
 控訴人は,原判決取消しの判決とともに,原判決事実及び理由欄の「第1 原告
の請求」に記載のとおりの差止め等と金銭支払命令の判決並びに仮執行宣言を求め
た。
第2 事案の概要
 1 控訴人は,本件特許権(特許番号・第2989166号,発明の名称「アル
ミニウム製可搬式作業台」。特許権者は,控訴人及び株式会社住軽日軽エンジニア
リングである。)に基づき,被告製品(原判決別紙目録記載の製品)を製造販売し
ている被控訴人に対し,その製造販売の差止め等及び損害賠償金の支払を請求した
のに対し,原判決は,被告製品は本件特許発明の技術的範囲に属するが,本件特許
発明は進歩性を欠如することが明らかであるとし,本件特許権に基づく控訴人の本
訴請求は権利の濫用に当たり許されない,と判断して,控訴人の請求を棄却した。
 2 事案の概要の詳細は,原判決事実及び理由欄の「第2 事案の概要」に示さ
れているとおりである。なお,下記のとおり,原判決後に特許請求の範囲の訂正を
含む訂正請求が認められているので,訂正前の請求項の記載に基づいてされた原判
決の争点2(無効事由の存否)に関する当事者の主張部分を除く。
 3 当審係属後,被控訴人が請求していた本件特許についての無効審判請求事件
(無効2003-35082)の手続において,平成15年12月1日控訴人を含
む特許権者により請求項2の削除を含む訂正請求があった。その訂正後の請求項1
の記載は,次のとおりである。
「【請求項1】 アルミニウム押出形材とアルミニウム板を組合わせた天板の両側
端部に,アルミニウム押出形材からなる梯子状の主脚を天板の裏側に沿って折り畳
み可能に設けた可搬式作業台において,天板の4つの隅角部又は天板の4つの隅角
部から延びる主脚に,中空のアルミニウム押出形材で構成する手掛け部材を立設位
置から主脚の側面に沿って折り畳み可能に取付けたことを特徴とするアルミニウム
製可搬式作業台。」(この発明を,以下「訂正発明」という。)
 上記無効審判請求事件につき,平成16年2月17日,「訂正を認める。特許第
2989166号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」と
の審決があり,この審決に対する取消訴訟が当庁平成16年(行ケ)第117号と
して係属中である。
 4 上記無効審決の理由の要旨は,次のとおりである。
  (1) 訂正発明と,刊行物1(「仮設機材マンスリー第152号」2~4頁,平
成9年5月1日,社団法人仮設工業会発行。本訴乙4)とを対比すると,両者の一
致点及び相違点は次のとおりであると認められる。
 【一致点】
 「アルミニウム部材から構成された天板の両側端部にアルミニウム部材からなる
梯子状の主脚を天板の裏側に沿って折り畳み可能に設けた可搬式作業台において,
天板面から上に突出した手掛け部材を設けたアルミニウム製可搬式作業台。」
 【相違点1】
 訂正発明の天板がアルミニウム押出形材とアルミニウム板を組合わせた天板であ
るのに対し,刊行物1記載の発明の天板はアルミニウム部材であるものの,アルミ
ニウム押出形材とアルミニウム板を組合わせたものかどうか不明な点,
 【相違点2】
 訂正発明の梯子状の主脚は,アルミニウム押出形材からなるのに対し,刊行物1
記載の発明の主脚はアルミニウム部材であるものの,アルミニウム押出形材からな
るのかどうか不明な点,
 【相違点3】
 訂正発明の手掛け部材は,天板の4つの隅角部又は天板の4つの隅角部から延び
る主脚に,中空のアルミニウム押出形材で構成する手掛け部材を立設位置から主脚
の側面に沿って折り畳み可能に取付けたのに対し,刊行物1記載の発明において
は,手掛け部材の取付けや材料について記載されていない点。
  (2) 相違点に関する審決の判断
  (ア)相違点1,2について
 刊行物1発行当時において,アルミニウム合金製可搬式作業台の主要部材がアル
ミニウム合金の押出形成や板及び条で製造されることが一般的であったことが認め
られる。そうすると,訂正発明の相違点1,2に係る構成は当業者が適宜できた設
計的事項にすぎない。
  (イ)相違点3について
 刊行物1記載の発明の手かけ部材に,刊行物2(実願平5-10880号(実開
平6-59600号)のCD-ROM。本訴甲20)記載の構成の上記手すりを適
用し,設計変更をすることによって,訂正発明の各相違点に係る構成とすること
は,当業者が容易に想到できた事項にすぎない。また,訂正発明が奏する作用効果
は,刊行物1記載の発明に刊行物2に記載された事項を適用すれば当然に奏する作
用効果であって格別なものではない。
  (3) 審決の結論
 したがって,訂正発明は,刊行物1,2記載の発明から当業者が容易に発明でき
たものであって,特許法29条2項に該当する。訂正発明の特許は,特許法29条
2項の規定に違反してなされたものであって,同法123条1項2号に該当し,無
効とすべきものである。
 5 この審決につき,控訴人が本訴で主張するところは,大要,次のとおりであ
る。
  (1) 審決は,相違点3についての判断の中で,中空のアルミニウム押出形材で
製造した可搬式作業台自体が公知である,と認定したが,誤りである。
  (2) 手掛け部材を作業台天板の4つの隅角部に設けたことの作用効果は,昇降
時の安全性の向上と,天板上での作業時の安全性の向上の2つである。後者の作用
効果は,刊行物2からは導き出せないものである。すなわち,刊行物2における,
天板上での作業時の安全性は脚立上での作業の安定化であるのに対し,訂正発明に
おける安全性は,天板の4つの隅を立設する手掛け部材の存在が天板の広さを明示
して天板上の作業時の安全性を確保するものであって,大きく相違する。
第3 当裁判所の判断
 1 刊行物1(乙4及び乙4の2)には,「支柱の基本は□パイプ構造。軽量と
剛性の両立を図られ」(アルインコ株式会社の「多機能作業台」紹介頁)と記載さ
れているし,これと,「可搬式作業台の主要部分に使用するアルミニウム合金」
(3頁「4材料等」の4-1)との記載や,「押出形材を使用する場合」(同4-
1(1))との記載からすると,刊行物1において,可搬式作業台の主要部品が,中空
のアルミニウム合金の押出形材を用いて形成されるものであって,中空のアルミニ
ウム押出形材で製造した可搬式作業台自体が公知であったことは明らかである。
 そして,手掛け部材は,昇降時及び作業時にこれを掴んで,安全かつ安定して作
業をするために設けられるものと認められるし,刊行物1記載の発明における使用
態様は,作業台が,いずれの主脚側からも昇降可能とされ,また,作業者が天井等
の仕上げ作業中に天板上で向きを変えることができるものと認められるから,昇降
の便宜,安全を考え,また,作業中の安全を考えて,手掛け部材を,天板の1カ所
だけとはせず,4隅部に4カ所設けることは,当業者ならば容易に想到できること
であり,天板の広さを明示して天板上の作業時の安全性を確保するという作用効果
も,この構成から当然に導かれるものにすぎない。
 したがって,審決の認定判断の誤りについて控訴人が主張する点は理由がない。
他に,審決の認定判断を左右するに足りる事情も認められないので,訂正発明に進
歩性がないとした審決の判断は支持し得るものである。
 2 なお,この審決に対する取消訴訟(当庁平成16年(行ケ)第117号)は,
本控訴審と同一の裁判体で審理して同一の期日に弁論を終結し,本件の判決言渡し
と同一の期日に,上記審決に誤りは認められないと判断し,控訴人を含む特許権者
の審決取消請求は理由がないとの判決を言い渡すものである。
 3 してみれば,訂正発明は進歩性を欠如し,本件特許権には無効事由が存する
ことが明らかである。本件特許権に基づく控訴人の本訴請求は権利の濫用に当たり
許されない。
第4 結論
 よって,控訴人の本訴請求は理由がないので,本件控訴は棄却されるべきであ
る。
  東京高等裁判所知的財産第4部
        裁判長裁判官塚  原  朋  一
           裁判官塩  月  秀  平
 裁判官 髙  野  輝  久

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