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平成30年7月18日宣告
793号・第924号所得税法違反被告事件
主文
1被告人N1を懲役3年及び罰金8000万円に処する。
被告人N1に対し,未決勾留日数中700日をその懲役刑に算入する。
被告人N1においてその罰金を完納することができないときは,金12万
円を1日に換算した期間(端数は1日に換算する。),被告人N1を労役場
に留置する。
2被告人N2を懲役2年6月に処する。
被告人N2に対し,未決勾留日数中600日をその刑に算入する。
3訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。
理由
【罪となるべき事実】
被告人N1(以下「被告人N1」という。)は,北九州市a区bc丁目d番e号に
居住し,駐車場の賃貸業を営んでいるほか,暴力団四代目N3會会長又は暴力団五
代目N3會総裁として,N3會に対して上納された資金からの収入を得ていたもの,
被告人N2(以下「被告人N2」という。)は,被告人N1の預貯金を管理するなど
していたものであるが,被告人両名は,共謀の上,被告人N1の所得税を免れよう
と企て,N3會に対して上納された資金からの収入を除外し,被告人N1以外の名
義の銀行口座に留保するなどの方法により所得を秘匿した上,
第1被告人N1の平成22年分の実際の総所得金額が161,451,582円
であったにもかかわらず,平成23年2月16日,北九州市a区fg番h号所
在の所轄N4税務署において,同税務署長に対し,総所得金額が12,101,
582円で,これに対する所得税額が2,071,200円である旨の虚偽の
所得税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,もって不正の行
為により,被告人N1の平成22年分の正規の所得税額61,164,400
円と前記申告税額との差額59,093,200円を免れ,
第2被告人N1の平成23年分の実際の総所得金額が196,900,911円,
分離課税による短期譲渡所得金額が74,817,414円であったにもかか
わらず,平成24年3月6日,前記N4税務署において,同税務署長に対し,
総所得金額が9,250,911円,分離課税による短期譲渡所得金額が74,
817,414円で,これらに対する所得税額が23,657,800円であ
る旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,も
って不正の行為により,被告人N1の平成23年分の正規の所得税額97,9
24,300円と前記申告税額との差額74,266,500円を免れ,
第3被告人N1の平成24年分の実際の総所得金額が142,385,563円
であったにもかかわらず,平成25年3月5日,前記N4税務署において,同
税務署長に対し,総所得金額が9,185,563円で,これに対する所得税
額が1,186,000円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し,その
まま法定納期限を徒過させ,もって不正の行為により,被告人N1の平成24
年分の正規の所得税額53,652,800円と前記申告税額との差額52,
466,800円を免れ,
第4被告人N1の平成25年分の実際の総所得金額が172,019,454円
であったにもかかわらず,平成26年3月13日,前記N4税務署において,
同税務署長に対し,総所得金額が13,069,454円で,これに対する所
得税及び復興特別所得税の額が2,001,900円である旨の虚偽の所得税
及び復興特別所得税の確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,
もって不正の行為により,被告人N1の平成25年分の正規の所得税及び復興
特別所得税の額66,319,200円と前記申告税額との差額64,317,
300円のうち所得税額62,994,417円を免れ,
第5被告人N1の平成26年分の実際の総所得金額が197,936,584円
であったにもかかわらず,平成27年3月9日,前記N4税務署において,同
税務署長に対し,総所得金額が17,186,584円で,これに対する所得
税及び復興特別所得税の額が3,382,300円である旨の虚偽の所得税及
び復興特別所得税の確定申告書を提出し,そのまま法定納期限を徒過させ,も
って不正の行為により,被告人N1の平成26年分の正規の所得税及び復興特
別所得税の額76,740,400円と前記申告税額との差額73,358,
100円のうち所得税額71,849,265円を免れた。
【証拠】(記載省略)
【補足説明】(別紙省略)
第1被告人両名の弁護人らの主張
本件各公訴事実の要旨は,被告人両名が共謀の上,平成22年分ないし平成26
年分の被告人N1の所得税の各確定申告(以下,これらの確定申告を併せて「本件
各申告」という。)において,いずれも総所得金額を偽り,正規の所得税額等と申告
税額との差額(ほ脱税額合計約3億2000万円)を免れたとするものであり,検
察官は,建設業者等から被告人らが所属する暴力団組織に対して上納された金銭の
うち被告人N1に分配される金銭をもって被告人N1のほ脱所得に当たると主張し
ている。これに対して,被告人両名の弁護人らは,検察官がほ脱所得と主張してい
るものは,被告人N1の所得ではなく,被告人両名が所属する暴力団組織のもので
あるから,被告人N1は,本件各申告において虚偽過小の申告をした事実はなく,
被告人両名はいずれも無罪である旨主張している。
第2前提事実
証拠によれば,前提事実として,以下の事実が容易に認められ,当事者も争って
いない。
1暴力団N3會と被告人両名の地位等
N3會(以下,時期名称を問わないときは単に「N3會」という。)は,北九州市
a区に主たる事務所を,北九州市,中間市,行橋市,豊前市及び宮若市に事務所を
置く指定暴力団である。
平成12年1月,四代目N3會が発足したが,その際,序列1位の総裁にN5(以
下「N5」という。),序列2位の会長に被告人N1が就任し,平成15年2月には
服役を終えたN6(以下「N6」という。)が序列3位の理事長に就任した。
平成20年7月1日にN5が死亡し,平成23年7月には五代目N3會が発足し
たが,その際,総裁に被告人N1,会長にN6,理事長にN7(以下「N7」とい
う。)が就任した。
被告人N2は,平成16年12月にN3會事務局長,平成17年12月にはN3
會総務委員長に就任し,N3會の資金全般の管理を任されていた。
2被告人N1による本件各申告等
被告人N1は,平成23年2月16日に平成22年分の所得税について別紙2の,
平成24年3月6日に平成23年分の所得税について別紙3の,平成25年3月5
日に平成24年分の所得税について別紙4の,平成26年3月13日に平成25年
分の所得税について別紙5の,平成27年3月9日に平成26年分の所得税につい
て別紙6の,それぞれ各申告額欄のとおり記載された確定申告書をいずれもN4税
務署長に対して提出した(本件各申告)。本件各申告では,いずれも不動産賃貸料等
による不動産所得が申告され,平成23年分については,それに加えて,不動産の
譲渡に伴う分離課税の所得も申告されているが,その他に所得の申告はない。
被告人N1の本件各申告については,被告人N2が,知人の保険事務所経営者に
関係資料を渡し,同経営者において,会計データを作成するなどした上,税理士又
は税理士法人に確定申告書の作成を依頼し,完成した確定申告書を受け取った前記
保険事務所経営者が,これを税務署に提出する方法により行われていた。被告人N
2は,平成22年分から平成25年分の確定申告については,確定申告書の提出前
に,前記保険事務所経営者が作成した会計データに基づき,被告人N1に申告予定
の内容を報告していた。
3被告人両名の逮捕等
被告人N1は,別事件により平成26年9月11日に逮捕された後,所得税法違
反事件により平成27年6月16日に逮捕され,一方,被告人N2は,所得税法違
反事件により同日逮捕され,以後,被告人両名については,身柄を拘束され,接見
等が禁止された状態が続いている(なお,被告人N2は,弁論終結後である平成3
0年4月5日に保釈許可決定に基づき釈放された。)。
本件各申告に関しては,国税当局により,被告人N1が保有していた銀行口座に
対して,合計8億1847万2500円の預貯金の差押えがされ,国税の徴収は確
保されている。
4被告人N2の管理口座(N8銀行関係)
被告人N2は,N3會の活動に関して,以下のとおり,遅くとも平成17年5月
30日以降,被告人N2及びその親族の名義で,株式会社N8銀行に開設された複
数の口座を管理していた。具体的には,①平成17年5月30日以降被告人N2名
義の記号番号××-××の口座で管理していた貯金の残高のうち1億円を除いた2
957万6122円を同年9月2日にN9名義の記号番号××-××の口座に移し,
その後,同口座で管理していた貯金の残高全額(1億4283万2566円)を平
成19年8月1日にN10名義の記号番号××-××の口座に移し,同口座で管理
していた貯金の残高のうち236円を除いた1億0644万4000円を平成20
年7月7日に引き出すまで,これらの口座を一連のものとして管理しており(以下,
①の各口座を併せて「第1系列口座」という。),②平成17年5月30日以降N1
1名義の記号番号××-××の口座で管理していた貯金の残高のうち515円を除
いた52万6000円を平成24年5月30日にN10名義の記号番号××-××
の口座に移し,その後,同口座で管理していた貯金の残高のうち1102円を除い
た5012万6000円を同年11月1日に被告人N2名義の記号番号××-××
の口座に移し,これらの口座を一連のものとして管理しており(以下,②の各口座
を併せて「第2系列口座」という。),③平成17年5月30日以降N12名義の記
号番号××-××の口座で管理していた貯金の残高全額(3億2868万9101
円)を平成20年9月1日にN10名義の記号番号××-××の口座に移して,こ
れらの口座を一連のものとして管理していた(以下,③の各口座を併せて「第3系
列口座」という。)。
第3争点に対する判断
検察官は,N3會に上納された金銭のうち被告人N1に分配される収入を被告人
N2が第2系列口座に入金して管理していたと主張しており,被告人両名の弁護人
らは,この金銭は,被告人N1の分配収入ではなく,N3會の金銭であると主張し
ているので,争点は,第2系列口座に入金された金銭が実質的にみて被告人N1に
帰属するか否かである。以下,検討する。
1第1系列口座ないし第3系列口座の入金状況等
第1系列口座ないし第3系列口座は,いずれも被告人N2及びその親族の名義で
被告人N2が管理する口座であったところ,証拠によれば,平成17年5月30日
以降の各口座の入金状況について,次のような傾向が認められる。
まず,平成20年6月30日以前についてみると,第1系列口座ないし第3系列
口座には,いずれも1回につき10万円程度から1000万円を超える金額が頻繁
に入金され(同じ日に複数回入金されていることもある。),入金額は年間合計で数
千万円ないし数億円の規模に及んでいるが,その入金のほとんどは,いずれも同一
の郵便局においてほぼ同時刻か十数分以内の差で行われており,口座ごとの入金額
の比率は,ごくわずかの例外を除き,第1系列口座,第2系列口座,第3系列口座
の順に3対3対1となっている。
次に,平成20年7月1日以降についてみると,第1系列口座への入金はなくな
る一方で,第2系列口座及び第3系列口座へは,それ以前と同様に,いずれも1回
につき10万円程度から1000万円を超える金額が頻繁に入金されており,入金
額は年間合計で数千万円ないし数億円の規模に及んでいるが,その入金のほとんど
は,いずれも同一の郵便局においてほぼ同時刻か十数分以内の差で行われており,
かつ,第2系列口座と第3系列口座への入金額の比率の多くが5対1,それ以外も
第2系列口座が概ね3ないし6に対し,第3系列口座が1となっている。
このように,被告人N2が管理していた第1系列口座ないし第3系列口座,ある
いは第2系列口座及び第3系列口座には,頻繁に高額の金銭が入金されていたとこ
ろ,同一機会に各口座へ一定の比率で繰り返し入金がされているという特異な入金
状況があることに照らすと,N3會の経理全般の責任者である被告人N2が,N3
會に関して得た巨額の金銭を何らかの明確な目的・法則の下で継続的に管理してい
たことが推察される。
2N3會の経理及び第3系列口座の管理状況等
証拠(項目ごとに掲記する。)(記載省略)によれば,次の事実が認められる。
N3會の経理全般の状況
N3會には複数の二次団体が存在し,これらの二次団体は,各組員から徴収する
運営費のほか,飲食店等から受け取るみかじめ料を収入として活動を行っているが,
幹事と呼ばれる役職以上の組員からは,二次団体に納める運営費とN3會に納める
運営費(月1万円の共済費を含む。以下「會運営費」という。)を併せて徴収してい
た。
N3會には,組織全体の経理を含め,その運営に関わる事務作業全般を扱う事務
局が設けられており,事務局には複数の事務局員が所属している。被告人N2は,
遅くとも平成16年12月以降,N3會事務局長ないしは総務委員長として,事務
局を統括し,経理全般の責任を負う立場にあった。
N3會事務局は,毎月9日の事務局会議と呼ばれる場において,各二次団体が徴
収した會運営費を集めていたところ,毎月集められる會運営費の合計額は,多いと
きには2000万円を超えていたこともあったが,平成23年以降は1500万円
を下回ることも少なくなかった。被告人N2は,その中から長期服役者のための積
立金として一定額を取りのけた上で,N3會事務局の手持ち現金として500万円
を事務局員に預け,その残りのうち,概ね250万円を共済金として株式会社N1
3銀行の被告人N2名義の預金口座(以下「N14口座」という。)に入金し,その
余をN15信用組合北九州支店に開設された被告人N2の親族名義の預金口座(以
下「N16口座」という。)に入金するなどして管理していた。
そして,事務局員は,被告人N2から預かった500万円の現金でN3會本体の
運営に必要な光熱費等を支出し,それが不足すると被告人N2に補填を依頼してお
り,被告人N2は,100万円単位の現金をN16口座から引き出すなどして準備
し,事務局員に渡していた。N3會の運営に必要な経費としては,前記の積立金や
共済金のほか,他団体との慶弔費,N3會内の祭事の費用などがあり,それらを含
めると毎月2000万円ないし2500万円程度に及び,會運営費のみの収入では
到底賄えない状態が続いていた。
⑵第3系列口座の管理状況等
被告人N2が管理する第3系列口座については,平成17年5月30日から平成
26年12月末までの間,44回の出金がある(出金後数日内に出金額と同額が同
口座に戻されているものを除く。)が,このうち34回の出金(合計7億3200万
円)については,概ね出金後数分から1時間以内に,同額又はその大部分に当たる
金額(合計6億4560万円)がN16口座に入金されている。つまり,被告人N
2は,第3系列口座内の金銭を,いったんN16口座に移してから,前記のとおり
100万円単位でこれを引き出し,N3會の経費に充てていたものであるが,第3
系列口座から出金した現金を自宅の金庫にプール金として保管したり,このプール
金をN16口座へ入金することもあった。
このように,被告人N2は,第3系列口座に入金された金銭を,N16口座や自
宅金庫を経由するなどして,N3會の経費のために利用していた。
3N3會に対する上納金の存在とその分配状況等
N3會に対する上納金一般
ア証拠によれば,N3會は,従来より,二次団体の組長や仲介者を経由す
るなどして建設業者,ぱちんこ店等の事業者から,事業活動を行うことを容認する
などといった名目で金銭を受け取ってきたこと(以下,このような趣旨でN3會に
供与される金銭を「上納金」という。),このうち建設業界では,遅くとも平成8年
頃以降,少なくとも平成23年頃まで,下請けに入った建設業者が,受注金額に一
定の比率を乗じた額の上納金をN3會に支払ってきており,この金額は少なくとも
年間数千万円に及ぶものであったことが認められる。
イこの点に関し,N17(以下「N17」という。)は,捜査段階において,
N18のN19(以下「N19」という。)から,回数としては20回くらい,金額
としては合計数億円のみかじめ料を受け取っているほか,N19以外にも,建設関
係,土木関係,解体関係の業者の窓口となり,それらの業者から数え切れないくら
いの回数みかじめ料を受け取っており,その合計金額は数十億円にはなると思う,
これらのみかじめ料はすべてN3會に上納していたと供述しているところ(甲21
4・N17の検察官調書),被告人両名の弁護人らは,①甲214号証は,刑訴法3
21条1項2号前段の供述不能の要件を欠くもので,これを証拠採用した決定は違
法であるから,証拠排除されるべきである,②甲214号証において,N17が,
これまでN19からみかじめ料を20回くらい受け取っており,その金額の合計は
数億円であった旨述べている部分については,結論のみを語っており,結論を導く
具体的な事実を供述しておらず,信用できないなどと主張している。
①については,N17は,当公判廷において,建設業者からみかじめ料を受領し
ていたこと自体は証言したものの,その回数や総額については答えたくないと述べ
て,一貫して証言を拒絶しているのであって,供述不能の要件を満たしている。
②については,N3會二次団体の組長であるN17が,捜査段階であったとして
も,被告人N1やN3會にとって不利益となるような虚偽の供述をするとは考え難
く,また,その内容も,N3會が組織として継続的に多額のみかじめ料を二次団体
を経由するなどして建設業者から受け取っていたとする具体的なものであり,Dや
Hの供述とも符合していることから,信用性に疑念は生じない。
よって,被告人両名の弁護人らの主張は採用できない。
N3會における上納金の管理・分配状況
アH供述の概要
Hは,甲239号証(別事件の公判廷における尋問調書)及び期日外尋問におい
て,次のように供述している。
「平成一桁の頃から当時N3會N20組のN21(以下「N21」という。)と付き
合いがあり,N21の周りで動く中で,建設会社等から上納金を回収し,被告人N
1,N6,N21に届けるという形でN3會の資金調達に関わったことがある。最
初に上納金の仲介をしたのは平成13年頃で,N18のN19から話があり,大手
ゼネコンから総額30億円の工事を下請けするため,その0.5パーセントの現金
をN3會に持って行ってほしいと依頼された。N21にこれを報告し,その指示に
従い,被告人N1の自宅に行き,被告人N1に対し,『上納金のパーセントでござい
ますが,0.5パーセントでいかがでしょうか。』と話をしたところ,『馬鹿。0.
5じゃなくて1パーセントだ。』と言われたため,その旨N19にも伝え,その後,
N19の自宅で30億円の1パーセントに当たる3000万円くらいの現金を受け
取って,被告人N1の自宅へ持って行き,被告人N1に直接渡した。その後,平成
19年までの間,建設会社から現金を受け取ってN3會に渡すという仲介をしてい
た。本来であれば,N21に現金を渡すべき立場だったが,当時,N21が病気で
動けない状況だったので,N21に直接現金を渡したのは数回だった。平成15年
2月にN6が出所してすぐにN3會理事長になってからは,被告人N1の指示でN
6に渡すようになった。平成13年頃から平成19年までの間に,被告人N1とN
6にそれぞれ五,六回上納金を渡した。業者から預かったお金がある程度まとまっ
たところで被告人N1やN6に渡しており,渡した上納金の額は1回当たり100
0万円から数千万円であった。上納金の金額は,工事代金総額に対して,建設工事
については10億円未満の場合3パーセント,10億円以上の場合1パーセント,
土木工事については2パーセント,解体工事については3パーセントだった。上納
金の仲介をした業者は,N18以外に二,三社あった。上納金を渡す手順は毎回同
じで,建設業者から上納金の仲介を頼まれた場合,業者の名前,工事の場所・金額,
建設か土木かの種別を被告人N1に報告していた。建設業者から回収した現金は,
銀行の帯封は外して輪ゴムで100万円単位にして,手提げ袋や紙袋に入れて被告
人N1の自宅に持参し,自宅の1階奥の応接室で,現金を紙袋のまま渡していた。
被告人N1は,中から現金を取り出してテーブルの上で総額の確認をした後,『この
1割がN3會のやけの。この3割は総裁のやけの。これは俺ので,これはN21の
やけの。』などと言いながら,現金を四つの山に分けていた。全体を10とすると,
N3會が1,総裁のN5が3,会長の被告人N1が3,みかじめ料をもらってくる
当事者のN21が3という比率であり,その比率はいつも同じであった。被告人N
1が現金を分けるときに電卓で計算したり,輪ゴムを外して端数を数えたりする作
業を手伝ったこともある。被告人N1からN21の分として3割の現金を受け取り,
残りの7割については,被告人N2が応接室に取りに来ていた。そのように被告人
N2が現金を持って帰るところを複数回見たことがある。N21に3割を届けた際
に,その中から自分の取り分をもらっていた。また,N6が出所してN3會理事長
に就任した後は,被告人N1から今後N6に報告するように言われたため,以後建
設業者からの上納金をN6に持っていくようになった。その際,被告人N1から,
上納金の分け方について,N3會が1,総裁が3,会長が3,理事長が3で,理事
長の3の中からN21の取り分が発生すると言われた。N6に上納金を渡す手順は
被告人N1のときとほぼ同じで,場所は被告人N1の自宅近くのファミリーレスト
ランの駐車場で車対車で渡すことが多かった。N6からも上納金の分け方について
『N3會が1割,総裁が3割,会長が3割,残りが自分の分だ。その中から半分N
21に渡す。』と聞いており,N6自身がN1の自宅の応接室で現金を分けているの
を1度見たことがある。」
イH供述の信用性
Hは,上納金の取りまとめの経緯,被告人N1らへの受渡し状況等を詳細に供述
しているが,その供述には,被告人N1の親族の内情,被告人N1の自宅応接室の
家具や調度品の状況など,体験した者でなければ語り得ない内容が少なからず含ま
れており,Hが述べる事実経緯にも特段不自然な点は見当たらない。H供述のうち,
当時N21の体調が悪く入退院を繰り返していたことは動かし難い事実であり,建
設業者から,その窓口となる者を通じてN3會へ多額の上納金が支払われていたと
する部分については,DやN17の供述と符合している。
そして,H供述の核心部分,すなわち,建設業者からの上納金がN3會最高幹部
等の間で3対3対3対1の比率で分配されて,被告人N2がその7割を管理してい
たという部分は,第3の1で見たような第1系列口座ないし第3系列口座への特異
な入金状況とよく整合し,これを合理的に説明するものといえる。証拠上,このよ
うな上納金以外で,第1系列口座ないし第3系列口座への継続的かつ巨額の入金に
ついて説明できる金銭の存在は窺われない。
また,Hは,平成19年に何者かに銃撃されるという経験をし,これにN3會関
係者が関与していると考え,以後,N3會との関わりを絶って生活しているという
のであり,N3會総裁である被告人N1らにとって不利益となる虚偽の供述をあえ
てすることも考え難い。
以上からすれば,H供述の信用性は高いというべきである。
ウH供述の信用性に関する被告人両名の弁護人らの主張
被告人両名の弁護人らは,H供述が信用できない理由として,①当時,被告人N
1はN3會会長の地位にあり,一方,Hは,被告人N1の子分であるN21の企業
舎弟にすぎないのであり,違法不当な犯罪収益である上納金の分配という,いわば
トップシークレットに属する事項を被告人N1がHに教える必要はなく,H供述は
それ自体不自然・不合理であるし,被告人N1がHを信頼していたとするH供述は,
ことごとく虚偽である,②H供述は捜査段階から変遷している,具体的には,ⅰ)
Hは,公判廷では,最初に受け取った上納金を被告人N1に渡したと供述している
が,捜査段階では,N21に渡したと供述していた,ⅱ)Hは,公判廷では,N1
8のN19から地元対策費として30億円の0.5パーセントを持って行くよう話
をしてもらえないかと依頼された旨供述しているが,捜査段階では,自ら0.5パ
ーセントという数字を持ち出したと供述していた,ⅲ)Hは,公判廷では,N19
から最初に受け取った金額は30億円の1パーセントで3000万円くらいであっ
た旨供述しているが,捜査段階では,その金額について,当初約2000万円と,
その後,2000万円から3000万円程度と供述していたなどと主張している。
まず,①についてみると,被告人N1とHとの関係等に関して,証拠によれば,
N21は,N6が不在の際にN3會N22組(以下「N22組」という。)の組長代
行を命ぜられるなど被告人N1の信頼が厚く,被告人N1の自宅に出入りする存在
であったこと,Hは,以前から,N21と親しくし,N3會に所属しないものの,
N21やN20組のために活動するようになっていたこと,Hは,平成9年か平成
10年頃,N21を通じて被告人N1の依頼を受け,被告人N1の現在の妻である
N23がマンションを購入する際に,新築物件を探したり,売買契約に立ち会った
りしたこと,そのことに恩義を感じた被告人N1は,平成13年に開いた自宅の新
築祝いのパーティーにHを招待し,Hが同パーティーに出席したこと,被告人N1
は,平成17年に当時の交際相手であるN24(以下「N24」という。)がマンシ
ョンを購入する際に,その手続を手伝うようHに頼み,それを受けてHは,不動産
の調査等を行い,振込依頼書の記載を代筆するなどしたこと,また,Hは,被告人
N1の姪が平成一桁くらいの時期に暴行事件に関わったり,被告人N1の別の姪(N
25)が離婚後に居住していたマンションが,同人の前夫の住宅ローン不払により
競売にかけられたり,被告人N1の甥が多額の借金を負っていたりしたといった出
来事を,その当時から知っていたことが認められる。
このように,Hは,被告人N1とN3會組員としての関係を築いていたわけでは
ないが,N21を介して,被告人N1と知り合い,被告人N1の妻が購入するマン
ションを探したり,被告人N1の交際相手のマンション購入に関する契約手続を手
伝うなどしている上,被告人N1の親族の他人に知られたくないような内情までを
も知っていたのであり,平成13年から平成19年頃の時点において,Hが被告人
N1から一定の信頼を得ていたことは疑いないといえる。
このような被告人N1,N21,Hの関係性からすれば,Hが,病気で動けない
状態のN21に頼まれて,建設業者から受け取った上納金を被告人N1に直接渡し
ていたことや,その際に被告人N1がHに対してN3會内で上納金がどのように分
配されるかを説明したことが,不自然・不合理であるとはいえない。
次に,②についてみると,ⅰ)については,Hは,平成26年から平成27年に
かけて受けた取調べにおいて,警察や検察から,上納金だけではなく,N26が殺
害された事件など多方面にわたって話を聞かれたが,古い出来事なのですぐには思
い出すことができず,記憶をたどりながら話していった,上納金については,N2
1の下で取り扱っていたし,N21に渡したこともあったので,N21に渡してい
たと話していたが,実際には,N21が病気で動けない時期があり,その際に被告
人N1やN6に直接上納金を渡していたのを思い出したなどと供述している。体験
時から供述を求められるまで長期間が経過していることに加え,被告人両名の本件
逮捕勾留時には,N3會の運営費の一部を被告人N1が私的に流用していることが
所得税法違反の内容とされていたのであり,Hから上納金を実際に受け取った人物
が誰であるかに焦点を当てた取調べが行われなかったために,当初Hの記憶の喚起
が十分に行われなかったとも考えられる。N21の下で長らく活動していたHとし
ては,上納金がすべてN21を経由していたことからN21を強く意識し,上納金
をすべてN21に持っていっていたものと勘違いして,捜査段階でそのような供述
をしていたとしても不自然・不合理とはいえない。また,ⅱ)については,ニュア
ンスや表現の違いにすぎないと考えられ,供述に実質的な変遷があるとまではいえ
ないし,上納金の分配状況というH供述の核心部分に影響を与えるものともいえな
い。ⅲ)についても,ⅰ)と同様,時間の経過に加え,上納金の金額に焦点を当て
た取調べが行われなかったことなどから,記憶が蘇るのに時間を要したとしても不
自然・不合理とはいえない。
その他,被告人両名の弁護人らが指摘する点を考慮しても,H供述の信用性は揺
らがない。
エ小括
そうすると,信用性の高いH供述によれば,N3會においては,平成19年まで,
組織的・継続的に建設業者等から上納金を受け取り,それを総裁のN5や,会長の
被告人N1ら最高幹部等の間で分配していたこと,上納金の具体的な分配・管理状
況としては,N5,被告人N1,上納金の仲介者(N6が出所した平成15年2月
以降は,N6及び仲介者)がそれぞれ全体の3割を,N3會が全体の1割を受け取
るように分配し,N5の取り分,被告人N1の取り分,N3會の取り分を併せた全
体の7割の現金を被告人N2が受け取って管理していたことが認められる。
具体的な上納金の存在と口座入金状況
ア平成17年12月のN27店出店に関する上納金
証拠によれば,株式会社N28(以下「N28」という。)がぱちんこ
店N27店を出店するに際し,N3會N29組組長のN30(以下「N30」とい
う。)の指示で,B,C,N31(以下「N31」という。)がN28側の人物であ
るAに対し,挨拶料との名目で4000万円を支払うよう要求し,Aは,地権者の
一人から拠出してもらった現金4000万円を,平成17年12月29日又は30
日にC又はN31を通じてN30に渡し,N30はこの4000万円をN3會の上
位者に渡したことが認められる。
この点,被告人両名の弁護人らは,①A,B,Cの各供述は,Aが現
金を渡した場所やその相手,金額において食い違うなどしており,Aが4000万
円を平成17年12月29日又は30日にC又はN31を通じてN30に渡したと
は認められない,また,②そもそも,これらの供述等によっても,Aが支払ったと
する現金4000万円がその後N3會に上納されたことまでは立証されておらず,
当時の福岡県警本部において,N30,C,N31がN3會の名前を使ってN28
に金銭要求をしているという見立てを持っていたことからすると,4000万円が
N30ら3名の間で分配された可能性は否定できないなどと主張している。
そこで検討すると,まず,①については,A,B,Cの各供述は,現金受渡しの
相手・場所,金額などいくつか相互に食い違う点もある。しかしながら,各証人は
10年以上前の出来事を供述していること,現金受渡しの相手・場所については,
B,CとAとの間の複数回の折衝の過程ではいずれもホテルやレストランなどが利
用されていたというのであり,現金を実際に受け渡した場所には数名の人がおり,
現金の受渡し以外に特段時間を要する出来事があったとは窺われないことなども踏
まえれば,その場所や相手の記憶が他の折衝場面での記憶と混同したとしても不自
然・不合理とはいえず,むしろ,Aが用意した現金がN30に渡ることになったと
いう根幹部分では各供述は一致しているとみるべきである。金額についても,A及
びCは4000万円と供述しているのに対し,Bのみ5000万円と供述している
が,B自身は直接現金を扱ったものではなく,他者から伝え聞いた金額を供述して
いるのみであるから,その金額が正確ではないことは説明が可能である。そして,
現金が受け渡された日については,A及びBが相応の根拠とともにその日にちを供
述しており,これに特段疑いを挟む余地はないから,その日は平成17年12月2
9日又は30日であると認定できる。
また,②についてみると,Cは,N31から4000万円の現金を受け取ったN
30が,その場で携帯電話機で電話をかけ,「どこにおられますか。」と言った後す
ぐに現金を持って出ていった様子を供述しており,N30は,受け取った現金40
00万円を直ちにN3會上位者に渡していると考えるのが合理的である。こうした
N30らの具体的な行動状況に加え,N3會の二次団体の組長であるN30の立場
からすれば,N30らがN3會と無関係にN28に対して金銭要求行為をしたとは
考えられず,4000万円がN3會に渡ることなくN30ら3名の間で分配された
疑いは生じない。
その他,被告人両名の弁護人らが指摘する点を検討しても,前記認定は揺る
がない。
以上からすれば,N28のぱちんこ店出店に関する上納金として平成
17年12月29日又は30日に4000万円がN3會に納められたといえるとこ
ろ,第1系列口座ないし第3系列口座の入金状況をみると,いずれもN39郵便局
において,平成17年12月30日午前9時41分に第1系列口座に1200万円,
同日午前9時47分に第2系列口座に1200万円,同日午前9時48分に第3系
列口座に400万円の入金があり,3対3対1の割合で合計2800万円の入金が
されていることが認められる。既に認定したN3會における上納金の分配状況を踏
まえれば,N28のぱちんこ店出店に関してN3會に支払われた上納金4000万
円は,最高幹部等の間で3対3対3対1の比率で分配され,そのうち3対3対1の
部分が第1系列口座ないし第3系列口座に入金されたものと推認できる。
イ平成18年1月頃のU社の工事に関する上納金
証拠によれば,U社が請け負った建築工事の現場事務所所長であったKは,平成
17年12月頃,N3會を名乗る人物から金銭の支払を要求されたため,U社から
下請け業者への支払を水増しするなどして2000万円の現金を準備し,平成18
年1月頃,Eを介して,建設会社会長であるN32に対し,準備した2000万を
渡したこと,前記建設会社会長はN3會構成員と面識があったことが認められる。
しかしながら,この2000万円が最終的にN3會側に渡ったかどうかやその日時
は他の証拠を併せても認定することはできないのであり,U社の関係の2000万
円の支払をN3會への上納金とみることはできない。
J供述
Jは,期日外尋問において,概ね次のように供述している。
「平成24年2月頃から平成26年4月頃までの間,N22組の組長付として,
N3會理事長兼N22組組長のN7のかばん持ちや運転手を担い,6日のうち3日
の頻度でN7に随行していたが,その際に,N7がN3會直轄組長(二次団体組長)
やN6から現金を受け取り,被告人N2に渡しているのを見た。具体的には,N7
は,本家(被告人N1の自宅)駐車場や喫茶店等でN3會直轄組長らから紙袋入り
の現金を受け取り,ホテルやまあじゃん屋でN6から同様に紙袋入りの現金を受け
取り,移動用の自動車内でその現金を半分ずつくらいの二つの山に分けていた。そ
の現金の合計は多いときで2000万円くらい,少ないときで100万円くらいだ
った。その後,N7は,被告人N2に電話をした上で,被告人N2の自宅近くの路
上や本家駐車場で,車内で二つに分けた現金のうち一つを紙袋に入れてN7が書い
たメモと一緒に被告人N2に渡していた。さらに,N7は,N6に電話をしてまあ
じゃん屋に行き,紙袋に入れた現金を渡していた。この現金は,当日N7が直轄組
長等から現金を受け取る前に,N7の指示でN7の自宅に行き,N7の妻から10
0万円単位の新札の現金を受け取っていたものであるが,その現金にN7が財布の
中から出した100万円未満の現金を足していたこともあった。N6に渡す現金は,
自動車内で分けた現金の一山の半分くらいの金額だった。その後,N7は,N22
組の事務所に戻り,N22組事務局長のN33(以下「N33」という。)を呼び出
し,自動車内の残りの現金を紙袋に入れて渡して,新札に交換するよう指示してお
り,N33は銀行や郵便局で旧札を新札に替え,N22組事務所でN7に渡してい
た。その後,N7は,本家へ挨拶に行っていたが,本家の建物に入るときも戻って
くるときもN7は手ぶらだった。N7がN3會直轄組長から現金を受け取り被告人
N2に渡すなどするという出来事は,月に一,二回の頻度であったが,徐々に減っ
ていき,減った後は二,三か月に1回くらいの頻度になっていた。」
このようなJ供述は,具体的かつ詳細であり,N7がN22組事務局長のN33
に対して新札への両替を指示していたとする点などは,N33の供述と整合する上,
現在N3會を脱退し,一般人として生活しているJがあえてN3會や被告人N1ら
にとって不利益となる虚偽の供述をする動機も窺われず,その信用性は高いといえ,
J供述のとおりの事実が認められる。
この点,被告人両名の弁護人らは,J供述について,①検察官によるJの取調べ
の際に,録音録画が検察官の提案により違法に中断されており,その際の検察官調
書と同内容の公判廷における供述の信用性も担保されていないというべきである,
②Jは本件とは別の二つの事件への関与が疑われる状況にあるのに,両事件とも起
訴されておらず,両事件の不起訴と引換えに本件に関する供述をすることを約束し
た疑いがある,③Jの見た金銭分配の回数は,第2系列口座への入金回数という客
観的証拠と合致せず,上納金分配に関する検察官の主張とも合致しないなどとして,
信用できない旨主張している。
しかしながら,①については,そもそもJの取調べの際に検察官の提案によって
録音録画が中断されたとしても,そのことがJの公判廷における供述の信用性に直
接影響を与えるわけではない。また,かつてN3會の組員であったJが,総裁の地
位にある被告人N1の犯罪への関与を疑わせるような供述をすることについて葛藤
があるのは当然であり,その様子を見た検察官において被疑者が十分な供述をする
ことが困難であると認めて録音録画の中断を提案したことを不当とまでいうことは
できない。②については,たしかに,Jは,N18会長のN19が殺害された事件
の関係で逮捕勾留され,別の事件でも刑事から事情聴取を受けたことを認めている
が,N18の事件については,不起訴とする約束があったことを明確に否定し,事
情聴取を受けた別の事件については,刑事訴追を受けるおそれがあることを理由に
自己の関与の有無についての供述を拒否しており,その他本件と別の事件について
利益誘導がされた形跡は窺われない。③については,J供述によれば,N7への随
行の頻度は6日のうち3日というもので,JがN3會内での金銭の受渡しのすべて
を現認したわけではないことは明らかであって,J自身が現認した回数と第2系列
口座への入金回数が合致しないとしても,J供述の信用性が否定されることにはな
らない。
小括
①以上をまとめると,まず,N3會に対しては,従前より建設業者等から組織
的・継続的に多額の上納金が支払われてきており,その上納金は,少なくとも平成
19年頃までは,当時の総裁であるN5,会長であるN1,上納金の仲介者(平成
15年2月以降は,理事長であるN6及び仲介者)がそれぞれ3割を,N3會が1
割を受け取るように分配され,被告人N2は,N5,被告人N1及びN3會の取り
分として上納金の7割を受け取って管理していたものである。
そして,前記のとおり,被告人N2が管理していた第1系列口座ないし第3系列
口座には,平成17年5月30日以降,平成20年6月30日までの間,1回につ
き10万円程度から1000万円を超える金額が頻繁に入金され,その入金のほと
んどは,いずれも同一の郵便局においてほぼ同時刻か十数分以内の差で行われ,ご
くわずかの例外を除き,その入金額の比率は,第1系列口座,第2系列口座,第3
系列口座の順に3対3対1となっていたのであるから,被告人N2は,建設業者等
から受け取った上納金のうち7割の現金につき,第3系列口座にはN3會の取り分
としての全体の1割を,第1系列口座と第2系列口座にはN5及び被告人N1の取
り分としての全体の各3割をそれぞれ入金して管理していたと推認するのが合理的
である。このことは,平成17年12月29日又は30日頃,N28のぱちんこ店
出店に関して4000万円の上納金がN3會に渡り,同月30日,4000万円の
10分の7に当たる金銭が,同じ郵便局において第1系列口座ないし第3系列口座
に3対3対1の比率で入金されているという事実によって裏付けられているといえ
る。
加えて,N3會総裁であったN5が死亡した平成20年7月1日以降は,第1系
列口座に入金がなくなり,同口座が使われなくなっていることからすれば,上納金
に関し,第1系列口座にはN5の取り分が入金されていたものと認められ,そのこ
とと対比すれば,少なくとも平成20年6月30日までの間,第2系列口座には当
時N3會会長であった被告人N1の取り分が入金されていたものと優に推認できる。
②また,N17やJの供述によれば,五代目N3會が発足した後も,被告人
N2が,二次団体の組長等を介して,建設業者等から組織的・継続的に上納金を受
け取り,N3會最高幹部等の間で分配していたことが窺われるところ,前記のとお
り,N5が死亡した平成20年7月1日以降も,第2系列口座としては,平成24
年5月30日にN10名義の口座へと引き継がれるまで,N11名義の口座が引き
続き用いられていた上,第2系列口座,第3系列口座ともに,1回につき10万円
程度から1000万円を超える金額が頻繁に入金され,その入金のほとんどは,い
ずれも同一の郵便局においてほぼ同時刻か十数分以内の差で行われており,かつ,
こうした同一機会による第2系列口座と第3系列口座への入金額の比率の多くが5
対1,それ以外も概ね第2系列口座が3ないし6に対し,第3系列口座が1となっ
ていたものである。こうした上納金の存在及び分配状況,被告人N2による口座の
管理及び入金の状況に加え,第2系列口座と同一機会に入金が繰り返されていた第
3系列口座がN5の死亡後もN3會の経費を管理するために利用されていた事実
(前記2⑵)は,平成20年7月1日以降も第2系列口座に上納金からの被告人N
1の取り分が入金されていたことを一定程度推認させる事情ということができる。
被告人N2の弁解について
被告人N2は,第1系列口座ないし第3系列口座について,これらの口座には支
援者がN3會の運営の足しにしてほしいと持ってきた金銭を入れており,当時のN
3會事務局次長のN34から引継ぎを受け,支援者から受け取った金銭の1割をN
3會の経費として第3系列口座に入金し,その残りのうち,第1系列口座にはN5
の公務費を,第2系列口座には被告人N1の公務費をそれぞれ入金していた,N5
が死亡した後も,第2系列口座には被告人N1の公務費を,第3系列口座にはN3
會の経費を入金していたが,いずれもN3會の資金であるので,入金比率は適当に
自分で決めていた,複数の口座を使っていたのは,ペイオフ対策のためであるとか,
銀行の成績が落ちるので継続して使うよう銀行員から頼まれたためであるなどと供
述している。
しかしながら,被告人N2によれば,公務費とは,N3會の特別の功労者である
N5及び被告人N1の交際費のことを指すが,功労者本人も自由に使うことができ
ず,その金額すら本人に知らされていないというのであり,それ自体不自然・不合
理である。N5が死亡した後は入金比率を適当に決めていたとする点も,第2系列
口座と第3系列口座の入金額の比率は,その多くが5対1,それ以外も第2系列口
座が3ないし6に対し,第3系列口座が1の比率となっており,これらが被告人N
2によって一定の明確な目的・法則の下で継続的に管理されていたものと推察され
ることと整合しない。
また,ペイオフ対策のために複数の口座を使っていたという点についても,被告
人N2自身,平成20年9月1日に第3系列口座の名義を変えたのは,預金全額の
保障を受けられる通帳(決済用通帳)ができたためであると説明しており,ペイオ
フ対策をとる必要がなくなった後も複数の口座を使い続けているのは不合理である。
銀行員から頼まれたことが,複数の口座を使い続ける理由になるのかも疑わしく,
被告人N2は,複数の口座へほぼ同時刻に入金している理由について重ねて尋ねら
れても,何ら合理的な説明をすることができていない。
むしろ,被告人N2が,N3會の支援者から受け取った金銭のうち,その1割を
N3會の経費として第3系列口座に,その残りのうちN5のために使われるべき金
銭を第1系列口座に,被告人N1のために使われるべき金銭を第2系列口座に入金
して管理していたという趣旨を述べ,あるいは,平成20年7月1日以降第1系列
口座への入金が止まり,第2系列口座への入金が増えているのは,N5が死亡した
からであり,第2系列口座にはそれまでと同様に被告人N1のために使われるべき
金銭を入金していたという趣旨を述べる部分は,前記3⑸における推認とよく整合
し,これを強く裏付けるものといえる。
以上からすれば,第2系列口座内の金銭がN3會のものであるとの被告人N2の
弁解は信用できない。
4第2系列口座からの出金等(認定に用いた証拠は適宜掲記する。)(記載省略)
被告人N1の資産と収入支出等
被告人N1は,平成22年初めから平成26年末までの間,不動産賃貸等により
年間実額1000万円から2000万円程度の収入を得ており,そのほか,平成2
3年に不動産を売却したことにより約7400万円の譲渡所得を得た。
また,被告人N1の個人名義での平成21年末時点での預貯金額合計は10億円
強で,平成26年末時点での預貯金額合計は14億円強に及んでいた。なお,同年
10月6日に被告人N1宅の捜索が行われた際,同宅からは1億円強の現金が発見
された。
被告人N1は,元妻や子らのために,毎月一定額(10万円ないし100万円)
を生活費・養育費として送金し,積み立てるなどしていたほか,百貨店の友の会の
会費,寺のお布施等を支払っていたが,こうした私的な支払等に被告人N2を関与
させていた。これらの支出は毎月合計約500万円に及んでいた。
第2系列口座からの具体的な出金とその使途
ア平成17年7月19日の2324万0150円の出金
被告人N1の交際相手であったN24が下関市内のマンションを購入することと
なったため,被告人N2は,被告人N1の依頼により,平成17年7月19日,N
40郵便局において,第2系列口座から2324万0150円を出金し,この現金
を原資として,同日,N24名義で,売主の銀行口座に2150万円,仲介業者の
銀行口座に66万0150円を振込入金した(入金額合計2216万0150円)。
N24は,同日,前記マンション購入を申し込み,同月23日付けで売買契約が締
結された。
イ平成25年5月29日の5000万円の出金
被告人N1は,平成24年6月20日,被告人N1名義のT社の普通預金口座(以
下「T社N1口座」という。)から2億円を出金し,その結果,T社N1口座の同日
の残高が約59万円となった。その後,T社N1口座は取引のない状態が続いてい
たが,平成25年5月27日午前,被告人N1は,T社に電話をかけ,振込がある
んでなどと述べた上,以前T社N1口座から引き出した2億円の一部を同口座に戻
すつもりである旨を告げ,振込先となるT社N1口座の支店名を確認した。同月2
9日,被告人N2は,N40郵便局において,午前9時10分に第2系列口座から
5000万円を現金出金し,午前9時18分頃にはそれとは別に第2系列口座内の
5000万円をT社N1口座に振込入金した。
ウ平成27年1月30日の3000万円,同年2月3日の4000万円の
出金
被告人N2は,平成26年9月11日に被告人N1が逮捕された後も,被告人N
1の私的な支払に関与しており,その支払のための残金が同年末時点で3687万
3240円にまで減少した(この残金の原資が何であるかにつき,第2系列口座か
らの出金であるとする検察官の主張と,被告人N1宅の金庫内の現金であるとする
被告人両名の弁護人らの主張が対立している。)ため,第2系列口座から,平成27
年1月30日に3000万円を,同年2月3日に4000万円をそれぞれ引き出し
た。そして,平成27年1月から同年5月末までの間に,前記の残金約3687万
円及び前記出金に係る現金合計7000万円の中から,被告人N1の親族の生活
費・養育費といった被告人N1の個人的な支出のほか,N3會組員の裁判費用等の
支出(1950万円。なお,この金額は,甲55のうち「平成27年総裁本家」と
題する書面中,日付「2月13日」内訳「N35(N36先生)」とされている10
00万円と,「平成27年弁護士費用」と題する書面記載の計950万円の合計額で
ある。)として,合計約6854万円が使われた。
エ被告人両名の弁護人らの主張について
この点,被告人両名の弁護人らは,平成17年7月19日の2324万0150
円の出金(①),平成25年5月29日の5000万円の出金(②),平成27年1
月30日,同年2月3日の合計7000万円の出金(③)について,被告人両名及
びN36弁護士(以下「N36弁護士」ともいう。)の各供述等に基づき,これらの
出金は,いずれも第2系列口座に入金された金銭が被告人N1に帰属することを示
すものではないと反論している。具体的には,①については,被告人N1は,平成
17年7月19日,N24が購入するマンションの購入代金に充てるための現金約
2300万円を用意し,被告人N2に自宅に取りに来るように告げたが,急用で外
出したため落ち合えず,立替払を頼んだところ,被告人N2は,現金の持ち合わせ
がなかったため,第2系列口座から現金を引き出してN24に渡し,その日のうち
に被告人N1から現金を渡してもらった,②については,被告人N1は,T社N1
口座から出金した2億円の残りの現金5000万円を同口座に戻そうと思っており,
当初,自ら入金手続をするつもりだったが,平成25年5月29日当日になって現
金入金が面倒になり,たまたま被告人N1宅を訪れていた被告人N2に現金500
0万円とT社N1口座の預金通帳を渡して入金を頼んだ,第2系列口座から1億円
を現金出金する予定があった被告人N2は,N40郵便局へ行き,現金入金後に送
金をしようとしたところ,郵便局員から振込入金の方が手続が簡単であると言われ
たため,第2系列口座から5000万円を下ろし,さらに,第2系列口座からT社
N1口座へ5000万円を振込入金し,被告人N1から受け取っていた現金500
0万円については,下ろした5000万円とともに持ち帰った,③については,被
告人N2は,被告人N1の逮捕後,被告人N1の金庫内の現金7000万円を預か
り,被告人N1の個人的な支出に充てていたが,平成26年末頃にその残高が36
00万円程度まで減ったため,被告人N2が管理しているN3會の資金で立て替え
ることにし,第2系列口座から合計7000万円を出金した,その後,被告人N1
が,N36弁護士を通じて,被告人N1名義の口座から2億円を引き出し,そこか
ら3000万円を被告人N2に返却し,残りの4000万円については,2億円の
残金からN3會の経費を出していき,順次返還ないし相殺した,といった被告人両
名及びN36弁護士の各供述は,事実経緯を合理的に説明するものであり,その信
用性を否定することはできないと主張している。
2324万0150円の出金(①)について
被告人両名が供述する経緯,すなわち,被告人N1が被告人N2に対し,N24
のマンション購入資金を自宅に取りに来るように伝えておきながら,部屋住み組員
に現金を預けるなどすることもなく急用のため外出をしてしまい(その急用が何で
あったかは思い出せないという。),被告人N2に急遽立替払を頼むことになったと
いう流れは,そもそも被告人N1において,不動産の調査や契約手続への協力をH
に依頼するなど,当時の交際相手であるN24のマンション購入の件に高い関心を
寄せていたことにそぐわないし,契約日まで数日の猶予があったことなどに照らす
と,被告人N1が急用を終えてから被告人N2に改めて現金を取りに来てもらった
としても支障はないのではないかと思われる点からも,やや不自然といえる。
しかも,被告人N2がN3會の経理全般の責任者という立場にあったことからす
れば,N3會に属するとされる第2系列口座から約2300万円もの金銭を被告人
N1の個人的な用途のために借用したというのであれば,被告人N1から返却を受
けたという現金を直ちに元の第2系列口座へ入金して戻すか,あるいは別途記録を
残すなどして,貸付け及び返済の経過を明確にしておくのが当然といえる(実際に
被告人N2は被告人N1の個人的な支出を「本家経費」と名付けて別途メモに残す
などしていた。)が,そのような入金履歴や貸借を記録した書面等が残されていない
のは不自然・不合理である。
なお,第2系列口座からの出金額と,売主及び仲介業者への振込入金額の合計と
の間に108万円の差がある理由について,被告人N2は,被告人N1から電話で
金額を伝えられた際に聞き間違えたと述べるが,「2324」万円と「2216」万
円では金額の数字が大きく異なることから,これも不自然といえる。
したがって,この点に関する被告人両名の供述は信用できない。
5000万円の出金(②)について
被告人N1は,当日になって現金入金が面倒になったと述べるけれども,被告人
N1名義の他の銀行口座から振込入金をすれば目的は達することから疑問が残るし,
被告人N1が,被告人N2に対し,委任状や本人確認書類などを用意することもな
く,5000万円の現金と預金通帳を渡したのみで入金を依頼している点も,不自
然な印象を拭えない。
事態の推移もかなり場当たり的であるが,とりわけ,5000万円の現金出金の
手続が行われたのは前記のとおり平成25年5月29日午前9時10分であるとこ
ろ,被告人N2の説明を前提とすれば,当日の郵便局の窓口業務が始まってごくわ
ずかの時間内で,郵便局員とのやり取りがあり,被告人N2があらかじめ郵便局側
に依頼していたとされる現金出金の額が当初の1億円から5000万円へと急遽変
更され,変更後の内容により払戻請求書が記載され,出金手続が行われたことにな
るが,現実にはたやすく想定し難いというべきである。振込入金の手続を含めて同
日午前9時18分頃までに処理が終わっていることや,もともと被告人N1はT社
N1口座に振込入金する意向であったことも踏まえれば,当初からこのような形で
の出金及び振込入金の手続を行うことが予定されていたと考えるのが合理的である。
更に言えば,①と同様,被告人N2がN3會の経理全般の責任者という立場にあ
ったことからすれば,N3會に属するとされる第2系列口座から5000万円もの
多額の金銭を被告人N1名義の口座に振込入金するというのであれば,被告人N1
から交付を受けた現金を直ちに第2系列口座へ入金して戻すか,あるいは別途記録
を残すなどするのが当然といえるが,そのような入金履歴や貸借を記録した書面等
が残されていないのは不自然・不合理といえる。
したがって,この点に関する被告人両名の供述は信用できない。
合計7000万円の出金(③)について
aこの点に関し,証拠によれば,次の事実が認められる。
被告人N1は,自身の弁護人を務めるN36弁護士に株式会社N37銀行北九州
支店の預金の払戻手続を依頼し,その後,被告人N1の妻を代理人とする委任状を
作成し,平成27年3月,接見等禁止一部解除決定を受けて書類の発信をするなど
して前記預金の払戻手続を進めた。同年4月3日,同支店の被告人N1名義の口座
から2億円の現金が出金され,これをN36弁護士が管理することとなり,同日,
N36弁護士の二口の預り金口座に1億円ずつ入金された。
なお,前記の合計7000万円が出金された平成27年2月3日時点で,第2系
列口座の残高は約182万円,第3系列口座の残高は約20万円,N16口座の残
高は約7700円,N14の残高は約539万円であった。
bそこで,第2系列口座から出金された合計7000万円は,N3會
が被告人N1の個人的使途に充てるために立て替えたものにすぎない旨の被告人両
名の弁護人らの主張について検討する。
まず,N36弁護士及び被告人N2は,被告人N1名義の口座から引き出した2
億円のうちから3000万円を,立替金7000万円の一部の返済として支払った
とし,この事実を裏付けるものとして領収証の存在を指摘しているが,同領収証に
は,日付(H27(年)5(月)27(日)),金額(¥30,000,000)の
記載のほか,被告人N2の署名があるものの,宛名及び但し書の欄には記載がない。
N36弁護士は,被告人N1から預かった2億円を管理していた二口の預り金口座
の通帳に,法律事務所の事務員に指示して出金の使途等を手書きで記載させている
ところ,両口座からの平成27年5月27日の合計3000万円の出金については,
いずれの通帳にも「諸経費」と記載があるのみで,立替金の返済であることを示す
記載はない。この3000万円が真実立替金の返済に充てられたのであれば,弁護
士として被告人N1の個人資産を預かるという立場に照らし,領収証や通帳にその
旨正確な記載を残すのが当然といえる(実際に立替金の精算である旨を明記してい
る箇所もある。N36弁護士の株式会社N38銀行の預かり金口座の通帳の平成2
7年10月9日の出金欄を参照)が,そのような記載がないことは,3000万円
の出金が立替金の一部返済である旨の主張に重大な疑問を投げかける。また,N3
6弁護士は,3000万円を返済した後,残りの4000万円については,預り金
口座の預金からN3會の経費を出していき順次返還ないし相殺という形をとること
にしたとも述べるが,具体的にどの経費が返還ないし相殺の対象となったのかを把
握しておらず,前記のようなN36弁護士の職責を考えれば,やはり不自然・不合
理といわざるを得ない。
一方,被告人N2は,被告人N1の個人的支出に充てるための現金について,「平
成26年残金¥36873240」などと記載したメモを残しているところ,同じ
メモ用紙の中で,第2系列口座からの合計7000万円の出金について記録してお
り,その備考欄に「通帳から」とだけ記載し,「借入れ」や「立替え」といった記載
は残していないことに照らすと,被告人N2は,被告人N1の個人的支出に充てる
ために所持していた現金と,第2系列口座からの出金とを特に区別せずに併せて管
理し,それらの使途を明らかにするためにメモを残しておこうとしたものとみられ,
出金された合計7000万円の金銭を被告人N1の個人資産と捉えていたことが窺
われる。
そもそも,第2系列口座から合計7000万円が引き出された平成27年2月3
日当時,被告人N2の手元には,被告人N1の個人的支出に充てるための現金が数
か月分は残されていたと見込まれる一方,第3系列口座の残高は約20万円,N1
6口座の残高は約7700円,N14の残高は約539万円となっており,N3會
の経済状態はかなり逼迫していたとみられるのに,N3會の経理全般の責任者であ
る被告人N2が,N3會に帰属するとされる第2系列口座から合計7000万円も
の金銭を被告人N1のために立て替えてN3會の資産状態を更に悪化させた理由は
明らかでない。また,被告人N1には,平成26年末時点で14億円強の預金など
潤沢な資産がありながら,なぜ立て替えてもらったとする7000万円の一部であ
る3000万円しか返済しないのかについても,被告人N1本人から納得できる説
明はない。
したがって,この点に関するN36弁護士及び被告人両名の各供述は信用できな
い。
小括
以上のとおり,第2系列口座からの4件(実質3件)の出金の使途については,
被告人N1の交際相手のマンション購入資金に使われ,被告人N1名義の預金口座
に振り込まれ,あるいは出金の多くが被告人N1の親族の生活費・養育費等に使わ
れたことが判明している。また,使途が判明していない第2系列口座からの出金に
ついても,被告人N1の個人的支出以外の用途に使われたものは見当たらない。使
途が判明している出金の一つ一つが数千万円単位に上ることも踏まえれば,これら
は,第2系列口座に入金された金銭を被告人N1が私的に使用することが可能であ
ったことを,出金という側面から強く推認させる事情といえる。
5被告人両名の弁護人らのその他の主張について
被告人両名の弁護人らは,第2系列口座からの出金は数十回以上あるにも
かかわらず,わずか4回(実質的には3回)の出金をもって,第2系列口座に入金
された金銭が被告人N1に帰属していたとの認定に結び付けるのは無理があると主
張する。
しかしながら,第2系列口座からの多数回の出金のうち,被告人N1個人の使途
との結びつきが判明しているのは実質的には3回のみであるものの,一つ一つの出
金は数千万円単位であり,被告人N1の個人的支出以外の用途に使われた出金は見
当たらないのであるし,所得の帰属については,実質により判断すべきであって(所
得税法12条),単にその出金の回数のみを取り上げて認定の適否を論じることは相
当とはいえない。
次に,被告人両名の弁護人らは,第2系列口座,第3系列口座及びN16
口座の入出金状況を比較しつつ,第2系列口座から出金された金銭については,直
接又は被告人N2の自宅金庫を経由して,N3會の経費に用いるために利用されて
いたN16口座へ入金されていた高度の蓋然性があり,そうすると,第2系列口座
への入金分が被告人N1の個人所得である旨の検察官の主張には合理的な疑いが残
るなどと主張している。
しかしながら,第2系列口座には,ほぼ同時刻に第3系列口座とは別に(平成2
0年6月30日までは第1系列口座もほぼ同時刻に)入金することが繰り返されて
いたことからすれば,第3系列口座と第2系列口座の使途あるいは目的は異なるも
のと考えるのが合理的であり,第3系列口座に入金された金銭がN3會の経費に充
てられていたと認められる以上,第2系列口座に入金された金銭もN3會の経費に
充てられるためのものであったとはそもそも考え難い。
現に,第3系列口座からの平成17年5月30日から平成26年12月末までの
44回の出金のうち34回の出金(合計7億3200万円)については,概ね出金
後数分から1時間以内に,同額又はその大部分に当たる金額(合計6億4560万
円)がN16口座に入金されているのに対し,第2系列口座からの出金で,N16
口座への入金と時間的に接近し,かつ金額的にも近似するなど,直ちにN16口座
へ入金されているといえるものは見当たらない。この点,弁護人は,第2系列口座
からの出金とN16口座への入金とに有意の結びつきが認められるものとして,六
つの入出金を指摘しているが,出金の額と入金の額にいずれも相当の差がある上,
そのうち五つは日付も異にしており,有意の結びつきは認められない。思うに,第
2系列口座からN16口座への資金流入の有無の問題は,第2系列口座へ入金され
た金銭が被告人N1に実質的に帰属するか否かという観点から検討されるべきもの
であり,その際には,第2系列口座から出金された金銭がN16口座へ入金された
抽象的な可能性の有無ではなく,第2系列口座内の金銭の帰属に関する前記推認を
破るような事情,具体的には,第2系列口座からの出金でN3會経費が賄われてい
るといった事情が存するか否かが判断の分岐点になると考えられる。こうした観点
から記録を精査しても,第2系列口座からの出金とN3會経費の支出とを具体的に
結びつける事情は窺われず,N3會経費が第2系列口座からの出金により賄われて
いたとの疑いは生じない。
一方で,第3系列口座からの出金の大半はN16口座へ入金されていることが明
らかである。もっとも,出金のすべてが直ちにN16口座へ入金されているわけで
はないことは前記のとおりであるが,被告人N2自身が認めているように,第3系
列口座からの出金は,そのままN16口座に入金される場合のほかに,いったん現
金出金されて被告人N2の自宅金庫等で保管された後に,N3會経費として使われ,
あるいはN16口座へ入金される場合もあったというのである。また,平成22年
初めから平成26年末までの第3系列口座からの出金合計は5億9400万円であ
るのに対し,同期間のN16口座への入金合計は約4億2700万円であり,その
総額をみても,第3系列口座からの出金や會運営費に由来するもの以外の金銭がN
16口座に入金されていないとしても十分に説明がつくものである。
6総合判断
これまで検討したところをまとめると,本件で問題とされている第2系列口座に
ついては,平成20年6月30日までは,上納金からの被告人N1の取り分が入金
されていたものと優に推認され,N5が死亡した同年7月1日以降についても,口
座の管理や入金の状況等に照らせば,引き続き上納金からの被告人N1の取り分が
入金されていたものと一定程度推認することができる。一方,第2系列口座からの
4件(実質3件)の出金の使途については,いずれも専ら被告人N1の個人的な支
出に充てられており,使途が判明していない出金についても,被告人N1の個人的
支出以外の用途に使われたものは見当たらない。使途が判明している出金の数は決
して多くはないが,一つ一つの出金が多額であることからすると,この点は,第2
系列口座に被告人N1が私的に使用することが可能な金銭が入金されていたことを
強く推認させる事情といえる。しかるに,被告人両名の弁護人らの指摘を踏まえて
慎重に検討しても,こうした推認を妨げる事情は見出せない。
かえって,関係証拠に照らすと,被告人N1の個人資産の増加状況と第2系列口
座への入金状況は概ね符合していることが窺われ,前記推認の正しさが裏付けられ
ている。すなわち,平成21年末から平成26年末までの間,被告人N1の資産と
しては,前記のとおり預金残高が約4億円増えているほか,被告人N1の供述によ
れば,その間,被告人N1は,少なくとも9000万円程度の絵画,1億円程度の
車両,1億6000万円強の不動産を購入したというのであり,その他にも,これ
まで認定したように,被告人N1には,親族の生活費・養育費,百貨店の友の会の
会費,寺のお布施等の個人的支出が毎月500万円程度(5年間とすると合計3億
円程度)あったのである。そうすると,本件各申告に係る平成22年から平成26
年までの間,被告人N1には,不動産賃貸等による収入(年間実額1000万円か
ら2000万円程度であり,5年間で多くても合計1億円程度)や,平成23年の
不動産売却による利益(被告人N1の供述によれば利益は5000万円程度)以外
にも大まかにみて9億円程度の収入があったと推定される。一方,第2系列口座の
入出金状況等をみると,平成22年初めにはその残高が50万円程度であったとこ
ろ,平成22年初めから平成26年末までの入金額の合計は9億円程度に及び,平
成26年末時点での残高は約7000万円となっている。これらの事実は,被告人
N1が第2系列口座の出金を自らのものにしてきたとすれば合理的に説明が可能で
ある(この点,被告人N1は,本件各申告に係る年,すなわち平成22年ないし平
成26年中の収入に関するものとしては,他人に無利子で貸し付けた多額の金銭に
謝礼を付けて返してもらったものがあるという趣旨の供述をするが,貸し付けた相
手や金額の詳細は明らかではなく,また何らの裏付けもなく,前記のような個人資
産の著しい増加を合理的に説明するものとは到底いえない。)。
以上を総合して判断すると,上納金からの分配金のうち第2系列口座に入金され
た金銭は,実質的にみて被告人N1に帰属するものと認めるほかはないというべき
である。これに反する被告人両名の弁護人らの主張は採用できない。
第4所得税法違反の成否について
1所得区分について
平成22年から平成26年までの各年の第2系列口座に入金された金銭のうち,
第3系列口座と同一機会に入金がされ,かつ,その額が第3系列口座への入金額に
対して一定の比率となっているものについては,N3會への上納金から被告人N1
の取り分として分配され,第2系列口座に入金されたものと考えられる(以下,こ
のようにして被告人N1のために上納金から分配され,入金された金銭を「本件分
配収入」という。)。ところで,この一定の比率については,第3の1で認定したと
おり,平成20年7月1日以降,第2系列口座と第3系列口座への入金比率の多く
が5対1,それ以外も概ね3ないし6対1となっていること,同年6月30日以前
には第1系列口座ないし第3系列口座に3対3対1の比率で上納金が分配・入金さ
れていたが,同年7月1日以降は第1系列口座が使われなくなり,これに応じて第
2系列口座への入金比率が増していることも併せ考えれば,第2系列口座への入金
のうち,第3系列口座への入金額の3倍ないし6倍の範囲のものが本件分配収入で
あると認定するのが相当である。
そして,本件分配収入は,N3會が,建設業者等の事業者から,事業活動を行う
ことを容認するなどといった名目で,工事の受注金額の一定割合等のN3會が定め
るルールに従って継続的に供与を受けてきた金銭(上納金)の一部について,被告
人N1が私的に分配を受けていた金銭であることからすると,その所得区分は,一
時所得や事業所得に該当するものではなく,雑所得に該当すると解される。
2ほ脱所得の金額について
本件分配収入が頻繁に第2系列口座に入金されており,時には同じ日に複数回入
金がされているという状況に照らすと,被告人N2は,上納金を現実に受領した後,
被告人N1への具体的な分配比率と金額が決まったら速やかに第2系列口座への入
金手続を行っていたものと推認できる。
そうすると,本件分配収入は,前記の法則に従った第2系列口座への各入金日が
属する暦年の所得となるというべきであり,その具体的金額としては,別紙7入金
状況一覧表の平成22年から平成26年までの第2系列口座への各入金額のとおり,
平成22年分が1億4935万円,平成23年分が1億8765万円,平成24年
分が1億3320万円,平成25年分が1億5895万円,平成26年分が1億8
075万円となる(ただし,別紙7のうち,平成23年8月26日の第3系列口座
への入金時刻を「11:10」と,平成23年10月5日の第3系列口座への入金
時刻を「12:26」と訂正する。)。
なお,本件分配収入については,特段費用の負担を伴うものとは考えられず,ま
た,証拠上も本件分配収入に関して支出した費用が窺われないことからすれば,本
件分配収入に関する雑所得の金額を計算するに当たり,必要経費はないものと認め
る。
3ほ脱の犯意及び被告人両名の共謀について
本件各申告のうち,平成22年分から平成25年分については,被告人N2は,
確定申告書の提出前に被告人N1に申告予定の内容を報告していたものであり,被
告人N1も,第2系列口座に関する所得について記載のない確定申告書が提出され
ることを把握していたものといえる。平成26年分については,確定申告書提出当
時,被告人N1は身柄を拘束されていたが,それ以前と同様の手順を経て第2系列
口座に関する所得について記載のない確定申告書が提出されているのであるから,
被告人N1は,当該確定申告を被告人N2に一任し,そのような内容の確定申告書
が提出されることを容認していたものといえる。もとより,被告人N1において,
被告人N2が被告人N1の所得を秘匿するため不正の行為を行っていることを認
識・認容していたことも明らかである。
そうすると,被告人両名がほ脱の犯意を有し,かつ,これについて共謀していた
ことが優に認められる。
第5結論
以上のとおりであり,本件各申告におけるほ脱額等は,別紙2ないし6のとおり
と認められるから,罪となるべき事実記載のとおりの犯罪事実を認定した(なお,
判示第5については,申告納税額に含まれる復興特別所得税額が150万8834
円であることから,ほ脱税額は7184万9266円と認められるが,公訴事実の
範囲内で認定した。)。
【法令の適用】(記載省略)
【量刑の理由】
本件は,暴力団四代目N3會会長・五代目N3會総裁の被告人N1が,N3會総
務委員長の被告人N2と共謀して,N3會への上納金から被告人N1に分配された
収入を秘匿し,これに対する平成22年から平成26年まで5年分の所得税を免れ
たという所得税法違反の事案である。
ほ脱所得額は合計約8億900万円,ほ脱税額は合計約3億2000万円と多額
に及び,ほ脱率も約90パーセントと高率である上,被告人N1の本件分配収入は,
暴力団組織であるN3會の威力を背景として,建設業者等からN3會へ継続的に供
与されていた上納金に由来するものである点でも,悪質な事案というほかない。
被告人両名は,被告人N2及びその親族名義の複数の口座を用意して,使用する
口座を適宜切り替えながら長期間にわたり本件分配収入を管理していたものであり,
所得秘匿の態様は計画的で巧妙である。
そして,被告人N2は,被告人N1の指示により本件に関わったものと認められ
るが,本件各犯行において継続的な不正行為のほとんどを担い,犯罪遂行に不可欠
な役割を果たしており,その刑事責任は重い。
また,被告人N1は,N3會のトップとして活動する中で,側近の被告人N2に
本件分配収入を継続的に管理させ,これに対する多額の所得税を免れており,国税
当局により被告人N1の預貯金が差し押さえられ,国税の徴収は確保されている点
を考慮しても,その刑事責任は被告人N2よりも重い。
こうした事情に加え,被告人両名ともに,事実を否認して不合理な弁解に終始し
ており,反省の態度がみられないこと,懲役前科が古いものであることなど,調整
要素となる一般情状をも踏まえて検討した結果,被告人N1を懲役3年,被告人N
2を懲役2年6月の実刑にそれぞれ処し,さらに,本件分配収入による利得を直接
享受していた被告人N1については,本件各犯行によるほ脱額・ほ脱率を考慮し,
罰金8000万円を併科するのを相当と認め,それぞれ主文のとおり判決する。
(求刑被告人N1について懲役4年及び罰金1億円,被告人N2について懲役3
年6月)
平成30年7月31日
福岡地方裁判所第3刑事部
裁判長裁判官足立勉
裁判官松村一成
裁判官川孝史

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