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平成11年(ワ)第11856号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結の日 平成13年12月20日
判      決
原告     有限会社ケイエイエム
原告     有限会社シミズ
原告ら訴訟代理人弁護士  河合徹子
同            岡村泰郎
同            濱岡峰也
同            堀内康徳
同            山本健司
補佐人弁理士       森治
被告     阪神高速道路公団
被告     川崎製鉄株式会社
被告     日本碍子株式会社
被告     神鋼鋼線工業株式会社
被告ら訴訟代理人弁護士  村林隆一
同            松本 司
同            岩坪 哲
補佐人弁理士       小谷悦司
同            村松敏郎
主      文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告阪神高速道路公団及び被告川崎製鉄株式会社は、各原告に対し、連帯し
て各金2503万2483円及びこれに対する平成11年11月23日(訴状送達
日の翌日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告阪神高速道路公団及び被告日本碍子株式会社は、各原告に対し、連帯し
て、各金2424万5910円及びこれに対する平成11年11月23日(訴状送
達日の翌日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
3 被告阪神高速道路公団及び被告神鋼鋼線工業株式会社は、各原告に対し、連
帯して、各金3068万2023円及びこれに対する平成11年11月23日(訴
状送達日の翌日)から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
4 被告阪神高速道路公団は、各原告に対し、各金3998万0208円及びこ
れに対する平成11年11月23日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで年5パ
ーセントの割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、被告阪神高速道路公団の指示により、その余の被告らが高架橋の足場
兼用吸音部材(足場板)を製造販売し、被告阪神高速道路公団がこれを使用してい
ることは、原告らの共有する後記の特許権及び意匠権を侵害するとして、原告ら
が、被告らに対し、民法709条、719条、特許法102条3項(請求の第1項
ないし第3項)、意匠法39条3項(請求の第4項)に基づき、各損害賠償を請求
した事案である。
(争いのない事実等)
1(1) 原告らは、有限会社ケンオン興産とともに、次の特許権(以下「本件特許
権」という。)を共有していた。
特許番号  第2676598号
発明の名称  高架橋の足場兼用吸音部材
出願年月日  平成7年9月14日(特願平7-262179号)
登録年月日  平成9年7月25日
特許請求の範囲  高架橋の床版の下方に所定の作業空間を形成して床版の
下面を覆うように設ける恒久足場の足場兼用吸音部材であって、多数の透孔を有す
る上面板と、多数の透孔を有し、下方に突出する膨出部を形成した下面板と、下面
板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に充填した吸音材とで構成したことを特
徴とする高架橋の足場兼用吸音部材(請求項1)。
(2) 本件特許権について、平成12年7月19日、特許を無効とする審決(平
成10年審判第35505号、同第35522号、同第35524号、同第355
35号、同第35541号、同第35553号、同第35560号、同第3556
9号、同第35582号、同第35588号、同第35599号、甲31)がさ
れ、同審決に対する審決取消請求事件(東京高等裁判所平成12年(行ケ)第318
号)においても、平成13年11月28日、同事件原告らの請求を棄却する旨の判
決(甲44)が言い渡され、同判決の確定により、前記審決は確定した。
2 原告らは、有限会社ケンオン興産とともに、次の意匠権(以下、「本件意匠
権」といい、その登録意匠を「本件登録意匠」という。)を共有している。
登録番号  第1034463号
出願年月日  平成7年9月14日(前特許出願日援用、意願平9-5820
1号)
登録年月日  平成11年1月8日
意匠に係る物品  足場板
登録意匠の内容  別紙意匠公報のとおり。
3 被告川崎製鉄株式会社は別紙「イ号物件意匠説明書」、被告日本碍子株式会
社は別紙「ロ号物件意匠説明書」、被告神鋼鋼線工業株式会社は別紙「ハ号物件意
匠説明書」各記載の足場板(ただし、その意匠の構成については、一部争いがあ
る。以下、「イ号物件」、「ロ号物件」、「ハ号物件」といい、各意匠を「イ号意
匠」、「ロ号意匠」、「ハ号意匠」という。)を各製造販売し、被告阪神高速道路
公団(以下、「被告公団」という。)は、これを購入して使用している。
(争点)
1 本件特許権に関する主張(文言侵害、均等論、明白な無効理由、先使用によ
る通常実施権、原告らの損害)
 原告らは、本件特許権侵害を理由とする請求(請求の第1項ないし第3項)
を維持するが、前記争いのない事実等1記載のとおり、本件特許を無効とする審決
の確定により、本件特許権は初めから存在しなかったものとみなされ(特許法12
5条本文)、前記請求は理由がないことが明らかであるから、この点に関する当事
者の主張も、およそ争点となり得ない(民訴法253条2項参照)。
2 本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠との類否
(原告らの主張)
(1) 本件登録意匠の構成は、次のとおりである。
A 略扁平直方体状に形成した上部と、
B 該上部から下方に帯状に突出する、側面視で上部より幅の狭い膨出部と
して形成した下部とで全体を構成し、
C 略扁平直方体状に形成した上部の上面及び膨出部として形成した下部の
周辺に多数の透孔を形成したものである。
(2) イ号意匠ないしハ号意匠の各構成は、それぞれ別紙「イ号物件意匠説明
書」ないし「ハ号物件意匠説明書」各記載のとおりである。
(3) 本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠との共通点及び相違点は次のとお
りである。いずれもその特徴的な態様を共通にするものであって、各相違点は細部
的な微差にすぎないから、両意匠は類似する。被告らの主張するような需要者を基
準としても、足場板設置後に高架橋下方を通行する通行人や通行車両の運転者の感
じるであろう美的印象を当然考慮するはずであるから、両意匠の類似性を否定する
ことにはならない。被告らの主張(3)①ないし③及び⑤の相違点は、原告らの類似意
匠登録出願(意願平9-58202号、甲17の1)が同出願に係る意匠との間でこ
れらの相違点を有していた意願平8-35864号(未公開)の意匠と類似すると
して拒絶査定(甲17の2、3)を受けたことに照らすと、いずれも細部的微差にすぎ
ない。被告らの主張(3)④記載の相違点も、同様の相違点を有する別の吸音パネルの
意匠である甲18の3、4の各意匠について、特許庁において類似すると判断され、
甲18の4の意匠が甲18の3の意匠の類似意匠として登録されたことに照らすと、
細部的微差にすぎない。実際上も、イ号物件ないしハ号物件は、いずれも阪神高速
道路3号神戸線において、統一的なデザインの下に使用されている。被告らの主
張(3)の吸音パネルの意匠(意願平7-34132号、乙11)は、その審査経過
(甲26)に照らすと、本件意匠登録出願の分割変更時である平成9年6月16日
より以前の平成8年12月20日付け拒絶理由通知の時に審査が実質的に終了して
いたから、本件登録意匠出願の存在を看過して登録されたものにすぎない。
〔共通点〕
 いずれも略扁平直方体状に形成し、上面に多数の透孔を形成した上部と該
上部から下方に帯状に突出する、側面視で上部より幅の狭い膨出部として形成し、
膨出部として形成した下部の周面に多数の透孔を形成した下部とからなる足場板で
ある。
〔相違点〕
 被告らの主張(3)④記載のとおり、本件登録意匠が単一の枠体と膨出部で構
成されているのに対し、イ号意匠ないしハ号意匠はいずれも複数の枠体と膨出部を
一連一体に連結している。
(4) 被告らの主張(4)は否認する。
(被告らの主張)
(1) 本件登録意匠の構成は、次のとおりである。
A 左右両端部に側面視において縦長長方形状をなす空室と、その外側壁に
左と右とで高さ位置を若干ずらせた係止片と、中央部に下向きに突出するリブがい
ずれも長手方向に形成され、左右の空室間の内側下面が開放された枠体の上面に多
数の透孔を穿設してなる上面板と、
B 該枠体の下方に、側面視において幅と高さの比が約2対3のU字状をな
す周面に多数の透孔を有する膨出部を前記枠体の幅方向の左右両端部に形成された
空室の内側位置で、かつ、枠体の長さ方向両端部の内側位置より下方に突出形成せ
しめてなる下面板とからなり、
C 透孔の密度が上面板より下面板の方が高い足場板の形状。
(2) イ号意匠ないしハ号意匠の各構成が、それぞれ別紙「イ号物件意匠説明
書」ないし「ハ号物件意匠説明書」目録中、各「図面」及び「意匠の具体的構成態
様」記載のとおりであることは認めるが、「意匠の基本的構成態様」記載のとおり
であることは否認する。
(3) 本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠との共通点及び相違点は次のとお
りである。本件登録意匠に係る物品である足場板の需要者(足場板を購入し高架橋
への設置工事を行う建設業者又は同工事の発注者である高架橋設置管理者)を基準
とすれば、①膨出部の幅と高さの比、②膨出部の周面に表された形状、模様(多数
の円形透孔の有無)、③膨出部が枠体の両端より突出形成されているか否か、④単
一の枠体と膨出部で構成されているか、複数の枠体と膨出部を一連一体に連結して
いるか、⑤側面が露出しているか金属板で覆われているか否か等の基本的な構成に
おいて相違している。原告らが主張する本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠に
共通する基本的構成態様をそっくり具備し、かつ、被告ら主張の上記五つの相違点
と同質の相違点を有し、しかも、本件登録意匠よりも、イ号意匠ないしハ号意匠に
よく類似する吸音パネルの意匠(意願平7-34132号、乙11)が、本件意匠
登録出願後に出願されたにもかかわらず、登録されたことに照らしても、本件登録
意匠とイ号意匠ないしハ号意匠が非類似であることは明らかである。原告らが両意
匠に共通する基本的構成態様として主張するものは、上記別件意匠にも備わってい
る程度の、この種物品(足場兼用吸音材)が通常有する形態にすぎない。
〔共通点〕
 いずれも枠体の上方に上面板を、同下方にU字状の膨出部からなる下面板
を設けた概括的形状を有する。
〔相違点〕
ア 側面視の形状
 本件登録意匠では、左右両端部に縦長長方形状をなす空室と、その外側
壁に左と右とで高さ位置を若干ずらせた係止片と、中央部に下向きに突出するリブ
とがいずれも長手方向に形成され、左右の空室間の内側下面が開放された枠体の下
方に、幅と高さの比が約2対3のU字状をなす膨出部を前記枠体の左右の空室の内
側位置より突出形成されており、これらの形状が側面に露出して観察されるもので
あるのに対し、イ号意匠及びロ号意匠では、横長長方形状、枠体の下方に幅と高さ
の比が略同一のU字形をなす膨出部を一定間隔を置いて三つ突出形成され、枠体に
一対の取付金具が設けられ、また、膨出部の長手方向前後両端面が金属板によって
覆われている。ハ号意匠では、横に長い枠体の下方に扁平逆台形状の足場下部材を
介して幅と高さの比が略同一のU字状をなす膨出部が一定間隔を置いて三つ突出形
成され、枠体に一対の取付金具が設けられており、膨出部、枠体の各前後両端面も
金属板によって覆われている。
イ 正面視の形状
 本件登録意匠では、横長長方形状の枠体の両端部より若干内側に控えた
位置から縦に長く、周面に多数の円形透孔を有する膨出部を垂下形成せしめた形状
であるのに対し、イ号意匠及びロ号意匠では、横長長方形状の枠体の下面に、上方
部が若干短く枠体の両端部より若干内方に控えた位置に取り付けられ、下方部は枠
体両端部より大きく外方に突出した状態で、イ号意匠では、内面にガラスクロスが
張られた菱形網目を有するエキスパンドメタルからなる縦に短い膨出部を、ロ号意
匠では細かな菱形網目を有し、その網目内に緻密にからまりあった微細なアルミニ
ウム繊維が厚み方向にプレス圧着されているため、空気の流通性は有するものの透
孔ではない多孔質のアルミニウム繊維吸音材からなる縦に短い膨出部が垂下形成さ
れている。ハ号意匠では、横長長方形状の枠体の下面に多数の円形透孔が穿設さ
れ、その下にガラスクロスが張られた斜め内側に向けて傾斜する足場下部材を介し
て縦に短い周面に不規則なポーラス状の細かな孔を有する発泡アルミニウム吸音材
からなる縦に短い膨出部を両端が枠体より外方に突出して垂下形成されている。
ウ 平面視の形状
 本件登録意匠では、枠体の上面自体の前後左右両端部を残した中央部に
多数の円形透孔を形成しているのに対し、イ号意匠及びロ号意匠では、三つの枠体
が一体的に連結され、各枠体内部にガラスクロスを張った菱形網目を有するエキス
パンドメタルが張設されており、また、両端部から膨出部が大きく突出している。
ハ号意匠でも、三つの枠体が一体的に連結され各枠体の上面自体に左右及び中央部
を若干残して内部にガラスクロスを張った多数の円形透孔を形成し、両端部から膨
出部が大きく突出している。
エ 底面視の形状
 本件登録意匠では、枠体の前後左右両端部を残して、周面に多数の円形
透孔を有する膨出部が表れているのに対し、イ号意匠及びロ号意匠では、三つの枠
体が一体的に連結され、各枠体の下面に、イ号意匠では両端部にフラットな下面板
と、中央部に膨出部が、いずれも内面にガラスクロスが張られた菱形網目を有する
エキスパンドメタルによって構成され、ロ号意匠では、同じくフラットな下面板
と、膨出部に、細かな菱形網目を有し、その網目内に緻密にからまりあった微細な
アルミニウム繊維が厚み方向にプレス圧着されているため、空気の流通性は有する
ものの透孔ではない多孔質のアルミニウム繊維吸音材によって構成されている。ハ
号意匠では、中央部に不規則なポーラス状の細かな孔を有する発泡アルミニウム吸
音材で構成された膨出部と、その両端に多数の円形透孔を穿設したパンチングメタ
ルの内面にガラスクロスが張られた内方に向けて傾斜する足場下部材が設けられて
いる。イ号意匠ないしハ号意匠のいずれにおいても、膨出部のみが枠体の両端より
大きく突出されている。
(4) 後記争点3(被告らの主張)(2)を前提とすれば、本件登録意匠は別紙意
匠公報各図面そのものに限定されるべきである。
3 権利の濫用(明白な無効理由)
(被告らの主張)
(1) 被告公団の依頼により、その余の被告らは、遅くとも平成7年8月21日
には阪神高速道路3号神戸線に敷設する足場板の開発に着手し、被告公団に対し、
同年9月8日に「高架橋裏面吸音足場付き円筒吸音材及び周辺設備に関する検討書
(報告書№001)」(乙1)を、同月13日には「高架橋裏面吸音足場付き円筒
吸音材及び周辺設備に関する検討書(報告書№002)」(乙3)をそれぞれ提出
した。同検討書に記載された高架橋裏面吸音足場付き円筒吸音材の意匠は、本件登
録意匠と同一又は類似する意匠である。これによれば、本件登録意匠は、出願前公
知(意匠法3条1項1号又は3号)である。
(2) 本件登録意匠は、本件特許出願の分割変更出願によるものであるところ、
次の点で原出願(甲15)の要旨を変更する違法な分割変更出願であるから、その
出願日が前記変更出願日である平成9年6月16日に繰り下がる結果、本件特許出
願に係る公開特許公報(公開日平成9年3月25日)により、出願前公知(意匠法
3条1項1号)である。
ア 原出願には、本件登録意匠図面のうち「平面図」及び「底面図」に相当
する図面は全く添付されておらず、「右側面図」に相当する図面も、第2変形例又
は第3変形例の断面図である第9図(b)又は第10図(b)があるにすぎず、側
面図としては添付されていない。
イ 原出願では「下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に吸音材を
充填したことを特徴とする足場兼用吸音部材」であったものを、本件意匠登録出願
では「膨出部を有する下面板と上面板からなることを特徴とする足場板」という上
位概念及び物品名に変更している。
(原告らの主張)
 いずれも否認する。
4 先使用による通常実施権
(被告らの主張)
(1) 前記争点3(被告らの主張)(1)前段記載のとおり。
(2) 同被告らは、前記(1)の当時、本件意匠登録出願に係る意匠を知らなかっ
た。
(原告らの主張)
 いずれも否認する。
5 原告らの損害
(原告らの主張)3998020815×0.01=39980208
(1) 被告公団の使用する各物件の数量及び価格は次のとおりである。
ア イ号物件 30870㎡ 12億5162万4150円
イロ号物件 29900㎡ 12億1229万5500円
ウハ号物件 37837㎡ 15億3410万1165円
合計  39億9802万0815円
(2) 本件意匠権(各原告の共有持分)の実施料相当額は、原告らにつき各1%
である。
(被告らの主張)
いずれも否認する。
第3 判断―争点2(本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠との類否)について
1 本件登録意匠の構成
  別紙意匠公報(甲4)によれば、本件登録意匠に係る物品である「足場板」
は、下面板の膨出部内を含む上面板と下面板との間に吸音材を充填するように構成
され、高架橋の下方に設置して用いられるものであり(公報説明欄)、その意匠の
構成は次のとおりであると認められる。
 (1) 基本的構成
  A 略偏平直方体状に形成され、上面板を有する上部枠体と、下方に突出す
る側面視U字状の膨出部を形成した下面板とからなる。
  B 上部枠体の上面板には多数の透孔が穿設されている。
  C 下面板は、上面板より長さ、幅ともやや短く、膨出部周面には多数の透
孔が穿設されている。
 (2) 具体的構成
  A 上部枠体は、左右両端部に側面視においてやや縦長の長方形状をなす空
室と、その外側壁に左と右とで高さ位置を若干ずらせた係止片と、上面中央部に下
向きに突出するリブがいずれも長手方向に形成され、左右の空室間の内側下面が開
放された枠体からなり、上面板に穿設された多数の透孔は、円形で平面視で左右、
上下の側端部を除き長手方向に5列並んでいる。
B 下面板の膨出部は、側面視において幅と高さの比が約2対3のU字状を
なし、前記枠体の幅方向の左右両端部に形成された空室の内側位置から下方に突出
しており、膨出部周面に穿設された多数の透孔は円形で、正面視で左右側端を除く
全面に密に形成されている。
 2 イ号意匠ないしハ号意匠の構成
  イ号意匠ないしハ号意匠の構成が、それぞれ別紙「イ号物件意匠説明書」な
いし「ハ号物件意匠説明書」中、各「図面」及び「意匠の具体的構成態様」記載の
とおりである(同記載中、「グラスクロス」とあるのは「ガラスクロス」と同義と
認める。)ことは、いずれも当事者間に争いがない。なお、イ号物件ないしハ号物
件は、いずれも、内部に吸音材が充填され、高架橋の下方に多数並べて設置して用
いられる足場板である(弁論の全趣旨)。
  別紙「イ号物件意匠説明書」ないし「ハ号物件意匠説明書」の各図面によれ
ば、イ号意匠ないしハ号意匠の基本的構成は次のとおりであると認められる。
 A 略偏平直方体状に形成され、上面板を有する上部枠体と、下方に突出する
側面視U字状の膨出部を形成した下面板とからなる。
 B 上部枠体の上面板は、正面視で横長の長方形状の3個の枠体が並列して一
体に連結された形状になっており、それぞれに菱形網目(イ号意匠、ロ号意匠)又
は多数の透孔(ハ号意匠)が形成されている。
 C 下面板は、一定間隔を置いて形成された3個の膨出部からなり、各膨出部
は、上面板の各枠体より幅はやや狭く、長さは上面板の前後両端から突出してお
り、膨出部周面には菱形網目(イ号意匠、ロ号意匠)が形成されている。
3 本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠との類否
 (1) 本件登録意匠に係る物品の需要者は、足場板を購入し高架橋への設置工事
を行う建設業者又は同工事の発注者である高架橋設置管理者であるから、本件登録
意匠とイ号意匠ないしハ号意匠との類否を判断するに当たっても、足場板が高架橋
に設置された状態を想定した平面視又は底面視からの形状だけではなく、その取引
時における足場板を想定したすべての面からの形状について観察して判断すべきで
ある。
 (2) 前記1、2認定の本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠の各構成によれ
ば、いずれも基本的構成として、略偏平直方体状に形成され上面板を有する上部枠
体と、下方に突出する側面視U字状の膨出部を形成した下面板からなる足場板であ
ることでは共通する。もっとも、本件登録意匠においては、足場板が上部枠体も下
面板も1個からなるのに対し、イ号意匠ないしハ号意匠の足場板では、上面板は3
個の枠体が並列して一体に連結された形状になっており、下面板も一定間隔を置い
た3個の膨出部からなる点では異なっている。しかし、本件登録意匠及びイ号意匠
ないしハ号意匠の足場板は、いずれも、高架橋の下方に多数並べて設置して用いら
れるものであるから、予定された使用状態においては、各足場板単体が1個の上部
枠体と下面板からなるものか、それとも3個の上部枠体と下面板からなるものかと
いう違いは、美感の上で差異をもたらすものではなく、このことを考慮すれば、各
意匠の類比を判断するに当たっても上記の差異を重視することは相当でない。
 (3) 本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠とを対比すると、前記(2)で述べ
た相違点のほかに、次のような相違点がある(イ号意匠ないしハ号意匠について
は、別紙「イ号物件意匠説明書」ないし「ハ号物件意匠説明書」の記載のほか、甲
5、7、19、検乙1ないし3)。
ア 本件登録意匠は、正面視、背面視及び底面視の形状において、膨出部に
多数の円形透孔を形成し、平面視の形状においても、上面体の前後左右両端部を残
した中央部に多数の(ただし、正面視、背面視及び底面視で膨出部に現われる透孔
よりは粗で、5列からなる。)円形透孔を形成している。これに対し、イ号意匠な
いしハ号意匠には、次のような相違点がみられる。
  (ア) イ号意匠では、正面視、背面視及び底面視の形状における下面板
(膨出部)の全面並びに平面視の形状における上面板の枠部分を除く全面のいずれ
もが、内部にガラスクロスが張られた菱形網目を有するエキスパンドメタルによっ
て構成されている。
  (イ) ロ号意匠では、正面視、背面視及び底面視の形状における下面板
(膨出部)の全面が、細かな菱形網目を有するエキスパンドメタルによって構成さ
れており、その網目内部は、緻密にからまりあった微細なアルミニウム繊維(多孔
質のアルミニウム繊維吸音材)によって構成されている。平面視の形状における上
面板の枠部分を除く全面は、枠体内部にガラスクロスを張った菱形網目を有するエ
キスパンドメタルが張設されている。
  (ウ) ハ号意匠では、正面視及び背面視の形状において、横長長方形状の
上部枠体の下面に設けられた足場下部材には多数の円形透孔が穿設されており、そ
の下にガラスクロスが張られている。この足場下部材の下にある下面板の膨出部
は、その上端部を覆う横長の金属板に円形透孔が1列のみ穿設されているものの、
膨出部本体は、全面が不規則なポーラス状の細かな孔を有する発泡アルミニウム吸
音材によって構成されている。底面視の形状においても、3個の枠体の各中央部に
不規則なポーラス状の細かな孔を有する発泡アルミニウム吸音材で構成された膨出
部が形成されており、それぞれの両端に現われる足場下部材には、内面にガラスク
ロスが張られた多数の円形透孔が穿設されている。平面視の形状において、上面板
には、3個の枠体のそれぞれに、内部にガラスクロスを張った多数の円形透孔が左
右両端部と中央部を除いて形成されている。
  イ 本件登録意匠では、下面板の下方に突出させたU字状の膨出部の幅と高
さの比が約2対3であり、縦長となっているが、イ号意匠ないしハ号意匠において
は、この比がいずれも略同一であり、膨出部が半円筒状の形状となっている。
  ウ 本件登録意匠においては、下面板の膨出部の前後両端は上部枠体(上面
板)の前後両端部より内側位置にあるが、イ号意匠ないしハ号意匠では、いずれ
も、膨出部が上部枠体(上面板)の前後両端より突出している。
  エ 本件登録意匠では、上部枠体は、左右両端部に縦長長方形状をなす空室
と、その外側壁に左と右とで高さ位置を若干ずらせた係止片と、上面中央部に下向
きに突出するリブとがいずれも長手方向に形成され、左右の空室間の内側下面が開
放されて膨出部につながっている。これに対し、イ号意匠ないしハ号意匠意匠で
は、上部枠体はそのような形状は現れず、一方で、側面視で上部枠体に一対の取付
金具が設けられている。
  オ 本件登録意匠では、下面板(膨出部)が上部枠体の下面から直接垂下し
ているが、ハ号意匠では、横に長い枠体の下方に側面視扁平逆台形状で内方に向け
て傾斜する足場下部材があり、この足場下部材を介して膨出部につながっている。
  カ 本件登録意匠においては、側面視で上部枠体と下面板膨出部の内部形状
が側面に露出して観察されるのに対し、イ号意匠ないしハ号意匠では、上部枠体及
び下面板膨出部の内部形状は側面に露出しておらず、膨出部の長手方向前後両端面
及び両端突出部の上面は金属板(イ号意匠、ハ号意匠)又は1枚の金属板を折り曲
げて形成した蓋体(ロ号意匠)によって覆われている。
 (4) 上記の相違点のうち、アの相違点に関する本件登録意匠の構成、すなわ
ち、本件登録意匠において上部枠体の上面板と下面板の膨出部周面に穿設された円
形透孔は、足場板における可視部分の大部分を占め、ことに膨出部の円形透孔は、
膨出部の周面全面に密に穿設されており、使用時に最も目立つ部分でもあるから、
需要者の眼をひく特徴的な形状ないし模様ということができる。このように、正面
視、背面視、底面視及び平面視の各形状現われる多数の円形透孔の存在は、独特の
美感をもたらすものであり、見る者の注意をひく部分として、本件登録意匠の要部
を構成するものというべきである。
   原告らは、本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠は、「いずれも略扁平
直方体状に形成し、上面に多数の透孔を形成した上部と該上部から下方に帯状に突
出する、側面視して上部より幅の狭い膨出部として形成し、膨出部として形成した
下部の周面に多数の透孔を形成した下部とからなる足場板である」点で共通し、他
の相違点は微差にすぎないから、両意匠は類似する旨主張する。しかし、原告らが
主張する両意匠の共通点のうち、膨出部の下部周面に多数の透孔を有するという点
は、前記のとおり、イ号意匠ないしハ号意匠には存在しないものであり(イ号意匠
及びロ号意匠の膨出部周面に形成された菱形網目は透孔とはいえないし、本件登録
意匠の円形透孔とは美感上顕著に相違するものである。また、ハ号意匠の膨出部に
形成された不規則なポーラス状の細かな孔も本件登録意匠の透孔とは全く異なるも
のであり、美感上も顕著に相違する。)、事実に反する。また、甲18の2、甲2
0、21(乙24)、甲23、乙12の1ないし8によれば、本件意匠登録出願前に
頒布された刊行物や発行された公開特許公報、意匠公報等に記載された高架橋の裏
面に取り付ける吸音材としては、断面円形、半円形の筒状のものがあり、そのほ
か、道路用桁下化粧材やルーバ材としては、断面三角形、台形、やや偏平な半円形
状等の形状のものがあることが認められる。これらの事実も併せ考えると、本件登
録意匠の要部を略偏平直方体状の上部枠体と下方に突出した膨出部を形成した下面
板からなる構成のみに求めることは相当ではなく、見る者に美感上強い印象を与え
る膨出部の周面全体に形成された円形透孔の存在も意匠の要部ととらえるべきであ
る。
  また、本件登録意匠の構成のうち、下面板が上部板より長さ、幅ともやや
短く、下面板(膨出部)が幅と高さの比が約2対3、すなわち縦長のU字状に形成
されている点も、本件意匠の基本的な美的印象を構成するポイントであり、前記の
出願前の公知意匠にも見られない点であるから、看者の注意をひく意匠の要部と解
される。
  ところで、乙11によれば、本件意匠登録出願(平成7年9月14日)後
の平成7年11月14日出願に係る「吸音パネル」の意匠が登録になっており、こ
の意匠は、本件登録意匠と同じく、高速道路等の高架部の裏側桁部分に取り付けら
れるものであり、上部が略偏平直方体状で、下部がゆるやかな弧状の波板状に膨出
部が形成され、長手方向側面同士で2個連結されており、上部と下部は長手方向同
一長さであり、上面板には長手方向両側部を除き菱形網目が形成され、波板状膨出
部は周面全体に極めて密に円形透孔が形成されている形状を現している(実際の使
用時には多数連続して取り付けられる。)ことが認められる。この意匠が本件登録
意匠の後願でありながら登録された(意匠法3条の2参照)事実に照らしても、本
件登録意匠の要部を原告ら主張のようにとらえるのは相当ではなく、膨出部の円形
透孔のみならず、下面板が上部枠体より長手方向で短く、膨出部が縦長のU字状に
形成されている点も、意匠の構成上無視できないことを示しているといえる。な
お、乙11の登録意匠について、原告らは審査経過を云々するが、その出願経過
(甲26)から、本件意匠登録出願の存在を看過して登録に至ったとは断定できな
い。
(5) 上記のとおり、イ号意匠及びロ号意匠は、本件登録意匠のような円形透孔
を有しておらず、また、ハ号意匠においては、上部枠体の上面板に円形の透孔がみ
られるものの、その配置状況や配置密度が本件登録意匠とは大きく異なっているほ
か、下面板中、両端の足場下部材には円形透孔がみられるとはいえ、下面板の大部
分を占め、中央部に位置する膨出部には、円形透孔がみられないのであるから、イ
号意匠ないしハ号意匠は、意匠の要部において本件登録意匠の構成と大きく異なっ
ている。また、イ号意匠ないしハ号意匠は、下面板(膨出部)が上面板の前後方向
両端より突出しており、U字状の膨出部も縦長ではなく半円筒状の形状になってい
る点で、下面板(膨出部)が前後方向長さでも上面板より短くて上面板から突出せ
ず、膨出部が縦長のU字状に形成された本件登録意匠とは、意匠の要部の構成でか
なり異なった印象を与えるものになっている。
  これらの相違点により、本件登録意匠とイ号意匠ないしハ号意匠とは、全
体として、見る者に美感上顕著に異なる印象を与えるものというべきである。
  したがって、イ号意匠ないしハ号意匠は、いずれも本件登録意匠に類似し
ない。上記判断と異なる甲25(弁理士A作成の鑑定書)は採用できない。
第4 結論
 以上によれば、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、
いずれも理由がない。
大阪地方裁判所第21民事部
        裁判長裁判官    小松一雄
           裁判官中平 健
 裁判官田中秀幸
(別紙)
イ号物件意匠説明書イ号図面第1、2、3、4図イ号図面第5、6図
ロ号物件意匠説明書ロ号図面第1、2、3、4図ロ号図面第5、6図
ハ号物件意匠説明書ハ号図面第1、2、3、4図ハ号図面第5、6図

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