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平成19年7月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成16年(行ウ)第206号固定資産税等賦課処分等取消請求事件(第1事件)
平成17年(行ウ)第18号固定資産税等賦課処分取消請求事件(第2事件)
平成17年(行ウ)第127号固定資産税等減免許可処分取消請求事件(第3事
件)
平成17年(行ウ)第284号訴えの追加的併合事件(第4事件)
平成17年(行ウ)第637号固定資産税・都市計画税賦課処分取消等請求事件
(第5事件)
口頭弁論終結日平成19年4月27日
判決
東京都千代田区
原告(第1ないし第5事件)合資会社朝鮮中央会館管理会
同代表者無限責任社員
原告訴訟代理人弁護士
東京都千代田区
被告(第1ないし第3事件)東京都千代田都税事務所長
東京都新宿区
被告(第4,第5事件)東京都
同代表者知事
処分行政庁(第4,第5事件)東京都千代田都税事務所長
被告両名訴訟代理人弁護士
被告両名指定代理人
主文
1原告の第4事件に係る訴え及び第5事件に係る訴えのうち固定資産税の
全額減免の許可処分の義務付けを求める訴えをいずれも却下する。
2原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は全事件を通じて原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
(第1事件)
1被告東京都千代田都税事務所長が原告に対し平成15年7月10日付けでし
た別紙物件目録(省略。以下同じ)記載の各不動産に係る平成15年度固定。
資産税及び都市計画税の賦課処分(ただし,平成15年8月18日付けで減免
された金額に係る部分を除く)を取り消す。。
2被告東京都千代田都税事務所長が原告に対し平成15年8月18日付けでし
た別紙物件目録記載の各不動産に係る平成15年度固定資産税の減免許可決定
処分のうち減免不許可とした部分を取り消す。
(第2事件)
被告東京都千代田都税事務所長が原告に対し平成16年6月1日付けでした
別紙物件目録記載の各不動産に係る平成16年度固定資産税及び都市計画税の
賦課処分(ただし,平成16年11月9日付けで減免された金額に係る部分を
除く)を取り消す。。
(第3事件)
被告東京都千代田都税事務所長が原告に対し平成16年11月9日付けでし
た別紙物件目録記載の各不動産に係る平成16年度固定資産税の減免許可決定
処分のうち減免不許可とした部分を取り消す。
(第4事件)
1東京都千代田都税事務所長は,原告に対し,原告が平成15年7月25日付
けでした別紙物件目録記載の各不動産に係る平成15年度固定資産税の減免申
請について,平成15年8月18日付けの減免許可決定処分により減免した部
分を除き,全額減免の許可決定処分をせよ。
2東京都千代田都税事務所長は,原告に対し,原告が平成16年6月25日付
けでした別紙物件目録記載の各不動産に係る平成16年度固定資産税の減免申
請について,平成16年11月9日付けの減免許可決定処分により減免した部
分を除き,全額減免の許可決定処分をせよ。
(第5事件)
1東京都千代田都税事務所長が原告に対し平成17年6月1日付けでした別紙
物件目録記載の各不動産に係る平成17年度固定資産税及び都市計画税の賦課
処分(ただし,平成17年7月28日付けで減免された金額に係る部分を除
く)を取り消す。。
2東京都千代田都税事務所長が原告に対し平成17年7月28日付けでした別
紙物件目録記載の各不動産に係る平成17年度固定資産税の減免許可決定処分
のうち減免不許可とした部分を取り消す。
3東京都千代田都税事務所長は,原告に対し,原告が平成17年6月13日付
けでした別紙物件目録記載の各不動産に係る平成17年度固定資産税の減免申
請について,平成17年7月28日付けの減免許可決定処分により減免した部
分を除き,全額減免の許可決定処分をせよ。
第2事案の概要
本件は,在日本朝鮮人総聯合会(以下「朝鮮総聯」という)が中央本部の。
事務所等として使用する別紙物件目録記載の各不動産(以下,同目録記載1及
び2の各土地を併せて「本件土地,同目録記載3の建物を「本件建物,本」」
件土地及び本件建物を併せて「本件各不動産」という)について,過去長年。
にわたり,固定資産税及び都市計画税の全額減免が行われていたところ,平成
15年度,平成16年度及び平成17年度の固定資産税及び都市計画税の賦課
期日において本件各不動産の所有名義人であった原告が,本件各不動産に係る
これらの各年度の固定資産税及び都市計画税の賦課処分を受け,これに対して
申請した固定資産税の減免についても,一部の金額の減免のみを許可し,その
余の減免を不許可とする処分を受けたことから,これらの賦課処分及び減免許
可決定処分は,固定資産税の減免の要件を定める条例の解釈適用を誤った違法
があり,信義則及び平等原則にも違反するなどと主張して,これらの各処分
(ただし,減免許可に係る部分を除く)の取消しと,減免申請に対する全額。
減免の許可決定処分の義務付けを求める事案である。
1関係法令等の定め
(1)都の特別区の存する区域においては,都が固定資産税を課するものとさ
れ,この場合においては,都を市とみなして地方税法の固定資産税に関する
規定が準用されるところ(地方税法734条1項,地方税法367条は,)
「市町村長は,天災その他特別の事情がある場合において固定資産税の減免
を必要とすると認める者,貧困に因り生活のため公私の扶助を受ける者その
他特別の事情がある者に限り,当該市町村の条例の定めるところにより,固
定資産税を減免することができる」と定めている(なお,これにより固定。
資産税が減免されたときは,地方税法702条の8第7項の規定により,都
市計画税についても,当該固定資産税に対する減免額の割合と同じ割合で減
免される。。)
(2)地方税法367条を受けた東京都都税条例(昭和25年東京都条例第5
6号。ただし,平成18年東京都条例第27号による改正前のもの。以下
「都税条例」という)134条1項は「左の各号の一に該当する固定資。,
産であって,知事において必要があると認めるものに対する固定資産税の納
税者に対しては,当該固定資産税を減免する」と定め,同項2号は「公益。
のために直接専用する固定資産(固定資産の所有者に課する固定資産税にあ
っては,当該所有者が有料で使用させるものを除く」を,同項4号は。)
「前各号に掲げるものの外,規則で定める固定資産」をそれぞれ掲げている。
(3)都税条例134条1項4号を受けた東京都都税条例施行規則(昭和25
年東京都規則第126号。ただし,平成18年東京都規則第150号による
改正前のもの。以下「本件規則」という)31条1項は,都税条例134。
条1項4号に該当するものを「賦課期日後火災その他の事由に因り,滅失し,
又は甚大な損害を受けた家屋その他特別の事情があると認められる固定資
産」と定め,同条2項は「前項に規定する固定資産に対する固定資産税の,
減免は,当該事情を考慮して知事の認めるところにより減免する」と定め。
ている。
(4)各都税事務所長あての東京都主税局長通達「固定資産税及び都市計画税
の課税事務の取扱いについて(以下「本件通達」という)は,本件規則」。
31条1項の「特別の事情があると認められる固定資産」について,これに
該当する固定資産の類型を個々に列挙しているところ,平成7年2月28日
付け通達(乙17,平成10年1月22日付け通達(乙18,平成14))
年2月6日付け通達(乙10)及び平成15年12月25日付け通達(乙3
0)においては,上記各列挙の減免対象資産以外の固定資産で,次の(ア)又
は(イ)に掲げるような事情が認められるものについて負担の均衡又は能力等
を考慮して知事の必要と認めるものを「その他特別の事情があると知事の認
める固定資産」として減免対象資産に含める旨を定めている(以下,この定
めを「本件基準」という。。)
(ア)課税することが建前であるが,社会通念上,課税することが明らか
に不合理であり,かつ,近い将来において,非課税等の立法措置がとら
れる可能性の強いもの。
(イ)固定資産の使用実態等が,都の行政に著しく寄与すると認められ,
減免措置に対して,都民の合意が容易に得られるもの。
2争いのない事実
(1)原告及び本件各不動産
ア原告は,平成15年度,平成16年度及び平成17年度の固定資産税及
び都市計画税の賦課期日である平成15年1月1日,平成16年1月1日
及び平成17年1月1日において,本件各不動産について,登記簿に所有
者として登記されていた者である。
イ本件建物は,昭和61年9月に新築され,朝鮮総聯中央本部の事務室等
として使用されている。本件土地は,本件建物の敷地である。
(2)平成15年度固定資産税及び都市計画税の課税等の経緯
ア東京都知事の権限の委任を受けた第1ないし第3事件被告兼第4,第5
事件処分行政庁東京都千代田都税事務所長(以下,単に「処分行政庁」と
いう)は,原告に対し,平成15年7月10日付けで,本件各不動産に。
係る平成15年度固定資産税及び都市計画税の賦課処分(以下「平成15
年度賦課処分」という)をした。平成15年度賦課処分に係る税額は,。
次のとおりである。
固定資産税額3669万1400円
都市計画税額786万2400円
イ原告は,処分行政庁に対し,平成15年7月25日付けで,本件各不動
産に係る平成15年度固定資産税の減免申請(以下「平成15年度減免申
請」という)をした。。
ウ処分行政庁は,本件各不動産のうち旅券及び査証の発給業務(以下,単
に「旅券発給業務」という)の用に直接供している部分が都税条例13。
4条1項4号及び本件規則31条1項に該当するものと認め,原告に対し,
平成15年8月18日付けで,本件各不動産に係る平成15年度固定資産
税の税額のうち,183万4600円を減免する旨の減免許可決定処分
(以下「平成15年度減免処分」といい,このうち減免不許可とした部分
を「平成15年度減免不許可処分」という)をした。平成15年度減免。
処分による減免後の税額は,次のとおりである。
固定資産税額3485万6800円
都市計画税額746万9200円
エ原告は,平成15年度賦課処分については平成15年9月3日に,平成
15年度減免処分については同年10月6日に,それぞれ東京都知事に対
して審査請求をしたが,平成16年2月24日付けで,これらをいずれも
却下ないし棄却する旨の裁決を受けたため,同年5月19日,上記の各処
分(ただし,減免許可に係る部分を除く)の取消しを求めて第1事件に。
係る訴えを提起するとともに,平成17年6月30日,平成15年度減免
申請に対する全額減免の許可決定処分の義務付けを求めて第4事件に係る
訴えを提起した。
(3)平成16年度固定資産税及び都市計画税の課税等の経緯
ア処分行政庁は,原告に対し,平成16年6月1日付けで,本件各不動産
に係る平成16年度固定資産税及び都市計画税の賦課処分(以下「平成1
。,6年度賦課処分」という)をした。平成16年度賦課処分に係る税額は
次のとおりである。
固定資産税額3669万1400円
都市計画税額786万2400円
イ原告は,処分行政庁に対し,平成16年6月25日付けで,本件各不動
産に係る平成16年度固定資産税の減免申請(以下「平成16年度減免申
請」という)をした。。
ウ処分行政庁は,本件各不動産のうち旅券発給業務の用に直接供している
部分が都税条例134条1項4号及び本件規則31条1項に該当するもの
と認め,原告に対し,平成16年11月9日付けで,本件各不動産に係る
平成16年度固定資産税の税額のうち,162万1800円を減免する旨
の減免許可決定処分(以下「平成16年度減免処分」といい,このうち減
。。免不許可とした部分を「平成16年度減免不許可処分」という)をした
平成16年度減免処分による減免後の税額は,次のとおりである。
固定資産税額3506万9600円
都市計画税額751万4800円
エ原告は,平成16年度賦課処分について,平成16年7月30日,東京
都知事に対して審査請求をしたが,同年10月26日付けで,これを棄却
する旨の裁決を受けたため,平成17年1月20日,上記の処分(ただし,
減免許可に係る部分を除く)の取消しを求めて第2事件に係る訴えを提。
起した。
オ原告は,平成16年度減免処分について,平成16年12月14日,東
京都知事に対して審査請求をしたが,平成17年3月10日付けで,これ
を却下ないし棄却する旨の裁決を受けたため,同年3月31日,上記の処
分(ただし,減免許可に係る部分を除く)の取消しを求めて第3事件に。
係る訴えを提起するとともに,同年6月30日,平成16年度減免申請に
対する全額減免の許可決定処分の義務付けを求めて第4事件に係る訴えを
提起した。
(4)平成17年度固定資産税及び都市計画税の課税等の経緯
ア処分行政庁は,原告に対し,平成17年6月1日付けで,本件各不動産
に係る平成17年度固定資産税及び都市計画税の賦課処分(以下「平成1
7年度賦課処分」といい,平成15年度賦課処分及び平成16年度賦課処
分と併せて「本件各賦課処分」という)をした。平成17年度賦課処分。
に係る税額は,次のとおりである。
固定資産税額3641万0100円
都市計画税額780万2100円
イ原告は,処分行政庁に対し,平成17年6月13日付けで,本件各不動
産に係る平成17年度固定資産税の減免申請(以下「平成17年度減免申
請」という)をした。。
ウ処分行政庁は,本件各不動産のうち旅券発給業務の用に直接供している
部分が都税条例134条1項4号及び本件規則31条1項に該当するもの
と認め,原告に対し,平成17年7月28日付けで,本件各不動産に係る
平成17年度固定資産税の税額のうち,160万9400円を減免する旨
の減免許可決定処分(以下「平成17年度減免処分」といい,このうち減
免不許可とした部分を「平成17年度減免不許可処分」という。また,平
成15年度減免処分,平成16年度減免処分及び平成17年度減免処分を
併せて「本件各減免処分,平成15年度減免不許可処分,平成16年度」
減免不許可処分及び平成17年度減免不許可処分を併せて「本件各減免不
許可処分」という)をした。平成17年度減免処分による減免後の税額。
は,次のとおりである。
固定資産税額3480万0700円
都市計画税額745万7200円
エ原告は,平成17年度賦課処分については平成17年7月26日に,平
成17年度減免処分については同年9月20日に,それぞれ東京都知事に
対して審査請求をしたが,同年12月6日付けで,これらをいずれも却下
ないし棄却する旨の裁決を受けたため,同年12月28日,上記の各処分
(ただし,減免許可に係る部分を除く)の取消しと平成17年度減免申。
請に対する全額減免の許可決定処分の義務付けを求めて第5事件に係る訴
えを提起した。
3本案前の主張
被告らは,減免許可決定処分の義務付けの訴え(第4事件に係る訴え及び第
5事件に係る訴えの一部)が適法であるためには,本件各減免不許可処分が
「取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在であること(行政」
事件訴訟法37条の3第1項2号)が必要であるところ,本件各減免不許可処
分は適法になされたものであるから,上記義務付けの訴えはいずれも不適法で
あると主張する。
4争点及び当事者の主張
(1)争点(1)(都税条例134条1項2号該当性)
争点の第1は,本件各不動産が都税条例134条1項2号の「公益のため
に直接専用する固定資産」に該当するか否かであり,以下のとおり,原告は
これに該当すると主張し,被告らはこれに該当しないと主張する。
ア原告の主張
本件各不動産は,朝鮮総聯が実質上所有するものであり,本件建物が建
築される前に本件土地上に存在していた建物(以下「旧建物」という)。
の時代から,朝鮮民主主義人民共和国の大使館又は領事館等の外交使節団
の公館としての機能を果たし,在日朝鮮人の権利擁護団体である朝鮮総聯
中央本部の施設として利用されている。すなわち,朝鮮総聯は,日本にお
ける在外公館的組織として,本件各不動産の全部の利用を通じて,①朝鮮
民主主義人民共和国への在日朝鮮人と日本人の渡航手続業務,②朝鮮民主
主義人民共和国からの来日に関する身元引受,関係官庁との交渉窓口,③
日本との文化交流,④在日朝鮮人の広範な人権擁護活動・民族教育活動,
⑤朝鮮民主主義人民共和国と日本を含む他国との間の貿易・経済交流の窓
口的役割,⑥朝鮮民主主義人民共和国の宣伝活動,⑦日本政府その他の在
),日公館(大使館等,国際機関との交流などの外交活動,⑧人道支援事業
などの活動をしており,そのような朝鮮総聯が実質上の所有者として使用
する本件各不動産は,在外公館的施設としての公共的・公益的機能を果た
しているのであるから,都税条例134条1項2号の「公益のために直接
専用する固定資産」に該当する。
イ被告らの主張
都税条例134条1項2号の「公益のために直接専用する固定資産」と
は,その文言からして,それが不特定多数の者の使用又は利用等のために
現に供され,その利益を増進するような性質のものであることを要すると
解され,それが特定の者によって使用又は利用されている場合にはこれに
該当するとはいい得ないものであるところ,本件各不動産は,朝鮮総聯と
いう特定団体の利用に供されているものであり,広く住民に開放される等
して現に不特定多数の者の利益を増進する用途に専用されている状況はな
いのであるから,本件各不動産は,同号に定める固定資産には該当しない。
(2)争点(2)(都税条例134条1項4号・本件規則31条1項該当性)
争点の第2は,本件各不動産が都税条例134条1項4号及び本件規則3
1条1項の「特別の事情があると認められる固定資産」に該当するか否か
(本件基準に該当するか否か)であり,以下のとおり,原告はこれに該当す
ると主張し,被告らはこれに該当しないと主張する。
ア原告の主張
本件各不動産は,その全部が,大使館又は領事館的な外交使節団公館と
して広く都民に公開されており,本件基準の(ア)及び(イ)に該当する。処
分行政庁は,本件建物が昭和61年9月に新築される以前の昭和39年度
分から,平成14年度分に至るまで,本件土地及び旧建物ないし本件建物
に対する固定資産税を全額減免してきたものであるところ,これはもとも
と外交関係に関するウィーン条約23条の公館に対する課税免除の趣旨に
配慮したものであり,本件基準に置き換えれば(ア)及び(イ)に該当するも
のと取り扱ってきたとみることができるから,本件に関する都税条例等の
規定及び本件各不動産全部の使用実態に変化がない以上,処分行政庁は,
単に旅券発給業務の用に供している部分だけではなく,本件各不動産の全
部が都税条例134条1項4号及び本件規則31条1項に該当するものと
して,従来どおり固定資産税の全額を減免すべきである。
イ被告らの主張
地方税法367条は,担税力の薄弱な者だけではなく,公益上必要があ
る者に対する減免をも認める趣旨であり,本件規則31条1項の「特別の
事情があると認められる固定資産」には固定資産税を減免する公益上の必
要性があるものも含まれる。そして,いかなるものについて固定資産税を
減免する公益上の必要性があるかは,その時々において,固定資産税を減
免するという手段によって達成しようとする政策や行政目的との関係にお
ける課税庁の合理的な裁量に委ねられている。
本件の場合,日本と朝鮮民主主義人民共和国とは国交がなく,相互主義
に基づき両国間の外交施設について相互に税を免除しているという情況に
はなく,社会通念上課税することが明らかに不合理であるとはいえないし,
また,近い将来において非課税等の立法措置がとられる可能性が強いとは
認められないから,本件各不動産が本件基準の(ア)に該当するということ
はできない。
また,朝鮮総聯中央本部が本件建物において行っているとする朝鮮総聯
の事務事業(旅券発給業務を除く)のうち,在日朝鮮人の広範な人権擁。
護活動・民族教育活動については,朝鮮総聯の綱領や活動原則にうたわれ
ている在日朝鮮人という特定の人を対象とした朝鮮総聯固有の活動であっ
て,これまでに提出された書類や聴取した内容を見る限り,都の行政に著
しく寄与する事実は認められない。本国及び日本を含む他国との貿易・経
済交流の窓口的役割,本国の宣伝活動及び日本政府その他の在日公館(大
使館等)との交流などの活動については,いずれも都や都民と関連性を有
する具体的な活動が行われていることが明らかでなく,都の行政に著しく
寄与するものと認めるまでの根拠は見出せず,また,減免措置に対して,
都民の合意が容易に得られるものと認めることもできない。また,その他
の事務事業も,いずれも都や都民と直接の関連性を有するものではなく,
都の行政に著しく寄与するとは認められず,また,減免措置に対して,都
民の合意が容易に得られるものと認めることもできない。したがって,本
件各不動産のうち旅券発給業務の用に直接供している部分以外の部分につ
いては,本件基準の(イ)の事情が認められない。
(3)争点(3)(信義則違反)
争点の第3は,過去長年にわたり固定資産税及び都市計画税の全額減免が
行われていた本件各不動産について,本件各減免不許可処分をしたことが,
信義則に違反し,違法であるか否かである。
ア原告の主張
信義則の法理は,課税庁の従来の取扱いを信頼し,同取扱いに基づいて
当該納税者を中心に一つの秩序が形成されているもとで,納税者の信頼を
裏切って,従来の取扱いを納税者の不利益に変更することは,納税者の法
的安定性・法的予測可能性を侵すことから,これを許さないこととして,
当該納税者を保護しようとするものであるところ,本件の場合には,昭和
),47年4月10日付けの固定資産税・都市計画税減額決定通知(甲12
同年7月22日付けの新聞報道(甲13)などで処分行政庁の公的見解の
表示があり,このことは爾来長年にわたって公知の事実であったから,信
義則の法理が適用される要件を充足している。本件各減免不許可処分は,
法令の変更もなく,朝鮮総聯の機能や本件各不動産の利用実態にも変化が
ないのに,課税免除から課税への取扱いの変更を一方的に行ったものであ
り,信義則に違反し,違法である。
イ被告らの主張
信義則とは,いったん表現された言動を信頼しているところの相手方の
信頼を裏切ってはならないとする法則をいうものであるところ,本件各不
動産については,実地調査の結果を踏まえ,減免事由に該当するか否かを
認定して本件各減免処分を行ったものであるから,そもそも,原告が処分
行政庁の公的見解を信じて行動したにもかかわらず裏切られたという場合
に該当しないし,また,本件各減免不許可処分は,過去に遡って減免処分
を取り消すものではないから,原告には何ら経済的な損害が発生していな
いものであって,本件は信義則が適用される事案ではない。
(4)争点(4)(平等原則違反)
争点の第4は,朝鮮総聯とその性格ないし活動状況に差異がないと原告が
主張する団体の施設について固定資産税の全額減免が行われていることと比
較して,本件各不動産について本件各減免不許可処分をしたことが,平等原
則に違反し,違法であるか否かである。
ア原告の主張
東京都は,現在,台湾の台北駐日経済文化代表處に対して,固定資産税
の全額を免除しているところ,台北駐日経済文化代表處と朝鮮総聯との間
には,日本と国交のない国の実質上の大使館・領事館であるという点にお
いて何の差異もない。また,東京都は,現在,在日本大韓民国民団(以下
「民団」という)中央本部の事務所に対して,固定資産税の全額を免除。
しているところ,民団と朝鮮総聯との間には,在日朝鮮・韓国人の権利擁
護団体として活動している点において何の差異もない。したがって,これ
らと朝鮮総聯について固定資産税の減免の点で全く異なる取扱いをする本
件各減免不許可処分は,平等原則に反する違法な処分である。
イ被告らの主張
固定資産税等の減免処分は,その申請時点における事実関係を基に,個
別に決定されるものであり,減免申請時点の事実関係が異なれば,当然減
免の可否の判断も異なることになるのであるから,本件各不動産とは全く
別個の固定資産であり,減免申請時点における事実関係の異なる台北駐日
経済文化代表處等と本件各不動産とを同一に取り扱わなければならないも
のではない。したがって,本件各減免不許可処分は平等原則に違反しない。
第3当裁判所の判断
1前記争いのない事実に証拠(各項末尾掲記のもの)及び弁論の全趣旨を総合
すれば,次の事実が認められる。
(1)朝鮮総聯について
朝鮮総聯は,在日朝鮮人の権利擁護等を目的として,昭和30年に日本で
結成された団体であり,在日朝鮮人とその団体によって構成される連合体で
ある。
東京都に中央本部を置き,最高議決機関として3年に1回招集される全体
大会と1年に1回招集される中央委員会があり,全体大会及び中央委員会の
決定によって諸般の事業を組織,指導する機関として中央常任委員会がある。
また,各都道府県には地方本部及び支部,分会があり,その他各種の傘下団
体及び事業体を有している。
中央常任委員会は,議長,責任副議長,副議長,事務総局長及び各専門部
署局長等によって構成され,中央常任委員会内に事務総局と,総務局,教育
局等の専門部署を置いている(以上,甲46)。
(2)本件各不動産の所有関係等
ア本件土地は,関東興業株式会社(昭和36年3月23日設立)が昭和3
7年5月15日に取得して登記簿上の所有者となり,その後,平成10年
9月21日に合名会社朝鮮中央会館管理会が取得し,平成13年5月30
。,日に合資会社に組織変更して,原告が登記簿上の所有者となった(甲1
甲2,甲8,乙19)
イ旧建物は,昭和38年4月に新築され,朝鮮総聯が中央本部を置いたが,
昭和60年4月に滅失し,その後,本件建物が建築された。本件建物の登
記簿上の所有名義については,昭和61年10月23日付けで,朝鮮総聯
中央本部事務総局長と関東興業株式会社代表取締役との間で,本件建物は
朝鮮総聯中央本部が朝鮮総聯中央会館として建てたものであるが,朝鮮総
聯中央本部は法人格を有しないため,関東興業株式会社の名義で登記する
こととした旨の覚書が交わされ,同年11月6日に関東興業株式会社を所
有者とする表示登記が行われた。その後,平成10年9月21日に合名会
社朝鮮中央会館管理会が本件建物の登記簿上の所有者となった(甲3,。
甲46,乙3,乙15,乙19)
(3)従前の固定資産税の減免措置の経緯
ア処分行政庁は,昭和47年4月10日付けの決定等により,都税条例1
34条1項4号の規定に基づいて,旧建物及び本件土地に係る昭和39年
度分から昭和47年度分までの固定資産税を全額減免し,さらに昭和48
年5月11日付けで,昭和48年度分以降の固定資産税を課税免除とする
こととした(乙9の1ないし9,乙19)。
イ関東興業株式会社は,本件建物の新築に伴い,昭和63年3月17日,
処分行政庁に対し,本件各不動産に係る固定資産税の減免申請をした。処
分行政庁は,同日,本件各不動産の利用状況確認等の実地調査を行った結
果,本件建物について,次のような事情が認められたことから,都税条例
134条1項4号及び本件規則31条1項の「特別の事情があると認めら
れる固定資産」に該当すると判断し,平成元年7月10日付けで,本件各
不動産に係る昭和62年度分から平成元年度分までの固定資産税を全額減
免する旨の決定をした(乙4ないし乙6,乙19)。
(ア)本件建物は,朝鮮民主主義人民共和国に関するマスコミ等の記者会
見の会場となったり,査証業務等を行っていることから,我が国と同国
との国交が正常に回復した場合,直ちに外交使節団の公館として位置づ
けられる性格を有するものであること。
(イ)本件建物は,我が国と朝鮮民主主義人民共和国との間に国交がない
にも関わらず,朝鮮総聯の利用を通じて市民外交の推進に寄与している
こと。
(ウ)本件建物は,朝鮮総聯中央本部傘下の諸団体の活動を援助し,日朝
両国の経済・文化の友好交流等を図り,国際親善に寄与していること。
ウその後,本件各不動産の固定資産税の減免については,特段の事情がな
い限り,年度ごとの実地調査と再検討を行う必要がないとの取扱いがなさ
れ,賦課決定及び減免申請に基づく減免許可決定という正規の手続を踏ま
ない課税免除の取扱いが平成14年度まで継続していた。
合名会社朝鮮中央会館管理会が,本件各不動産の取得に伴い,平成11
年6月23日,処分行政庁に対し,本件各不動産に係る固定資産税の減免
申請をした際にも,処分行政庁は,単なる登記上の名義人の変更であり,
使用状況にも変更があったとは認められないとして,引き続き減免措置を
継続することとした(乙7,乙8)。
エまたこの間,本件通達の改正通達である平成7年2月28日付けの通達
において,本件基準が初めて明示され,その後の累次の改正通達にも本件
基準が引き継がれたが,これは本件各不動産の減免の事例をも勘案して定
められたものであった(乙16,乙17)。
(4)平成15年度減免処分の経緯
ア東京都主税局では,従前から引き続き減免措置を講じている固定資産に
ついて,平成10年度から主として書類審査及び外観調査による見直しを
図り,平成13年度からは平成10年度ないし12年度の調査結果を踏ま
え,実地調査を中心とした見直しを行っており,本件各不動産についても,
平成15年度に実地調査を実施することとなった(乙23ないし乙2。
5)
イ処分行政庁は,東京都主税局と合同で,平成15年5月20日,朝鮮総
聯中央本部の職員等の立会いのもとに本件各不動産の利用状況確認等の実
地調査を実施し,以下の事実を確認した(乙11)。
(ア)本件建物には,朝鮮総聯中央本部の内部組織である局,委員会等の
各部署が使用するそれぞれの事務室のほか,役員室,貴賓室,応接室,
会議室,展示室,図書室,資料室,食堂,ホール,ロビー,地下駐車場
等がある。
(イ)朝鮮総聯提供の「朝鮮総聯中央本部の機構」と題する資料によれば,
朝鮮総聯中央本部が本件建物で行っている事務事業及びその担当部署は,
以下のとおりである。
議長・責任副議長・副議長(本件建物8,9,10階)
活動全般の指導
事務総局(本件建物6階)
活動計画立案,広報,専門局間の調整,本部会館の管理,本部職
員の福利厚生
総務局(本件建物6階)
人事,研修,教宣(機関紙,地方本部・団体との連携)
総聯共済組合(本件建物7階)
共済年金の支給
総聯映画制作所(本件建物3階)
総聯活動の映像記録・紹介,インターネット広報
教育局(本件建物4階)
朝鮮学校の指導・支援,教職員の派遣,教科書作成の補助,教育
研究の企画,朝鮮学校のスポーツ・文化活動の企画
同胞生活局(本件建物6階)
同胞生活の奉仕活動,人権擁護,人道支援,在日朝鮮人・日本人
・在日外国人の朝鮮渡航手続,朝鮮旅券・相続等各種証明書の発

朝鮮人強制連行真相調査団(本件建物4階)
日朝共同の朝鮮人強制連行真相調査活動,被害者慰霊祭
経済局(本件建物3階)
在日朝鮮人の企業権擁護,経営情報の研究,経済団体との連携
女性局(本件建物3階)
同胞女性の地位向上,人材育成,日朝女性交流
国際・統一局(本件建物4階)
日朝友好親善活動,地方自治体等との市民外交,日朝関係正常化
と在日朝鮮人問題の解決,駐日公館員・国際機関との交流,朝鮮
統一運動,南北交流活動への参与,民団等在日同胞団体との提携
財政局(本件建物4階)
予算,財政・財産管理
民族性固守委員会(本件建物4階)
朝鮮語・民族文化の普及,日朝文化スポーツ活動,金剛山歌劇団
・地方歌舞団の公演企画,在日同胞の体力向上
経済委員会(本件建物4階)
日朝間の貿易・経済交流
財政委員会(本件建物3階)
同胞商工人等からの賛助金募集
祖国訪問事務所(本件建物4階)
在日朝鮮人の朝鮮への墓参,親族訪問,修学旅行,日本人旅行者
の渡航に関する実務の支援・サービス
情報通信推進室(本件建物5階)
本部と傘下組織・団体のIT化の推進
総聯中央監査委員会(本件建物5階)
活動・財政の監査,苦情処理
(ウ)朝鮮民主主義人民共和国の法令である「朝鮮民主主義人民共和国旅
券及び査証に関する規定」は「在日本朝鮮人総聯合会中央常任委員,
会」が「日本に居る共和国公民の旅券」及び「普通査証」を発給すると
定めており,これに基づいて,朝鮮総聯は,中央本部において,旅券発
給業務を行っている。
ウ処分行政庁は,平成15年7月25日付けで平成15年度減免申請がさ
れたことを受け,前記イの調査結果を基に,本件各不動産のうち旅券発給
業務の用に直接供している部分は都税条例134条1項4号及び本件規則
31条1項の「特別の事情があると認められる固定資産(本件通達にい」
う「その他特別の事情があると知事の認める固定資産)に該当すると判」
断し,前室を含む責任副議長室(本件建物9階の一部)及び同胞生活局
(本件建物6階の一部)の区画部分が当該減免対象部分に該当すると認定
し,その合計床面積が本件建物の区画部分の総床面積に占める割合(5
%)を減免割合として,平成15年度減免処分を行った(乙12)。
(5)平成16年度減免処分の経緯
ア処分行政庁は,平成16年6月25日付けで平成16年度減免申請がさ
れたことを受け,東京都主税局と合同で,同年7月9日,朝鮮総聯中央本
部の職員立会いのもとに本件各不動産の利用状況確認等の実地調査を実施
するとともに,その後,4回の聞き取り調査等を行って,以下の事実を確
認した(乙26ないし乙28)。
(ア)本件建物の使用状況は,平成15年度調査時と概ね同様であるが,
同調査時において6階の同胞生活局事務室として区画されていた部分を,
同胞生活局事務室,祖国訪問事務所事務室,会議室及び廊下に区分し,
会議室及び廊下は同胞生活局と祖国訪問事務所が共用し,4階の祖国訪
問事務所事務室であった部屋を祖国訪問事務所別室旅券作成室として使
用し,1階最奥の小応接室を旅券作成室として使用している。
(イ)朝鮮総聯提供の「朝鮮総聯中央本部の機構」と題する資料によれば,
朝鮮総聯中央本部が本件建物で行っている事務事業も平成15年度調査
時と概ね同様であるが,在日朝鮮人・日本人・在日外国人の朝鮮渡航手
続に関する業務及び旅券発給業務が同胞生活局から祖国訪問事務所に所
管変更されるなど,一部に担当部署の変更があるほか,民族性固守委員
会が文化局に名称変更され,国際・統一局が国際局と統一運動局に分か
れるなどの組織の改編も一部に見られる。
イ処分行政庁は,前記アの調査結果を基に,本件各不動産のうち旅券発給
業務の用に直接供している部分は都税条例134条1項4号及び本件規則
31条1項の「特別の事情があると認められる固定資産(本件通達にい」
う「その他特別の事情があると知事の認める固定資産)に該当すると判」
断し,祖国訪問事務所(本件建物6階の一部,祖国訪問事務所別室旅券)
作成室(本件建物4階の一部)及び旅券作成室(本件建物1階の一部)の
区画部分の合計床面積に議長室(本件建物10階の一部)相当分の床面積
を加えたものが減免対象の床面積に該当すると認定し,それが本件建物の
区画部分の総床面積に占める割合(4.42%)を減免割合として,平成
16年度減免処分を行った(乙29)。
(6)平成17年度減免処分の経緯
ア処分行政庁は,平成17年6月13日付けで平成17年度減免申請がさ
れたことを受け,東京都主税局と合同で,同年7月20日及び22日,朝
鮮総聯中央本部の職員立会いのもとに本件各不動産の利用状況確認等の実
地調査を実施し,本件各不動産の利用状況等が平成16年度調査時と同様
であることを確認した(乙31)。
イ処分行政庁は,前記アの調査結果を基に,本件各不動産のうち旅券発給
業務の用に直接供している部分は都税条例134条1項4号及び本件規則
31条1項の「特別の事情があると認められる固定資産(本件通達にい」
う「その他特別の事情があると知事の認める固定資産)に該当すると判」
断し,平成16年度と同じ減免割合(4.42%)を適用して,平成17
年度減免処分を行った(乙32)。
2争点についての判断
(1)争点(1)(都税条例134条1項2号該当性)について
ア都税条例134条1項2号は,固定資産税の減免ができる固定資産の1
つとして「公益のために直接専用する固定資産」を掲げているので,まず
その意義について検討する。
条例の文言の意義を検討するに当たっては,当該地方公共団体における
当該条例の所管部署の公的解釈が,条例制定の趣旨を踏まえたものとして
重要な手掛かりになるところ,都税条例134条1項2号については,本
件通達において,所管局である東京都主税局の公的解釈が示されており,
これによれば「公益のために直接専用する固定資産』とは,その固定,『
資産の名称のいかんにかかわらず,それが不特定多数人の使用又は利用等
のために現に供され,その利益を増進するようなものをいう。したがって,
例えば,公益法人等の所有する固定資産であっても,それが特定の資格等
を有する者によってのみ使用されているものは該当せず,減免の対象とは
ならない」とされている(乙10,16,17,18,30。すなわ。)
ち,本件通達は,たとえ公益に関する事業を行う法人等の所有財産であっ
ても,特定の者のみによって使用されるものは「公益のために直接専用,
する」という要件には該当せず,直接的に,専ら不特定多数の者の使用又
は利用に供され,その不特定多数の者の利益を増進するもののみをこの減
免措置の対象とするとしているものと解される。そして,このような解釈
は,単に条文が「公益のために用いる固定資産」とせずに「直接「専,」
用する」という限定する文言をあえて付加している都税条例134条1項
2号の文言解釈として,合理的な解釈であるということができる。
イところで,公益上の理由による固定資産税の減免については,この都税
条例134条1項2号だけでなく,同項4号の委任を受けた本件規則31
条1項においてもまた規定されていると解される。すなわち,本件規則3
1条1項が固定資産税の減免ができる固定資産として掲げる「特別の事情
があると認められる固定資産」について,本件通達は「(ア)課税する,
ことが建前であるが,社会通念上,課税することが明らかに不合理であり,
かつ,近い将来において,非課税等の立法措置がとられる可能性の強いも
の」又は「(イ)固定資産の使用実態等が,都の行政に著しく寄与すると
認められ,減免措置に対して,都民の合意が容易に得られるもの」に該当
し,かつ「負担の均衡又は能力等を考慮して知事の必要と認めるもの」,
という本件基準を定めており,上記(ア)は,担税力の薄弱な場合だけでは
なく,公益上の理由により減免の必要がある場合をも想定した規定と解す
ることができるし,上記(イ)は,まさに公益上の理由により減免の必要が
認められる場合を規定したものと解される。そして,都税条例134条1
項4号が,このような公益上の理由について規則で定めることを禁じてい
ると解すべき理由はないから,公益上の理由による固定資産税の減免は,
都税条例134条1項2号とともに,同項4号の委任を受けた本件規則3
1条1項もまた規定しているものと解される。
ウそこで,この両者の関係について考察するに,都税条例134条1項は,
公益上の理由により固定資産税の減免を行う固定資産について,まず,そ
の利用状況等から,固定資産税の減免を許容できる程度に公益性の存在が
明白で,この点についての知事の裁量判断を待つまでもないものを同項2
号に規定し,公益性の有無や程度が必ずしも明白でなく,この点について
知事の裁量判断に委ねることを適当とするものを同項4号にそれぞれ規定
したものと解するのが相当である。すなわち,都税条例134条1項は,
同項2号において,単に「公益のために用いる固定資産」と規定せずに,
「直接「専用する」という限定的な文言を付加して定めることにより,」,
遊び場や公共用歩廊(アーケード)のように不特定多数人の使用又は利用
等のために直接に供され,その利益を増進するような固定資産であるもの
について当然に減免の対象とすることとし,他方で,同項4号において,
「規則で定める固定資産」として,具体的な内容については規則による知
事の合理的な裁量に委ね,同項2号に規定したもの以外でも種々の個別的
な公益上の理由によって,減免の対象とし得ることを定めたものと解され
る。
エ以上によれば,都税条例134条1項2号にいう「公益のために直接専
用する固定資産」とは「公益のため」すなわち,不特定多数の者の利益,
のため「直接「専用する」固定資産,すなわち,不特定多数の者の,」
「直接の使用又は利用に専ら供されている」固定資産を指し,そのような
固定資産については,公益性が明白であるから,減免の対象とするという
趣旨であり,たとえば公益性のある団体の所有する固定資産であっても,
それが特定の者によってのみ使用されているようなものは公益性の有無や
程度が明白とはいえないので,これには含まないと解するのが相当である。
オそこで,本件各不動産が都税条例134条1項2号にいう「公益のため
に直接専用する固定資産」に該当するかどうかについて検討するに,処分
行政庁が確認した本件各不動産の利用状況は前記認定のとおりであり,こ
のような利用状況は,証人Aの証言によっても裏付けられる。これによれ
ば,本件建物は,朝鮮総聯中央本部の内部組織である局,委員会等の各部
署が使用するそれぞれの事務室や役員室が相当部分を占めていることが認
められ,その他の展示室,図書室,資料室,食堂,ホール,ロビー等につ
いても,これらが広く一般住民に開放されてその使用又は利用に供されて
いる状況にあることをうかがわせるような証拠はない。また,証人Aの証
言によれば,本件建物の訪問者が地下駐車場,応接室,貴賓室等を利用し,
展示室等を見学することがあること,朝鮮総聯中央本部主催のパーティ等
の招待客がホールやロビー等を使用することがあること,一部の会議室は
朝鮮総聯中央本部の職員以外の者も利用できるようになっていることなど
が認められるが,これらの事実をもってしても,本件各不動産が不特定多
数の者の直接の使用又は利用に専ら供されているということは到底できず,
他に,本件各不動産が,不特定多数の者の利益のため,不特定多数の者の
直接の使用又は利用に専ら供されている固定資産であると認めるに足りる
証拠はない。
したがって,本件各不動産は,都税条例134条1項2号の「公益のた
めに直接専用する固定資産」に該当しないから,同号該当を理由に本件各
減免不許可処分の違法をいう原告の主張は理由がない。
(2)争点(2)(都税条例134条1項4号・本件規則31条1項該当性)につ
いて
ア上記(1)で説示したとおり,都税条例134条1項4号は,公益上の理
由により固定資産税の減免を行う固定資産については,同項2号に掲げる
ものを除き,知事が公益上の理由の有無や程度を判断して規則に定めるべ
きことを委任した規定と解されるところ,これを受けた本件規則31条は,
1項において「特別の事情があると認められる固定資産」を掲げるとと,
もに,2項において,当該固定資産に対する固定資産税の減免は「当該,
事情を考慮して知事の認めるところにより減免する」と定めている。そ。
して,何が1項にいう「特別の事情」に当たるかは本件規則に定めていな
いところ,そもそも公益上の理由は,その性質上,一般的な類型化は困難
であり,その有無や程度の判断は,最終的には固定資産税の減免によって
その時々における一定の行政上の目的を達成しようとする課税庁の合理的
な裁量によらざるを得ないことから,本件規則は,あらかじめこれに該当
する固定資産を類型的に列挙するのではなく,個々具体の減免申請に対す
る知事による個別の合理的な裁量判断に委ねたものと解される。
そして,このような本件規則31条の定めは,そもそも都税条例134
条1項が,減免の対象を「左の各号の一に該当する固定資産であって,知
事において必要があると認めるもの……」と定め,同項4号が「前各号に
掲げるものの外,規則で定める固定資産」と定めており,知事の裁量判断
に委ねることを適当とするものを規則の定めに委ねていることにかんがみ
れば,都税条例134条1項に違反するものではない。また,上記のよう
に都税条例134条1項4号は,具体的な定めを規則に委ねているが,前
記のとおり,公益上の理由の有無や程度などの判断については一般的な類
型化は困難であり,固定資産税の減免によって一定の行政上の目的を達成
しようとする課税庁の合理的な裁量によらざるを得ないものであって,地
方税法367条においても「特別の事情がある者」とのみ規定しているこ
とを考慮すれば,都税条例134条1項4号の規定は,過度に広範な規則
への委任として地方税法367条に違反するということもできない。
イそうすると,都税条例134条1項4号の委任を受けた本件規則31条
1項の「特別の事情があると認められる固定資産」に該当し又は該当しな
いことを理由としてする固定資産税の減免許可又は減免不許可の決定は,
課税庁の裁量処分であり,裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があった場
合に限り,違法な処分として取り消し得べきものとなるというべきである。
そして,本件基準は,このような課税庁の裁量権行使の基準を行政の内部
において定めたものと位置付けることができるものであり,その内容自体
に格別不合理な点は認められないから,課税庁が,本件基準の(ア)及び
(イ)のいずれの事情も認められない固定資産について,本件規則31条1
項の「特別の事情があると認められる固定資産」に該当しないと判断する
ことは,上記裁量権の行使として是認することができ,裁量権の逸脱濫用
に当たらないというべきである。
ウこれを本件についてみると,被告らの主張によれば,本件各不動産のう
ち旅券発給業務の用に直接供している部分については本件規則31条1項
の「特別の事情」が認められるが,その余の部分については本件基準の
(ア)及び(イ)の事情がいずれも認められず「特別の事情」があるとはいえ
ないから,処分行政庁は,旅券発給業務の用に直接供している部分につい
てのみ固定資産税を減免し,その余の部分については減免をしなかったと
いうのである。被告らの主張では,旅券発給業務の用に直接供している部
分について「特別の事情」を認めた理由は必ずしも判然としないが,平成
15年度減免処分に係る東京都主税局長のりん議回答書に添付された「り
ん議回答の起案理由(乙12)には,旅券発給業務について都民の合意」
が容易に得られるものと判断される旨の記載があることからすると,本件
基準の(イ)の事情に該当することを理由とするものと解される。
エそして,朝鮮総聯が行っている旅券発給業務について,証拠(甲46,
甲72,甲74の1,2,証人A)によれば,朝鮮総聯は,朝鮮民主主義
人民共和国の法令により,昭和63年9月から,在日朝鮮人に対する旅券
及び査証の発給権限を与えられ,在日朝鮮人が第三国へ渡航する場合は旅
券を,第三国を経由して朝鮮民主主義人民共和国へ渡航する場合は旅券及
び査証を発給していることが認められる。他方で,証拠(甲72)によれ
ば,日本人が朝鮮民主主義人民共和国を訪問する場合の査証の発給につい
ては,在中国朝鮮大使館などにおいて行われており,朝鮮総聯中央本部は,
訪問希望者の申請の窓口として関係資料を作成・送付する業務を行ってい
るにすぎないことが認められ,この点は平成15年5月20日実施の処分
行政庁の実地調査においても「日本人が共和国に旅行するときは,通常,
は在外の共和国領事館等においてビザを取得することにな」り「日本人,
が共和国に入国する場合」には「ビザは朝鮮総聯では取得できない」こと
が確認されている(乙11。また,同胞生活局の業務とされている「相)
続等各種証明書の発給」についても,証拠(証人A)によれば,各種証明
書の発給権限は朝鮮総聯にはなく,朝鮮民主主義人民共和国に証明書を発
行してもらうための窓口の役割を担っている程度のものであることが認め
られる。その他,旅券発給業務以外に朝鮮総聯が朝鮮民主主義人民共和国
から権限を委任されているものは見当たらない。
さらに,証拠(証人A,証人B)によれば,朝鮮総聯は,朝鮮民主主義
人民共和国を代表して日本政府に申入れをしたり,日本政府からの申入れ
を受けるという明確な権限はなく,朝鮮民主主義人民共和国から外交方針
の指示や通知を受けることもないのであり,また,朝鮮総聯の意思決定機
関である全体大会,中央委員会及び中央常任委員会の代議員,委員等の選
任,全体大会等での意思決定の実行及び中央本部の各専門部署の業務執行
に際して朝鮮民主主義人民共和国の指示又は承認等を求めることもなく,
活動資金を同胞の会費や賛助金などで独自に賄っており,活動及び財政の
状況について朝鮮民主主義人民共和国から監査を受けることもないことが
それぞれ認められる。
オこれらのことからすると,朝鮮総聯は,朝鮮民主主義人民共和国から旅
券発給権限の委任を受けていることを除けば,同国の法制上の行政機関で
はなく,基本的には,在日朝鮮人とその団体によって構成される任意団体
としての性格を有するものと認められる。したがって,原告が朝鮮総聯の
活動として主張する,①朝鮮民主主義人民共和国への在日朝鮮人と日本人
の渡航手続業務,②朝鮮民主主義人民共和国からの来日に関する身元引受,
関係官庁との交渉窓口,③日本との文化交流,④在日朝鮮人の広範な人権
擁護活動・民族教育活動,⑤朝鮮民主主義人民共和国と日本を含む他国と
の間の貿易・経済交流の窓口的役割,⑥朝鮮民主主義人民共和国の宣伝活
動,⑦日本政府その他の在日公館(大使館等,国際機関との交流などの)
外交活動,⑧人道支援事業などの活動が,一般の在外公館の活動と類似す
る点があるとしても,旅券発給業務を除いては,本国である朝鮮民主主義
人民共和国の法令に根拠を持たない朝鮮総聯独自の活動にすぎず,この点
において正規の在外公館としての活動とは明確に一線を画するものといわ
ざるを得ない。
カそして,証拠(甲75の1,2,証人B)によれば,朝鮮総聯の議長,
責任副議長,副議長及び事務総局長は朝鮮民主主義人民共和国外務省発給
の外交旅券を,中央常任委員会の構成員(議長及び副議長を除く)は同。
省発給の公用旅券をそれぞれ所持しており,議長及び副議長は,朝鮮民主
主義人民共和国の委任を受けて同国の代表として国際会議等に参加するこ
とがあり,また同国の最高議決機関である最高人民会議に代議員として定
期的に参席していることが認められるが,他方で,証拠(証人B)によれ
ば,公用旅券を発給されている者に対し朝鮮民主主義人民共和国から具体
的な公務の指示がされることはないことが認められ,また,朝鮮総聯の議
長及び副議長が個別の委任により朝鮮民主主義人民共和国の代表として国
際会議等に参加したり,代議員として最高人民会議に参席しているからと
いって,直ちに朝鮮総聯そのものが同国の法制上,国家行政組織の中に位
置付けられていることにはならないから,これらの事情によっても,朝鮮
総聯の活動を正規の在外公館の活動と同視することはできない。
キところで,東京都では「駐日外交官及び領事官に対する都税の課税上,
」,の取扱について(昭和28年2月17日付けの主税局長通達)に基づき
大公使館の用に供する固定資産等については固定資産税を課さない取扱い
が行われているところ,これは,外国の政府が大公使館や領事館の用に供
する土地建物を所有する場合にも,当該外国の政府は納税義務を負うのが
原則であるが,外交関係や領事関係に係る財産に対しては,古くから国際
慣行として,外交関係に関するウィーン条約などの条約等により相互に租
税を免除することが行われていることによるものであり,この条約等に基
づく課税免除は,地方税法6条1項に規定する課税免除あるいは同法36
7条に規定する減免とは異なり,同法に根拠を置くものではないと解され
る(以上,乙10,17,18,30。)
このように,東京都における大公使館の用に供する固定資産等に対する
課税免除の取扱いは,日本国政府と当該外国政府との間における条約等に
よる相互課税免除の取り決めに基づくものであって,朝鮮民主主義人民共
和国のように日本と国交のない国について上記の課税免除の取扱いが当然
に当てはまるものではないが,本件の旅券発給業務を行う朝鮮総聯のよう
に,国交のない外国政府の在外公館と同じ権限を有し,現にその権限に基
づいて活動を行っている機関が我が国に存在する場合には,当該地方公共
団体の公益上の理由についての判断により,そのような業務を行う範囲に
おいて,当該機関に対し,正規の在外公館に準ずる課税免除の措置をとる
ことも,十分考えられるところであるというべきである。そうすると,本
件において,処分行政庁が,本件各不動産のうち,朝鮮総聯が朝鮮民主主
義人民共和国から正式に権限の委任を受けた旅券発給業務の用に直接供し
ている部分についてのみ本件基準の(イ)の事情の存在を認め,その余の部
分についてこれを認めなかったことは,朝鮮総聯が,朝鮮民主主義人民共
和国の正規の行政機関としての立場で活動する側面とそうでない側面とで,
都の行政に対する寄与度や都民の合意が得られる難易度の点で有意な差が
あることを前提とする判断として,十分に合理性を認めることができると
いうべきである。
クさらに,以上のような朝鮮総聯の基本的性格及びその活動内容に照らせ
ば,本件各不動産について本件基準の(ア)の事情(社会通念上,課税する
ことが明らかに不合理であり,かつ,近い将来において,非課税等の立法
措置がとられる可能性の強いもの)の存在が認められないとする処分行政
庁の判断に明らかな誤りがあるとは到底いえない。
ケしたがって,本件各不動産のうち旅券発給業務の用に直接供している部
分以外の部分について,本件基準の(ア)及び(イ)のいずれの事情も認めら
れず,本件規則31条1項の「特別の事情があると認められる固定資産」
に該当しないとした処分行政庁の判断に裁量権を逸脱濫用した違法は認め
られないから,本件各不動産が全体として同条項に該当することを理由に
本件各減免不許可処分の違法をいう原告の主張は理由がない。
(3)争点(3)(信義則違反)について
前記認定の事実によれば,処分行政庁は,旧建物のころから,朝鮮総聯が
中央本部として使用していた旧建物及び本件土地について,昭和39年度分
以降の固定資産税を全額減免ないし課税免除とし,昭和61年に本件建物が
建築された後も,引き続き本件各不動産について平成14度分までの固定資
産税をすべて減免ないし課税免除としてきたものであり,この間,処分行政
庁が行った実地調査は,証拠上認められる限りでは,本件建物の新築に伴い
昭和63年3月17日に実施した1回のみで,しかも,賦課決定及び減免申
請に基づく減免許可決定という正規の手続を踏まない課税免除の取扱いが長
年継続して行われてきたことが認められる。
このような事実によれば,原告が平成15年度分以降の固定資産税につい
ても全額減免ないし課税免除の取扱いを受けられると期待したことには無理
からぬ面がないではないが,そもそも,固定資産税の減免処分は当年度限り
のものであって,翌年度以降の減免を約束するものではなく,むしろ,減免
されている固定資産を取り巻く社会情勢や利用形態等は随時変化し得るので
あるから,減免の取扱いを漫然と継続していることは,本来,課税庁として
の正当な職務のあり方とは言い難い。そして,証拠(乙20ないし25)に
よれば,東京都主税局においては,平成10年から平成12年までの固定資
産税及び都市計画税の継続減免調査「3か年計画」において,固定資産税及
び都市計画税の継続減免についての調査を行い,継続減免管理台帳を作成し,
平成13年以降も継続減免に係る認定資料の再点検を行い,要調査分につい
ては,現場調査,実地調査などの作業を継続していることが認められる。そ
うすると,このような調査の結果,従前,継続的に固定資産税が減免されて
いたものについて,減免事由に該当しないことが判明する場合も少なからず
生じようが,そのような場合に,従前,継続的に固定資産税が減免されてい
た以上は,一般的に,信義則上,減免措置が継続されるべきであるといえな
いことはけだし当然のことである。
そして,旧建物及び本件各不動産に対する固定資産税の減免は,前記認定
のとおり,一貫して都税条例134条1項4号該当を理由として行われてき
たものであるところ,これは,公益上の必要性の有無の観点,殊に本件基準
(イ)の「固定資産の使用実態等が,都の行政に著しく寄与すると認められ,
減免措置に対して,都民の合意が容易に得られるもの」であるかどうかとい
う観点から行われてきたものと考えられるのであり,仮に旧建物及び本件各
不動産の利用状況に変化がなかったとしても,これを取り巻く社会情勢等の
変化いかんによっては,都の行政に対する寄与度ないし都民の合意獲得の難
易度の点で従来どおりの減免が難しくなるような場合も十分に考えられる。
そうすると,旧建物や本件各不動産について,ある時点における判断により
減免措置が行われたとしても,そのことをもって,将来にわたって原告の信
頼の基礎となるべき公的見解の表示がされたとは到底言い難いのであり,利
用状況等に変化がない以上は減免措置が継続されるであろうとする原告の期
待は,法的保護に値するものとはいえない。
したがって,本件各減免不許可処分について信義則違反をいう原告の主張
は理由がない。
(4)争点(4)(平等原則違反)について
原告の主張は,台北駐日経済文化代表處や民団中央本部事務所として使用
されている固定資産に対する固定資産税の全額免除措置が適法なものである
ことを前提とする主張であり,この点が認められて初めて意味のある主張に
なるものというべきところ,これらの固定資産に対する固定資産税の全額免
除措置が都税条例や本件規則の規定に照らして適法なものであることについ
ては何ら主張立証がないから,この点に関する原告の主張は失当である。
(5)その他の原告の主張について
その他,原告は,本件各不動産に対する課税の措置は外交関係に関するウ
ィーン条約23条1項に違反すると主張するが,先に説示したとおり,朝鮮
総聯中央本部が使用する本件各不動産は同項にいう「使節団の公館」に該当
しないから,この点に関する原告の主張は理由がない。
また,原告は,本件各不動産に対する課税の措置は在日朝鮮人に対する人
種差別であり,市民的及び政治的権利に関する国際規約20条2項,26条,
27条,あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約3条,5条,憲法
14条,98条2項に違反すると主張するが,本件各賦課処分は地方税法及
び都税条例に定められた原則に従って行われ,本件各減免不許可処分は本件
各不動産の利用状況に着目して行われたものと認められるのであって,処分
行政庁がこれらの処分を行うに当たり人種差別を意図したことを認めるに足
りる証拠はないから,この点に関する原告の主張も理由がない。
3本件各賦課処分及び本件各減免不許可処分の取消請求について
前記2のとおり,原告主張の違法事由はいずれも採用することができず,本
件各賦課処分及び本件各減免不許可処分に取消原因となるような瑕疵は認めら
れないから,これらの各処分の取消しを求める原告の請求はいずれも理由がな
い。
4減免許可決定処分の開示決定の義務付けの訴えについて
本件の減免許可決定処分の義務付けの訴え(第4事件に係る訴え及び第5事
件に係る訴えの一部)は,都条例の規定による固定資産税の減免申請に対して
減免不許可処分がされたことを不服として,当該減免申請に係る減免許可決定
をすべき旨を命ずることを求める訴訟であるから,行政事件訴訟法3条6項2
号の義務付けの訴えに該当するものである。
ところで,行政事件訴訟法37条の3第1項2号は,同法3条6項2号の義
務付けの訴えは,申請を却下し又は棄却する旨の処分がされた場合においては,
当該処分が取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在であるとき
に限り,提起することができると定めている。これによれば,当該義務付けの
訴えは,当該処分が実体的に取り消されるべきものであり,又は無効若しくは
不存在であることが訴訟の適法要件とされているものというべきである。
これを本件についてみると,本件各減免不許可処分が実体的に取り消される
べきものでないことは前記3に説示したとおりであり,本件各減免不許可処分
が無効又は不存在でないことも明らかである。
そうすると,本件の義務付けの訴えは,行政事件訴訟法37条の3第1項2
号の要件を満たさないから,不適法な訴えであるといわざるを得ない。
第4結論
以上によれば,本件訴えのうち減免許可決定処分の義務付けを求める訴えは
いずれも不適法であるから却下することとし,原告のその余の請求はいずれも
理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,
民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第3部
定塚誠裁判長裁判官
古田孝夫裁判官
工藤哲郎裁判官

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