弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

判決言渡平成20年11月17日
平成20年(行ケ)第10129号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成20年11月10日
判決
原告X
訴訟代理人弁理士村上太郎
被告特許庁長官
指定代理人阿部弘
同石井研一
同山本章裕
同酒井福造
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2006−5699号事件について平成20年2月28日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が名称を「携帯電話機」とする発明につき特許出願をしたとこ
ろ拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をし,その中で平成18
年3月29日付けでも特許請求の範囲の変更等を内容とする補正をしたが,特
許庁が上記補正を却下の上請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求
めた事案である。
2争点は,上記補正に係る発明(本願補正発明)が下記引用発明1,2との関
係で進歩性を有しないとして上記補正を却下した審決が適法か,である。

・引用発明1
特開平11−341121号公報(発明の名称「移動無線機」,出
願人日本電気株式会社,公開日平成11年12月10日〔以下
「引用例1」という〕。甲1)に記載された発明
・引用発明2
特開平1−282587号公報(発明の名称「画像表示装置」,出
願人A,公開日平成元年11月14日〔以下「引用例2」とい
う〕。甲2)に記載された発明
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成12年10月5日,名称を「携帯電話機」とする発明につい
て特許出願(特願2000−305613号,甲14。公開公報は特開20
02−118628号〔甲13〕)をし,平成13年12月26日,平成1
5年10月6日及び10月9日のほか,平成17年12月1日付けでも特許
請求の範囲の変更等を内容とする補正(旧補正,請求項の数2。甲15)を
したが,拒絶査定を受けたため,これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2006−5699号事件として審理し,その中
で原告は,平成18年3月29日付けで特許請求の範囲の変更等を内容とす
る補正(請求項の数2。以下「本件補正」という。甲6)をしたが,特許庁
は,平成20年2月28日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,
成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年3月12日原告に送達され
た。
(2)発明の内容
ア本件補正前
平成17年12月1日付けの旧補正時の特許請求の範囲は,上記のとお
り請求項1及び2から成るが,このうち請求項1に係る発明(以下「本願
発明」という。)の内容は以下のとおりである。
「【請求項1】表面に第1の液晶表示部(2)を備えた電話機本体
(1)と,電話機本体(1)の一縁部に設けられたヒンジ部(3)を介
して電話機本体(1)の背面に折り込まれた回動板(4)とを備え,こ
の回動板(4)が電話機本体(1)の背面に閉じられた姿勢においてそ
の外表面に第2の液晶表示部(5)が設けられており,該第2の液晶表
示部(5)が第1の液晶表示部(2)と共に大領域の表示部を形成する
姿勢まで回動板(4)が反転回動できるように形成されている携帯電話
機。」
イ本件補正後
平成18年3月29日付けの本件補正後の特許請求の範囲も請求項1及
び2から成るが,このうち請求項1に係る発明(下線部分が本件補正によ
る変更部分。以下「本願補正発明」という。)の内容は以下のとおりであ
る。
「【請求項1】表面に第1の液晶表示部(2)と各種操作ボタン
(7)とを備えた電話機本体(1)と,電話機本体(1)の一縁部に設
けられたヒンジ部(3)を介して電話機本体(1)の背面に折り込まれ
た回動板(4)とを備え,この回動板(4)が電話機本体(1)の背面
に閉じられた姿勢においてその外表面に第2の液晶表示部(5)が設け
られており,該第2の液晶表示部(5)が第1の液晶表示部(2)と共
に大領域の表示部を形成する姿勢まで回動板(4)が反転回動できるよ
うに形成されており,前記電話機本体(1)が,各種操作ボタン(7)
を備えた本体部(1a)と第1の液晶表示部(2)を備えたパネル部
(1b)とによって形成され,パネル部(1b)が本体部(1a)に対
して蝶番(11)を介して折り畳みできるように形成されており,前記
第1の液晶表示部(2)を備えたパネル部(1b)の背面部に,ヒンジ
部(3)を介して第2の液晶表示部(5)を備えた回動板(4)が回動
自在に取り付けられ,この回動板(4)がパネル部(1b)の背面に閉
じられた姿勢においてその外表面に前記第2の液晶表示部(5)が設け
られている二つ折り式の携帯電話機。」
(3)審決の内容
ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,①本願補正発明は上記引用発明1,2及び周知技術
に基づいて当業者が容易に発明できたから独立して特許を受けることがで
きず本件補正は却下されるべきである,②本願発明も引用発明1,2及び
周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから特許を受
けることができない,というものである。
イなお審決は,上記判断をするに当たり,引用発明1及び2の内容を以下
のとおり認定した上,本願補正発明と引用発明1との一致点及び相違点
を,次のとおりとした。
<引用発明1の内容>
「表面に液晶画面7aと各種操作ボタンとを備えた電話機本体1と,
電話機本体1の側部に設けられた枢着部9bを介して電話機本体1に開
閉自在に取り付けられた補助表示部9とを備え,
この補助表示部9の表面に液晶画面9aが設けられ裏面に液晶画面9c
が設けられており,
該液晶画面9aが液晶画面7aと共に大領域の表示部を形成する姿勢ま
で補助表示部9が開かれるように形成されている
携帯電話機」
<引用発明2の内容>
「2つの画像表示部からなる画像表示手段を有し,かつ前記画像表示手
段を折りたたみ可能にする携帯型の画像表示装置であって,折りたたん
だ状態で2つの画像表示部が互いに対向して内側になる構成に替えて,
互いに外側になることを特徴とする携帯型の画像表示装置」
<本願補正発明と引用発明1との一致点>
いずれも,
「表面に第1の液晶表示部と各種操作ボタンとを備えた電話機本体と,
電話機本体の一縁部に設けられたヒンジ部を介して電話機本体に取り付
けられた回動板とを備え,
この回動板の表面に第2の液晶表示部が設けられており,
該第2の液晶表示部が第1の液晶表示部と共に大領域の表示部を形成す
る姿勢まで回動板が反転回動できるように形成されている携帯電話機。
」である点。
<本願補正発明と引用発明1との相違点1>
「回動板」(補助表示部9)の電話機本体との関係に関し,本願補正
発明では「電話機本体の一縁部に設けられたヒンジ部を介して電話機本
体の背面に折り込まれ」ているのに対し,引用発明1では「電話機本体
の一縁部(側部)に設けられたヒンジ部(枢着部9b)を介して電話機
本体に開閉自在に取り付けられ」ている点。
<本願補正発明と引用発明1との相違点2>
「回動板」(補助表示部9)上における「液晶表示部」の設置位置及
び数に関し,本願補正発明では「回動板が電話機本体の背面に閉じられ
た姿勢においてその外表面に」当たる位置に「第2の液晶表示部」一つ
であるのに対し,引用発明1では「回動板(補助表示部9)の表面に」
当たる位置に設けられた「第2の液晶表示部」(液晶画面9a)の他
に,「回動板(補助表示部9)の裏面に」当たる位置にもう一つの「液
晶画面9c」が設けられており二つある点。
<本願補正発明と引用発明1との相違点3>
「電話機本体」の構成に関し,本願補正発明では「電話機本体(1)
が,各種操作ボタン(7)を備えた本体部(1a)と第1の液晶表示部
(2)を備えたパネル部(1b)とによって形成され,パネル部(1
b)が本体部(1a)に対して蝶番(11)を介して折り畳みできるよ
うに形成されて」いる,「二つ折り式の携帯電話機」であるのに対し,
引用発明1にはそのような構成はない(いわゆる「ストレートタイ
プ」の)「携帯電話機」である点。
<本願補正発明と引用発明1との相違点4>
上記相違点3に関連して,「回動板」(補助表示部9)の電話機本体
との関係,及び「回動板」(補助表示部9)上における「液晶表示部」
の設置位置が,本願補正発明では「第1の液晶表示部(2)を備えたパ
ネル部(1b)の背面部に,ヒンジ部(3)を介して第2の液晶表示部
(5)を備えた回動板(4)が回動自在に取り付けられ,この回動板
(4)がパネル部(1b)の背面に閉じられた姿勢においてその外表面
に前記第2の液晶表示部(5)が設けられている」のに対し,引用発明
1にはそのような構成はない点。
(4)審決の取消事由
しかしながら,本件補正を却下した審決は,以下に述べるとおり誤りであ
るので,違法として取り消されるべきである。
ア取消事由1(一致点認定の誤り)
審決は,「引用発明1の『液晶画面7a』,『液晶画面9a』は,とも
に『液晶』画面により『表示』を行う部材であるから,『第1の液晶表示
部』,『第2の液晶表示部』ということができるものである」(7頁23
行∼25行)とした上で,本願補正発明と引用発明1との一致点を「表面
に第1の液晶表示部と…,…電話機本体に取り付けられた回動板とを備
え,この回動板の表面に第2の液晶表示部が設けられており,該第2の液
晶表示部が第1の液晶表示部と共に大領域の表示部を形成する姿勢まで回
動板が反転回動できるように形成されている携帯電話機。」(8頁9行∼
14行)と認定したが,以下のとおり誤りである。
(ア)本願補正発明における「第1の液晶表示部」は,通常の電話機と
して使用するときに各種操作ボタンと同一面にあって主たる表示部とし
て機能するものであり,本願補正発明は,このような主たる表示部であ
る第1の液晶表示部と裏面側の第2の液晶表示部の有効利用を図りつ
つ,必要時には大領域の表示部を形成できるようにすることを目的とす
るものである。
このことは,本件補正後の特許請求の範囲の記載から自明であるとと
もに,発明の詳細な説明(本願補正明細書〔甲6〕)においても,「…
従来タイプでは,電話機本体の液晶表示部が蓋体によって常時閉ざされ
ているので,通常の電話機として使用するときはこの表示部を使用する
ときに液晶表示部を見ることができず,その都度蓋体を開放して使用し
なければならない,といった欠陥があった…」(段落【0003】),
「そこで本発明は,電話機として使用するときには,電話機本体に設け
た大きな液晶表示部を従来の携帯電話と同じようにそのまま使用するこ
とができ…」(段落【0004】),「…本発明の携帯電話機を通常の
電話機として使用するときは,図1に示すように回動板4を電話機本体
1の背面に密着させた姿勢にしたまま使用すればよい。これにより従来
の電話機と同じように電話機本体1の液晶表示部2に電話番号等の文字
や図形を表示させて使用することができる…」(段落【0008】),
「…本発明によれば,普通の電話機として使用するときはそのままの状
態で従来の電話機と同じように電話機本体の液晶表示部に電話番号等の
文字や図形を表示させて使用することができる…」(段落【0012
】)と記載されていることから明らかである。
(イ)一方,引用発明1においては,補助表示部9(回動板)の裏面にあ
る「液晶画面9c」が通常の電話機として使用するときに各種操作ボタ
ンと同一面にあって主たる表示画面として機能するものであり,当該液
晶画面9cが本願補正発明の第1の液晶表示部に相当するものである。
そして,この第1の液晶表示部に相当する液晶画面9cと共に大領域の
表示部を形成するような第2の液晶表示部は存在しない。
(ウ)したがって,審決が引用発明1の液晶画面7aを本願補正発明の第
1の液晶表示部に相当するとし,第1の液晶表示部が第2の液晶表示部
と共に大領域の表示部を形成する点を一致点として認定したのは誤りで
ある。
イ取消事由2(相違点1認定の誤り)
審決は,本願補正発明と引用発明1との相違点1について「『回動板』
(補助表示部9)の電話機本体との関係に関し,…引用発明1では『電話
機本体の一縁部(側部)に設けられたヒンジ部(枢着部9b)を介して電
話機本体に開閉自在に取り付けられ』ている点」(8頁16行∼20行)
と認定したが,誤りである。
引用発明1では,回動板(補助表示部9)は,電話機本体の一縁部(側
部)に設けられたヒンジ部(枢着部9b)を介して,電話機本体の表面
(テンキー6と固定液晶画面7aを有する面)に開閉自在に折り込まれて
いるものである。このように,引用発明1における回動板(補助表示部
9)が電話機本体のどの面に取り付けられているのか,またその折り込み
方向がどのようになっているのかについて明確に認定すべきであり,審決
の上記認定は不明確である。
ウ取消事由3(相違点2認定の誤り)
審決は,本願補正発明と引用発明1との相違点2について,「『回動板
』(補助表示部9)上における『液晶表示部』の設置位置および数に関
し,…引用発明1では『回動板(補助表示部9)の表面に』あたる位置に
設けられた『第2の液晶表示部』(液晶画面9a)の他に,『回動板(補
助表示部9)の裏面に』あたる位置にもう一つの『液晶画面9c』が設け
られており2つある点」(8頁22行∼29行)と認定したが,誤りであ
る。
前記アで述べたように,引用発明1における液晶画面9cは本願補正発
明の第1の液晶表示部に相当するものであるから,上記認定において引用
発明1の液晶画面9cを「もう一つの」液晶画面と認定したことは誤りで
ある。
エ取消事由4(相違点についての判断の誤り)
(ア)相違点1につき
審決は,「…引用発明2は『折りたたんだ状態で2つの画像表示部が
互いに対向して内側になる構成に替えて,2つの画像表示部が互いに外
側になる』ことを可能にするものであって,関連する引用例2の第6
図,第7図及びその説明…を参照すれば,『2つの画像表示部が互いに
外側になる』状態では,『接合部20d』を介して『LCDE15a』
をその『外表面』に有する『CASE20a』(第6図右半分)が,『
CASE20b』の『背面に折り込まれ』る(第7図)事を見て取るこ
とができ,これを引用発明1に適用した場合,『回動板』(補助表示部
9)が『電話機本体の一縁部に設けられたヒンジ部を介して電話機本体
の背面に折り込まれた』状態となることは自明である。したがって,相
違点1の様に構成することは,引用発明2を引用発明1に適用すること
によって,当業者であれば容易になし得ることに過ぎない」(10頁1
2行∼23行)としたが,誤りである。
a前記アで述べたとおり,引用発明1の「液晶画面9c」は本願補正
発明の第1の液晶表示部に相当するものであって,補助表示部9を折
り畳んだ状態で主たる表示部として用いられるものである。
そこで,引用発明1に引用発明2を適用すると,引用発明2の二つ
の画像表示部の一方である「LCDE(液晶表示部)15b」は引用
発明1の第1の液晶表示部である「液晶画面9c」に対応するが,他
方の「LCDE(液晶表示部)15a」に対応する液晶画面は引用発
明1にはないので,新たな液晶画面を電話機本体の裏側に設けること
となり,仮にこれを「液晶画面9d」と呼ぶこととすれば,結局,既
存の液晶画面7a,9a,9cに加えて液晶画面9dという4枚目の
液晶画面が必要となってしまう。
このように,引用発明1に引用発明2を適用しても,本願補正発明
とかけ離れた構成しか得られない。
b以上について換言すれば,引用発明1において,補助表示部9を折
り畳んだ状態で外部から視認できる液晶表示部は必須の構成要素であ
り,引用発明1に引用発明2を適用するに際しては,この必須の構成
要素である「液晶画面9c」をいかにするかという課題が必然的に生
じ,そのことが引用発明1に引用発明2を適用する阻害要因となるも
のである。
cまた,引用例2の第6図,第7図に示されたテレビは,同文献(甲
2)の発明の詳細な説明に「…接合部20dがCASE20の裏面側
にあるので,折りたたんだ状態でLCDE15a,15bが互いに外
側…に向いており,この状態でTVを見ることができる」(3頁右上
欄10行∼15行)と記載されているように,テレビボディであるC
ASE20をLCDE15a,15bが互いに外側に向くように二つ
折りにしてテレビを見ることができるようにしたものである。
すなわち,引用発明2は,平板状の物体をコンパクトにするために
二つ折りにする普通の手段であって,例えば,二つ折りにできる折畳
み式テーブルや折畳み式キャンバス台等と同様のものであるにすぎな
い。
したがって,引用発明2に示された液晶画面の二つ折り思想を引用
発明1に適用するだけでは,相違点1の構成に至ることはできないも
のである。
(イ)相違点2につき
審決は,「…引用発明2を引用発明1に適用した構成において,『回
動板』(補助表示部9)の表面にあたる位置に設けられた『第2の液晶
表示部』(液晶画面9a,LCDE15a)は,『回動板が電話機本体
の背面に閉じられた姿勢』において,その『外』表面にあたる位置に来
ることは明らか(引用例2第7図参照)であるから,『液晶表示部』の
設置位置に関する相違点2は格別のものではない。そして,引用発明1
にもともと存在した裏面の『液晶画面9c』は,『回動板が電話機本体
の背面に閉じられた姿勢』においては表示面が隠れてしまうのであるか
ら,その場合は不要となり,これを削除する程度のことは,当業者であ
れば適宜必要に応じてなし得る程度のことに過ぎないから,『液晶表示
部』の数に関する相違点2も格別のことではない」(10頁31行∼1
1頁5行)としたが,誤りである。
審決の上記判断は,引用発明2を引用発明1に適用することにより相
違点1に係る構成が得られることを前提としたものであり,このような
構成が容易になしうるものでないことは前記(ア)で述べたとおりである
から,相違点2についての上記判断も誤りである。
(ウ)相違点4につき
審決は,「『二つ折り式の携帯電話機』(いわゆる『折畳み式携帯電
話機』)の形態を採用した場合に,『回動板』(補助表示部9)の電話
機本体との関係,および『回動板』(補助表示部9)上における『液晶
表示部』の設置位置が,『電話機本体(1)』との関係,位置から,『
第1の液晶表示部(2)を備えたパネル部(1b)』との関係,位置に
なるのは,2つの『液晶表示部』相互の関係からして必然的なことであ
るから,相違点4も格別のことではない」(11頁19行∼25行)と
したが,誤りである。
a本願補正発明は,従来の折畳み式の携帯電話機の背面に固定して設
けられていた背面液晶の有効利用を図り,大領域の表示部を実現する
ものである。
すなわち,近年では通信技術の発達に伴い,画像や動画等の大容量
データ通信やテレビ受信が可能となって大領域の表示部を必要として
いるが,折畳み式の携帯電話機では,携帯可能な小型サイズを保持し
つつ,一つのディスプレイで大領域の表示部を実現することに限界が
あった。また,一般的な折畳み式の携帯電話機は,折り畳み姿勢にお
いて本体背面に露出する背面液晶(サブディスプレイ)を備えてお
り,日時や各種アイコン,あるいは通話やメールの受信時に相手先の
電話番号や氏名を簡略表示するように形成されているが,この背面液
晶は,電話機本体を展開してメインディスプレイを各種キー操作と共
に使用するときは,電話機本体の背面側にあって使用することができ
ないものであった。
本願補正発明は,携帯電話機のメインディスプレイ(第1の液晶表
示部)を使用しているときに,電話機の背面に設けられた背面液晶
(第2の液晶表示部)を反転回動させることにより,第1の液晶表示
部と第2の液晶表示部によって大領域の表示部を形成し,各種操作ボ
タンを操作しながら大容量の文字や画像を表示することができるよう
にしたものである。
このような構成を採用することにより,回動板が電話機本体の背面
に折り畳まれた状態では,従来の折畳み式携帯電話機の背面液晶と同
じように第2の液晶表示部を使用することができ,インターネット等
の大容量の情報表示が必要な場合には,回動板を反転させて第1の液
晶表示部及び第2の液晶表示部により大領域の表示部を形成させるこ
とが可能となったものである。
また,従来の折畳み式携帯電話機においてメインディスプレイ(第
1の液晶表示部)の使用時には使用できなかった背面液晶(第2の液
晶表示部)を有効に利用することにより,大領域の表示部を形成する
ための第3の液晶表示部を別途設ける必要がなく,従来の折畳み式携
帯電話機と同様のサイズと経済性を維持することができる。
bこれに対して引用発明1は,引用例1(甲1)の図3に示されてい
るように液晶画面9a,9cを備えた補助表示部9を,枢着部9bに
よって電話機本体1の表面(テンキー6と固定液晶画面7aを有する
面)に開閉自在に取り付けて,電話機本体の液晶画面7aの表面に重
ね合わせた閉じ姿勢と,展開した姿勢とに開閉できるようにしたもの
である。
このように引用発明1では,液晶画面7a及び液晶画面9aを見る
ときに本を開くように展開するものであり,閉じた状態ではこれらの
画面は隠されて使用できないので,閉じた状態で文字や画像を表示す
るために液晶画面9cが設けられている。そのため,液晶画面7a,
9a,9cという合計3枚の液晶表示部を必要とするのであるが,こ
のような3枚の液晶画面を設けることは電話機自体がかさばると共
に,コスト高となって不経済である。
cしたがって,本願補正発明と引用発明1との相違点4は,引用発明
1において折畳み式携帯電話機の形態を採用した場合に必然的に派生
するものではなく,以上に述べたような技術思想の違いから生じるも
のであるから,相違点4が格別のものでないとした審決の判断は誤り
である。
(エ)なお,引用発明1に引用発明2を適用して本願補正発明の構成を
得るには,下記のような種々の工夫,改変が必要であり,当業者といえ
ども容易になしうるものではない。

①引用発明1の補助表示部9を電話機本体1の背面に折り込まれるようにす
ると,補助表示部9は,電話機本体1の液晶表示部7aの表面に重ね合わ
せた閉じ姿勢から電話機本体1の背面に折り込まれた姿勢まで約360度
の回動を許す構造となってしまうので,本願補正発明の回動板4の構成と
同じように,補助表示部9の液晶画面9aが電話機本体1の背面に折り畳
まれた姿勢から電話機本体1の液晶表示部7aと共に大領域の表示部を形
成する姿勢まで約180度反転回動できるように工夫,改変する作業。
②通常の電話機として利用するときに主たる表示部として使用されていた液
晶表示部9cを除去する作業。
③通常の電話機として使用するときには隠されて使用されていなかった電話
機本体1の液晶画面7aを,通常の電話機として使用するときに主たる表
示部として使用される液晶画面として機能させる作業。
④通常の電話機として使用するときには隠されて使用されていなかった補助
表示部9の液晶画面9aを,折畳み式携帯電話機の背面液晶として機能さ
せる作業。
⑤引用発明1の電話機本体1を,本願補正発明と同じように,各種操作ボタ
ン7を備えた本体部1aと第1の液晶表示部を備えたパネル部1bとによ
って形成して,パネル部1bを本体部1aに対して蝶番11を介して折り
畳みできるようにし,パネル部1bに補助表示部9を取り付ける作業。
⑥補助表示部9が液晶画面7aと大画面を形成する姿勢まで反転回動したと
き,その姿勢を安定保持するための係合手段を設ける作業。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)∼(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)取消事由1に対し
原告は,一致点の認定に関する審決の誤りを主張するが,以下のとおり審
決の認定は正当である。
ア本願補正発明の認定は,特段の事情のない限り特許請求の範囲の記載に
基づいてなされるべきであるところ,本件補正後の請求項1では「第1の
液晶表示部」に関して,「表面に第1の液晶表示部(2)と各種操作ボタ
ン(7)とを備えた電話機本体(1)…」,「…該第2の液晶表示部
(5)が第1の液晶表示部(2)と共に大領域の表示部を形成する姿勢ま
で回動板(4)が反転回動できるように形成され…」,「…前記電話機本
体(1)が,各種操作ボタン(7)を備えた本体部(1a)と第1の液晶
表示部(2)を備えたパネル部(1b)とによって形成され…」,「…前
記第1の液晶表示部(2)を備えたパネル部(1b)の背面部に,ヒンジ
部(3)を介して第2の液晶表示部(5)を備えた回動板(4)が回動自
在に取り付けられ…」と記載されており,これらの記載に不明瞭な点はな
いから,上記特段の事情はない。
イそこで,本件補正後の請求項1の記載によると,本願補正発明における
「第1の液晶表示部」は,通常の電話機として使用するときに主たる表示
部として機能するものに限定されるものではなく,請求項1の「表面に第
1の液晶表示部(2)と各種操作ボタン(7)とを備えた電話機本体
(1)」との記載から,電話機本体の各種操作ボタンと同一の表面に備え
られているものと理解される。
ウ一方,引用発明1における「液晶画面7a」は,引用例1の図3(ロ)
からも明らかなように,電話機本体1に備えられたテンキー6,接続開始
ボタン5a,接続終了ボタン5b等の各種操作ボタンと同一面にあり,本
願補正発明の第1の液晶表示部に相当するものである。
そして,引用発明1の認定に関して「…該液晶画面9aが液晶画面7a
と共に大領域の表示部を形成する姿勢まで補助表示部9が開かれるように
形成されている」点(審決5頁28行∼29行)については原告も争わな
いところ,引用発明1において大領域の表示部を形成する二つの液晶画面
のうち,電話機本体1の表面に設けられた「液晶画面7a」を本願補正発
明の第1の液晶表示部と一致するものとし,補助表示部9に設けられた
「液晶画面9a」を本願補正発明の第2の液晶表示部と一致するものと認
定することに何ら不合理はない。
(2)取消事由2に対し
原告は,審決における相違点1の認定のうち,引用発明1の回動板(補助
表示部9)が電話機本体の「表面」に折り込まれている構成が認定されてい
ない点が誤りであると主張する。
しかし,審決の認定において,引用発明1の液晶画面7aは電話機本体の
表面にあるとされており(5頁23行),また,相違点1についての判断に
おいても,引用発明1が「折りたたんだ状態で2つの画像表示部が互いに対
向して内側になる構成」(10頁12行∼13行参照),すなわち液晶画面
7aと液晶画面9aが互いに対向して内側になるように回動板(補助表示部
9)が折り込まれているという構成であることを前提としているものであ
る。
(3)取消事由3に対し
原告は,相違点2の認定の誤りを主張する。
しかし,原告の主張は,引用発明1の「液晶画面9c」が本願補正発明の
第1の液晶表示部に相当することを前提とするものであり,かかる主張が失
当であることは前記(1)で述べたとおりである。
(4)取消事由4に対し
原告は,相違点についての判断の誤りを主張するが,以下のとおり審決の
判断は正当である。
ア相違点1につき
(ア)引用発明1における「液晶画面7a」,「液晶画面9a」と引用発明
2における二つの液晶表示部「LCDE15a」,「LCDE15b」
とは,その表示内容に格別の差異がなく,携帯性を犠牲にすることなく
大容量の情報の表示を可能にする点において同様の目的を有し,折り畳
み可能な二つの液晶表示部を有する携帯型の表示装置である点で共通す
る。したがって,当業者であれば引用発明2を引用発明1に容易に適用
しうるものである。
(イ)これに対し原告は,引用発明1に引用発明2を適用しても,本願補正
発明とかけ離れた構成しか得られないと主張する。
しかし,原告の主張は,引用発明1の「液晶画面9c」が本願補正発
明の第1の液晶表示部に相当することを前提としたものであり,かかる
前提が根拠を欠くものであることは前記(1)で述べたとおりである。
(ウ)また原告は,引用発明2は平板状の物体をコンパクトにするために二
つ折りにする普通の手段にすぎないと主張する。
しかし,引用発明2は,画面の大型化,すなわち表示部を大きくする
ことをその思想とするものであるから,単なる平板状の物体のコンパク
ト化の手段にすぎないという原告の主張は誤りである。
すなわち,引用例2(甲2)には「…本発明によれば,不要時小さ
く,必要時大きくすることができるので,装置の小型化と画面の大型化
を同時に実現でき,特に携帯性に優れた画像表示装置を得ることができ
る」(5頁左欄16行∼19行)と記載されており,引用発明2の思想
は装置の小型化と画面の大型化を同時に実現することにある。
そして,引用例1(甲1)にも「…本体の大型化を招くことなく,表
示部の表示情報量を増大させる…」(段落【0006】)と記載されて
おり,引用発明1も本体の大型化の抑制と表示情報量の増大を目的とし
ている。
したがって,引用発明1と引用発明2は,携帯性を犠牲にすることな
く大容量の情報の表示を可能にする点において課題を同一にしているか
ら,引用発明2を引用発明1に適用することに阻害要因はなく,相違点
1の構成に至ることは当業者であれば容易になしうるものである。
イ相違点2につき
相違点2についての判断に関する原告の主張は,相違点1についての判
断の誤りを前提とするものであるが,前記アで述べたとおり,相違点1に
ついての判断に誤りはなく,原告の主張は失当である。
ウ相違点4につき
(ア)原告は,本願補正発明は従来の折畳み式の携帯電話機の背面に固定し
て設けられていた背面液晶を利用したものであると主張する。
しかし,本件補正後の請求項1における「…回動板(4)が電話機本
体(1)の背面に閉じられた姿勢においてその外表面に第2の液晶表示
部(5)が設けられており,該第2の液晶表示部(5)が第1の液晶表
示部(2)と共に大領域の表示部を形成する姿勢まで回動板(4)が反
転回動できるように形成されており…」,「…前記第1の液晶表示部
(2)を備えたパネル部(1b)の背面部に,ヒンジ部(3)を介して
第2の液晶表示部(5)を備えた回動板(4)が回動自在に取り付けら
れ,この回動板(4)がパネル部(1b)の背面に閉じられた姿勢にお
いてその外表面に前記第2の液晶表示部(5)が設けられている…」と
の記載によれば,本願補正発明の「第2の液晶表示部」は,電話機を折
り畳んだ姿勢で日時や各種アイコン,あるいは通話やメールの受信時に
相手先の電話番号や氏名を簡略表示する従来の折畳み式の携帯電話機の
背面に固定して設けられた背面液晶(サブディスプレイ)であることを
その構成とするものではない。
また,発明の詳細な説明の記載を参酌しても,原告が主張するような
背面液晶の有効利用という課題や,「第2の液晶表示部」が上記のよう
な背面液晶であることを示す記載はない。
(イ)仮に,本願補正発明における「第2の液晶表示部」が,従来の折畳み
式の携帯電話機の背面に固定して設けられた背面液晶を意味するもので
あるとしても,第2の液晶表示部が背面液晶として動作するという効果
は格別のものではない。
すなわち,引用発明1に引用発明2を適用した構成において,回動板
(補助表示部9)の表面に当たる位置に設けられた第2の液晶表示部
(液晶画面9a,LCDE15a)は,「回動板が電話機本体の背面に
閉じられた姿勢」において,その「外」表面に当たる位置に来ることが
明らかである(審決10頁下6行∼下2行も同旨)。そして,従来の一
般的な折畳み式携帯電話機が背面液晶を備えているのであるから,引用
発明1に引用発明2を適用した構成において外表面に位置している第2
の液晶表示部を従来の一般的な折畳み式携帯電話機の背面液晶と同様に
用いることができるとの効果は,当業者であれば容易に予測できる範囲
内のものである。
(ウ)また原告は,本願補正発明は,従来の折畳み式の携帯電話機の背面に
固定して設けられた背面液晶の有効利用を図り,電話機を展開してメイ
ンディスプレイ(第1の液晶表示部)を使用しているときに,電話機の
背面に設けられた背面液晶(第2の液晶表示部)を反転回動させること
により,第1の液晶表示部と第2の液晶表示部とによって大領域の表示
部を形成し,各種操作ボタンを操作しながら大容量の画像等を表示させ
るという効果を有するものであると主張するが,この効果も格別のもの
ではない。
すなわち,大容量の情報表示が必要な場合に折り畳んである第2の液
晶表示部を開き,第1の液晶表示部と第2の液晶表示部とによって大領
域の表示部を形成し,各種操作ボタンを操作しながら大容量の文字や画
像を表示させることができるという効果は,引用発明1が有する効果で
ある。
また,引用発明2において,一方の液晶表示部「LCDE15a」が
他方の液晶表示部「LCDE15b」の背面に折り込まれた状態では,
「LCDE15b」を使用しているときに「LCDE15a」が使用さ
れないことはその構造から明らかであるところ,背面に折り込まれた
「LCDE15a」を反転回動させて「LCDE15b」と共に大領域
の表示部を形成させることは,背面側に折り込まれていた「LCDE1
5a」を有効利用するものといえる。したがって,第1の液晶表示部を
使用しているときに,背面に設けられた第2の液晶表示部を反転回動さ
せることにより,第1の液晶表示部と第2の液晶表示部とによって大領
域の表示部を形成するという効果は,引用発明2が有する効果である。
したがって,本願補正発明の作用効果として原告が主張するものは,
引用発明1及び引用発明2がそれぞれ有する効果を単に足し合わせたも
のにすぎない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2取消事由1(一致点認定の誤り)について
(1)原告は,本願補正発明と引用発明1との一致点の認定に関して,審決が引
用発明1の「液晶画面7a」を本願補正発明の第1の液晶表示部に相当する
とし,第1の液晶表示部が第2の液晶表示部と共に大領域の表示部を形成す
る点を一致点として認定したのは誤りであると主張するので,この点につい
て検討する。
(2)アまず,本願補正発明の「第1の液晶表示部」の技術的意義につき,本件
補正後の請求項1をみると,「表面に第1の液晶表示部(2)と各種操作
ボタン(7)とを備えた電話機本体(1)…」,「…該第2の液晶表示部
(5)が第1の液晶表示部(2)と共に大領域の表示部を形成する…」と
記載されていることから,第1の液晶表示部は,電話機本体の表面に設け
られ,第2の液晶表示部と共に大領域の表示部を形成するものであること
が認められる。
イもっとも,上記第1の液晶表示部が原告の主張するような「通常の電話
機として使用するときに各種操作ボタンと同一面にあって主たる表示部と
して機能するもの」であるかは特許請求の範囲の記載からは一義的に明確
でないので,発明の詳細な説明の記載を参酌して以下検討する。
(ア)本願補正明細書(甲6)には,次の記載がある。
a発明が属する技術分野
「本発明は,文字や画像を表示する液晶表示部を備えた小型携帯電話機に・
関するものである。」(段落【0001】)
b従来の技術
・「近年,携帯電話機は携帯性の向上のために小型化が進んでいる。その反
面,電話機の機能に加えて,インターネットや各種情報の出力端末として
の機能が追加されて大容量の情報の表示が可能な液晶表示部が要求される
ようになった。そこで従来では,例えば特開平11−249596号公報
に示すように,電話機本体の液晶表示部に開閉可能な蓋体を設けてこの蓋
体の裏面に第2の液晶表示部を形成し,使用時に蓋体を開放して電話機本
体の液晶表示部と第2の液晶表示部とがマルチ表示部として使用できるよ
うにしたものが提供されている。」(段落【0002】)
c発明が解決しようとする課題
・「しかし,上記従来タイプでは,電話機本体の液晶表示部が蓋体によって
常時閉ざされているので,通常の電話機として使用するときはこの表示部
を使用するときに液晶表示部を見ることができず,その都度蓋体を開放し
て使用しなければならない,といった欠陥があった。また電話機としての
使用の際は第2の液晶表示部を特に必要としないため,かえって無駄であ
るといった問題点もあった。」(段落【0003】)
・「そこで本発明は,電話機として使用するときには,電話機本体に設けた
大きな液晶表示部を従来の携帯電話と同じようにそのまま使用することが
でき,インターネット等の大容量の情報の表示が必要な場合は電話機背面
に折り畳んである第2の液晶表示部を反転させて電話機本体の液晶表示部
と共に大領域の表示部を形成できるようにし,以って上記従来欠点を解消
した携帯電話機を提供することを主たる目的とするものである。」(段落
【0004】)
d発明の実施の形態
・「図1及び図2は本発明の比較例を示すもので,符号1は電話機本体を示
す。該電話機本体1の表面には従来の携帯電話機と同じように第1の液晶
表示部5や各種操作ボタン7…が設けられている。」(段落【0006
】)
・「前記電話機本体1の一縁部に設けられたヒンジ部3を介して回動板4が
電話機本体1の背面に重なるように折り込まれて取り付けられている。こ
の回動板4が電話機本体1の背面に密着した閉じ姿勢においてその外表面
に第2の液晶表示部5が設けられており,該第2の液晶表示部5が第1の
液晶表示部2と同じ方向に向く姿勢まで回動板4が回動反転できるように
形成されている。」(段落【0007】)
・「上記の構成において,本発明の携帯電話機を通常の電話機として使用す
るときは,図1に示すように回動板4を電話機本体1の背面に密着させた
姿勢にしたまま使用すればよい。これにより従来の電話機と同じように電
話機本体1の液晶表示部2に電話番号等の文字や図形を表示させて使用す
ることができる。また,インターネット等の大容量の情報の表示が必要な
場合は,図2に示すように電話機背面に折り畳んである回動板4を反転さ
せて第2液晶表示部5を電話機本体1の液晶表示部2と共に大領域の表示
部を形成させて大容量の文字や図形を表示させることができる。」(段落
【0008】)
・「本発明では,図3に示すように,電話機本体1が,各種操作ボタン7を
備えた本体部1aと,第1の液晶表示部2を備えたパネル部1bとによっ
て形成し,パネル部1bが本体部1aに対して蝶番11を介して折り畳み
できるように形成された二つ折り式の携帯電話機において,前記パネル部
1bの背面部に前記比較例と同様にヒンジ3を介して第2の液晶表示部5
を備えた回動板4を回動自在に取り付けている。」(段落【0010】)
e発明の効果
・「以上詳述したごとく本発明によれば,普通の電話機として使用するとき
はそのままの状態で従来の電話機と同じように電話機本体の液晶表示部に
電話番号等の文字や図形を表示させて使用することができるものでありな
がら,インターネット等の大容量の情報の表示が必要な場合は,電話機背
面に折り畳んである回動板を反転させてこれの液晶表示部を電話機本体の
液晶表示部と共に大領域の表示部を形成させることができ,これにより大
容量の文字や図形を同時に出力表示させることができるといった効果があ
る。」(段落【0012】)
(イ)また,本願の願書に添付された図面(平成17年12月1日付け旧補
正〔甲15〕による補正後のもの)は,次のとおりである。
【図1】【図2】
【図3】
ウ以上の記載によれば,本願補正発明は,文字や画像を表示する液晶表示
部を備えた携帯電話機の分野において,その携帯性を向上するために小型
化が進む半面,インターネット等による情報出力端末として大容量の情報
を表示できる液晶表示部が要求されるようになったことを技術的背景とす
るものである。
そして,携帯電話機を小型化しつつ大容量の情報表示を実現するための
従来技術として,特開平11−249596号公報(発明の名称「携帯型
情報処理装置」,出願人ソニー株式会社,公開日平成11年9月17
日。甲17)に記載の発明があるが,同発明は電話機本体の液晶表示部に
開閉可能な蓋体を設けてこの蓋体の裏面に第2の液晶表示部を形成し,使
用時に蓋体を開放して電話機本体の液晶表示部と第2の液晶表示部とがマ
ルチ表示部として使用できるようにしたものであり,電話機本体の液晶表
示部を見るためにはその都度蓋体を開放して使用しなければならないとい
う問題点があった(本願補正明細書〔甲6〕の上記段落【0002】,【
0003】)。
そこで,このような問題点を克服して上記のような携帯電話機の小型化
と大容量の情報表示という目的を達成するため,電話機本体の表面(各種
操作ボタンと同一面)に第1の液晶表示部を設け,電話機本体の背面に折
り込まれた回動板に第2の液晶表示部を設けて,この回転板を反転回動さ
せて第1の液晶表示部と第2の液晶表示部とで大領域の表示部を形成する
という構成を採用した。
そして,さらに上記構成を有する携帯電話機において,電話機本体が各
種操作ボタンを供えた本体部(1a),第1の液晶表示部を備えたパネル
部(1b)によって形成され,パネル部(1b)が本体部(1a)に対し
て蝶番を介して折り畳みできるようにした二つ折り式(折畳み式)の携帯
電話機としたのが本願補正発明である(なお,本願の当初明細書〔甲1
4〕においては,二つ折り式〔折畳み式〕の携帯電話機に限られないもの
として特許請求の範囲に記載されていたのであるが,本件補正によって二
つ折り式〔折畳み式〕の携帯電話機に限定されることとなり,当初明細書
における第1の実施例は本願補正明細書〔甲6〕では比較例〔図1,図
2〕とされている。)。
エそうすると,本願補正発明の「第1の液晶表示部」の技術的意義につい
ては,発明の詳細な説明の記載を参酌しても,前記アと同様に,電話機本
体の表面(ただし,各種操作ボタンと同一面)に設けられ,第2の液晶表
示部と共に大領域の表示部を形成するものと理解されるものである。
オこれに対し原告は,本願補正発明における「第1の液晶表示部」は通常
の電話機として使用するときに主たる表示部として機能するものであると
主張し,確かに本願補正明細書(甲6)の段落【0008】には,「…本
発明の携帯電話機を通常の電話機として使用するときは,図1に示すよう
に回動板4を電話機本体1の背面に密着させた姿勢にしたまま使用すれば
よい。…」という記載がある。
しかし,上記記載は,前述した従来例(特開平11−249596号公
報,甲17)について「…上記従来タイプでは,…通常の電話機として使
用するときはこの表示部を使用するときに液晶表示部を見ることができず
…」(本願補正明細書〔甲6〕の段落【0003】)とされていることと
の対比において記載されているものであって,上記従来例においては,下
記図面(甲17の図2,図3)にみられるように,電話機本体の液晶表示
部(液晶表示装置8)は電話機本体の表面ではなく蓋体に覆われた位置に
設けられているため,ボタン5a∼5iを操作して通信相手の電話番号等
を入力する際にその電話番号等を表示する画面としては使用できないこと
を意味しているものである。
【図2】
【図3】
したがって,本願補正発明の「第1の液晶表示部」は,電話機本体の表
面に設けられ操作ボタンを操作しながら表示画面として使用できるもので
あるというのが本願補正明細書(甲6)に記載された趣旨であり,原告主
張のような意義に限定されるものと解されるべきではない。
(3)以上を踏まえて,引用発明1の「液晶画面7a」が本願補正発明の第1
の液晶表示部に相当するとした審決の判断が誤りであるかについて検討す
る。
ア引用例1(甲1)には,次の記載がある。
(ア)発明の属する技術分野
・「本発明は,移動無線機に関し,特に,携帯電話機やPHS(パーソナルハ
ンディホン)等の表示部による情報表示量を増大させる移動無線機に関す
る。」(段落【0001】)
(イ)従来の技術
・「携帯電話機やPHS等の移動無線機には,通常,液晶表示器を用いた表示
部が設けられている。この表示部には,相手方との接続時や通話時に自己や
相手方の電話番号を表示したり,或いは音声以外のメッセージ等の文字情報
を表示するなど,様々な情報を表示する機能が付加されており,この表示さ
れるべき情報の量は,多くの機能付加による利便さの追求に伴って,更に増
加する傾向にある。」(段落【0002】)
(ウ)発明が解決しようとする課題
・「表示情報量を増やすには,表示部を大きくすることで解決するが,これで
は電話機の大型化は避けられず,小型軽量のニーズが高い携帯電話機等には
不向きである。」(段落【0005】)
・「したがって,本発明の目的は,本体の大型化を招くことなく,表示部の表
示情報量を増大させることのできる移動無線機を提供することにある。」
(段落【0006】)
(エ)課題を解決するための手段
・「本発明は,上記の目的を達成するため,携帯型の本体を有する移動無線機
において,前記本体の表面に設置され,各種の情報を表示する本体表示部
と,前記本体に着脱自在に或いは可動的に取り付けられ,前記本体表示部の
表示を補助して前記情報を表示する補助表示部とを備えたことを特徴とする
移動無線機を提供する。」(段落【0007】)
(オ)発明の実施の形態
・「図1は本発明による移動無線機の第1の実施の形態を示す。図中,1は電
話機本体,…5aは回線接続用の接続開始ボタン,5bは回線切断用の接続
終了ボタン,…6はテンキー及び各種の機能キーである。7は液晶表示器を
用いた液晶画面7aを有する本体表示部であり,電話機本体1のパネル面に
固定されている。…9は補助表示部である。」(段落【0009】)
・「補助表示部9は,本体表示部7と同様に液晶表示器を用いて構成され,前
面には液晶画面9aを有し…ている。端子部10をコネクタ部8に挿入する
ことにより,補助表示部9は電話機本体1に結合され,同時に液晶画面9a
に本体表示部7と同様の情報を表示できるようになる。そして,補助表示部
9の不要時或いは携行時には,邪魔になる補助表示部9を電話機本体1から
取り外して,裏面,側面等に収容あるいは嵌合させることができる。」(段
落【0010】)
・「図2は,本体表示部7と補助表示部9における表示内容の具体例を示す。
(イ)は本体表示部7と補助表示部9を一つの横長画面として表示する場合
であり,同一行は本体表示部7の液晶画面7aと補助表示部9の液晶画面9
aで連続した内容で表示される。(ロ)は液晶画面7aの表示完了後,これ
に続く表示内容を液晶画面9aにより表示する例,即ち,2ページに分けて
表示するものである。(ハ)は液晶画面7aと液晶画面9aで異なる種類ま
たは内容の情報を並列に表示するマルチディスプレイの例である。このよう
に,電話機本体1が表示器1つ分の外形のまま,表示面積を2倍(本体表示
部7と補助表示部9が同一仕様のとき)にすることが可能になる。」(段落
【0011】)
・「図3は,本発明の移動無線機の第2の実施の形態を示す。電話機本体1の
側部に設けられた枢着部9bによって,補助表示部9を電話機本体1に開閉
自在に取り付けたものである。(イ)は液晶画面9aを本体表示部7に重ね
るようにして収容した状態を示している。この場合,補助表示部9には,そ
の表面に液晶画面9aが設けられ,裏面に液晶画面9cが設けられている。
したがって,(イ)のように本体表示部7に重ねた場合でも,(ロ)のよう
に,補助表示部9を横開きにした場合でも補助表示部9による表示が可能で
ある。(イ)の使用形態では,補助表示部9を本体表示部7の代わりに用い
ることができる。また,(ロ)の使用形態では,表示内容は,本体表示部7
の液晶両面7aと補助表示部9の液晶画面9aの双方に表示される。この第
2の実施の形態により得られる効果は,上記第1の実施の形態と同一であ
る。」(段落【0012】)
・「図4は,本発明による移動無線機の第3の実施の形態を示す。この実施の
形態は,補助表示部9を電話機本体1から取り外したときの補助表示部9の
収納を考慮したもので,補助表示部9を収納するための収納部9dを電話機
本体1の側面に設けている。そして,液晶画面9aが表出する状態になるま
で補助表示部9を収納部9dから引き出したとき,補助表示部9の電気接点
と電話機本体1の電気接点とが接続されるようなコネクタ類(不図示)が補
助表示部9と電話機本体1の双方に設けられている。」(段落【0013
】)
電話をかける場合,テンキー6を操作して相手先電話番号を入力する(或・「…
いは,制御部16のメモリに記憶させてある電話番号を呼び出す)。この入力
内容は本体表示部7または補助表示部9に表示される。…」(段落【0017
】)
・「また,通話相手から呼び出された場合,…の経路で相手方の電話番号が本
体表示部7(または補助表示部9)に表示される。」(段落【0018】)
(カ)発明の効果
・「以上説明したように,本発明による移動無線機によれば,受発信時の情報
等を表示するための表示部として,本体に設けた主表示部(本体表示部)以
外に補助表示部を設けていることから,表示可能な情報量を従来に比べて格
段に増大させることが可能になる。この結果,利用者によるスクロール操作
の回数を減らすことができる。」(段落【0025】)
・「また,補助表示部は,必要に応じて電話機本体の側部に表出できる構造に
したことから,情報表示量の増大にもかかわらず,携帯時の本体サイズを大
型化させることがない。更に,本体表示部と補助表示部とが同一面に配置さ
れることから,これら両表示部に表示される情報の確認が容易であり,した
がって,全体として実用性に富む移動無線機を提供することができる。」
(段落【0026】)
(キ)図面
【図1】【図2】
【図3】
【図4】
イ以上によれば,引用例1(甲1)には,携帯電話機等の移動無線機にお
いて,本体の大型化を招くことなく表示部の表示情報量を増大させること
を目的として,携帯型の本体の表面に本体表示部7を備えると共に,前記
本体に取り付けられ本体表示部7の表示を補助して情報を表示する補助表
示部9を備えることが記載されている。
そして,上記補助表示部9は,本体に着脱自在に取り付けられるか(第
1実施例,【図1】),本体の側部に設けられた枢着部によって開閉自在
に取り付けられるか(第2実施例,【図3】),あるいは本体に設けられ
た収納部に収納され,必要時に引き出される(第3実施例,【図4】)も
のである。
このうち第2実施例においては,補助表示部9の表面に液晶画面9a
を,裏面に液晶画面9cを設けることによって,補助表示部9を本体表示
部7に重ねるようにして収容した場合でも液晶表示画面を使用することが
可能となっている。
すなわち,補助表示部9を開いた状態(図3〔ロ〕)では本体表示部7
の液晶画面7aと補助表示部9の液晶画面9aの双方に情報が表示され,
一方,補助表示部9を本体表示部7に重ねるようにして収容した状態(図
3〔イ〕)では本体表示部7の液晶画面7aを使用することはできないの
で,補助表示部9の液晶画面9cが本体表示部7の液晶画面7aの代わり
に用いられる。
なお,本体表示部7の液晶画面7aと補助表示部9の液晶画面9aに情
報が表示される場合の情報の表示の仕方には,引用例1(甲1)の上記【
図2】に示されているように,①液晶画面7aと液晶画面9aを一つの横
長画面として表示する,②液晶画面7aに続けて2頁目の情報を液晶画面
9aに表示する,③液晶画面7aとは異なる情報を液晶画面9aに表示す
る,などの方法がある。
ウこのように,引用例1(甲1)の第2実施例として記載された発明(引
用発明1)は,電話機本体に本体表示部7(液晶画面7a)を設けて情報
を表示させ,本体の側部に開閉自在に取り付けられた補助表示部9の液晶
画面9aと共に大領域の表示部を形成させるというものである。
そうすると,引用発明1の電話機本体に設けられた液晶画面7aは,電
話機本体の表面に設けられ,補助表示部9の液晶画面9aと共に大領域の
表示部を形成するものであるから,引用発明1の液晶画面7aが本願補正
発明の第1の液晶表示部に,引用発明1の液晶画面9aが本願補正発明の
第2の液晶表示部にそれぞれ相当するというべきである。
エこれに対し原告は,引用発明1においては補助表示部9の裏面に設けら
れた液晶画面9cが本願補正発明の第1の液晶表示部に相当すると主張す
るが,原告の主張は本願補正発明の「第1の液晶表示部」の技術的意義に
ついて「通常の電話機として使用するときに主たる表示画面として機能す
るもの」と限定的に解することを前提としたものであって,かかる解釈が
採用できないことは前記(2)のとおりである。
また実質的にみても,上記のとおり引用発明1における液晶画面9cは
補助表示部9を本体表示部7に重ねたときに本体表示部7(液晶画面7
a)の代わりに表示画面として用いられるものであって,液晶画面7aと
同様の情報が表示されるものである。そして,液晶画面7a,液晶画面9
c(補助表示部9を本体表示部7に重ねたとき)は,いずれも本体の表面
にあって,ボタン5a∼5iを操作しながら表示画面として使用すること
ができるものであるから,電話やメール送信をするときに補助表示部9を
開いて液晶画面7aを用いるか,補助表示部9を本体表示部7に重ねて液
晶画面9cを用いるかは,当該携帯電話機を使用する者の自由に委ねられ
ているものである。
そうすると,審決が上記液晶画面7a,液晶画面9cのうち,液晶画面
9a(第2の液晶表示部)と共に大領域の表示部を形成する液晶画面7a
を第1の液晶表示部に相当するものとしたことに誤りはない。
(4)したがって,原告の主張する取消事由1は理由がない。
3取消事由2(相違点1認定の誤り)について
(1)原告は,本願補正発明と引用発明1との相違点1について,引用発明1の
回動板が電話機本体に開閉自在に取り付けられていると審決が認定したのは
誤りであると主張する。
(2)しかし,前記2(3)に認定したとおり,引用例1(甲1)には,「図3は,
本発明の移動無線機の第2の実施の形態を示す。電話機本体1の側部に設け
られた枢着部9bによって,補助表示部9を電話機本体1に開閉自在に取り
付けたものである。(イ)は液晶画面9aを本体表示部7に重ねるようにし
て収容した状態を示している。…」(段落【0012】)と記載されてお
り,引用発明1の回動板(補助表示部9)が電話機本体に開閉自在に取り付
けられているのは明らかである。
(3)なお,原告は引用発明1では回動板(補助表示部9)が電話機本体の表面
に開閉自在に折り込まれていると主張するが,上記段落【0012】の記載
によれば,補助表示部9が電話機本体1に対して閉じた状態とは,補助表示
部9の液晶画面9aを本体表示部7に重ねるように収容した状態をいうもの
であり,審決もこれを前提として引用発明1の回動板(補助表示部9)が電
話機本体に開閉自在に取り付けられていると認定し,相違点についての判断
をしているのであるから,原告が相違点1として認定されるべきであると主
張する内容と審決が相違点1として認定した内容とは,実質的に異なるもの
ではない。
(4)したがって,原告の主張する取消事由2は理由がない。
4取消事由3(相違点2認定の誤り)について
(1)原告は,本願補正発明と引用発明1との相違点2について,引用発明1に
は回動板(補助表示部9)上に第2の液晶表示部(液晶画面9a)のほかに
もう一つの液晶画面9cが設けられていると審決が認定したのは誤りである
と主張する。
(2)しかし,原告の主張は,引用発明1の液晶画面9cが本願補正発明の第1
の液晶表示部に相当することを前提としたものであるところ,この主張を採
用することができないことは前記2のとおりである。
(3)したがって,原告の主張する取消事由3は理由がない。
5取消事由4(相違点についての判断の誤り)について
(1)相違点1につき
ア原告は,引用発明1に引用発明2を適用して相違点1に係る構成に至る
ことは容易であるとした審決の判断は誤りであると主張するので,この点
について検討する。
イ(ア)引用例2(甲2)には,次の記載がある。
a特許請求の範囲
「複数の画像表示部からなる画像表示手段を有し,かつ前記画像表示手段・
を折りたたみ可能にすることを特徴とする携帯型の画像表示装置。」(1
頁左欄4行∼6行)
b発明の詳細な説明
本明細書において,(1)画像とは,映像,文字,記号など視覚を通・「…
して知覚しうるものをいい,(2)画像表示装置とは,テレビ受像機,テ
レビモニター,ワードプロセッサー,パーソナル・コンピュータ,CAD
/CAMなどを始め,画像を表示するものをいう。また,(3)画像表示
手段(方式)としては,液晶,プラズマおよびエレクトロルミネンス(E
L)などの電気的なディスプレイ装置などを含む。
以下,画像表示装置の代表例として,既に広く知られ販売されている液
晶型ポータブルカラーテレビ(以下,LCD−TVともいう)について,
説明するが,本発明はこれに限定されるものではない。」(1頁左欄9行
∼右欄3行)
・「従来のLCD−TVは,…CASE10を小さくし,携帯性を優先させ
れば,LCD5も小さくなり,見にくく疲れやすいという問題が生じ,
又,LCD5を大きくし,見やすさを優先させれば,CASE10が大き
くなり,今度は逆に携帯性に欠けるという問題が生じる。すなわち,見や
すさと携帯性とは相反するのであり,いずれかを犠牲にしなければならな
いという欠点があった。
また,大型のカラー液晶ディスプレイは,歩留まりが悪く,生産性に欠
け,実用化が難しいという欠点を有していた。
本発明は,かかる欠点を除去するものであり,生産性が高く,見やすさ
と携帯性の両方に優れた画像表示装置を提供するものである。」(2頁左
上欄7行∼右上欄2行)
・「以下,本発明の1実施例を第3図ないし第5図を用いて説明する。」
(2頁右上欄3行∼4行)
・「…15は,LCDE15a,15bよりなる液晶ディスプレイ(LC
D)であり,LCDE15a,15bの両者は,第3図に示すように配設
され,当接して『ニュース』という1つの画像を再現することができる。
…」(2頁左下欄9行∼13行)
・「20は,左側ケース(LCS)20bと,右側ケース(RCS)20a
とを折りたたみ式にしたケース本体(CASE)であり,第3図のように
広げた状態で使用する。
20dは,LCS20bとRCS20aとの接合部(ヒンヂ部ともい
う。CNT)であり,やわらかい樹脂で両ケース(LCS,RCS)20
a,20bを接合し,かつ,折り曲げしやすくしている。
このようにすることにより,不使用時は,第4図のように折りたたみ小
型にでき携帯性に優れ,使用時には第3図に示すように広げれば,大画面
にすることができ,見やすくすることができ,…何ら携帯性を失なうこと
なく画面の大型化を容易に図ることができる」(2頁右下欄16行∼3頁
左上欄13行)
・「次に,本発明の他の実施例を第6図,第7図を用いて説明する。
第6図は,本発明の他の実施例である2分割型ポータブルカラー液晶テ
レビの使用状態(広げた状態)を示す外観斜視図,第7図は同テレビの不
使用状態(または折りたたんでの使用状態)を示す外観斜視図である。
本実施例の電気系回路および外観構成は,第3図ないし第5図に示す前
記実施例のものと同じである。
本実施例と前記実施例のちがいは,前記実施例が,第4図から明らかな
ように接合部20dが,CASE20の前面側にあるので折りたたんだ状
態では,LCDE15a,15bは互いに対向して内側になるので折りた
たんだ状態ではTVを見ることができなかったのであるが,本実施例で
は,接合部20dがCASE20の裏面側にあるので,折りたたんだ状態
でLCDE15a,15bが互いに外側になるので折りたたんだ状態でも
第7図に示すようにLCDE15a.15bは外側に向いており,この状
態でTVを見ることができる。
したがって,SW19aをONにすると,このように折りたたんだ状態
でもTVを見ることができ,スペースがないときや電車内で立って見ると
きなどに好適である。
第7図に示すものは,SW19aをONにしたとき,DEV19で画像
を1/2に縮小し,かつ90度回転を行った例であり,それ以外の,例え
ば,回転をさせず,縮小だけを行なうようにしてもよい。」(3頁左上欄
14行∼左下欄5行)
・「…上記3つの実施例では,一つのCASE本体をフレキシブルな接合部
で接合させた複数のケース部によって構成した例を示したが,これに限る
ことはなく,接合部をなにも接着固定したものではなく,例えば,各ケー
ス部が脱着自在に独立したケース部であり,必要時これらを互いに装着し
て一体化するようにしてもよく,また各ケース部をスライド式にし,必要
時引き出して使用し,不要時縮めて小さくできるようにしてもよい。」
(4頁右上欄3行∼11行)
・「…以上のように本発明によれば,不要時小さく,必要時大きくすること
ができるので,装置の小型化と画面の大型化を同時に実現でき,特に携帯
性に優れた画像表示装置を得ることができる。」(5頁左欄16行∼19
行)
c図面の簡単な説明
・「5,15,25・・・液晶ディスプレイ(LCD),
15a,15b,25a,25b,25c・・・液晶表示部(LCD
E)」(5頁右欄16行∼17行)
d図面
【図6】【図7】
(イ)以上によれば,引用例2(甲2)には,液晶,プラズマ,エレクトロ
ルミネサンス(EL)等の電気的なディスプレイ装置による画像表示装
置において,装置の小型化(携帯性)と画面の大型化を同時に実現する
ために,液晶表示部(LCDE)15a,15bという二つのディスプ
レイで大領域の表示部を形成し,これらの液晶表示部を収容するケース
20a,20bが接合部20dを介して折り畳むことができるようにし
て装置の携帯性を確保することが記載されている。
そして,引用例2の第1実施例において液晶表示部(LCDE)15
a,15bが互いに対向して内側になるように折り畳まれているのに対
して,第2実施例(引用発明2)においては,液晶表示部(LCDE)
15a,15bが互いに外側になるように折り畳まれているため,折り
畳んだ状態でもこれらの液晶表示部を使用することができる。
ウそこで,このような引用発明2を引用発明1に適用して相違点1の構成
に至ることが当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を
有する者)にとって容易であるかについて検討する。
(ア)前記2(3)のとおり,引用発明1は,携帯電話機等の移動無線機におい
て,本体の大型化を招くことなく大領域の表示部を形成することを目的
として,本体表示部7の表示を補助して情報を表示する補助表示部9を
備えるものであり,本体表示部7の液晶画面7aと補助表示部9の液晶
表示画面9aとで大領域の表示部を形成し,かつ,これらの液晶画面が
互いに内側になるように折り畳まれるものである。
したがって,引用発明1は,携帯電話機等の移動無線機という限られ
た分野においてではあるものの,本体の小型化と表示画面の大型化を同
時に実現するという点で引用発明2と目的を共通にし,大領域の表示部
を形成する二つの表示画面が折り畳まれるという点でも構成を共通にす
る。
そして,携帯電話機の画像表示装置として液晶画面等が用いられてい
る以上,引用発明2のようにテレビ受像機のほかテレビモニター,ワー
ドプロセッサー,パーソナルコンピュータ等の画像表示装置一般に用い
られる(引用例2〔甲2〕の1頁左欄11行∼13行参照)技術は,携
帯電話機等の移動無線機の分野においても当業者が当然に考慮するもの
である。
(イ)そこで,上記のように,引用発明2と共通の目的を有し,大領域の表
示部を形成する二つの表示画面が折り畳まれるという共通の構成を有す
る引用発明1において,さらに引用発明2における二つの表示画面が互
いに外側になるように折り畳むという構成を採用すれば,本体表示部7
の液晶画面7aは補助表示部9の開閉にかかわらず常に使用することが
可能となり,補助表示部9の液晶画面9aは電話機本体の背面側で利用
することが可能になるのであるから,引用発明1と引用発明2に接した
当業者が引用発明1に引用発明2を適用して相違点1の構成に至ること
は容易になしうるものである。
エ(ア)これに対し原告は,引用発明1において補助表示部9を折り畳んだ状
態で見ることのできる液晶画面9cは必須の構成要素であるから,引用
発明1における液晶画面9cの存在は引用発明1に引用発明2を適用す
る阻害要因となると主張する。
しかし,前記2(3)のとおり,引用発明1において補助表示部9に液
晶画面9cを設けたのは,補助表示部9を本体表示部7に重ねるように
収容すると二つの表示画面(液晶画面7a,液晶画面9a)が互いに内
側になり,本体表示部7の液晶画面7aが見えなくなってしまうので,
これに代わる表示画面として液晶画面9cが必要となったためである。
そこで,引用発明1に引用発明2を適用して液晶画面7a,液晶画面
9aが互いに外側になるように折り畳んで補助表示部9を電話機本体の
背面部に収容することとすれば,補助表示部9を収容するときでも本体
表示部7の液晶画面7aが隠れることはなく,液晶画面9cを備える必
要がなくなる。
そして,このように不要となった液晶画面9cを排して液晶画面9a
のみを補助表示部9に備えることとすることは,当業者であれば容易に
になしうることである(因みに,引用例1〔甲1〕の第1実施例及び第
3実施例においては,補助表示部9の収容時に本体表示部9の液晶画面
7aが隠されることがないため,液晶画面9cはそもそも備えられてい
ない。)。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(イ)また原告は,引用発明1に引用発明2を適用すると,既存の液晶画面
7a,9a,9cに加えてもう一つの液晶画面9dが必要となり,相違
点1の構成とかけ離れた構成しか得られないと主張する。
しかし,原告の上記主張は,引用発明1の液晶画面9cが本願補正発
明の第1の液晶表示部に相当し,必須の構成要素として省略することが
できないという主張を前提とするものであるところ,かかる前提が採用
できないことは上記のとおりである。
(ウ)また原告は,引用発明2は平板状の物体をコンパクトにするために二
つ折りにする普通の手段にすぎないと主張するが,引用発明2が液晶等
の画像表示装置に関するものであることは上記のとおりであり,原告の
上記主張は採用することができない。
オしたがって,相違点1についての審決の判断に誤りはない。
(2)相違点2につき
原告は,相違点2についての判断の誤りを主張するが,引用発明1に引用
発明2を適用する場合に,不要となる液晶画面9cを排して液晶画面9aの
みを補助表示部9に設けることが容易であることは前記(1)エのとおりであ
るから,相違点2についての審決の判断に誤りはない。
(3)相違点4につき
ア引用発明1の携帯電話機に関して「前記電話機本体(1)が,各種操作
ボタン(7)を備えた本体部(1a)と第1の液晶表示部(2)を備えた
パネル部(1b)とによって形成され,パネル部(1b)が本体部(1
a)に対して蝶番(11)を介して折り畳みできるように形成され」ると
いういわゆる二つ折り式の携帯電話機の構成(相違点3の構成)を採用す
ることについては,原告は取消事由を主張していない(第2回弁論準備手
続調書)。
そして,前記(1)のとおり,「回動板(4)」が「電話機本体(1)の
一縁部に設けられたヒンジ部(3)を介して電話機本体(1)の背面に折
り込まれ」るという構成(相違点1の構成)を採用することは当業者に容
易である。
そうすると,上記二つ折り式(折畳み式)の携帯電話機において回動板
を電話機本体の背面に折り込むという構成を採用した場合には,回動板は
第1の液晶表示部を備えたパネル部(1b)の背面部に折り込まれること
となるから,「前記第1の液晶表示部(2)を備えたパネル部(1b)の
背面部に,ヒンジ部(3)を介して第2の液晶表示部(5)を備えた回動
板(4)が回動自在に取り付けられ,この回動板(4)がパネル部(1
b)の背面に閉じられた姿勢においてその外表面に前記第2の液晶表示部
(5)が設けられ」るという構成(相違点4の構成)に至ることは,当業
者が自然になしうることである。
イこれに対し原告は,本願補正発明は従来の折畳み式携帯電話機の背面に
固定して設けられていた背面液晶の有効利用を図り,大領域の表示部を実
現するものであると主張する。
しかし,引用発明1に引用発明2を適用して回動板(補助表示部9)が
電話機本体の背面に折り込まれるという相違点1の構成を採用することが
容易であることは上記のとおりである。そして,このような構成を採用す
る場合には,補助表示部9が電話機本体の背面部に収容されたときに,液
晶画面9aを電話機本体の背面側から見ることが可能になるところ,従来
の折畳み式携帯電話機においてはパネル部の背面に背面液晶が設けられて
いることが一般的であるため,電話機本体の背面部に収容された液晶画面
9aに従来の背面液晶としての機能を持たせることは,当業者が自然にな
しうることである。
すなわち,原告の主張する背面液晶の有効利用は,引用発明1に引用発
明2を適用して相違点1∼4の構成を得ることから自然に生じる結果にす
ぎない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(4)なお原告は,相違点についての判断全体に関する主張として,引用発明1
に引用発明2を適用して本願補正発明の構成を得るためには種々の工夫や改
変が必要であり,当業者が容易になしうるものではないと主張する。
しかし,原告が主張するところの種々の工夫や改変とは,本願補正発明の
構成を有する携帯電話機を実施あるいは製品化するために必要と考えられる
具体的な工夫や作業等をいうものにすぎず,本願補正発明の技術思想自体を
得ることの困難性をいうものではないから,原告の上記主張は採用すること
ができない。
6結語
以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官清水知恵子

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛