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平成22年3月24日判決言渡
平成21年(行ケ)第10288号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成22年3月17日
判決
原告東日本メディコム株式会社
訴訟代理人弁理士橋本克彦
被告特許庁長官
指定代理人右田昌士
同稲積義登
同廣瀬文雄
同田村正明
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2007−20731号事件について平成21年8月3日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が名称を「指導装置」とする発明について特許出願をしたとこ
ろ,拒絶査定を受けたので,これに対する不服審判請求をし,その後平成19
年8月24日付けで特許請求の範囲等を変更する手続補正をしたが,特許庁が
請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
2争点は,上記補正後の請求項1に係る発明(本願発明)が下記引用文献に記
載された発明(引用発明)との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),
である。

・特開平9−160811号公報(発明の名称「携帯用情報端末装置及び情報
端末表示装置」,出願人シャープ株式会社,公開日平成9年6月20日。
以下,この文献を「引用文献」といい,そこに記載された発明を「引用発
明」という。甲1)
第3当事者の主張
1請求原因
(1)特許庁における手続の経緯
原告は,平成14年4月30日,名称を「指導装置」とする発明について
特許出願(特願2002−128214号,請求項の数7。公開公報は特開
2003−323103号〔甲4〕)をし,その後平成19年4月9日付け
で特許請求の範囲の変更等を内容とする手続補正(第1次補正,請求項の数
2,甲5の3)をしたが,拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判
請求をした。
特許庁は,同請求を不服2007−20731号事件として審理し,その
中で原告は平成19年8月24日付けで特許請求の範囲の変更等を内容とす
る手続補正(第2次補正,甲5の6,以下「本件補正」という。)をしたが,
特許庁は,平成21年8月3日,「本件審判の請求は,成り立たない。」と
の審決をし,その謄本は同年8月24日原告に送達された。
(2)発明の内容
本件補正後の特許請求の範囲は,上記のとおり請求項1,2から成るが,
このうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の内容は以下の
とおりである。
・【請求項1】
指導者に向けて配置される裏側および被指導者に向けて配置される表側
にそれぞれ表示画面を有する表示装置と、前記表示装置の表側(被指導者
側)および裏側(指導者側)の各表示画面に情報をそれぞれ出力するため
の各出力回路、前記出力回路により出力する情報を記憶しておく記憶装置、
前記記憶装置に記憶されている情報の内で必要な情報を選択するための選
択回路、前記各回路および装置を制御するための制御回路および、前記記
憶装置に記憶されている情報と異なる情報を前記表示画面に前記選択され
た情報と別にまたは同時に表示する情報を入力するための入力回路を有す
る前記表示装置に接続された1つの制御装置とからなる指導装置において、
前記裏側(指導者側)の表示画面の一部に前記表側(被指導者側)の表示
画面の映像の少なくとも一部を表側(被指導者側)の表示画面の映像と同
時に表示することを可能としたことを特徴とする指導装置。
(3)審決の内容
審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本願発明は上記引用発明に基づいて当業者が容易に発
明をすることができたから特許を受けることができない(特許法29条2
項),というものである。
なお,審決が認定した引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点及
び相違点は,上記審決写しのとおりである。
(4)審決の取消事由
しかしながら,審決には,以下に述べるとおり誤りがあるから,違法とし
て取り消されるべきである。
ア取消事由1(引用発明の認定の誤り)
審決は「引用発明における旅行代理店の店員にとって、旅行者に提示さ
れている映像情報がどういうものであるかを知る必要があることは、引用
例段落【0004】の『店員は身を乗り出して表示端末を覗き込むように
しなければならなかった。』との記載からも明らか」(6頁25行∼28
行)であるとした。
しかし、引用文献の「店員が身を乗り出して表示端末を覗き込むように
しなければならなかった」(段落【0004】)との記載は、「旅行代理
店の店員にとって、旅行者に提示されている映像情報がどういうものであ
るかを知る必要がある」ことを意味するものではない。上記記載は、片面
表示である従来の表示端末を客と店員との情報交換のコミュニケイション
ツールとして使用する場合における欠点(引用文献の段落【0003】
【発明が解決しようとする課題】)を示したものであり、「旅行代理店の
店員は、表示端末が片面表示でかつ視野角の狭い液晶表示端末の場合、旅
行者に提示されている自分にとって必要な情報を確認するのには身を乗り
出して表示端末を覗き込まないと確認できない」ことを記載したものであ
る。このことは、引用文献に「本発明の請求項1の携帯用情報端末装置は、
液晶表示装置を、表面側の顧客用液晶表示パネルと裏面側の管理者用液晶
表示パネルの2面により構成し、表面側液晶表示パネルは顧客が必要とす
る情報を表示し、裏面側液晶表示パネルは管理者が必要とする情報を表示
することを特徴とし、この構成により上記課題を解決する。」(段落【0
010】)と記載されていることからも明らかである。すなわち、引用発
明は、表面側液晶表示パネルには顧客(被指導者)が必要とする情報を表
示し、裏面側液晶表示パネルには管理者(指導者)が必要とする情報を表
示することにより課題を解決したものであるから、引用文献の「店員が身
を乗り出して表示端末を覗き込むようにしなければならなかった」(段落
【0004】)との記載は、「旅行代理店の店員が旅行者に向けて表示さ
れている表示端末に表示された旅行代理店の店員に向けて(旅行者向けで
はない)提示されている映像情報がどういうものであるかを知る必要があ
ることから覗き込む」ことを意味するものである。
そして、引用文献には、旅行代理店の店員にとって旅行者に提示されて
いる映像情報がどういうものであるかを知る必要についての記載や示唆す
る記載は一切ない。
したがって、審決の「引用発明における旅行代理店の店員にとって、旅
行者に提示されている映像情報がどういうものであるかを知る必要がある
ことは、引用例段落【0004】の「店員は身を乗り出して表示端末を覗
き込むようにしなければならなかった。との記載からも明らかである」と
の認定は誤りである。
イ取消事由2(周知例の認定の誤り)
審決の「・・・必要な映像情報を表示画面の一部に表示することは、例
えば、原審において引用された特開平11−338339号公報の図2に
示される表示画面や同じく特開平10−91057号公報の図3に示され
る表示画面にみられるように周知の事項である。」(6頁31行∼34
行)との認定は認める。
しかし、特開平11−338339号公報(発明の名称「遠隔講義シス
テム」,出願人株式会社大塚商会,公開日平成11年12月10日。以
下「甲2文献」という。)の図2に示された表示画面は、「受講者側(表
側〔被指導者側〕)表示画面の一部に講師側(裏側〔指導者側〕)表示画
面の映像の少なくとも一部(講義資料等)を受講者側(表側〔被指導者
側〕)表示画面の映像(講師の動画等)と同時に表示する」ものであり、
「裏側(指導者側)の表示画面の一部に前記表側(被指導者側)の表示画
面の映像の少なくとも一部を表側(被指導者側)の表示画面の映像と同時
に表示することを可能としたことを特徴とする」本願発明とは異なる技術
思想に基づくものである。
また、特開平10−91057号公報(発明の名称「技術相談支援シス
テム」,出願人三菱電機株式会社,公開日平成10年4月10日。以下
「甲3文献」という。)の図3に示される表示画面は、技術者(指導者
側)及び顧客A(被指導者側)にそれぞれ配置されたコンピュータネット
ワークにおける複数のノード(例えばサーバや端末機器)を用いたもので
あり、1つの制御装置内で指導者側および被指導者側の表示画面の出力を
制御する本願の発明とは構成が全く異なる。
さらに、甲3文献に「ここで例えば技術者(指導者側)11が自動車の
ドアを開ける操作を行なうと、ドアが開いた自動車の様子が技術者(指導
者側)11の画面に表示される。又、顧客A(被指導者側)12の画面に
も開いた状態のドアが映し出される・・・」(段落【0048】)と記載
されているように、甲3文献に記載された発明は、技術者(指導者側)1
1の画面の一部を顧客A(被指導者側)12の画面に表示するものである
点において、本願発明とは著しい差異がある。本願発明は,甲3文献に記
載された発明と異なり、「同一の制御装置や選択回路により、裏側(指導者
側)の表示画面の一部に前記表側(被指導者側)の表示画面の映像の少な
くとも一部を表側(被指導者側)の表示画面の映像と同時に表示する」こ
とを可能としたものであり、互いに相違するものである。
ウ取消事由3(容易想到性判断の誤り)
審決は「・・・旅行者が必要とする情報と管理者である旅行代理店の店
員が必要とする情報が異なり、表面側液晶表示パネルと裏面側液晶表示パ
ネルに表示される映像が異なる場合にも、表側の旅行者に提示している映
像情報が裏側の店員に分かるように、表面側液晶表示パネルの映像を裏面
側液晶表示パネルの一部に同時に表示できるようにして、上記相違点に係
る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たも
の」(6頁下1行∼7頁5行)とした。
しかし、審決の上記判断は以下の理由により誤りである。
(ア)前記のとおり、引用発明には「表側の旅行者に提示している映像情報
が裏側の店員に分かるように、表面側液晶表示パネルの映像を裏面側液
晶表示パネルに表示する」という手段や考え方は皆無であり、当業者が
引用文献に甲2文献及び甲3文献に提示されている周知の事項を適用す
るということはあり得ない。
(イ)甲2文献及び甲3文献に提示されている技術は本願発明と全く異なる
構成ならびに作用・効果を奏するものであり、これらの周知の事項を適
用しても本願発明には容易に想到し得ない。
(ウ)引用発明は、前記のとおり、単に「互いに必要な映像をそれぞれの表
示パネルに表示する」という技術を開示しているだけであり、「表側の
旅行者に提示している映像情報が裏側の店員に分かるように、表面側液
晶表示パネルの映像を裏面側液晶表示パネルに表示する」という手段や
考え方はない。すなわち、審決は、「店員が視野が狭い表示パネルの場
合に1つの表示パネルを覗き込む」という引用文献の【発明が解決使用
とする課題】欄における記載を「店員が旅行者に提示されている映像を
知る必要がある」と誤って引用したものであるから、引用発明とするこ
とは不適切である。
エ取消事由4(顕著な作用効果の看過)
審決は本願発明が奏する効果につき「・・・引用例に記載された事項に
基づいて当業者が予測可能なもの」(7頁7行∼8行)であるとした。
しかし、本願発明は「裏面(指導者側)の表示画面の一部に、前記表面
(被指導者側)の表示画面の少なくとも一部を表示することを可能とした
場合には、被指導者に表示している表側の表示画面を指導者が確認するこ
とができることから必要な情報が間違いなく表面に表示されているか否か
を随時確認することができ、確実な指導を行うことができる」という,引
用文献が有していないあるいは示唆していることもない優れた作用・効果
を奏するものある。
オ小括
以上、審決は引用文献に何ら記載されていない事項を誤って解釈して記
載してあると認定し、これを根拠として周知の事項と併せて引用して当業
者が容易に発明をすることができたものと認定したものであり、その結果
としてなされた特許法29条2項の規定により特許を受けることができな
いものとした判断は誤りであり、審決は取り消されるべきである。
2請求原因に対する認否
請求原因(1)∼(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3被告の反論
審決の判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1)取消事由1に対し
引用文献の段落【0004】において,店員は客に向けられている表示端
末を身を乗り出してまで覗き込むとされるところ,同端末に原告のいう「旅
行代理店の店員に向けて(旅行者向けではない)提示されている映像情報」
が表示されるかどうかはさておき,同段落の「情報端末表示装置を,客と店
員との情報交換のコミュニケイションツールとして使用する」との記載から,
店員が客に見せている画像を客とともに見ながらコミュニケイションを図る
ために表示端末を覗き込むと解するのが自然な理解というべきであり,コミ
ュニケイションを図るために店員が,客に向けられている表示端末に表示さ
れている映像情報がどういうものであるかを知ることを必要としていること
は明らかである。
また,仮に原告が主張するように「旅行代理店の店員が,旅行者に向けて
表示される表示端末に表示された旅行代理店の店員に向けて(旅行者向けで
はない)提示されている映像情報がどういうものであるかを知る必要がある
ことから覗き込む」ことがあるとしても,引用文献には段落【0004】に
接した当業者にとって「店員は身を乗り出して表示端末を覗き込むようにし
なければならなかった」理由が原告主張に係る理由に限定されるものと理解
しなければならない明示的な根拠はなく,旅行代理店の店員にとって,旅行
者に提示されている映像情報がどういうものであるかを知る必要がある場合
を排除するものではない。
さらに、引用文献の【請求項1】、【請求項5】、段落【0029】の記
載によれば,引用文献には,表面側液晶表示パネルと裏面側液晶表示パネル
のうち少なくとも一方の液晶表示パネルは旅行日程等を表示し,また,第1
の液晶表示パネル2と第2の液晶表示パネル3とに同一の信号表示もできる
ことが開示されているから,引用文献には,表面側液晶表示パネルと裏面側
液晶表示パネルとに同一の旅行日程等の情報を表示することも可能であるこ
とが示唆されている。したがって,引用文献には,裏側(指導者側)の表示
画面の一部に表側(被指導者側)の表示画面の映像の少なくとも一部を表示
することは別にして,本願発明における前記裏側(指導者側)の表示画面に
前記表側(被指導者側)の表示画面の映像を同時に表示する構成が記載され
ているといえる。そうすると,引用文献では,この構成により,旅行代理店
の店員が旅行者に提示されている旅行日程等の情報がどういうものであるか
を知ることができることは明らかである。
したがって,引用文献には,旅行代理店の店員にとって旅行者に提示され
ている映像情報がどういうものであるかを知る必要についての記載や示唆す
る記載は一切ない旨の原告主張は理由がない。
(2)取消事由2に対し
審決が周知としている事項は「必要な映像情報を表示画面の一部に表示す
ること」であり,この事項が周知であることは原告も認めている。
一方,原告は甲2文献及び甲3文献に関する子細な点につき,本願発明の
構成あるいは技術思想と異なる旨主張しているが,審決はそのような子細な
点を周知の事項としているのではなく,あくまで引用発明において適用する
周知の事項は「必要な映像情報を表示画面の一部に表示すること」である。
このことは,審決が「一方,必要な映像情報を表示画面の一部に表示するこ
とは,例えば,原審において引用された特開平11−338339号公報の
図2に示される表示画面や同じく特開平10−91057号公報の図3に示
される表示画面にみられるように周知の事項である。」(6頁31行∼34
行)とし,上記各文献の図に示される表示画面のみを周知の事項の引用箇所
として引用していることからも明らかである。
したがって,原告の主張は審決を正解しないものであって,理由がない。
(3)取消事由3に対し
ア(ア)につき
引用文献には「表側の旅行者に提示している映像情報が裏面の店員に分
かるように,表面側液晶表示パネルの映像を裏面側液晶表示パネルに表示
する」という手段や考え方は皆無である旨の原告主張は,前記のとおり理
由がなく、当業者が甲2文献及び甲3文献に提示されている周知の事項を
適用することに何ら困難性を要するものではない。
イ(イ)につき
前記のとおり、引用発明に適用する甲2文献及び甲3文献に提示されて
いる周知の事項は,あくまで「必要な映像情報を表示画面の一部に表示す
ること」である。
ウ(ウ)につき
引用発明は,旅行者に向けられている表面側パネルと店員に向けられてい
る裏面側パネルに別々の情報を表示することを可能にするものであるところ,
前記のとおり,表示端末を情報交換のコミュニケイションツールとして用い
る店員にとって,旅行者に向けられている表示パネルにどういう映像情報が
表示されているかを知る必要のあることは明らかであり,また,引用文献に
は「第1の液晶表示パネル2と第2の液晶表示パネル3とは・・・同一の信
号表示もできる。」と記載されている。そのため,引用発明において旅行者
に向けられている表面側パネルに表示されている映像情報を裏面側パネルの
一部に表示するようにすることは,必要な映像情報を表示画面の一部に同時
に表示する技術が周知であることを考えれば,当業者が容易に想到し得たこ
とであるから,審決の「・・・顧客である旅行者が必要とする情報と管理者
である旅行代理店の店員が必要とする情報が異なり,表面側液晶表示パネル
と裏面側液晶表示パネルに表示される映像が異なる場合にも,表側の旅行者
に提示している映像情報が裏側の店員に分かるように,表面側液晶表示パネ
ルの映像を裏面側液晶表示パネルの一部に同時に表示できるようにして,上
記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到
し得たもの」(6頁下1行∼7頁5行)とした判断に誤りはない。
(4)取消事由4に対し
上記(3)のとおり,旅行者向けの表面側パネルに表示されている映像情報を
裏面側パネルの一部に同時に表示するようにする構成は当業者が容易に想到
し得たものであり,表面側パネルと裏面側パネルに同時に同じ画面を表示す
れば,原告のいう本願発明の作用効果を奏するのであるから,審決の「本願
発明が奏する効果についても,引用例に記載された事項に基づいて当業者が
予測可能なものであって,格別のものとはいえない。」(7頁7行∼8行)
とした判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審
決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
そこで,以下原告主張の取消事由について検討する。
2取消事由1(引用発明の認定の誤り)について
(1)本願発明の意義
ア本件補正後の明細書(公開特許公報〔甲4〕,平成19年8月24日付
け手続補正書〔全文変更,甲5の6〕)には,以下の記載がある。
・【発明の属する技術分野】
「本発明は各種の情報を効率よく指導するために用いられる指導装置
に関するものである。」(段落【0001】)
・【従来の技術】
「近頃,例えば,特開20001−265420号公報,特開200
01−282095号公報,特開20001−306997号公報等に
提示されているように,必要な情報をディスプレィに表示して各種の指
導を行うことが一般に行われている。」(段落【0002】)
・「しかしながら,前記従来の指導装置は,記憶装置に予め記憶させてお
いた定型的な指導情報をディスプレィに表示して被指導者に情報を与え
るものが殆どであり,指導効果が充分でなく,また,被指導者に対して
質問に答えさせるというものもあるが,いずれの場合も主として遠隔地
での不特定多数の被指導者に対処することを目的とするものであって,
指導者と被指導者が実際に対峙してきめ細かい指導を行うというもので
はない。」(段落【0003】)
・「特に,多くの場合に指導者は指導場所に直接存在することなしに,端
末などの表示装置から一方的に情報を与えることから,指導効果の確認
も充分できなかった。」(段落【0004】)
・「一方,例えば薬局での薬剤指導のように指導者が直接,被指導者に情
報を与える場合には,患者である被指導者に薬剤師や医師などの指導者
が直接指導する場合が多いが,この際の指導は,単に言葉や簡単な文書
を用いて説明する場合が殆どで,説明が充分でないとともに,指導者が
有する情報も一元的でなく指導効果を上げることができない場合があ
る。」(段落【0005】)
・【発明が解決しようとする課題】
「本発明は,斯かる実情に鑑みてなされたものであって,指導者が直
接,被指導者に充分な情報を与えることができるとともに,その指導効
果を容易に確認するこどできる指導装置を提供するものである。」(段
落【0006】)
・【課題を解決するための手段】
「前記課題を解決するため本発明である指導装置は,指導者に向けて
配置される裏側および被指導者に向けて配置される表側にそれぞれ表示
画面を有する表示装置と,前記表示装置の表側(被指導者側)および裏
側(指導者側)の各表示画面に情報をそれぞれ出力するための各出力回
路,前記出力回路により出力する情報を記憶しておく記憶装置,前記記
憶装置に記憶されている情報の内で必要な情報を選択するための選択回
路,前記各回路および装置を制御するための制御回路および,前記記憶
装置に記憶されている情報と異なる情報を前記表示画面に前記選択され
た情報と別にまたは同時に表示する情報を入力するための入力回路を有
する前記表示装置に接続された1つの制御装置とからなる指導装置にお
いて,前記裏側(指導者側)の表示画面の一部に前記表側(被指導者
側)の表示画面の映像の少なくとも一部を表側(被指導者側)の表示画
面の映像と同時に表示することを可能としたことを特徴とする。」(段
落【0007】)
・【発明の実施の形態】
「次に,本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明す
る。」(段落【0014】)
・「図面は本発明を,薬局において薬剤を受け取った患者(被指導者)が
薬剤師または医師(指導者)から薬剤に関して指導を受ける際に使用す
る場合についての好ましい実施の形態の一例を示すものであり,表側お
よび裏側にそれぞれ液晶ディスプレイからなる表示画面21,22を有
する表示装置1と,表示装置1の表側および裏側の各表示画面21,2
2に文字や図形,音声や動画などの情報をそれぞれ出力するための各出
力回路31,32と,前記出力する情報を記憶しておく記憶装置4と,
例えばキーボードのような選択装置5により前記記憶装置4に記憶され
ている情報の内で必要な情報を選択する選択回路6と,前記各回路なら
びに装置を制御する制御回路7を有する制御装置71とを有してい
る。」(段落【0015】)
・「また,前記各出力回路と31,32と選択回路6との間にはキーボー
ド,マイク,電子式カメラ,CD−RO,MDV−DROMなど各種の
文字や図形更には音声や画像などの記憶装置に記憶されている情報と異
なる情報を前記表示画面21,22に前記選択される情報と別にまたは
同時に表示する情報を入力するための入力装置8からの入力情報を出力
回路と31,32へと送信する入力回路9が配置されている。」(段落
【0016】)
・「更に,前記表側(被指導者側)の出力回路31と前記選択回路6との
間には前記出力回路31により表側(被指導者側)の表示画面21に表
示してはならない情報の表示を阻止する防御回路が琉を予め定めて前記
選択装置に選択されないように前記記憶装置と選択装置との間に防御回
路10が配置されている。更にまた,前記表示装置1には,スピーカー
式の音声発生装置11,11ならびに表側(被指導者側)の映像を前記
表示装置1の裏側(指導者側)の表示画面22の少なくとも一部に表示
するための電子式カメラ12が備えられている。」(段落【001
7】)
・「このような本発明である実施の形態を使用するには,指導者(薬剤師
または医師)と被指導者(薬剤の処方を受けた患者)との間に表示装置
1を表側の表示画面21を被指導者側に裏側の表示画面22を指導者側
に向けて配置するとともに電源を入力した制御装置71を前記表示装置
1の近傍に配置して互いに接続する。尚,既に表示装置1が設置されて
いる場合には,表側に被指導者(薬剤の処方を受けた患者)を裏側に指
導者(薬剤師または医師)が臨席する。」(段落【0018】)
・「そして,被指導者(薬剤の処方を受けた患者)に関して予め記憶装置
4に記憶してある薬剤情報の内で必要なものを選択回路で選択して表側
(被指導者)および裏側(指導者)の各出力回路31,32により被指
導者および指導者に必要な情報を裏側の表示画面21および表側の表示
画面22にそれぞれ表示する。」(段落【0019】)
・「このとき,記憶装置4に記憶されている情報の内,患者の氏名,処方
された薬剤の種類や患者の薬歴などの個人情報は別途に設置されている
例えばレセプトコンピュータなどを介して予め記憶装置4に記憶させて
おくことが好ましい。」(段落【0020】)
・「そして,記憶装置4に記憶されている情報の内,表側(被指導者側)
の表示画面21ならびに裏側(指導者側)の表示画面22にそれぞれ表
示する情報は,例えばマウスやボードなどの選択装置5を用いて選択回
路6を介して選択されるが,記憶装置4に記憶させる段階で表側(被指
導者側)の表示画面21ならびに裏側(指導者側)の表示画面22にそ
れぞれ表示する情報を予め区別して記憶させておくこともでき,この場
合には,特に選択装置4において多数項目を選択する必要がなく,きわ
めて便利である。」(段落【0021】)
・「本実施の形態では,例えば図2(A)に示すように表側(被指導者
側)の表示画面21に被指導者(薬剤の処方を受けた患者)に必要な例
えば薬剤の服用に関する働きを動画で示した情報を表示し,図2(B)
に示すように裏側(指導者側)の表示画面22に指導者(薬剤師または
医師)に必要な個人情報や薬剤情報を表示する。」(段落【002
2】)
・「そして,裏側の表示画面の前に位置する指導者(薬剤師または医師)
は,表側の表示画面21を見ている被指導者(薬剤の処方を受けた患
者)に対して,前記表示した情報,更には,前記マウスやキーボードな
どの前記各種の入力装置8を用いて入力回路9から表側(被指導者側)
の表示画面21に異なる情報を加えて表示することで薬剤指導する。」
(段落【0023】)
・「このとき,例えば,裏側(指導者側)の表示画面22の一部部分22
aに表側(被指導者側)の表示画面21に表示した情報を表示すること
により,指導内容を確認することができる。」(段落【0024】)
・【発明の効果】
「以上のように,本発明は,単に,記憶装置に予め記憶させておいた
定型的な指導情報をディスプレィに表示して被指導者に情報を与えるだ
けでなく,指導者と被指導者が実際に対峙してきめ細かい指導を行うこ
とが可能であり,その指導効果の確認も充分にできる。」(段落【00
31】)
・「また,指導は,単に言葉や簡単な文書を用いて説明するのではなく,
文字や図形,更には音声や動画などの各種の情報を用いて多角的に指導
することができ,きわめて高い指導効果が期待できる。」(段落【00
32】)
・「更に,前記裏面(指導者側)の表示画面の一部に,前記表面(被指導
者側)の表示画面の少なくとも一部を表示することを可能とした場合に
は,被指導者が見ている表側(被指導者側)の表示画面を指導者におい
て確認することができることから必要な情報が間違いなく表面に表示さ
れているか否かを随時確認することができ,確実な指導を行うことがで
きる。」(段落【0033】)
・図面
【図1】本発明の好ましい実施の形態を示す概略図ブロック図
【図2】図1に示した実施の形態における表示装置の表側及び裏側の
表示画面を示す説明図
イ上記記載によれば,本願発明は,必要な情報をディスプレィに表示して
各種の指導を行う指導装置において,指導者が直接,被指導者に充分な情
報を与えることができるとともに,その指導効果を容易に確認することが
できることを課題とし,そのため,指導装置は,表側および裏側にそれぞ
れ表示画面を有する表示装置を備え,当該表示装置の表側の表示画面を被
指導者側に,また裏側の表示画面を指導者側に向けて配置し,表側の表示
画面に被指導者に必要な情報を,また裏側の表示画面に指導者に必要な情
報を表示し,指導者は,マウスやキーボードなどの入力装置を用いて表側
の表示画面に異なる情報を加えて表示することにより被指導者を指導でき
るようにし,さらに,裏側の表示画面の一部分に,表側の表示画面に表示
されている情報の少なくとも一部を,表側と同時に表示することにより,
指導内容を確認することができるようにしたものであることが認められる。
(2)引用発明の意義
ア引用文献(甲1)には,以下の記載がある。
・【請求項1】
「液晶表示装置を,表面側の顧客用液晶表示パネルと裏面側の管理者
用液晶表示パネルの2面により構成し,表面側液晶表示パネルは顧客が
必要とする情報を表示し,裏面側液晶表示パネルは管理者が必要とする
情報を表示することを特徴とする携帯用情報端末装置。」
・【請求項9】
「2つの液晶表示パネルを背中合わせに設置して両面表示する液晶表
示装置を用い,液晶表示装置の表面及び裏面に異なった情報表示し,か
つ携帯用情報端末装置とワイヤレスで情報通信する送受信機を備えた事
を特徴とする情報端末表示装置。」
・【発明の属する技術分野】
「本発明は,2つの液晶表示パネルを背中合わせに配設して両面表示
が可能な液晶表示装置を使用した携帯情報端末装置及び情報端末表示装
置に関するものである。」(段落【0001】)
・【従来の技術】
「従来,液晶表示装置を用いた携帯情報端末装置又は情報端末表示装
置は,片面表示を行うだけであった。」(段落【0002】)
・【発明が解決しようとする課題】
「片面表示する表示装置には,以下に示すような欠点がある。」(段
落【0003】)
・「(1)情報端末表示装置を,客と店員との情報交換のコミュニケイシ
ョンツールとして使用する場合,片面表示では,片面側でのみ使用しな
ければならず,特に液晶表示装置は視野角が小さく,店員は身を乗り出
して表示端末を覗き込むようにしなければならなかった。」(段落【0
004】)
・「(2)レストランや賭場で,すばやく客の要求する情報を即時に受け
手に伝える手段として,両者が表示装置を利用して,複雑な情報を言葉
を介さないで,極めて正確に情報伝達を行う必要があったが,片面表示
では情報交換が容易でなく,特に液晶表示装置は視野角が小さいため正
確性,認識速度に欠ける点があった。」(段落【0005】)
・「(3)アパートのドアに来客のモニター表示として液晶表示装置を使
用した場合,部屋の中にいる者は来訪者を認識できても,部屋の中から
来訪者に対して文字や記号等によりメッセージを伝えることができな
かった。」(段落【0006】)
・「(4)家庭内にて受信する,ファクシミリ,パソコン通信及び家計簿
整理,料理メニューの検索,スケジュール管理,伝言等のさまざまな異
なった情報を,同時に表示する場合には,片面表示では情報画面を分割
表示する必要があり,文字,図形等が小さくなり見にくくなる欠点が
あった。」(段落【0007】)
・「(5)駅,空港,乗船所等で,プラットホームや路線毎に異なった情
報を表示する必要があるが,片面表示では全ての案内情報を表示するた
めには,表示文字を小さくしなければならず,またスクロール表示方式
では乗降客の認識誤りによる誤解や伝達のスピードが劣る問題点があっ
た。」(段落【0008】)
・「(6)自動車内,飛行機内,客船内で使用する表示装置に於いて,運
転手,パイロット,船長と乗客とは異なった情報を必要とするにもかか
わらず,従来の表示装置では,画面切換を行わないとそれぞれが必要と
する情報の表示ができなかった。」(段落【0009】)
・【課題を解決するための手段】
「本発明の請求項1の携帯用情報端末装置は,液晶表示装置を,表面
側の顧客用液晶表示パネルと裏面側の管理者用液晶表示パネルの2面に
より構成し,表面側液晶表示パネルは顧客が必要とする情報を表示し,
裏面側液晶表示パネルは管理者が必要とする情報を表示することを特徴
とし,この構成により上記課題を解決する。」(段落【0010】)
・【発明の実施の形態】
「本発明に使用される液晶表示装置は,図1に示すように第1の液晶
表示パネル2と第2の液晶表示パネル3とを背中合わせの関係に配設作
製される。背中合わせにした2つのパネルの共通する上部一辺を蝶番
(図示しない)で接続して,顧客と管理者の両者の間に逆V字状に立て,
両者がそれぞれ第1と第2の液晶表示パネルを正面で認識できる位置で
情報端末として使用することができる。」(段落【0023】)
・「以下,本発明の実施の形態1∼8について説明する。」(段落【00
24】)
・「(実施形態1)図2に示すように,液晶表示装置1は,第1の液晶パ
ネル2と,第2の液晶パネル3が互いに背中合わせに配設され,両面表
示が可能である。液晶表示パネル2と液晶表示パネル3は共にタッチパ
ネル機能を備えており,ペン入力が可能である。」(段落【002
5】)
・「図3に第1の液晶表示パネル2及び第2の液晶表示パネル3に同時に
異なった情報を表示する場合の,機能構成を具体的に説明するブロッ
ク図を示す。表示する情報はキーボード,タッチパネルによる入力,
モデムを介した電話回線からの入力,赤外線通信等によるリモコン等
の手段により,通信手段11に入力される。通信手段11では,上記
の種々の入力手段に対して,以降のデータ信号処理を統一して制御で
きるように信号処理により調整する必要があるために,一旦管理制御
手段12に送りこまれる。管理制御手段12には,MPU,ROM,
RAMより構成されコントロール用の制御信号とプログラムが蓄積さ
れており,様々な入力手段により入力されたデータ信号のフォーマッ
トを本情報端末装置が行うことができる情報処理方法に統一化を行う
機能を有している。」(段落【0026】)
・「表示すべきデータ信号は,すべて画像蓄積手段7に蓄積され,映像デ
ータ記憶部8により表示装置に合致した信号に変換される。」(段落
【0027】)
・「次にDAコンバーター13とデータ合成部14からなる表示データ出
力部より分配器4に送られ第1の液晶表示パネル2と第2の液晶表示パ
ネル3によりデータ信号が表示装置に画像情報として表示される。」
(段落【0028】)
・「一方,第1の液晶表示パネル2と第2の液晶表示パネル3に表示する
信号切り換え方法は,画像蓄積手段7から表示内容切換手段6を介して,
表示制御手段5に送り込まれた切り換え制御信号が,分配器4に入力さ
れ第1の液晶表示パネル2と第2の液晶表示パネル3のどちらかの液晶
表示パネルにデータ信号の表示指定を行うことができる。第1の液晶表
示パネル2と第2の液晶表示パネル3とは異なったメッセージを短時間
に切り換え表示することができるし,又同一の信号表示もできる。又,
表示内容切換手段6は,ビデオランダムアクセスメモリー(VRAM)
10とビデオゲートアレーコントロラー(VGA)9からなるデータ処
理部と接続する。」(段落【0029】)
・「本発明は,以上の構成よりなる両面液晶表示装置である。」(段落
【0030】)
・「旅行代理店,レストラン,一般商店において,液晶表示装置1の顧客
側液晶表示パネル2には国の代表的な風景18,商品図16,メニュー
15を表示し,表示部分をペンで接触すると,指し示すだけで顧客は向
かい側にいる店員に呼び掛けることができ,店員は裏面側の管理者用液
晶表示パネルを使用して顧客が必要とする情報を表面側液晶表示パネル
に表示することにより,旅行者に対する対応ができる。」(段落【00
31】)
・「例えば,旅行者の場合,希望する旅行先とか,会話に必要な言語,出
身国等の情報を両者で交換する事ができる。又,レストランでは,客が
液晶表示パネル2の表示を見ながらタッチパネルによりメニュー15を
指し示すだけでウエイトレスは反対側の液晶表示パネル3より客が,注
文するメニューを知ることができる。一般商店において,購入金額の支
払い時に,店員が液晶表示パネルを見ながら携帯用通信端末装置(PI
T)17を使用して買い物客と店員との支払い金額,支払い金額の単位
(¥,$)の情報をお互いの言語が不十分であっても認識することがで
きる。」(段落【0032】)
・【発明の効果】
「以上の様に,本発明によれば液晶表示装置1は,その両面に液晶表
示装置が背中合わせの状態で配設されていることにより,実施形態1か
ら実施形態8に示すような,様々な日常生活の場において従来できな
かった活用法が可能となる,携帯用情報端末装置及び情報端末表示装置
が得られる。」(段落【0042】)
・【図1】本発明において使用される液晶表示装置の外観図
・【図2】本発明の実施形態1の使用状態説明図
・【図3】本発明の実施形態1から実施形態8を実現する為の回路ブロ
ック図
イ上記記載によれば,引用発明は,携帯情報端末装置及び情報端末表示装
置(以下「表示端末」という。)に関するものであり,例えば情報端末表
示装置を客と店員との情報交換のコミュニケーションツールとして使用す
る場合,片面表示では,片面側でのみ使用しなければならず,店員は身を
乗り出して表示端末を覗き込むようにしなければならなかったことなどの
従来の片面表示の表示端末における課題を解決するため,表示端末の表示
装置を2つの液晶表示パネルを背中合わせに配置した両面表示とし,表示
装置の表面及び裏面にそれぞれ必要な情報を表示できるように構成するこ
ととしたものであり,裏面側液晶表示パネルに表面側液晶表示パネルと同
一の映像情報を表示することもできることが認められる。
(3)原告の主張に対する判断
原告は,引用文献の「・・・店員は身を乗り出して表示端末を覗き込むよ
うにしなければならなかった。」(段落【0004】)との記載は,「旅行
代理店の店員にとって,旅行者に提示されている映像情報がどういうもので
あるかを知る必要がある」ということではなく,「旅行代理店の店員が旅行
者に向けて表示される表示端末に表示された旅行代理店の店員に向けて(旅
行者向けではない)提示されている映像情報がどういうものであるかを知る
必要があることから覗き込む」ということであると主張する。
しかし,客に向けられた表示端末に客(旅行者)に向けられた映像情報のみ
ならず,旅行代理店の店員に向けられた映像情報が表示されているとしても,
店員が客とコミュニケーションを図るに際し,客に向けられた情報が何であ
るかを確認する必要があることは社会通念上,自然に想起されることである。
引用文献(甲1)の段落【0004】の記載が「旅行代理店の店員が旅行者
に向けて表示される表示端末に表示された旅行代理店の店員に向けて提示さ
れている映像情報がどういうものであるかを知る」のみを指し,「旅行代理
店の店員が,旅行者に向けて提示されている映像情報を知る必要があるこ
と」を排除しているということはできない。
そうすると,「引用発明における旅行代理店の店員にとって、旅行者に提
示されている映像情報がどういうものであるかを知る必要があることは、引
用例段落【0004】記載の『店員は身を乗り出して表示端末を覗き込むよ
うにしなければならなかった。』との記載からも明らか」(6頁25行∼3
0行)であるとした審決の認定に誤りがあるとはいうことはできず,原告の
上記主張は採用することができない。
3取消事由2(周知例の認定の誤り)について
(1)ア甲2文献には以下の記載がある。
・【発明の属する技術分野】
「この発明は,通信回線を利用して講義を行う遠隔講義システムに関
する。」【段落0001】
・【発明が解決しようとする課題】
「しかしながら,現在の遠隔教育システムは,映像伝送装置によりお
もに講師の映像や静止画,音声を多対地に送ることに力が注がれている。
均一な学習情報を多対地に一斉同報的に送るという点では確かに効率的
ではあるが,その結果,かならずしも受講者が満足するような教育が行
なわれているわけではない。」(段落【0003】)
・「本発明はこのような実情に鑑みなされたものであって,講師と受講者
間および受講者同士のコミュニケーションを活性化する方法として,講
師の教授法を支援する遠隔講義システムを提供することを目的としてい
る。」(段落【0005】)
・「この発明の一実施態様では,上記制御用画像データは,少くとも表示
画面の画面構成を切り替えるためのボタン,カメラの姿勢および倍率を
操作するためのボタン,講義資料を表示するためのプログラムを起動す
るボタン,通信回線で接続された相手側にメッセージを送信するための
ボタン,講師側の表示画面と受講者側の表示画面をリンクさせるための
ボタン,ならびに相手側を選択し,通信回線を接続させるための回線接
続ボタンを備えている。」(段落【0007】)
・「・・・各受講者側システム2の講義資料表示領域24には,講師側シ
ステム1の講義資料表示領域24に表示されている講義資料がデフォル
トで表示されることになる・・・」(段落【0067】)
・【図2】遠隔講義システムを起動したときに表示される講師側システム
1のメイン画面20
21:講義資料表示ウィンドウ,22:リモートウィンドウ,
23:ローカルウィンドウ,24:講義資料表示領域
イ上記記載によれば,甲2文献に記載された発明は,通信回線を利用して
講義を行う遠隔講義システムに関するものであって,講師と受講者間およ
び受講者同士のコミュニケーションの活性化を課題とするものであり,講
師と遠隔地の受講者のそれぞれに表示装置が設置され,双方の表示装置に
講義資料などが同時に表示されたりするものであることが認められる。
(2)ア一方,甲3文献には以下の記載がある。
・【発明の属する技術分野】
「本発明は,遠隔地にいる顧客と技術者が,ネットワークで接続され
たコンピュータ端末上に3次元の共有作業空間を実現し,その空間内に
おいて相談の対象物となる立体イメージを共有し,対象物を操作したり,
対象物の説明情報へのアクセス,更には対象物が発生する音を再現しな
がら,音声会話で相談を行なう技術相談支援システムに関するものであ
る。」(段落【0001】)
・「図3は,本実施形態における技術相談支援システムの利用イメージを
示した図である。図3において,一人の技術者11と二人の顧客,顧客
A12と顧客B13の間で自動車に関する技術的な相談が行なわれてい
る。3人が自動車を囲んでいる仮想的な共有作業空間の画像を,各ユー
ザがそれぞれの視点で所有する端末の画面から見ている。技術者11は
自動車の全体像と向かいあっている2人の顧客を見ているのに対し,顧
客A12はドア部分を,顧客B13はタイヤの部分をそれぞれ見てい
る。」(段落【0047】)
・「ここで例えば技術者11が自動車のドアを開ける操作を行なうと,ド
アが開いた自動車の様子が技術者11の画面に表示される。又,顧客A
12の画面にも開いた状態のドアが映し出される。また,技術者11が
例えばタイヤについての詳しい説明を行なう際,タイヤについての詳細
な説明情報に対するアクセス操作を行なうと各ユーザの画面にはその情
報が表示される。この情報は例えばタイヤの3次元モデル,価格,材質,
製造社などの情報であり,図4に示すような形で各ユーザの画面に表示
される。」(段落【0048】)
・【図3】技術相談支援システムの利用イメージを示す図
・【図4】詳細情報が示された画面を示す図
イ上記記載によれば,甲3文献に記載された発明は,遠隔地にいる顧客と
技術者が,ネットワークで接続されたコンピュータ端末上に3次元の共有
作業空間を実現し,その空間内において相談の対象物となる立体イメージ
を共有し,対象物を操作したりしながら音声会話で相談を行なう技術相談
支援システムに関するものであって,顧客と技術者それぞれに表示装置が
設置されているものであり,例えば技術者11が自動車のドアを開ける操
作を行なうと,ドアが開いた自動車の様子が技術者11の画面に表示され,
顧客A12の画面にも開いた状態のドアが映し出されるなど,複数の表示
装置に同じ映像が表示されたりするものであることが認められる。
(3)原告の主張に対する判断
原告は,甲2文献及び甲3文献に記載された発明は,本願発明とは異なる
技術思想に基づくものであり,構成も異なると主張する。
しかし,前記2及び上記(1)(2)によれば,本願発明,引用発明並びに甲2
文献及び甲3文献に記載された技術は,いずれも複数の情報端末表示装置を
複数の者の間のコミュニケーションツールとして使用することに関する発明
であって,その手段として複数の表示装置に同じ映像が表示されることがあ
り,その点においては共通していることが認められる。そうすると,本願発
明とは異なる技術思想や構成に基づくものとはいえず,原告の上記主張は採
用することができない。
4取消事由3(容易想到性判断の誤り)について
(1)原告は,引用発明は単に「互いに必要な映像をそれぞれの表示パネルに表
示する」という技術を開示しているだけであり、「表側の旅行者に提示して
いる映像情報が裏側の店員に分かるように、表面側液晶表示パネルの映像を
裏面側液晶表示パネルに表示する」という手段や考え方は皆無であり、当業
者が引用文献に甲2文献及び甲3文献に提示されている周知の事項を適用す
るということはあり得ないと主張する。
しかし,前記2(3)のとおり,客に向けられた表示端末に客(旅行者)に向
けられた映像情報のみならず,旅行代理店の店員に向けられた映像情報が表
示されているとしても,店員が客とコミュニケーションを図るに際し,客に
向けられた情報が何であるかを確認する必要があることは社会通念上,自然
に想起されることであるから,引用文献には「旅行代理店の店員にとって,
旅行者に提示されている映像情報がどういうものであるかを知る必要があ
る」という課題があったことが示唆されていると認められる。また,引用発
明で使用される表示端末は,2つの液晶表示パネルを背中合わせに配置して,
表示装置の表面及び裏面にそれぞれ必要な情報を表示できるように構成した
ものであるところ,引用文献(甲1)に「・・・第1の液晶表示パネル2と
第2の液晶表示パネル3とは異なったメッセージを短時間に切り換え表示す
ることができるし,又同一の信号表示もできる。・・・」(段落【002
9】)と記載されていることからすれば,裏面側液晶表示パネルに表面側液
晶表示パネルと同一の映像情報を表示することも,当然に予定していたと認
めることができる。
そうすると,引用発明において,表示端末の表面側液晶表示パネルと裏面
側液晶表示パネルにそれぞれ旅行者又は店員にとって必要な情報が表示され
ており,それらの映像が異なっている場合に,店員側の裏面側液晶表示パネ
ルに,店員にとって必要な情報である表面側液晶表示パネルと同一の映像情
報を表示するために,「必要な映像情報を表示画面の一部に表示する」とい
う甲2文献及び甲3文献に記載された周知技術を適用し,裏面側液晶表示パ
ネル(店員側)の表示画面の一部に表側液晶表示パネル(旅行者側)の表示
画面の映像の少なくとも一部を,表側液晶表示パネル(旅行者側)の表示画
面の映像と同時に表示する表示形態とすること,換言すれば「裏側(指導者
側)の表示画面の一部に表側(被指導者側)の表示画面の映像の少なくとも
一部を表側(被指導者側)の表示画面の映像と同時に表示すること」は,当
業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易
に想到し得たことと認められる。したがって,原告の上記主張は採用するこ
とができない。
(2)また,原告は,甲2文献及び甲3文献に記載された技術は,本願発明と構
成が異なり,また異なる作用・効果を奏するものであるから,これらの周知
技術を適用しても本願発明は想到し得ないと主張する。
しかし,本願発明,引用発明,甲2文献及び甲3文献に記載された技術は,
いずれも複数の情報端末表示装置を複数の者の間のコミュニケーションツー
ルとして使用することに関する発明であって,その手段として複数の表示装
置に同じ映像を表示することがあり,その点において共通していることは前
記のとおりである。そうすると,引用発明に甲2文献及び甲3文献に記載さ
れた技術を適用することは当業者が容易に想到し得たことと認められるから,
原告の上記主張は採用することができない。
5取消事由4(顕著な作用効果の看過)について
原告は,本願発明が奏する効果は引用文献に記載された事項に基づいて当業
者が予測可能なものであって,格別のものとはいえないとした審決の認定は失
当であると主張する。
しかし,前記のとおり,引用発明において,裏面側液晶表示パネルの表示画
面の一部に表面側液晶表示パネルの表示画面の映像の少なくとも一部を,表面
側液晶表示パネルの表示画面の映像と同時に表示する表示形態とすることは当
業者が容易に想到し得たものといえるのであるから,引用発明の表示装置を指
導装置の用途に使用した場合において,上記表示形態とすることにより,「被
指導者に表示している表側の表示画面を指導者が確認することができることか
ら必要な情報が間違いなく表面に表示されているか否かを随時確認することが
でき,確実な指導を行うことができる」という作用効果が得られることは,当
業者にとって予測できたことと認められるから,原告の上記主張は採用するこ
とができない。
6結語
以上によれば,原告主張の取消事由は全て理由がない。
よって原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官中野哲弘
裁判官今井弘晃
裁判官真辺朋子

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