弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中、被告人Aに関する部分全部を破棄する。
     右被告人Aに関する部分を盛岡地方裁判所に差し戻す。
     (以下省略)
         理    由
 本件各被告人の控訴趣意(但し被告人Aについては有罪部分のみ)は、各被告人
の弁護人戸田謙名義の控訴趣意書、控訴趣意書補充書および各控訴趣意書訂正補充
書、これに対する答弁は、検察官柏木忠名義の答弁書、また被告人Aに関する無罪
部分についての検察官の控訴趣意は、検察官渡辺彦一名義の控訴趣意書、これに対
する答弁は、同被告人の弁護人戸田謙名義の答弁書各記載のとおりであるから、い
ずれもこれを引用する。
 第一、 被告人Aに関する各控訴趣意に対する判断
 一、 弁護人の控訴趣意第一点の第一(事実誤認)および第三点(訴訟手続の法
令違反)について、
 所論は要するに、原判決は、被告人Aに対し、原判示第三において、受供与並び
に饗応接待および事前運動の各事実を認定したが、原判決の挙示する各受饗応者の
検察官に対する各供述調書は、各受饗応者の証人尋問実施前、検察官において弁護
人に対し予め該供述調書を閲覧させずに主尋問をなしたため、弁護人は、該供述調
書の内容に関する反対尋問をなすことができず、閲覧後、別の機会に反対尋問をな
すため反対尋問権を留保したにもかかわらず、証人B、同C、同D、同E、同F、
同G、同H、同I、同J、同K、同Lについては、いずれもその反対尋問の機会を
与えることなくして、右各証人らの検察官に対する各供述調書を刑事訴訟法三二一
条一項二号後段の証拠書類として採用決定をなしたのであつて、原判決には、判決
に影響を及ばずことの明らかな訴訟手続の法令違反があり、また原判決の挙示した
各検察官調書は、同法三二一条の要件を欠く証拠能力のないものである。すなわ
ち、これらの供述調書は、検察官において短時間のうちに作成されたもので十分事
実を聴取して供述者の供述を録取したものではなく、また完全な読み聞けが行なわ
れておらず、供述者の押印も、供述者自身にこれをなさせずに検察官において供述
者から印章を借りて押したものも多数存在し、また署名押印の際調書が綴られてい
なかつたものもあり、かかる証拠能力のない検察官に対する供述調書により事実認
定をなし、それらの者の公判廷における供述を全く無視してなした事実認定は誤認
であり、なおまた同被告人にはMの当選を得しめる目的は全く存せず、受饗応者に
おいても、そのような認識は全くなかつたのであり、さらにMが立候補の決意をな
したのは、事実は昭和三八年三月二一日であるから、本件において事前運動の成立
する余地は全くなく、したがつて原判示第三の(二)((一)とあるのは誤記と認
める。)(1)(2)につき原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤
認があり、以上いずれの点よりするも原判決は破棄を免れない、と主張するのであ
る。
 よつてまず、各論旨中、訴訟手続の法令違反の点につき審究するに、検察官請求
の証人尋問に際し、検察官が主尋問をなす以前において、当該証人が先に検察官の
面前においてなした供述調書を予め弁護人に閲覧させることを要するかどうか、ま
た本件において検察官が当該証人に対し主尋問をなした後、弁護人に対しその者の
検察官に対する供述調書を閲覧する機会を与えたかどうかの点はさておき、記録を
調査するに、所論指摘の証人のうち、同B、同C、同D、同E、同Fについては、
いずれも原審第七回公判廷において、検察官の請求により証拠決定がなされ、同第
八回公判廷において、まず検察官の主尋問がなされたところ、当該公判手続調書証
拠関係カードの結果欄には、右いずれの証人も「取調済」の記載がなされてはいる
ものの、右いずれの証人の公判供述調書の末尾にも、主任弁護人から、「反対尋問
は検察官調書閲覧の上後日行うことにしたい」旨なされた陳述の記載があり、所論
指摘のその余の証人のうち同Gについても、同第八回公判廷において、同様証拠決
定がなされ、同第九回公判廷において、同様主尋問がなされたところ、当該公判手
続調書証拠関係カードの結果欄には、前同様「取調済」の記載がなされてはいるも
のの、右証人の公判供述調書の末尾にも、主任弁護人の前同様の陳述の記載がある
のである。但し所論指摘の証人のうち同H、同I、同J・同Kについては、同第九
回公判廷において同様主尋問がなされた後、主任弁護人の反対尋問のなされた形跡
は見当らないが、反対尋問を留保する趣旨の記載がなく、またこの点について主任
弁護人から調書の記載の正確性について何等異議の述べられた形跡が認められず、
証人Lについては、同第九回公判廷において、検察官の主尋問の後、主任弁護人か
ら比較的詳細な反対尋問がなされており、しかも反対尋問を続行したい旨の記載す
らなく、右反対尋問を留保ないし続行する旨の記載のない右各証人については、前
掲証拠関係カードの結果欄に「取調済」の記載がなされているところである。(ち
なみに、原判決が原判示第三の(二)の事実認定の証拠に供した刑事訴訟法三二一
条一項二号後段の書類関係の証人の取調に当り、主任弁護人において反対尋問権を
留保したと認められる証人としては、所論指摘の証人のほか、なお同第七回公判廷
における証人N、同O、同P、同Qの<要旨>存することが認められる。)所論指摘
の証人のうち、主任弁護人が明らかに反対尋問権を留保したと認められる</要旨>
証人は前叙のとおりであるところ、その後の各公判手続調書を検閲しても、右各証
人について反対尋問権行使の機会が与えられた形跡が認められず、依然反対尋問権
留保のまま公判期日が続行されたにもかかわらず、原審は、右各証人に関し検察官
から刑事訴訟法三二一条一項二号後段の書面として取調請求のなされた、当該証人
の検察官に対する供述調書をその第二六回公判廷において、主任弁護人の右の点に
関する異議を棄却したうえ、あえて取調をなし、これらを原判示第三の(二)
(1)(2)の事実認定の証拠に供したことが認められるのであつて、原審として
は、主任弁護人に対し、よろしく反対尋問権行使の機会を与えるため、反対尋問留
保中の当該証人の再召喚を求めるかどうかを確かめ、然る後検察官調書の採否を決
定すべきであつたのにこれをなさず、受饗応者についての重要証拠を安易に採用
し、事実認定の証拠に供したことは、判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続
の法令違反があるといわなければならない。もつとも、原審第四回公判調書によれ
ば、同公判廷において検察官請求の証人Rの尋問がなされたところ、同証人につい
ては、同公判廷において、主任弁護人から反対尋間権の留保のなされた形跡が認め
られないのに、同第二〇回公判手続調書の記載によれば、主任弁護人から、積極的
に、反対尋問のため証人Rを再召喚せられたい旨求められ、原審が同第二一回公判
廷に同証人を再召喚をなしたうえ、主任弁護人において尋問を終えたことが認めら
れることに徴すれば、主任弁護人において、反対尋問権を留保した前示各証人につ
いて、右R証人についてと同様積極的に、反対尋問のための再召喚を求めた形跡が
記録上認められないところから、あるいは主任弁護人において反対尋問権を放棄し
たと見る見解も考えられないではないが、原審第二六回公判手続調書証拠関係カー
ドの記載によれば、前叙のとおり検察官の取調請求をなした刑事訴訟法三二一条一
項二号後段の各書類に対し、弁護人から明らかに当該証人の反対尋問が未だなされ
ていない趣旨の異議申立がなされている以上到底右見解は採用できない。ところで
原判決は、原判示第三の(1)および(二)(1)(2)の各事実につきこれを併
合罪として一個の主文を言い渡しているから、同被告人に関する有罪部分は、同被
告人についてのその余の控訴趣意に対する判断を待つまでもなく、全部破棄を免れ
ない。
 (以下省略)
 よつて、被告人Aについては、刑事訴訟法三九七条一項、三七九条により原判決
を破棄し、同法四〇〇条本文により、同被告人に関する部分全部を盛岡地方裁判所
に差し戻すこととし、その余の各被告人については、同法三九六条により本件各控
訴を棄却することとし主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 矢部孝 裁判官 佐藤幸太郎 裁判官 阿部市郎右)

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