弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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        主    文
       本件上告を棄却する。
       当審における未決勾留日数中270日を本刑に算入する。
         理    由
 弁護人大塚利彦の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を
引用するものであって,本件に適切でなく,その余は事実誤認,量刑不当の主張で
あり,被告人本人の上告趣意は,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405
条の上告理由に当たらない。
 なお,所論にかんがみ,職権で判断する。
 原判決及びその是認する第1審判決の認定によると,本件の事実関係は,次のと
おりである。
 スナックのホステスであった被告人は,生活費に窮したため,同スナックの経営
者C子から金品を強取しようと企て,自宅にいた長男B(当時12歳10か月,中
学1年生)に対し,「ママのところに行ってお金をとってきて。映画でやっている
ように,金だ,とか言って,モデルガンを見せなさい。」などと申し向け,覆面を
しエアーガンを突き付けて脅迫するなどの方法により同女から金品を奪い取ってく
るよう指示命令した。Bは嫌がっていたが,被告人は,「大丈夫。お前は,体も大
きいから子供には見えないよ。」などと言って説得し,犯行に使用するためあらか
じめ用意した覆面用のビニール袋,エアーガン等を交付した。これを承諾したBは
,上記エアーガン等を携えて一人で同スナックに赴いた上,上記ビニール袋で覆面
をして,被告人から指示された方法により同女を脅迫したほか,自己の判断により
,同スナック出入口のシャッターを下ろしたり,「トイレに入れ。殺さないから入
れ。」などと申し向けて脅迫し,同スナック内のトイレに閉じ込めたりするなどし
てその反抗を抑圧し,同女所有に係る現金約40万1000円及びショルダーバッ
グ1個等を強取した。被告人は,自宅に戻って来たBからそれらを受け取り,現金
を生活費等に費消した。
 【要旨】上記認定事実によれば,本件当時Bには是非弁別の能力があり,被告人
の指示命令はBの意思を抑圧するに足る程度のものではなく,Bは自らの意思によ
り本件強盗の実行を決意した上,臨機応変に対処して本件強盗を完遂したことなど
が明らかである。これらの事情に照らすと,所論のように被告人につき本件強盗の
間接正犯が成立するものとは,認められない。そして,被告人は,生活費欲しさか
ら本件強盗を計画し,Bに対し犯行方法を教示するとともに犯行道具を与えるなど
して本件強盗の実行を指示命令した上,Bが奪ってきた金品をすべて自ら領得した
ことなどからすると,被告人については本件強盗の教唆犯ではなく共同正犯が成立
するものと認められる。したがって,これと同旨の第1審判決を維持した原判決の
判断は,正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21
条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 深澤武久 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 町田
 顯)

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