弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     本件各控訴を棄却する。
     原審における訴訟費用のうち、証人Aに支給した分を除き、その余の二
分の一ずつを各被告人の負担とする。
         理    由
 検察官の上告趣意第一点は、判例違反をいうが、所論引用の判例はいずれも事案
を異にし本件に適切ではなく、同第二点は、単なる法令違反、事実誤認の主張であ
つて、すべて刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
 しかしながら、所論にかんがみ職権をもつて調査すると、原判決は、以下に述べ
る理由により、結局破棄を免れない。
 すなわち、本件公訴事実につき、第一審判決は、各被告人の暴力行為等処罰に関
する法律違反の事実を認定し、各行為が正当行為である等の弁護人の主張はすべて
理由がないとして、各被告人を有罪としたものであるところ、原判決は、第一審に
よる構成要件該当事実の認定及び罰条の適用には誤りはないが、各行為は実質的違
法性を欠いて罪とならないとして、第一審判決を破棄し、各被告人を無罪としたも
のである。ところで、原判決が第一審判決の認定を是認した事実関係の要旨は、
 被告人両名は当時B大学学生であつた。B大学は、最高審議機関である評議会の
審議、決定に基づいてその移転統合計画を推進しており、当初昭和四一年度に農学
部を予定地に移転させるとの線に添つた昭和四一年度予算の概算要求を昭和四〇年
七月二〇日ころまでに文部省に提出する考えでいたが、農学部教授会が移転予定地
は研究用地として不適当で少なくとも五年間は移転できない旨を表明していたため、
大学首脳部は、農学部移転問題と昭和四一年度予算の概算要求のための各学部移転
予定地の「仮地割決定」とを昭和四〇年七月一七日の評議会に付議することを同月
一四日に決定した。その際農学部が早急に移転できないことは了承されていたもの
である。大学の推進している移転統合及び先に行つた教育学部教員養成課程分離に
対して反対抗議行動を展開していた学生らは、同月一三日に開催された評議会にあ
たり、評議員を取り囲んで評議会会場への入場を遅らせたり、学長室から評議会会
場に通じる秘書室に多数立ち入つて学長の評議会出席を妨げ、事態収拾のため行わ
れた学長会見において約束の時間経過後も執拗に追及して学長を放さなかつたりし
たのであるが、一部教官から一七日の評議会において本地割決定がなされるとの誤
つた情報の提供を受け、先に教育学部教授会の意思統一のないまま教員養成課程分
離が評議会で決定された前例もあるので、一七日の評議会で農学部の意向を無視し
た移転決定と最終的な本地割決定が強行されるものと観測して集会を開き反対抗議
を行つていた。そこで、会議設営担当の大学事務当局は、一七日にも一三日と同様
な学生の行動が予想されると考え、会議の円滑な進行が妨害されるのをおそれ、警
備員の手薄をも考慮して、学生らが大学本部二階廊下に立ち入るのを避けるため、
同月一六日本部二階庶務課の廊下に遮断扉を新たに設置したところ、(一)被告人
Cは、新設扉が学生らの大学当局に対する抗議を物理的に封じようとしたものであ
るとして、事務局長Dに対しその設置について階下ホールに集まつた学生の面前で
説明せよと要求し、これを拒否する同人を学生多数の集まつた階下ホールに連れ出
そうとして、同月一七日午後三時五〇分ころから午後四時三〇分ころまでの間、B
大学本部二階の事務局長室において、他の学生らとともに口々に「椅子ごと下に持
つてゆけ。」と叫び、意思を共通にした数名の学生が事務局長の腰かけていた応接
用ひじ掛椅子を持ち上げようとして揺り動かして前に押し倒し、同人がすぐ立ち上
がつて脇の応接用テーブルの上に廊下側を向いて腰を掛け、左手でテーブルの縁を
つかみ、右手に持つていたボールペンを振りまわし、近寄る学生を振り払つて学生
らに連れ去られまいと抵抗したところ、被告人Cは「テーブルごと持つてゆけ。」
と叫び、これに同調した数名の学生がテーブルの両端に手を掛け、テーブルごと持
ちあげようとしてテーブルを廊下側に傾けて倒し、床上にずり落とされた事務局長
が応接用ひじ掛椅子に腰かけ、評議会に出席するので行かせてくれとか、正式な手
続をとれば学生代表と会見するとか申し出たのに対し、被告人Cら学生はこれを承
知せず、あくまで階下ホールに集まつている学生の前に出て釈明せよと要求し続け
た。その間被告人Eは、被告人Cの前記の呼掛けに同調し、他の二、三名の学生と
ともに、応接用ひじ掛椅子(べアリング付)に腰かけていた同局長を椅子ごと廊下
出入口方向に向けて出入口敷居の近くまで押し出し、同局長が学生の力が緩んだす
きに両足を床に踏ん張つて元の位置に押し戻すと、再度他の数名の学生とともに同
局長を椅子ごと廊下方向に向けて二、三歩押し出した。(二)被告人Cは、学生ら
が同局長の机上を勝手にかき回して発見した書類を学生の思想調査をした文書であ
ると速断し、庶務課総務係長Fからこれを取り上げようとして、同日午後五時ころ、
事務局長室において、「下に連れて行つて書類を出させろ。」と叫び、Fを取り囲
んでいた二、三の学生が同人を両脇から腕組みし、後ろから押すなどして局長室廊
下側入口付近まで引きずり出した。同人が連れ出されまいとして入口に坐りこみ、
なおも書類を取られまいとしてズボンのポケツトを押さえていたところ、被告人C
は、Fを取り囲んでいた他の学生らとともに口々に「立て。」、「立て。」と叫び、
自ら先頭になつて無理矢理に同人を立たせ、二名の学生が両脇から腕を組んで同人
を持ち上げ、他の学生が同人の後ろからズボンのバンドをつり上げて、ずるずると
二階廊下を階段の降り口付近まで引き出し、さらに同所から二、三名の学生が加わ
つて同人の足をつかんで持ち上げ仰向けにしたまま宙に浮かせ、二十数段ある階段
を運び降ろし、G学生部長、H庶務課長を囲んで多数学生が集まり騒然としている
階下ホールの床上に手を離して同人を降ろした。被告人Cは、ホール内に集まつて
いた学生一同に向かいFを指示して、「今二階の事務局長室で我々学生の思想調査
をした書類を見つけたが、この男がズボンのポケツトの中に入れて持つておる。出
させなければいけないと思うがどうか。」と呼び掛け、ホールに集まつていた学生
らが口々にFに対し、「出せ。」、「出せ。」と要求したが、同人が床上に坐つた
ままこれに応じなかつたところ、被告人Cは、G学生部長とH庶務課長に対し、F
に書類を出すよう命令せよと要求したが、同人らから拒否されるや、B大学自治会
連合書記長I、J某ら数名の学生と階段の下に集まつて相談のうえ、学生一同に向
かい、「何としてでもここで取らなければいけないと思うがどうか。」と呼び掛け、
集まつた学生らも賛同した。そこで被告人Cは、Fに対し、「三分間の猶予を与え
るからその間に書類を出せ。」と命じ、自己の腕時計によつて一分、二分と時間を
知らせ、三分経過後「三分たつたが出すのか、出さんのか。」と言つてFに書類の
提出を求めて詰め寄り、同人が「疲れた、疲れた。」と手を振りこれを拒否すると、
被告人Cは、「取れ。」と他の学生に号令を掛けて根立に近つき、周囲にいた一〇
名位の学生がFを取り囲み胴上げするようにして抱え上げ、二、三メートル移動し
た位置において、ズボンのポケツトから右文書を取り上げた、というものである。右
被告人らの各行為は、法秩序全体の見地からこれをみるときは、原判決の判示する
その動機目的、その他諸般の事情を考慮に入れても、なお、到底許容されるものと
はいい難く、刑法上違法性を欠くものではないというべきである。したがつて、実
質的違法性を欠くとして無罪を言い渡した原判断には法令の違反があり、これが判
決に影響を及ぼし、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものであることは
明らかである。
 よつて、刑訴法四一一条一号により 原判決を全部破棄し、なお第一審判決は当
裁判所の判断と結論において一致しこれを維持すべきものであるから、同法四一三
条但書、四一四条、三九六条、一八一条一項本文により、裁判官全員一致の意見を
もつて、被告事件につき主文のとおり判決する。
 検察官 安田道夫 公判出席
  昭和五〇年一二月二五日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    下   田   武   三
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    団   藤   重   光

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛