弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人長沢賢治の上告理由は末尾に添えた書面記載のとおりであつて、これ
に対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 上告理由第一について。
 普通地方公共団体の議会の議員の解職請求受理のような解職の投票の行われる前
の過程における行政処分の達法を主張してその取消を求めるため、当該事務を管理
する選挙管理委員会を相手方として、直ちに裁判所に出訴することを許した法律上
の規定はなく、普通地方公共団体の議会の議員の解職の投票に関しては、地方自治
法第八五條において、政令で特別の定をするものを除く外、同法第四章の規定を準
用すると規定されているだけである。ところで、右第四章の規定である第六六條は、
選挙の争訟に関する規定であつて、「選挙又は当選の効力に関し」ては異議、訴願
又は訴訟を提起することができると定めており、地方自治法施行令第一一五條は、
地方自治法第六六條第一項中の「当選」とあるのは「解職の投票の結果」と読み替
えるものとすると規定している。それゆえ、これらの規定からみると、普通地方公
共団体の議会の議員の解職の投票に関しては、その投票の効力又は投票の結果の効
力に関してのみ異議、訴願又は訴訟を提起することができるのであつて、解職の投
票前の過程における個々の処分の違法は独立した争訟の対象となるのではなく、た
ゞ投票に関する争訟において投票無効の原因として主張することができるにすぎな
いものと解するのを相当とする。されば、本件a村議会議員解職の請求を受理した
行政処分を違法としてその受理の取消を求めるのは、解職の投票が行われる前の過
程における手続の違法を独立した争訟の対象とするものであつて、前記の理由によ
り法律上許されないのであるから、原審がこの点に関する上告人の主張を排斥した
ことは結局正当である。それゆえ、論旨は理由がない。
 同第二について。
 普通地方公共団体である市町村の議会の議員の解職の投票に関する争訟において
裁判所に訴訟を提起するには異議及び訴願を経なければならないことは、行政事件
訴訟特例法第二條によるのではなくして、地方自治法第八五條によつて準用される
同法第六六條の規定によるものであるから、この場合に右特例法第二條但書の適用
があるかどうかは問題であるが原審はかりに右第二條但書の適用があるとしても、
本訴については訴願を経ないで訴を提起し得る正当な理由は認められないと判断し
ているのである。そして、判決においては右の正当な理由のない旨を判示すれば足
りるのであつて、その認められない理由までをも説示する必要はない。されば、原
判決が右の認めなかつた理由を明示しない違法があるとの主張は採用し難い。
 なお、論旨は、上告人は原審において選挙管理行為の法規違反等について各種証
拠を挙げて主張したが、原審はこれに対する判断を示していないと述べているが、
上告人の原審におけるかゝる主張は、本案に関する主張であつて、前記特例法第二
條但書の正当事由の有無に関する主張ではないから、原審がこの点につき判断をし
なかつたとて所論のような審理不盡の違法はない。されば、論旨は理由がない。
 同第三について。
 論旨は、原審が本訴中解職の投票無効に関する部分について、第一審判決を取り
消しながらこれを第一審裁判所に差し戻さなかつたことは違法である、というので
あるが、原審において右訴の部分の原判決を取り消し、これを第一審裁判所に差し
戻したとしても、本来本訴のこの部分は原裁判所が第一審としての管轄裁判所であ
るから、結局これは、また原裁判所に移送されるのであつて、かかる差戻手続は原
判決に述べるとおり無用に帰するのである。されば、右差戻手続はこれを省略し、
直ちに原審において第一審裁判所として却下の判決をしたとしても違法ではなく、
論旨は理由がない。
 よつて、本件上告を理由ないものと認め、民訴第四〇一條に従い棄却すべきもの
とし、訴訟費用の負担につき同法第九五條、第八九條を適用して、主文のとおり判
決する。
 以上は、当小法廷裁判官全員の一致した意見である。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介

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