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平成29年8月8日判決言渡
平成29年(行ケ)第10034号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成29年7月13日
判決
原告有限会社ハーベイ・ボール・スマイル・リミテッド
被告特許庁長官
同指定代理人阿曾裕樹
早川文宏
板谷玲子
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
特許庁が不服2016-15097号事件について平成28年12月27日にし
た審決を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が出願した商標について拒絶査定を受けたことから,不服審判
請求をしたところ,請求は成り立たない旨の審決がされたので,原告がその取消し
を求める事案である。
2前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より認められる事実)
⑴原告は,平成27年7月22日に,別紙記載の本願商標(以下,単に「本
願商標」という。)について,指定商品を「第25類被服,ガーター,靴下止め,
ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」
として商標登録出願(商願2015-74154)をし(甲96,乙2),その後,
平成28年1月18日付けで,指定商品を「第25類被服」のみとする補正をし
た(乙3)ところ,平成28年7月26日付けで拒絶査定を受けたので,同年9月
16日に,不服審判請求をした(不服2016-15097号)。
⑵特許庁は,平成28年12月27日に,「本件審判の請求は成り立たない。」
との審決をし,この審決は,平成29年1月18日に,原告に送達された(乙1)。
⑶審決の理由は,本願商標は,登録商標である別紙記載の引用商標1~4(こ
れらを総称して「引用商標」という。)と類似し,また,本願商標の指定商品「被
服」は,引用商標1~3の指定商品と同一又はそれに含まれるものであり,引用商
標4の指定役務と類似するから,商標法4条1項11号に該当し,商標登録を受け
ることができないというものである。
⑷ア引用商標1は,平成3年11月29日に登録され,その後,平成16年
1月21日に指定商品の書換登録がされ,平成23年7月19日に商標権の存続期
間の更新登録が,第20類,第24類及び第25類についてされた結果,その指定
商品は「第20類クッション,座布団,まくら,マットレス」,「第24類布
製身の回り品,かや,敷き布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布」
及び「第25類被服」となった(乙4,5)。
イ引用商標2は,「第25類被服」を指定商品として,平成16年9月
24日に登録された(乙6,7)。
ウ引用商標3は,平成17年6月17日に登録され,平成27年6月9日
に商標権の存続期間の更新登録が,第25類についてされた結果,その指定商品は,
「第25類被服,仮装用衣服」となった(乙8,9)。
エ引用商標4は,「第35類織物及び寝具類(まくら・マットレスを除
く)の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,被服の小売
又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,布製身の回り品の小売
又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,清掃用具及び洗濯用具
の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定役務とし
て,平成27年12月4日に登録された(乙10,11)。
3原告の主張する審決取消事由
⑴原告は,米国にある「ハーベイボールワールドスマイル財団」(以下
「財団」という。)の知的財産権を管理するための日本法人である。そのため,本件
における原告の主張は,財団やその関係者の意見を代弁したものでもある。
⑵本願商標のうち「目と口と顔の輪郭」の絵(以下「本願図形」という。)は,
人類誕生以来,各民族,各地域で描かれ続けており,単なる図形であって,その著
作性や独創性を判断しづらいものになっている。身の回りを見ても自由に使われて
いる。本願図形の特徴で登録商標を検索すると,7000件もヒットする。原告は,
第25類において,引用商標1~3の登録があるにもかかわらず,合計308件の
登録商標を有しており(甲1),また,引用商標4は,引用商標1~3が存在する
にもかかわらず,登録されている。
これに対し,「HARVEYBALL」は,人名であり,本願図形(スマイリ
ーフェイス)の創作者として,日本はもとより世界中で有名である(甲16~26,
甲29,30の各1・2,甲99の1・2,甲105)。「ハーベイ・ボール」,「H
ARVEYBALL」は,死亡時に「スマイル・マークの親が死去」として,日
本の主要新聞で取り上げられ,世界中の新聞で取り上げられた(甲27の1・2,
甲28)。また,財団は,本願図形を用いた国際的なボランティア活動を行ってお
り(甲31,32),日本においても,同様のボランティア活動などを行い,日本
国内での「東日本大震災支援活動」,「熊本地震支援活動」等でも,「ハーベイ・ボ
ール」の名称は日本中で有名になっている(甲33~38,40,41,44,甲
45の1・2,甲46~48)。さらに,財団は,米国において,登録商標185
件を有しており,日本でも,登録商標507件を有している(甲42,43)上,
原告は,126件の著作権の登録を有している(甲39)。原告は,ジャス・イン
ターナショナル株式会社と共同で「スマイル商品化事業」を行っており,500社
のファッションメーカーとライセンス契約を締結している(甲100,甲101の
1・2)。
したがって,本願商標の要部は,「HARVEYBALL」である。
⑶引用商標1は,その商標権者(グンゼ株式会社)の社員が平成元年に創作し
たと主張している。しかし,本願図形は,「HARVEYBALL」の名前ととも
に,昭和45年から日本で大流行して有名となっており,それを剽窃して,「なまず
顔」等に多少変形させ,商標登録したものであって,その出願,登録の意図は不正で
ある。
引用商標2及び3は,引用商標1の不正登録を補強するために,引用商標1の商
標権者(グンゼ株式会社)が出願,登録したものである。また,引用商標2は,一
般的な「スマイル商標」に覆いかぶさるように「LOVEEARTH」が大きく
描かれていて,「LOVEEARTH」の文字が強く強調されたものであり,本願
商標とは非類似である。引用商標3は,標準的な「スマイル・マーク」であり,称呼
もなく,「HARVEYBALL」が要部である本願商標とは非類似である。
引用商標4は,役務商標で,「店名」等として使用されるものである。引用商標4
は登録になるべきものでなかったはずであるので,原告は,無効審判を請求し(甲
3),登録を無効とする旨の審決がされた(甲104)。引用商標4の商標権者(株
式会社子供玩具研究所)は,企業の実態が判明しない(甲14)。
⑷原告は,引用商標1~3が登録された後,本願商標と類似する商標を出願
して登録になっている(第5547781号及び第5783707号)。また,原
告は,引用商標1~3が登録された後,これらの引用商標と類似する,第25類の
商標を数多く出願して登録になっている(甲43)。
特許庁は,「ハーベイ・ボール」の米国での著名性を理由として,「HARVEY
BALL」からなる商標の登録を拒絶している(甲4の1~12)。
⑸本願図形は,アメリカ国内において,「アメリカの文化である」,「アメリカ
人の誇りである」とされており,アメリカ人は特許庁の対応について不満を募らせ
ている(甲7,甲9の1~3,甲21)。
4被告の主張
⑴本願商標について
本願商標は,円輪郭内の上部に目と思しき小さい黒塗りの縦長楕円形を二つ並べ,
その下に口と思しき両端上がりの弧線を描いた図形と,その円輪郭の右下部分にわ
ずかに重なるように,筆記体で右上がりに横書きした「HarveyBall」の
文字からなるものである。そして,本願商標のうち図形部分は,一見して人の笑顔を
簡潔,かつ,象徴的に表現したものと認識されるものであり,本願商標中の主要部を
構成上占めているのに対し,その図形部分に若干重なるように表された「Harv
eyBall」の文字部分については,ありふれた筆記体で書されており,格別個
性的というほどのものではない上,図形部分に比してかなり小さく表示されている。
また,本願商標の図形部分と文字部分はわずかに重なるが,文字部分によっ
て隠された図形部分の円輪郭線は全体の4分の1にも満たない上,「Har
vey」と「Ball」の文字部分の間に外縁部の円弧の一部が見えていることもあ
いまって,本願商標からはその図形部分の円輪郭線を明確に認識することができる。
そうすると,本願商標は,視覚上,上記の図形部分が独立して見る者の注意を惹き,
強く印象に残るように構成されているということができる。
また,上記のとおり,本願商標の図形部分は,文字部分を伴わなくとも,当該部
分のみで一見して人の笑顔を簡潔,かつ,象徴的に表現したものと認識される一方,
「HarveyBall」の文字部分は,本願商標に接する取引者,需要者を
して,直ちに特段の意味合いを想起させるものではない。
以上からすると,本願商標は,その構成中の図形部分を分離,抽出して観察する
ことが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえず,
本願商標の構成中,視覚上,最も強く印象に残る図形部分をもって取引に資する場
合も多いといえる。したがって,本願商標と引用商標との類否判断に際して,強く
印象に残る本願商標の図形部分を要部として取り出すことが許されるものである。
そして,本願商標の要部である図形部分は,上記のように,一見して人の笑顔
を簡潔,かつ,象徴的に表現したものと認識されるものという外観上の特徴を有す
るものであるが,笑顔をモチーフとした描写は多種多様であることからすると,単
に「笑顔」の観念や「エガオ」の称呼を生じるとまでは言い難く,当該図形部分を
して直ちに特定の図案やキャラクターを描いたものとも認識し得ないから,これよ
り特定の称呼や観念が生じるものではない。
⑵引用商標について
ア引用商標1は,円輪郭内の上部に目と思しき小さい黒塗りの縦長楕円形
を二つ並べ,その下に口と思しき両端上がりの弧線を描いてなるものであり,その
ような外観的特徴から,簡潔,かつ,象徴的に人の笑顔を描いたものであることを
印象付けるものである。ただし,その図形からは,特定の称呼や観念は生じるもの
ではない。
イ引用商標2は,円輪郭内の上部に目と思しき小さい黒塗りの縦長楕円形
を二つ並べ,その下に口と思しき両端上がりの弧線を描いてなる図形を表し,その
上部に「LOVEEARTH」の文字を上向き弧状に表してなる。そして,その
図形部分と文字部分は,上下に段を異にし,間隔を置いて配置されていることから,
視覚上分離して認識されるものである。また,文字部分は全体として「地球を愛す
る」程度の意味合いを認識させる,比較的親しまれた英語よりなる(乙12)もの
の,それ自体単独で人の笑顔を簡潔,かつ,象徴的に描いたものと認識される図形
部分とは,直接的な観念上のつながりがない。
そうすると,引用商標2は,その構成における図形部分と文字部分とを分離して
観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと
はいえず,本願商標と引用商標との類否判断に際して,当該図形部分を要部として
取り出すことが許されるものである。
そして,引用商標2の要部である図形部分は,上記のように,その外観的特徴か
ら,簡潔,かつ,象徴的に描いた人の笑顔であることを印象付けるものであるが,こ
れより特定の称呼や観念は生じるものではない。
ウ引用商標3は,円輪郭内の上部に目と思しき小さい黒塗りの縦長楕円形
を二つ並べ,その中には瞳を思わせる白抜きの点を配し,その下には口と思しき両
端上がりの弧線を描いてなるものであり,そのような外観的特徴から,簡潔,かつ,
象徴的に描いた人の笑顔であることを印象付けるものである。ただし,その図形か
らは,特定の称呼や観念は生じるものではない。
エ引用商標4は,黄色に塗られた円状輪郭内の上部に目と思しき小さい黒
塗りの縦長楕円形を二つ並べ,その下に口と思しき両端上がりの弧線を描いてなる
ものであり,そのような外観的特徴から,簡潔,かつ,象徴的に描いた人の笑顔で
あることを印象付けるものである。ただし,その図形からは,特定の称呼や観念は
生じるものではない。
⑶本願商標と引用商標との類否
本願商標の図形部分と,引用商標の図形部分を比較すると,これらはいずれも,
互いに円輪郭,円輪郭内部に配された二つの小さい黒塗りの縦長楕円形及びその下
方に配した両端上がりの弧線を基本的な構成要素とし,これらによって円形の顔に
目と口を有する人の笑顔を,簡潔かつ,象徴的に描写したものと看取される点にお
いて外観的な印象を共通にする。
上記のそれぞれの図形部分は,目を表すと思しき二つの縦長楕円形の位置,口を
表すと思しき弧線の位置,長さ,太さ及び曲率等において差異を有するが,これら
は子細に対比観察して初めて認識される微差にすぎない。また,本願商標の図形部
分と引用商標4の図形部分との比較においては,円輪郭内の着色の有無に相違があ
るが,両商標の外観の印象を大きく変えるほどの差異とはいえない。そのため,本
願商標の図形部分と引用商標の図形部分は,上記のような微妙な差異があるとして
も,外観的な印象を共通にし,見る者に似通った印象を与えるものである。
そして,本願指定商品「被服」は,その需要者が通常は特別の専門知識を有しな
い一般消費者であることをも併せ考慮すると,本願商標と引用商標を時と場所を異
にして離隔的に観察したときは,両商標の図形部分の外観上の微妙な差異や色彩の
有無によって,両商標を区別することは困難であるといわざるを得ないから,本願
商標と引用商標は,外観において類似するものといえる。また,両商標の図形部分
からは,上記のとおり,特定の称呼及び観念は生じないから,称呼及び観念におい
て区別することはできない。
したがって,本願商標と引用商標は,類似するものというべきである。
仮に,本願商標の図形部分から何らかの観念が生じ得るとすれば,人の笑顔に関
連した観念が生じ,引用商標の図形部分についても同様に,人の笑顔に関連した
観念が生じるから,本願商標と引用商標は,その図形部分において観念上も類似す
るものとなり,本願商標と引用商標は,観念上も類似するものといえる。
⑷本願商標の指定商品と引用商標の指定商品及び指定役務の類否について
ア本願商標の指定商品「被服」は,引用商標1~3の指定商品中の「被服」
と同一又は類似のものである。
イ本願商標の指定商品「被服」と引用商標4の指定役務中「被服の小売又
は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」とを比較すると,次のと
おり類似する。
商品と役務が類似するかどうかは,当該商品と当該役務に同一又は類
似の商標を使用した場合に,当該役務が当該商品を製造又は販売する事業者の提供
に係る役務であると誤認されるおそれがあるかどうかという観点から判断すべきで
あり,商品の製造又は販売と役務の提供が同一事業者によって行われているのが一
般的であるかどうか,商品と役務の用途が一致するかどうか,商品の販売場所と役
務の提供場所が一致するかどうか,需要者の範囲が一致するかどうかなどの事情を
総合的に考慮した上で,個別具体的に判断すべきである。
被服に関して小売業者等により顧客に提供される総合的なサービス活
動(以下「被服の小売役務」という。)における一連の取引についてみると,商品
である被服の販売と,被服の小売役務の提供が同一事業者により行われることも一
般的である。
また,GAPやユニクロに代表されるSPA(specialtystore
retailerofprivatelabelapparel)と称さ
れる業態は,「自社ブランドの衣料品を売る直営店」(乙13)と,「本来は小売
企業だが,自社で商品企画,生産から販売までを一貫して行う形態の小売業」(乙
14)を含んでおり,新聞記事情報などによると,「日本では『ユニクロ』で有名
だが,実はワールドが真っ先に手がけ,業界全体に広まった業態」(乙15),「ユ
ニクロやコムサデモードなど,日本では90年代後半からアパレル業界の経営基盤
を揺るがすキーワードになっている」(乙16),「大規模なチェーン店が売上げ
を伸ばしている。ユニクロやH&MのようなSPA(製造小売り)が目立つ」(乙
17)と報道されるなど,アパレル業界全体に広まっている一般的な業態でもある
ことを伺い知ることができるため,商品たる被服の製造と被服の小売役務が同一事
業者により行われることも少なからずあるといえる。
そうすると,商品の販売場所と役務の提供場所は一致し,商品の製造事業者と役
務の提供事業者も一致することがあり,需要者の範囲も一致するものである。
したがって,本願商標の指定商品「被服」と引用商標4の指定役務中
「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」とは,同
一又は類似する商標が使用されるときは,同一の営業主の製造,販売又は提供に係
る商品又は役務であると誤認されるおそれがあり,類似するものといえる。
⑸小括
以上のとおり,本願商標は,引用商標と類似する商標であり,かつ,引用商標の
指定商品又は指定役務と同一又は類似する商品について使用をするものであるから,
商標法4条1項11号に該当する。
第3当裁判所の判断
1本願商標の商標法4条1項11号該当性について
⑴本願商標について
ア本願商標は,円輪郭内の上部に目と思しき小さい黒塗りの縦長楕円形を
二つ並べ,その下に口と思しき両端上がりの弧線を描いた図形(本願図形)と,その
円輪郭の右下部分にわずかに重なるように,筆記体で右上がりに横書きした「Ha
rveyBall」の文字からなるものである。そして,本願図形は,一見して人
の笑顔を簡潔,かつ,象徴的に表現したものと認識されるものであり,本願商標中の
主要部を構成上占めているのに対し,その図形部分に若干重なるように表された「H
arveyBall」の文字部分については,ありふれた筆記体で書されている
上,図形部分に比してかなり小さく表示されている。また,本願図形と文字部分
はわずかに重なるが,文字部分によって隠された図形部分の円輪郭線は全体
の4分の1にも満たない上,「Harvey」と「Ball」の文字部分の間に
外縁部の円弧の一部が見えていることもあいまって,本願商標からはその図形部分
の円輪郭線を明確に認識することができる。
以上からすると,本願商標は,その構成中の本願図形を分離,抽出して観察する
ことが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものとはいえず,
本願商標の構成中,視覚上,最も強く印象に残るのは,本願図形であるということ
ができるから,本願商標と引用商標との類否判断に際して,本願図形を要部として
取り出すことができるというべきである。
イこの点について,原告は,本願商標の要部は,「HARVEYBALL」
であると主張し,その理由として,本願図形は,長年にわたって描かれ続けている
単なる図形であって,自由に使われており,登録商標を検索すると,7000件も
ヒットする,原告は,第25類において,引用商標1~3の登録があるにもかかわ
らず,合計308件の登録商標を有しており(甲1),引用商標4は,引用商標1
~3が存在するにもかかわらず,登録されているなどと主張する。
しかし,本願図形が単なる図形として識別力を有しないと認めるに足りる証拠は
なく,上記のとおり,一見して人の笑顔を簡潔,かつ,象徴的に表現したものと認識
されるものであって,十分な識別力を有するということができる。原告が第25類
において多くの登録商標を有していることや引用商標4が登録されていることは,
この判断を左右するものではない。したがって,原告の上記主張は,上記アの判断
を左右するものではない。
また,原告は,「HARVEYBALL」は,人名であり,本願図形(スマイ
リーフェイス)の創作者として,日本はもとより世界中で有名であると主張するが,
仮に,そうであるとしても,本願商標における上記の構成からすると,その構成中,
視覚上,最も強く印象に残るのは,本願図形であるということができるから,上記
アの判断を左右するものではない。
⑵引用商標について
ア引用商標1は,円輪郭内の上部に目と思しき小さい黒塗りの縦長楕円形
を二つ並べ,その下に口と思しき両端上がりの弧線を描いてなるものであり,その
ような外観的特徴から,簡潔,かつ,象徴的に人の笑顔を描いたものであることを
印象付けるものである。
イ引用商標2は,円輪郭内の上部に目と思しき小さい黒塗りの縦長楕円形
を二つ並べ,その下に口と思しき両端上がりの弧線を描いてなる図形を表し,その
上部に「LOVEEARTH」の文字を上向き弧状に表してなるものである。そ
して,その図形部分と文字部分は上下に段を異にし,間隔を置いて配置されている
ことから,視覚上分離して認識されるものである。また,文字部分は全体として「地
球を愛する」程度の意味合いを認識させる(乙12)ものの,それ自体が,人の笑
顔を簡潔,かつ,象徴的に描いたものと認識される図形部分と,直接的な観念上の
つながりがあるということはできない。
そうすると,引用商標2は,その構成における図形部分と文字部分とを分離して
観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと
はいえず,本願商標と引用商標との類否判断に際して,視覚上,最も強く印象に残
る図形部分を要部として取り出すことができるというべきである。
ウ引用商標3は,円輪郭内の上部に目と思しき小さい黒塗りの縦長楕円形
を二つ並べ,その中には瞳を思わせる白抜きの点を配し,その下には口と思しき両
端上がりの弧線を描いてなるものであり,そのような外観的特徴から,簡潔,かつ,
象徴的に描いた人の笑顔であることを印象付けるものである。
⑶本願商標と引用商標1~3との類否
本願図形と,引用商標1~3の図形部分を比較すると,これらはいずれも,互い
に円輪郭,円輪郭内部に配された二つの小さい黒塗りの縦長楕円形及びその下方に
配した両端上がりの弧線を基本的な構成要素とし,これらによって円形の顔に目と
口を有する人の笑顔を,簡潔かつ,象徴的に描写したものと看取される点において
外観的な印象を共通にするから,類似するものと認められる。細部において相違す
る点があることは,この判断を左右するものではない。
したがって,本願商標と引用商標1~3は,類似するものと認められる。
なお,仮に,本願商標や引用商標1~3がハーベイ・ボールの創作に係るマークと
認識されることがあるとしても,そのことは,本願商標と引用商標1~3との類似
性に関する上記判断を左右するものではなく,本願商標が「HarveyBal
l」の文字部分を含むとしても変わるものではない。
⑷本願商標と引用商標1~3の各指定商品
本願商標の指定商品は,「被服」であるところ,引用商標1~3の指定商品は,「被
服」又はそれを含むものであるから,指定商品は同一である。
⑸小括
以上によると,本願商標は,商標法4条1項11号に該当するから,引用商標4
について判断するまでもなく,登録を受けることができない。
2原告のその余の主張について
⑴原告は,引用商標1は,不正な意図の下に,出願,登録されたものであり,
引用商標2及び3は,引用商標1の不正登録を補強するために出願,登録されたも
のであると主張する。しかし,引用商標1~3について有効な商標登録が存してい
ることは明らかであるから,前記1の判断を左右するものではない。
⑵原告は,引用商標1~3が登録された後,本願商標と類似する商標を出願
して登録になっている(第5547781号及び第5783707号),原告は,
引用商標1~3が登録された後,これらの引用商標と類似する,第25類の商標を
数多く出願して登録になっている,特許庁は,「ハーベイ・ボール」の米国での著名性
を理由として,「HARVEYBALL」からなる商標の登録を拒絶していると
主張するが,これらは,いずれも本件とは異なる商標についての登録例又は拒絶例
であるから,前記1の判断を左右しない。
⑶原告は,アメリカ人が特許庁の対応について不満を募らしていると主張す
るが,この主張も,前記1の判断を左右するものではない。
⑷その他,原告は,先願主義の矛盾,大企業優先の特許行政などと主張する
が,いずれも前記1の判断を左右するものではない。
第4結論
以上の次第で,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森義之
裁判官
片岡早苗
裁判官
森岡礼子
別紙
本願商標
引用商標1
引用商標2
引用商標3
引用商標4

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