弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主  文
被告人を懲役10月に処する。
この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。
理  由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成13年7月29日施行の参議院議員通常選挙に際し,参議院比例
代表選出議員選挙の参議院名簿登載者として自由党が同月12日に届け出た候補者
であるが,同人の出納責任者兼選挙運動者であるAと共謀の上,自己の当選を得る
目的をもって
第1 別紙一覧表1記載のとおり,同月15日ころから同月28日ころまでの
間,横浜市西区ab丁目c番先歩道上及びその付近ほか24か所において,いずれ
も年齢20年未満の者であるB(当時19歳)ほか3名をして,通行中の選挙人に
対し,自己の氏名等を連呼し,自己の氏名等を表示したビラを頒布するなどして自
己への投票を依頼する選挙運動をさせ,もって年齢満20年未満の者を使用して選
挙運動をし
第2 別紙一覧表2記載のとおり,同月27日及び同月28日ころ,いずれも自
己の選挙運動者である前記Bほか5名に対し,前同様の選挙運動をしたことの報酬
として,銀行振込あるいは現金の手渡しの方法により,現金合計27万7875円
を供与し
た。
(法令の適用)
被告人の判示第1の行為は包括して刑法60条,公職選挙法239条1項1号,
137条の2第2項に,判示第2の各行為はいずれも刑法60条,公職選挙法22
1条3項1号,1項3号,1号にそれぞれ該当するところ,判示第1の罪について
は所定刑中禁錮刑を,判示第2の各罪についてはいずれも懲役刑をそれぞれ選択
し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により刑
及び犯情の最も重い判示第2の倉持智恵美に対する供与の罪の刑に法定の加重をし
た刑期の範囲内で被告人を懲役10月に処し,情状により同法25条1項を適用し
てこの裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は,平成13年7月29日施行の参議院比例代表選出議員選挙において,未
成年者を使用して選挙運動をすることの禁止に違反して,7日間にわたり,神奈川
県内25か所において,未成年者4名にビラ配り等の選挙運動をさせた事犯及び同
人らを含む6名の選挙運動者に対し選挙運動をしたことの報酬として現金を供与し
た運動買収の事犯である。
被告人は,自由党党首らから本件選挙(平成13年7月29日施行の参議院議員
通常選挙)に立候補することを勧められ,自己の事業遂行や選挙資金などの問題が
あって躊躇いつつも,当選すれば収入が安定する,自己の事業にも仕事が回せるな
どと考えて,平成13年3月ころ立候補を決意したが,ボランティア運動員が集ま
る様子もないまま公示日が近づき,同年5月末ころ,知人から紹介された短大生を
面接して同人らが未成年者であると知り,かつ,同人らがアルバイトとして選挙運
動をしようと考えていることを知ったものの,同人らが選挙運動員向きで,今時交
通費だけで選挙運動に来てくれる者などなかなかいないだろうなどとの考えから,
同人らを自己の選挙運動に有償の「手振り」(選挙カーに乗って有権者に向かって
手を振る選挙運動員)やビラ配りの要員として採用することにしたうえ,同人らに
対し同要員の人集めなどを依頼し,公示日前日である同年7月11日,選挙事務所
に呼んだ同人ら及びその集めた短大生らに対し,出納責任者兼総括責任者であるA
が年齢を確認して未成年者については一旦は採用を断りながら,アルバイト先を失
った同人らに同情もあり,未成年者の人数も少ないし選挙運動をさせる期間も短い
ので発覚しないだろうなどとの考えで,改めて未成年者についても採用することに
し,本件各犯行に及んでいる。そうした経緯や動機に酌量の余地はない。確信犯的
な犯行でもあって選挙法秩序無視の態度が顕著であり犯情は良くない。アルバイト
を断られた格好になった未成年者らに同情して選挙違反するなど筋違いも甚だしい
といわざるを得ない。今時交通費だけで選挙運動に来てくれる人などなかなかいな
いだろうなどとも考えたようであるが,前記のような身勝手かつ軽率ともみえる立
候補であってみれば当然ともいえよう。仮にそのような実情があるとしても,運動
買収を正当化するものでないことはいうまでもない。当公判廷においては,本件未
成年者を採用しなくても運動員に困ることはなかったとか選挙運動についてはAに
任せていたので,Aの意見に押されたなどとも述べているが,上記のような経緯に
照らすとにわかに信用することができない。本件各犯行の結果,心身とも未成熟な
未成年を選挙運動に巻き込み,また,「手振り」やビラ配りが単なる労務の提供で
ないことはいうまでもなく,それらの選挙運動に対し報酬を支払うのは当然である
との思いを助長させられた本件短大生らを選挙違反に巻き込んでいる。被告人は,
本件短大生らが未成年者であることを承知しつつ同人らを手振り等の要員として報
酬を支払って採用することにして,仲間を集めさせたり,共犯者Aに対し,短大生
らがアルバイトの手振り要員として来てくれることになっている旨告げて同人らと
の連絡を取らせたり,同人らの中に未成年者がいることを知って一旦は採用を断っ
たAから再考を求められると「君の判断に任せる」などと責任逃れと取られても仕
方のない言動をしたり,年齢のごまかし方をアドバイスしたりするなど本件各犯行
において果たした役割は大きく,候補者としての責任も大きい。被告人の刑事責任
は大きい。
他方,遅ればせながら被告人なりに反省している様子が窺えること,今後は選挙
に出ず地道に仕事をして社会に貢献することを誓っていること,15年以上前の罰
金前科が2犯あるだけで,他に前科はなく,今回が初めての正式裁判で,身柄拘束
の期間も2か月余に及んだこと,被告人を一家の支柱として頼りとする妻やまだ幼
い子らの家族がいること,妻が証人として出廷し被告人の再起に協力する旨のべて
いること等の事情も認められる。
そこで,それらの事情のほか本件証拠上認められる有利不利一切の事情を総合考
慮して主文掲記の刑に処するとともに,今回はその刑の執行を猶予するのを相当と
認める。
 (求刑懲役10月)
よって,主文のとおり判決する。
平成13年10月23日
横浜地方裁判所第5刑事部9係
裁判官井口実

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